175 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:25:25 ID:yruERiJ6O

『――あの超絶美少女が主人公に?』

ζ(゚、゚;ζ「多分、ですよ。多分」

 家へ帰る道すがら、デレは先日教わった内藤の携帯電話の番号へかけ、
 キュートが本に「演じさせられている」恐れがあると伝えた。

 本当は放課後にキュートと話したかったのだが、
 デレが声をかけようとするより早く、彼女が教室から逃げてしまったために
 それは叶わなかった。

 内藤は悩ましげな声で、ううんと唸る。

『それは確かめなきゃいけないお。
 デレちゃん、僕が明日学校に行くから、君は――ん? 何だおツン……え?』

ζ(゚、゚*ζ「内藤さん?」

『……あー、デレちゃん』

ζ(゚、゚*ζ「はい」

『僕、学校に入れないらしいお』

ζ(゚、゚;ζ「え? どうしてですか?」

176 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:26:05 ID:yruERiJ6O

『あの、ほら。この間、僕、君の学校に行ったお?』

ζ(゚、゚;ζ「ええ」

『そのときに、僕、ほら、あー、あれ。うん』

ζ(゚、゚*ζ

ζ(゚、゚*ζ「女の子ナンパしまくったから出入り禁止喰らったんですね」

『ぎくうっ!』

ζ(゚、゚*ζ「ぎく、って自ら声に出しますか、普通」

『……だーから、ね、えっと、デレちゃん……』

ζ(゚、゚*ζ「……大体予想つきました。
      私が直接キュートちゃんに確認して、
      ビンゴだったらVIP図書館に連れていく。で、いいですね」

『オッケーオッケー、後でご褒美のハグをしてあげるお』

ζ(-、-*ζ「結構でーす」

 通話を切る。
 はて、どうやってキュートに本のことを訊ねようか。

177 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:27:08 ID:yruERiJ6O



第二話 あな美しや、恋愛小説・後編



.

178 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:28:07 ID:yruERiJ6O


 翌朝。
 登校したデレは、教室に入るなり唖然とした。


从 ゚∀从「なーんで学校来るかなー。目障りなんだけどなー」

*(‘‘)*「泣いてるwwwwきもいwwwww」

o川*;□;)o「や、やめて、やめてってばあ!!」


 キュートが、友人達――もはや「元」友人達であろう――から、
 一方的な暴力を受けているのだ。

 クラスメートは皆見向きもしないで、我関せずを貫いている。
 傍観者ですらない。

 昨日は、突き飛ばされたキュートに大丈夫かと声をかけていたのに。

179 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:29:33 ID:yruERiJ6O

ζ(゚、゚;ζ(こんな、急に……)

 ――唯一デレだけがこの状況に疑問を感じているのは、
 「本」の存在を知っていたからだろうか。

 何も知らずにいれば、デレも、無関心になっていたかもしれなかった。

ζ(゚、゚;ζ「ちょっと!」

 ともかく彼女達を止めようとデレが口を開く。
 しかし、デレの声は、同時に鳴った始業のチャイムに掻き消された。

 幸い、それが制止の役目を果たしてくれたようで、
 キュートから「元」友人達が離れていく。
 当のキュートは髪型を整えながら席に着いた。

 ぐすりと鼻を啜る音が、辛うじてデレの耳に届いた。





 ――休み時間になる度、キュートは教室を飛び出した。
 また暴力を振るわれるのが嫌だったのだろう。

 デレが追いかけるが、向こうも足が速い。
 すぐに見失ってしまう。

180 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:30:50 ID:yruERiJ6O


ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん!」

o川;゚□゚)o「……!」

 ようやくキュートを捕まえられたのは、放課後、下駄箱の前だった。


*****


o川*゚□゚)o「――本……?」

 並んで歩きながら、デレはキュートに本のことを訊ねた。
 びくびくと怯えているキュートの姿を見ていると、気の毒で仕方がなくなってくる。
 敵意は無いのだと信じてほしくて、デレは笑みを浮かべた。

ζ(゚ー゚*ζ「うん。花柄の本。作者さんが、クックルさんっていってね……」

o川*゚□゚)o

 デレを見つめて、ぱちぱち、瞬き。
 それから、「知ってるよ」とキュートが答える。

181 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:32:29 ID:yruERiJ6O

o川*゚□゚)o「丁度、読んでるところ」

ζ(゚ー゚*ζ「ほんと?」

o川*゚□゚)o「うん。図書室で借りたもん」

ζ(゚ー゚*ζ「図書室……?」

o川*゚□゚)o「正確には、借りたっていうか……。
      借りようと思ったとき、司書さんも図書委員も揃って司書室で仕事してたの。
      わざわざ呼ぶのも面倒だったから、こっそり借りてこっそり返そうかと」

ζ(゚ー゚;ζ「ああ……なるほど」

 それで貸出記録に何も書かれていなかったわけだ。
 「内緒にしてね」とキュートが言うので、デレは苦笑して頷いた。

ζ(゚ー゚*ζ「その本、ちょっと見てみたいな」

o川*゚□゚)o「あー……ごめんね、家に置いてきちゃった」

ζ(゚、゚*ζ「ありゃ。そっか」

o川*゚□゚)o「……」

o川*゚□゚)o「うち、寄ってく?」


*****

182 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:35:09 ID:yruERiJ6O



 とあるマンションの3階、一室。
 素直宅。

o川*゚□゚)o「ただいまー」

ζ(゚ー゚*ζ「お邪魔しまーす」

川 ゚ -゚)「……ん、いらっしゃい。キュートの友達か? 初めて見る顔だ」

ζ(゚ー゚*ζ「はい! 長岡と申します」

川 ゚ -゚)「長岡さん。狭いところだがゆっくりしていってくれ。
     今ジュースを持っていこう」

 一番奥、キュートの部屋へ行く。
 全体的にピンク色。可愛らしい内装、小物。
 こてこてな女の子らしい室内に若干の感動を覚えながら、デレは腰を下ろした。

ζ(゚ー゚*ζ「さっきの人、キュートちゃんのお姉さん?
      すごく綺麗だった」

o川*゚□゚)o「うん。美人でしょー。とっても優しいの。
      ……最近、何だか苛々してるみたいだけど……。……あ、これこれ」

 キュートがベッドの上から一冊の本を拾い上げた。
 どうぞ、とデレに渡す。

183 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:36:56 ID:yruERiJ6O

ζ(゚ー゚*ζ(堂々クックル……やっぱり……)

 花柄のハードカバー。
 紺色のタイトルに、著者、堂々クックル。

 やっと見付けた。

o川*゚□゚)o「この本、どうかしたの?」

ζ(゚ー゚*ζ「んー、ちょっとね。
      なかなか手に入らない本だからさ、生で触ってみたくて」

 ありがとうと言ってキュートに本を返す。
 回収したところで、本はまたここへ戻ってきてしまうのだから意味が無い。

ζ(゚ー゚*ζ「……ねえ、キュートちゃん、明日の放課後って暇?」

o川*゚□゚)o「明日? えーと……今のところ予定は入ってないかな」

ζ(゚ー゚*ζ「そっか。じゃあさ、明日、私と一緒に行ってほしいところがあるんだけど――」

 図書館に行く約束を取り付ける。
 それから2、3時間ほど雑談をして、デレはマンションを後にした。



*****
185 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:38:40 ID:yruERiJ6O


 いつもより早い時間に登校したデレは、席に着いて、内藤と連絡をとった。
 キュートが本を持っていたことを話す。

『そうかお、本があったのかお』

ζ(゚、゚*ζ「今日の放課後、図書館に行きますね」

『よろしくおー。さっさと何とかしないと、キュートちゃんとやらが可哀相だおね。
 いじめられてしまっているわけだし』

ζ(゚、゚*ζ「そうなんですよね……」

『休み時間とかにはデレちゃんが傍にいてあげたらどうかお』

ζ(゚ー゚*ζ「勿論そのつもりです」

 教室に人が増えてきた。
 携帯電話を閉じて、ポケットに突っ込む。

 キュートが来たら挨拶をしようと思っていたのだが、
 結局、彼女が登校したのは遅刻ぎりぎりの時間だった。



*****

186 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:39:57 ID:yruERiJ6O


 授業もそっちのけで、デレはこれからの予定を立てた。

 まず放課後になったらキュートと共にVIP図書館へ行く。
 それからのことは……まあ、内藤に任せよう。

ζ(-、-*ζ(うん、そんな感じで)

 ――予定と言うにはあまりにも大雑把だが、とりあえず満足したらしく
 デレは目を閉じ、船を漕ぎ始めた。



 いつの間にか休み時間になっていた。
 授業の途中から寝続けていたデレは、ある人物の大声で目を覚ます。


     「――もうやだあっ!!」


ζ(-、゚;ζ「むおっ!?」


o川*;□;)o

 顔を上げると、髪をぐしゃぐしゃにしたキュートが泣きながら教室を出ていくのが見えた。
 反射的に窓際前方を注視する。

187 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:41:52 ID:yruERiJ6O

从 ゚∀从「あーあ」

 キュートの「元」友人達が、にやにや笑っていた。

 推測する。多分、デレが寝ている間にいじめが起きた。
 そしてキュートが我慢出来なくなって、逃げ出した。

ζ(゚、゚;ζ

 席を立つ。
 キュートに何か――声を、かけてあげなければ。



 キュートを探して校内を走り回る内に、チャイムが鳴った。
 もう、彼女は教室に戻っているかもしれない。

 だが。

ζ(゚、゚;ζ(まさか……)

 嫌な予感がして、デレは昇降口に向かった。
 1年A組の下駄箱の前に立つ。

188 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:44:28 ID:yruERiJ6O

 キュートの出席番号が書かれた場所。
 そこにあるのは。

ζ(゚、゚;ζ「……キュートちゃん……!」

 上履きのみ。

 デレは靴を履き替え、外に駆け出した。
 授業をサボることになるだとか、荷物を教室に置きっぱなしだとか、
 そんなこと、どうでもいい。

 キュートは外に行ってしまった筈。
 果たしてどこへ向かったのか。

ζ(゚、゚;ζ(やっぱ家かな!)

 マンションを目指しながら携帯電話を取り出す。
 発信履歴から内藤の番号へ。

ζ(゚、゚;ζ「……」

 ――しかし、呼び出し音さえも鳴ることはなかった。
 流れてくるのは、現在電波の届かないところに、なんて声。
 念のためもう一度かけたが、結果は同じ。

ζ(゚、゚;ζ「何でこんなときにっ!!」

 今度はVIP図書館の番号に発信した。
 ツンが出てくれるかもしれない。

189 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:45:21 ID:yruERiJ6O

 二度、三度、コール。

『――はい』

 不機嫌そうな声。
 ニュッだ。

ζ(゚、゚;ζ「……何だ、ニュッさんか……」

『ざけんな死ね』

ζ(゚、゚;ζ「ああ、待った! 切らないで!
      内藤さんかツンちゃんいませんか!?」

『兄ちゃんとツンなら本の手掛かりが見付かったからってどっか行った』

ζ(゚、゚;ζ「本? クックルさんの?」

『それとは別。夕方には帰ってくるっつってたが』

ζ(゚、゚;ζ「夕方……ううーっ、もう、こうなったらニュッさんでいいや!」

『何だその言い草死ね』

190 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:46:59 ID:yruERiJ6O

ζ(゚、゚;ζ「クックルさんの本を持ってる子がいたんです! 私のクラスメート!
      その子、可愛くて人気者だったんですけど、
      急にマスクで顔隠したりいじめられるようになったりしてっ」

『主人公にさせられたか』

ζ(゚、゚;ζ「そうみたいです!
      ……んで、今さっき、その子が泣きながら学校を出ていきまして!」

『……』

 不意に、沈黙。
 数秒置いて、ニュッの舌打ちが聞こえた。

『家に帰った筈だ』

ζ(゚、゚;ζ「そういう展開になってるんですか?」

『いじめに耐え兼ねて逃亡、帰宅。
 それから主人公は――』

ζ(゚、゚;ζ「主人公は!」

『自殺。未遂。
 瀕死の重体になって病院へ行き、そこで出会った少年に恋をする』

ζ(゚、゚;ζ「じっ……」

191 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:48:39 ID:yruERiJ6O

『ちょっと訊くが、いじめっ子は元から現実にいた奴か?』

ζ(゚、゚;ζ「……質問の意味を測りかねます」

『……お前の事件で言うところの、
 「追いかけてくる女」みたいな奴はいないかって訊いてんだ』

ζ(゚、゚;ζ「……」

『切るぞ』

ζ(゚、゚;ζ「だってだって、分かりませんって!」

『……いじめっ子役は、クラスメートが主人公にさせられるより前から
 現実に存在してた人間か?
 それとも、あの幽霊女みたいにいきなり現れたのか?』

ζ(゚、゚;ζ「……そういうことなら……、いじめっ子もクラスメートの人達でした!
      半年間同じ教室で一緒に授業受けてきたクラスメートです!」

192 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:49:40 ID:yruERiJ6O

『そうか。じゃあまだ「役者」が間に合ってんだな。
 何とかするなら今の内か』

ζ(゚、゚;ζ「話が見えません!」

『説明めんどくせえ』

ζ(゚、゚;ζ「ここまで来て!?」

『本に無理矢理表現させられる場合。
 ・基本的には現実世界に存在する人間や生き物を「役者」とし、演じさせている。
 ・だが、たまに、それだけじゃ間に合わなくなるときがある。
 ・そんなとき、本は自ら物語の中から登場人物を現実に送り出す』

ζ(゚、゚;ζ「め、面倒だからって3行でまとめてきやがった!
      しかもやっぱりよく分かんない!」

『役者が揃ってるときはまだ「演劇」の範囲内でいられるが、
 前回のように登場人物が現実にやって来てしまった場合、
 本の世界と現実がごっちゃになっちまう』

ζ(゚、゚;ζ

『……少しは自分で考えろ』

ζ(゚、゚;ζ「ご無体な」

193 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:51:00 ID:yruERiJ6O

 ――デレのときのように、とニュッは言う。

 あの不気味な女は、物語の中から出てきた存在だった。らしい。
 きっと、現実で演じられる者がいなかったのだ。
 (たしかに考えてみれば、他人からは不可視、
 かつ仕事を終えたら消滅出来る人間なんて存在しない)

 そして、それにより本の世界と現実が混ざってしまったそうだ。
 ……そもそも混ざるとはどういう意味なのか。

 混ざる。
 以前、ツンも言っていた。

ζ(゚、゚;ζ「……本の中の展開が、現実でもその通りに行われなければならなくなる……?」

『そう』

 あのとき。
 貞子が結末を書き加えなかったら――デレは、展開通り、殺されていた。

ζ(゚、゚;ζ「じゃあ、私の、あれって……現実に女役をやれる人がいたなら」

『役者がいたら、あくまで「演劇」の域を出なかったからな。
 殺される演技をするだけで済んでたんだ』

194 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:53:26 ID:yruERiJ6O

ζ(゚、゚;ζ「でも役者がいなかった。だから本から女が出てきた。
      ……本と現実が混ざったから、私は本当に殺されそうになった……?」

『理解が遅い死ね』

ζ(゚、゚;ζ「すいませんね頭悪くて。
      でもニュッさんの説明も分かりづらいですからね?」

 現在、キュートの周りに架空の存在は現れていない、筈。
 まだ「演劇」の範疇。

 だが、今にでも本の中から登場人物がやって来たら、
 演劇は現実の出来事へと変わってしまう。

『あの話、途中、いじめっ子が事故に遭うシーンがあるんだ』

ζ(゚、゚;ζ「マジか」

『現実と混ざる前に、演劇としてさっさと終わらせた方がいい』

ζ(゚、゚;ζ「わ、分かりました!」

『……えー、っと。……とりあえず俺とクックルも行く。
 俺らで演じて終わらせる』

ζ(゚、゚;ζ「是非ともそうしましょう」

195 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:54:26 ID:yruERiJ6O

『その主人公の家はどこだ』

ζ(゚、゚;ζ「はい! えっと、」

 デレの足が。
 止まる。

ζ(゚、゚;ζ

『おい』

ζ(゚、゚;ζ「すみません」

『あ?』

ζ(゚、゚;ζ「迷いました」

『死ね』



*****

196 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:56:20 ID:yruERiJ6O



o川*;□;)o

 自室の真ん中に座り込んで、キュートはひたすら泣いていた。


 どうして自分がこんな目に遭っているのか。
 どうしていじめられなくてはいけないのか。

 ああ。

 いっそ死んでしまいたい。


 キュートはマスクを外し、鏡を見た。
 はっと息を飲み、顔を両手で覆う。

o川*  )o「……酷くなってる……」

 絶望。焦燥。
 ふと机に目を向ける。

 きらり、明かりを反射したもの――カッターナイフを手に取り、
 キュートはじっと固まった。

197 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:59:44 ID:yruERiJ6O



o川*  )o

 死んでしまいたい――



*****



 ニュッの話を理解するのに必死で、すっかり迷ってしまった。
 見覚えのない建物が並んでいる。

ζ(゚ー゚;ζ「え、えへっ☆ デレちゃん失敗☆」

『何も誤魔化せてねえよ阿呆』

ζ(゚、゚;ζ「ごめんなさい……ええと、あの子、マンションに住んでました。
      あれ、あの、んっと、見た目茶色くて……」

『ヴィプマンション』

ζ(゚、゚;ζ「そうそうそれそれ! そこの302号室!」

198 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:01:28 ID:ZKOT5IPkO

『今、お前の近くに何がある』

ζ(゚、゚;ζ「し……シベリア書店? 小さいお店。
      本屋さんでしょうか。でしょうね。向かって右側に」

『ああ……そう。じゃあ真っ直ぐ行って、突き当たりを左。そっから――』

 ニュッの言う道順を頭に叩き込み、デレは再び足を動かした。
 先日の事件のおかげで、多少足腰も鍛えられている。

 少し行くと、見慣れた道に出た。

ζ(゚ー゚;ζ「ここからなら分かります!」

『んじゃあ俺らもそっち行く』

 ぷつん。通話が切れる。

 そういえば、こんなに長くニュッと会話したのは初めてだ。

ζ(゚、゚*ζ

 意識した途端、さっきまでニュッの声が注ぎ込まれ続けていた左耳が、
 何だか無性に気になり出す。

 不可解な熱を持ち始めた耳を、ぐいと力を込めて押さえた。


*****

199 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:02:36 ID:ZKOT5IPkO



 茶色い建物。
 ヴィプマンション。

 デレはマンションに入ると、右奥の階段を駆け登った。
 エレベーターを待つのも惜しい。

 キュートが住んでいるのは302号室。
 3階に到着する。
 足が縺れそうになったが、気合いで踏み込み、何とか体勢を直した。

 ラストスパートだ。
 302号室の前まで走り、伸ばした手がインターホンに触れ――


川 ゚ -゚)「よいしょ」


ζ(+д+;ζ「あんぎゃあ!!」


 ――る寸前。
 開いたドアに、顔面を強かに打ちつけた。

200 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:03:49 ID:ZKOT5IPkO

川;゚ -゚)「うわ、何だ何だ?」

ζ(;、;*ζ

川 ゚ -゚)「おっと、君はたしか……長岡さんだっけか。すまない」

ζ(ぅ、;*ζ「ひゃい……」

川 ゚ -゚)「キュートに用か? 上がっていくかい」

ζ(゚、゚;ζ「! じゃあ、キュートちゃんいるんですね!」

川 ゚ -゚)「ああ。今日は、もう学校が終わったんだろう?
     羨ましいな、私は今から大学だ」

ζ(゚、゚;ζ「え……っと、はい、まあそういうことです」

川 ゚ -゚)「本当は今日は午後からだけどな。
     あいつが帰ってきてしまったから、もう出ることにしたよ」

ζ(゚、゚;ζ「――はい?」

川 ゚ -゚)「一緒にいたくないんだ、あいつと」

ζ(゚、゚;ζ「……お姉さん……?」

201 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:06:16 ID:ZKOT5IPkO

川 ゚ -゚)「あれと仲良くするなんて、君も物好きだな。気持ち悪くならないのか?」

ζ(゚、゚;ζ「なっ、何言って……!」

 はたと思い当たって、デレは自分の口を手で塞いだ。

 たしか、主人公は家族からも馬鹿にされている。
 これは本の仕業だ。

川 ゚ -゚)「それじゃあ行ってくる」

ζ(゚、゚;ζ「は、はい……行ってらっしゃいませ」

 キュートの姉がエレベーターへ歩いていく。
 その背中を見送った後、デレはすぐに室内に飛び込んだ。

 お邪魔します、と大声で言って、靴を放るように脱ぎ捨てる。
 誰の返事も無い。どうやら今はキュートしかいないようだ。
 両親が共働きなのか、あるいは姉と2人暮らしなのか。

ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん!」

 キュートの部屋がある奥へと進む。

 かたん、物音。

ζ(゚、゚;ζ「いるんでしょ、キュートちゃん!」

202 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:07:53 ID:ZKOT5IPkO

     「……デレちゃん……?」

ζ(゚、゚;ζ(良かった、無事っぽい)

 「キュート」と書かれた可愛らしい札が下がったドア。
 ノブを引いてみたが、びくりともしない。

 こんこんと、軽くノックをする。

ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん、開けて」

     「……やだ……」

ζ(゚、゚;ζ「どうして?」

     「……帰って」

ζ(゚、゚;ζ「ねえ――」

     「帰って!!」

ζ(゚、゚;ζ「!」

 向こう側から、重たいものがドアにぶつかる音と衝撃が響いた。
 何かを投げつけたのだろう。

203 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:08:36 ID:ZKOT5IPkO

     「帰ってってばあ!!」

 震える声。泣いている?

ζ(゚、゚;ζ「……」

ζ(゚、゚;ζ「私が、帰ったら」

ζ(゚、゚;ζ「……何をするつもり?」

 キュートが黙り込む。
 ぞくり、デレの背筋に冷たいものが走った。

 離れては駄目だ。
 デレがここから去ったら、きっとキュートは――

ζ(゚、゚;ζ「――キュートちゃんったら。出てきて。ドア開けてよ」

     「絶対開けない……」

ζ(゚、゚;ζ「……」

     「……」

ζ(゚、゚;ζ「開けて……大丈夫、何も恐いことないから」

204 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:10:24 ID:ZKOT5IPkO

     「――顔……」

ζ(゚、゚;ζ「顔?」

     「顔が、ひどい、の」

     「最近はマスクで隠してたけど……わ、私の顔……な、何か、変なの……」

     「急におかしくなったの。何で? ちょっと夜更かししただけなのに。
      何で、こんな……!」

ζ(゚、゚;ζ「それは……」

     「何でこうなっちゃったの!?
      私の顔! あんなに可愛かった顔!!」

ζ(゚、゚;ζ

     「綺麗で、肌もすべすべしてたのに! とってもとっても可愛かったのに!
      一番、……誰よりも可愛かったのに!
      こんなに変わっちゃったら、私、私……やだ、嫌ぁっ!!」

ζ(゚、゚;ζ(本性出とるでえ……)

     「……だ、だから、みんな、私をいじめるんだ……。
      デレちゃんだってそうなんでしょ!?」

ζ(゚、゚;ζ「え?」

205 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:12:33 ID:ZKOT5IPkO

     「私が、ぶ……ぶ、ブスになったから、馬鹿にしてるんでしょ!?
      私を笑いに来たんだ! 帰れ! 帰れえっ!!」

ζ(゚、゚;ζ「ち、違……っ」

     「ああ、やだあ、やだ、やだ、もうやだ……」


 数秒の静寂。

 そして、
 キュートの呟きが、零れた。


     「……死にたい……」


ζ(゚、゚;ζ「――!」


 絞り出すような声だった。
 デレの胸が、鋭い何かで突き刺されたような痛みを訴える。

 キュートの言葉が。声が。
 あまりに悲痛で。

206 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:13:55 ID:ZKOT5IPkO


 死なせてやった方がいいかもしれないなと、デレは目を伏せた。

 そうだ、帰ろう。
 自分には何も出来ない。
 全てキュートの好きにさせてやろう。

 きっとそれが、一番いい。


ζ( 、 *ζ





      「なら死ね」



 ――声が、デレの耳に捩込まれた。



ζ(゚、゚;ζ「ふえっ!?」

( ^ν^)「……と、……言いたい、ところだが……」

( ゚∋゚)「それは、今は洒落にならないな」

207 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:16:31 ID:ZKOT5IPkO

 気付かぬ内に、ニュッとクックルがデレの後ろに立っていた。
 平常通りのクックルに対し、ニュッは肩で息をしている。

ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん、クックルさん……随分と、お速い到着で」

( ^ν^)「……タクシー、使った……」

( ゚∋゚)「こいつ階段上っただけで疲れてるんだ」

ζ(゚、゚;ζ(貧弱ー)

ζ(゚、゚;ζ「……って何で部屋まで分かったんですか?」

( ^ν^)「てめえが電話で302号室っつったんだろボケカス」

( ゚∋゚)「鍵が開いてたから勝手に上がったぞ。
     ……それで、主人公は、この部屋の中か」

 とん。
 クックルの大きな手が、ドアを叩く。

     「……誰……?」

 キュートの声は怯えきっていた。
 全く知らぬ男の声が2人分も聞こえれば恐がりもしよう。

208 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:19:00 ID:ZKOT5IPkO

 デレはキュートに話しかけるつもりで口を開いた。
 だが、結局言葉は紡がれずに終わる。

ζ(゚、゚;ζ(……私、さっき……)

 考えるのは、つい先程の自分の思考。

 何故キュートを死なせてやろうなどと思ったのだ。
 そんなこと、あってはならないのに。

ζ(゚、゚;ζ

 ぞっとする。

 恐らく、あれも本がやったこと。
 デレがいては、キュートの自殺――未遂――が止められるかもしれない。

 それを防ぐため、デレを帰らせようとした。

 ニュッ達が来なければ、今頃デレは部屋を離れていて、キュートは。

209 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:19:47 ID:ZKOT5IPkO

( ゚∋゚)「おーい、開けてくれ」

     「で、デレちゃん、誰なの? 誰が来たの!?」

ζ(゚、゚;ζ「えっ、あ、いや、私の知り合い」

     「……私を、いじめに来たの?」

ζ(゚、゚;ζ「! そ、そんなことない!」

( ゚∋゚)「寧ろ助けに来たんだが」

     「嘘つき……」

( ^ν^)「……状況は」

ζ(゚、゚;ζ「えっと……顔が変わっちゃったって、閉じこもってて……死にたいとか何とか」

( ゚∋゚)「……死ぬとかは一旦置いといて、ちょっと俺らを部屋に入れてくれないか」

     「やだ……」

( ゚∋゚)「やだじゃない」

     「やだってばあ! ……こんな顔、人に見せらんない……」

210 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:21:42 ID:ZKOT5IPkO

( ゚∋゚)「それをどうにかしてやるから――」

     「どうにかって何!? あんた、外科医か何かなわけ!?
      整形でもしてくれるつもりなの!?」

( ゚∋゚)「そうじゃないが、治すことは出来る」

     「……あははっ、馬鹿じゃないの。意味分かんない。からかいに来たの?」

( ゚∋゚)「……開けろ」

     「やだって言ってるでしょ!!」

(#゚∋゚)「開けろって言ってるだろう!!」

 怒鳴り声。
 とんでもない迫力だ。
 思わず、デレはニュッに縋りつく。

     「っ……」

(#゚∋゚)「詳しくは説明出来ないが、俺達なら治せるんだ!
     ……信じるにしろ信じないにしろ、ここを開けなきゃ始まらないだろうが!」

211 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:23:11 ID:ZKOT5IPkO

     「そうやって開けさせて、私を見たら笑うんだ!!」

(#゚∋゚)「笑うものか!」

     「笑うに決まってる!!」

(#゚∋゚)「――っ、いいか、聞け!」

ζ(゚、゚;ζ(恐い恐い恐い)

( ^ν^)(帰って本読みてえ)

(#゚∋゚)「お前がそうなってる原因は、俺だ!!」

     「……は……?」

(#゚∋゚)「だから俺は対処法を知ってる! 少し時間がありゃ、すぐ治るんだよ!!」

     「……分かんない、……分かんない!」

 ちきちき。甲高い音。
 まるで、カッターの刃を出すような。

ζ(゚、゚;ζ「……!」

(#゚∋゚)「分からなくていい、俺に任せろ」

     「治らなかったらどうするって言うのよ!
      私、あんたなんか信用しないからね! 絶対――」

212 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:25:05 ID:ZKOT5IPkO

(#゚∋゚)「ああ、万が一治らなかったら!!」


 クックルが、一歩引いた。

 ――それからの一瞬が、デレにはスローモーションに見えた。

 クックルが左足で踏み締める。
 右足を曲げ、持ち上げて。
 僅かに上体を後ろに反らせ。



(#゚∋゚)「俺が責任とってやらぁああああああああああ!!」



 ドアを、蹴破った。



ζ(゚、゚;ζ「人様の家ぇええええええ!!」

( ^ν^)「修理代は兄ちゃんが出すだろ」

213 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:28:09 ID:ZKOT5IPkO

 本来の居場所から強引に弾き出されたドアは、
 勢いをそのままに、室内に倒れ込んだ。

 それを踏み越えてクックルが部屋へ入る。
 よく見ると土足だ。
 何からつっこめばいいのやら。デレは考えるのをやめた。


( ゚∋゚)「おい」

o川   )o


 キュートは、部屋の隅で丸まっていた。
 傍らにカッターと鏡が落ちていたが、血などは付いていない。

( ゚∋゚)「こっち向け」

 デレ達には背を向けているため、キュートの顔が見えないでいる。
 クックルの声に、キュートは首を緩く振った。

214 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:29:06 ID:ZKOT5IPkO

o川   )o「……やだ……」

( ゚∋゚)「向かい合って、ちゃんと演じないと終わらせられないんだ」

o川   )o「演じるって何……」

( ゚∋゚)「……まあそれはともかく。
     なあ、絶対に笑わないから、顔を見せてくれ」

o川   )o「……」

( ゚∋゚)「おーい」

o川   )o「こんなの、見せらんない……」

( ゚∋゚)「大丈夫だ」

o川   )o「大丈夫じゃないもん」

( ゚∋゚)「……」

 深い溜め息をついて、クックルはキュートの肩に手を置いた。
 無理矢理振り向かせるためではなく、宥めるために。

215 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:30:55 ID:ZKOT5IPkO

( ゚∋゚)「一時の恥だ。……そもそも俺はお前の元の顔を知らない。
     比較も出来ない」

o川   )o

( ゚∋゚)「な」

 ぽん、と、肩に乗せたのとは逆の手でキュートの頭を軽く叩いた。
 彼の手なら、キュートの小さな頭ぐらい簡単に掴んで持ち上げられそうだ。

o川   )o

 ふるり。キュートの肩が震える。
 ぐすり。鼻を啜る。

ζ(゚、゚;ζ

 こんなに嫌がるとは、どれだけ顔が変わってしまっているのだろう。
 見るのが恐い。
 だが、デレは目を離せなかった。

 そして――キュートが、ゆっくりと振り返る。

216 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:32:42 ID:ZKOT5IPkO



o川*;−;)o「ひーん……」



 あらわになったキュートの顔。
 真っ白ですべすべだった頬に、そばかすが出来ていた。



ζ(゚、゚*ζ


ζ(゚、゚*ζ「え、それだけ?」


 それだけである。

217 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:34:45 ID:ZKOT5IPkO

o川*;−;)o「『それだけ』? 『それだけ』って何さ!」

ζ(゚、゚;ζ「いやー、だって……あんなに頑なだったから、
      もっと、こう、酷いもんだと」

o川*;−;)o「酷いじゃない! あんなに真っ白だったのに!!
      それにほら、ここにはニキビまで!
      あああ! 肌も触ればがさがさするし!」

ζ(゚、゚;ζ「言われないと気付かないレベルだけど」

o川*;−;)o「私の顔には可愛い眉と可愛い目と可愛い鼻と可愛い口が付いてればいいの!
      肌荒れや吹き出物やそばかすなんていらないのおおお!!」

 突っ伏して、おいおいと号泣する。
 こんなときに何と言えば正解なのか、デレにはさっぱりだ。

ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん何か言ってあげて」

( ^ν^)「うんこしてえ」

o川*;−;)o「部屋出て左側がトイレじゃボケェエエエ!!」

 こいつ頭おかしいんじゃねえのかとデレは本気で思った。今更である。
 ニュッはおとなしくトイレに向かった。
 本当にうんこがしたかったのか、慰めるのが面倒だったのかは定かでない。
 高確率で後者だろうが。

218 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:36:21 ID:ZKOT5IPkO

 部屋に残ったのは、依然として泣きじゃくるキュート、おろおろするデレ、
 無言でキュートを見下ろすクックルの3人。
 不意に、クックルが動いた。

( ゚∋゚)「おい」

o川*;−;)o「……何……」

( ゚∋゚)「本を出せ。今からお前の顔を元に戻してやる」

o川*;−;)o「本?」

( ゚∋゚)「俺の――堂々クックルの本だよ」

o川*;−;)o

o川*;−;)o「え」

 キュートはぐしぐしと目元を擦り、涙を拭い取った。
 クリアになった視界でクックルを見る。
 顔、体、顔、体、と交互に眺めて。

 がくり、顎が下がった。

o川;゚д゚)o「ええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

( ^ν^)「うるせえ」

ζ(゚、゚;ζ「あ、ニュッさん。早いですね。快便でしたか」

219 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:38:05 ID:ZKOT5IPkO

 丁度戻ってきたニュッが、文句を言いながらデレの傍に寄る。
 そして、

( ^ν^) ゴシゴシ

ζ(゚、゚*ζ

 洗いたての濡れた手を、デレのスカートで拭った。

ζ(゚д゚;ζ「ぎゃああああああああ何してんだお前!!」

o川;゚д゚)o「えええええええええええあんたが堂々クックル!?
      あの小説の!? 恋愛小説の!?」

( ^ν^)「喉渇いた何か飲みてえ」

o川;゚д゚)o「部屋出て真っすぐ行って右側がリビングじゃあああ!
      冷蔵庫に入ってるジュース勝手に飲めボケェエエエエエエ!!」

ζ(゚д゚;ζ「私のスカートで手を拭くな! あと空気読め! 遠慮しろ!!」

 ニュッが振り返り、リビングへ歩いていく。
 1人でうろちょろさせるのもどうかと思い、デレは彼の後を追った。

220 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:38:59 ID:ZKOT5IPkO


 リビングに入る。
 ニュッは部屋の中央にあったソファに腰掛けると、ぐったり、背もたれに寄りかかった。

ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん?」

 飲み物はいらないのかとデレが訊ねるが、返答無し。
 もはや無視されるのも慣れてきた。
 失礼しますと呟き、デレはニュッの隣に腰を下ろした。

ζ(゚、゚;ζ「どうしたんですか、さっきから。何かそわそわして」

(^ν^ )「……」ハァ

ζ(゚、゚#ζ

 顔を背け、露骨に溜め息。
 殴ってやろうかとデレは拳を固めたが、さすがにそれは駄目だ。
 ぺちん。拳をニュッの頬に軽く当てるだけに留めた。
 ニュッがデレを睨みつける。

 ――そっと、デレの手にニュッが掌を重ねた。
 デレの心臓が、どくんと跳ねる。

221 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:40:46 ID:ZKOT5IPkO

( ^ν^)

ζ(゚、゚*ζ

( ^ν^) グリン

ζ(゚д゚;ζ「あっ痛い痛い痛い痛い痛い痛いごめんなさい!!」

 思いっきり捻り上げられた。

 解放された手首を擦りながら、デレは狭いソファの上、
 目一杯ニュッと距離をとる。

ζ(゚、゚;ζ「いったー……」

( ^ν^)「……帰りてえ」

ζ(゚、゚;ζ「……駄目ですよ。今から『演じる』んでしょう?」

( ^ν^)「だから帰りたい」

ζ(゚、゚;ζ「面倒なんですか? もう……」

 ――いや、それが嫌だったなら、そもそもここまで来ない。
 デレは首を傾げた。
 トイレに行きたいだの喉が渇いただの帰りたいだの、
 思えば急に落ち着きがなくなったものだ。

ζ(゚、゚;ζ(この人は本当に分かんない……)

222 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:42:07 ID:ZKOT5IPkO


 同時刻。キュートの部屋。
 キュートはクックルを指差したまま、ぱくぱくと口を開閉した。

( ゚∋゚)「それはどういったリアクションだ」

o川;゚д゚)o「く、クックル……? あんな繊細なお話を書いたのが、あんたなの……?」

( ゚∋゚)「そうだが」

o川;゚д゚)o「あんな綺麗な話を! ゴリマッチョなあんたが!?」

( ゚∋゚)「ゴリマッチョがロマンチストで何が悪い」

o川;゚−゚)o「悪い! ああ、崩れる、私の中の優雅なクックル先生像が崩れてく……」

( ゚∋゚)「……ともかく、だ。本を貸してくれ」

o川;゚−゚)o「うう……ごついよー、大きいよー」

 本棚から花柄の本を引っ張り出しながらぼやくキュートを尻目に、
 クックルは物語の内容を反芻した。

 登場人物を数え、指を折る。
 たった4人で演じるとなると、1人何役とやらなければならないが
 まあ何とかなるだろう。

223 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:44:39 ID:ZKOT5IPkO

o川;゚−゚)o「はい」

( ゚∋゚)「ああ」

 本が手渡される。
 これと私の顔に何の関係があるの、と問うキュートに、
 分からなくていい、とクックルは投げやりに答えた。

 キュートが頬を膨らませる。

o川#゚−゚)o「さっきから、さっぱり分かんない」

( ゚∋゚)「日常ってのは、知らないことが多いほど平和なもんさ」

 ニュッとデレを呼びに行くため立ち上がったクックルは、
 ドア――があった場所――の前で足を止めた。
 後ろ、キュートに振り向く。

( ゚∋゚)「そういや」

o川#゚−゚)o「何よ?」

224 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:46:36 ID:ZKOT5IPkO


( ゚∋゚)「お前、その顔でも充分可愛いぞ」


o川*゚−゚)o

o川*゚−゚)o「ば」

( ゚∋゚)「ん?」

o川*゚−゚)o「……馬鹿じゃないの」


 ブスだと友人達にいじめられた。
 クラスメート達にひそひそと陰口を叩かれた。
 気持ちが悪い、家にいられると不愉快だと姉に罵られた。


o川*゚−;)o

o川*;−;)o


 久しぶりに。
 可愛いと、赤の他人に言ってもらえた。



*****

225 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:47:36 ID:ZKOT5IPkO



 早口かつ棒読みの台詞が飛び交う、だいぶ雑な「演劇」が終了すると、
 キュートの顔はたちまち元通りとなった。

 直後、キュートの携帯電話にメールや電話が届く。
 姉や友人達からのもので、内容は謝罪ばかり。
 誰もが、「何故か苛々していた」と言っていた。

 気味悪がることもなく、魔法なのかと目を輝かせたキュートに一応の口止めをして
 デレ達は素直家を後にした。

 ぶち壊したドアの修理代に関しては、ここに請求しろと内藤の番号を教えておいて。



 日が暮れかけている。
 気温は少しばかり低い。

 3人は、マンションの前でタクシーを待っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「良かったですね、無事に本を回収出来て。
      ……こう言っては何ですが、
      あんな低クオリティな劇で、よく本が満足しましたね」

( ゚∋゚)「いつもこんな感じだ。表現さえしてもらえればそれでいいんだろうさ。
     ……ああ、後で館長に怒られるだろうな、ドアのこと」

226 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:48:21 ID:ZKOT5IPkO

 片手に持った本を見下ろし、クックルが溜め息をつく。
 だが、あのとき彼がドアを壊さなければ、
 キュートはいずれカッターで手首を切りつけていた。
 ああするしかなかったのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「クックルさんは人助けをしたんだし、ポジティブに考えましょうよ」

ζ(゚ー゚*ζ「……ところで」

( ^ν^)「……」

 クックルの隣。怠そうにしゃがみ込んでいるニュッに視線を送り、
 デレは首を傾げた。

ζ(゚、゚*ζ「ニュッさんどうしたんです」

 先程から、ニュッの様子がおかしい。
 いつもおかしいと言えばおかしいのだが、今日は特に変だ。
 「演劇」を終えた際も、いの一番に小走りでキュートの部屋を出ていたし。
 まるで逃げるように。

( ゚∋゚)「ああ、それな。それもいつも通りだ」

ζ(゚、゚*ζ「ですか?」

227 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:49:47 ID:ZKOT5IPkO

( ゚∋゚)「女が苦手なんだよ。特に美人さんが。
     あの……キュートっつったか。かなり可愛かったろ」

 デレが、きょとんとする。
 クックルとニュッ、マンションを順に見渡し――


ζ(゚ー゚*ζ「ぶふっ」


 吹き出した。

( ^ν^)「2人共死ね」

ζ(゚ー゚*ζ「ああ、そういう……だからトイレとかリビングとかに逃げたんですね」

 「演劇」で、ニュッは美少年役を任された。
 一体どんな心境で臨んでいたのかと考えると、おかしくてたまらなくなってくる。

 何より、弱点らしきものを見付けられたのが嬉しい。

ζ(゚ー゚*ζ「……w」

ζ(゚ー゚*ζ「wwwww」

ζ(;ー;*ζ「www内藤さんはwwwwwwww女の子好きなのにwwwww
      ニュッさんwwwwwwwwwwニュッwwwwさんwwwwwwwwwww」

(;゚∋゚)(笑いすぎだろ)

228 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:53:19 ID:ZKOT5IPkO

ζ(;ー;*ζ「wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

ζ(゚、゚*ζ「おいちょっと待て」

(;゚∋゚)「うわびっくりした」

ζ(゚、゚*ζ「私と初対面のときなんか最初はたしかに避けられましたけどね?
      ほんの数時間後にはこんな調子でしたよ?
      口つけた紅茶飲まれもしましたよ?」

( ゚∋゚)「へえ、珍しいな」

ζ(゚、゚*ζ「これってどういう意味ですか」

( ^ν^)「可愛くねえってことだよ言わせんな愚かしい」

ζ(゚、゚#ζ「な、内藤さんいわく私美少女ですしおすし」

( ^ν^)「兄ちゃんは大体誰にでもそう言うんだよバーカ」

ζ(゚皿゚#ζ「むがー!!」

 デレがニュッに掴みかかる。
 ぎゃあぎゃあと取っ組み合いの喧嘩を始めた2人を眺めながら、
 クックルは呆れたように笑った。

( ゚∋゚)「仲良いな」

( ^ν^)「どこが」ζ(゚皿゚#ζ

229 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:55:14 ID:ZKOT5IPkO

*****



 次の日、夕方。


o川*゚−゚)o「ん」

( ゚∋゚)「……何だ、これ?」

ζ(゚ー゚*ζ「チョコレートですよ」


 キュートを引き連れて、デレはVIP図書館を訪れた。

 事前にデレが図書館に電話をかけ、クックルに用事がある旨を伝えていたのだが、
 クックルはてっきりデレから自分に話があるのだと思い込んでいた。

 しかし出迎えてみれば、本当に用があったのはキュート。

 何でも、昨日のことについて礼がしたかったのだという。

o川*゚−゚)o「……デレちゃんから、あなた、チョコが好きだって聞いたから。
      さっき、駅前のお菓子屋さんで買ってきたの」

ζ(゚ー゚*ζ「美味しいって評判のやつですって」

( ゚∋゚)「そうか。ありがとうな」

230 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:56:19 ID:ZKOT5IPkO

 上がっていけとクックルが招く。
 キュートは少し躊躇っていたが、デレが意気揚々とクックルについていくので
 恐々、足を踏み入れた。





(*^ω^)

 にこにこ笑いながら、内藤は向かいに座るキュートを眺め回した。
 何度も可愛い可愛いと呟いては、隣のツンに殴られている。

 テーブルを囲むのは、デレ、キュート、内藤、ツン、クックルの5人。
 クックルが入れたミルクティーと、キュートの持参したチョコレートが今日のお供だ。

ξ゚听)ξ「いじめの方は、どうなったの?」

o川*゚ー゚)o「何か、みんなに土下座されました。
      本当に反省してるみたいだったし、許しましたよ」

231 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:57:42 ID:ZKOT5IPkO

ξ゚听)ξ「そう。良かったわね。部屋のドアは?」

o川*゚ー゚)o「今日のお昼に直しに来てもらうことになってたから……もう直ってるかな」

(*^ω^)「こんな子の部屋のドアなら、いくらでも修理費用出してあげるおー」

o川*゚ー゚)o「ありがとうございますっ!」

(*∩ω∩)「あっ可愛い! 可愛すぎて目が! あまりの可愛さに目が潰れちゃう!」

ξ゚听)ξ「潰れちゃえばいいのに」

(*^ω^)「んっふふ、勿論一番可愛いのはツンたんだお。
       だからヤキモチなんか妬かないで」

ξ゚听)ξ「気持ち悪い」

( ^ω^)「シンプルな罵倒はなかなか心にくる」

232 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:59:14 ID:ZKOT5IPkO

ζ(゚、゚*ζ「……クックルさん、ニュッさんは?」

( ゚∋゚)「こいつ見た瞬間に2階に逃げた」

o川#゚д゚)o「『こいつ』呼ばわりするな!」

( ゚∋゚)「じゃあキュート」

o川#゚д゚)o「キュッ……」

o川*゚−゚)o

o川;*゚−゚)o

 頬を真っ赤にし、唇を噛み締めて、キュートはそっぽを向いた。
 口の中で「馴れ馴れしい」と呟いたが、クックルには到底聞こえぬ小ささ。
 呼ぶのをやめろとは言わない。

 その様子に、もしや、とデレは乙女の勘を発揮する。

 というか乙女でなくとも誰でも分かる。

233 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 01:01:02 ID:ZKOT5IPkO

( ;ω;)「……うわああああっ!
       ちっくしょおおお、昨日出掛けてなければ、
       僕とキュートちゃんにフラグが立ってたかもしれないのにぃいいいいっ!!」

o川;*゚−゚)o「ふ、フラグなんか、そもそも立たないしっ! 立ってないし!!」

ξ゚听)ξ「立ってるように見えるけれど」

o川;*゚д゚)o「な、なな、なに、誰がこんなむさ苦しいマッチョ野郎に!!
       私の好みはこいつとは真逆だしね! 細くて格好よくて――」

ξ゚听)ξ「私は別にクックルのことだとは言ってないわよ」

o川;*゚д゚)o「わああああああああああああああ!!」

ζ(゚ー゚;ζ「キュートちゃん、落ち着いて落ち着いて……」

234 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 01:01:46 ID:ZKOT5IPkO

 ――分かっていないのは、

( ゚∋゚)「?」

 恋愛小説を好むくせに鈍いことこの上ない、クックルだけである。





第二話 終わり

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