- 835 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:05:43 ID:7KP.TRzkO
川д川『笑ってみて……』
ξ゚听)ξ『……』
川д川『……にこりとも出来ないの……?』
ハハ ロ -ロ)ハ『ブーンのせいデスネ。とっちめてきマス』
(;゚∋゚)『待て待て』
ツンが表情を変えなくなったことに対し、皆、すぐに違和感を覚えたようだった。
内藤とニュッは触れるのを避けたが、作家達は進んで反応を示してくれた。
原因についても気付いているらしく、一様に慰め顔で声をかける。
川д川『私達は、ツンが悪いとは思ってないからね……』
(´・_ゝ・`)『そうだよ。気に病んじゃ駄目だ』
ξ゚听)ξ『……うん』
どれが彼らの本音なのか、判別出来ない。
死にたいという衝動は、徐々に、なりを潜めていく。
ただ、居心地の悪さは消えやしない。
何もかも誤魔化して、やり過ごして、時間ばかりが積み上がる。
少しの刺激で崩れてしまいそうな、飴細工のように不安定な日々。
- 836 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:06:22 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚ー゚*ζ
果たして、それは、崩された。
.
- 837 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:07:22 ID:7KP.TRzkO
最終話 あな愛しや、ファンタジー小説・後編
.
- 838 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:09:01 ID:7KP.TRzkO
長い絨毯や巨大な本棚など、1号館と2号館の内装には大差がなかった。
目に見えて分かる違いといえば、明るさと、照明の色くらいなものだ。
絨毯の色合いの深さとは対称的に、ふんわりと注がれる薄緑の光。
遠く前方には扉がある。
そして。
(*・∀・)「2号館の司書です、以後お見知りおきを!」
元気いっぱいに頭を下げる和服姿の男、茂等モララー。
彼は顔を上げると、4人と順番に握手していった。
弾けんばかりの笑顔だ。
(´・ω・`)「2号館はモララーか」
( ・∀・)「もららー?」
(´・ω・`)「ああ、いや、何でもないよ」
モララーは、ショボンが口にした己の名前に首を傾げた。
貞子同様「なりきっている」ようだ。
- 839 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:10:07 ID:7KP.TRzkO
o川*゚ー゚)o「相変わらずイケメンだ……」
(*・∀・)「それで、どんな本にする?
お客様の要望には出来る限り応えるよ!」
ζ(゚、゚*ζ「いえ、その……ひ、人を」
(*・∀・)「この2号館はね、愉快で、ほのぼのとした本がいっぱいあるんだ。
中には一部例外もあるけど、それも一興!」
ζ(゚、゚;ζ「……すみません、聞いてます?」
流されてばかりだった自分を反省し、今度はデレの方から話を進めてみようとしたが。
モララーは腕を広げ、天井を見上げて大仰な仕草で一回転してみせた。
鬱陶しい。
(*・∀・)「数十、いや数百年も前の時代が舞台ってのも特色の一つかな。
いいと思わない? え、昔なんて不便なだけだって? とんでもない!」
ζ(゚、゚;ζ「……何か、いつにも増してテンション高くないですか」
( ^ν^)「ツンがこの話を書いたとき、俺もモララーも
9歳だか10歳だか、そんぐらいだったからな」
ζ(゚、゚;ζ「ああ、当時のテンションなんですね……。
今以上に落ち着きなかったんだ……」
(*・∀・)「何もかもが発展してしまった現代に比べたら、
たしかに不自由に思えるかもしれないね。
だけど! それ故に得られるものが数多くある筈!」
o川;゚ー゚)o「わっ」
手近なところにいたせいか、キュートにモララーが詰め寄った。
美男美女が至近距離で見つめ合う光景、何というか、異様にきらきらして目のやり場に困る。
キュートの肩に掛けられた鞄が、ずるりとずり落ちた。
- 840 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:11:21 ID:7KP.TRzkO
(*・∀・)「不自由の中の自由、素晴らしいことじゃないか! ね? ね?」
o川;゚ー゚)o「私に言われましても……」
(´・ω・`)「そんなもん、今はどうだっていいんだよ」
(;・∀・)「ぐえっ!」
ついに痺れを切らしたようで、ショボンがモララーの襟を引っ張った。
モララーは首を押さえ、涙目で咳き込む。
(;・∀・)「どうでもいいって」
ζ(゚、゚*ζ「人を探しに来たんです」
( ・∀・)「えー、人探し?」
ζ(゚、゚*ζ「ツンちゃんと内藤さん――じゃなくて、」
o川*゚ー゚)o「魔女と人間の2人組を知りませんか?」
ζ(゚、゚;ζ「そ、それ、それです」
( ・∀・)「……ああ、来た来た。
すぐに3号館に行っちゃったけどね」
つまらなそうに言って、モララーは襟元を直した。
あっち、と向こうの扉の方へ顎をしゃくる。
ニュッは「ああ」とだけ返すと、早速歩き出した。
愛想の欠片もない。
- 841 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:12:33 ID:7KP.TRzkO
(;・∀・)「ちょっと、もう行っちゃうの!?」
(´・ω・`)「じゃあね」
o川*゚ー゚)o「さようならー」
(;・∀・)「わああああ! あっさりしてる! 何かあっさりしてる!!」
ショボンはモララーの肩を叩き、キュートに至っては一瞥もくれぬまま、
すたすたとその場を離れていった。
モララーの扱いなど、こんなものである。
デレはフォローすべきか否か迷ったものの、ニュッ達がどんどん進んでいくので
彼らを追いかける方を選んだ。
のだが。
( ・∀・)「――待ってよ」
モララーに、肩を掴まれた。
引き寄せられる。
- 842 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:14:21 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「な、」
( ・∀・)「君達、人間でしょう。
ついさっき、1号館の司書から情報が回ってきたよ。
人間が図書館にやって来た、って」
背中にモララーの体温を感じるほどの距離。近い。
先の喧しさはどこへやら、落ち着き払った声音で囁きかける。
( ・∀・)「――たくさんの人間を『食べた』本はね、その分、質が上がるんだ」
ζ(゚、゚;ζ「……モララーさん?」
ニュッやショボン達は、こちらに気付くことなく、デレとの距離をあけていく。
呼びかけようとしたデレの口を、モララーの右手が塞いだ。
ζ(゚、゚;ζ「もあ」
( ・∀・)「だから、出来るなら、僕も本も、人間が欲しい。
本の質を上げて、もっと、より良い図書館にしたい」
( ・∀・)「どの司書も、どの本も、君達を狙っているよ。
果たして探し人を見付けるまで、無事でいられるかな?」
モララーが、左手をデレの顔の前に上げる。
いつの間に出したのか、一冊の本を持っていた。
片手で本を開き、器用に、ぱらぱらとページをめくる。
( ・∀・)「これから先、危険な本の餌食になってしまう可能性は充分にある。
だったら、今の内に、平和で幸せな本に取り込まれた方がいいかもしれない」
ζ(゚、゚;ζ「……む、ぐ」
1号館での出来事が脳裏を過ぎる。
あのときは逃げ切れたが、もし完全に捕まっていたら、どうなっていたのだろう。
あの泣き声や音に追いつかれていたら。
どんな、恐ろしい目に。
- 843 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:15:22 ID:7KP.TRzkO
( ・∀・)「この現代より、過去の世界に行ってみたくはない?」
モララーの言葉が耳に流れ込む。
頭の中を、ぐるりと巡る。
( ・∀・)「不自由で、自由な世界を楽しみたくはない?」
ぱらり。
ページがめくられる。
デレはニュッの背中が遠ざかっていくのを視認したが、そのまま、本に目を移した。
( ・∀・)「これは所謂、市井小説ってやつだよ。庶民が主人公の話。
ちゃんばらみたいな危険な展開なんてない。
町の中の、人情に重きを置いた作品さ」
( ・∀・)「……きっと、気に入るよ」
ζ(゚、゚*ζ「……」
視界が狭まる。
足元に妙な浮遊感が絡んだ。
- 844 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:16:46 ID:7KP.TRzkO
( ・∀・)「人々の暖かみを味わえる、忙しくも伸びやかな暮らしを。
夜になれば暗く、朝になれば明るい、自然のままの暮らしを。
この本の中でなら、存分に楽しめるんだよ」
( ・∀・)「面白そうじゃない?」
それは。
とても、魅力的に思えて。
デレが頷きかけた――
ζ( 、 *ζ
瞬間。
( ・∀・)「フジサワッ!!」
奇妙な悲鳴をあげ、モララーが吹っ飛んだ。
- 845 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:17:54 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「はっ!?」
我に返る。
顔を上げると、真横にニュッが立っていた。
モララーに蹴りでも喰らわせたのか、ニュッは中途半端な位置に上げていた足を下ろす。
そこへショボンとキュートが戻ってきた。
o川;゚ー゚)o「ごっ、ごめんねデレちゃん、置いてっちゃって。気付かなかった!」
ζ(゚、゚;ζ「……ううん、私が油断したのが悪いから……」
( ^ν^)「本当にな。モララーごときに籠絡されそうになってんじゃねえよ」
(´・ω・`)「そうだよ、モララーごときに」
( ;∀;)「何故か体よりも心が痛い……あっ、ちょっ、お客様。
お客様そんな御無体な! シュウヘイッ!!」
ニュッがモララーを蹴り転がし、本棚へ思いきり衝突させる。
棚から落ちてきた本達がモララーの頭や背中にぶつかり、鈍い音を立てた。
- 846 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:18:41 ID:7KP.TRzkO
( ;∀;) シクシク
(´・ω・`)「さ、行くよデレちゃん」
ζ(゚、゚;ζ「あっ、あの、いいんですか……?」
(´・ω・`)「何が」
ζ(゚、゚;ζ「まだ2号館なのに早速物語が破綻してません!?」
o川*゚ー゚)o「絶対もうちょっとちゃんとした展開あったよね、これ」
(´・ω・`)「演じさせてる『本』からの邪魔が入らないから、許容範囲なんじゃないの」
ショボンが踵を返す。
ニュッは少し迷うような仕草をすると、本に埋もれたモララーを引っ張り上げた。
( ^ν^)「おい」
( ;∀;)「?」
( ^ν^)「あっちの扉まで俺らを案内しろ。
お前が一緒なら、ここの本は何もしてこねえだろ」
( ;∀;)「は、はいいい……。
……え? 待って、それなら何で俺はあんなに蹴られたの?」
( ^ν^)「気分」
( ;∀;)「恐い! お客様恐い! 恐いけど謎の安定感がある何これ!!」
やはり、モララーの扱いはこんなものだった。
*****
- 847 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:19:48 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)(――2号館はこれで終わりか)
無事に扉へ到着する。
ニュッは、柳色のカバーか被せられたドアハンドルを握った。
振り返る。
( ^ν^)「じゃあな」
( ;∀;)「うう……本に取り込めないし蹴られるし利用されるし……酷い……」
ζ(゚、゚;ζ「いつまで泣いてるんですか……」
和服の袖を涙で濡らすモララー。
宥めるためか、デレが背中をぽんぽんと叩いてやっていた。
放っておけばいいものを。
先程、モララーのせいで本の中に引きずり込まれそうになったのを忘れたのだろうか。
( ^ν^)(どんだけ馬鹿なんだ)
――どうせ訊いたところで、
「モララーだって演じさせられていたのだから仕方ない」とでも答えるのだ。
作家達のことを恐れる気配もないし、根っからのお人よしというか。
いや、ただ単純に、呑気が過ぎるだけとも言える。
今、彼女はモララーのことをいつものように慰めてやっているが、
もしもモララーが演じさせられている最中でなかったら、
その「いつも」の振る舞いだけで感涙していただろう。
昨夜の狼狽ぶりから、容易に想像出来る。
- 848 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:21:01 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚*ζ「ティッシュあったっけ……あ、はい、モララーさん、鼻かんでください」
( ;∀;)「あぶぶぶ……」
o川*゚ー゚)o「デレちゃんお母さんみたい」
( ^ν^)「……もういいから、早く来いよ」
2号館を出て、ニュッは溜め息混じりにデレ達を呼んだ。
ショボンがデレの右腕を、キュートが左腕を掴んで進む。
ζ(゚、゚;ζ「わ、待っ、何、」
(´・ω・`)「また油断してさっきみたいになられても困る」
o川*゚ー゚)o「同じく」
( ;∀;)「もう何もしないよ!」
ζ(゚、゚;ζ「こっ、転ぶ――……あっ。
モラ……じゃなくて、司書さん! 会ったら言おうと思ってたんですけど、」
( ;∀;)「?」
ζ(゚、゚;ζ「あの、……嫌いになってませんからね!」
( ;∀;)「……へ?」
ニュッが昨日の電話で伝えたことに対する言葉だろうか。
それを今のモララーに言ったって意味がないだろうに。
- 849 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:22:32 ID:7KP.TRzkO
( ;∀;)「……うん?」
ほら、モララーがきょとんと、
( ;∀;)「あ、……ありがとう……?」
ζ(゚ー゚*ζ「んっ」
――きょとんとして、それでも、ほっとしたような表情を浮かべ。
彼は、首を捻りながら礼を言った。
その声を最後に、扉が閉まる。
それを確認すると、ショボンはデレを突き飛ばすように放した。
デレとキュートが危うく転びかける。
ζ(゚、゚;ζ「もっと優しく扱ってください!」
o川;゚ー゚)o「私が顔面から転んだらどうしてくれるんですか! 世界規模の損害ですよ!」
(´・ω・`)「何、じゃあ、べったべたに甘やかしてやろうか?」
ζ(゚、゚;ζ「……それはそれで、何か嫌ですね……」
デレが引き気味に答える。
ニュッは正面に向き直り、顔を顰めた。
――「何か嫌」。
1号館を後にした辺りから、そんな感覚がニュッの中にじわじわと滲み始めたのだ。
この先の展開を、ろくに思い出せない。
だが、何となく、嫌な予感がする。
- 850 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:24:03 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)(……結末は、どんなだったっけ……)
額に指を押し当てる。
たしか――本を渡された当時。
読後、ニュッは複雑な気分になった。
これでいいのかと、ほろ苦い後味を覚えた筈。
ただ、その内容は?
思い出せない。
思い出せないせいで、足が重い。
最悪な想像が沸き上がり、それを否定することが出来ない。
ζ(゚、゚*ζ「……ニュッさん、考え事ですか」
( ^ν^)「あ?」
ζ(゚、゚*ζ「難しい顔してる」
( ^ν^)「お前と比べりゃ、誰だって考え事してるように見えるだろうよ」
ζ(゚、゚;ζ「どっ、どういう意味ですか!」
本と現実が混ざっている以上、避けなければならない展開がある。
たとえば。
誰かの命に関わるものだとか。
o川*゚ー゚)o「ほら、きびきび歩くー」
( ^ν^)「……指図すんな」
*****
- 851 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:25:53 ID:7KP.TRzkO
――モナーが亡くなってから、何ヵ月経った頃だったろうか。
たしか、木の葉の赤色に渋みが増してきた、秋だった気がする。
ξ゚听)ξ(……大丈夫かしら)
ツンは、内藤が心配で堪らなかった。
ひどく忙しそうなのだ。
処理しきれなかった遺品や、遺産の相続についてのあれこれ。
大学はほとんど卒業を待つだけの身だとはいえ、論文なども書かなければいけない。
それだけなら、まだマシだろう。
彼が一番時間をとられているのは、「本」の回収だった。
親戚から聞き出した情報を頼りに、様々な場所を訪問して回る。
空いた時間には、新聞やインターネットで、本が関わっていそうな事件を探す。
家で何もせずに休んでいるところを見ない。
あれでは内定先に勤めたところで、すぐに辞めてしまうだろうなと、
いつだったか、ショボンが言っていた。
.
- 854 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:27:17 ID:7KP.TRzkO
そんな中での、ある日。
(´・ω・`)『ただいま』
(; ω )『……っ』
ξ゚听)ξ『――ブーン、どうしたの』
本の回収から戻ってきた内藤とショボン。
内藤は、ショボンに支えられる形で歩いていた。
玄関で出迎えたツンは、ぎょっとした。
内藤の顔が、あちこち腫れている。赤い痣が痛々しい。
(´・ω・`)『「主人公」の家族に、洗いざらい話したんだ。
今回は、事が事だから、ってね』
たしか、2人が取り戻しに行ったのは、ハロー・サンの本だ。
ニュースで見た殺人事件の概容にニュッとハローが反応したのがきっかけだった。
残忍な殺害方法、加害者と被害者の特徴などがハローの書いた小説と一致していたとかで。
(´・ω・`)『両親は信じなかったけど、兄の方は信じてくれやがってね。
おかげでブーンが恨まれて、結果、こんな感じ。
だからやめておけっつったのになあ』
ハハ ロ -ロ)ハ『ブーン、帰りマシタ?』
( ^ν^)『……兄ちゃん、大丈夫か』
ハローとニュッが2階から下りてきた。
内藤はショボンから離れ、壁に手をついて歩き始める。
足でも悪くしたのかと、ニュッはショボンに説明を求めた。
- 856 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:28:21 ID:7KP.TRzkO
(´・ω・`)『殴られて口の中切っただけだよ。まあ要するに、血がね、口の中に広がっちゃって。
ブーンにとっちゃ、殴られたのよりそっちの方が辛かったんだろうね。
今、僕の車、すっげえ酸っぱい臭いしてるよ。人間ってあんなに吐けるんだ』
ハハ;ロ -ロ)ハ『……ブーン』
まるで笑い話でもするかのようなショボンの軽い口調に反し、
ハローは罪悪感を抱いたようで、眉根を寄せると恐る恐る内藤に触れた。
内藤が、その手をやんわりと退ける。
(; ω )『……気にするなお……』
咳き込み、大きく口を開けた内藤は俯いた。
もう出るものもないのか、涎だけが床に落ちる。
ハハ;ロ -ロ)ハ『デモ』
内藤が顔を上げる。
ツンと目が合うと、彼はまた俯き、背中を痙攣させ、唾液を零した。
(´・ω・`)『これこれブーン君、汚いからさっさと上に行きなさいな』
ショボンが溜め息をつき、内藤に肩を貸す。
そして、2階へと内藤を連れていった。
ツンとハロー、ニュッの3人が残される。
- 858 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:29:18 ID:7KP.TRzkO
ハハ ロ -ロ)ハ『……ワタシのせいデス』
( ^ν^)『……違う』
ハハ ロ -ロ)ハ『ダッテ、ワタシが、あんなの――書かなかっタラ』
ハハ。ロ -ロ)ハ『……わ、ワタシの本、ミンナの本より、たくさん、人が死にマス。
残酷な殺し方、イッパイ……』
ハローがニュッに凭れかかった。
どうしよう、ごめんなさい――誰へとも分からない呟きを漏らし、ハローは泣きじゃくる。
本のせいで人間が命を落としたのは、今回が初めてだ。
少なくともツン達が把握している限りでは。
きっと、これから先、もっと被害者は増える。
その「これから」を思い、ハローは恐怖しているのだろう。
それに比べたら。
自分の罪はまだマシな方なのではないか。
ξ゚听)ξ『……』
無意識に逃げ道を探す己に気付き、ツンは頭を抱えた。
#####
- 859 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:30:37 ID:7KP.TRzkO
( ^ω^)『いいのかお?』
ξ゚听)ξ『……ええ』
その2日後。
新たに「本」の情報を得た内藤が回収しに行こうとしたのを留め、
ツンは、自分も連れていってほしいと願い出た。
嫌がられるのではないかと内心びくびくしていたが、
内藤はあっさりと頷いてくれた。
( ^ω^)『僕は構わないけど……。結構面倒なことも多いお?』
ξ゚听)ξ『いいわ。じゃあ、行きましょう』
(*^ω^)『おっお。こんな顔の男が1人で行くより、
ツンみたいに綺麗な子が一緒の方が捗りそうだおね』
湿布が貼られた頬を押さえ、内藤が笑う。
――笑った。
綺麗だと、言った。
どうしてだろう。
極論、自分はモナーの仇みたいなものではないか。
どうして、以前と同じように振る舞うのだろう。
直接訊ねたい。話し合いたい。
けれど、もし、内藤が例の件について忘れようとしているのだとしたら。
ツンへの糾弾を堪えているのだとしたら。
その可能性がある内は、自分から切り出すことは出来ない。
黙ってさえいれば、きっと、今まで通り、内藤の傍にいられる。
彼の真意はどうあれ。
- 860 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:31:30 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ『車で行くの?』
( ^ω^)『そうするおー。……ツン、どうして急についてこようなんて思ったんだお』
ξ゚听)ξ『……1人じゃ、大変そうだから』
前から、手伝おうとは思っていた。
だが、共に行動するのが――あるいはそれを拒まれるのが――恐かった。
今日、こうして決心したのは、内藤が件の「主人公」の兄に殴られたことにある。
また似たようなことが起きるかもしれない。
自分がいれば、内藤を守れる。
*****
- 861 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:32:47 ID:7KP.TRzkO
( ‐ω^)「……」
内藤が瞼を上げる。
ということは、彼らは2号館も通過したのか。
ニュッの仲間を演じているのが誰なのか、ツンは知らない。
図書館に来ると言っていたらしいから、1人はデレだろう。
もう1人は――登場人物のモデルにしたショボンが、本に呼ばれて来るかもしれない。
あとの1人は、さっぱりだ。
面識のある人物か、あるいは近くにいた人間を無作為に選んだ恐れもある。
だとしたら気の毒極まりない。
( ^ω^)「……魔女さん」
ξ゚听)ξ「今度は何かしら」
( ^ω^)「椅子が足りないお。綺麗な木目で、真っ赤な布が敷かれた、まあるい椅子。
あれがないなら、ここは僕の部屋じゃないお」
ξ゚听)ξ「椅子? ちゃんとあるじゃないの」
金色のペンを振る。
内藤が言った通りの椅子が、テーブルの傍に現れた。
- 862 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:33:42 ID:7KP.TRzkO
( ^ω^)「おー……本当だお」
ξ゚听)ξ「でしょう。だから、あなたの部屋なのよ」
( ^ω^)「そうなのかお」
ξ゚听)ξ「……安心して寝てていいわよ」
首を揺らし、内藤が目を閉じる。
ツンは沈黙すると、ペン先を紙へと触れさせた。
*****
- 863 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:34:59 ID:7KP.TRzkO
やはり、1号館や2号館と、新たに足を踏み入れた3号館との違いは、照明のみだった。
クリーム色。
ζ(゚、゚*ζ「……あれえ……」
o川*゚ー゚)o「誰も出てこないね」
きょろきょろ、4人は辺りを見渡す。
貞子やモララーのときと違い、一向に「司書」が現れない。
(´・ω・`)「……待ってても仕方ないね」
ショボンの呟きに頷き、ニュッが一歩踏み出した。
やはり、誰もやって来ない。
o川;゚ー゚)o「ちょっ、ちょっと、さっきはモララーさんが一緒だったから平気だったけどさ……」
ζ(゚、゚;ζ「あっ、そうですよ! 司書さんの付き添いなしで歩いたら危ないんじゃ」
( ^ν^)「だからって何もしないでいたら、展開進まねえぞ」
(´・ω・`)「じっとしてれば安全、なんて保証もないしね」
ζ(゚、゚;ζ「まあ、そうですけど……」
( ^ν^)「置いてかれたいなら、そこにいろ」
ζ(゚、゚;ζ「……」
ζ(゚、゚;ζ「……もーっ!」
*****
- 864 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:35:47 ID:7KP.TRzkO
――ちかちかする。
デレは眉間を押さえた。
出口まで、まだ半分ほどある。
ζ(゚、゚;ζ(これは……やばい……)
思考がぼやけ、度々、視界が淡黄色に覆われる。
本に引っ張られているようだ。
「何かあったら、とにかく全力で逃げろ」と大雑把すぎる助言をショボンから頂いたが、
これはもしかすると、全力で逃げる羽目になるかもしれない。
歩みを止めず、デレは、隣のキュートに手を伸ばした。
ζ(-、゚;ζ「ん?」
反対側から肩を叩かれる。
直後、ぐいと引っ張られ、デレの足が縺れた。
- 865 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:37:19 ID:7KP.TRzkO
横へ転ぶように座り込む。
視界と思考が晴れた。
目の前には、たくさんの本。
本棚と本棚の間に連れてこられたようだ。
ζ(゚、゚;ζ「あ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハジメマシテ。3号館の司書デス」
手を引かれて、無理矢理立たされる。
そこには、眼鏡をかけた長身の女――ハロー・サンがいた。
彼女の隣にはニュッも。
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん! ……って、キュートちゃんとショボンさんは?」
( ^ν^)「……知らねえ。俺はハローに引っ張ってこられた」
ハローを見る。
彼女は、小首を傾げてみせた。
ハハ ロ -ロ)ハ「ナニか?」
ζ(゚、゚;ζ「ハローさん――司書さん、私達の他に、もう2人いたでしょう」
ハハ ロ -ロ)ハ「アア、その人達ナラ、本の中デスヨ」
- 866 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:38:19 ID:7KP.TRzkO
デレの眼差しから逃れるように、ハローは本棚の前へぴょんと跳ね、
そこに並ぶ本へと寄り掛かった。
背表紙を撫でる。
ハハ ロ -ロ)ハ「3号館の本は、スリルを味わうのに打ってつけデス。
多種多様の『危機』に震えたり、打開したり。
1号館の本に近いモノもあれば、5号館の本に近いモノもありマス」
ハハ ロ -ロ)ハ「最も重要な要素は、さっきも言いマシタ、『スリル』。
恐怖、不安デス。……ソンナ本の世界に、アナタ、入りタイ?
ワタシはサスペンス好きだケド。普通の人間は、避けたがるデショウ」
ζ(゚、゚;ζ「……入りたくはないです」
ハハ*ロ -ロ)ハ「デショウ!?」
ぱっと表情を明るくさせたハローが、デレに詰め寄った。
両手を握りしめられ、デレは思わず仰け反る。
ハローがずんずん前に進み、デレが本棚に押しつけられるような体勢になってしまった。
ハハ*ロ -ロ)ハ「ダッタラ、ワタシの『オ友達』になってクダサイ!」
- 867 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:39:52 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「……お、おともだち……?」
( ^ν^)「――ハローも、モララーと同い年だから」
ζ(゚、゚;ζ「ああ、……子供なんですね、当時の年齢で言えば」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ネッ、ネッ。いいデショ?」
上から覗き込むように、ハローがデレに顔を近付ける。
レンズの向こう側で輝く瞳を見ていると、何だか頷いてしまいそうになって、
デレは慌てて俯いた。
ζ(゚、゚;ζ「……あのですね」
言い淀む。
すると、ハローの声に不機嫌そうな色が乗せられた。
ハハ ロ -ロ)ハ「――セッカク、本に取り込まれそうなトコロを助けてあげたノニ」
ζ(゚、゚;ζ「えっ」
- 868 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:42:02 ID:7KP.TRzkO
ハハ ロ -ロ)ハ「アナタ達ダケは、助けてあげたノニ。
オ友達になってくれないナラ、また、さっきの本の中に戻しマスヨ。
他の2人みたいに、恐い思いをするコトになるんデスからネ」
ζ(゚、゚;ζ「……」
他の2人。未だ出てこない、ショボンとキュート。
要するに、脅迫ではないか。
( ^ν^)「……『お友達』って、具体的に何すりゃいいんだよ」
ハハ ロ -ロ)ハ「ココにいて、ワタシとお話ししたり、遊んだり、一緒に本読んだり……。
色んなコト」
ζ(゚、゚;ζ「それは――あっ」
ハローは素早く一冊の本を抜き取り、それをデレの頬に触れさせた。
じくじく、妙な熱が本から頬へと伝わる。
その熱は、ゆっくりと頭にまで広がっていった。
ハローが顔を横へ向け、ニュッを睨む。
- 869 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:43:15 ID:7KP.TRzkO
ハハ ロ -ロ)ハ「モウ、ソッチの男の子に訊きマスネ。
アナタがオ友達になってくれるって言うナラ許してアゲル。
なってくれないナラ、今スグこの女の子を本に閉じ込めマス」
( ^ν^)「また、面倒くせえことを……」
ζ(゚、゚;ζ「にゅ、ニュッさあん……」
情けない声でニュッを呼ぶ。
熱が脳の中にまで染み渡っていくような感覚に、デレの足から力が抜けそうになった。
ハハ ロ -ロ)ハ「コレは、殺人鬼に執拗に狙われた少女が、怯えナガラ何度も逃げては隠れ――
最終的には、あまりニモ無惨な手段で殺されてしまう話デス。
……恐くッテ、痛くッテ、とっても嫌な思いをするデショウね」
ハハ ロ -ロ)ハ「それに、人間なんかが本の中で殺されようものナラ、
絶対絶対、コッチの世界に戻ってこれなくなっちゃいマス。
殺されなくても帰ってこれないだろうケド……どうする?」
( ^ν^)「……そんな子に育てた覚えはねえぞ、ハロー」
状況の打開策を探しているのか、軽口をたたきながら、ニュッは頭を掻いた。
ハローの手に力が篭る。
- 870 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:45:52 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ(――ショボンさんとキュートちゃん、大丈夫かな……)
このときデレの思考がショボン達へと向かったのは、別に、現実逃避などの類ではない。
ハローの説明したあらすじを聞いて、彼らが心配になっただけだ。
2人がどんな内容の世界へ入ったかは知らないが、ジャンルがジャンルなだけに、
平穏無事でいられることはないだろう。
「お友達」云々よりも、まず、そちらをどうにかしなければ。
ショボンらが自力で逃げ出せれば御の字ではあるものの、
1号館のように、そう簡単にいくかどうかは怪しい。
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん、ショボンさん達が――」
( ^ν^)「分かってる。……ハロー」
ハハ ロ -ロ)ハ「さっきカラ、その『ハロー』って誰デスカ」
( ^ν^)「……じゃあ、司書3号殿。
『お友達』になったら、例の2人も解放してくれるか?」
ハハ ロ -ロ)ハ「駄目」
( ^ν^)「即答か」
ハハ ロ -ロ)ハ「4人になった途端、反撃するつもりカモしれないデショ」
ζ(゚、゚;ζ「そんなことしません!」
ハハ ロ -ロ)ハ「ナラ、4人共、ワタシと……ずっと一緒にいてくれるノ?
ずうっとずうっと、ココに?」
ζ(゚、゚;ζ「……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ホラ、答えられナイ」
本を、首元に滑らせる。
ナイフを突きつけられているような、嫌な緊張感を覚えた。
-
- 872 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:47:58 ID:7KP.TRzkO
ハハ ロ -ロ)ハ「アナタ達2人だけナラ、ワタシ1人デモ何とかなりマス。
早く、オ返事、クダサイ」
ニュッの方から聞こえた、舌打ち。
彼がどんな答えを出そうが、展開の邪魔にならない限り、ツンの「本」は妨害をしない。
たとえば先程のモララーへの仕打ちのように。
だが――問題の、物語そのものの内容が分からないから、ニュッは迷っているのだろう。
現在望まれている展開は、恐らく、「3号館から4号館へ進む」こと。
それさえクリア出来るならばデレ達の犠牲など厭わない、なんて「本」が考えているなら、
安易に答えを出すわけにはいかない。
そもそも彼女達の犠牲こそが、初めから物語に組み込まれている要素の可能性だってある。
( ^ν^)「……どうすっかなあ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……」
ハローが眉を顰める。
――デレは、何とはなしに、ハローと電話で話したときのことを思い返した。
ヒッキーとエクストという少年、そしてデレが巻き込まれた事件が解決した後。
ハローは、自分のせいでだの何だのと思い悩んでいた。
- 874 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:50:30 ID:7KP.TRzkO
彼女は明るくて、天真爛漫といった言葉がよく似合う、
どこか楽天的に見える人だ。
だが、その実、誰よりも繊細なように思える。
繊細というか、そう、彼女が好むような、
「恐怖」や「不安」に敏感で、そして、とても弱い。
ハハ ロ -ロ)ハ「――?」
ニュッを見つめていたハローは、デレへと視線を移した。
突然頭を撫でられれば、そんな反応を返すのも当然だろう。
ハハ ロ -ロ)ハ「……何デスカ」
ζ(゚、゚*ζ「あの2人、本の中から出してあげてください」
臆病者なハロー。
電話でデレが伝えた内容に、喜んでいた。
だから、きっと、彼女が欲しいのは、不安を取り除いてくれる言葉。
ζ(゚、゚*ζ「私達ね、やらなきゃいけないことがあるんです。
それが終わったら――」
- 875 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:52:58 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚ー゚*ζ「いっぱいお話しして、遊びましょうね」
ハハ ロ -ロ)ハ
怪訝な顔をされる。
それでも、本は首から離れた。
熱が引いていく。
ハハ ロ -ロ)ハ「……ホント?」
ζ(゚ー゚*ζ「本当」
ハハ ロ -ロ)ハ「約束デスヨ、約束……」
ζ(゚ー゚*ζ「約束です」
ハハ ロ -ロ)ハ「絶対」
ζ(゚ー゚*ζ「絶対」
ハハ ロ -ロ)ハ「……」
ハローは躊躇いがちに一歩退くと、本を棚に戻し、両手を宙に伸ばした。
それから何かを掴む仕草をして、腕を引く。
- 876 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:54:36 ID:7KP.TRzkO
(´・ω・`)「うわっ」
o川;゚ー゚)o「ああああ――ぎゃっ!?」
( ^ν^)「あ」
ζ(゚、゚;ζ「ショボンさん、キュートちゃん!」
その掴んだ「何か」を放り投げるような動作を終えた直後、
どこからともなく、ショボンとキュートが転がり出てきた。
キュートは軽い錯乱状態で、辺りを見回しながら、妙な奇声をあげている。
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん、どうしたの」
o川;゚ー゚)o「いっ、犬の死体抱えた人と目が合ってっ、いきなり追いかけられてっ、
家に逃げたんだけど、その人がずっと家の周りうろうろしててっ」
ζ(゚、゚;ζ「おっ、おおっ……事細かな説明ありがとう……ありがとう?
とりあえず落ち着いて……。大丈夫だよ、もう、その人いないから」
o川*;ー;)o「……デレちゃぁああああん!!」
(´・ω・`)「何だよ、ナイフ持った男と楽しく死闘を繰り広げてたところだったのに」
( ^ν^)「死闘に楽しいも何もねえよ」
ショボンの方は満喫していたらしい。
何とも神経の太い男だ。
- 877 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:56:08 ID:7KP.TRzkO
キュートは一頻り泣きじゃくると、はっとして鞄の中を確認した。
何かの様子を窺い、「良かった」と安堵する。
それからようやく、2人はハローに気付いた。
警戒しているのか、ハローはじりじりと距離をとっている。
(´・ω・`)「あら、やっぱりハローだったんだ、ここの司書」
o川*゚ー゚)o「あ、こんにちは」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ドウモ」
ζ(゚ー゚*ζ「お願い聞いてくれてありがとうございます、司書さん」
駆け寄り、ハローの手を握る。
ハローは数秒の沈黙を経て、こくりと頷いた。
ハハ ロ -ロ)ハ「約束、忘れないでネ。
アナタ、何だかあったかいカラ、ワタシ信用したんデスヨ。裏切っちゃ嫌デス」
ζ(゚ー゚*ζ「勿論」
o川*゚ー゚)o「約束?」
( ^ν^)「……デレのおかげで、お前ら助かったんだぞ」
(´・ω・`)「ええー、うっそマジでえー? 何か癪ー」
ζ(゚、゚;ζ「癪って何ですか癪って!」
.
- 880 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 17:57:55 ID:7KP.TRzkO
――その後ハローに案内を頼んだ4人は、何事もなく扉の前へ到着した。
聞くところによると、魔女と青年は次の4号館へ向かったとのことだ。
扉には銀色の猫型の装飾が施されており、尻尾の部分が取っ手になっていた。
その尻尾を握り、キュートが扉を開ける。
o川;゚ー゚)o「早く行こ。何かさっきの余韻が残ってて、まだちょっと恐い」
ζ(゚ー゚*ζ「はいはい。……それじゃあ、また後で」
ハハ*ロ -ロ)ハ「マタネ」
(´・ω・`)「約束って、どんな約束したのさ」
ζ(゚ー゚*ζ「んーとですね……」
( ^ν^)「一緒に遊ぶっつっただけだ」
(´・ω・`)「それだけ? たった? ……ますます癪だね」
ζ(゚ー゚;ζ「だから癪ってどういうことですか!」
3号館を後にする。
扉が閉まりきるまで、ハローは手を振っていた。
*****
- 881 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:00:03 ID:7KP.TRzkO
( ^ω^)『――館長って呼んでくれお』
ツンが同行するようになってから、1ヶ月ほど経った頃。
朝食の時間、スーツ姿で食堂に現れた内藤は、唐突にそう言った。
食堂にはまだ住人の半分も集まっていなかったのだが、
その場にいた全員が全員ぽかんと口を開け、内藤を注視した。
川д川『館長……?』
(*゚ー゚)『どうしたの、急に。てか何でスーツ』
( ^ω^)『ラフな格好の学生がいきなり押しかけていって、
本がどうのこうのって言ってもなかなか信用されないんだお。
昨日ようやく悟った』
( ゚∋゚)『ああ、それでスーツか』
川д川『こんな若いのに「館長」って、逆に怪しまれない……?』
( ^ω^)『でも、まあ、何の肩書きもないよりはマシだお。
館長っつっても、仮の、だけど』
内藤は、くるりと回り、黙り込んでいたツンに微笑みかけた。
スーツの襟元をこれ見よがしに引っ張ってみせる。
- 882 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:01:19 ID:7KP.TRzkO
(*^ω^)『どうだお、ツン』
ξ゚听)ξ『どうって』
(*^ω^)『似合うかお? 新鮮じゃないかお?』
ξ゚听)ξ『……スーツ着たブーンなんて、就活してたときに散々見たわよ』
(;^ω^)『まあ、そうだけど……』
(*゚ー゚)『そんで? 「館長」さん、今日の御予定は?』
( ^ω^)『何か、隣町の古本屋に本があるらしいんだお。花柄って言ってたから――』
( ゚∋゚)『俺の本だな、館長』
(*^ω^)『だお。……おおお、むずむずするお。もっと呼んで』
川д川『館長……』
(*^ω^)『それ、もう一回! もう一回!』
(*゚ー゚)『どんなテンションだ。館長ー』
(*^ω^)『おっおっお、何これ気持ちいい。
これからは「ブーン」じゃなく「館長」って呼ぶように』
川д川『随分気に入ったのねえ……』
ξ゚听)ξ『……』
嬉しそうに笑う内藤。
――何故、「館長」と呼ばせたがるのだ。
自分達が彼をそう呼ぶことに、何の意味がある。
- 884 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:02:11 ID:7KP.TRzkO
(*^ω^)『ツン、呼んでくれお』
ξ゚听)ξ
ξ゚听)ξ『……ブーン』
内藤の笑顔が、僅かに歪んだ。
折角綺麗に結んだリボンが、片側だけ引っ張られて、歪に乱れてしまったような。
そんなイメージが、ツンの脳裏を過ぎった。
( ^ω^)『そうじゃなくて』
ξ゚听)ξ『ブーンはブーンよ』
( ^ω^)『……ツンに一番呼んでほしかったのに』
目を逸らす。
内藤が浮かべた――寂しそうで、ほっとしたようで、戸惑いにも似た表情の意味は、
ツンには分からなかった。
ただ、呼び名の違いが、得も言われぬ「距離」を生み出してしまいそうなのが嫌だった。
*****
- 887 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:05:27 ID:7KP.TRzkO
( ^ω^)「……ねえ、魔女さん」
また起きた。
思ったより早い。
ξ゚听)ξ「はいはい」
( ^ω^)「おかしいお、戸棚がないお。
僕のお気に入りの服や大事なものがしまってあるんだお」
ξ゚听)ξ「どんな戸棚だったかしら?」
( ^ω^)「木製で、胡桃色で……ガラスの戸がついてて、下には引き出しがあって……」
ξ゚听)ξ「ああ、それね」
ペンを一振り。
品のいい戸棚が、見た目通り、品よく音も立てずに降り立った。
ペン先で棚を指す。
ξ゚听)ξ「ごめんなさい、移動させてたの。あれで間違いないわよね?」
( ^ω^)「あ、たしかに僕の戸棚だお」
ξ゚听)ξ「でしょう。だから、あなたの部屋なのよ」
( ^ω^)「そうなのかお」
内藤は安心したように息をついた。
起き上がろうとしたのを、ツンが制止する。
- 888 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:06:31 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ「まだ寝てなさい」
( ^ω^)「でも、僕、寝てばかりだお……」
ξ゚听)ξ「たくさん寝てるように感じるかもしれないけど、
あなたってばすぐに起きちゃうから、あんまり長くは眠ってないのよ」
( ^ω^)「本当かお」
ξ゚听)ξ「ええ」
( ^ω^)「じゃあ、もう少しだけ……」
ξ゚听)ξ「そうね、もう少しだけ」
( ‐ω‐)「……おやすみなさいお」
ξ゚听)ξ「おやすみなさい」
ツンが口を噤む。
やがて、そこには内藤の寝息だけが聞こえ始めた。
*****
- 889 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:07:48 ID:7KP.TRzkO
(*゚ー゚)「お初にお目にかかります、我ら、4号館の司書でございます」
(#゚;;-゚)) ペコリ
右側から差す薄桃色の光と、左側から差す薄紫色の光が中央で交わる4号館。
その混ざり合った光の中で同時に頭を下げる双子。
椎出しぃと椎出でぃ。
(´・ω・`)「双子まとめて、ね」
o川*゚ー゚)o「双子なんだ」
ζ(゚、゚*ζ「左側の人が椎出でぃさん。しぃさんの双子のお姉さん」
そういえばキュートはでぃと会ったことがなかったか。
デレが紹介してやると、キュートは、でぃに「はじめまして」と一礼した。
(*゚ー゚)「そちらのお客様、私には挨拶してくださらない」
o川;゚ー゚)o「だって会ったことあるし……いや、まあ、ううん……はじめまして」
(*゚ー゚)「はじめまして!」
- 890 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:10:41 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚*ζ「……しぃさんがセクハラしてきませんね」
( ^ν^)「この話を書いたのはツンだ」
(´・ω・`)「ツンには、下ネタばんばん吐き出すキャラは書けないか」
ζ(゚、゚*ζ「ああ、そっか」
しぃが目に入った瞬間からデレはショボンの後ろに隠れていたのだが、
本に操られているのなら安全そうだ。
ショボンの背後から移動する。
(*゚ー゚)「2号館も3号館も無事に潜り抜けるとは、何とまあ珍しい」
ヾ(#゚;;-゚)ノシ
(*゚ー゚)「私の姉も驚いています」
(´・ω・`)「それはどうも」
( ^ν^)「出来ればここも無事に潜り抜けさせてほしいんだがな」
(*゚ー゚)「どうしましょうかねえ」
しぃが腕を組む。
隣で、でぃも腕を組み、わざとらしく首を傾げた。
- 891 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:12:21 ID:7KP.TRzkO
(*゚ー゚)「大抵の人間は、ここに来るまでの間に本に食べられてしまいます。
あなた方のような客は本当に珍しい。
そんな折角の『餌』を、みすみす逃してしまうのは――」
ζ(゚、゚;ζ「え、餌……」
(#゚;;-゚)ノシ
(*゚ー゚)「どうしたの、お姉さん」
ヽ(#゚;;-゚)ノ
(*゚ー゚)「……ふむ、たしかに、まずはそれを訊かないとね。
お客様方、どうしてこの図書館に来たんですか?」
o川*゚ー゚)o「人を探しに来ました」
(*゚ー゚)「人」
( ^ν^)「魔女と人間が来ただろ。人間の方は眠ってたって聞いた」
(*゚ー゚)「――ああ、はいはい。来ました来ました。ね」
(#゚;;-゚)) コクリ
(*゚ー゚)「『2人で幸せに暮らしていける話』を探してらっしゃいましたね」
(´・ω・`)「ここにいるのかい?」
(*゚ー゚)「――さあ?」
椎出姉妹は、同時に足を動かした。
ダンスのステップでも踏むかのごとく、軽やかな足取りでデレ達に近付く。
- 892 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:13:44 ID:7KP.TRzkO
(*゚ー゚)「ここには、大まかに分けて、2つのジャンルの本がございます。
科学のお話と、」
(#゚;;-゚)「……家族の、お話……」
ζ(゚、゚;ζ(でぃさん喋った)
しぃはキュートとニュッの腕を引くと、2人を自分の横に並ばせた。
でぃはデレとショボンの間に入り込む。
(*゚ー゚)「あなた方のお探しの魔女は、どちらを選んだと思います?」
o川*゚ー゚)o「どちら、って……どっちかを選んだんですか?」
キュートの問いには答えず、しぃは、くすくす笑った。
――科学と家族。
魔女と人間が、共に、幸せに暮らせるのは。
ζ(゚、゚;ζ「……か、家族、かな?」
(*゚ー゚)「そうでしょうか?
たしかに、『暮らす』、となると……家族のお話が適しているかもしれません」
(*゚ー゚)「ですが、彼らは、片方が魔女、片方が人間です」
( ^ν^)「それが?」
(*゚ー゚)「魔法なんて不要な、科学に支配された世界ならば――
彼女が魔女だろうと何だろうと、関係ないではありませんか」
- 894 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:17:13 ID:7KP.TRzkO
(´・ω・`)「じゃあ、魔女は科学の方を選んだのかい」
(#゚;;-゚)「……さあ……?」
小声で、先のしぃと同じ返事をするでぃ。
ショボンは溜め息をついた。
(*゚ー゚)「お客様方ならば、どちらにします?」
ζ(-、゚;ζ(……あ)
ちかちか。
目が痛む。
まずい。
でぃから離れようとしたが、がっちりと腕を挟み込まれ、逃げられない。
ニュッ達を見ると、彼らも、腰の辺りをしぃに抱えられていた。
- 896 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:20:42 ID:7KP.TRzkO
(*゚ー゚)「家族と、科学――」
声が意識を侵食する。
混ざったことで毒々しささえ感じられる色合いに変化した光が、
視界に潜り込み、広がり、思考を満たす。
その思考の中で、紫の色が濃くなった。
ζ( 、 ;ζ(あ……――)
「――うわああああああ!!?」
ζ(゚、゚;ζ「ふへっ!!」
絶叫が谺する。
頭の中を巡っていた色が消え失せ、デレは顔を上げた。
- 897 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:21:39 ID:7KP.TRzkO
今のはキュートの声だ。
彼女の方を見る、と。
(*゚ー゚) サワサワ
o川;゚ー゚)o「お尻! 離せ!!」
ζ(゚、゚*ζ
しぃが、キュートの尻を撫でていた。
- 900 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:24:08 ID:7KP.TRzkO
いや、デレからはキュートもしぃも正面の姿しか見えないので、
しぃの手がどのような動きをしているのか、正しくは分からない。
キュートの言葉と、辛うじて確認出来るしぃの腕の位置から「尻を撫でている」と判断した。
(*゚ー゚)「……おや、これはどうしたことか。手が勝手に」
ζ(゚、゚;ζ「本能なんだ。もう本能なんだそれ」
(´・ω・`)「しぃはしぃだったか」
o川;゚ー゚)o「ぎゃあっ、揉むな! 抓るな!!」
(*゚ー゚)「おっと」
腰を掴まれるよりは、尻を触られる方が拘束としては弱い。
そもそもそれは拘束ではなくセクハラである。
キュートはしぃから逃れ、デレへしがみついた。
一方、逃げ遅れたニュッは、しぃに両腕で抱え込まれてしまう。
(*゚ー゚)「いやはや、失礼いたしましたお客様。
もうあのような真似はいたしません故、ご安心を」
( ^ν^)「どっちにしろ本に閉じ込めるつもりなら安心出来ねえよ。
あと言ってるそばからまさぐるな。やめてくださいお願いします」
(*゚ー゚)「あれえー?」
- 902 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:26:45 ID:7KP.TRzkO
(;゚;;-゚) オロオロ
o川;゚ー゚)o「照明の色も相俟って、あそこの空間だけやたらピンクすぎる……!」
(´・ω・`)「見てても何も楽しくないんだけどね」
(*゚ー゚)「ええっと……手が止まらないので、諦めて話の続きをしましょう」
o川;゚ー゚)o「そのまま!?」
(*゚ー゚)「喜びも悲しみも分かち合いそして耳舐めたい与え合う家族の話と
まるで魔法のような機械や道具に耳の穴に舌捩じ込みたい囲まれた科学の話、
どちらがより舐めしゃぶりたい幸せなんでしょうね?」
ζ(゚、゚;ζ「所々バグってますよ」
(´・ω・`)「ニュッ君耳狙われてる、耳」
(*゚ー゚)「参った……こんな調子では本に引きずり込めない……」
ζ(゚、゚;ζ「しぃさんの習性に感謝すべきか否か……」
( ^ν^)「助けてください」
(´・ω・`)「いかん、ニュッ君が色々限界だ」
- 904 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:29:13 ID:7KP.TRzkO
妹の突然の乱心――いつものしぃではあるが、本に操られている彼女達からすれば
乱心もいいところだろう――に慌てふためくでぃの腕から摺り抜け、
ショボンはニュッに歩み寄った。
しぃを引き剥がす。
(´・ω・`)「悪いんだけど、くだらないことやってないで、さっさと進みたいんだよね。
どうせ、魔女は科学も家族も選んでないんでしょ」
(*゚ー゚)「……ええ。まあ、仰る通り。
しかし我ながら己の行動が理解出来ませんが、くだらないと言われるのは心外です」
( ^ν^)「……後で」
よろけるように後ずさり、ニュッは、デレを指差した。
( ^ν^)「あいつを好きにしていいから、ここは見逃してくれ」
ζ(゚、゚;ζ「……なっ、ニュッさっ……、……はあ!?」
(*゚ー゚)「……好きに、って、本の餌にしてもよろしいということで?」
( ^ν^)「いや。触るなり撫で回すなり何なり。
今はまだ用があるから駄目だが、後でなら、いくらでも」
ζ(゚、゚;ζ「ふざけんな! 年上だけどお前ふざけんな!!」
- 905 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:30:43 ID:7KP.TRzkO
(*゚ー゚)「……ほう……?」
(;゚;;-゚)「!?」
「なら見逃しちゃおっかな」とでも言いたげな妹、
「えっ見逃しちゃうの」とでも言いたげな姉。
どちらの意見が勝つかといえば、
(*゚ー゚)「何故だか、とても魅力的な取り引きに思えます。応じようではありませんか」
こちらだった。
ζ(゚、゚;ζ「応じるな!!」
o川*゚ー゚)o「ドンマイ」
ζ(゚、゚;ζ「他人事だからってキュートちゃん軽い!」
(´・ω・`)「さっきといい今回といい、デレちゃん大活躍だね格好いいー」
ζ(゚、゚;ζ「こんな活躍したくない、したくないです……」
(*゚ー゚)「どうしましょう、涎が止まりません」
ζ(;、;*ζ「うわあああん! 終わらなければいい! 演じ終わらなければいい!!」
(;゚;;-゚) ゲンキ ダシテ
デレに残された希望は、この物語を演じ終えたときに、
今の取り引きをしぃが忘れてくれることのみである。
*****
- 908 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:33:49 ID:7KP.TRzkO
(*゚ー゚)「お待ちしてますよ!」
(#゚;;-゚)ノシ
ζ(;、;*ζ「待つな!!」
扉の右のハンドルには桜色、左には藤色のカバーが被せられていた。
それをショボンが押しやる。
扉が開くと、真っ先にデレが飛び出していった。
(´・ω・`)「あらあら、ニュッ君のせいだよ」
( ^ν^)「俺のおかげであっさりクリア出来たんだろ」
意地の悪い声で囁きかけるショボン。
彼の嫌味につっけんどんに返し、ニュッはデレの後に続いた。
くつくつ、ショボンが笑う。
(´・ω・`)「本当、あっさりだったね」
ショボンとキュートも渡り廊下へ出るや、扉は音もなく閉まった。
ニュッさんの馬鹿、と責めてくるデレをいなし、ニュッは5号館を目指す。
- 909 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:35:26 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)(『あっさり』か)
たしかに、1号館からこれまでは、随分あっさり済ませてきた気がする。
4号館に至っては、「本」の内容などほとんど無視する結果になった筈だ。
しぃのセクハラだの、主人公の味方をあんな形で差し出すだの、
どう間違ってもツンが書くわけがない。
今のところ、台本通りには進んでいないだろう。
ツンが書いた本なら、彼女に似て、きっちり進めたがりそうなものだが。
( ^ν^)(……ただ演じさせたいだけじゃねえのか?)
もしかして、他に何か目的が――
ζ(>、<;ζ「あぶっ」
(´・ω・`)「ニュッ君?」
o川*゚ー゚)o「どうしました?」
ニュッの足が止まる。
背中にデレの顔面が衝突した。
――やはり、変だ。
( ^ν^)「……ショボン」
(´・ω・`)「何」
- 910 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:37:38 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「ツンは自分が書いた本に命が宿ったのは知ってただろうし、
この10年以上、何の音沙汰もなかったってことは
ツンが定期的に朗読するか何かして、本の欲求を満たしてやってた……筈だ」
(´・ω・`)「まあ、そうだろうね」
( ^ν^)「なら、どうして今、こんな風に俺らに演じさせてんだ?
ツンが、本が我慢の限界を迎えるほど放っておくとは思えねえ」
問いと視線をショボンに投げると、ショボンは「ふむ」と唸った。
デレとキュートは疑問符を浮かべている。
(´・ω・`)「――本に対して、演じさせる許しが出た。あるいは、……命令した」
( ^ν^)「誰が」
(´・ω・`)「何だよ、ニュッ君も見当ついてるんだろ」
( ^ν^)「同じ考えかどうか確認したい」
(´・ω・`)「する必要ないと思うけど……そりゃ、ツンさ」
( ^ν^)「……だよな」
ζ(゚、゚;ζ「? 何なんです?」
o川*゚ー゚)o「ツンちゃんが『本』に、この状況を作り出すように言ったってこと?」
(´・ω・`)「おいおい、ろくに事情を知らないキュートちゃんの方がデレちゃんより鋭いじゃないか」
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃんは私より頭いいんです!」
(´・ω・`)「ついに開き直っちゃった」
- 912 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:40:17 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「……でも、ニュッさん、何でツンちゃんがそんなことするんですか?
誰も得しなさそうですけど」
( ^ν^)「得するかもしんねえ」
ζ(゚、゚;ζ「へ? 誰が?」
(´・ω・`)「自分で考える素振りも見せないね、デレちゃん。
……これは、青年と逃避行したがっている魔女を、主人公が追いかけるストーリーだよ。
青年はブーン、魔女はツンでね」
ζ(゚、゚;ζ「……んー?」
デレが黙り込んだ。
眉間に皺を刻み、床の一点を睨んでいる。
ニュッが脳内で10を数え終わると同時に、デレはショボンを見上げた。
ζ(゚、゚*ζ「ツンちゃんと内藤さんが結ばれるオチなら、ツンちゃんは確実に得しますね。
内藤さんも喜ぶとは思いますが」
o川*゚ー゚)o「でもさ」
キュートが口を開く。
デレがようやく一つの結論を出した頃には、キュートの思考は既にその先まで及んでいる。
これが知能の差か。
- 914 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:42:25 ID:7KP.TRzkO
o川*゚ー゚)o「これ、……演じ終わる? って表現でいいの?
演じ終わったら、結局何もかも現実に戻っちゃうんでしょ?
だったら、魔女と青年が結ばれようと、意味ないんじゃないの」
(´・ω・`)「そう。演じ終われば、この奇妙な図書館は消えるし、作家達もいつもの彼らに戻る。
全て元通りだ。――ある例外を除けばね。
さてデレちゃん、君は今『例外って何ですか』と阿呆面で訊こうとしただろ」
ζ(゚、゚;ζ「あ、阿呆面とは失礼な……たしかに訊こうとしましたけど……」
(´・ω・`)「『あること』が起きてしまったら、それは、演じ終わった後も
事実として現実世界に反映され、継続されていく。これは君も知ってることだ」
ζ(゚、゚;ζ「ショボンさんの言い方遠回しすぎてむずむずする……」
o川;゚ー゚)o「……あっ、そっか……」
ζ(゚、゚;ζ「そして例によって私だけ分かってないパターン」
ショボンからの説明は望めないと判断したらしく、デレはニュッに視線を移した。
己の不甲斐なさが悔しいのか仲間外れなのが寂しいのか、涙目だ。
( ^ν^)「『あること』は、たとえば――」
( ^ν^)「――死亡する、だとか」
ζ(゚、゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「……そう、でしたね……」
デレが青ざめる。
頬を両手で押さえ、瞳をきょときょと動かした。
- 915 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:44:19 ID:7KP.TRzkO
(´・ω・`)「ツンはブーンが好きだ。
こんな――ブーンと一緒になる方法を模索するような話を書いちゃうくらいに」
ζ(゚、゚;ζ「……一緒に、なる……」
(´・ω・`)「よくあるよね。
お前を殺して俺も死ぬー、っての。簡単に言えば心中」
o川;゚ー゚)o「心中ってオチなら……しかも、それをツンちゃんが望んでるなら」
(´・ω・`)「この状況に至った説明がつく。あるいは、そうだね……
もし、この図書館の本に取り込まれる、ってのも死亡みたいな扱いになるとすれば」
o川;゚ー゚)o「魔女と青年が、本の中に行ったまま戻ってこないオチの可能性もありますね」
(´・ω・`)「どっちにしろ主人公からすりゃバッドエンドだ。
ニュッ君、やっぱり物語の結末は思い出せないままかい?」
( ^ν^)「思い出せねえけど――読後感があんまり良くなかったのは覚えてる」
デレが、口をぱくぱくと開閉させた。
ツンちゃんがそんなこと、と呟き、沈黙する。
何故か右手を撫でて、デレは項垂れた。
- 916 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:45:48 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「……私のせいでしょうか」
( ^ν^)「……何で」
ζ(゚、゚;ζ「前に、ツンちゃん、私に訊いたんです。内藤さんのこと好きか、って。
やきもち焼いてたんだと思います」
o川*゚ー゚)o「やきもちって言ったって……内藤さん女の子好きな人だし、
いちいち妬いてたら、きりないでしょ」
ζ(゚、゚;ζ「でも、昨日。私、その、……内藤さんのこと抱き締めちゃいまして。
……で、それ、ツンちゃんに見られて……」
( ^ν^)「は?」
(´・ω・`)「わお、デレちゃん大胆」
ζ(゚、゚;ζ「いやっ、昔の話をしてたら内藤さんが泣き出したから!
それがあんまりにも可哀想で、慰めなきゃって、思わずっ」
o川;゚ー゚)o「あちゃあ……それがきっかけになったのかな」
ζ(゚、゚;ζ「……そう、かな。やっぱり」
ごめんなさいと漏らし、デレが縮こまった。
キュートの言うように、その出来事がツンの嫉妬心と独占欲を刺激した可能性は大いにある。
だが、デレに悪気があったわけではないようだし、責めたところで仕方がない。
( ^ν^)「気にすんな」
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさん……」
(´・ω・`)「甘やかすなよ、デレちゃんのせいなのは変わりないじゃないか」
ζ(;、;*ζ「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」
( ^ν^)「おい」
- 918 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:48:10 ID:7KP.TRzkO
(´・ω・`)「それはともかく、これからどうする?
心中説が濃厚な今、下手に進むのは控えたいところだけど」
o川*゚ー゚)o「そうです、」
「ね」とキュートが言い切る前に。
突然、ニュッ達の足が動いた。
ζ(ぅ、;*ζ「えっ」
次なる目的地、5号館へ向かい、4人が歩き出す。
一歩一歩、寸分の狂いもなく、ぴったりと揃えられた足並みで。
o川;゚ー゚)o「なっ……なに、何これ!? 足が勝手に……」
(´・ω・`)「ついに『本』からの妨害が入ったね」
ζ(゚、゚;ζ「さっさと次のシーンに行けってことですか!?」
( ^ν^)「多分な」
「本」は、とにかく物語を進めたがっている。
――結末を迎えたがっている。
恐らく、本というよりはツンの意向だ。
( ^ν^)(……どうすりゃいいんだ)
止まらぬ足を睨みつけ、ニュッは嘆息した。
*****
- 919 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:51:04 ID:7KP.TRzkO
(*^ω^)『ツン、あのテーブルの子、見てみるお。
そっち……そうそう、あれ、コーヒー飲んでる子。綺麗な子だおー』
ξ゚听)ξ『……』
(*^ω^)『ああ、ツンの方が可愛いけど。ツンが一番綺麗だけど』
ツンは、内藤の考えていることがまったく分からなかった。
以前と同じなのだ。
女好きで、ツンにべったりくっついてきて、明るく笑う――以前の内藤と、まるで同じ。
今も、休憩と称して入った喫茶店の中で、他の女性客に見とれている。
それが理解出来ない。
(*^ω^)『おお……今通り過ぎてったウエイトレスさん、スタイルいいお……』
モナーの件に関して一切触れてこないし、ツンに構ってくれる。
もしかしたら、ツンのことは許してくれたのかもしれない。
そんな希望がちらつくが、しかし、呼び名を変えたがったように、
距離をとろうとしている節もある。
分からない。何も。
- 920 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:52:42 ID:7KP.TRzkO
(*^ω^)『ツン、ツン、ほら、あの席の子――』
声を潜め、身を乗り出し、内藤が話しかける。
胸が痛い。
自分を置いて、内藤だけは、「いつも通り」へと戻っていく。
自分の後悔は無駄なのか。
死んでしまいたいとさえ思った、あの苦しさは何だったのだ。
どうして他の女を見る。
自分が一番綺麗だと言うのなら、どうして、他の女にもでれでれするのだろう。
悔恨、嫉妬、不安――他にも、色々。
脈絡なく浮かび上がっては、胸中で綯い交ぜになって、何だか、無性に。
苛立って堪らない。
ξ゚ -゚)ξ
――乾いた音がした。
掌が、じんと痺れる。
向かいの内藤が頬を押さえている。
- 921 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:54:22 ID:7KP.TRzkO
(∩^ω^)『……お……』
ξ゚听)ξ『――あ』
内藤を叩いてしまったことに、気が付いた。
ξ゚听)ξ『……ごめんなさい』
言い訳が出てこず、とにかく謝った。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
驚いたように固まっていた内藤だったが、不意に頬から手を離して、にやつき出した。
( ^ω^)『……いいお』
ξ゚听)ξ『え?』
( ^ω^)『怒ったときは叩いてくれお、ツン。
これなら分かりやすいお』
内藤の笑みに、寂しそうな色が滲んだ。
そういえば、言葉も表情も隠すようになったあの日から、
初めて感情らしい感情を表に出した気がする。
褒められた方法ではないが。
ξ゚听)ξ『……』
暴力よりも。
言葉で、顔で、気持ちを伝えたい。
けれども、ツンには、まだ――その勇気がない。
罪悪感を伴って掌に広がる熱を持て余しながら、ツンは頷いた。
*****
- 922 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 18:57:48 ID:7KP.TRzkO
( ‐ω‐)
内藤の頬を、そっと指先でつつく。
怒りを乱暴な方法で表現するようになってからしばらく経った頃、
「叩けとは言ったけど殴れとは言ってない」と抗議されたが、
結局、内藤はツンの拳を甘んじて受け続けた。
さらにしばらく後に「ちょっと気持ちよくなってきた」と言われたときは、さすがに引いたが。
ξ゚听)ξ「……これが終わったら、もう、痛いことは何もないからね」
囁きかける。
内藤が唸り、目を覚ました。
( ^ω^)「……おはようお……」
ξ゚听)ξ「――おはよう」
( ^ω^)「ところで魔女さん、一つ思い出したんだお」
ξ゚听)ξ「どんなこと?」
( ^ω^)「時計が、ないんだお。
テーブルの上に置いておいた筈なんだけど」
ξ゚听)ξ「時計?」
- 924 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:00:27 ID:7KP.TRzkO
( ^ω^)「柱時計を小さな模型にしたような置時計だお。
深いチョコレート色で、素敵な時計なんだお。
あれがないなら、やっぱり、ここは僕の部屋じゃないお」
ξ゚听)ξ「それなら……」
ツンは内藤に見えぬよう、後ろに回した手で、ペンを軽く振った。
そこに現れた時計を持ち上げ、内藤へ見せる。
ξ゚听)ξ「ごめんなさい。時間を確認したくて、勝手に持ってきてしまっていたの」
( ^ω^)「なあんだ、そういうことだったのかお」
ξ゚听)ξ「この時計で間違いないわよね?」
( ^ω^)「間違いないおー」
ξ゚听)ξ「でしょう。だから、あなたの部屋なのよ」
( ^ω^)「そうなのかお」
ξ゚听)ξ「……ほら、時間を見て。まだ夜なの。
朝になるまで、眠っていたら?」
( ^ω^)「それじゃあ、そうするお……」
ツンが机に時計を置くのと、内藤が目を閉じるのは、同時。
かちり、時計の針が鳴る。
ツンは、机の上、ノートの真っ白なページを見下ろした。
ξ゚听)ξ(……ニュッ君達が来るまで、あと少しね……)
待ち遠しい。
*****
- 929 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:12:05 ID:7KP.TRzkO
5号館へ入ると、皆の足は一斉に止まった。
巨大な本棚。赤い照明。
淡い光ではあるが、真っ赤ともなると、少々目に痛い。
デレは目頭を抓んだ。
中央には相変わらず深緑色の絨毯が敷かれている。
その上に佇む漆黒の机。
こちら、入り口側を向いて座る男が1人。
(´・_ゝ・`)「やあ。ようこそ。僕は5号館の司書だ」
盛岡デミタス。
o川*゚ー゚)o「……この人は?」
ζ(゚、゚*ζ「盛岡デミタスさん」
o川*゚ー゚)o「盛岡さん。素直キュートです、よろしくお願いします」
(´・_ゝ・`)「もりおかという人は知らないけど、よろしく」
デミタスと向かい合う形で、机同様に真っ黒い椅子が一つ置かれている。
肘掛けに、ベルトらしきものが付いているのが確認出来た。
あからさまに意味ありげだ。
- 930 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:14:59 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「……魔女と男が来なかったか」
(´・_ゝ・`)「唐突だね」
(´・ω・`)「いいから答えろよ」
デミタスは、口元にうっすらと笑みを浮かべた。
ショボンに似た八の字眉のせいで、苦笑しているように見える。
(´・_ゝ・`)「来たよ。
『魔女と人間が平和に一生を添い遂げる話はないか』って言われたな。
そんなの、ここにはないよと答えたら、さっさと6号館へ行ってしまった」
(´・ω・`)「そう。――僕らもさっさと6号館に行きたいんだけど、
これまでの流れからすると、そうは問屋が卸さないってか? あ?」
対し、ショボンは性格の悪さが滲み出た笑顔で返した。
いつもの余裕が欠けているように感じられる。
渡り廊下での会話から、彼も多少は焦っているのだろうか。
(´・_ゝ・`)「別に、行ってもいいよ」
ζ(゚、゚;ζ「――へ?」
ショボンの様子を観察していたデレは、デミタスの返答に、
気の抜けきった声をあげてしまった。
行ってもいい、と言ったか。今。
- 931 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:17:41 ID:7KP.TRzkO
o川;゚ー゚)o「え……本当に? いくら何でもイージーモードすぎない?」
(´・ω・`)「へえ。さすがは作家の中でも個性の薄いデミタス氏だ。ありがたいや」
(´・_ゝ・`)「よく分からないけど、褒めてくれたのかな」
(´・ω・`)「地味っつってんだよ」
(;´・_ゝ・`)「やっぱりよく分からないけど、酷いね」
( ^ν^)「……」
デレは、黙りこくるニュッの顔を覗き込んだ。
顎に手をやり、デミタスを睨むように眺めている。
いかにも疑っている表情だ。
( ^ν^)「何を企んでんだ」
(;´・_ゝ・`)「企むって……信用ないなあ。
まあ、そう訊いてくれると手っ取り早い」
乾いた笑いを落とし、デミタスが頭を掻く。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
- 935 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:22:30 ID:7KP.TRzkO
(´・_ゝ・`)「――君達の内3人だけ、6号館へ行ってもいい」
ζ(゚、゚;ζ「さ」
3人だけ。
デレは、1人ずつ数えていった。
そんなことをするまでもなく、自分を入れて4人だ。
o川*゚ー゚)o「1人は?」
(´・_ゝ・`)「ここに残って、僕と本達の相手をしてもらう。
そのために机を用意したんだよ」
(´・ω・`)「あーあ。ついにか。
いつ来るかいつ来るかと思ってたよ、仲間喪失イベント」
大仰に溜め息をつき、ショボンが後ずさりをする。
どんな相手をすればいいのかとニュッが訊ねた。
- 938 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:24:57 ID:7KP.TRzkO
(´・_ゝ・`)「ここは、謎解きを楽しみたい魔法使いがやって来る場所だ。
けれど、みんな、一度謎を解いちゃうと満足してしまう。
僕としても本としても、もっと遊んでいってほしいのに」
(´・ω・`)「……あれかい。あんたと本のために、推理ごっこをしろってこと?」
(´・_ゝ・`)「そういうこと。でも、君ら人間は魔法使いと違って、
本の世界と現実を自由に行き来することは出来ない。
好きなところで始めて好きなところで終わるってのが不可能なんだ」
ζ(゚、゚;ζ「それどころか、取り込まれちゃいますもんね」
(´・_ゝ・`)「ん。まあ、それは僕が上手いことコントロールすれば、取り込まれずに済むけど。
何にせよ、謎解きのシーンに行くまで時間がかかってしまう」
3号館で、ハローはデレ達を本の中から引きずり出した。
司書ならば、その「コントロール」とやらが可能なのだろう。
(´・_ゝ・`)「だから、そこの椅子に座って、
僕から出される問題にどんどん答えていってほしい。
間違えたら、その瞬間、本の養分になってもらおう」
o川;゚ー゚)o「……餌だの養分だの、嫌な表現するわ」
( ^ν^)「間違えなかったら?」
(´・_ゝ・`)「次の問題を出すよ」
( ^ν^)「それじゃあ、いつ解放されんだよ」
(´・_ゝ・`)「そうだなあ……ここにある全ての謎を解けたらかな」
――解放する気はないということか。
演じさせられているからとはいえ、デミタスを「嫌な人」と思う日が来ようとは。
- 939 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:27:34 ID:7KP.TRzkO
(´・_ゝ・`)「出来れば頭のいい人に残ってもらいたいね。
さすがに1問目で脱落されると、つまらない」
ニュッ、ショボン、キュートの目がデレに向けられる。
こいつは論外だな、と、眼差しが物語っていた。
(´・ω・`)「良かったねデレちゃん、頭悪くて」
ζ(゚、゚;ζ「ぐおお……」
( ^ν^)「……どうしても1人残らなきゃ駄目か?」
(´・_ゝ・`)「嫌?」
o川;゚ー゚)o「そりゃあ嫌に決まってるじゃないですか」
(´・_ゝ・`)「断るつもりなら――今すぐ、全員を本に閉じ込めるけど」
キュートが口を噤む。
仲間の中から1人抜けるのは決定事項らしい。
- 940 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:30:29 ID:7KP.TRzkO
(´・_ゝ・`)「……さあ、誰にする?」
当然と言うべきか、誰も名乗り出ない。
廊下でショボンが言っていた。
「この図書館の本に取り込まれる、ってのも死亡みたいな扱いになるとすれば」。
もしも、それが認められるなら――ここに残るのは、自ら死にに行くようなものだ。
ζ(゚、゚;ζ「……」
ニュッは主人公である。デレ以上に論外だ。
ショボンとキュートは、2人とも頭がいい。
デミタスの要求に応えられるとすれば、この2人のどちらかになる。
だが――今ここで考慮するべきなのは、「デミタスに必要とされる人物」ではない。
これから先、不要な人物だ。
いなくても問題ない。そういう。
ζ(゚、゚;ζ(私だ……)
頭が悪い。察しも悪い。
先程の話し合いの際も、つくづく実感した。
自分は、彼らについていけていない。
役に立てたことといえば、ハローを説得したときだけで。
あれだって、ハローの聞き分けが良かったおかげでしかない。
- 941 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:32:20 ID:7KP.TRzkO
ショボンとキュートには、ニュッのサポートとなる価値が充分にある。
たとえそうでなかったとしても、彼らを犠牲にするのは嫌だ。
自分なら嫌ではないのかと問われれば、そりゃあ嫌だが、そちらの方がマシ。
ζ(゚、゚;ζ「……あの」
デレは、手を挙げようとした。
――が。
(´-ω-`)「ああ、やめやめ。疲れた」
デレの肩に手を乗せたショボンに、後方へ押しやられてしまった。
- 943 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:35:46 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「わっ……」
よろける。
キュートに支えられて体勢を立て直し、机に目を遣った。
丁度、ショボンが椅子に腰掛けるところだった。
ζ(゚、゚;ζ「ショボンさん!?」
(´・_ゝ・`)「君が残るの?」
(´・ω・`)「文句ある?」
(´・_ゝ・`)「いいや」
デレ達が机へ駆け寄る。
ショボンは顔を擡げ、ニュッを一瞥した。
- 945 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:38:24 ID:7KP.TRzkO
(´・ω・`)「行ってらっしゃい。頑張ってね」
( ^ν^)「……本当に残んのか」
ζ(゚、゚;ζ「駄目です、私が残ります!」
(´・ω・`)「おいおい、まさか僕が自己犠牲の精神でここに座ってると思ってるの?
気持ちの悪い誤解をしないでほしいな」
o川;゚ー゚)o「た、たしかに遮木さんがそんな精神持ち合わせてるようには思えないけど」
(´・ω・`)「知り合って一日も経ってないのに、そこまで言うかい。
……だからね、疲れたんだってば。もう動きたくないや」
(´・ω・`)「第一、とっくに4500円分の仕事は終わってるんだよ。
これ以上僕を働かせたいなら、追加料金を取ろうじゃないか」
ζ(゚、゚;ζ「……払います」
(´・ω・`)「僕は疲れてる。腹も減ったな。
こんな状態で仕事をしろってんなら、かなりの額になるよ」
にやりと笑い、ショボンは足を組んだ。
背もたれに寄り掛かる。
絶対に動いてやらないぞと、態度で示された。
- 946 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:40:50 ID:7KP.TRzkO
(´・ω・`)「僕が一歩進むごとに100万だ。10歩で一千万。
君に払える? 物や体での支払いは受け付けないよ。現金一括」
ζ(゚、゚;ζ「そんな――子供みたいな数字出して、誤魔化されると思ってるんですか。
……ショボンさんも言ったでしょ、私のせいでこんなことになってるんです!
私が責任とりますから!」
(´・ω・`)「うるさいなあ……」
(´・_ゝ・`)「どうするの、交代するの?」
(´・ω・`)「しない」
(´・_ゝ・`)「そうか」
デミタスは、ショボンへ肘掛けに腕を乗せるよう指示した。
言われた通りにしたショボンの手首にベルトを巻きつけ、固定する。
(´・_ゝ・`)「そっちの3人は僕についてきて。出口まで案内しよう」
ζ(゚、゚;ζ「……ショボンさん……」
(´・ω・`)「今生の別れみたいな顔しないでよ。
だから、僕は自己犠牲なんて真っ平ごめんだっつうの。
誰が君達なんかのために死んでやるかよ」
- 949 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:45:46 ID:7KP.TRzkO
(´・ω・`)「早く行って、早くツン達をどうにかして、早く演じ終わらせてきて。
それまで僕は、クイズを解きながら遊んでるから。
……間違えなきゃいい話でしょ?
(´・ω・`)「これ以上働かず、君達が勝手に解決するのを待つだけの身だ。楽なことこの上ない」
ζ(゚、゚;ζ「……っ」
( ^ν^)「行くぞ」
ニュッがデレの腕を引っ張り、既に歩き出しているデミタスを追った。
キュートはショボンに会釈し、ニュッの後に続く。
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん、止まっ……」
( ^ν^)「残るならショボンが一番いい。
上手くいけば、あいつの言うように、演じ終わるまで無事でいられるかもしんねえ」
ζ(゚、゚;ζ「上手くいかなかったら? 途中で間違えたら、」
o川*゚ー゚)o「……でも、デレちゃんや私が残るよりは、成功する可能性は高いんじゃない?」
ζ(゚、゚;ζ「そ、そうだけど……」
(´・_ゝ・`)「今更ごちゃごちゃ言ったって遅いよ」
諦め悪く食い下がろうとしたデレだったが、
デミタスの呟きで、何も言えなくなってしまった。
俯き、また顔を上げて。
後ろに振り返る。
ζ(゚、゚;ζ「ショボンさん、頑張ってください! すぐ終わらせますから!」
だだっ広い館内に、声が響き渡った。
もう随分と離れてしまったショボンが返事をしたかどうか、デレには分からなかった。
.
- 952 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:48:43 ID:7KP.TRzkO
(´・_ゝ・`)「――さあ、どうぞ」
赤い革のカバーが嵌められたハンドルを引き、デミタスは一礼した。
ニュッ、キュートが足早に出ていく。
ζ(゚、゚*ζ「……問題出すの、お手柔らかにお願いしますね」
去り際、デレがそう言うと、デミタスは少しだけ笑った。
了承したのか嘲笑したのか、どちらだろう。
*****
- 953 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:50:41 ID:7KP.TRzkO
(´・_ゝ・`)「待たせたね。始めよう」
ショボンが待ちくたびれて欠伸を漏らした頃、
何冊もの本を抱えたデミタスがようやく戻ってきた。
本を机に置き、向かいに座る。
(´・ω・`)「逃げる気はないんだけど、このベルト、外してもらえないのかな?」
(´・_ゝ・`)「念のためね」
(´・ω・`)「あっそう。はは、こんな姿、ブーンが見たらさぞかし笑うだろうね」
デミタスは積まれた本の中から一冊選ぶと、それを机の中心へ寝かせた。
(´・_ゝ・`)「まずは、この本からにしよう。
ストーリーの概要は僕が説明する。君は、そこから推理してくれ。
手掛かりは全て出すよ」
(´・ω・`)「分かった」
足を組み替える。
ふんぞり返り、ショボンは冷笑した。
(´・ω・`)「さあ、僕の暇潰しに付き合ってもらおうか」
*****
- 955 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:52:00 ID:7KP.TRzkO
――遮木ショボンは冷静な人間である。
嫌な言い方をすれば、冷淡でもあった。
友人だから。知人だから。そんな理由だけで他人を心から信用することは滅多にない。
たとえば誰かが首を絞められて殺されたとする。
その場に内藤がいたとしたら、ショボンは躊躇なく内藤を容疑者として挙げるだろう。
逆に、殺され方が刺殺か何かだったら、しかも犯行に計画性が見られたなら、
内藤を容疑者から外すかもしれない。
血が苦手なのを知っているからだ。
彼が無条件で信じるものなど、己と金くらいではなかろうか。
だから。
(´・ω・`)『――ツンはさあ、自分が死にたくないから救急車を呼ばなかったんじゃないの?』
こんな結論だって、平気で口にする。
.
- 956 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:54:05 ID:7KP.TRzkO
( ^ω^)『……何言ってんだお』
(´・ω・`)『普通、真っ先に考えつかない? 前から言おう言おうとは思ってたけど』
その日は、夏だった。
モナーが亡くなってから1年と2ヶ月が経過した日。
じいじい、蝉がうるさい真夏。
たしか、行方不明だった本の手掛かりを得たショボンが、内藤に報告しに来たのだったか。
1階のテーブルで、内藤とショボン、ニュッの3人が話していた、筈。
このとき、ツンは2階から用意したアイスティーを運んできたのだが、
先のショボンの言葉を聞いてしまい、出るに出られなくなったのだ。
カウンターの奥のドアを一枚挟んで、ツンは、彼らの会話を立ち聞きする形となった。
ξ゚听)ξ『……』
(´・ω・`)『例の「10分間」、あの場にはツンと爺さんしかいなかった。
爺さんの傍には、ツンの本とペンがあった。
……ってなったら、ねえ? ニュッ君、分かるでしょ?』
( ^ν^)『――……言いたいことは、分かる』
( ^ω^)『僕には分からないお』
(´・ω・`)『お前なあ、ニュッ君ですら分かってるんだよ。中学生以下か。
……っていうか、甘いんだね。性格も考えも』
早く言えと内藤が苛立った声をショボンにぶつける。
からん、と、グラスの中で氷が音を立てて、ツンは肩を竦めた。
様子を窺ったが、内藤達には聞こえなかったようだ。
- 957 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:55:18 ID:7KP.TRzkO
(´・ω・`)『目の前で虫の息になった爺さんを見て、ツンは恐くなった。
彼が死ねば、自分も死んでしまうんだから』
(´・ω・`)『それで、本とペンを持ってきて、爺さんに書かせた。
他の作家のように――自分の死亡条件を、ニュッ君主体のもの、
あるいは別の……とにかくもっと長生き出来るような条件に変えるような内容をさ』
ξ゚听)ξ
一瞬。
蝉の鳴き声や、自分の息遣いが、聞こえなくなった。
- 958 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:57:18 ID:7KP.TRzkO
( ^ω^)『……本の内容は書き換えられないお』
(´・ω・`)『でも書き加えることは出来るんでしょ?
それなら、どうとでもなる。
ツンは「本の子」第一号だから、記述にはいくつも穴がありそうだしね』
(´・ω・`)『書かなければ救急車を呼ばないぞと脅して、爺さんに書き加えさせる。
書き終えたところで爺さんは力尽きた。
……これなら筋は通るでしょ。あの状況も、今ツンが生きてる理由も』
( ^ω^)『そんな面倒なことをするくらいなら、早く救急車を呼べば――』
(´・ω・`)『呼んだところで助からないかもしれないじゃない。
いや、まあ、これは憶測に過ぎないよ。
別に、絶対にそうだと言い切るつもりはない』
(´・ω・`)『たとえ僕の推理が正しかろうと、ツンを責めもしないしね。
僕が彼女の立場なら、そういう行動に出るもの。
……ね、ニュッ君』
( ^ν^)『……』
(´・ω・`)『ニュッ君?』
――その後の彼らの会話は、聞いていない。
足音を立てぬように階段を上り、ツンは食堂のテーブルにアイスティーを置いた。
椅子に座り込み、突っ伏す。
- 959 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 19:58:40 ID:7KP.TRzkO
ξ )ξ『……、……』
ショボンの話は、第三者からすれば充分信用するに足りるものだ。
勿論自分は、そんなことなどしていない。
していない。けれど。
証明する術がない。
早い内に言っておけば良かった。
内藤に責められたときに、みっともない言い訳だと思われてもいいから、話せば良かった。
「あのとき」に何があったか、話せば良かった。
だが、もう遅い。
内藤はショボンの言葉をどう受け止めるだろう。
信じないでくれるだろうか。
「それもそうだ」と納得してしまうだろうか。
ξ )ξ『ぶ……ん……』
少なくとも。
疑惑の種は蒔かれてしまった。
後で、夕食のときにでもいいから、会ったときに何か言ってほしい。
訊いてほしい。
そうしたら答えられるから。そうしたら、信じる如何は置いておいても、否定は出来るから。
しかし否定したところで何になる。
真実がどうであれ、自分が見殺しにした事実は変わらない。
でも。
だって。
- 960 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:00:42 ID:7KP.TRzkO
――そういえば、幾度、自分を責めてきただろう。
モナーを殺した、内藤に恨まれた、と嘆き続けて、結局、何もしてこなかった。
それでは、こんな風に、全てが手遅れになるのも当たり前だ。
今更そのことに気付いても、どうすればいいか分からない。
何をしても悪い方向にしか進まぬように思える。
ξ )ξ
ああ。何てことだ。
こんなに苦しいのに、涙すら出ないではないか。
.
- 961 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:01:27 ID:7KP.TRzkO
#####
- 962 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:02:19 ID:7KP.TRzkO
内藤モナーが亡くなった日。
彼が血を吐いて倒れ、ツンが救急車を呼ぶまで。
――内藤達が知らぬ、「10分間」。
.
- 964 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:03:38 ID:7KP.TRzkO
ツンは、その日の夕飯を何にするべきか迷っていた。
1人で考えていても埒が明かない。
モナーに訊こうと、食堂を出る。
ξ゚听)ξ『――モナーさん、何してるの?』
住人の部屋が並ぶ廊下。
真ん中に、モナーが立ち尽くしていた。
右手が口を、左手が胸元を押さえている。
モナーはツンの問いに答えない。
不審に思ったツンは、小走りでモナーに近寄った。
ξ゚听)ξ『モナーさ……』
腕に触れる。
その瞬間、モナーが咳き込み――右手の指の隙間から、血液が散った。
ξ;゚听)ξ『……どっ』
どうしたの、と声をかける前に、彼は床に膝をついた。
背を丸め、何度も咳をする。
びちゃり、水音が響いた。
- 965 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:05:11 ID:7KP.TRzkO
(; ∀ )『う……――っ』
ξ;゚听)ξ『モナーさん!』
救急車。
救急車を呼ばなくては。
踵を返しかけたツンだったが、モナーの声に、足が止まった。
(;´∀`)『……ツン……』
ξ;゚听)ξ『な、何? 早く救急車呼ばなきゃ――』
(;´∀`)『それより、先に……頼みがあるモナ……』
語調が弱々しい。
ツンは屈み込み、耳をそばだてた。
(;´∀`)『……ペンと、お前の本を持ってきてほしいモナ』
ξ;゚听)ξ『私の?』
(;´∀`)『お前を生んだ本……』
ξ;゚听)ξ『何でそんなもの……ねえ、先に救急車を呼んでからでもいいでしょう?』
(;#´∀`)『――早く持ってこいと言っているモナ!』
ξ;゚听)ξ『っ!』
モナーが、床を叩いた。
息を荒げ、脂汗を滲ませて。普段は温厚そうに見える目でツンを睨みつける。
その必死の形相に気圧され、こくこくと頷き、モナーの部屋へと走った。
- 966 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:07:36 ID:7KP.TRzkO
ξ;゚听)ξ『……本……!』
いくつもある本棚から、自身の、白い本を探す。
見付からない。
焦れば焦るほど手が震え、何冊かが床に落ちた。
ξ;゚听)ξ『どこよ、――どこにあるのよ!』
机に飛びつき、積まれている本やノートをどかしていく。
そこも駄目だと分かると、引き出しに手をかけた。
引っこ抜く勢いで開ける。
1段目、2段目、3段目。
ξ;゚听)ξ『あ……』
あった。
3段目の奥。
ようやく見付けた本を抱え、ドアに駆ける。
が、突然振り返ると、すぐさま机へと戻った。
机上のペン立てから適当にボールペンを取り、今度こそ部屋から出る。
- 967 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:09:55 ID:7KP.TRzkO
ξ;゚听)ξ『モナーさん!』
モナーは、変わらぬ体勢でそこにいた。
本を探す間に少しでも回復してくれることを願っていたが、それは叶わなかったようだ。
ξ;゚听)ξ『ごめんなさい、なかなか見付けられなくて……』
本とボールペンを手渡そうとすると、モナーは引ったくるような勢いで受け取った。
すっかり青ざめ、口元が血に汚れている。
血まみれの手でペンを握るモナー。
本の最後のページを開き、床に突っ伏すような姿勢で、何かを書き始めた。
何を書くのだろう。
目を凝らそうとして、思い出した。
ξ;゚听)ξ『……電話……!』
血を吐いてから、既に結構な時間が経っている。
急がなくては、本当に危ない。
――なのに、モナーは、またしても「行くな」と邪魔をした。
(;´∀`)『書き終わる前に、救急車が到着したら、意味がない、から……』
ξ;゚听)ξ『……何なのよ! そんな場合じゃないでしょ!?』
(;´∀`)『そんな場合モナ……』
- 968 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:11:45 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)『――ツン?』
ξ;゚听)ξ『あ……ニュッ君!』
後ろから声。
ニュッだ。学校から帰ったのだろう。
ツン達の方へ走り寄ってくる。
彼は一瞬硬直したが、すぐに、ツンへ指示を出した。
( ^ν^)『救急車』
ξ;゚听)ξ『……う、うん』
電話をかけるため、食堂へ走る。
モナーは、今度は止めなかった。
*****
- 971 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:16:15 ID:7KP.TRzkO
ツンはペンを止めた。
それまで文字を書き込んでいたページを破り取り、ぐしゃぐしゃに丸める。
( ^ω^)「……さっきから、魔女さんは、何をしてるんだお……?」
ξ゚听)ξ「……おはよう。何でもないわ。気にしないで」
5号館も突破した。
ならば、主人公の仲間は1人減っている筈。
物語通りだとすれば、5号館に残ったのは、デレか、もう1人の少女役の人物だろう。
だが、その辺りに関しては、彼らの選択を優先させるように「本」に言っておいたから、
案外ショボンでも残ったかもしれない。
何にせよ、その人物には申し訳ないことをした。
この図書館の本に取り込まれた場合、現実世界に帰ってこられるか分からない。
別に彼らの命まで奪いたいわけではないから、5号館に残った者には是非粘ってほしい。
ξ゚听)ξ「また何か足りないものがあった?」
( ^ω^)「だお……暖炉がないお。あれがないと、寒くて大変だお」
ξ゚听)ξ「暖炉ね」
ペン先が空中に真一文字を描く。
真っ白な空間の一部に、煉瓦で出来た暖炉が組み立てられた。
その周囲にだけ、煉瓦と同色の壁が広がる。
- 972 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:17:28 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ「よく御覧、あるじゃない」
( ^ω^)「おっ! ごめんなさいお、ぼうっとしてたみたいだお。
たしかに暖炉があるお」
ξ゚听)ξ「でしょう。だから、あなたの部屋なのよ」
( ^ω^)「そうなのかお」
ξ゚听)ξ「ええ。……さあ、まだまだ夜よ。ゆっくりおやすみなさい」
( ‐ω^)「おーん……」
( ‐ω‐)「……」
ξ゚听)ξ「……えらいわね」
もう少し。
もう少しで、結末を迎えられる。
そしたら。
*****
- 974 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:19:06 ID:7KP.TRzkO
o川;*゚ー゚)o「ちょっと待って本当にちょっと待って深呼吸させて」
( ^ν^)「こうしてる間にもショボンがだな」
o川;*゚ー゚)o「分かってる! 分かってるけど!」
6号館の前。
扉を開けようとするニュッの手を押さえ、キュートは何度も深呼吸を繰り返した。
原因は、「残ってる作家はクックルさんだけですよね」というデレの一言である。
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん、どうせ、いつものクックルさんとは違うんだし……」
o川;*゚ー゚)o「なっ、何!? クックルさんとか関係ないし!
ちょっと深呼吸したくなっただけだし! 深呼吸が趣味なだけだし!!」
( ^ν^)「仮に趣味だとして、何故このタイミングで」
o川;*゚ー゚)o「やかましい!!」
- 975 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:23:47 ID:7KP.TRzkO
鞄を抱え直し、キュートは最後に一度深呼吸をすると、ニュッから手を離した。
いいですよ、と一言。
ζ(゚、゚*ζ「……図書館は、これで最後なんでしょうか」
( ^ν^)「多分」
ζ(゚、゚*ζ「なら、ツンちゃん、いますかね」
( ^ν^)「……分かんねえ」
扉を開ける。
3人は、6号館へ足を乗り込んだ。
目が眩み、デレは、頻りに瞬きをする。
明るい。
照明は特に変わった色をしていない。
ただ、館内のあちこちに台があり、花瓶が乗せられていた。
見たことのない種類だ。
花の匂いが漂っている。
- 977 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:25:26 ID:7KP.TRzkO
( ゚∋゚)「――よくここまで来れたな」
o川;*゚д゚)o「ほわあっ!!」
左方から低い声が飛んできた。
見れば、堂々クックル。
( ゚∋゚)「俺は6号館の司書だ」
ζ(゚、゚*ζ「どうも……。キュートちゃん、深呼吸深呼吸。趣味の」
o川;*゚д゚)o スーハースーハー
( ゚∋゚)「……大丈夫か、その子は」
( ^ν^)「気にすんな」
o川;*゚д゚)o「け。怪我の具合、は」
( ゚∋゚)「怪我?」
o川;*゚−゚)o「……いえ、何でもないです」
- 978 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:27:17 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「時間がないから本題に入るが、魔女と男はどこだ」
( ゚∋゚)「……魔女と人間が、永遠に一緒にいられる本を探してるって奴か?」
( ^ν^)「そいつ」
( ゚∋゚)「ここは、恋愛に関する本を扱ってるからな。
希望に応えられそうなものも、あるにはあったんだが……。
如何せん、『永遠に』の部分がネックだった」
ζ(゚、゚*ζ「……どうして?」
( ゚∋゚)「お互いに想いを寄せ合いキスをしてハッピーエンド、な話ばかりなんだ、ここの本は。
『終わってしまうのならキスが出来ない、キスが出来ないのなら意味がない』って
文句を言われてしまった。キスしたら魔女だけ帰ってきちまうからな」
o川;*゚ー゚)o「き、きす」
クックルの口から放たれたのが問題だったのか、そのたった二文字に顔を真っ赤にさせ、
キュートは宙へ視線を彷徨わせた。
戻ってきて、とデレがキュートの肩を揺さぶる。
- 979 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:29:25 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「……なら、魔女達はどこに行ったんだ」
( ゚∋゚)「あっちに」
クックルが、絨毯が伸びる先を指差した。
ζ(゚、゚*ζ「図書館って、ここで終わりじゃないんですか?」
( ゚∋゚)「本が収められてるのは、1号館から6号館までだけだが……。
まあ、行けば分かる」
( ^ν^)「簡単に行かせてくれんのかよ」
( ゚∋゚)「そうだなあ……」
クックルが右手を後ろに回す。
かと思うと、その手を再び前へ出した。
( ゚∋゚)「難しいな」
ζ(゚、゚;ζ「あ――」
本が突きつけられたのを知覚した、瞬間。
視界が白くなり、花の香りが強くなった。
.
- 980 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:30:35 ID:7KP.TRzkO
ζ(-、-;ζ
ζ(-、-;ζ「う……」
喧騒。
掌と膝に硬い感触。いつの間にやら座り込んでいた。
ζ(-、゚;ζ「……」
目を開ける。
見知った顔がいた。
( ^ν^)「……」
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん」
ニュッは返事をせずに、視線を下にやり、それから左にやった。
デレも真似る。まずは下。
床は、赤褐色の煉瓦で舗装されている。
床というか。
ζ(゚、゚;ζ(地面……?)
顔を左に向ける。
がくりと、デレの顎が下がった。
- 981 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:31:56 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「どこ!?」
大勢の人が、あちらこちらへ歩いている。
喧騒は彼らの話し声。
民族衣装のような、日本では馴染みのない服装をしていて――まるで異国である。
上には青空。外だ。どう見てもここは外だ。
四方八方を見渡す。
右側、すぐ目の前に壁があった。これまた煉瓦造り。
何かの建物のようだ。上方の窓から少年が身を乗り出させ、誰かに手を振っている。
どうやらデレ達は、往来の端っこにいるらしい。
聞き慣れぬ硬質な音がして、もう一度左を見遣ると、
馬車らしきものが通り過ぎていった。馬車って。
ζ(゚、゚;ζ「何これ……何これ……」
( ^ν^)「本の世界らしいな」
ζ(゚、゚;ζ「本の……」
( ^ν^)「6号館の」
ζ(゚、゚;ζ「――あ。そっか」
- 982 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:33:30 ID:7KP.TRzkO
クックルが突きつけた本。
あの本の中だと考えれば、突然わけの分からない場所に放り込まれたのも納得がいく。
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさんも一緒なんだ」
( ^ν^)「男と女、1人ずつで丁度よかったんじゃねえの」
ζ(゚ー゚;ζ「じゃあ私とニュッさんのラブストーリーってわけですね。あはは……」
ζ(゚ー゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「笑ってる場合かぁあっ!!」
( ^ν^)「セルフつっこみか」
ζ(゚、゚;ζ「どうするんですか! どうやって脱出すれば……!」
( ^ν^)「さあな。1号館じゃ、化け物から逃げ切るなり化け物をぶっ飛ばすなりすれば
脱出できたみたいだが」
ζ(゚、゚;ζ「何から逃げ切ればいいんですか。何をぶっ飛ばせばいいんですか。ニュッさんですか」
( ^ν^)「お前をぶっ飛ばすぞ。
……この話じゃ、逃げたりぶん殴ったりする対象がいなさそうなんだよな」
ニュッが壁に手をつき、立ち上がる。
デレも腰を上げた。
- 983 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:34:38 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「――今は、俺とお前が出会ったっつうシーンか?」
ζ(゚、゚;ζ「これから親睦を深めつつ、すれ違っちゃったり喧嘩しちゃったりして
色々あった末に結ばれるわけですね。展開上は」
( ^ν^)「面白みの欠片もねえな。お前が相手な時点で」
ζ(゚、゚;ζ「こっ、こっちの台詞です!
……どうします? ニュッさん。何したらいいんでしょう」
壁に寄りかかり、空を見上げる。
早く脱出しなければ、完全に取り込まれてしまう。
それとも、既に――
( ^ν^)「……とりあえず、終わらせるか」
ζ(゚、゚;ζ「へ?」
( ^ν^)「一気に結末まで持ち込めば、出られるかもしれねえだろ。
幸いなことに、俺達はオチを知ってる」
ζ(゚、゚;ζ「オチ……」
オチ。結末。
- 984 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:35:40 ID:7KP.TRzkO
( ゚∋゚)『お互いに想いを寄せ合いキスをしてハッピーエンド』――
ζ(゚、゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「ちょ……おま……」
顔を赤くさせればいいのか、青くさせればいいのか。
デレはニュッを凝視した。
すると見つめ返されたものだから、慌てて目を逸らす。
気まずい。
意識がどうしても唇に集中してしまう。
誤魔化すため、おかしくも何ともないのに、口だけで笑顔を作った。
- 992 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:46:00 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚ー゚;ζ「いやいやいや……きっ、ききっ、キスですか……?」
( ^ν^)「ツンは、話が終わっちまうからキスが出来ないって言ったらしいじゃねえか。
なら、やっちまえば話は終わるんだ」
ζ(゚ー゚;ζ「でも。キスですよ。せ、接吻とか、口づけとか。ちゅーですよ。
そんな……ひいっ!!」
ニュッの手が、デレの頬に触れた。触れたというか、鷲掴みにされた。
乱暴な手つきで、顔を無理矢理ニュッの方へ向けられる。
( ^ν^)「嫌か」
ζ(゚ー゚;ζ「嫌って……嫌じゃな……あっ、いえ、ニュッさんが嫌いなわけじゃないって意味で。
ていうか何ですかニュッさん! やる気満々ですか!?
ニュッさんらしくない!!」
( ^ν^)「もたもたしてらんねえだろ」
ζ(゚ー゚;ζ「そ、そう、です、けど!
……ニュッさんは! ニュッさんは、いいんですか、……私なんかで……」
( ^ν^)「お前が嫌じゃなければ」
ζ(゚ー゚;ζ
- 993 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:47:44 ID:7KP.TRzkO
本当に、ニュッらしくない。
少し迷って、デレは、
ζ(゚ー゚;ζ「……じゃあ、どうぞ……こんなもんで良ければ……」
頷いた。
ニュッの手から、僅かに力が抜ける。
先程とは打って変わって、指先が慎重に頬を撫でた。
耳の方へ滑っていく。
今になって、鼓動が激しくなり始めた。
ニュッの顔が近付き、デレは、ぎゅっと口を引き結ぶ。
- 995 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:48:47 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「馬鹿」
ζ(゚、゚;ζ「は」
デレの髪を掬い上げ、ニュッは、一瞬だけ毛先を唇に触れさせた。
.
- 996 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:50:23 ID:7KP.TRzkO
また、視界が真っ白になった。
花の香り。
瞬きをすると、あの街並みは消えていた。
( ゚∋゚)「……早かったな」
( ^ν^)「終わらせるヒントはもらったからな」
( ゚∋゚)「ああ……ああ、そうか。言っちまってたか。しまった」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「も」
ζ(゚、゚;ζ「弄んだ! 弄んだ!!」
( ^ν^)「別に、どこにするかは指定されてなかっただろ。
このドスケベが」
ζ(゚、゚;ζ「あんな誤解させるような言い方と触り方するニュッさんがスケベじゃい!!
時間がないだのもたもたしてられないだの言っといて、
よくもまあ人をからかう余裕がありますね!!」
何というお約束。
キスならば、どこでも良かったのか。
緊張した自分が馬鹿らしくて、デレは唇を噛み締めた。
怒りやら照れやらが顔に熱を運ぶ。
- 999 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:51:56 ID:7KP.TRzkO
o川;* ー )o スーハースーハー
ζ(゚、゚;ζ「……えっ、どうしたのキュートちゃん。壁に凭れて」
(;゚∋゚)「何か突然『急に2人きり!』って叫んで壁に逃げてったんだが。
本当に大丈夫なのか、そいつ」
( ^ν^)「色々と駄目かもしんねえな」
o川;* ー )o「不意打ちは……いかんよ……不意打ちは……」
ζ(゚、゚;ζ「ご、ごめん……私が悪いわけではないけど……」
キュートの背中を叩いて宥める。
もはや一種の病気だ。恋の病とはよく言ったものである。
- 4
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:55:26 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「……で。何のつもりだ。いきなり本の中にぶち込みやがって」
( ゚∋゚)「すまん。人間がここまで来るなんて滅多にないもんだから、
この機を逃すわけにはいかないと思ってな。
――終わらせる条件を知られてしまった以上、もう何をしても無駄か」
クックルの瞳がぎょろりと動き、キュートへ向けられた。
デレはキュートを庇うように抱き締め、後ずさる。
ζ(゚、゚;ζ「……きゅ、キュートちゃん、本の中に入っちゃったら、
すぐに相手の人にキスして。そしたら出られるから」
o川;*゚ー゚)o「キスですか」
ζ(゚、゚;ζ「キスです。場所は口じゃなくてもいいみたい」
( ゚∋゚)「そんなに警戒しなくても、何もしないぞ。説得力がないかもしれんが」
近くにあった花瓶の傍に本を置き、クックルが両手を振った。
容赦はないくせに、諦めがいい司書だ。
駄目押しとばかりにデレ達と距離をとる。
- 6
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:57:09 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「なら、俺らはここを出てもいいんだな」
( ゚∋゚)「いい。が、その前に」
( ^ν^)「……今度は何だよ」
( ゚∋゚)「1人、残ってほしい」
――またか。
キュートと共に、デレはニュッの背後に回った。
( ^ν^)「何のために」
( ゚∋゚)「一つ頼まれてもらいたいんだ。
いや、難しいことじゃない。ちょっと来てくれ」
クックルが絨毯の上を歩き出す。
ニュッは警戒していたようだったが、クックルが止まらずに進み続けるので、
仕方なしに後を追った。
デレとキュートもついていく。
4人共無言で、花の匂いが漂う館内の奥へ、奥へ。
扉が見えてくる。
まさかこのまま6号館を出るのではあるまいなと思ったデレの期待を裏切り、
クックルはニュッ達を留め、1人だけ右側へと逸れた。
本棚の前に行き、手近な場所にあった梯子を立て掛ける。
それを上ると、本を探し始めた。
- 8
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 20:59:34 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「……誰が残る?」
クックルに聞こえぬよう、小声で――普通の声量で話しても聞こえなさそうな距離だが――
ニュッがデレ達に訊ねる。
ζ(゚、゚;ζ「ぜ、絶対に残らなきゃいけないんでしょうか、やっぱり」
o川*゚ー゚)o「おとなしく従っておけば、さっさと次に行けるでしょ。
下手にごねて無駄に時間かけるよりはマシだよ。遮木さんのこともあるし」
ζ(゚、゚;ζ「それはそうだけど……」
( ^ν^)「まあ言うこと聞いたところで、本当に行かせてくれるか分かんねえけどな」
o川*゚ー゚)o「クックルさんは嘘つきません」ζ(゚、゚*ζ
きっぱり、2人同時に言い切る。
現実のクックルはそうだろうけど、と反論したニュッだったが、
最後まで続けずに、呆れたように溜め息をつくと腕を組んだ。
そこへクックルが戻る。
3冊ほどの本を抱えていた。
( ^ν^)「……その本が何なんだよ」
( ゚∋゚)「数百年もの間、誰にも選ばれなかった奴らだ」
「本にもモテない奴がいるもんだな」。クックルが苦笑する。
それよりデレは、数百年という数字の大きさの方に驚いた。
何とまあ、壮大な。
- 9
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:01:23 ID:7KP.TRzkO
( ゚∋゚)「可哀想じゃないか。
だから、そろそろ誰かに、こいつらの中に入ってほしいと思ったんだ」
( ^ν^)「中にって」
( ゚∋゚)「俺が外から、本に取り込まれないようにする。約束しよう」
ニュッが睨む。
クックルは真摯な眼差しで返し、信じてくれと言葉を付け足した。
――何にせよ、こちらは時間がない。
言い合いする暇もない。
ζ(゚、゚*ζ「私が――」
今度こそ自分が残るべきだと、デレは口を開いた。
しかし、「残ります」と続けようとした言葉はキュートに阻まれる。
o川*゚ー゚)o「それって全部主人公は女なの?」
( ゚∋゚)「いや。一冊は男が主人公だ」
o川*゚ー゚)o「その本の中に女の子が入ったらどうなる?」
( ゚∋゚)「主人公の相手役になる。男女逆でも同じだ」
o川*゚ー゚)o「そう」
- 10
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:04:35 ID:7KP.TRzkO
――嫌な予感。
o川*゚ー゚)o「じゃあ、私がやってあげる」
キュートは腰に手を当て、偉そうに言い放った。
デレが瞠目する。
ζ(゚、゚;ζ「駄目!」
o川*゚ー゚)o「何で?」
彼女までいなくなってしまうのは、駄目だ。
だってそうしたら――きっと、この先、ニュッだけが頼りになる。
キュートがニュッについていった方がいい。
それに、クックルのことは信用しているが、手違いが起こる可能性だってある。
もし、そんなことになったら。
- 12
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:06:49 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「何でって、だって」
自分の考えを説明したいのに、整然とした文章が口から出てこない。
泡を食うデレに微笑んで、キュートはデレの手を一度握り、すぐに離した。
o川*゚ー゚)o「大丈夫、クッ……じゃないや、司書の人が何とかしてくれるんだし。
より可愛い子の方が、本も喜ぶでしょ。
――さ、決まり決まり」
ζ(゚、゚;ζ「……」
o川*゚ー゚)o「まだぐだぐだ騒ぐつもりなら本気で怒るよ。
デレちゃんの無駄な我が侭聞く暇ないんだから。
ほらニュッ君さん、連れてって」
( ^ν^)「キュートさんってばイケメンですこと」
o川#゚ー゚)o「イケメンじゃなくて美少女でしょうが!!」
( ^ν^)「はいはい美少女美少女。……任せたぞ」
o川*゚ー゚)o「任されました」
- 14
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:10:57 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「あっ」
ニュッがデレの襟を掴み、扉へ向かう。
首が絞まって苦しい。
躓きそうになりながら歩いて、デレは何度もキュートを見た。
( ゚∋゚)「いいのか」
o川*゚ー゚)o「問題なし」
ζ(゚、゚;ζ「……キュートちゃん、ごめん」
o川*゚ー゚)o「何を謝ってんの」
上部に花の装飾がある取っ手を、ニュッが乱暴に押す。
一層強い力で外に出され、デレは首を押さえながら、叫ぶように言った。
ζ(゚、゚;ζ「――ちゃんと終わらせるから、待っててね!」
キュートが手を挙げる。
それをデレが確認した直後、扉は、閉じた。
*****
- 16
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:12:56 ID:7KP.TRzkO
出口をしばらく見つめていたキュートは、クックルへ向き直った。
( ゚∋゚)「残ってくれてありがとうな」
o川*゚ー゚)o「ふん。……ねえ」
( ゚∋゚)「何だ?」
o川*゚ー゚)o「ちょっと、頭触らせて」
( ゚∋゚)「何のために」
o川*゚ー゚)o「いいから」
( ゚∋゚)「……まあ、構わないが」
クックルが屈み、頭をキュートに向ける。
キュートは、おっかなびっくりといった様子で触れた。
所々で力を込めながら手を移動させる。
o川*゚ー゚)o「痛いところない?」
( ゚∋゚)「ない」
o川*゚ー゚)o「そう」
見たところ、傷もない。
昨日の事故現場の光景がフラッシュバックする。
- 19
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:14:56 ID:7KP.TRzkO
クックルは何者なのだろう。
ツンもだ。彼女も怪しい。
内藤が「青年」のモデルになっているし、ニュッは「昔」に読んだきりだと言っていたし。
この物語が書かれたのは、結構前のことだと推測される。
自分と同年代に見えるツンが、そんな昔に、こういった話を書けるだろうか。
考えれば考えるほど疑問が沸く。
だが、不思議と恐怖感はない。
彼女や彼が何者であれ――クックルは悪人ではないのだから。
ともかく、早く内藤から説明を受けるためにも、デレ達には急いで演じ終わらせてほしい。
o川*゚ー゚)o「……あ、そうだ」
肩に掛けた鞄の口を開け、中に手を突っ込む。
目当てのものを見付けると、それを引っ張り出した。
- 20
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:17:18 ID:7KP.TRzkO
o川*゚ー゚)o「あげる」
( ゚∋゚)「?」
紺色の紙に包まれた、小さな長方形の箱をクックルに押しつける。
昨日渡し損ねたプレゼントだ。
却って、この状況は良かったかもしれない。
今のクックルは、キュートに関する記憶がない、半分別人のようなものである。
これがいつものクックルだったら、恥ずかしすぎて、結局渡せずにいただろう。
o川*゚ー゚)o「プレゼント」
( ゚∋゚)「何で俺に?」
o川*゚ー゚)o「どうだっていいでしょ。
あとね、ケーキ、美味しかった。多分。
混乱しながら食べたから、ろくに味は分かんなかったけど。後でもう一回作って」
一方的に言葉をぶつける。
不審そうな顔をしながらも、クックルは頷き、箱を受け取った。
o川*゚ー゚)o「じゃ、やりますか」
( ゚∋゚)「ああ……すまん、手が塞がった。これの、一番上の本を取ってくれ」
o川*゚ー゚)o「はい」
クックルが右腕に抱えている本を言われた通りに取り上げ、それを見下ろした。
目が眩む。花の匂いが増す。
- 21
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:20:12 ID:7KP.TRzkO
o川*゚ー゚)o「どれくらいで終わるの」
( ゚∋゚)「その本なら……こっちの世界では、30分くらいだな。
向こうの世界では、体感――半日だと思う」
o川*゚ー゚)o「半日って長いなあ。短く出来ない?」
( ゚∋゚)「主要な場面だけを抜き出しての時間だ、我慢してくれ。
ストーリー通りの日数だと1年かかってしまうから」
o川*゚ー゚)o「そ。じゃあ我慢する」
( ゚∋゚)「……ところで、さっきのあいつらみたいに、
さっさとキスして終わらせるようなことはしないでくれるか。
それじゃあ本が可哀想だ」
o川*- -)o「分かりましたよっと」
瞼を下ろす。
デレ達には強がってみせたが、恐くないわけがない。
下手をすれば二度と戻ってこれないという危険が付きまとっている。
何ならクックルの言いつけを破って、すぐにでも終わらせてやりたい。
――だが、彼やこの本には悪いが、どれだけ経とうと、自分は結末を迎えはしないだろう。
誰が好きでもない男にキスなどさせてやるものか。
こちらからするなど以ての外。
「可愛い女の子」の唇は、そう安くはないのだ。
*****
- 26
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:23:06 ID:7KP.TRzkO
川д川『――あの子、デレちゃんっていったわよねえ……。また会えるかしらあ……――』
( ゚∋゚)『――面白い奴だな、あいつ。長岡デレ。ニュッ君が楽しそうだ――』
ハハ*ロ -ロ)ハ『――さっき、デレがネ、ワタシのセイじゃないッテ言ってくれたノ。
ニュッ君のタメに書いたんだカラ、ッテ――』
(*・∀・)『――デレちゃんっていい子だね。もっと話したいなあ――』
(#゚;;-゚)ノシ
(*゚ー゚)『――デレちゃんの体エロい、私が男だったらめちゃくちゃにしてやりたい、と
でぃちゃんが言ってるね。うんうん、私も同感だ!』
(;゚;;-゚) イッテナイ
(´・_ゝ・`)『――デレさん、大丈夫かな。あんな事件に巻き込まれて。
トラウマにならなきゃいいけど……――』
( ^ν^)『――今日は来てねえのか』
ξ゚听)ξ『誰が?』
( ^ν^)『あの阿呆』
(*^ω^)『何だお何だお、デレちゃんが恋しいかお』
( ^ν^)『死ね』
(*^ω^)『僕もデレちゃん恋しいおー。可愛いおね、あの子――』
#####
- 27
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:24:12 ID:7KP.TRzkO
川д川『――全部知られちゃったんだあ……離れないでいてくれるかしらあ……』
( ;∀;)『恐がるに決まってんじゃん! 嫌われたかな、もう来ないのかなあ!!』
( ゚∋゚)『館長が言うには、恐がってなかったらしいじゃないか』
( ^ω^)『恐くない、嫌じゃないとは言ってくれたお』
(*゚ー゚)『あのデレちゃんだしねえ。本当に気にしてなさそう』
(#゚;;-゚)) コクコク
ハハ ロ -ロ)ハ『デレなら有り得マス』
(´・_ゝ・`)『また来てくれたらいいね。……ニュッ君、どこ行くの?』
( ^ν^)『……ちょっと電話――』
.
- 28
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:25:26 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚ー゚*ζ
長岡デレ。
初めは、いつもの、本の標的にされた哀れな被害者でしかなかった。
けれど、図書館に出入りするようになって、作家達と交流していって。
いつしか、随分と大きな存在になっていた。
彼女の性格やら何やらと、この図書館の住人達との相性が良かったのかもしれない。
それは別にいい。
ツンだって、デレは嫌いではない。
けれど。
( ^ω^)『――本当に、いい子だお』
皆の話題にデレが挙がる頻度が増えるにつれ。
デレとの関係が深くなるにつれ。
内藤も、デレの名を出す頻度が増えて、デレとの関係を深くしていった。
ξ゚听)ξ
今まで感じてきたのより、さらに激しい嫉妬がじりじりと燃え上がる。
内藤が自分に向ける「可愛い」「好き」という言葉と、
デレに向けるそれとの間に、何か差があるように思えてならなかった。
*****
- 30
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:27:48 ID:7KP.TRzkO
( ^ω^)「……本棚が、ないお」
内藤の目が覚めるのも、これで7度目だ。
ツンは、本棚の色や形状を訊ねた。
( ^ω^)「5段で、ええと、戸棚と同じような色だお。同じ木で作られたから。
図鑑や童話や、色んな本が詰め込まれてるお。
あれは、とっても大切なものだお。あれがないなら僕の部屋じゃないお」
ξ゚听)ξ「なるほどね。ちょっと、目を閉じてごらん」
( ‐ω‐)「お?」
ペンを下から上へ動かす。
戸棚の隣に、件の本棚――に似せたもの――が現れた。
- 32
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:30:24 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ「目を開けて。……あれのこと?」
( ^ω^)「あ……ごめんなさいお、気付かなかったみたいだお。
まさしく、あれが僕の本棚だお」
ξ゚听)ξ「でしょう。だから、あなたの部屋なのよ」
( ^ω^)「そうなのかお」
ξ゚听)ξ「安心出来た? もう一度、眠っていいのよ」
( ^ω^)「んん、眠気、飛んできたお……」
ξ゚听)ξ「……眠って」
もう一度。
もう一度だけ。
内藤の目の上に、手を翳す。
一呼吸置いて、声は出さず、頭の中で3つ数えた。
――いち。
に。
さん。
*****
- 33
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:32:14 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさん、あんな……さっぱりしてるっていうか、薄情な人でしたっけ」
とぼとぼと渡り廊下を歩きながら、ニュッの隣でデレが呟いた。
人聞きの悪い。
( ^ν^)「何で」
ζ(゚、゚*ζ「ショボンさんとキュートちゃんが引き受けたら、あっさり置いてっちゃうし」
( ^ν^)「あの2人、俺が何言ったって聞かねえだろ」
ζ(゚、゚;ζ「……ですね」
( ^ν^)「……まあ、まったく心配してないわけでもねえけど」
本当は、不安だ。
言ってしまえば、これは、身内間でのごたごたである。
ショボンやキュート、デレなど、巻き込まれた不運な部外者以外の何物でもない。
彼らを危険な目に遭わせるのは不本意だし、申し訳なく思う。
だが、自分が主人公である以上5号館や6号館に残ることは不可能なわけで、
仮に残れたとしても、それはそれで3人に責任を丸投げする形になってしまう。
自分がするべきなのは、ショボンとキュートの無事を祈り、
一刻も早く物語を終わらせることだ。
改めて決意を固めたニュッがデレへ顔を向けると、悲しそうな表情をした彼女と目が合った。
- 34
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:32:54 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「……何だよ」
ζ(゚、゚*ζ「ごめんなさい……ニュッさんも、そりゃあ、心配してますよね。
優しいですもんね」
( ^"ν^)
ζ(゚、゚;ζ「て、照れなくていいじゃないですか!
あっ、ニュッさん、ニュッさん!」
( ^ν^)「あ?」
ζ(゚、゚*ζ「次の、あの、あれ、何なんでしょう」
抓ろうとするニュッの手を躱しながら、デレが正面を指差す。
今まで以上に長い廊下。
ちゃんと近付けているのか判別出来ないほど遠くに扉がある。
( ^ν^)「さあ」
ζ(゚、゚*ζ「本が置かれてるわけじゃないんですよね?
何でしょう……パソコンがあるとか?」
( ^ν^)「だとしたら雰囲気台無しだな」
ζ(゚、゚*ζ「雰囲気なんて今更って気もしますけどね」
- 35
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:34:18 ID:7KP.TRzkO
ニュッは、柄にもなく怯えていた。
結末が近い。
どんな終わり方だったろう。
このまま進んでいって――自分に、ツンをどうにか出来るだろうか。
ツン。
( ^ν^)(……ツン)
先のことを考えなければならないのに、ニュッの思考は、過去へと遡っていった。
7年前。
あのとき。
自分が見たことを、正直に内藤達に話していれば。
もしかしたら、ツンは、昔のまま、明るくいられたかもしれない。
- 36
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:35:01 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさん、足止まってますよ」
( ^ν^)「……ん」
我に返る。
そもそも、ツンの目的が心中だと決まったわけでもない。
ここで後込みしても仕様がないことである。
*****
- 37
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:36:19 ID:7KP.TRzkO
ζ(-、-;ζ「はあ……」
疲れた。
扉に凭れ掛かり、デレは息をついた。
思えば、ずっと歩き通しだ。
隣で、ニュッも扉へ身を預けて休憩している。
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん大丈夫ですか」
( ^ν^)「……は?」
ζ(゚、゚;ζ「だって貧弱じゃないですか……。足、痛くありません?」
( ^"ν^)
ζ(゚、゚;ζ「痛い痛いいたたたたた足踏まないで踏まないで、私の足が痛い!!」
束の間の休息を終え、デレは扉から離れた。
取っ手を見下ろす。
この先に、ツンがいる?
作家達は全員出尽くしたし、残るはツンと内藤だ。
すぐ向こうにツンがいるとしたら――はて、自分はどうしたらいいのだろう。
説得など出来るか?
出来たとして、どうやって終わらせればいいのだ。
- 38
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:40:03 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「……」
( ^ν^)「……開けるぞ」
ζ(゚、゚;ζ「あ。……は。は、はいっ!!」
デレは、ごくりと喉を鳴らし、ニュッと扉を凝視した。
ニュッが、慎重に、ゆるゆると扉を開く。
開ききって。
その先の光景に、デレもニュッも、一瞬、思考が停止した。
普通の部屋に見えた。
天井の高さも、明るさも、内装も。
広さは、学校の一般的な教室ほど。だと思う。
壁に、ずらりと、普通の大きさの本棚が並んでいる。
床一面に絨毯が敷かれていた。
部屋の中央に、机が一つ。
書類や本が積まれた机で、1人の人間が本を読んでいた。
- 39
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:40:47 ID:7KP.TRzkO
その人はデレ達に気付くと、本を閉じ、老眼鏡を外した。
知っている。
この人の顔を、デレは、写真で見たことがある。
この人の話を、デレは、聞いたことがある。
( ´∀`)「――いらっしゃい」
内藤モナー。
ニュッ達の、祖父。
数年前に――死亡した男。
.
- 43
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:45:13 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「な、あ、……お、おじいさ……」
( ^ν^)「……祖父ちゃん」
ニュッが、ぽつりとモナーを呼んだ。
彼が間違える筈がない。ならば、やはりあの老人はモナーだ。
( ´∀`)「どちら様モナ? ああ、どうぞ入って」
促され、2人は戸惑いながら入室した。
ニュッが扉を静かに閉める。
デレは、ニュッの腕を掴んだ。
ζ(゚、゚;ζ「これって……」
はっとして、ニュッが俯いた。
呼吸を二度三度する程度の時間をあけ、顔を上げる。
( ^ν^)「……『本』が作り出したんだ」
ζ(゚、゚;ζ「……じゃあ、本物のお祖父さんじゃないんですね」
( ^ν^)「当たり前だろ。祖父ちゃんは間違いなく死んでんだから」
――デレが最初に巻き込まれた事件と同じようなものだ。
ここにいるモナーは、あのときの女のように、「本」の中から出てきた、純正の登場人物。
- 45
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:47:35 ID:7KP.TRzkO
ツンは図書館の住人達をモデルにしていたらしいから――このモナーは、
あくまで、モナーをモデルとして作られたキャラクターということになる。
混乱していた頭が落ち着いてきて、デレは意味もなく頷いた。
ζ(゚、゚;ζ「でも、あれじゃ、本人そのものじゃないですか」
( ^ν^)「『本』が記憶の中から引っ張ってきたんだろ。でなきゃ説明つかねえ」
ζ(゚、゚;ζ「ああ……」
( ´∀`)「2人でこそこそして、どうしたモナ?」
( ^ν^)「いや。……ここは何の部屋だ」
( ´∀`)「館長室モナ。
もしや、そちらは例の、人間のお客様モナか」
ζ(゚、゚*ζ「は、はい、そうです」
( ´∀`)「よく御無事で。それで、僕に何用モナ」
モナーは――便宜上モナーと呼ぶ――首を傾げ、机の上で手を組んだ。
貼りついたような笑みが、彼の思考を欠片も覗かせてくれない。
声は、どこか突き放すような鋭さを含んでいる。
デレは実際に会ったことも話したこともないが、内藤から聞いた通りの人だと思った。
- 46
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:49:25 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「俺の家族を探してる。魔女に、ここへ連れ去られたんだ」
たとえそっくりだろうと別人であると割り切っているのか、
ニュッは、モナーに向かって用件だけを口にする。
しかし多少とも動揺はしているらしく、モナーを真っ直ぐ見ようとはしなかった。
( ´∀`)「君の家族とやらは、男モナ?」
( ^ν^)「ああ」
( ´∀`)「なら、少し前に来たモナね。
望む本が見付からない、他に何かないか、とか言ってたモナ」
ζ(゚、゚;ζ「その人達、それからどうしたんですか!」
( ´∀`)「上に行ったモナ」
モナーが天井を指差す。
そこには明かりがぶら下がっているだけだ。
ζ(゚、゚*ζ「上?」
( ´∀`)「本がないなら、自分で書いてしまえばいいとアドバイスしたモナよ。
そしたら乗り気だったから、上の部屋を貸してやったんだモナ」
( ^ν^)「……どうやって行けばいい」
( ´∀`)「そっちに出れば、階段があるモナ」
モナーの指先が、今度は、デレ達がいるのとは反対側の壁を示す。
そちらにも扉があった。
- 47
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:50:37 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚*ζ「行ってもいいですか?」
( ´∀`)「いいけど、行ってどうするモナ」
ζ(゚、゚*ζ「止めるんです」
沈黙。
モナーは表情を変えぬまま、ふ、と息を漏らした。
( ´∀`)「――君達が、そんなことをしても許される道理があるモナ?」
ζ(゚、゚;ζ「どっ、道理ですか?」
( ´∀`)「幸せになれそうな者の邪魔をする権利が、どこにあるモナ。
どうせ彼女が魔女である以上、この世界にいる限り人間と結ばれることはないし。
ならば本の世界に旅立たせてやるのが、彼女のためじゃないモナか」
ζ(゚、゚;ζ「……」
――ツンの幸せだけを考えれば、たしかに、モナーの言う通りである。
この物語の世界にしても、現実世界にしても。
だからこそ、デレ達は焦っているわけで。
- 48
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:52:42 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「そんなもん、幸せなのは魔女だけじゃねえか」
( ´∀`)「でも彼女の邪魔をすれば彼女は幸せになれない」
( ^ν^)「そいつを優先させたら、俺の家族や、……俺が幸せになれねえ」
( ´∀`)「はは、得てしてそういうものモナね。
丸く収まって全員ハッピーエンド、なんてフィクションの中だけモナ」
モナーは、積まれた本をぽんぽんと叩いた。
ニュッが彼の手元を睨みつける。
( ´∀`)「逆に、君達の幸せを優先させたところで、
願い通りの結果になるとも限らんモナよ」
( ´∀`)「僕だって、自身の経験で痛感してるモナ。
よかれと思って人のためにした行動が、
結局、後々に悪い方へ転がったことがあるモナからね」
モナーの声音が心持ち下がった。
からかいや煽りより、何かを訴えかけているような。
違和感。
- 49
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:54:09 ID:7KP.TRzkO
( ´∀`)「改めて考えてみて、君は、どちらを選ぶモナ?
魔女1人の幸せと、君や家族の幸せ――」
モナーとニュッが黙し、静寂が訪れた。
「本」の設定からすれば、ニュッ――主人公が魔女に肩入れする必要はない。
けれども、ニュッはニュッだ。
ツンも内藤も、彼の家族である。
( ^ν^)「……」
演じているだけなのだから、本来の台詞通りであろう「家族」、内藤だと答えればいい。
しかしニュッは答えない。
彼の心情は、デレにも辛うじて察しがついた。
ここでツンを見捨て、内藤を選ぶと断言してしまうのが嫌なのだろう。
たとえ演技であっても。
- 50
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 21:58:12 ID:7KP.TRzkO
( ´∀`)「……どうしたモナ? こうしている内にも魔女は2階で話を書き進めているモナ。
もしかしたら、もう書き終えているかもしれないけど」
急かされる。
デレは気付かぬ内に唇を噛み締めていた。
早く答えなければいけない。
けれど――答えてほしくない。
ニュッの口から、ツンを、あるいは内藤を見放す発言が出てくるのは、何だか、嫌だ。
そもそもどちらかしか選べないのがおかしい。
どちらかは諦めなければならないのがおかしい。
デレが。
デレが望むのは――
- 51
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:00:52 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「俺は」
ζ(゚、゚;ζ「――どっちもです!!」
ようやく口を開いたニュッの答えは、デレの怒鳴り声めいた叫びに妨害された。
モナーの笑みに何かが混じり、変化する。
それがどんな感情を表しているのか、デレには分からなかった。
( ^ν^)「……おい」
ζ(゚、゚;ζ「どっちも、し、幸せになれるように、します」
( ´∀`)「……僕は言ったモナよ。全員が幸せになるのは無理な話だと」
冷然とした反論に、デレの頭が、かっと熱くなる。
「本」の中の魔女と青年にしろ。
現実世界でのツンと内藤にしろ。
どうして、当人も周りも、悲観的な考え方しか出来ないのだろう。
考えすぎではないか。
もっと――もっと。
子供くさく、馬鹿らしく、単純に考えられないのか。
- 54
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:03:41 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚*ζ「何で無理なんです?」
( ´∀`)「魔法使いと人間は、見た目は似ていようと、根本的に違う生き物モナ。
そんな2人が、どうして幸せになれるモナ」
ζ(゚、゚*ζ「……どっちも、一緒じゃないですか……」
「どこが」。
そう問い掛けるモナーの声は、デレの答えを待ち侘びているようだった。
ζ(゚、゚*ζ「ご飯、食べるし……好きな食べ物とかあるし、寝るし、
いっぱい動いたら疲れるし、いいことも悪いこともするし……」
( ´∀`)「……魔法使いの生死は少し変わっているモナ。
生まれ方や死に方すら人間と違っていても、一緒モナ?」
ζ(゚、゚*ζ「最初と最後が違うだけじゃないですか」
生き方は同じだ。
始まりの一瞬と終わりの一瞬だけが違ったところで、何だというのだ。
それよりも遥かに長い時間、「作家」もツンも、人間と同じように生きるではないか。
- 57
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:06:41 ID:7KP.TRzkO
一部に差異があっても大部分が一緒なら、結局、何ら変わりない。
そんな考え方でいい。
頭の悪い結論でいい。
( ^ν^)「……――」
同意を求めてニュッに視線を遣ると、何とも言えぬ顔をしていた。
途端、デレの自信が小さくなっていく。
ζ(゚、゚;ζ「ま、間違ってますか? やっぱり駄目なんですか?」
( ^ν^)「いや……」
そこへ笑い声が降ってきた。
モナーだ。
席を立ち、扉の方へ歩き出す。
( ´∀`)「みんな、それくらい頭が悪けりゃ良かったモナね」
モナーは何の飾りもない取っ手を引き、扉を開け放した。
向こうには、大理石のような、斑紋の美しい階段がある。
あれを上れば、今度こそツンがいる。
- 59
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:08:13 ID:7KP.TRzkO
( ´∀`)「行くといいモナ。
くれぐれも、あの魔女の動向には気を付けるモナよ」
ζ(゚、゚*ζ「どう気を付ければいいんですか……」
( ´∀`)「あの子は青年が大好きモナ。
……自分の幸せなんて簡単に捨て去ってしまえるくらいに」
声を低めた最後の一言。
それを聞いた途端、
( ^ν^)「……!」
ζ(゚、゚;ζ「あっ……ニュッさん!?」
ニュッが駆け出した。
一目散に出口を抜け、階段を上る。
あまりにも唐突だったために固まってしまったデレも、慌てて後に続いた。
扉の隣に立っているモナーへ一礼し、彼の前を通り過ぎる。
ζ(゚、゚;ζ「し、失礼します!」
( ´∀`)「行ってらっしゃい」
- 60
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:09:11 ID:7KP.TRzkO
( ´∀`)「うちの孫達と、その家族を、よろしく頼むモナ」
ζ(゚、゚*ζ
振り返る。
それと同時に、扉は閉まってしまった。
- 63
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:11:47 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚*ζ「……」
空耳。気のせい。――それとも。
しばし扉を見つめていたデレは、ニュッを思い出し、階段へ意識を向け直した。
( ^ν^)
ζ(゚、゚;ζ「……何してんですかニュッさん」
踊り場でニュッが膝をついている。
彼のもとへ追いついてみると、ニュッは僅かに息を切らしていた。
階段を駆け上って疲れたらしい。
どれだけ貧弱なのか。
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん、これ終わったら、もう少し体鍛えましょ?」
( ^ν^)「本が読める程度の筋力さえあればいい……」
ζ(゚、゚;ζ「それは……」
今以上に弱くなられても困る。
ニュッの息が整うのを待って、2人は早足気味に階段を上がり始めた。
*****
- 82
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:24:32 ID:7KP.TRzkO
ツンのペンが止まる。
内藤が唸り、瞼を持ち上げる。
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……おはよう」
( ^ω^)「魔女さん……」
ξ゚听)ξ「ん?」
内藤が、か細い声でツンを呼んだ。
あちこち確認するように視線を彷徨わせ、最後に、ツンを見る。
( ^ω^)「本棚で、思い出したんだけど……」
ξ゚听)ξ「今度は何がないの?」
次に内藤が何を言うか、ツンは知っている。
それにより「魔女」が何を思うかも知っている。
( ^ω^)「――僕の家族がいないお」
これが、最後の問答。
.
- 85
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:28:10 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「歳が離れてて……弟みたいなもんなんだお。
本が好きで、照れ屋で素直じゃないけど、いい子なんだお。
あの子がいないなら、やっぱり――」
ξ゚听)ξ「……私が一緒じゃ、駄目?」
内藤は上体を起こし、困ったように笑った。
ゆるりと首を振る。
( ^ω^)「魔女さんのことは嫌いじゃないけど、あの子と違うお」
ξ゚听)ξ「私が――ずっと一緒にいるって言っても?
その子はいずれ自立して、あなたから離れるのよ。
だけど私は、いつまでもあなたの傍にいるわ」
( ^ω^)「あの子が自立するまで、……自立しても見守っていたいお。
家族なんだから」
ξ゚听)ξ「私とは家族になってくれないの?」
( ^ω^)「僕と魔女さんは、家族になれないお。人間と魔法使いは一緒にいられないお」
そう言うと、内藤は、ツンの頬に手を伸ばした。
何かを拭うように、指先が目尻をなぞる。
- 86
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:30:12 ID:7KP.TRzkO
( ^ω^)「どうして泣くんだお、魔女さん」
ξ゚听)ξ「……」
ツンは泣いていない。
彼女が何を言おうと何をしようと――本来とは違う行動に出ようと、
内藤だけは台本通りに動かすように、「本」に言いつけておいた。
ツンが実際には泣いていなかろうが、内藤は涙を拭う仕草をするし、
ツンが実際とは異なる言葉を吐こうが、内藤は決められた台詞を口にする。
ξ゚听)ξ「ブーン」
( ^ω^)「泣かないでくれお、魔女さん」
ξ゚听)ξ「ブーン、好きよ」
( ^ω^)「そうだ、美味しいものでも食べれば泣き止むお」
ξ゚听)ξ「好きなの」
( ^ω^)「魔女さん、クッキーは嫌いかお?
とっても美味しいクッキーを売ってるお店があるんだお」
ξ゚听)ξ「私ね、どうしたらブーンと一緒にいられるか、いつも考えてたの。昔ね。
それで――この話を書いたのよ。答えを出したくて」
( ^ω^)「そうそう、お祭りにも出てた、あのお店だお。行ってみないかお?
お店じゃなくても、外を散歩すれば気分が晴れるかもしれないお」
- 89
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:33:18 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ「でも出てこなかった。幸せに一緒にいられる方法なんて、何も思い浮かばなかったの。
ブーンは人間で、私は人間じゃないもの。
……そもそもモナーさんが死ねば私も死ぬ運命だしね。初めから無理な話だったわ」
(;^ω^)「ああ、泣き止まないおー。一体どうしたんだお、魔女さん」
ξ゚听)ξ「なのに、いざモナーさんが亡くなってみれば、私ってば生き残っちゃったのよ。
ブーンが信じてくれるか分からないけれど、私、モナーさんには脅迫も何もしてないわ。
彼自ら、本に何か書き込んでたの」
(;^ω^)「よ、よしよし、泣いちゃ駄目だお」
ξ゚听)ξ「多分……みんなの世話をするように、私の寿命を延ばしてくれたのね。
死亡の条件はニュッ君に合わせてるんじゃないかしら」
噛み合わない会話。
ずるい。
こうでもなければ弁明する勇気も出ない自分は、小心者だ。
ξ゚听)ξ「おかげで形だけはブーンの傍にいられるようになった。
けれど、もう駄目だわ。限界だわ。
取り返しがつかないのよ」
ξ゚听)ξ「これ以上待ってても、いつか完璧に崩れてしまうだけだわ。きっと。
だって、解決出来るタイミングを全て逃してしまったんだもの」
ξ゚听)ξ「だから、いっそ――」
*****
- 92
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:35:07 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「思い出した」
どうして先程は急に走り出したのか、というデレの問いに、ニュッは上記のように返した。
それだけでは満足に理解出来ない。
ζ(゚、゚*ζ「何をですか?」
( ^ν^)「結末」
ζ(゚、゚;ζ「……ええっ!! それを早く言ってくださいよ!」
4つ目の踊り場を通過する。
いつ上階に辿り着くだろう。まだまだ階段は長そうだ。
あまり長いと、またニュッがばててしまいそうなので勘弁してほしい。
ζ(゚、゚;ζ「で、どんなオチなんです?」
彼が慌てるくらいだから、やはりそれ相応に、おめでたいものではなかろう。
質問への答えは、デレの想像通りのものだった。
想像通りといっても、半分だけ。
( ^ν^)「やっぱり死人が出る」
ζ(゚、゚;ζ「……うう……」
( ^ν^)「ただ――」
- 94
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:36:06 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「死ぬのは、魔女1人だ」
*****
- 96
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:36:49 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ
いっそ、自分がいなくなってしまえ。
.
- 99
名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:37:42 ID:7KP.TRzkO
#####
『 魔女は悲しくなってしまいました。 』
『 青年を本の中に連れていっても、そこに彼の家族がいなければ、
彼は幸せになってくれません。 』
『 こればっかりは、偽物なんかでは誤魔化せないでしょう。 』
『 ならば彼の家族諸共連れていってはどうだろう。
いいえ、それでは意味がありません。 』
『 結局、二人が結ばれることは、叶わない夢だったのです。 』
#####
.
- 102 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:39:22 ID:7KP.TRzkO
ツンは先程まで書き込んでいたノートを閉じた。
ペンでつつくと、ぱちんと軽やかな音を立ててノートが消える。
( ^ω^)「……魔女さん、どうしたお?」
時計、テーブル、椅子――歩き回りながら、それらも同様に消していく。
ついに、元の、真っ白な空間に戻ってしまった。
最後に机を突く。
すっと床に溶けるように崩れ、何もかも、なくなった。
ξ゚听)ξ「今までごめんなさい、ブーン。
結局あなたが私をどう思っていたのかは分からなかったけれど、
でも、……少なくともあなたの重荷になっていたのは確かだわ」
ξ゚听)ξ「もう、解放してあげる」
賭けだ。
自分の「本」を燃やさず、ニュッの死を待つこともなく。
自分1人だけ、この世から消えられる――かもしれない、賭け。
- 105 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:44:49 ID:7KP.TRzkO
物語の中で、魔女は死ぬ。
「演じている」のではなく「演じさせられている」状況、
しかも、これほど現実と本の世界が混ざり合っている今ならば。
魔女の――ツンの死が、現実にも反映される見込みはある。
そうすれば。
自分の命を司る本は残るから、多分、また新たな「ツン」が生み出されるだろう。
その「ツン」は、内藤やニュッのことを知らない。
モナーを見殺しにしたこともない。
昔通りの、「ツン」だ。
みんなの世話は、そいつに任せよう。
それがいい。
( ^ω^)「魔女さん?」
ξ゚听)ξ「もう、来るかしら」
いやはや、過去の自分に感謝だ。
内藤との幸せを考えるために書いて、結局上手くいかなくて、
やけくそになって書いた結末が――今こうして役立つとは。
- 106 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:46:38 ID:7KP.TRzkO
そのとき。
背後のドアが、開かれた。
――やっと来た。
*****
- 108 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:47:50 ID:7KP.TRzkO
長い長い階段を上り終え、デレとニュッは、ようやくドアの前に到着した。
今まで見てきた扉と違い、そう大きくはない白いドア。
疲れた。足が怠い。
だが、もはや休む暇はない。
デレは、ニュッよりも先にノブに手を伸ばし、勢いよくドアを開けた。
ζ(゚、゚;ζ「つ、ツン、ちゃん!」
ξ゚听)ξ「……こんにちは、デレ」
いた。
何もない真っ白な部屋。
どこが壁か、どこが床かの区別もつかない。
そこに、ツンと内藤はいた。
内藤は座り、ツンは立ち尽くしている。
- 110 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:51:08 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「……兄ちゃん、ツン」
( ^ω^)「あ……。魔女さん魔女さん、あいつが僕の家族だお」
気の抜けた笑顔で内藤が言う。
彼も作家達のように、キャラクターになりきっているようだ。
デレ達は部屋に入り、ドアを閉めた。
ツンとの間合いをとる。
立っているんだか浮いているんだか、よく分からない。
ξ゚听)ξ「お疲れ様。ニュッ君とデレが残ったのね。
『本』の通りだったら、ニュッ君とショボンだった筈だけれど」
( ^ν^)「……ショボンは5号館だ」
ξ゚听)ξ「そう。まあ、その辺は『本』には細かく指定しなかったからね。
あ、もう1人は誰が演じてたの?」
( ^ν^)「キュート」
ξ゚听)ξ「ああ、キュート……6号館にいるのね。
……彼らのためにも、早く終わらせなきゃ」
ζ(゚、゚;ζ「……!」
終わらせる。
――ツンが、死ぬ。
- 112 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:54:15 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ「そういえば、モナーさん見た? びっくりしちゃった。本物そっくり――」
ζ(゚、゚;ζ「何で! ツンちゃん、何で、こんなことするの!」
ξ゚听)ξ「……こんなことって?」
ζ(゚、゚;ζ「……し、死んじゃうんでしょ?
どうして……。……内藤さん、ツンちゃんのこと好きだよ。
嫌ってなんかないよ!」
ξ゚听)ξ「分からないじゃない」
ζ(゚、゚;ζ「……分かるもん」
( ^ν^)「好きでもねえ奴に、あんだけ可愛い可愛い言うかよ」
ξ゚听)ξ「言うでしょ、ブーンは」
ζ(゚、゚;ζ「言、……う、ね」
( ^ν^)「……言うな」
言う。言いまくる。
満場一致だ。
この女好きめ。
デレは、ぼうっとしている内藤を睨んだ。
内藤が初めからツンにだけアピールしていれば、ややこしくなんかならなかったものを。
- 115 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 22:57:57 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「でもツンちゃんが一番可愛いとも言って……」
ξ゚听)ξ「本気かどうか証明出来るの?」
ζ(゚、゚;ζ「そっ……そんな風に言われたらどうしようもないよ!」
ξ゚听)ξ「そうね。こっちも、どうしようもないわ」
ツンが内藤を見遣る。
彼女の瞳からは、相変わらず感情が読めない。
ξ゚听)ξ「辛いの。苦しいの。この先ずっと、ずっと――こんな思いをするなら、
もう、いなくなっちゃいたい」
( ^ν^)「それで本まで持ち出して、こんな騒ぎにしてくれたのか」
ξ゚听)ξ「ええ」
ζ(゚、゚;ζ「何が辛いの? ……何が苦しいの」
( ^ν^)「……祖父ちゃんのこと、まだ気にしてんのか」
ξ゚听)ξ「実はね、そのこと、昔ほどは悩まなくなったの。後悔はたくさんしてるけれど。
私が悪いんだっていう結論から、その先に進展しないんだもの」
ζ(゚、゚;ζ「じゃあ」
ξ゚听)ξ「ただ、ブーンの傍にいるのが嫌になっちゃったわ。
……語弊があるかしら。
ブーンの傍にいても、もう、仕方がないって思ったの」
- 118 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:01:43 ID:7KP.TRzkO
ニュッが怪訝そうに眉を顰める。
デレも似たような表情をした。
( ^ν^)「仕方ないって、何が」
ξ゚听)ξ「ブーンには好きになってもらえないし……私は嫉妬するばっかりだし」
ζ(゚、゚;ζ「……だからっ、内藤さんはツンちゃんのこと好きだってば!
証明は出来ないけど……」
ξ゚听)ξ「誰が私を好きになるのよ」
ζ(゚、゚;ζ「え」
ツンの眼光が鋭くなったように思えた。
突き刺さるような、という表現がよくあるが、まさにそれである。
ξ゚听)ξ「何年も何十年も外見が変わらなくて気味が悪いし、
モナーさんを見殺しにしたし、嫉妬深いし、……性格だって最悪よ」
( ^ν^)「見殺しってな、お前……」
ζ(゚、゚;ζ「内藤さんは、ツンちゃん悪くないって言ったよ。
……や、八つ当たりで、あんな……酷いこと、言っちゃったみたいだけど」
ξ゚听)ξ「……そう。でもブーンの言ったことは正しかったわ。
――何だ、八つ当たりだったの。良かった、最後に知れて」
ζ(゚皿゚;ζ「だぁあっから……! 死ぬ必要ないっつってるでしょうが!
最後とか言うな! 苛々してきた!! 分からず屋!」
( ^ν^)「デレ。顔。顔」
- 120 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:05:17 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚皿゚;ζ「何か言ってよ、内藤さん!!」
( ^ω^)「……」
内藤は先程から何も喋らず、にこにこしながらツンを見つめている。
物語の展開上、ここでは内藤の台詞がないのだろうか。
いつもの内藤に戻って、昨日デレに話したことをツンにも話してほしい。
でなければ、きっとツンは納得しない。
だが、内藤を正常にするには、この現状を何とかしなければいけないのである。
ζ(゚皿゚;ζ「……外見が変わらないから何さ!
世の中にゃ年食っても見た目だけは若い人だっているじゃん!
そんでもってツンちゃんのどこが性格悪いの!? いい子のくせに!!」
ξ゚听)ξ
ζ(゚皿゚;ζ「……うっ」
ツンが放つ気配が、嫌な冷気を孕む。
ぞくり、肌が粟立った。
ξ゚听)ξ「悪いわよ」
ζ(゚、゚;ζ「悪くない……」
ξ゚听)ξ「悪いわ」
ツンの瞳が、デレの足に向けられた。
ニュッとデレも、つい視線を追う。
- 121 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:07:10 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ「若菜家で一緒にお風呂に入ったわね」
ζ(゚、゚;ζ「う、うん」
若菜家。ショボンが大暴れ、もとい活躍した殺人事件の舞台となった家だ。
そこに一泊するということになった折、ツンとデレは共に若菜家の風呂を借りた。
そういえば、あのとき、ツンが妙な反応をしていた。
彼女にしては珍しく、顔を不快そうに歪め、突然「ごめんなさい」などと謝ったのだ。
ξ゚听)ξ「デレの傷跡を見て、私、何を思ったか分かる?」
ζ(゚、゚*ζ「……さあ」
ξ゚听)ξ「――何て醜いんだろうと思ったわ」
落ちた言葉。
デレの胸に、小さな痛みが生じた。
傷跡のことを気にしてはいないつもりだったが、そんな風に言われるのは、やはり、悲しい。
ニュッがデレの肩に手を乗せる。
何か言おうとしたようだったが、そのまま手を下ろした。
- 123 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:08:42 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ「同時に優越感を覚えたの。
デレの傷跡はずっと残るけれど、私はどんな怪我をしたってすぐに消える。
ブーンの前で、常に綺麗なままでいられるんだ、って」
ξ゚听)ξ「……すぐに我に返って、絶望したわ。醜いのは私の方じゃない。
どんなに見た目が綺麗でも、こんな――内面が醜かったら、
誰からも好かれる筈がないわ」
ζ(゚、゚;ζ「でも、……ほら、嫉妬なんて誰でもするでしょ?
ツンちゃんだけ特別に悪いわけじゃないし」
ξ゚听)ξ「……デレは、私のために必死になってくれてるのね」
ζ(゚、゚;ζ「そりゃ……」
ξ゚听)ξ「――ますます苦しくなるわ。デレみたいになりたかった」
ζ(゚、゚;ζ「……」
そんなことを言われては、もう、何も出来なくなってしまう。
説得が逆効果だなんて、堪ったものではない。
- 124 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:09:51 ID:7KP.TRzkO
( ^ν^)「……いい加減にしろ」
ξ゚听)ξ「ん?」
( ^ν^)「俺らが何でお前を止めてるか分かんねえのか。
お前に死んでほしくないから止めてるんじゃねえか。
――……嫌いじゃないから止めてんだろうが」
ζ(゚、゚;ζ「……! そ、そう! そう!! 私ツンちゃん好きだよ!!」
ニュッの言葉に、何度も頷いてみせる。
酷いことを言われようと、彼女の本音を知ろうと、嫌いにはなれない。
彼女がいなくなるのを、寂しいと思う。
ξ゚听)ξ「……嬉しいけれど、それじゃあ、足りないわ」
ζ(゚、゚;ζ「内藤さんだってツンちゃん好き……あああっ、もう! 何回言わせるの!!」
何か物でも持っていたら、思い切り地面に叩きつけているところだ。
いや、下手をすればツンに投げつけている。
とにかく腹が立って腹が立って仕方がない。
少しくらい、こちらの言い分について考えてくれたっていいではないか。
- 125 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:11:38 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚#ζ「ツンちゃんの馬鹿! ばーか!!」
ξ゚听)ξ「どこの小学生よ」
( ^ν^)「今時の小学生の方がマシだわ」
ζ(゚、゚#ζ「皮肉言ってる暇ありますかニュッさん!!」
ニュッにまで噛みつくデレ。
ツンは溜め息を漏らすと、金色のペンを持っている右手を挙げ、素早く振り下ろした。
それから2人に背を向け、何歩か前進する。
ζ(゚、゚*ζ「……ツンちゃん?」
( ^ν^)「ツン」
どこに行くの、という疑問を含めたデレの声とは対称的に、
ニュッの声は、ツンの目的を知った上で、それを咎めるような色があった。
ニュッが身じろぎする。
足元を見下ろし、顔を顰めた。
( ^ν^)「動かねえ……」
ζ(゚、゚;ζ「えっ、あ、やだっ、うわっ! ツンちゃん何したの!!」
ぎょっとする。
太ももから下が、凍りついたように動かない。
- 127 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:15:10 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ「――2人共、大事なことを忘れているようだけれど」
ツンが、先程のペンを再び振り上げた。
何もない空間に、四角形を描くように腕を動かす。
すると、入口のものによく似たドアが出現した。
ξ゚听)ξ「私の気が変わったとして、それからどうするつもり?
私が死ななければ終わらないのよ」
ζ(゚、゚;ζ「……それは、……あのう……結末、書き足せば」
ξ゚听)ξ「そっか。それもそうね。
――じゃあ、気が変わらない内に終わらせなきゃ」
ドアを開ける。
途端、びゅうびゅうと音が聞こえるほどに激しい風が入り込んだ。
デレの髪が風に揺れる。
向こう側は、外だ。
デレは、自分とニュッが上ってきた階段の長さを思い返し、青ざめた。
ここは――地上から、離れすぎている。
*****
- 128 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:16:57 ID:7KP.TRzkO
(´・ω・`)「……」
(´・_ゝ・`)「徐々に解答にかける時間が長くなってきたね」
(´・ω・`)「ぶっ通しで考え続けりゃ、そりゃあね」
5号館。
ショボンは指を折り、いち、に、と呟いた。
これで20問目だ。
疲労と頭痛は増すばかり。頭の回転だって鈍りもしよう。
机の上、妙に大きな砂時計の砂が全て落ちきった。
デミタスが砂時計を引っくり返す。
(´・_ゝ・`)「さあ、あと2回砂が落ちきったら時間切れだ」
(´・ω・`)「分かってるよ。
……せめてメモでもとれりゃ、考えやすいんだけど」
(´・_ゝ・`)「手首のベルトは外してあげられないよ」
(´-ω-`)「くそったれ」
目を伏せる。
糖分が欲しい。
こんなことなら、デレのケーキをもっと食べてくれば良かった。
- 129 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:17:52 ID:7KP.TRzkO
(´-ω-`)(……やっべえなあ……)
思考がまとまらない。
そろそろ――本格的に、死を意識しなければならないだろうか。
*****
- 131 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:20:07 ID:7KP.TRzkO
( ゚∋゚)「……」
クックルは、箱の中から取り出したものを頭上に翳した。
万年筆。
自分の大きな手に丁度いいサイズだ。
( ゚∋゚)(何で俺にくれたんだ……?)
これをくれた少女の顔を思い浮かべる。
彼女を、前から知っている。気がする。何となく。
会ったことなどある筈がないのだが。
丁寧に箱にしまい、花瓶の隣に置く。
それから、例の少女が入っていった本を拾い上げた。
( ゚∋゚)(遅いな)
30分は、とうに過ぎている。
いくら自分がコントロールしているといっても、長時間篭っていれば、
いずれ本に食われてしまう。
まあ、そうなったらそうなったで、自分にとっても本にとっても、悪いことではない。
( ゚∋゚)(――……)
*****
- 132 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:23:25 ID:7KP.TRzkO
( ^ω^)「魔女さん、どこに行くんだお?」
ξ゚听)ξ「ちょっとね、空を飛んでくるわ」
(*^ω^)「おおー、さすが魔女さんだお」
ζ(゚、゚#ζ「呑気に拍手してる場合じゃないって内藤さん!」
(;^ν^)「ツン!!」
ばさばさ、ツンの髪や服が風に吹かれている。
彼女が掴んでいるドア枠を離せば、その瞬間落ちていってしまうだろう。
ニュッの叫びに、ツンは、背後を見返った。
ξ゚听)ξ「じゃあね。私が落ちても、下を見ちゃ駄目よ。
酷い姿になってそうだから」
ζ(゚、゚;ζ「そっ……そういう気遣いするくらいならやめてよ!」
ξ゚听)ξ「デレ、さっきまでの私の話聞いてた?」
ζ(゚、゚;ζ「……つ、ツンちゃん死ぬの、やだ……」
ξ゚听)ξ「……なら、せいぜい、私が奇跡的に死なないよう願ってて」
- 134 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:25:07 ID:7KP.TRzkO
彼女の生死を握る本は2冊。
この物語の本と、ツン自身について記された本。
結末を迎えれば、互いに矛盾が生じる。
その矛盾がどう解消されるのか分からない。
ツンが生き残るのか死ぬのか、分からない。
ζ( 、 ;ζ(どっち? ……物語の方が勝っちゃったら、ツンちゃん、死んじゃう)
一か八かなんて嫌だ。
絶対にツンを止めなければならない。
ああ。ツンが外を眺めている。
一歩、踏み出そうとしている。
止めなければ。
どうやって?
ニュッが、再び怒鳴るようにツンを呼ぶ。
駄目だ。
彼女に何を言っても、彼女を何度呼んでも、ツンは聞く耳を持たない。
もっと確実に、確実にツンを止められる方法でないと。
- 136 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:26:52 ID:7KP.TRzkO
何がある。何が出来る。
早く早く早く。
どうして自分は馬鹿なのだろう。
やっぱりショボンがいれば。キュートがいれば。
彼らなら、何か、ひらめいていたかもしれない。
祈るしかないのか。
ツンが生き残るように。
何に祈ればいいのだろう。神か。
神様。
神様に例えられた人の話を、最近聞いた気がする。
ええと。モナーだ。
内藤が書いた鍵小説の出だしだった。
どうして神様に例えられたんだっけ。
命を、本に命を与えるから。たしか。
本。
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- 138 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:28:19 ID:7KP.TRzkO
『本には、それぞれにそれぞれの性格がある』
『まあ、自分の「山場」は自分で見届けたいでしょうから』
『同情だってするし、誰かを愛することだって、あるんだお』
『あんまりにも思い通りにいかないから、見限ったんじゃないかなあ』
『まあニュッ君がキツく言い聞かせてあるし、演じさせられることはない筈だけど』
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- 139 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:28:54 ID:7KP.TRzkO
本だ。
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- 141 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:31:02 ID:7KP.TRzkO
ζ( д ;ζ「――いるんでしょ!?」
声を張り上げる。
ツンが微かに肩を跳ねさせた。
枠から離しかけた手にもう一度力を込め、デレへ振り向く。
- 143 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:32:26 ID:7KP.TRzkO
(;^ν^)「……どうした、デレ」
ζ( д ;ζ「どっかで見て聞いてるんだよね? ねえ!?」
ξ゚听)ξ「……?」
ζ( д ;ζ「ツンちゃん死んじゃうんだよ!
『あなた』の生みの親みたいなもんじゃない!!」
「本」には意思がある。
愛情すら持ち得る。
命令も聞く。
それならば、じゃあ。
.
- 144 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:35:10 ID:7KP.TRzkO
ζ( д ;ζ「意思を持ってて、感情もあって、人の言うこと聞けるなら、理解出来るでしょうが!
……ツンちゃんが死ぬの、嫌じゃないの?
私達がどんなに嫌がってるかも分からない!?」
喉が痛む。
風の音も聞こえないほどの声量で、デレは叫んだ。
言葉で表しきれぬ激情が、涙になって零れる。
お願いだから。
子供くさく、馬鹿らしく、単純に。
ただひたすら単純に、考えてほしい。
- 145 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:36:02 ID:7KP.TRzkO
ζ( д ;ζ「分かんないわけないじゃん!
だ、だって、あなただって、……っい、」
だって。
ζ(;д;*ζ「――生きてるんでしょ!!?」
.
- 146 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:37:26 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ「……」
――何を言い出したのだ、急に。
ツンは訝りながら、ぜえぜえと掠れた呼吸を繰り返すデレを見つめた。
もしや「本」に語りかけているつもりか。
ξ゚听)ξ(……まさかね)
捻っていた首を前に正す。
風が顔にぶつかった。
デレになど構っていられない。
ツンは、今度こそ落下するべく、足を伸ばした。
枠を手離す。
これで、おしまい。
- 147 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:39:00 ID:7KP.TRzkO
「待ってくれお、ツン」
大好きなクッキーみたいな。
甘い匂いが、した。
- 148 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:40:13 ID:7KP.TRzkO
ξ゚听)ξ「え――」
視界が揺れる。
体が揺れる。
外の光景が遠ざかる。
背中と腹に温かいものが触れて、僅かに圧迫感。
倒れ込む。視界に白色が広がる。
ばたり、ドアが閉まる音が聞こえて、風が止んだ。
- 149 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:40:43 ID:7KP.TRzkO
邪魔された。
誰かに引っ張られて、邪魔された。
誰だ。
デレもニュッも、動けない筈。
その「誰か」が、ツンの顔を上から覗き込んだ。
(;^ω^)「……ちょっとさ……ちゃんと、話し合おうじゃないかお……」
ξ゚听)ξ
ξ゚听)ξ「ブーン」
- 150 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:41:56 ID:7KP.TRzkO
(;^ω^)「ずっと……何年も放ったらかしてたのは悪かったお。
僕も、まともに向き合うのが恐かったんだお。ツン」
ツン、って。
呼んだ。
ξ゚听)ξ「……何で……」
内藤に抱え起こされる。
ころり、金色のペンが転がり、消えた。
- 153 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:46:05 ID:7KP.TRzkO
ζ(;、;*ζ「……な、内藤、さん?」
(;^ν^)「兄ちゃ……っうお」
ニュッが転ぶ。
それを見たデレが足を動かした。
動いている。何故だ。
飛び降りようとしたドアへ視線を移すと、既にそこには何もなかった。
ξ゚听)ξ「あ……」
嘘だ。
まさか。
本が、諦めた。
――その瞬間、意識が飛んだ。
*****
- 155 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:46:46 ID:7KP.TRzkO
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- 157 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:48:08 ID:7KP.TRzkO
ζ(-、-*ζ
ζ(-、-*ζ
ζ(-、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ
- 160 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:49:39 ID:7KP.TRzkO
顔に、冷たく、硬い感触がある。
どこかの床だ。多分。
デレは、目覚めたばかりでぼうっとする頭を一生懸命働かせ、状況を確認した。
暗い。静まり返っている。
こつり、足音がした。
こつこつ、それはデレの傍を横切り、遠ざかっていく。
続いて、かちり、とボタンを押すような音が響いた。
ζ(>、<;ζ「んっ」
光が注がれる。
眩しい。
「ほら起きた起きた」
そこらを歩いて回る足音と、男の声が聞こえる。
この声は。
- 161 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:52:11 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「――ショボンさん?」
(´・ω・`)「はいおはよう。寝惚け顔だね。僕も今さっき起きたとこだけど」
ショボンだ。
デレが身を起こすと、見慣れた光景があった。
蛍光灯の明かりに照らされる、カウンター、テーブル、本棚。
VIP図書館。
ζ(゚、゚;ζ「あれ? え?」
見知った面々が椅子に座らされ、テーブルに突っ伏している。
貞子、モララー、ハローに、椎出姉妹とデミタス、クックル。
クックルの向かいにはキュートがいた。
それから横を見る。
床に座り込んだデレの隣で倒れているニュッ。
反対側を見ると、カウンターの前に内藤とツンが横たわっている。
さらに、近くにはデレやキュート達の荷物がきちんと並べられていた。
間をあけて、皆が続々と起き始める。
- 162 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:53:41 ID:7KP.TRzkO
川д川「……あらあ……?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ンー……オハヨウゴザイマス……ン?」
( ぅ∀・)「ふあーあ……」
(´・_ゝ・`)「……あれ、何でこんなところに」
(´・ω・`)「おら起きろっつの」
(;´・_ゝ・`)「痛いっ! あれ? あ、ショボン君?
何で今叩いたの? 起きてたでしょ僕?」
(´・ω・`)「あんたに殺されかけて腹立ってんだ」
(;´・_ゝ・`)「ええっ!?」
(*゚ー゚)「おお、何だ何だ、喧嘩かい」
(;゚;;-゚) アワアワ
( ゚∋-)「む……?」
どうして図書館に。
どうしてみんなまで。
デレは記憶を辿り――思い出した。
- 164 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:54:55 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「あ、ああっ!」
「本」に演じさせられていて、
ツンがとんでもないことをやらかそうとして、
けれど、内藤が止めて。
その後に何が起こったか知らない。
気付けば、ここに倒れていたのだ。
辺りを窺うと、皆も思い出してきたようだった。
(*゚ー゚)「……ありゃりゃ。さっきのって何だったん?」
(;・∀・)「夢? じゃないよね?」
川д川「……本の仕業かしらあ……? やあだ、不覚……完全になりきってたわあ……」
(;´・_ゝ・`)「……あ。うわ。ああ。ごめん」
(´・ω・`)「この地味親父が」
( ^ν^)「……」
ζ(゚、゚;ζ「! にゅ、ニュッさん!」
ぬっと起き上がるニュッ。
彼の体の下に、本があった。
白色。
- 167 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:56:17 ID:7KP.TRzkO
ζ(゚、゚;ζ「……これですか?」
( ^ν^)「あ? あー……? ……」
不可思議そうに周りを見渡していたニュッは、本を見下ろして沈黙し、
少し経ってからようやく頷いた。
そして未だ目覚めぬ内藤とツンを見付けると、彼らを凝視した。
数秒。
不意に、ニュッが、ほっと息をつく。
安心したような顔。
( ゚∋゚)「キュート、起きろ。……キュート」
o川*- ゚)o「ふぁい……?」
o川*- ゚)o
o川;*゚д゚)o「ぎょわあああっ!?」
( ゚∋゚)「……悪かった。それと、ありがとう」
o川;*゚ー゚)o「え!? は!? クック、クックルさ、クックルルルッ」
o川;*゚ー゚)o「……ん? ……クックルさん……。……図書館。……本!!」
キュートが物凄い勢いでデレに振り向いた。
どうなったの、と叫ぶ。
- 168 名前:名も無きAAのようです:2011/10/29(土) 23:58:41 ID:7KP.TRzkO
(´・ω・`)「そうだよ、どうなったのさ」
ζ(゚、゚;ζ「お、終わった……ん、だと、思います。
内藤さんもツンちゃんも、多分無事……? どうだろ、えっと。
――わ」
どうなったかなんて、こっちが訊きたいくらいだ。
しどろもどろになりながらデレが答えていると、突然、ニュッの手がデレの頭に乗せられた。
ぐしゃぐしゃ、髪が掻き混ぜられる。
ζ(゚、゚;ζ「なっ、何ですかっ、ニュッさ……っ」
( ^ν^)「……本を説得した奴、初めてだ」
(´・ω・`)「セットク?」
ショボンが素っ頓狂な声をあげた。
呆れたように嘆息する。
(´・ω・`)「そんなんで良かったわけ? マジ? じゃあ初めからやれば良かったじゃん」
( ^ν^)「あの状況だったから効いたんだと思う。……えらいな、デレ」
ζ(゚、゚*;ζ(褒め……っ)
ニュッに褒められた。
しかも、ちょっと優しげに微笑まれた。
誰だこいつ。
- 172 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:00:20 ID:J3hGkSXcO
ハハ ロ -ロ)ハ「……ヨク分からないケド、デレ、お手柄デスカ?」
(´・ω・`)「そうみたいだね」
ハハ*ロ -ロ)ハ「スゴイ! ヨク分かんないケド!」
ハローが席を立ち、デレに駆け寄る。
全力で抱き締められた。
ζ(゚、゚;ζ「あの、すみません、苦しいです」
ハハ*ロ -ロ)ハ「約束通り、いっぱいオ話ししましょうネ」
ζ(゚、゚;ζ「あ、は、はあ」
(*゚ー゚)「約束!!」
しぃまでもが立ち上がる。
ぎらぎらとした目でデレを舐め回すように見つめながら、何かを揉みしだくような動きをした。
ちょっとした恐怖映像である。
(;*゚ー゚)「おい……ニュッちゃん、あれは本気で……?」
( ^ν^)「……言った手前……」
ζ(゚、゚;ζ「いやいや、あんなの! あんなっ、違うでしょ、何か……何か違うでしょ!?
嘘も方言……暴言?」
川д川「方便……」
(;*゚ー゚)「何ならキュートちゃんが代理でもいいんだぜへいへい!」
o川*゚ー゚)o「モララーさん代理でお願いします」
(;・∀・)「え、何が!? 嫌な予感しかしない!!」
(;゚;;-゚)ノシ
(*゚ー゚)「……でぃちゃんがそこまで言うなら……」
(;´・_ゝ・`)「何か言ったの? 今でぃ何か言ったの?」
デレの頬が緩む。
いつもの作家達だ。
さて、残る問題は――
- 174 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:03:03 ID:J3hGkSXcO
( ‐ω^)「お……」
ξ゚-)ξ「……」
――この2人だ。
しばらく呻いていた内藤は、ようやく思い至ったのか、がばと起き上がった。
一方、ツンは緩慢に身を起こす。
( ^ω^)「……ツン、大丈夫かお?」
ξ゚听)ξ「……特に異常はないけれど」
2人はその場に対座した。
ツンとデレの視線が絡む。
デレが彼女の目的を阻害したようなものだ。
恨まれているだろうか。
けれど、ツンは何も言わずに床へ目を落とした。
どうかしたの、と、モララーと貞子が囁き合っている。
重苦しい空気を察したか、2人はすぐに押し黙った。
- 175 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:03:49 ID:J3hGkSXcO
( ^ω^)「――えっと」
ξ゚听)ξ「何?」
( ^ω^)「その」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「……」
(#´゚ω゚`)「欠伸出るわ!!」
ζ(゚、゚;ζ「ショボンさん空気読んで!!」
- 180 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:08:57 ID:J3hGkSXcO
ショボンは絶叫と共に近くのテーブルを叩いた。
クックルとキュートがショボンを椅子に座らせる。
(#´゚ω゚`)「お見合いか! こちとら面倒くっせえ痴情の縺れに散々付き合わされたんだぞ!
さっさと和解なり何なりして、きちっとカタつけろやああ!!」
(#゚ω゚)「うるせえええええ!!
7年間引きずってきたもん吐き出すこっちの身にもなれお!!」
7年という数字に、ぴんときたのだろうか。
作家達の間から、ぴんと張り詰めた気配が一瞬だけ発せられた。
ショボンに怒鳴り返した内藤は、気力を削がれたらしく、溜め息をついて肩を竦めた。
(;^ω^)「……ツン。ごめんお」
(´・ω・`)「何に対しての『ごめん』なんですかー」
(;^ω^)「あのさあ、やめてくれる!?」
o川;゚ー゚)o「すっごい割り込むじゃん。すっごい割り込んでくじゃんこの人」
(;゚∋゚)「ショボン、お前なりに話を進めさせてやろうとしてるのは分かるが、
さすがに今は黙ってろ」
ショボンを挟むように座り直したキュートとクックルが、ショボンの肩を押さえる。
果たして本当に、クックルの言うような親切心なのやら。
ただ単に苛ついて茶化しているだけだと思うのだが。
ショボンを黙らせておけと目で訴え、内藤は咳払いをして気を取り直した。
- 181 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:10:58 ID:J3hGkSXcO
( ^ω^)「――救急車、すぐに呼ばなかったせいなんて言って、本当にごめんなさいお」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「あれは僕が悪いお。何度も何度も後悔したお」
ξ゚听)ξ「間違ってなかったわ」
( ^ω^)「間違ってるお」
(*゚ー゚)「館長が悪い」
(#゚;;-゚)) コクリ
ハハ ロ -ロ)ハ「しぃに同意デス」
(;^ω^)「う。……ほら、みんなも、こう言うし……」
ξ゚听)ξ「でも」
ξ゚听)ξ「……でも」
ツンの声が、震えた。
( ^ω^)「……僕が、嫌なことから逃げたせいだおね。
改めて話し合うのが恐くて、考えるのが恐くて――僕が何も言わないでいたから、
ツン、いっぱい悩んじゃったんだお」
( ^ω^)「いっぱい悩んで、いっぱい、自分のこと責めたんじゃないかお」
内藤が手を伸ばす。
その手がツンの肩に触れると、ツンは、びくりと体を揺らした。
- 184 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:12:18 ID:J3hGkSXcO
( ^ω^)「……ツンは、僕のこと、嫌いにならなかったのかお」
ξ゚听)ξ「なん、で」
( ^ω^)「僕は酷い奴だお」
ξ゚听)ξ「優しいじゃない。……嫌いになんかなるわけないでしょ……」
( ^ω^)「……でも、僕は、ツンが僕のこと嫌いになったんじゃないかと思ったんだお」
ツンが顔を上げる。
真っ直ぐに内藤を見つめながら、彼女は唇を噛み締めた。
ξ゚听)ξ「どうしたらそんな風に考えられるのよ」
( ・∀・)「そうだよ。館長が他の女の子に構ったら、
ツン、すっごく分かりやすく嫉妬してたじゃん」
ξ゚听)ξ「黙って」
( ;∀;)「ごめんなさい」
( ^ω^)「……嫉妬っていうか……。
僕が楽しそうにするのが、ツンは気に食わないのかなって。
だから殴るのかなって思ってたお」
ξ゚听)ξ
ζ(゚、゚;ζ(……えええ……)
何てことだ。
内藤もツンも、捻くれすぎと言うより他にない。
相手からの好意を素直に受け取れていなさすぎる。
- 191 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:14:43 ID:J3hGkSXcO
ξ゚听)ξ「……ブーンが、嫌な気分になったら叩けって言ったんじゃない……」
(;^ω^)「だってツン、何も言ってくれないし顔にも出さないから。
それなら、ああやって意思表示された方がマシだお。
あれだお、体は正直……やだ言い方いやらしいわ」
(;^ω^)「で、大抵僕が調子に乗ってるときに殴ってきてたおね?
だから……」
ξ゚听)ξ「たまに『嫉妬かお』なんて言ってからかってきてたのは?
分かってて言ったんじゃないの?」
(;^ω^)「軽口じゃないかお。ジョークっていうか。
本当に嫉妬だったら嬉しいなあとは思ってたけど」
ξ゚听)ξ「……」
ツンは拳を握り締め、右腕を上げた。
力を込めすぎているのか、ぶるぶる震えている。
内藤が青ざめると、結局、その拳は静かに下ろされた。
ξ゚听)ξ「そうね。そういう人よね。ブーンは昔から鈍かったわ。
……鈍いというか、他人の気持ちを深くまで考えないのよ」
(;^ω^)「ぼっ、僕から言わせてもらえば、みんなが分かりづらすぎるんだお!
デレちゃんみたいに分かりやすいぐらいが丁度いいお!」
ζ(゚、゚;ζ「えっ……何この流れ弾……」
( ^ν^)「こいつは馬鹿すぎて逆に何考えてるか分かんねえだろ……」
ζ(゚、゚;ζ「何なんですか。何で関係ない私が傷付く流れなんですか」
- 194 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:17:48 ID:J3hGkSXcO
ξ゚听)ξ「分からないのはブーンの方じゃない」
(;^ω^)「……何が」
ξ゚听)ξ「あんなことがあったのに、私を許すとも許さないとも言わないで、
すぐにいつもの調子に戻るし」
(;^ω^)「何も言わなかったのは僕が逃げてたからで、
いつもの調子だったのは、……ツンに、いつも通りになってほしかったからだお」
ξ゚听)ξ「……分からなかったわよ。全然。
人が、ブーンに嫌われたかどうか悩んでるっていうのに
ブーンだけにこにこにこにこ……」
(;^ω^)「嫌われたって何で!?
ツンのこと好きだって腐るほど言ってきただろうがお!!」
川д川「腐るほど言ってきたからじゃないかしらあ……」
(´・_ゝ・`)「他の子にも言うしね。信憑性ゼロだよ」
(;^ω^)「嘘!! ツンが一番だって言ったじゃん!」
ξ゚听)ξ「誰が信じるのよ」
(;^ω^)「……あうあう」
内藤が、デレとキュートに視線を寄越す。
デレは両腕でバツ印を作り、キュートは首を横に振った。
典型的な「日頃の行いが悪い」例だ。
- 199 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:20:19 ID:J3hGkSXcO
(;^ω^)「……嫌いじゃないお」
ξ゚听)ξ「この間、寝起きのブーンに突き飛ばされたわ」
(;^ω^)「あれは、昔の……祖父ちゃんが死んだときの夢見たせいで気分が悪くて。
それで目が覚めたらいきなりツンが間近にいたから。
本当、わけ分かんなくて、咄嗟に手が。……ごめんお」
ξ゚听)ξ「……」
(;^ω^)「まだ疑うかお」
ξ゚听)ξ「……嫌いになったことは、あるでしょ」
(;^ω^)「え?」
ξ゚听)ξ「一日なり、一秒なり……愛想尽かしたことくらいは、あるでしょう?」
(;^ω^)「……ないお」
ξ゚听)ξ「あるわよ、きっと。
ブーンが好きなのは私の顔か――昔の私だもの」
内藤が表情を歪ませた。
ショックを受けたように。
ツンが目を逸らす。
- 200 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:21:31 ID:J3hGkSXcO
( ^ν^)「……」
ζ(゚、゚*ζ「……?」
ニュッから、大きく息を吸い込む音がした。
口を動かし、閉じる。
何か言いたげだ。
デレは、小声で問い掛けた。
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさん、言いたいことあるんですか?」
( ^ν^)「……いや」
ζ(゚、゚*ζ「……はっきりしませんねえ」
ハハ ロ -ロ)ハ「ナニかあるナラ、言ってみたらどうデス。
館長ー! ニュッ君から発表がありマース!!」
( ^ν^)「何、そういう感じでいっちゃうの?」
ハローがニュッの腕を掴み、思い切り挙手させた。
全員の目がニュッに向かう。
- 202 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:23:25 ID:J3hGkSXcO
( ^ω^)「このタイミングで何だお」
( ^ν^)「……つ、」
ξ゚听)ξ「つ?」
(´・ω・`)「もじもじしてんじゃねえぞ」
ショボンを睨むように一瞥し、ニュッは長い溜め息をついた。
頭を掻く。
やがて、内藤達を見ないままに口を開いた。
( ^ν^)「ツンの本。……ああ、こっちじゃなくて」
「こっち」、足元の本を指先で叩く。
それではないのなら、デレがニュッの部屋で見付けた、血に汚れた本の方だろう。
ニュッは一呼吸置き、ゆっくりと言い聞かせるように、告げた。
( ^ν^)「あれの最後のページ。……あの内容、知ってるんだ」
静寂が場を満たす。
キュートだけが、首を傾げていた。
- 204 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:26:11 ID:J3hGkSXcO
( ^ω^)「……どうして」
( ^ν^)「祖父ちゃんがあのページに血を吐く直前に見た」
(*゚ー゚)「ニュッちゃん、それ、かなり大事なことだよ。
どうして黙ってたの」
しぃが咎める。
でぃは困ったような顔でしぃを宥めた。
ぴりぴりとした空気に、クックルが左手を振る。
( ゚∋゚)「……まあ。まあ、でも、内容は大体想像つくじゃないか。
俺らと同じようなもんが書き加えられてたんだろうって。なあ」
(*゚ー゚)「でも想像は想像だよ。
正解が分からなきゃツンだって不安になるに決まってるじゃん」
それ以上フォローすることなく、クックルは黙った。
困惑するキュートに、気にするなと誤魔化す。誤魔化せてはいないだろうが。
( ^ν^)「あれを話せば――兄ちゃんが、変なこと考えるんじゃないかって思った」
(´・ω・`)「変なことって、どんな」
( ^ν^)「お前が考えたようなことだよ」
(´・ω・`)「僕?」
( ^ν^)「……まず先に結論から言う」
- 205 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:28:05 ID:J3hGkSXcO
ニュッが見たもの。
最後、ツンが死亡する条件が記されたページ。
元は、簡素な一文しかなかった。
「ツンが死ぬ(消える)のは、本が燃えたときか、内藤モナーが死んだとき」。
それだけ。
しかしモナーが息絶える寸前、そこには、震えた、乱れきった字が書き足されていた。
――内藤ホライゾンが彼女を不要と判断する、内藤ホライゾンが死亡する。
上記の条件、いずれか二つ以上が成立したときである。――
.
- 207 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:29:17 ID:J3hGkSXcO
作家達の本に書かれたものを、ニュッでもモナーでもなく、内藤主体に変えて。
そして――「二つ以上」と定めることで、モナーと共に死んでしまうのを回避した。
猿知恵とさえ言える。
みっともない足掻きだ。
彼は、「家族」に甘かった。
ニュッにも、内藤にも、ツンにも。
自分が残していく者達に、甘かった。
- 208 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:30:41 ID:J3hGkSXcO
ニュッが話し終える。
デレの頭の中に色々な感情や言葉が浮かび、めちゃくちゃに駆け巡った。
必死に、言うべきものを掴み取って繋ぎ合わせていく。
ようやく声になった内容は、結局、しぃが先程言ったのと似たり寄ったりであったが。
ζ(゚、゚;ζ「……何で、そんな大事なことを……」
(;・∀・)「いや、ほんと……何で?」
それを黙っている理由が分からない。
隠さねばならないほど、とんでもないことが書かれているのかと思ったのに。
しかしニュッの中では、秘密にするべきだと判断するに充分なものであったらしい。
( ^ν^)「あそこに書かれた名前が兄ちゃんじゃなくて俺だったら、正直に話してた」
正直。そう、「正直」。
この騒動は、元を正せば、
内藤とツン――ニュッも、正直に全てを話さなかったが故に起きたのだ。
誰が悪いとは言いたくないが、敢えて言うなら、みんなが悪い。
- 212 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:33:54 ID:J3hGkSXcO
ハハ ロ -ロ)ハ「ドウシテ館長の名前だと駄目ナノ」
( ^ν^)「……誤解するんじゃないかと思ったんだ」
ζ(゚、゚*ζ「何を?」
そこに、ショボンが手を打つ音が響いた。
合点がいった、とばかりに清々しい音だった。
(´・ω・`)「ニュッ君は当時中坊だったけど、下手に頭が回るというか、小賢しいガキだった。
おかげで、いらないことまで考えが回ったわけだ。
浅薄なブーンとは真逆にね」
(;^ω^)「はあ?」
(´・ω・`)「昔、僕がブーンに話したのと同じだ。
――ツンが、死にかけの爺さんに命令して書き加えさせた。
そんな風にブーンが考えてしまうんじゃないかと、ニュッ君は不安に思ったのさ」
(´・ω・`)「爺さんの余計な気遣いのせいだよね。
ニュッ君の名前だったらともかく、ブーンの名前を使ったもんだから、
ますます怪しくなっちゃったんだよ」
( ^ν^)「実際――俺は、少しだけ……本当に少しだけ、ツンを疑った」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ν^)「今は祖父ちゃんの独断だったって確信してるけど。……ごめん」
ニュッが項垂れる。
ハローがデレの右手を持ち上げ、その手でニュッの頭を小突いた。
反撃も何もない。本気で反省しているようだった。
川д川「……モナーさん、ツンに説明しなかったの……?」
ξ゚听)ξ「聞いてない……」
(´・_ゝ・`)「ツンに言ったら、止められそうだったからじゃないかな」
- 213 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:35:30 ID:J3hGkSXcO
内藤とツンが顔を見合わせる。
ツンの瞳が横へ逸れた瞬間、内藤は、ツンを抱き締めた。
ξ゚听)ξ「……ブーン?」
( ^ω^)「一度でも、一瞬でも、お前が消えたことがあるかお。
一度でも一瞬でも――僕がお前を不要だと思ったことがあるかお」
ツンが、目を瞠った。
内藤の腕に力が篭る。
( ^ω^)「嫌いになったことなんかないお。
ずっと好きだったお」
ζ(゚、゚*;ζ(おうふ)
こっちが恥ずかしい。
デレはハローの後ろに隠れ、彼女の肩越しに2人を見守った。
- 216 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:37:27 ID:J3hGkSXcO
( ^ω^)「僕にはツンが必要なんだお。……ずっとずっと必要だお」
内藤が唾を飲み込む音が、デレにまで聞こえた。
ツンが、震える腕で、内藤を抱き返す。
ξ゚听)ξ「私、ブーンと違う……」
( ^ω^)「何がだお」
ξ゚听)ξ「……人間じゃない」
( ^ω^)「どこが。見た目は完全に人間じゃないかお」
ξ゚听)ξ「本から生まれたわ」
( ^ω^)「……素敵な親御さんだお」
ツンの一言一言に、内藤が返す。
その返事は、たった今手探りして拾い上げたものを、恐々と口にしているかのようだった。
ツン1人では出せなかった「答え」を、内藤が与えてやっている。
2人で、答えを確認している。
- 218 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:40:06 ID:J3hGkSXcO
ξ゚听)ξ「……怪我してもすぐに治るし」
( ^ω^)「生涯健康体なら、こっちとしても心配事が減ってくれてありがたいお。
第一、そんなの今更だし、ツンに限った話じゃないお。
ここには他に7人も同じ境遇の奴らがいるお」
ξ゚听)ξ「ブーンだけじゃないわ。みんなとも違うの」
( ^ω^)「たとえば?」
ξ゚听)ξ「私、ずっと成長しないのよ」
( ^ω^)「……若くていいじゃないかお。
16年間見てきたけど、全然飽きないお」
- 220 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:43:28 ID:J3hGkSXcO
ξ゚听)ξ「……でも」
( ^ω^)「まだ何かあるのかお?」
ξ゚听)ξ「わ、私、小説書けないし……苗字、ないし」
ツンの手が、声が、震えて、揺らぐ。
内藤に受け入れられるのが恐いのだろうか。
ツンは、手当たり次第、思いついたことを口走っているように見えた。
(;^ω^)「ニュッ君じゃあるまいし、小説書けるかどうかなんて関係ないお。
それに、苗字なら、とっておきのをくれてやるお」
ξ゚听)ξ「……とっておきって?」
( ^ω^)「『内藤』だお。内藤ツン。どうだお」
ξ゚听)ξ「な、いと……」
( ^ω^)「ねえツン。この際だお」
( ^ω^)「――僕と結婚してくれお」
.
- 224 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:45:22 ID:J3hGkSXcO
ζ(゚、゚*;ζ「け」
( ^ν^)「けっこん」
川д川「あらまあ……」
(*゚;;-゚) ポッ
(*・∀・)「……プロポーズだよね?」
o川;*゚д゚)o
唐突に落下してきた爆弾に、それぞれがそれぞれの反応を示した。
今、それを、ここで言うか。
一番驚いているのは――間違いなく、ツンだ。
ξ゚听)ξ
ξ゚听)ξ「で、でも。でも、でも」
( ^ω^)「はいはい、ここまで来たら全部答えてやるお」
- 229 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:47:22 ID:J3hGkSXcO
ξ゚听)ξ「籍、とか」
( ^ω^)「どうとでもなるお。何なら事実婚ってやつでも構わないし。
僕はツンと一緒ならそれで……あれ、でもそしたら『内藤ツン』になれないかお?
……まあいいお、雰囲気雰囲気」
ξ゚听)ξ「私、子供生めない……」
( ^ω^)「ツンがいてくれればいいお」
ξ゚听)ξ「成長、しないし」
( ^ω^)「それはさっき聞いた」
ξ゚;)ξ「嫉妬深いし、叩くし」
( ^ω^)「まあ……力はね、もうちょっと加減してくれていいおね」
ξ;;)ξ「ひょ、表情、なかなか変えられないし。笑えないし、怒れないし、泣けないし……」
( ^ω^)「……今僕の首元に落ちた水は何だろうかね」
ξ*;;)ξ「今は楽観視してても、いつか何か問題出てくる……」
( ^ω^)「そのとき考えて解決すればいいお」
- 236 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:50:04 ID:J3hGkSXcO
内藤は、そっとツンを離した。
真正面から、力強く見つめる。
そして、いつもの、気の抜けた笑みを浮かべた。
( ^ω^)「……他に、差し当たっての問題はあるかお?」
ξ*;;)ξ
ξ*;;)ξ「……ないです……」
いつもの白い頬を、真っ赤に染めて。
眉間に皺を寄せ、鼻水まで垂らしながら。
とても、綺麗とは言えない泣き顔で、ツンは、答えた。
- 245 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:52:21 ID:J3hGkSXcO
(*^ω^)「ツン」
ξ*;;)ξ「ぶっ、ぶ、ブーン……」
内藤がツンの頬に手を当てて、顔を近付ける。
ツンが目を閉じた――瞬間。
(;゚ω゚)「ノックスッ!!」
(´・ω・`)「調子乗りすぎだろ」
ショボンの投げた靴が、内藤の頬にめり込んだ。
その衝撃で内藤がカウンターに頭を打ちつける。
そして白目をむき、彼はずるずると床に倒れていった。
ξぅ;)ξ「……ぶ、ブーン? ブーン!」
ハハ*ロ -ロ)ハ「エーット、エット、オメデトー!」
ξぅ;)ξ「あっ」
デレから離れ、ハローはツンへ飛び掛かった。もとい、抱きついた。
しぃやモララーも、おめでとうと言いながらツンに駆け寄る。
他の作家達も続いた。
皆、嬉しそうに微笑んでいる。
- 247 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:54:18 ID:J3hGkSXcO
o川;*゚ー゚)o「初めて生でプロポーズ見ちゃった……しかも知り合いの……。
遮木さんのせいで酷いオチになったけど」
(´・ω・`)「『2人の世界』って、ああも鬱陶しいものなんだね。
気付いたら手が勝手に靴を。
……はいはいおめでとうおめでとう」
ショボンが無表情で拍手する。
それに合わせ、デレも手を叩いた。
ζ(゚ー゚*ζ「一応、ハッピーエンドでしょうか」
( ^ν^)「……そういうことで」
失神した内藤が、ツンにすら放置されているが、まあ、良しとしよう。
最後まで締まらない。
それも、この図書館らしいと思えた。
- 251 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:56:52 ID:J3hGkSXcO
ξ;;)ξ「……みんな、へ、変なことに巻き込んでごめんなさい……。
デレがいなかったら、ブーンのこと、もっと傷付けた……」
ζ(゚ー゚*ζ「へ」
急に名前を出され、デレはその場で姿勢を正した。
ありがとう、とツンが涙声で礼を言う。
ζ(゚ー゚*ζ「……んっと。どういたしまして」
ξ;;)ξ「私、デレに酷いこと言った……」
ζ(^ー^*ζ「いいよ。
発言はともかく、やらかしたことにはちょっと怒ってるから後で叱らせてもらうけど。
軽くね。軽く」
ξ;;)ξ「……う、うん……」
o川;゚ー゚)o(デレちゃんが珍しいことを……)
下手をすればショボンとキュート、ツンの命がなかったのだ。
いくらデレといえど、さすがに怒る。
とはいえ、ちゃんとした説教などデレには恐らく無理である。
ニュッにも手伝ってもらおうと思いながら、ふと、「本」に目を落とした。
- 252 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 00:58:01 ID:J3hGkSXcO
デレのおかげだとツンは言うが、実際のところ、
最終的にツンを救ったのは「本」だ。
彼――あるいは彼女――が、デレの言うことを聞いてくれたからに他ならない。
ζ(゚ー゚*ζ「……ありがとう」
表紙のタイトルを指先で撫で、呟く。
当然ながら本からのリアクションはなかったが、聞こえてはいるだろう。
はたと、デレは顔を上げた。
辺りを見回す。
内藤、ツン、作家、ニュッとショボン、キュート。そしてデレ。
「本」に演じさせられた面々。
- 253 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 01:00:16 ID:J3hGkSXcO
他には誰もいない。
「彼」は、いない。
いる筈がない。
ζ(゚、゚*ζ「――ねえ、ニュッさん」
( ^ν^)「ん?」
ζ(゚、゚*ζ「……いえ。ごめんなさい、何でもないです」
わざわざ言う必要もないか。
デレは、首を振った。
*****
- 254 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 01:01:48 ID:J3hGkSXcO
「飯食わせろ」とは、ショボン。
あの直後に気付いたのだが、時刻は既に午後9時を回っていた。
ニュッを始めとする主人公とその仲間達の疲れが、安堵と共に一気にのし掛かる。
今から車を運転して帰って1人で食事の準備をするのも怠い、と漏らしたショボンは、
気絶から目覚めた内藤に、夕飯を寄越せとお願い――命令――したのであった。
.
- 255 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 01:03:19 ID:J3hGkSXcO
( ^ω^)「何か、すごく嫌だ……」
ξ゚听)ξ「……私のせいだし、ショボンの我が侭、聞いてあげて」
( ^ω^)「是非食べていくといいお」
(´・ω・`)「やったね。10品以上出せよ。酒も準備しろ」
( ^ω^)「やっぱ帰れ。帰って二度と我が家に来るな」
ハハ*ロ -ロ)ハ「デレとキュートも食べてく?」
(*・∀・)「あ、そうしようそうしよう、話したいこともあるし!
俺らのこと嫌いになってないんだよね? ね!?」
ζ(゚、゚*ζ「たしかに御相伴にあずかりたいところではありますけど。
ほら、今夜ばっかりは、家族水入らずみたいな、そういう……。
あと嫌いになってないです」
川д川「ショボンがいる時点で水入らずではないわよお……」
ζ(゚ー゚;ζ「……そうですね」
(*゚ー゚)「食ってけ食ってけ!」
ヽ(#゚;;-゚)ノ
- 257 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 01:05:03 ID:J3hGkSXcO
(´・_ゝ・`)「キュートさん……でいいんだよね? キュートさんはどうする?」
o川;*゚ー゚)o「お、お食事ですか? クックルさんと? お食事?」
(;゚∋゚)「何故俺が出てくる」
o川*゚ー゚)o「……あっ、そうだ、内藤さん! お話があります!
これが目的で来たんだった!」
(*^ω^)「何だお、愛の告白かお?」
ξ゚听)ξ
(;^ω^)「冗談だってば! 冗談だってば!!」
キュートが内藤に耳打ちする。
作家達について教えてほしいと交渉しているのだろう。
内藤が真剣な顔で頷いた。
(´・ω・`)「よしよし、今夜はブーンとツンの婚約パーティーだ」
( ・∀・)「あ、それいい」
ζ(゚、゚;ζ「1人で食事の準備するのも出来ないほど怠いんじゃなかったんですか、ショボンさん」
迷惑になるのならば遠慮したいところだが、
彼らの反応を見るに、歓迎してもらえているらしい。
- 262 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 01:07:22 ID:J3hGkSXcO
ζ(゚、゚*ζ「……いい?」
ξ゚听)ξ「私は全然構わないけれど」
ツンがデレの手を握った。
照れくさそうに、呟く。
ξ゚ -゚)ξ「……ちゃ、ちゃんと、改めて仲良くなりたいし」
ζ(゚、゚*ζ「……」
ζ(゚ー゚*ζ「仲良くなってるつもりだったんだけどなあ」
ξ゚听)ξ「だって、……デレがブーンのこと持っていっちゃいそうで、
何か、け、警戒してたんだもの、私」
ζ(゚ー゚*ζ「持ってかないよ」
ξ*゚听)ξ「……うん」
(*゚ー゚)「だいだんえーん!!
さあ、演じさせられてる最中に何があったのか詳しく聞かせてもらうからね」
(#゚;;-゚)) コクコク
- 264 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 01:09:18 ID:J3hGkSXcO
( ^ω^)「さて、とりあえず2階行くおー。デレちゃん達、一応荷物持っておいで」
ζ(゚ー゚*ζ「はあい。あ、ニュッさん、本」
( ^ν^)「ん」
(´・ω・`)「ブーン、代わりに僕の荷物運んでくれる気遣いくらい見せろよ」
( ^ω^)「本っ当にお前だけ今から帰れ」
( ゚∋゚)「ああ、キュート、万年筆ありがとうな。あれ持ちやすくて気に入ったぞ。
でも高かったんじゃないのか」
(´・_ゝ・`)「万年筆?」
o川;*゚ー゚)o「ああああああ余りもん! 余りものだよ! 処分に困ってたの! うん!!
たまたまクックルさんにケーキもらったから、お礼に丁度いいかなって!
きっ、昨日から用意してたわけじゃないからね違うからね」
( ゚∋゚)「余りものでも嬉しかった」
o川;* д )o「ああああああああああ!
ごめんなさい余りものじゃないです買いましたお小遣い叩いて買いました」
(;゚∋゚)「何で一回嘘ついたんだ」
川д川「……キュートちゃん見てると思うんだけど、私の忠告って意味なかったのかしらあ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「なかったと思いマスヨ。アレだけ惚れてちゃ……」
- 267 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 01:11:45 ID:J3hGkSXcO
( ^ν^)「……おせえよ」
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん待って待って」
( ^ν^)「早くしろ」
ζ(゚、゚;ζ「わあっ!」
手が滑る。
鞄の中身が床に散らばった。
( ^"ν^)「何してんだお前は」
ζ(゚、゚;ζ「ごめんなさい……あっ、わ、私やりますよ」
( ^"ν^)「うるせえ」
ニュッはノートや筆記用具を手早く拾い上げると鞄に詰め直し、
そのままデレの鞄とコートを抱えた。
本をデレに渡し、行くぞ、とぶっきらぼうに言い捨てる。
- 268 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 01:12:41 ID:J3hGkSXcO
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ「……ニュッさん」
( ^"ν^)
ζ(^ー^*ζ「ありがとう」
( ^"ν^)
( ^ν^)
( ^ν^)「ふん」
- 274 名前:名も無きAAのようです:2011/10/30(日) 01:14:45 ID:J3hGkSXcO
2人が階段へと向かう。
去り際にニュッが蛍光灯のスイッチを切った。
やがてドアが閉まり、1階、VIP図書館内は暗闇と静寂に包まれる。
間もなく――2階から、賑やかな声が聞こえ始めた。
最終話 終わり
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