250 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:54:04 ID:bWCcjkbkO

 ある一室、ベッドの上。
 横たわった男が呻いている。

 苦しそうに、辛そうに、喉の奥から低い声を絞り出す。

 眉間には皺が寄り、目は強く閉じられ、口元だけは緩んで。
 男が呻いている。

 不意に、部屋のドアが叩かれた。
 こんこん。ノック。
 こんこん。とんとん。

 男は起きない。

 ゆっくりとドアノブが回される。
 かちゃん、ドアが開くと、ノブが一瞬止まった。
 開いたことに少し驚いたようだった。

 躊躇いがちにドアが開ききり、少女が部屋に足を踏み入れる。
 彼女は静かにベッドに近付くと、男の肩に触れた。

    「……起きて」

 まだ、男は起きない。

    「大丈夫? ねえ、起きて」

    「起きて――ブーン」

251 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:54:59 ID:bWCcjkbkO

 男の目が開く。
 自分に触れている少女が視界に入ると、男はびくりと体を跳ねさせ、手を伸ばした。


 どさり。
 突き飛ばされた少女が尻餅をつく音が響く。


ξ )ξ

(;゚ω゚)「……あ……」


 身を起こし、男――内藤ホライゾンは、己の両手を見た。
 衝撃の名残が掌を覆う。
 慌ててベッドを下り、少女、ツンの前にしゃがみ込んだ。

(;゚ω゚)「ご、ごめんお、僕、あ、ね、寝起きだから……寝ぼけ、て……」

ξ 听)ξ「寝ぼけて……本音が出たの?」

(;゚ω゚)「違うお、……ツン、ごめんお、ごめん、ツン」

ξ゚听)ξ「……」

 ごめんなさい、ごめんなさい。

 謝りながら、内藤はツンを抱きしめる。
 ツンの右手が、そっと内藤の頭を撫でた。

252 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:55:38 ID:bWCcjkbkO



第三話 あな危なっかしや、サスペンス小説・前編



.

253 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:56:18 ID:bWCcjkbkO



ζ(゚、゚;ζ「ぐむむむむ……」

 VIP図書館。

 テーブルの上に教科書やノート、プリントを散乱させて、長岡デレは頭を抱えていた。

 現在、二学期の中間試験真っ只中。
 ご存知の通りあまり頭がよろしくないデレにとって、地獄と同じこと。

 あと2日でそれも終わるが、その2日が問題だ。
 数学、物理、英語。デレが特に苦手とする3教科が待っている。

 せめて赤点だけは逃れたい。合格点にすら達しなければ、更なる地獄の始まりだ。

254 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:56:57 ID:bWCcjkbkO

ζ(゚、゚#ζ「むあー! もうやだ! むあーむあー!」

ξ゚听)ξ「ピングー」

ζ(゚、゚#ζ「ムァーwwwww」

( ^ν^)「現実逃避やめろ」

ζ(゚、゚#ζ「じゃあニュッさん教えてよ!」

( ^ν^)「めんどい」

ζ(゚、゚#ζ「ツンちゃん!」

ξ゚听)ξ「私は高校行ってないもの」

ζ(゚、゚#ζ「内藤さん!」

( ^ω^)「10年以上も前に習ったもんなんか覚えてないお」

ζ(゚、゚#ζ「むあー!!」

 隣のテーブルからデレを眺めている内藤ニュッ、ツン、内藤ホライゾン。
 手助けする気は皆無らしい。

 ペンを放り投げ、デレは突っ伏した。

255 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:57:52 ID:bWCcjkbkO

ζ(-、-;ζ「鬼ぃ……人非人……」

(;^ω^)「どんだけ切羽詰まってんだお。
       大丈夫、余程のことがない限り赤点なんて滅多に……」

ζ(-、-;ζ「一学期の期末では……英語が……」

(;^ω^)「……ごめん」

ζ(゚ー゚;ζ「いいんです、私が頭悪いのがいけないんです、えへへ……」

ζ(゚ー゚;ζ

ζ(;ー;*ζ

(;^ω^)「誰かー! デレちゃんに美味しいものあげてー!!」

ξ゚听)ξ「甘いもの食べて、頭すっきりさせましょうね」

ζ(;、;*ζ「うう、ツンちゃーん」

 紅茶とクッキーでも、とツンが立ち上がる。

 すると、受付カウンターの奥、階段に続くドアの向こうから
 元気のいい女性の声が飛んできた。

256 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:58:43 ID:bWCcjkbkO

    「かーんちょー!!」

( ^ω^)「おー?」

    「ホットケーキ食べていいデスカー!?」

( ^ω^)「いいけど、僕らの分も頼むお! 4人分!」

    「……よっ……まあ、いいですケド」

( ^ω^)「飲み物もー」

    「人使いの荒い……」

ζ(;、;*ζ「……どなたですか?」

( ^ω^)「作家だお。今、彼女が来たときに紹介してあげるお」


 ――待つこと数十分。

 とんとん、階段を下りる音がした。
 開けてください、と「作家」が言う。
 ツンがドアを開けてやると、2つの盆を持った女性がそこに居た。

257 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:59:24 ID:bWCcjkbkO

ハハ ロ -ロ)ハ「毎度お馴染みハロちゃん出前サービスデース」

ξ゚听)ξ「お疲れ様。ありがとう」

 片方の盆には、山盛りのホットケーキと一つのポット、蜂蜜やら何やら。
 もう片方の盆には積み重なった皿やマグカップなどの食器が乗っている。
 女性はデレを見て、小首を傾げた。

ハハ ロ -ロ)ハ「アラ、ドチラ様?」

 片言の口調で問いかけながら、盆をツンに預けて
 空いた手で眼鏡の位置を調節する。

ζ(゚ー゚*ζ「長岡デレです」

ハハ ロ -ロ)ハ「ナガオカ……あー、館長が話してた子。
      はじめまして、ワタシはハローと申しマス。ハロー・サン」

ζ(゚ー゚*ζ「ハローサン……ハローさんですね。よろしくお願いします」

ハハ ロ -ロ)ハ「ヨロシクー。……あ、館長! メープルシロップ切れてましたヨ!
      仕方ないから今日は蜂蜜にしましたケド」

( ^ω^)「僕は蜂蜜の方が好きだお?」

ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシはメープルシロップ派デス」

258 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:00:26 ID:bWCcjkbkO

 内藤達のテーブルに両方の盆が置かれる。
 ハローは空いている皿にホットケーキを2枚ずつ移していくと、
 その上にバターを乗せ、蜂蜜をかけた。

 ホットケーキの熱で溶けるバターと、琥珀色の蜂蜜が混ざり合う。
 甘ったるい香りが辺りを漂った。

 ハローが満足そうに頷く。

ハハ ロ -ロ)ハ「飲み物はコチラ」

 ポットの中身がマグカップに注がれた。
 真っ白なそれから湯気が立ち上る。
 ホットミルクだ。

ハハ ロ -ロ)ハ「お砂糖入れマス? 蜂蜜がいいデスカ? それともこのママ?」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、蜂蜜で」

ハハ ロ -ロ)ハ「オーケー」

 蜂蜜をティースプーンで掬い、マグカップの中へ。
 ぐるりと掻き混ぜる。

 そうして、ホットケーキとホットミルクが一組、デレのテーブルにやって来た。

259 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:01:26 ID:bWCcjkbkO

ハハ ロ -ロ)ハ「館長は角砂糖、ツンは蜂蜜、ニュッ君はこのままデスネ」

 手早く全員分用意し終えると、ハローはニュッの隣に腰を下ろした。
 召し上がれ、というハローの言葉を合図に、皆がフォークとナイフに手を伸ばす。

ζ(゚ー゚*ζ「いただきます! ハローさん、ありがとうございます」

ハハ ロ -ロ)ハ「イエイエ」

 デレはハローに礼を言いながら、ホットケーキを小さく切り分けて口に運んだ。

 バターの風味とほのかな塩気、蜂蜜の甘みにふわふわなホットケーキ。
 幸せだとデレは胸中で呟く。

ハハ ロ -ロ)ハ「……そういえば、何故、彼女ダケ1人で座っているノ?」

( ^ω^)「お勉強中なんだお」

ハハ ロ -ロ)ハ「ハハア、ナルホド」

ζ(゚ー゚;ζ「……今は、そのことは忘れさせて下さい」

 幸せ気分が吹き飛んだ。
 がくりと肩を落とし、デレは教科書を見下ろす。

 一番の敵。英語。
 長ったらしい単語や連語、文法に発音、読み取り、聞き取り。
 どうにも苦手である。

260 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:02:24 ID:bWCcjkbkO

 マグカップを口元で傾け――はっとして、デレはハローに顔を向けた。

ζ(゚ー゚*ζ「ハローさん!」

ハハ ロ -ロ)ハ「ハイ?」

ζ(゚ー゚*ζ「英語喋れます!?」

ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシ、エーゴは苦手デス。どうかしまシタ?」

ζ(゚ー゚*ζ「……片言だから、外国の人なのかなって」

ハハ ロ -ロ)ハ「この国生まれ、この国育ちデスガ」

ζ(゚ー゚*ζ

ζ(゚ー゚*ζ「何故片言」

ハハ ロ -ロ)ハ「日本語は話すヨリ書く方が得意デス。アト、何か、こう、キャラ作り的な?」

ζ(;、;*ζ「むあーむあーむあー」

( ^ν^)「自力で何とかしろ」

ζ(;、;*ζ「自力で限界感じたから他力に縋るんでしょうがあー」

 もう自棄だと言わんばかりに、デレはホットケーキを豪快に食べ始めた。
 ナイフは放置。フォークで持ち上げ、直接噛りつく。

261 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:03:09 ID:bWCcjkbkO

 それを楽しそうに眺めていたハローは、何気なくニュッに振り返り、
 ふと彼の顔を注視した。

ハハ ロ -ロ)ハ「デレ、喉に詰まらせてしまいマスヨ。……あ、ニュッ君」

( ^ν^)「んあ」

ハハ ロ -ロ)ハ「蜂蜜が頬っぺたに」

 ニュッの頬に付いた蜂蜜。
 ハローはニュッに顔を近付け、


ハハ ロ -ロ)ハ ベロリ


 蜂蜜を舐め取った。


.

262 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:03:57 ID:bWCcjkbkO

( ^ν^)

ζ(゚、゚*ζ

( ^ν^) ガッターン

ζ(゚、゚;ζ「ハハハハハハハハローさーん!!?」


 ニュッは無表情のままに椅子ごと倒れ、
 デレは叫びながら立ち上がる。

 ハローは呆れた顔でニュッを見下ろしていた。

ハハ ロ -ロ)ハ「アリャ、ニュッ君、マダ慣れてくれまセンカ」

ζ(゚、゚;ζ「『まだ』!? 既に何度か似たようなことをしていらっしゃる!?」

( ^ω^)+「わあ大変だ、ハロー、僕の顔にも蜂蜜が」

ξ゚听)ξ「今自分で塗ったでしょ」

( ^ν^)

ζ(゚、゚;ζ「ぴくりとも動かないよニュッさーん!!」

263 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:05:28 ID:bWCcjkbkO

ハハ ロ -ロ)ハ「ニュッ君、そんなんじゃイツマデ経ってもカノジョ出来ませんヨ」

( ^ω^)「僕はもう諦めてるけどね、ニュッ君が恋するとか」

ξ゚听)ξ「ニュッ君の恋人は本よね」

ハハ ロ -ロ)ハ「たしかに。
      ……マア、どうにもならなくなったトキにはワタシがいマスヨ、ニュッ君」

ζ(゚、゚;ζ「ハローさん、もっと考えましょう? わざわざ破滅の道を選ばなくても……」

( ^ν^)「死ね」

 忠告するデレの声は本気だった。
 ようやく復活したニュッが元の位置に座り直す。
 ハローはにっこり笑って、ニュッの腕にしがみついた。

ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシの全てはニュッ君のタメにありますカラ」

( ^ν^)「……」

 慣れたのか諦めたのか、ニュッは無視を決め込んだらしい。
 ハローをそのままに、ずるずると音を立ててホットミルクを飲み干した。

264 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:06:32 ID:bWCcjkbkO

ζ(゚、゚*ζ

ζ(゚、゚*ζ モシャモシャ

 何だか知らないが、少し腹が立つ。
 理解出来ぬ怒りを持て余したデレは、ホットケーキにのみ意識を向けることにした。



*****



 そして十数分後。

ζ(´、`*ζ スピスピ

(;^ω^)(寝た――――――――!!)

 寝た。
 ホットケーキで満腹になり、ホットミルクで芯から暖まったデレは、
 自然の摂理に従って寝た。

265 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:07:13 ID:bWCcjkbkO

(;^ω^)「あーあーあー、ノートに涎が……」

ξ゚听)ξ「……起こすべきかしら」

( ^ν^)「放っとけ」

ハハ ロ -ロ)ハ「毛布持ってきまショウカ」

ξ゚听)ξ「私が取ってくるわ」

 ついでに片付けようと空の食器を盆に重ねて、ツンが持ち上げる。
 彼女が2階に向かうと、残された3人はデレに視線を送った。

 ほんのしばし沈黙。
 それから口を開いたのはハローだった。

ハハ ロ -ロ)ハ「このコ、どこまで知ってるんデス?」

( ^ω^)「ほとんど何も知らないに近いお」

ハハ ロ -ロ)ハ「……ドウシテ、ここに来させるんデスカ」

( ^ω^)「彼女が勝手に来てるんだお」

ハハ ロ -ロ)ハ「それはそれで、館長が仕向けたんデショ。フェンスの合鍵渡したそうデスネ。
      何故そんなコトを」

( ^ω^)「……べっつにぃ? 本当に、深い意味なんかないお」

266 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:08:56 ID:bWCcjkbkO

 デレの寝顔を見つめ、可愛い、と内藤が呟く。
 あまり感情の篭っていない瞳。

( ^ω^)「ここを気に入ってくれたみたいだし、見ていて面白い子だから
       遊びに来たいのなら歓迎しようかなと。……」

 頬を掻き、内藤は苦笑した。
 「それと」と、言葉を繋ぐ。

( ^ω^)「……それと、あわよくば本探しを手伝ってもらいたいなって。
       好奇心が強くて、無償で手伝ってくれる人材なんて、そうそういないおね。
       ――あまり頭も良くないし。口外もしない。多分。
       こーんなに都合のいい子なんて、なかなか、ねえ?」

ハハ ロ -ロ)ハ「アア、ソウ。そういうコト」

( ^ω^)「人手は多い方がいいお」

 そこで話を打ち切り、内藤は息をついた。
 ハローは納得した様子で頷いている。

267 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:10:17 ID:bWCcjkbkO

( ^ν^)「……」

ζ(´、`*ζ スピャー

( ^ν^)(阿呆面)

( ^ω^)「……そうそう、あとニュッ君がデレちゃん気に入ってるっぽいし」

( ^ν^)「全力で死ね」



*****





 翌日。
 デレの顔は死相と化していた。

ζ( 、 ζ

o川*゚ー゚)o「はー、今日も恙無く終了っと! あ、デレちゃん」

o川;゚ー゚)o「どうだっ……」

 帰宅の準備を終えた素直キュートはデレに声をかけようとしたのだが、
 デレの表情の酷さに、思わず挙げた手を下ろした。

268 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:11:18 ID:bWCcjkbkO

o川;゚ー゚)o「だ、大丈夫……?」

ζ( ー ζ「お前さん……これが大丈夫に見えるかえ……」

o川;゚ー゚)o「キャラ変わるぐらいやばいのは理解した」

 あの事件以来、デレとキュートは仲良くなった。
 キュートの本性――ナルシストっぷり――をデレに晒してしまったためか、
 互いに遠慮というものがなくなったらしい。

ζ( ー ζ「現国……数学……物理……ふへ、へへへ」

o川;゚ー゚)o「……駄目だったの?」

ζ( ー ζ「現国は……そこそこいけたかな……」

o川;゚ー゚)o「数学と物理は?」

ζ( ー ζ

o川;゚ー゚)o「あちゃあ……勉強ちゃんとした?」

ζ( ー ζ「……し、の……」

o川;゚ー゚)o「え?」

269 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:12:55 ID:bWCcjkbkO

ζ( ー ζ「明日の……英語ばっかり気にかかって……英語の勉強しか……」

o川;゚ー゚)o「何してんのさデレちゃん」

ζ(;、;*ζ「違うの! 違うの! 図書館で英語の勉強して、
      家に帰ってから数学と物理の勉強するつもりだったの!
      でも! でも!」

ζ(;、;*ζ「……お腹いっぱいになって、昼寝しちゃったから……」

 何のことやらキュートにはさっぱり分からないが、
 とりあえずデレがやらかしたのは把握した。

 ぽんぽんとデレの肩を叩く。

o川;゚ー゚)o「あー、で、今日の予定は?」

ζ(;、;*ζ「真っ直ぐ帰って勉強する……」

 図書館に行っては、またお茶とお菓子を出されるだろう。
 デレは誘惑に負けてそれを腹に収め――
 きっと昨日と同じ結末を迎える。

 おとなしく家に帰った方が身のためだ。

270 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:13:45 ID:bWCcjkbkO

o川*゚ー゚)o「じゃあさ、じゃあさ」

ζ(;、;*ζ「?」

o川*゚ー゚)o「デレちゃんが良ければ、だけど、私の家で勉強しない?」

ζ(;、;*ζ「……いいの?」

o川*゚ー゚)o「分かんないとこあったら、教えてあげるよ」

ζ(;、;*ζ「でも、キュートちゃんは――」

 大丈夫なの、と訊きかけて思い出す。
 キュートときたら、

o川*゚ー゚)o「ふっふっふ。『可愛い女の子』はね、見た目が可愛いだけじゃ駄目なんだよ」

 成績優秀なのである。



*****

271 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:14:33 ID:bWCcjkbkO


o川*゚ー゚)o「ま、先に腹ごしらえだよねー」

 学校を出た2人は、キュートの家ではなく、先に駅前へ向かった。

 テスト期間故、解放されるのは午前中。
 現在、正午を回ったところ。

 腹が減っては戦は出来ぬ。キュートは駅前で昼食をとろうと提案した。

o川*゚ー゚)o「お姉ちゃんもお母さんも寝坊しちゃってさー、
      今日は、お昼どころか朝ご飯も作ってもらえなかったの。
      ……あ、勿論私だって料理ぐらい出来るよ? でもテストで疲れてるしね、ほら」

ζ(゚ー゚*ζ「私もテスト期間中は料理したくならないよ。分かる分かる」

 ――駅前に来ると、昼飯時ということもあってか多くの人で賑わっていた。
 サラリーマンにOL、主婦や学生らしき若者などがあちこちを歩いている。
 デレ達同様テスト期間中なのか、他校の制服を着た者も多い。

 さてどの店に入ろうかときょろきょろしながら歩いていると――


ζ(+、+;ζ「ひゃぶっ!!」

o川;゚ー゚)o「あ」


 反対方向からやって来た男に、デレが衝突した。

272 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:15:32 ID:bWCcjkbkO

 ばしゃん、と、嫌な音。
 直後、からから、アルミ缶がジュースを撒き散らしながら地面に落ちた。

ζ(゚、゚;ζ「ごっ! ごめんなさい!!」

<_フ#゚ー゚)フ「……てめえ」

 見れば、相手はデレと同年代らしかった。
 着崩した学ラン。他校の男子生徒。
 その制服に、ジュースが滴っている。
 デレとぶつかったのが原因であることは一目瞭然であった。

<_フ#゚д゚)フ「弁償しろオラァ!!」

ζ(゚、゚;ζ「くっ、クリーニング代は出します! 出しますから!」

<_フ#゚д゚)フ「クリーニング代だけで済ましますってか?
        違うだろ、弁償だよ、べ・ん・しょ・う!」

 典型的な不良ぶりに一種の感動を覚えながら、デレはぺこぺこ頭を下げる。
 こういった人種とは関わったことがないデレにとって、全くもって未知の恐怖だ。

273 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:16:36 ID:bWCcjkbkO

o川*゚ー゚)o「あ、あのう」

<_フ#゚д゚)フ「あ!?」

o川*>ー゚)o「私の可愛さに免じてここはひとつ――」

<_フ#゚ー゚)フ「お前馬鹿じゃねえの」

o川*>ー゚)o

o川*゚ー゚)o「ごめんねデレちゃん、私の手には負えないわ」

ζ(゚、゚;ζ「えええええええっ」

<_フ#゚ー゚)フ「……ん」

 ふと、不良少年はデレとキュートの顔を見て、怒りの表情を緩めた。
 じろじろ、無遠慮に視線をぶつける。

 それから、ぽつりと呟いた。

<_プー゚)フ「……お前らなかなか可愛いな」

ζ(゚、゚;ζ「へ……」

o川*゚−゚)o「『なかなか』? は? 『かなり』だろ、私に関しては」

274 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:17:11 ID:bWCcjkbkO

<_プー゚)フ「俺と遊んでくれたら許してやるよ。
       ああ待て、俺の友達も呼ぶから――」

ζ(゚、゚;ζ「ちょっ、……あ、あの、そういうの、こ、困ります」

o川*゚−゚)o「私、あんたみたいな頭軽ッそうな男は好きじゃないんだけど」

<_フ#゚ー゚)フ「お前らに拒否権なんざねえええええんだよぉお!!」

o川#゚д゚)o「あるわぁああああああああああ!! 選ぶ権利もあるわぁあああああああ!!」

ζ(゚、゚;ζ「きゅ、キュートちゃん……っ」

 このままでは逃げるのも難しくなる。
 誰か助けてくれないかと辺りを見回したが、皆、白々しく目を逸らして離れていく。
 一体どうしろというのだ。

 絶望したデレは――少し離れたところにいる男に光を見た。
 怠そうに歩く男。あれは。

ζ(゚、゚;ζ「……ニュッさん!」

( ^ν^)

 ニュッだ。

275 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:17:55 ID:bWCcjkbkO

 リュックサックを右肩に引っ掛け、ぼうっと前方のみを眺めている。
 デレが大声で呼ぶと、ニュッは顔だけをそちらに向けた。

(^ν^ )

( ^ν^)

 向けただけだった。

 すぐに先程のように歩き出す。

ζ(゚、゚#ζ「待たんかいこらあ!!」

(^ν"^ )

ζ(゚、゚#ζ「状況分かりません!? か弱い女の子が野蛮な男に絡まれてるんですよ!
      助けますよね普通!!」

(^ν"^ )「めんどい」

ζ(゚皿゚#ζ「むがー!!」

<_フ;゚ー゚)フ)))

o川;゚ー゚)o「デレちゃん良いよ、こいつ引いてるよ! 効いてる効いてる!」

276 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:18:46 ID:bWCcjkbkO

 鬼の形相。今のデレの顔を表現するなら、まさにそれ。
 後ずさった不良少年は我に返り、キュートの腕を掴んだ。

o川;゚−゚)o「きゃっ!?」

<_フ;゚ー゚)フ「もうお前だけでいい、来いや!」

o川;゚д゚)o「やあだっ、やめてえ! 放せ馬鹿ー!」

<_フ;゚ー゚)フ「……頼むよ! 来てくれないと――」

ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃ……」

ζ(゚、゚;ζ「……ん……」

<_フ;゚ー゚)フ

<_フ;゚ー゚)フ「ん?」

277 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:19:16 ID:bWCcjkbkO

 ぽん、と。
 不良少年の肩に置かれた手。
 ごつごつした、大きな。


( ゚∋゚)「見苦しいな」


<_フ ー )フ  ゚ ゚

ζ(゚、゚;ζ「……く、くっ、くくっ……」

o川;*゚д゚)o

ζ(゚、゚;ζ「クックルさん!」


 ――堂々クックル。VIP図書館の作家の1人。

 2メートル近くもある巨体、逞しい筋肉。
 そんな大男にぎろりと至近距離で睨まれたものだから、
 不良少年の全身から力が抜けてしまった。

 要するに、びびった。

278 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:20:01 ID:bWCcjkbkO

<_フ;゚ー゚)フ「あ、あはー……んじゃ、俺はこれでー……」

( ゚∋゚)「待て」

<_フ;゚ー゚)フ「ひいっ!」

( ゚∋゚)「クリーニング代だったか弁償だったか――いくら必要なんだ? え?
     俺が払ってやるよ」

<_フ;゚ー゚)フ「いやあっ、そんな! 結構です結構です、
        こんなんちょっと水でぴゃーっとやりゃあ綺麗になりますんで!!」

 ははは、と引き攣った笑いを残し、不良少年は逃げていった。
 その背中が見えなくなった頃、ようやくクックルはデレ達へ「大丈夫か」と声をかけた。

 デレは頷き、キュートは顔を真っ赤にさせる。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます、クックルさん!」

( ゚∋゚)「無事なら良かった。――何だ、顔赤いぞ」

o川;*゚−゚)o「びっびびびびっくりしただけだし!
       あんたみたいなのがいきなり現れたら恐怖で心臓止まるっつーの!!
       ていうか、な、何でこんなところにいんの!!」

279 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:20:53 ID:bWCcjkbkO

( ゚∋゚)「ニュッ君を迎えに来たら、お前らが絡まれてるのを見付けたんだよ。
     ――おおい、ニュッ君!」

 クックルが呼ぶと、ニュッはおとなしく近寄ってきた。
 クックルの「バイトお疲れさん」という言葉に、
 ニュッは、小さく頭を揺らし――多分、頷い――た。

ζ(゚、゚*ζ「迎え?」

( ゚∋゚)「ニュッ君、チンピラに絡まれやすいんだ」

ζ(゚、゚*ζ「……ああ……」

 何となく分かる。
 ニュッの、あからさまに弱そうな痩せ細った体格に、デレは納得した。
 そういった方々からすれば、いいカモだろう。

( ゚∋゚)「二度三度、ぼろぼろで帰ってきたこともあるしな。
     俺は執筆作業も休み中だし、散歩がてらニュッ君を迎えに来ることにしてるのさ」

 つまりボディーガードのようなもの。

 つい先日小説を書き上げたばかりで暇を持て余しているクックルには丁度いい。

ζ(゚、゚*ζ「貧弱ー」

( ^ν^)「うるせえ」

280 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:22:19 ID:bWCcjkbkO

( ゚∋゚)「さ、帰るぞニュッ君」

 踵を返す。
 あれ、と、クックルが不思議そうな表情で振り向いた。

( ゚∋゚)「そういえば学校はどうした」

ζ(゚ー゚*ζ「テスト中だから、早く終わったんです」

( ゚∋゚)「昼飯は?」

ζ(゚ー゚*ζ「今、キュートちゃんと一緒にどこかで食べようかなって」

( ゚∋゚)「ああ、それなら、図書館に来るか?
     今日は館長や作家達が何人か外出してて、少し物寂しい」

ζ(゚、゚;ζ「え……」

 図書館には行かないと決めたばかりだ。
 だから断ろうかと思ったのだが。

o川*゚−゚)o「別に、私はどうでもいいけど?
      ただ(チラッ)デレちゃんが(チラッ)どーかなーって(チラッチラッ)」

ζ(゚、゚;ζ(すごく……行きたそうです……)



*****

281 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:22:58 ID:bWCcjkbkO



川д川「あらあ……なあに、デレちゃんも連れてきたの……」

ζ(゚ー゚*ζ「貞子さん! お久しぶりです」

 図書館に着くと、作家の1人、山村貞子が出迎えた。
 幽霊然とした見た目の貞子に、キュートが肩を跳ねさせる。

o川;゚ー゚)o「わっ」

川д川「……だあれ……?」

ζ(゚ー゚*ζ「素直キュートちゃん。私の友達です」

川д川「ああ、キュート……館長やクックルから聞いてるわ……。
    話通り……いえ話以上の美少女ね……」

 貞子の青白くか細い指が、キュートの頬を撫でる。
 にたり、一瞬だけ、貞子は笑った。

川д川「こんな子を主人公にしたい……顔面ずたぼろになって絶望する話が書きたい……。
    ……ああ、いいわね、次はそんな話にしましょう……」

o川;゚ー゚)o

( ゚∋゚)「怯えてるぞ」

川д川「……ごめんなさあい……」

282 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:23:34 ID:bWCcjkbkO

( ^ν^)「腹減った」

川д川「了解……」

( ゚∋゚)「デレ達の分も頼む」

川д川「はあい……、……2階に上げるの……?」

( ゚∋゚)「まあ、食堂ぐらいならいいんじゃないか」

 来い、と言って、クックルはカウンターの奥、階段を隠すドアを開けた。
 デレは首を傾げる。

ζ(゚、゚*ζ「……いいんですか?」

 2階はニュッ達の住まい。
 プライベートな空間だ。
 こんなにあっさりと上げられるとは思わなかった。

( ゚∋゚)「客を入れて何が悪い。――まあ、あんまりうろちょろされても困るが」

o川*゚−゚)o「そんなことしませんよーだ」

 べえ、と舌を出し、キュートは小走りでクックルの後に続いた。
 デレは、不安そうにニュッを見る。

( ^ν^)「行けば」

ζ(゚、゚*ζ「……じゃあ、お邪魔します」

283 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:25:24 ID:bWCcjkbkO

 ――階段の最上段は踏み込みになっていた。
 靴を脱ぎ、出されたスリッパに足を通す。

 2階の廊下は、階段から見てT字を逆にした形で伸びている。
 長い廊下、ずらりと並ぶドア。

 クックル達は、深緑色の絨毯が敷かれた廊下の右側に進んだ。
 右の廊下の中間辺りで立ち止まり、左の壁のドアを開く。

( ゚∋゚)「ここが食堂だ。あっちが厨房」

ζ(゚、゚*ζ「おお……」

 なかなか広い。
 奥行きが深く、向こう側には厨房に続く扉。

 壁の上部に取り付けられた細めの窓から日光が差し込み、
 そこに木葉の影が落とされ、ゆらゆらと揺れている。
 緑の多い時期に来たなら、影ももっと増えるだろう。

 横長のテーブル、いくつかの椅子。
 厨房に一番近い席に座り込む女性。

ハハ ロ -ロ)ハ「……ン?」

ζ(゚ー゚*ζ「あっ、ハローさん!」

 ハローだ。
 ハードカバーのノートに何か書き込んでいる。

284 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:27:38 ID:bWCcjkbkO

ハハ ロ -ロ)ハ「デレ、いらっしゃい」

ζ(゚ー゚*ζ「どうも。何されてるんです?」

ハハ ロ -ロ)ハ「小説書いてるんデス。ワタシのオハコ、サスペンス小説」

 顔の横に本を掲げる。薄い黄色の表紙。
 綺麗な色ですね、とデレが言うと、ハローはにっこり笑った。

 それから、ハローの視線がキュートに移動する。

ハハ ロ -ロ)ハ「ソチラは?」

( ゚∋゚)「素直キュートだ」

ハハ ロ -ロ)ハ「キュート。クックルの本に巻き込まれたコですネ。カワイイ。
      ワタシはハローです、ヨロシク!」

o川*゚ー゚)o「よろしく……」

 早口で挨拶するハローにお辞儀したキュートは、
 顔を上げると、貞子とハロー、そしてクックルを見渡した。

o川*゚ー゚)o「……本当に、色んな人が住んでるんだ」

 何人かが出掛けているとのことなので、もっと多い筈。
 キュートは、この場にはいないが、いつぞやに見たツンを思い出す。
 悔しいが、キュートでも敵わないほど綺麗な少女だった。

285 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:28:34 ID:bWCcjkbkO

 ツンも含め、数人の女性と共に暮らしているのか。
 ……クックルは。

o川*゚ -゚)o

ζ(゚、゚;ζ(あれ、何か拗ねてる)

川д川「適当に座ってて……ご飯作ってくる……」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、お手伝いしましょうか」

川д川「ただの焼きそばだから手伝わなくていいわ……お客さんは座ってて……」

 デレを制止し、貞子はすたすたと厨房に入っていった。
 ハローの向かいにクックル、その隣にニュッが座る。
 キュートはハローの隣、ニュッの向かい。
 デレはキュートの隣に腰を下ろした。

( ^ν^)

ζ(゚、゚*ζ

 すると――突然、軽く首を斜めに曲げて、ニュッはデレに視線を固定した。
 ばっちり目が合う。デレが肩を竦めた。

286 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:29:36 ID:bWCcjkbkO

( ^ν^)

ζ(゚、゚*ζ

ζ(゚、゚*ζ「な、何ですか」

 無言。
 何故だか顔が熱くなってきて、デレは俯いた。

ζ(゚、゚*;ζ「……ニュッさん、ちょ、ちょっと照れるんですが……どうしました……?」

 頬に手を添え、おずおずと訊ねる。
 だが、答えたのはニュッではなくクックルだった。

( ゚∋゚)「キュートが向かいにいるから正面見れないだけだ」

ζ(゚、゚*ζ「あ? ざけんな」

 ときめきを返せ。
 先程までのしおらしさはどこへやら、ぎん、と眼光鋭くニュッを睨みつける。
 ニュッは顔を顰め、逆方向、ハローへ視点を移した。

 いくらでも見て下さい、と言うハローの声が聞こえる。
 むかむかしてきて、デレは口をへの字に曲げ、鞄から教科書を取り出した。

287 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:30:59 ID:bWCcjkbkO

ζ(゚ぺ#ζ「ニュッさんのばーか!!」

( ^ν^)「は?」

o川;゚ー゚)o「どうしたのデレちゃん。よしよし」

ζ(゚、゚#ζ「いいもん。
      どうせ私はキュートちゃんみたいに可愛い女の子じゃないもん」

 クックルいわく、異性に慣れていないニュッは見目麗しい女性が苦手なのだそうだ。
 故にキュートを直視出来ない、らしい。

 キュートは無理でもデレやハローなら見れる。
 ハローは長年一緒にいる同居人だからまだしも、
 デレなんかには知り合って一日も経たない内から平常通りに振る舞っていた。
 物凄く癪に障る。

288 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:31:54 ID:bWCcjkbkO

ζ(゚、゚#ζ「ニュッさんなんか一生恋人も奥さんも出来ません!」

ハハ ロ -ロ)ハ「デスカラ、イザとなったらワタシが」

( ^ν^)「……」

( ゚∋゚)「あー、うん、俺は、まあ何とかなると思うぞ、ニュッ君」

o川*゚ -゚)o「他人事? あんたはアテでもあるの? ゴリマッチョのくせに!」

(;゚∋゚)「何でそうなる」



 ――騒がしくなる食堂を背に、

川д川「若いわあ……女子高生……羨ましいわね……」

 1人寂しく野菜を刻みながら、貞子はそんなことを呟いた。



*****

289 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:32:57 ID:bWCcjkbkO



 焼きそばと卵スープを平らげると、食後のティータイムに突入した。

 とはいえ、ティータイム、などと優雅な響きはあまり似合わない組み合わせだ。

 熱い焙じ茶に煎餅、おかき。
 貞子の好みで決めたとか。

ハハ ロ -ロ)ハ「ホットケーキと牛乳がイイー、サーダーコー」

川д川「自分でやれば……ああ……やっぱりおかきは黒豆入りよね……」

 しゃくしゃくと小気味のいい音をたてながら、貞子がおかきを咀嚼する。
 ハローは少しふて腐れながらも、湯飲みに入った焙じ茶を啜った。

 デレも煎餅を一口かじり、焙じ茶で流し込む。

ζ(゚、゚*ζ「うー」

 熱が喉を通り、香ばしい風味が鼻を抜ける。
 ほっと息をつくと、ささやかな幸福が腹の中からじんわり広がった。

290 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:34:01 ID:bWCcjkbkO

ζ(゚、゚*ζ

ζ(゚、゚;ζ「危険!!」

o川;゚ー゚)o「うわっ何。さっきから急に叫ぶねデレちゃん」

ζ(゚、゚;ζ「これが敵なの! 今日こそ寝ないからね! いっぱい勉強してやる!!
      ってわけでキュートちゃん教えて!」

( ^ν^)「何秒もつか見物だな」

ζ(゚、゚;ζ「びょ、秒!? せめて分にして下さいよ!」

ハハ ロ -ロ)ハ「分も相当なもんデスヨ」

 意気込むデレの気迫に釣られ、キュートも「頑張ろう!」と返す。
 教科書と問題集を開き、力強くペンを握った。

291 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:35:29 ID:bWCcjkbkO



( ゚∋゚)「――んで」

川д川「……こうなっちゃってるけど……」


o川*´ー`)o スヤスヤ ζ(´、`*ζ


 30分も経過した頃、そこには呑気に眠りこける2人の姿があった。


 その後、目を覚ましたデレが悲鳴をあげたのは言うまでもない。



*****

292 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:36:17 ID:bWCcjkbkO


 少々、時間を戻そう。

 デレ達がVIP図書館に行ったのとほぼ同時刻。

 あるアパートの一室。

爪'ー`)y‐「はあ? 失敗した?」

 3人の男達がたむろしている部屋の中、
 ベッドに寝そべっている男が眉間に皺を寄せた。
 くわえていた煙草を枕元の缶に捩込み、起き上がる。

 睨まれた相手は、冷や汗を流しながらゆっくりと首肯した。
 ――駅前でデレ達に絡んだ不良少年だ。

<_フ;゚ー゚)フ「フォックス……だ、だって、急に馬鹿でけえ男が来てさ……。
        す、すげえ筋肉だったし、逆らったら殺されそうで、」

爪'ー`)「うるせえよ」

<_フ;゚−゚)フ「っ!」

 缶が投げつけられる。
 煙草の灰で汚れたジュースが缶の口から飛び出して、不良少年の顔と服を汚した。
 不快な匂いがまとわりつき、彼は顔を歪める。

293 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:37:50 ID:bWCcjkbkO

爪'ー`)「ほんっと役に立たねえ糞だな、お前」

<_フ; − )フ「……」

爪'ー`)「あーつまんねえ。どうすっかなー退屈だなー誰でもいいからぼこりたいなー」

 箱から新たな煙草を抜き取りながら、「フォックス」と呼ばれた男は呟いた。
 聞こえてきた言葉に不良少年は怯えた表情を見せる。

 その反応に嫌らしい笑みを浮かべて、フォックスが再び口を開いた。

爪'ー`)y‐「どうしたエクスト。自分が殴られるかもしれないから恐くなった?」

 周りの男達が低く笑った。
 大丈夫だよお、とわざと明るい声で、フォックスは言い放つ。

爪'ー`)y‐「こういうときに打ってつけの奴がいるじゃん。
      ヒッキー呼ぼう、ヒッキー。ねっ」

<_フ;゚−゚)フ「……ヒッキー……」

爪'ー`)y‐「ん? 嫌? それならやっぱりお前で憂さ晴らしするけど」

<_フ;゚−゚)フ「――……べ、つに、ヒッキーなんかがどうなろうと」

爪'ー`)y‐「じゃあ呼べよ。呼べ呼べ」

294 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:40:34 ID:bWCcjkbkO

<_フ;゚−゚)フ「……」

 震えそうになる手で携帯電話を取り出しながら、
 不良少年は、ある1人のクラスメートの番号を探した。





 ――不良少年の名前は、エクストという。

 インターネット上では「底辺」と呼ばれているような男子高校に通う、2年生だ。
 生徒の半分近くが不良、学級崩壊なんか当たり前。
 教師にもまともな者なんかいやしない。

 エクストは元々不良などではなかった。
 ただ受験が面倒で仕方なかっただけの、普通の少年であった。

 どうせ噂じゃ酷くても、実際は大したことなどない。
 目立ちさえしなければ平気――なんて、呑気に楽観していたのが間違い。
 楽して入った高校は、それに見合った狂いっぷりだった。

 さらに追い打ちをかけるように、エクストと同じクラスには
 中学時代から有名だった不良、フォックスがいた。
 終わったと、入学式の日にエクストは絶望する。

 だが。
 エクストは、幸い平穏に暮らしていけそうな環境を得ることが出来た。
 エクストだけでなく、他のクラスメートも同様。

295 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:41:55 ID:bWCcjkbkO

 何のことはない。
 「生け贄」がいただけだ。





(;-_-)「……」

爪'ー`)y‐「お、いらっしゃいヒッキーくーん。
      おいでおいで」

 エクストがアパートに呼んだのは、クラスメート、ヒッキー。
 普段から青白い顔を一層青くさせ、小さく震えている。

 部屋に足を踏み入れたヒッキーが、ちらりとエクストを見た。
 エクストは目を逸らし、ヒッキーと入れ代わるように部屋を出る。

爪'ー`)y‐「んー、エクスト混ざんないの?」

<_フ; − )フ「……体調、悪い。から、今日は帰る」

爪'ー`)y‐「そ」

 エクストの言い訳を、フォックスは欠片も信じていないだろう。

 気を付けてねえ。
 不愉快な猫撫で声に応えず、エクストはドアを閉め、アパートを出た。

296 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:44:20 ID:bWCcjkbkO


 ――ヒッキー。
 貧相な体つき、陰気な顔つき。
 性格も暗い。

 入学早々、ヒッキーはフォックスに目をつけられる。
 フォックスは既に仲良くなっていた仲間と共に、ヒッキーを虐め始めた。

 ヒッキーが標的になっていれば、他の者は手を出されない。
 皆、見て見ぬふりに徹した。一番可愛いのは自分なのだ。

 エクストも基本的にはそうしていたのだが、
 時折、廊下や教室などでヒッキーと2人になる機会があると、
 彼に声をかけたり飲み物を奢ってあげたりして励ましていた。



<_プ−゚)フ『……俺、弱いし……びびりだから、
       ……フォックスを止めるとか、出来ないと思う。
       こうやって、たまに話すしか――』

 ある日、エクストが申し訳なく思っている気持ちをそのまま吐露したことがある。
 ヒッキーはぎこちなく微笑んで、

(-_-)『エクスト君は、それでいいよ』

 そう返した。

297 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:46:15 ID:bWCcjkbkO

<_プ−゚)フ『……良くないだろ』

(-_-)『いいよ。馬鹿正直なんだね、エクスト君』

 下手に関わってエクストまでもが巻き込まれるのは申し訳ないと、
 だからたまに話しかけてくれるだけで充分嬉しいと、ヒッキーは言った。

 その、すぐ翌日。

 エクストはフォックスに呼び出される。

爪'ー`)y‐『ヒッキーの「仲間」か、俺らの「仲間」か、どっちがいい?』

 ヒッキーの仲間。フォックスの仲間。
 つまり――フォックス達に虐められるか、ヒッキーを虐めるか。
 どちらかを選べ、と。

 エクストがヒッキーと話しているところを見られたのだろう。

 体中が冷え渡る。
 ヒッキーを裏切りたくない。でも、フォックスは恐い。

 エクストは。

 自分の安全を選んだ。

298 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:50:16 ID:bWCcjkbkO


 そうして現在までの1年と数ヶ月、エクストはフォックス達と行動を共にしてきた。
 不良らしい振る舞いはそれなりに出来るようになったが、
 元来の臆病な性分はどうしようもない。

 今だって――
 フォックス達に暴力を振るわれるヒッキーを見るのが恐くて、逃げてきてしまった。

 彼らはエクストのそんな性格を理解している。
 それ故、グループの中でもエクストは馬鹿にされることが多い。

 今日は、フォックスに「金か女を持ってこい」と命令された。
 だから駅前で見かけたデレ達を狙い、わざとぶつかりに行ったのだが、見事に失敗した。
 フォックスに許してはもらえたが、次も失敗したら、そのときはどうなるか。
 想像するだに恐ろしい。


 さらに、エクストの通う高校は、3年間クラス替えが無い。
 これからの1年と数ヶ月間も、この日常が続く。

 恐怖にエクストの身が竦んだ。
 足元がふらつき、転びそうになる。

 咄嗟に手を伸ばし、傍にあったものに掴まった。
 コンクリートのざらりとした感触。掌の皮膚が僅かに裂ける。
 慌てて体勢を立て直して、手を離した。

299 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:51:25 ID:bWCcjkbkO

<_フ;゚−゚)フ「……」

 ごみ捨て場。
 元々はフォックスの住むアパートの住人が利用していたらしいのだが、
 最近、別の場所に金網でしっかり閉じられるごみ捨て場が設置されたので
 そちらばかりが使われるようになったそうだ。

 こちらの、コンクリートで両脇に低い壁を作っただけのオープンな作りは
 カラスや犬猫に荒らされやすいためか、あまり好かれていない。

 ふと、雑然と詰まれた本が目に入った。

 ぼろぼろの雑誌や文庫本。
 その一番上に、これまたぼろぼろなハードカバーの本がある。

<_プ−゚)フ「……何だこりゃ」

 妙に気になって、エクストは本を拾い上げた。

300 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:52:57 ID:bWCcjkbkO

 淡黄色の外装。
 表紙の左下、背表紙の下部に銀色の、猫を象ったシルエットのマーク。
 タイトルや著者名は見られない。

 というより、それらしきものが書かれていた跡はあるのだが、
 雨か何かのせいで読み取れなくなってしまっている。
 黒いインクが滲んでいるのみだ。

 表紙を開いてみる。
 中身は外側よりいくらかマシだったものの、やはり滲んで見づらい箇所が多い。

 手書きの小説であろうことは分かったが、とても読めたものではない。
 興味を無くしたエクストは、本を元の位置に放り投げた。



*****

301 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:55:39 ID:bWCcjkbkO



ζ("、" ζ

o川;゚ー゚)o

o川;゚ー゚)o「大丈夫……?」

ζ("、" ζ「ひゃい」

 翌朝。中間試験最終日。
 登校してきたデレを見て、キュートは悟った。
 「あ、これは駄目だな」と。

o川;゚ー゚)o「ご、ごめんね……昨日、私が寝ちゃったから……」

ζ("ー" ζ「いいよ……徹夜で勉強したし……」

o川;゚ー゚)o「それでそんなに隈が……」

ζ("ー" ζ「うひひひひ」

o川;゚ー゚)o(無理だ。無理だね)


 結果は、推して知るべし。


*****

302 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:57:16 ID:bWCcjkbkO


ζ(゚ー゚*ζ

o川*゚ー゚)o「あれま、デレちゃんすっきりした顔だね」

 放課後。
 いつも通りのデレに、キュートはほっと息をついた。
 デレは満面の笑みで応える。

ζ(^ー^*ζ「テスト中、ぐっすり眠ったからね!」

o川;゚ー゚)o

ζ(^ー^*ζ

o川;゚ー゚)o

ζ(;ー^*ζ

o川;゚ー゚)o「また訊くけど……だ、大丈夫……?」

ζ(;ー;*ζ「んなわけないじゃないすかーwww」

303 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:58:43 ID:bWCcjkbkO

 本当に、そんなわけがなかった。


 次の週。
 ある者は涙し、ある者は高笑いをする、そう、テスト返却地獄。

 全ての答案用紙を手にしたデレの顔色は、最悪だった。
 目も死んでいた。

ζ(゚ー゚ ζ

 英語の答案用紙には「放課後に職員室へ」という付箋。
 名前欄の横に記された数字は見えなかった。
 正確に言えば認識するのを脳が拒否した。

 廊下に張り出された成績上位者一覧には目もくれない。
 デレの名前がある筈がないのだから。

 ちなみにキュートは3位だったそうだ。



*****
305 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:00:24 ID:bWCcjkbkO


ζ(゚ー゚;ζ「……補習ですか」

( ∵)「補習ですねえ」

 放課後、職員室。
 名簿をペン先で叩きながら、英語教師はデレに補習を言い渡した。

( ∵)「一学期末でも赤点だったでしょう」

ζ(゚ー゚;ζ「はい……」

( ∵)「それでいながら今回、点数下がってるんですよ」

ζ(゚ー゚;ζ「……」

( ∵)「このまま二学期末まで赤点だった日にはね……」

ζ(゚ー゚;ζ「ぐぬぬ」

( ∵)「……まあそんなわけでね、一応、補習やった方がいいと思うんですよ先生は」

ζ(゚ー゚;ζ「うう……」

( ∵)

( ∵)「あなたが嫌ならやりませんよ? 先生だって忙しいしね」

ζ(゚ー゚;ζ「や、やります、補習したいです」

306 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:04:59 ID:bWCcjkbkO

( ∵)「言い方ってありますよね」

ζ(゚ー゚;ζ「え……」

( ∵)「『この低能めにどうか補習を受けさせて下さいビコーズ先生』……みたいな」

ζ(゚ー゚;ζ

 英語教師、ビコーズ。
 生徒に容赦ないことで有名な30代独身男性である。

 その性質もあって、授業にしろ試験にしろ難題を出すのを好む。
 ただでさえ英語が苦手なデレにとって、彼の作るテスト問題など嫌がらせでしかない。

( ∵)「ん?」

ζ(゚ー゚;ζ「こ、この……低能めに……ど、どうか……どうか、……」

( ∵)「補習を」

ζ(゚ー゚;ζ「補習を……」

( ∵)「受けさせて下さい?」

ζ(゚ー゚;ζ「受けさせて下さい……ビコーズ先生……」

307 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:06:27 ID:bWCcjkbkO

( ∵)「先生の手本がなきゃお願いの一つも出来ませんか?
    英語どころか日本語で文章考えるのすら苦手ですか? 自主性皆無ですか?」

ζ(゚ー゚;ζ(鬼畜……!)

( ∵)「先に日本語から教えなきゃいけないなら先生だって匙投げますよ」

ζ(゚ー゚;ζ「ぐっ……」

( ∵)「あーあ、補習受けたら少しだけ評点水増ししてあげるのになあ。
    評点上げれば期末酷くてもぎりきり何とかなると思うのになあ」

ζ(゚ー゚;ζ「……ビコーズ、先生……っ」

( ∵)「評点低くてさらに赤点なんかとった日にゃ……はい?」

ζ(゚ー゚;ζ「この、愚かな、無知無能に……
      先生の貴重な貴重なお時間を割いていただくのは、大変心苦しいのですが」

( ∵)「ええ、そうですね」

ζ(゚ー゚;ζ「どうか、その寛大な御心でもって、私めに補習を、……して下さい……」

( ∵)「可哀相にね、頭が良ければこんなことにはなりませんでしたのにね。
    こんなに可哀相な長岡さんのために、先生頑張ってあげましょう」

308 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:08:16 ID:bWCcjkbkO

ζ(゚ー゚;ζ「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」

( ∵)「うん。本当はもっといじめたいけれど、
    あと5人、5人もですよ、あなたのお仲間がいるのでね。
    彼らにも同じようにお願いしてもらわないといけません。
    時間が勿体ないので、長岡さんに関しては、これくらいで勘弁してあげます」

 ビコーズが職員室の入口に振り返る。
 そこで待機していた、恐らくデレの「お仲間」であろう生徒達が
 びくりと体を跳ねさせた。

ζ(゚ー゚;ζ「ありがとうございます」

( ∵)「補習の時間などは後日お知らせしますね」

( ∵)「はーい次、オワタ君こっち来なさい」

\(;^o^)/「……オワタ」



*****

309 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:09:35 ID:bWCcjkbkO



 というわけで翌週、月曜日から早速補習が始まった。

 放課後にみっちり教科書と問題集の復習、
 それからビコーズお手製のプリントや小テストを解かされ。

 ようやく帰宅を許されたのは、外がすっかり暗くなった頃だった。

ζ( ー ;ζ「これがあと2週間続くのか……」

 精神的にぼろぼろである。
 家に帰ってから、ビコーズに渡された予習と復習のプリントもやらねばならない。

 逃げたい。とても逃げたい。
 しかし逃げたらビコーズに言葉で殺されそうだ。

ζ(-、-;ζ「くっそう……――う」

 街灯の明かりに目が眩む。
 思わず目を閉じた瞬間。

ζ(+、+;ζ「ぶにゃっ!?」

 向かいから駆けてきた人間とぶつかった。

 転んだデレに、慌てた様子の相手が「悪い」と声をかける。
 手が伸ばされた。
 それに掴まって立ち上がったデレに、相手は眉根を寄せる。

310 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:10:11 ID:bWCcjkbkO

<_プー゚)フ「あ?」

ζ(゚、゚;ζ「……ん?」

 街灯に照らされた顔。
 どことなく、見覚えがある。

 思考すること3秒。
 デレの頭に、先々週の記憶が蘇った。

ζ(゚、゚;ζ「――駅前の!」

<_フ;゚ー゚)フ「あっ、てめえ駅前の!」

ζ(゚、゚;ζ「テンプレ不良!」

<_フ;゚ー゚)フ「鬼!」

ζ(゚、゚;ζ

<_フ;゚ー゚)フ

 沈黙。
 互いに良いイメージがない――どころか、互いに「恐い」という印象しかない。

 場を緊張が包んだ。

311 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:12:29 ID:bWCcjkbkO

ζ(゚、゚;ζ

<_フ;゚ー゚)フ

 包んだが、どちらからもアクションはなし。
 張り詰めた空気が段々緩んできた。

 熟考したデレが出した結論は、

ζ(゚、゚;ζ「……こんばんは……」

<_フ;゚ー゚)フ「あ、こんばんは……」

 とりあえず挨拶。

 このとき、緊張感なるものはどこか遠くへ飛んでいった。

ζ(゚、゚*ζ「じゃあ私、これで……」

<_プー゚)フ「おう。悪いな、ぶつかって。ちょっと急いでたんだ」

ζ(゚、゚*ζ「いえいえ、私だって、この間ぶつかっちゃったし……」

 寧ろ和やかな雰囲気が流れ始めている。
 デレの中から、「恐い不良」という認識が抜け落ちた。

312 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:13:10 ID:bWCcjkbkO

<_プー゚)フ「んじゃ、気を付けろよ」

ζ(゚、゚*ζ「はい、そちらも」

<_プー゚)フ「……あ、そうだ」

ζ(゚、゚*ζ「?」

<_プー゚)フ「――この間の、あれ。ごめんな」

 ぽかんとするデレに背を向け、彼は去っていった。
 デレはぼんやり思う。

 以前より、ずっと優しい声をしていたな、と。



*****

313 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:14:15 ID:bWCcjkbkO


<_フ;゚ー゚)フ「……フォックス」

 息を切らしながら、エクストはフォックスの部屋に飛び込んだ。
 きつい煙草の臭いに一瞬顔を歪める。

爪'ー`)y‐「おう」

 部屋の明かりは机の上の電気スタンドだけ。
 椅子に腰掛けて煙草を吸うフォックスの顔が、光に浮かんでいる。
 フォックスは暗いのを好むのだと、エクストはつい最近知った。

 珍しく、彼は1人だった。
 思い返せば、エクストがここに来ると、いつもフォックスの仲間がいた。
 今は誰もいない。2人きり。

 慣れぬ状況に、エクストは怯んだ。

<_フ;゚ー゚)フ「何だ? 急に呼び出して――」

爪'ー`)y‐「お前よ、これ持っていってくんねえ?」

 暗がりの中、フォックスが腕を振る。
 エクストの胸元に衝撃。反射的に手で押さえると、硬い感触に触れた。

314 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:15:25 ID:bWCcjkbkO

 手で形を確かめる。どうやら本らしい。

<_プー゚)フ「これ、何だ?」

爪'ー`)y‐「本。気味悪いんだよな」

 フォックスが煙を吐き出す。
 憎々しそうな声だ。

爪'ー`)y‐「先月、道端に落ちてるのを見かけたときにちょっと開いてみたんだがよ、
      きったねえ本で、ろくに読めなかった。
      だからそのまま放り投げて帰ったんだ」

 なのに、と言葉を繋ぐ。

爪'ー`)y‐「なのに、何でか俺の部屋にあった。
      いたずらかとも思ったけどな、誰かが部屋に入ったような跡もない」

<_プー゚)フ「変な話だな」

爪'ー`)y‐「だろ。俺もさ、そのときはさっさと捨てたんだ」

315 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:18:49 ID:bWCcjkbkO

 しかし、それでも再び本はフォックスの部屋に戻ってきた。
 何度捨てようと、その都度帰ってくる本。

 いっそ燃やそうかとも考えたが。

爪'ー`)y‐「祟りとかあったら嫌じゃん? 馬鹿らしいけど」

<_プー゚)フ「……ああ」

爪'ー`)y‐「だからさ、エクスト持ち帰ってよ。んで、燃やしといて」

<_フ;゚ー゚)フ「俺が?」

爪'ー`)y‐「……やだ?」

<_フ;゚ー゚)フ「……別に、構わないけど」

爪'ー`)y‐「うん、ありがとありがと。持つべきものは友だね、……っと」

 ――突き刺さるような音が鳴り響いた。
 エクストは驚きの声をあげそうになったが、何とか堪える。

 新たな明かりが生まれた。
 フォックスの携帯電話の液晶だ。
 電話、と呟き、フォックスが通話ボタンを押す。

316 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:21:40 ID:bWCcjkbkO

爪'ー`)y‐「はあい? 何?」

 へらへら笑っていたフォックスだったが、次第に顔が曇っていった。
 眉間に皺が寄り、煙草が灰皿に押し付けられる。

爪'−`)「は? ――それでどうなったんだよ。……ああ、……。……そうか」

 些か乱暴に携帯電話を閉じ、フォックスは机に目を落とした。

 しんと静まり返る室内。
 沈黙に耐え切れずにエクストが口を開きかけた、が、
 言葉はフォックスによって引っ込まされた。

爪'−`)「参ったな」

<_プー゚)フ「……どうしたんだ?」

爪'−`)「死んだんだってさ」

<_プ−゚)フ「――誰が?」

爪'−`)「死んだっつーか……」


 ――仲間の1人が殺された、と。

 フォックスは囁くように言った。

*****

317 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:23:11 ID:bWCcjkbkO



 放課後。
 楽しい楽しい補習の時間。

( ∵)「長岡さん」

ζ(゚、゚;ζ「……はい」

( ∵)「予習プリントと同じとこ間違ってますよ。何のための予習ですか。ねえ」

ζ(゚、゚;ζ「ご、ごめんなさい……」

( ∵)「馬鹿ですか? お馬鹿ちゃんですか? 頭からっぽですか? 夢詰め込めるんですか?」

ζ(;、;*ζ「ごめんなさい、馬鹿です、馬鹿だから今ここにいるんです」

( ∵)「それもそうですね。ああ泣きなさんな泣きなさんな。
    今からもっと悲しい思いをしますからね、こんなことで泣いてちゃいけませんよ」

 パイプ椅子に腰を下ろし、ビコーズが腕を組む。

 「もっと悲しい思い」。この現状より酷い話があるというのか。
 皆、息を詰めてビコーズの発言を待った。

318 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:27:12 ID:bWCcjkbkO

( ∵)「皆さん。シベリア高の生徒が亡くなったの、ご存知ですか?」

 シベリア男子高校。
 偏差値の低さと治安の悪さで名高い学校だ。

 昨夜、その高校の生徒が1人、亡くなった。
 デレも今朝ニュースで聞いたので知っている。
 この学校でも生徒の話題はそのことで持ち切りだった。

 それというのも、皆、死因に関心が引かれたからだ。
 シベリア高校の生徒が命を落とした原因は事故や自殺などではない。

( ∵)「殺されたんですってね。刃物で一突き……でしたっけ。恐い恐い」

 人の手によって殺された、らしい。
 犯人は捕まっておらず、依然捜査中。

( ∵)「被害者の子、不良だったとか。
    私怨の可能性もあるそうじゃないですか。悪いことはするもんじゃないですね。
    先生のように心優しい天使には関係ない話ですが」

( ∵)「――それで、本題です」

ζ(゚、゚;ζ ゴクリ

319 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:28:46 ID:bWCcjkbkO

 顎に手をやり、ビコーズは俯いた。
 ああ、なんてわざとらしく嘆いてみせる。

( ∵)「現場はここからじゃかなり離れた場所なんですが、犯人が捕まってませんからね。
    まあ用心するに越したことはないってんで」

( ∵)「生徒を夜まで学校に残しちゃいけませんという話になりましてね、ええ」

 デレは横目で窓を見た。
 日が暮れようとし、空が赤みを帯び始めている。

( ∵)「補習の時間も短縮。今日はこれで解散です」

 ――全員、口元が吊り上がりそうになるのを何とか押さえ込んだ。
 机の下でガッツポーズをし、胸の内で歓声をあげる。

( ∵)「悲劇ですね」

ζ(゚、゚*ζ「ですねー」

( ∵)「長岡さん棒読みですが大丈夫ですか? ショックのあまり感情が消えましたか」

 泣き叫んでもいいんですよとビコーズが言うので、丁重にお断りしておいた。

320 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:31:47 ID:bWCcjkbkO

( ∵)「……まあ、そんなわけで、皆さん気を付けてお帰りになって下さい。
    寄り道はしない、可能なら複数人で行動しなさいね。
    自転車は安全運転。何かあったら全力で逃げましょう。いいですか」

 未だかつてないほど元気な返事をし、生徒達は立ち上がった。
 ビコーズも溜め息をつきながら腰を上げる。

 意気揚々と帰宅の準備をする生徒、
 どさりという重たい音と共に教壇の上に大量のプリントを乗せるビコーズ――

 デレ達の動きが、止まった。

( ∵)「でも安心して下さい。代わりにたっぷり課題は出しますから」

 鬼畜のすることなんて、こんなものである。



*****

321 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:34:46 ID:bWCcjkbkO



(-_-)

(-_-)「次は、あいつ」

 住宅街を歩きながら、ヒッキーは呟いた。

 ポケットに入れてある折り畳みナイフ。
 布越しに触れ、思い巡らせる。

(-_-)「昨日は楽だったなあ」

 蘇る昨夜の記憶。
 誰もいない夜道、油断しきっていた「敵」。
 あんなに簡単に殺せるものだとは。

(-_-)「今日も上手くいくといいけど。
    ……いや、上手くいかないと困るって。うん」

 ――やられる前に、やらなきゃ。

 ヒッキーはポケットに手を突っ込み、ナイフの柄を撫でた。





第三話 続く

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