- 459 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 18:47:38 ID:e6k6/AU2O
『 あるところに、照れ屋な魔女がいました。 』
『 魔女には好きな人がいたのですけれど、照れ屋なものですから
何も伝えることが出来なくて、いつも彼を眺めているだけでした。 』
『 だけど、誰にでも優しい彼を見ていると、独り占めしたくなって堪りません。 』
『 「駄目よ。私は、彼のような普通の人間ではないから、
私と一緒になっても彼は幸せになれないわ」 』
『 そうは思っても、やっぱり、彼への想いは日毎に増すばかりです。 』
『 だから魔女は、 』――
.
- 460 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 18:49:59 ID:e6k6/AU2O
最終話 あな愛しや、ファンタジー小説・前編
.
- 461 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 18:51:13 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚*ζ
( ∵)
ζ(゚、゚*ζ
( ∵)
( ∵)「長岡さーん」
1月4日。学校。
とある教室では、一週間ぶりの補習が行われている。
上の空といった様子の長岡デレ。
彼女の目の前で、英語教師、奈良場ビコーズは手を振った。
無反応。
( ∵)「長岡さんってば」
ζ(゚、゚*ζ
( ∵)「長岡デレさん」
ζ(゚、゚*ζ
( ∵)「デレさん?」
ζ(゚、゚*ζ
- 462 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 18:52:15 ID:e6k6/AU2O
( ∵)「デレちゃーん」
ζ(゚、゚*ζ
( ∵)「デレたん。デレっち。デレぴょん」
ζ(゚、゚*ζ
( ∵)「おいお前」
\(;^o^)/(先生の機嫌が悪くなってきてる……!)
(;・∀ ・)(気付け……頼むから早く気付け……!!)
補習仲間の必死なテレパシーの甲斐あってか、デレが我に返る。
きょとんとした後、ビコーズを見遣り、首を傾げた。
ζ(゚、゚*ζ「呼びましたか?」
( ∵)「呼びましたよ。30回は呼びましたよ」
(;・∀ ・)(数を盛ってる……)
- 463 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 18:54:09 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚;ζ「ごっ、ごめんなさい! ぼうっとしてて……」
( ∵)「ええ、ええ、いいんです。先生、存在感ないですから。
で、プリントに何書いてるんです?
『内藤さん ツンちゃん』……」
ζ(゚、゚;ζ「わーわーわー! 何でもないんです何でもないんです!」
机にしがみついてプリントを隠し、デレはぶんぶんと頭を振った。
昨日からずっと、VIP図書館のことばかりが思考を占めている。
ビコーズの補習に集中出来ないくらいに。
( ∵)「……ちゃんと話聞いてくださいね。
また先生のこと無視したら、それはそれは楽しい個人授業が待ってますよ」
ζ(゚、゚;ζ「はい……」
ビコーズが教壇に向かう。
ほっと息をつき、デレはプリントを見下ろした。
内藤ホライゾン。ツン。
( ;ω;)『……ツンは、僕をどう思ってるのかお……』
ζ(゚、゚*ζ(……お互い、正直に話し合えれば一番いいんだけどなあ。
ツンちゃんが難しそう)
彼らのために自分が出来ることは何だろう。
- 464 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 18:55:14 ID:e6k6/AU2O
( ∵)「長岡さん」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「……はいっ!!」
( ∵)「ぎりぎりですねー」
*****
- 465 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 18:56:53 ID:e6k6/AU2O
補習を終えたデレは、1年A組の教室へ向かった。
3年生らしき生徒が教師を相手に面接練習(だと思われる)をしていたので、
大きな音を立てないよう気を付けながらロッカーを開け、そこに入れておいた紙袋を出した。
中には、今朝早くから作ったホールケーキ。
先月末、若菜家から帰ってきた際に遮木ショボンから要求された「タクシー代」だ。
現金で支払った方が安くつく結果になったが、作るのが楽しかったので良しとする。
ζ(゚、゚*ζ(ショボンさんにケーキ渡して、図書館行って……)
ζ(゚、゚;ζ(……あちゃー。内藤さん達の分もケーキ作れば良かったかなあ。今度作ろう)
鞄を肩に、袋を右手に引っ提げて歩き始めた。
コートのポケットから携帯電話を取り出す。
ζ(゚、゚*ζ「ん」
サブディスプレイのランプが点滅している。
どうやら補習中に電話が掛かってきていたようだ。
ζ(゚、゚*ζ「誰だろ……」
踊り場で立ち止まり、着信履歴を開く。
「ニュッさん」という名前が表示されていた。着信があったのは10時半頃。
- 466 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 18:58:46 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚*ζ(ニュッさんだ)
内藤ニュッの顔を思い浮かべる。
昨日に引き続き、今日も彼から電話が掛かってくるとは。
自分にどんな用があるのか、さっぱり想像がつかない。
まさか暇すぎるあまり、デレを小馬鹿にするために掛けてきたのではなかろうか。
奴なら有り得る。
ニュッの番号を選び、決定ボタンを押した。
携帯電話を耳に当てる。
ζ(゚、゚*ζ「……」
――繋がらなかった。
コールすら鳴ることはなく、淡々とアナウンスが流れていく。
アルバイトか何かのために電源を切っているのかもしれない。
図書館の方に掛けようかとも思ったが、やめておいた。
どうせ後で行くのだし、そこでニュッに会えたら直接訊ねよう。
紙袋を揺らさぬように、ゆっくりと階段を下りた。
.
- 467 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:00:08 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚*ζ「――あ」
o川*゚−゚)o「あ……」
昇降口に着くと、下駄箱の前に見知った顔がいた。
素直キュート。
デレを見付けるなり、強張っていた顔から力が抜けていった。
o川*;−;)o「……デレちゃぁあん……」
ζ(゚、゚;ζ「えっ? わ、ちょ、ど、どうしたの!?」
o川*;−;)o「デレちゃぁああああん!」
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃ……あ、待って、待って……」
デレに抱き着いてくるキュート。
慌てて紙袋を下駄箱の上に乗せ、デレは耳元で泣き声をあげるキュートの頭を撫でた。
昨日の内藤を思い出してしまう。
- 468 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:01:44 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚;ζ「落ち着いて話して。ね?」
少々強引にキュートを引き剥がし、瞳を見つめて宥める。
実は、とキュートが口を開きかけたが、デレが続けて発した質問に、
再び泣きじゃくり始めた。
ζ(゚、゚;ζ「昨日、何かあったの?」
o川*;−;)o「……わあああああん!!」
ζ(゚、゚;ζ「うわっ、余計泣いた! えっと……あ、け、ケーキ食べる!?
人にあげるやつだけど、ちょっとぐらいなら……」
o川*;д;)o「あああああああん! ケーキぃいいい! クックルさぁああん!!」
ζ(゚、゚;ζ「ええー地雷踏んだ!?」
とりあえず堂々クックルとの間に何かがあったのは間違いない。
よく見ると、キュートの防寒着の裾からはみ出ているスカートは、制服のそれではない。
学校に、ではなく、デレに用事があったらしい。
放っておくわけにもいくまい。
話を聞かねばならないが、どこに行ったら良いものか。
ここからあまり遠くなく、かつ、人が少ない――出来れば誰もいない――場所。
ζ(゚、゚;ζ(……あそこなら、誰もいないかな)
行こう、と言って、デレはキュートの手を握った。
*****
- 469 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:05:43 ID:e6k6/AU2O
図書室――の隣、司書室。
デレは、来る途中に自動販売機で購入してきた2つの缶を、自分の胸の前に掲げた。
ζ(゚、゚*ζ「ココアとミルクティー買ったけど、どっちがいい?」
o川*゚−゚)o「……ミルクティー」
ζ(゚ー゚*ζ「どうぞ」
o川*゚−゚)o「ありがとう。……あ、お金」
ζ(゚ー゚*ζ「いいよ、これぐらい」
何故司書室にいるのかといえば、デレが話し合いの場に図書室を選んだことに起因する。
図書室ならいつも通りに無人だろうと思っていたのに、
予想に反し、受験を控えた3年生と教師で溢れ返っていた。
そもそも1年生の教室すら利用されていたくらいなのだから、
図書室ともなれば誰もいない方がおかしいのだと考えなくても分かりそうなものだが、
生憎デレは頭が悪い。
- 471 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:07:48 ID:e6k6/AU2O
そこへ声をかけてきた司書教諭、アサピーは、
目を泣き腫らしたキュートに気付くと、すぐに司書室を提供してくれた。
その上、
(-@∀@)『僕がいたら話しづらいでしょ』
なんて言って、図書室の蔵書点検に行ったのである。
本当にありがたい。
長岡さんは図書室を贔屓にしてくれるからね、とも言っていた。
新学期になっても図書室に通い詰めようと決意し、今に至る。
ζ(゚、゚*ζ「それで……何を話しに来たの?」
パイプ椅子に腰掛け、向かいに座るキュートに訊ねた。
熱いくらいに温められたココアの缶を、手の中で転がす。
足元に置いた紙袋を一瞥した。
司書室は随分と暖房がきいている。ケーキが心配だ。
o川*゚−゚)o「……ごめんね。本当はメールか電話で話そうと思ったんだけど、
1人だと、頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃって……。
デレちゃん、前に補習だって言ってたから、学校来たら会えるかと思ったの」
ζ(゚、゚*ζ「うん、それは全然構わないけど」
- 472 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:09:20 ID:e6k6/AU2O
o川*゚−゚)o「……」
キュートは俯き、デレのように、ミルクティーの缶を弄んだ。
彼女が話し出すのを待とうと思い、デレがプルタブを引く。
ほんの少し、舌先で軽く掬うくらいの量のココアを口に含んだ。
熱と甘みと、ささやかな苦みがじんわりと舌に染み込む。
ふと空腹を覚えた。もう12時を回っている。
キュートもケーキも心配だが、それに加えて時間が気になって仕方ない。
ショボンと約束したのは1時。間に合わなかったらどうしよう。
o川*゚−゚)o「……昨日」
ζ(゚、゚*ζ「うん?」
不意にキュートが口を開いた。
視線は缶に向けられている。
o川*゚−゚)o「クックルさんが、車に轢かれて」
ζ(゚、゚;ζ「車!?」
大丈夫だったのかと訊きそうになったが、思い直し、缶を唇に押し当てた。
「作家」は、本が燃えるかニュッの傍にいる意味がなくならない限り、死にはしない。
怪我をしても、すぐに治る。
昨日、クックルはニュッと共に普通に帰ってきていたようだったし、無事だろう。
- 473 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:11:00 ID:e6k6/AU2O
o川*゚−゚)o「頭から血がいっぱい出てたし、どう見ても重傷だったんだけど」
ζ(゚、゚;ζ「う、うん……」
o川*゚−゚)o「ニュッ君さんと一緒に、どっか行っちゃった」
キュートはプルタブに爪を引っ掛けた。
しかし、開けないままに手を離す。
――それから、ぽつぽつと事の顛末を語り始めた。
迷子の少女と出会ったこと、不可思議な現象が起こったこと、
ニュッが妙な行動や言動を繰り返していたこと、その後の事故、クックル達の様子。
話し終える頃には、彼女の声は涙声になっていた。
o川*;−;)o「……目の前であんなことが起きたのに、どうして放置されなきゃいけないの」
ζ(゚、゚;ζ「う、ううーんと……」
o川*;−;)o「リリちゃんなんか、ぽかんとしちゃって……私も何もフォロー出来ないし……。
結局お互いに釈然としないまま別れたよ……」
そのリリとかいう少女は、まず間違いなく「主人公」だったのだろう。
ニュッの行動は、大方、本を回収するためのもの。
クックルが事故現場から去ったのは、警察や病院の厄介になるのを恐れたか――
すぐさま怪我が治っていく姿を、キュート達に見せたくなかったか。
- 474 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:13:19 ID:e6k6/AU2O
o川*;−;)o「……」
ζ(゚、゚;ζ「……えっと」
今のデレなら全て理解出来るのだが、かといって、どう応対すればいいのやら。
沈黙が流れる。
鼻を啜り、キュートはデレから目を逸らした。
o川*;−;)o「――不思議な本って、クックルさんの以外にもあるんだよね?」
ζ(゚、゚;ζ「えっ」
o川*;−;)o「私の顔、変えたみたいに……おかしなことを起こす本。
クックルさんのやつだけじゃないんでしょ?」
キュートの言う「おかしなことを起こす本」は、要するに、「生きている本」だ。
そういうことならば、たしかにクックルの本に限った話ではない。
o川*;−;)o「この間、お姉ちゃんのこと相談しに行ったときにも、
……しぃさんっていったっけ、しぃさん、本がどうのこうの言ってたし」
o川*;−;)o「昨日の事故の直前、ニュッ君さんが緑っぽい色の本持ってるの見たし……」
ζ(゚、゚;ζ「う」
- 475 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:15:46 ID:e6k6/AU2O
o川*;−;)o「……あの図書館、隠し事いっぱいあるよね。
現実離れした話なんでしょ、どうせ」
ζ(゚、゚;ζ「あ、の、……あのね、……それはですね……」
鋭いと言うか、何と言うか。
まあ、それなりに付き合っていれば勘づいてくるようなものなのだろうが。
o川*;−;)o「誰も説明してくれないし、聞かなくても平気そうだったから知らないふりしてたよ。
……てっきり、『秘密』って、本に関することだけだと思ってたんだもん」
o川*;−;)o「でも――もしかして、あそこに住んでる人達自体にも、何かあるの?」
ずばり、その通りだ。
デレが詰まる。
o川*;−;)o「だってクックルさん変だったの。
たくさん血が出てたのに、普通に歩いていったんだよ?」
o川*;−;)o「たしかにあの人、体とか大きくて丈夫そうだけど……だからって、
数秒前まですごく辛そうだったくせに……」
絶対おかしい、と、キュートが呟く。
今度はデレの方が俯いてしまった。
これほどまでに察しているのならば、もしかしたら、
クックルが普通の人間ではないことを既に確信しているのかもしれない。
- 476 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:17:23 ID:e6k6/AU2O
o川*;−;)o「……本や図書館に関することなら、隠し事されたって、黙ってられるけどさ。
クックルさん自身のことなら、知りたくなっちゃうじゃん……」
ζ(゚、゚;ζ「ん……まあ、そうだよね」
o川*;−;)o「デレちゃんは知ってるんでしょ。ずるいよ。
何でデレちゃんは教えてもらえて、私は駄目なの?
何で――クックルさんを好きになっちゃいけない理由すら教えてもらえないの?」
o川*;−;)o「……いや、別に好きなわけじゃないけど。好きにならないけど。
この私があんな筋肉野郎に惚れるわけないけど」
ζ(゚、゚;ζ(キュートちゃん通常運転だった)
- 477 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:19:15 ID:e6k6/AU2O
o川*;−;)o「――……はあ」
2人揃って黙り込む。
デレは手元の缶を、キュートはデレの顔をじっと眺めた。
そこへ、ドアをノックする音が割り込んだ。
アサピーが入室する。
キュートは慌てて涙を拭った。
(-@∀@)「あ、ごめんね、ペン取りに来ただけだから」
そう言いながら、アサピーは机の上からボールペンを拾い上げた。
すぐに、そそくさとドアに歩いていく。
(-@∀@)「ごゆっくり」
ζ(゚、゚*ζ「はい。……ありがとうございます、部屋貸してくださって」
(-@∀@)「いえいえ。――ああ、ごゆっくりなんて言っちゃったけど、
あんまり長居しない方がいいかも。
そろそろビコーズ先生来ると思うから」
ζ(゚、゚;ζ「びっ、ビコーズ先生?」
アサピーの右手が、床に置かれた小振りの段ボール箱を指した。
開いている。真新しい本が入っていた。
- 478 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:21:19 ID:e6k6/AU2O
(-@∀@)「新しく入れた本、何冊か取り置きしとくように頼まれたんだ。
多分午後の補習が始まる前には借りに来るんじゃないかな」
時計を見る。
3年生が対象だという午後の補習は、何時からだったか。
(-@∀@)「おっとっと、邪魔してごめん。それじゃあね」
アサピーが司書室を出る。
デレは、おろおろとあちこちに顔を向けた。
ビコーズが来てしまっては、まずい。
今のキュートは私服姿。在校生が特別な理由なく私服で来るのは校則違反だ。
目敏いビコーズが気付かぬ筈がない。
場所を移さなければ。
ζ(゚、゚;ζ「……あのう、キュートちゃん……」
o川*゚−゚)o「デレちゃん」
ζ(゚、゚;ζ「はいっ」
o川*゚−゚)o「今日のこれからの予定は?」
ζ(゚、゚;ζ「よ、予定?」
- 479 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:23:15 ID:e6k6/AU2O
o川*゚−゚)o「図書館には行くの?」
――行く。昨日、ニュッと約束したし。
うん、と小さく頷く。
すると、キュートが勢いよく立ち上がった。
缶を開け、ミルクティーを一気に飲み干す。
いい飲みっぷりだ。ごくごく、豪快な音を立てている。
空になった缶は、キュートの鞄へしまわれた。
o川*゚−゚)o「行くよ」
ζ(゚、゚;ζ「い、行くって……図書館?」
o川*゚−゚)o「うん。もう直接訊く。
デレちゃんより可愛い私が、事情を知らされない理由がないもん」
ζ(゚、゚;ζ(可愛さは関係ないと思うけどなあ……)
だが、その方が手っ取り早いかもしれない。
いずれにしても、デレの独断で説明するわけにはいかないのだ。
早くしろと言わんばかりにキュートがデレの腕を引っ張った。
キュートを真似て、ココアを一気飲みする。
昇降口に向かう途中の廊下に、空き缶用のごみ箱が置かれていた筈。そこに捨てよう。
- 481 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:24:04 ID:e6k6/AU2O
ζ(>、<;ζ「う、けほっ、けほっ」
o川*゚−゚)o「大丈夫?」
ζ(>、゚;ζ「うん……」
噎せた。咳き込みながら荷物をまとめ、ドアを開ける。
カウンターにいたアサピーに声をかけた。
ζ(゚ー゚*ζ「アサピー先生、ありがとうございました」
o川*゚−゚)o「ありがとうございます」
(-@∀@)「もういいの?」
ζ(゚ー゚*ζ「はい!」
また今度、とアサピーに一礼する。
顔を上げたデレは、図書室内を見渡した。
自分もキュートも、ここで「本」を借りていなければ――
VIP図書館の住人達と出会うことは、恐らく、なかった。
そう思うと、何だかやけに感慨深かった。
*****
- 482 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:26:17 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚*ζ「ちょっと変な人だけど、気にしないでね」
o川*゚ー゚)o「今更変な人が増えたところで……」
ζ(゚、゚*ζ「うん、まあ、そうなんだけどさ」
某所。4階建てのビル、その3階。
「遮木探偵事務所」のプレートを眺め、デレは嘆息した。
内藤に連絡しておくから先に図書館へ行ったらどうか、というデレの提案に、
キュートは「1人で勝負する勇気はない」と首を振った。
ζ(゚、゚*ζ『じゃあ、図書館行く前に私の用事に付き合ってくれる?』
o川*゚ー゚)o『うん、付き合う付き合う』
そんな流れで、キュートと一緒に遮木探偵事務所を訪れたのである。
- 483 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:27:25 ID:e6k6/AU2O
現在12時55分。
さっさとケーキを渡してしまいたい。
が。
ζ(゚、゚*ζ「……何か」
o川*゚ー゚)o「声がするね」
先程から、ぎゃあぎゃあと騒ぐ声がドアの向こうから聞こえてくる。
中に入るのが恐い。
意を決し、デレはノックをしようと手を上げた。
と、同時。
<ヽ;∀;>「殺されるー!!」
ζ(゚、゚;ζ「わっ!?」
ドアが開き、男が飛び出してきた。
何故か泣いている。
男はデレを目視するなり、腕を伸ばしてしがみついた。
- 484 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:28:36 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚;ζ「ちょっ……!」
<ヽ;∀;>「助けてニダー! 警察! 警察呼ぶニダ!」
o川;゚ー゚)o「なっ、何事!?」
泣くのはまだしも、胸に顔を埋めるのをやめていただきたい。
キュートに荷物を預け、両手で男を引っぺがそうと試みる。
直後、今度は女性が現れた。
(゚A゚* )「今警察呼んだら、ニダやんが痴漢の容疑で捕まってまうわ」
<ヽ;∀;>「にぎゃあ!!」
女性が「ニダやん」とやらの後頭部をスリッパで殴る。
「ニダやん」は頭を押さえ、床に転がった。
- 486 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:31:19 ID:e6k6/AU2O
<ヽ;∀;>「のーちゃん痛いニダ!」
(´゚ω゚`)「もっと痛い目見せてやろうか? あ?」
<ヽ;∀;>「ひっ」
ζ(゚、゚;ζ「あ」
ゆらり、不気味に揺れながら事務所から出てきたのは、
デレの目的の人物である探偵――遮木ショボン。
「ニダやん」の肩を踏んづける。
(´゚ω゚`)「ただ失敗するだけに留まらず、金……じゃねえや、客まで逃がしやがって……」
<ヽ;∀;>「だってウリ、現在受け持ってる分だけで精一杯で……。
あっちにまで回す手も気もなかったニダ!!」
(#´゚ω゚`)「仕事ナメてんじゃねえぇえええぞ!!
お前の都合なんざ知らねえよ、何が何でも依頼は遂行しろ!!
たとえお前が倒れようと死のうとな!」
o川;゚ー゚)o「これが所謂ブラック……?」
- 487 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:32:44 ID:e6k6/AU2O
(#´゚ω゚`)「てめえのミスはこれで何度目だ? あ?
信用第一の商売なんだぞ? どう落とし前つける気だよ。
阿部の前でストリップショー開催してみるか?」
<ヽ;∀;>「ごめんなさいニダ、ごめんなさいニダ!」
(゚A゚* )「あんまニダやん苛めてやらんとって」
いい歳をした男が泣きながら謝る姿は無性に物悲しい。
デレは、ショボンの腕を掴んだ。
ζ(゚、゚;ζ「しょ、ショボンさん、ショボンさん」
(#´゚ω゚`)「あ?」
(´゚ω゚`)
(´・ω・`)「何だ。デレちゃんじゃない」
ζ(゚、゚;ζ「はい、デレです……。
今朝電話しましたよね」
(´・ω・`)「うん……ああそうか、もう1時か」
ショボンは白けたような顔をして、こくりと頷いた。
未だ踏みつけられている「ニダやん」が、ほっと息をつく。
- 488 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:34:11 ID:e6k6/AU2O
(´・ω・`)「で、何の用なの? また相談事でもあるの?」
ζ(゚、゚;ζ「いえ……ケーキを渡しに。
あの、お礼、一週間近くも遅れてすみませんでした」
o川;゚ー゚)o「あ。これ?」
先程デレに押しつけられた紙袋をキュートが差し出すと、
ショボンは「ニダやん」から足を離し、袋を奪った。
踵を返す。
(´・ω・`)「もっと遅れたら追加料金取るとこだったよ」
お茶でも飲んでいきな、とデレの肩を叩いた。
怒りは収まったようだ。
起き上がった「ニダやん」とデレの目が合う。
<ヽ;∀;>「……命の恩人ニダぁあああああ!!」
ζ(゚、゚;ζ「わっ! く、苦し……っ!」
(゚A゚* )「だから抱き着くなっちゅうに」
*****
- 489 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:35:26 ID:e6k6/AU2O
N| "゚'` {"゚`lリ「ほらよ」
ζ(゚、゚*ζ「あ、どうもありがとうございます」
o川*゚ー゚)o「いただきまーす」
デレとキュートがソファに並んで座る。
ガラステーブルを挟んだ向かいにはショボン。
所員の1人である男――阿部という名前だと紹介された――が、
煎茶の入った湯飲み茶碗を3つ、テーブルに置いた。
長居する気はない。これを飲んだら図書館に行くとしよう。
<*ヽ`∀´>「女子高生ニダ……。この事務所に女子高生がいるニダ」
(゚A゚* )「この地球の歴史からしたら、10年なんて、差がないようなもんや。
そう考えればウチかて女子高生やぞ」
<ヽ`∀´>「それは無理があるニダ……」
「ニダやん」はニダー、スリッパで彼を叩いていた女性はのーというらしい。
ショボンが紙袋から箱を取り出すと、
ニダーは鼻をひくひくさせながら箱に顔を近付けた。
- 491 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:37:48 ID:e6k6/AU2O
<*ヽ`∀´>「さっき、ケーキって言ってたニダ」
ζ(゚ー゚*ζ「いちごのショートケーキです」
(´・ω・`)「どれ……。ん、結構大きいな」
ζ(゚ー゚*ζ「皆さんでどうぞ」
<*ヽ`∀´>「ケーキ! ケーキ! け……ぶべらっ」
(´゚ω゚`)「てめえに食わせるケーキはありませぇえええん」
ニダーの顔面を足で押しやり、ショボンは箱を紙袋に戻した。
出来れば味の感想が聞きたかったが、ゆっくり食べる時間がないのかもしれない。
(゚A゚* )「まあまあ所長、一応フォローさせてもらうとな、
ニダやんもいっぱいいっぱいやったみたいやし……」
N| "゚'` {"゚`lリ「ニダーのキャパシティは軽く超えてたな」
<ヽ;∀;>「のーちゃん、阿部さん、もっと言ってやるニダ!!
この鬼所長は本当にもう……!」
(´・ω・`)「鬼?」
<ヽ`∀´>「何でもありません」
- 492 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:40:34 ID:e6k6/AU2O
(゚A゚* )「せめて事務員でも雇えんやろか。
ウチらは外での仕事のが多いし、ニダやん頭とパソコン使う作業弱いし」
(´・ω・`)「あー……? 面倒くせえな。
……デレちゃんバイトしてみない?」
ζ(゚、゚;ζ「いえ……体と心がいくつあっても足りなさそうなので……」
(´・ω・`)「キュートちゃんは?」
o川;゚ー゚)o「デレちゃんに同意しま……あれ? 私名乗ってませんよね?」
(´・ω・`)「お姉さんのクールさんは元気?」
o川;゚ー゚)o「どうして知ってんの!? ストーカーか何かなの!?」
そういえば、キュートの姉が行方不明になった際に彼女の居場所を突き止めたのはショボンだ。
下手をするとキュートにまで報酬を要求しかねない。
デレは、「ああ!」と声をあげた。
ζ(゚、゚;ζ「あのですね!」
(´・ω・`)「何」
ζ(゚、゚;ζ「……えっと」
あげたはいいが、話題が思いつかなかった。
笑顔で誤魔化しながら煎茶を飲む。
そして――重大なことを思い出した。
考えてみれば、電話ででも何でも、ショボンに真っ先に報告するべきだった。
- 493 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:42:04 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚*ζ「……内藤さんから聞きましたよ、全部」
(´・ω・`)「……」
ショボンの眉がぴくりと動いた。
頭を掻き、低い声で唸る。
ちらちら、所員達とキュートに視線を送っていた。
詳しく話したいが、外野が気になる――といった様子だ。
しかしデレの方は、改めて確認や話し合いをするつもりはない。
ショボンの言いたいことなど聞かずとも分かる。
内藤や作家達が案じていたものと同じだろう。
恐くないか、気持ち悪くないか、嫌にならなかったか。そんなところ。
だから、デレは、にこりと微笑んだ。
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫ですよ。拒絶も否定も、一切しません」
(´・ω・`)
ショボンの視点が、デレで止まる。
数秒間見つめ合い、溜め息をついたショボンが顔を逸らした。
- 494 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:43:41 ID:e6k6/AU2O
(´-ω-`)「あっそう」
o川*゚ー゚)o「?」
<ヽ`∀´>「何の話ニカ?」
(´・ω・`)「口を開くな無能」
<ヽ;∀;>「ニダァンッ!」
(゚A゚* )「所長、さっきから蹴りすぎ蹴りすぎ」
N| "゚'` {"゚`lリ「悪いな、見苦しいもんを」
o川;゚ー゚)o「あ、大丈夫です、はい」
友人である内藤、内藤の従兄弟のニュッ。
そして彼らの家族とも言えるツンと作家。
昔からの付き合いがある分、情も移っているのだろう。
自分勝手で自己中心的な振る舞いが目立つショボンだが、
彼の根底には、それなりの優しさが存在している。
きっと。多分。恐らく。そうだったらいいな。
- 495 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:45:12 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚ー゚*ζ
再び煎茶を含みながら、デレは笑みを深くした。
皆のことは好きだ。
もっともっと仲良く出来たらいい。
ただ、キュートは全てを受け入れられるだろうか。
彼女は――拒絶するだろうか。否定するだろうか。
一抹の不安はあるが、それでも、何とかなりそうな気がした。
*****
- 496 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:46:55 ID:e6k6/AU2O
( ‐ω‐)
――真っ白な空間の中に、ドアが一つ。
そこに横たわる内藤。
胸の上で両手を組み、目を閉じている様は、死人に似ている。
彼の傍に、これまた真っ白な机があった。
文机程度の低いものだ。
その机の前で横座りをし、何か書き物をしている少女。
彼女は金色のペンを握る手を止めると、空いている方の手で、
隣に眠る内藤の頬をするりと撫でた。
それに呼応するように、内藤の口がもごもごと動く。
不明瞭な寝言が漏れた。
ξ゚听)ξ「……」
少女――ツンが、内藤にしなだれかかる。
目を伏せて、彼の額に自分の頬を擦りつけた。
ξ--)ξ「……ブーン」
*****
- 497 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:52:14 ID:e6k6/AU2O
フェンスに掛かる錠前に鍵を差し込み、捻る。
かちりと硬質な音が鳴ると共に錠が開いた。
ζ(゚、゚*ζ「行こっか」
o川*゚ー゚)o「……うん」
デレはフェンスを見上げた。
高い。上部には有刺鉄線。
少し、寂しく思えた。
内藤モナーが、あのような形で亡くならなければ。
本が勝手に売り払われなければ。
ここは開放され、図書館は図書館として機能し、誰の訪問も自由に受け入れていただろうに。
ζ(゚、゚*ζ(……もう、図書館を開く気はないのかな……)
無理な話だとは思えない。
昨日の大掃除。あれで、本棚は――さすがに全てとは言わないまでも――かなり埋まった筈だ。
形だけは整えられただろう。
まあ、こんなこと、デレの口出しが許される問題ではないか。
- 498 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:53:16 ID:e6k6/AU2O
o川*゚ー゚)o「……デレちゃん?」
ζ(゚ー゚*ζ「え……あっ、ごめん、ちょっと考えごとしてた」
キュートの声で我に返る。
苦笑しながら謝り、デレはフェンスを開けた。
ζ(゚ー゚*ζ「――……へ……」
手から、鍵と南京錠が落ちる。
口元が引き攣った。
.
- 499 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:54:44 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚ー゚;ζ「……?」
フェンスを閉め、デレは目を凝らした。
粗い網目の向こうには、所々を雪に覆われた木々と道。
見慣れた光景だ。
o川*゚ー゚)o「ねえデレちゃん」
ζ(゚ー゚;ζ「うん?」
o川*゚ー゚)o「何か今、変なの見えた」
ζ(゚ー゚;ζ「……だよね!?」
幻覚ではない。
デレは、再びフェンスを開けた。
- 500 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 19:58:31 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚ー゚;ζ「……」
o川;゚ー゚)o「……何これ」
――そこは、もう、「外」ではなかった。
真っ直ぐに伸びる、50メートルほどの廊下。
向こうには扉がある。
左右を壁に挟まれた廊下の幅は、5人並べるかどうかという広さだ。
床には深緑色の絨毯。
天井から等間隔に吊るされた電球が、柔らかな光を注いでいる。
そして――絨毯の上に倒れている男。
あれは。
ζ(゚、゚;ζ「……ニュッさん!!」
男の名を呼び、デレが駆け寄った。
この状況の不可解さを考えるより先に、ニュッの無事を確認したかった。
膝をつく。何か硬いものが足に当たった。
携帯電話だ。
- 501 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:04:16 ID:e6k6/AU2O
( ‐ν‐)
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん、大丈夫ですか? ニュッさん!」
上半身を抱え起こし、ニュッの頬を叩く。
反応がない。
o川;゚ー゚)o「……ニュッ君さーん」
恐々近付いてきたキュートも声をかける。
――きい、と、何かの軋む音が後方から鳴った。
はっとして、2人が振り返る。
ζ(゚、゚;ζ「あ……」
フェンスが、ひとりでに閉じていく。
止める間もなく、ぴったりと入口が閉まるや否や、
すうっと溶けるように消えてしまった。
代わりに、そこに壁が現れる。
まるで、初めから「入口」など存在しなかったかのように。
o川;゚ー゚)o「ちょっ……嘘!」
キュートが走り寄り、何度も壁を叩いた。
開く気配も、壁が消える気配もない。
- 502 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:05:37 ID:e6k6/AU2O
( ‐ν‐)「……」
ζ(゚、゚;ζ「……ニュッさん」
ニュッが、身じろぎした。
眩しそうに眉根を寄せながらデレを見上げる。
( ^ν^)
ζ(゚、゚;ζ「一体どうし――おばまっ!!」
顔を近付けた瞬間、突き飛ばされた。
壁に頭をしたたか打ちつける。目の前を星が飛んだ。
ζ(;、;*ζ「いっ……痛いじゃないですか! 馬鹿になったらどうしてくれるんです!?」
( ^ν^)「もう既に馬鹿だから安心しろ」
言いながら、ニュッがキュートを一瞥した。
顔を顰め、舌打ち。
( ^"ν^)「……お前何で出なかったんだ」
ζ(゚、゚;ζ「え」
( ^"ν^)「電話」
ζ(゚、゚;ζ「……ああ、あれ。補習中だったんです」
デレの答えに、ニュッは深く溜め息をついた。
くそ、などと呟き、傍らの携帯電話を拾い上げる。
倒れていた割に元気そうだ。デレは、少しだけ安心した。
- 503 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:08:59 ID:e6k6/AU2O
( ^ν^)「来んなって言おうとしたのに」
ζ(゚、゚*ζ「どうして?」
(#^ν^)「この状況見て分かるだろうが!」
ζ(゚、゚;ζ「ひゃっ!」
急に怒鳴られ、デレは肩を跳ねさせた。
壁に寄りかかる。
(#^ν^)「……何でここにいるんだよ、お前。どっから入ってきた」
ζ(゚、゚;ζ「ふぇっ、フェンス開けたら、ここに繋がってました」
(#^ν^)「じゃあ一目でおかしいの分かるだろ、何で入ってきてんだよ!
お前いっつも警戒心ってもんが――」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、はい……」
(#^ν^)「笑ってんじゃねえよ……」
ζ(゚ε゚;ζ「ごべっ、ごべんなさっ、やめて、この顔恥ずかしいやめて」
いつぞやのように顔面を鷲掴みにされた。ニュッの手を爪で引っ掻いて抗議する。
お年頃の乙女にとって、これは割と精神的なダメージが大きい。
デレは解放された頬を両手で押さえた。
- 504 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:12:12 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚∩ζ「すみません、叩かれたり意地悪言われたりは散々しましたけど、
ああやって怒るニュッさん見るのは初めてだなあと思いまして……」
( ^ν^)「お前の不用心さに呆れてんだよ」
ζ(゚、゚*ζ「……心配してるって素直に言えばいいじゃないですか」
( ^"ν^)
ζ(゚ε゚;ζ「ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごべんばばい」
o川;゚ー゚)o「ニュッ君さん起きた? 喧嘩してる場合じゃないよ」
キュートが駆けてくる。壁の方は諦めたらしい。
ニュッの前にしゃがみ込み、キュートは床を指差した。
o川;゚ー゚)o「ねえニュッ君さん、これ、どういうこと?
……また、何かの本がやらかしたの?」
( ^ν^)「……察しがよろしいことで」
.
- 505 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:13:20 ID:e6k6/AU2O
溜め息を零したニュッは、一部始終を話し出した。
――朝、彼が目覚めたときには、普通だったという。
いつものように皆で朝食をとり、その後、1階へと下りる。
そして、昨日の大掃除の際に移動させていた本の整理を始めた。
ニュッは、面倒だったので逃げるように図書館を出たそうだ。協調性の欠片もない。
彼がフェンスの前へ辿り着いた直後に、異変は起こる。
突然、辺りが真っ白な色に塗り潰されたのだ。
- 506 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:15:44 ID:e6k6/AU2O
( ^ν^)「何が起きたか分かんなかったけど――まあ、本の仕業だろうな」
掃除以上に厄介な事態になったとげんなりしたのと同時に、
再び周囲の光景に変化が生じた。
扉が現れ、壁が現れ、絨毯が現れる。
咄嗟にデレのことを思い出したニュッは、携帯電話を手にした。
ζ(゚、゚;ζ「……それで、私に図書館に来るなって言おうとしたわけですね」
( ^ν^)「ニュッさんの厚意も虚しく、デレちゃんは電話を無視してくれやがったがな。
――もう一度掛けようとしたが、携帯、使えなくなってた」
o川*゚ー゚)o「壊れたの?」
無言でキュートに携帯電話を手渡した。
キュートが、受け取ったそれを慎重に眺める。デレも横から覗き込んだ。
圏外だ。
さらに、どのボタンを押しても無反応ときた。
ζ(゚、゚;ζ「……あらー……」
( ^ν^)「お前らの携帯もこんな感じになってると思うぞ」
o川;゚ー゚)o「ええっ!」
- 507 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:20:08 ID:e6k6/AU2O
急いで確かめてみる。
圏外、無反応。
ニュッのものと、まったく同じ状態になっていた。
o川;゚ー゚)o「これじゃ、外に助け求めることすら出来ないじゃん……」
ζ(゚、゚;ζ「助けを求めたところで、どうにかなるか怪しいけどね……。
……どうして倒れてたんですか、ニュッさんは」
( ^ν^)「さあ。……お前らが来るまでの時間、眠らされたみたいだな」
o川;゚ー゚)o「で、私達が来て、ニュッ君さんが目覚めて、今に至る、ね」
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさん、倒れた拍子に怪我とかしてません? 大丈夫ですか?
どこか痛むところとか――」
o川;゚ー゚)o「……怪我!!」
唐突にキュートが叫んだ。
ニュッに掴みかからん勢いで詰め寄る。
対するニュッは一瞬口元をひくつかせ、僅かに上体を後ろに反らせた。
- 508 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:22:12 ID:e6k6/AU2O
o川;゚ー゚)o「クックルさんは!?」
( ^ν^)「……質問の範囲が広すぎる」
o川;゚ー゚)o「……昨日の事故の怪我は? 元気なの?
元気なら――今、どこにいるの!? 会える!?」
矢継ぎ早に質問を浴びせかけるキュートの顔を押しのけ、ニュッはデレを睨んだ。
助けを求めているのだろうか。
デレがキュートの腕を引っ張り、ニュッから離す。
ζ(゚、゚;ζ「……あの、キュートちゃんがですね、作家さん……というか
クックルさんの、その、何と言いますか。
色々……――私が内藤さんから聞いたのと同じこと知りたいそうで」
それで一緒に来たんです、と付け足す。
ニュッは気怠そうに顔を歪め、腰を上げた。
( ^ν^)「……その辺は、『これ』が全部終わってから兄ちゃんに訊け。
とりあえずクックルは元気だ。どこにいるかは分かんねえ」
答えを聞いたキュートは息を吐き出した。
その表情は、ひどく複雑だ。
クックルが無事であることに安堵しつつも、それ自体に納得していないのだろう。
デレは、ニュッに続いて立ち上がった。
- 509 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:23:50 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚*ζ「どんな本なんですか、これって」
( ^ν^)「今の段階で絞り込むのは難しいな。
本も見当たんねえし」
ζ(゚、゚*ζ「ふむ」
ζ(゚、゚;ζ「――って、キュートちゃんの前ですけど、
そういうのべらべら喋っていいんですか?」
( ^ν^)「どうせ大体分かってんだろ、さっきの発言からするに」
ニュッが、しゃがんだままのキュートに首を捩じ向ける。
キュートは「多分だけど」と頷いた。
o川*゚ー゚)o「本の内容が現実に干渉してくるんでしょ」
( ^ν^)「まあ、そういう解釈でいい。
やっぱデレよりは賢いな」
皮肉っぽく笑って、ニュッは歩き出した。
向かう先は、廊下の奥にある扉。
デレとキュートも後を追う。
- 510 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:25:57 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚;ζ「……ニュッさんは定期的に私に嫌味を言わないと気が済まないんですか」
( ^ν^)「褒めるところがないから、お前について喋ると必然的に嫌味っぽくなるんだ」
ζ(゚、゚#ζ「それ! そういうところ嫌味ったらしいったらありません!」
o川*゚ー゚)o「ねえデレちゃん、昨日も気になったんだけどさ……。
何でニュッ君さんを『いい人』って言い切れるの。この有り様で」
ζ(゚、゚;ζ「え? だって優しいもん……たまにだけど……」
o川;゚ー゚)o「それDV夫と同じ手口じゃないの? 大丈夫なの?」
( ^ν^)「人聞き悪すぎるんですけど」
話している内に、扉の前に着いた。
木製の両開き。何の変哲もない作りだ。
その脇に固定されている立て札。
蚯蚓がのたくったような曲線が書かれている。
- 511 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:28:38 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚*ζ「……英語ですかね? えっと、える……あい?」
( ^ν^)「『ライブラリー』くらい、すっと読めてくれませんかねデレさん」
o川*゚ー゚)o「デレちゃん……」
ζ(゚、゚;ζ「ひっ、筆記体に慣れてないだけだもん!
ゆっくり考えればちゃんと読めるもん!」
( ^ν^)「じゃあライブラリーの意味分かるか?」
ζ(゚、゚;ζ「と、……としょか、……ん?」
o川*゚ー゚)o「うわあ、すごく自信なさそう……」
ζ(゚、゚;ζ「とにかく! ……この扉、開くんですか?」
( ^ν^)「……んー」
ニュッが取っ手を引いたり押したり、たまにノックをしてみたりと何度か挑戦したが、
扉が開くことも、向こうから返事が来ることもなかった。
( ^ν^)「開かねえな」
o川*゚ー゚)o「扉は開かない、出口もない。……どうしようもないね」
- 512 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:31:50 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚;ζ「何とかして、演じさせてる本を特定出来ませんか?
そしたら打開策も見付けられるかも……」
( ^ν^)「図書館が舞台の話なんて、いくつもあるしな。
主人公が誰かも分かんねえから、どうにも。
今の俺に出来るのはデレを馬鹿にして遊ぶことぐらいだ」
ζ(゚、゚;ζ「もっと他にあるでしょ出来ること!!」
o川*゚ー゚)o「仲いいね2人共」
*****
- 518 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:45:15 ID:e6k6/AU2O
( ´∀`)『まあ、面白くないことも、ないと思うモナ』
ξ;*゚听)ξ『……そ、そう……』
――ある日の夜。モナーの部屋。
ツンが書いた小説を、モナーがぽんぽんと叩く。
彼と向かい合う形で立っているツンは、小さな喜びと大きな恥ずかしさに顔を真っ赤にさせ、
俯き気味にモナーの感想を聞いていた。
( ´∀`)『この――登場人物のモデルは』
ξ;*><)ξ『わー! やめて! 言わないで!!』
耳を塞ぎ、見悶える。
モナーの言いたいことは充分理解している。
やはり、あからさますぎただろうか。
ニュッにもバレていたようだったし。
――ということは、自分が「彼」をどう思っているのかも知られてしまったわけだ。
- 519 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:47:33 ID:e6k6/AU2O
ξ;////)ξ『あうあうあ』
( ´∀`)『今更「バレちゃった」みたいなリアクションされても……』
ξ;////)ξ『うあ?』
( ´∀`)『何でもないモナ。
……これ、ニュッ――じゃなくて、主人公。主人公の仲間が3人いるモナが』
ξ;*゚听)ξ『は、はい』
( ´∀`)『1人は誰だか分かったけど、あとの2人のモデルが分からんモナ』
ξ;*゚听)ξ『あ……それは、モデル、いないの。
男2人だけより、女の子もいた方が……いいかなって』
( ´∀`)『なるほどなるほど。まあ、たしかに、あの2人だけでの冒険なんて
ろくなものにならなそうだモナね。……で、ツン』
ξ;*゚听)ξ『何?』
- 520 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:49:53 ID:e6k6/AU2O
( ´∀`)『結末は、これでいいモナ?』
モナーの親指が、タイトルをなぞる。
ツンは口を開き、閉じて、また開いた。
ξ゚听)ξ『……駄目だった?』
( ´∀`)『いや。悪くはないモナ。物語としては』
ξ゚ー゚)ξ『そう? 良かった。書いてたら自然とそうなったの』
微笑む。
どうして笑ったのか、自分でも分からなかった。
モナーに褒められたからだと思ったが、何だか納得がいかない。
このとき胸に沸き上がった感情は、笑みとは無縁なものだった。
なのに、何故、口角が上がったのだろう。
自分は特に気にしていないのだ、とモナーを騙そうとしたのかもしれない。
( ´∀`)『……本当に、いいモナね』
ξ゚ー゚)ξ『うん』
- 521 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:50:40 ID:e6k6/AU2O
モナーが、人差し指を表紙の中心に当てた。
間をあけて、ぐるりと指先で円を描く。
( ´∀`)『――僕は、この話、好きだモナ』
返された本を抱えた。
暖かみというか、妙な存在感がある。
本に命が与えられたのだ。
これが、モナーにとって最大の称賛らしい。
( ´∀`)『また、何か新しい話を書くモナ? それならノートを用意するモナが』
ξ゚听)ξ『ううん。……やっぱり、これはデミタス達の仕事だわ』
苦笑して右手を振る。
残念がるモナーに「おやすみなさい」と告げ、ツンは部屋を出た。
本に目を落とす。
ニュッにもう一度渡すのは恥ずかしい。
自分で保管しておくことにしよう。
*****
- 522 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:53:04 ID:e6k6/AU2O
白い部屋。
かりかりと響いていたペンの音が止む。
ツンが溜め息をつくと同時に、内藤の目がうっすらと開いた。
( ^ω‐)「お……」
ξ゚听)ξ「……おはよう」
( ^ω^)「おー……」
顔だけをツンに向け、内藤は、首を傾げた。
へらりと笑う。
( ^ω^)「魔女さん」
ξ゚听)ξ「……ええ」
( ^ω^)「お久しぶりですお。この間のお祭り以来かお」
ξ゚听)ξ「そうね」
( ^ω^)「ところで、ここはどこだお?」
ξ゚听)ξ「あなたの部屋よ」
- 523 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:54:55 ID:e6k6/AU2O
( ^ω^)「僕の部屋は、こんな寂しいところじゃないお。
柔らかいベッドがあって……」
ξ゚听)ξ「柔らかいでしょう?」
( ^ω^)「お……」
内藤は寝転がったまま、足に力を込めた。
踵が、ふんわりと沈み込む。
( ^ω^)「柔らかいお」
ξ゚听)ξ「でしょう。だから、あなたの部屋なのよ」
( ^ω^)「そうなのかお」
ξ゚听)ξ「ええ。……まだ眠いでしょう。おやすみなさい」
ツンが内藤の目元を掌で覆った。
いち、と囁く。
――に、さん。
( ‐ω‐)
手を離すと、内藤は静かに寝入っていた。
- 524 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 20:59:17 ID:e6k6/AU2O
ξ゚听)ξ「……」
物語が、進展した。
どうやら役者が揃ったようだ。
ツンはペンを口元へ持っていき、力を込めずに軽く噛んだ。
――早く、ここまで来い。
*****
- 526 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:00:44 ID:e6k6/AU2O
(´・ω・`)「嫌だね」
開け放した入り口に凭れかかり、ショボンは吐き捨てた。
ζ(゚、゚;ζ「だって……このままじゃ終わらないんですもん」
(´・ω・`)「僕以外の誰かに頼めよ」
ζ(゚、゚;ζ「頼むって、誰にですか!」
(´・ω・`)「だから僕以外の誰かだってば」
――数分前。
突然、デレとキュートがやって来たときと同様にフェンスの入口が開いた。
すわ何事かと驚いていると、そこに立っていたのはショボン。
デレ達が事務所を出た後、ニュッに用があるのを思い出したので
図書館に来たのだそうだ。
(´・ω・`)『フェンスの鍵が落ちてたから、何かあったのかとは思ったけど……。
面倒臭そうだねえ。ああ面倒臭そうだ』
ショボンはデレほど軽率ではない。
中に入らないまま、状況の説明を要求してきた。
ニュッから事情を聞いた後のショボンの煩わしそうな顔ときたら。
だが、ニュッが続けて述べた推論に、その表情は更に色濃いものとなる。
- 527 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:03:38 ID:e6k6/AU2O
いわく、物語を進めるためにはショボンが必要である、と。
もしも物語にとってショボンがいらない存在であるなら、
彼がフェンスを開けたときにこの空間へ繋ぐことはないだろう、というのが根拠らしい。
ならば是非ともショボンに協力を願いたいと言い出したデレの提案を
躊躇なく無慈悲に切り捨てたのが、先の「嫌だね」の一言である。
o川*゚ー゚)o「ていうかさ、私のときみたいに、台詞読んで終わらせられないの?」
( ^ν^)「本が見付からねえんだから読みようがねえだろ。
第一……ここまで現実に干渉してきてるとなると、朗読じゃ収まんねえよ」
ζ(゚、゚;ζ「あ……」
――本と現実が「混ざっている」状態なのだ。
もはや、演じる演じないの域を越え、ここは、本の世界そのものになっている。
(´・ω・`)「そこなんだよね。
もしも僕が危険な目に遭うような展開があったら、と思うとなあ。
たとえばハローやデミタスが書いた話なら、絶対関わりたくないし」
- 528 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:05:01 ID:e6k6/AU2O
( ^ν^)「……そいつらじゃねえよ、多分」
(´・ω・`)「うん?」
( ^ν^)「今やっと気付いた。ツンの本だ」
ζ(゚、゚*ζ「ツンちゃん?」
( ^ν^)「図書館が舞台で、男女4人が必要ってことになると、ほぼ間違いない。
だとすりゃ『主人公』は俺だ。……本はどっかに隠れてやがんな」
o川*゚ー゚)o「へえ、ツンちゃんも小説書くんだ」
( ^ν^)「これ以外に書いたのは見たことねえけど。
……っつうか、あの本、生きてたのか」
ζ(゚、゚*ζ「どういう話なんですか?」
ニュッの服の袖を引く。
すぐに答えが返ってくると予想していたが、ニュッは口ごもり、
そっぽを向いてしまった。
- 529 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:11:47 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさん?」
( ^ν^)「……分かんねえ」
ζ(゚、゚*ζ「……え?」
( ^ν^)「ろくに覚えてない」
沈黙。硬直。
デレの頬が僅かに痙攣する。
ζ(゚、゚;ζ「ちょっ……今まで、どんな本でも訊かれたらべらべら答えてたじゃないですか!
ここに来て役立たずになるとかやめてくださいよ!」
( ^ν^)「昔に一回こっきり読んだだけなんだから仕方ねえだろ……。
他の本は何べんも読み返してたから覚えてるけど」
ζ(゚、゚;ζ「何でこの本に限って読み返してないんですか!」
( ^ν^)「ツンが持ってったままだったんだよ」
(´・ω・`)「どうでもいいけど、『役立たず』ってデレちゃん随分な言い草だよね」
( ^ν^)「本当だ死ね」
ζ(゚、゚;ζ「いやちょっと口が滑って……あれ、おかしいな、
この2人の方がよっぽど私に酷いこと言ってくるのに何で私だけ責められるんだろう」
- 530 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:13:32 ID:e6k6/AU2O
参った。
これでは、展開を見越しての対策や心構えも出来ない。
(´・ω・`)「……ま、そういうことなら、やっぱり僕は遠慮させてもらうよ。
何が起きるか分からないんじゃあね」
ζ(゚、゚;ζ「ショボンさあん……」
o川*゚ー゚)o「でもさ、まさか死ぬわけじゃあるまいし――」
ζ(゚、゚;ζ「……いや……あのね、キュートちゃん。
展開によっては死んじゃう可能性もあるよ」
o川*゚ー゚)o
o川*゚ー゚)o「またまたご冗談を」
ζ(゚、゚;ζ「冗談じゃないもん……。私も死にかけたし」
o川*゚ー゚)o
o川*゚ー゚)o「帰っていい?」
( ^ν^)「帰れ」
o川;゚ー゚)o「あいたっ!!」
ニュッの手が、キュートとデレの背中を順番に押しやった。
ショボンにぶつかったキュートが怒りながら振り返る。
- 531 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:15:07 ID:e6k6/AU2O
o川#゚ー゚)o「女の子に何すんのっ!」
( ^ν^)「いいから帰れよ」
o川#゚ー゚)o「はあ!?」
(´・ω・`)「『今なら外に出られるから、恐いなら早く帰りなさいお嬢さん』って意味だよ」
o川*゚ー゚)o「……分かりづらすぎ」
ζ(゚ー゚*ζ「ほらニュッさん優しいでしょ!」
o川*゚ー゚)o「何でデレちゃんが誇らしげなの」
( ^ν^)「いや、単純に、うるさくて邪魔だから帰ってほしい……」
o川;゚ー゚)o「言ってるそばからこんなこと仰ってるけど!?」
- 532 名前:>529
デレの頬が僅かに痙攣するる→ デレの頬が僅かに痙攣する:2011/10/03(月) 21:21:46 ID:e6k6/AU2O
しかし、たしかに、帰るなら今の内だ。
ショボンのおかげで入口は開いている。
ζ(゚、゚*ζ「……キュートちゃん、どうする?」
o川*゚ー゚)o「どうするって」
ζ(゚、゚*ζ「私は残るけど……」
ちらりとニュッの顔を窺う。
思いきり睨まれた。たじろぐ。
( ^ν^)「お前馬鹿じゃねえのか」
ζ(゚、゚*ζ「ご存知の通り馬鹿ですよ」
ツン達を無視して帰れるものか。
主張するため、ニュッの服を力強く掴む。
振り払おうとしたのかニュッが腕を上げかけたが、すぐにそろそろと下ろした。
馬鹿、と小声で貶される。もはや慣れてきたのが情けない。
o川*゚−゚)o「……私も残る」
キュートへ顔を向けると、彼女は腕を組んで言い放った。
若干不服そうな表情ではあるが。
o川*゚−゚)o「『可愛い女の子』は健気なのが基本だからね。
出来る限りの協力はするよ」
- 534 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:25:06 ID:e6k6/AU2O
クックルさんがどんな面白いことになってるか興味あるし。
取って付けたような一言を零し、キュートが口を閉じる。
デレはショボンを見た。
(´・ω・`)「何」
ζ(゚ー゚*ζ「……こう、流れで……『なら僕も行こう』みたいな、そういう」
(´・ω・`)「……」
ζ(゚ー゚;ζ「あ、いえ……何でもないです……」
大変冷ややかな視線を注がれた。
居た堪れなくて目を逸らす。
自分なんかよりも、ショボンの方が頼りになる。出来れば手伝ってほしい。
だが、これ以上お願いしたところで無駄だろう。
デレがもじもじしていると、ショボンは長々と溜め息をついた。
(´・ω・`)「……ここに来る前にさあ、我慢出来なくて、ケーキ一口食べてきたよ」
ζ(゚、゚*ζ「――はあ」
- 538 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:29:42 ID:e6k6/AU2O
(´・ω・`)「美味しかった。あの味と大きさなら、5000円までは出せる」
ζ(゚、゚*ζ「ごせんえん……」
素人が作ったものだし、せいぜい、行っても2000円くらいが妥当なところに思える。
意外にも高評価だ。
で、それが何だというのだろう。
(´・ω・`)「けど、僕が請求した乗車賃は500円だ」
やれやれ、と肩を竦め、ショボンは入口を潜った。
フェンスが閉まる。
間もなく、そこは、ただの壁へと変化した。
(´・ω・`)「過払いの4500円分、働いてやろうじゃないか」
ζ(゚ー゚*ζ「……何て素直になれない人間の集まりなんでしょうねえ」
(´・ω・`)「うるさいよ」
ショボンの右手を両手で握りしめる。
対するショボンは、もう片方の手でデレを小突き、ニュッに向き直った。
- 541 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:32:00 ID:e6k6/AU2O
(´・ω・`)「ニュッ君、覚えてる限りでいいから、中身について教えてくんない?」
( ^ν^)「教えられるほどの記憶がねえんだよ、本当に。
とりあえず、俺とか兄ちゃんとか……
みんなが登場人物のモデルになってたのは覚えてる」
( ^ν^)「ショボンがモデルっぽいキャラもいた。
俺の――っつか、『主人公』の仲間って役で」
(´・ω・`)「へえ、そうなんだ。じゃあ、僕が僕の役をやらされるわけか」
愉快そうに笑うショボン。
しかし、徐々に笑みが消え、眉間に皺が寄っていった。
(´・ω・`)「……」
ζ(゚、゚*ζ「どうしました?」
(´・ω・`)「やられた」
o川*゚ー゚)o「……何がです?」
ショボンの声のトーンが下がる。
舌打ちをすると共に眼光が鋭くなり、不機嫌さが滲み出た。
思わずデレが後ずさる。
- 542 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:35:11 ID:e6k6/AU2O
(´・ω・`)「僕はニュッ君に用があってここに来たって言ったよね」
ζ(゚、゚;ζ「は、はい、言ってました」
(´・ω・`)「ないよ用事なんか。……畜生」
o川;゚ー゚)o「え? え?」
(´・ω・`)「用があると思い込まされたんだ。
……ふっざけんなよ本の分際で……」
ζ(゚、゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「つまり――ショボンさん、まんまと本に誘き寄せられたんですか」
ショボンは、デレのこめかみに手刀をぶち込んだ。
*****
- 543 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:37:10 ID:e6k6/AU2O
(´・ω・`)「確認をしよう」
扉に寄りかかったショボンが、頭を掻いた。
その向かいで、デレは涙目になりながらこめかみを擦っている。
(´・ω・`)「ブーン、もとい青年に恋をしたツン……魔女は、
何とかして青年を独占したいと考える。
そして青年を攫い、」
言葉の途中で扉を横目で見る。
手の甲で、こつんと叩いた。
(´・ω・`)「魔法使いの国の中で一番大きな図書館へと逃げ込む。
強引な『逃避行』のために」
o川*゚ー゚)o「……で、青年の家族である主人公が、青年を取り返そうと、
仲間と一緒に図書館へ乗り込みました、と。
ニュッ君さんが思い出せたのは、ここまでだね」
ね、とキュートがニュッに視線を向ける。
必死に記憶を絞り出したニュッは、頭を押さえながら浅く頷いた。
- 545 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:42:49 ID:e6k6/AU2O
( ^ν^)「たしか、……魔法使いの国の図書館だけあって、
普通の図書館じゃねえんだよ」
o川*゚ー゚)o「まあ、逃避行の行き先にされるくらいだから、何かあるんだろうね。
普通の図書館じゃ逃避行のしようがないもん」
ζ(゚、゚*ζ「魔法使いかあ……ファンタジーですねえ」
(´・ω・`)「不思議なお話なんて、現実で充分味わってきたよ。食傷気味だ」
ショボンが首を振る。
デレが苦笑を返すと、キュートが一歩前に出た。
o川*゚ー゚)o「……ほら、さっさと行きましょうよ。仲間も揃ったし、もう開くでしょ」
ζ(゚、゚*ζ「キュートちゃん積極的だね」
o川*゚ー゚)o「早く終わらせて、早く内藤さんからクックルさん達の話を聞きたいの」
(´・ω・`)「おやまあ、こんな状況で首を突っ込みたがる子がデレちゃん以外にもいるとはね」
ショボンは、邪魔くさい、と呟いて、トレンチコートを脱ぎ捨てた。
鞄も放り投げる。
暖房は見当たらないが、ここは充分に暖かい。
デレ達も防寒着を脱いでいくことにした。
なるべく動きやすい格好の方がいいかもしれない。
- 546 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:44:28 ID:e6k6/AU2O
丁寧に折り畳んだコートと鞄を廊下の隅に寄せたデレは、
制服をぱたぱたと叩きながらキュートに問い掛けた。
ζ(゚、゚*ζ「キュートちゃん、それ持ってくの?」
o川*゚ー゚)o「ん? ……うん、一応」
キュートは鞄を持ったままだ。
意味ありげに鞄を見下ろし、首肯する。
(´・ω・`)「さて、行くか」
( ^ν^)「ん」
ニュッが扉に触れた。
これで開かなかったら、どうしよう。
デレは深呼吸をして、ニュッの手元を注視した。
向こう側へ、取っ手が押される。
ぎい、と、扉が呻いた。
o川*゚ー゚)o「開いた」
キュートがデレの傍に寄り、制服を握る。
先程は乗り気のような振る舞いをしていたが、やはり不安なのだろう。
デレだって、少し――恐い。
- 548 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:46:16 ID:e6k6/AU2O
( ^ν^)「デレ」
ζ(゚、゚*ζ「……はい」
開いていく扉についていく形で、ニュッが歩き出す。
呼ばれるままに返事をして、デレは慌ててニュッを追った。
デレから手を離したキュートが、ごくり、喉を鳴らす。
(´・ω・`)「さあ、キュートちゃん」
o川*゚ー゚)o「はーい……」
*****
- 549 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:47:46 ID:e6k6/AU2O
デレは、あんぐりと口を開けた。
ζ(゚、゚;ζ「……おっきい……」
扉から一直線上には何の遮蔽物もない。
深緑色の絨毯が真っ直ぐ敷かれているだけだ。
だが、その左右が凄かった。
二階建ての家ほどはあろうかという高さの本棚。
隙間がないくらいに本が詰め込まれた大量のそれが、ずらりとドミノのように並んでいる。
顔を上向ける。
天井が遠い。
照明が少なく、全体的に薄暗い。
そのせいなのか、絨毯の先に何があるのかさえ満足に見えなかった。
今度はデレがキュートに近付き、手を握りしめる。
キュートも、しっかりと握り返してくれた。
- 551 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:51:29 ID:e6k6/AU2O
(´・ω・`)「こりゃあ万が一にも下敷きにされようものなら、余裕で死ねるね」
ζ(゚、゚;ζ「こ、恐いこと言わないでください」
( ^ν^)「……」
ζ(゚、゚;ζ「――で、ニュッさんは何を恍惚としてるんですか!
そんなに本が大量にあるのが嬉しいんで……」
「――よくぞいらっしゃいましたあ……」
o川;゚ー゚)o「ぎゃあああああ!!」ζ(゚、゚;ζ
唐突に声をかけられ、デレとキュートは飛び上がった。
声の方を向く。
こつこつと靴を鳴らし、棚と棚の間から女性が現れた。
- 552 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:52:20 ID:e6k6/AU2O
川д川「……ようこそ、我が国自慢の図書館へ……」
o川;゚ー゚)o「……あっ」
ζ(゚、゚;ζ「さっ、貞子さん!」
4人の前で立ち止まり、山村貞子がお辞儀をする。
彼女の長い黒髪が、するすると前に流れた。
我が国、と言ったが、状況からして所謂「魔法使いの国」のことだろう。
であるならば、今の貞子の言葉は、登場人物の台詞だ。
(´・ω・`)「何だい、やけに他人行儀だな」
川д川「……?」
貞子は首を傾げた。また髪が揺れる。
そして、咳払いをし、両手を広げた。
- 557 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:54:32 ID:e6k6/AU2O
川д川「……ようこそ、我が国自慢の図書館へ……」
ζ(゚、゚;ζ(仕切り直した)
川д川「私めは、1号館の司書でございます……。
今日はどのような本をお求めで……?」
( ^ν^)「――おい、貞子」
川д川「……どなたかと、勘違いされておいででは……」
o川;゚ー゚)o「……どうしちゃったの」
(´・ω・`)「役になりきってるようだね。
分かりやすく言うなら、本に操られてるって感じ」
はあ、とキュートが気の抜けた声をあげる。
しばらく考え込み、得心したように頷いた。
彼女が「主人公」にされたときにも、
クラスメートや姉が、本の登場人物と同じ行動をしていたのを思い出したのだろう。
さて、それはそれとして、物語を進めるためには何をすればいいのやら。
- 559 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:57:18 ID:e6k6/AU2O
川д川「私は『さだこ』ではなく、司書でありますよ……。
皆様に館内を案内させていただくための職員です……」
ζ(゚、゚;ζ「あのですね……えっと、」
(´・ω・`)「本じゃなくて人を探しに来たんだ」
言って、ショボンは「これでいいかな」とニュッに訊ねた。
ニュッが首を縦に振る。
主人公の目的は、図書館に逃げ込んだ魔女を探すことだ。
川д川「……人……?」
( ^ν^)「ええと、あー……。……男と女の2人組がここに来なかったか。
女が魔女で、男は人間だ」
川д川「……ええ、たしかに来ましたねえ……。
魔女が連れていた男性は、ぐっすりと眠っていらっしゃったような……」
o川*゚ー゚)o「その人達は、今ここにいるの?」
川д川「いいえ、いませんよ……。
ご希望の品がないと分かるや、すぐに2号館へ向かわれました……」
(´・ω・`)「2号館ってのはどこだい」
キュートもショボンも順応してきたのか、とんとんと話が進んでいく。
貞子は左側へと退き、デレ達から見て前方へ手を伸ばした。
- 560 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 21:58:47 ID:e6k6/AU2O
川д川「この絨毯の上を真っ直ぐ行った先が2号館でございます……」
( ^ν^)「分かった」
ニュッとショボンが先頭を歩き、その後ろをデレとキュートがついていく。
歩きながら振り向くと、貞子が初めのようにお辞儀をしていた。
.
- 561 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:02:06 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚*ζ「――冷えますね」
しばらく進み、貞子が見えなくなった頃、デレは呟いた。
周囲の空気が冷たい。
(´・ω・`)「だね。まあ、寒いってほどじゃないさ」
ζ(゚、゚*ζ「そうですけど……何か、急に気温が下がったと言いますか」
辺りを見渡した。
間近に本棚を見ると、圧倒される。
やはり、かなり大きい。
高さだけでなく幅も相当なものだ。果てが見えない。
ζ(゚、゚*ζ(――あれ?)
前、後ろ、左右。
足は動かしたまま、四方を確認する。
ほんの数分前には「薄暗い」と感じていたが――今や、薄暗いどころの話ではない。
闇に覆われた部分が増えている。
- 562 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:04:03 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚*ζ「……ねえ、キュートちゃ……」
瞬間。
足元の床がなくなった。ように、見えた。
ζ(゚、゚;ζ「ん」
暗い――いや、黒い。
四方八方に闇が広がり、本棚も絨毯もニュッ達も、何もかもが消え去った。
.
- 563 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:06:16 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚;ζ「は?」
困惑したデレは、足を止めた。
寒い。
ζ(゚、゚;ζ「……ニュッさあん」
呼んでも、自分の声が響くだけ。
落ちる感覚がないので、視認出来ないだけで、床は存在しているようである。
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん?」
誰もいない。
不安がのし掛かる。
ζ(゚、゚;ζ「……ショボンさ……――っ」
どこか遠くで、泣き声がした。
赤ん坊が無茶苦茶に張り上げたような泣き声。
得も言われぬ恐怖が体中を這い回った。
- 564 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:08:08 ID:e6k6/AU2O
泣き声が近付く。
あちこちから足音やら何かを引きずるような音が忍び寄ってくる。
早く逃げろと思いはするが、足が竦んでしまう。
震える手を握り込み、ぎゅっと目を閉じた。
それに伴い、音が消える。
数秒待って、デレは瞼を引き上げた。
ζ(゚、゚;ζ
相も変わらず真っ黒な世界。
既視感。
そういえば、デレが内藤達と出会った日にも似たようなことがあった。
あのときも真っ暗になった室内にいて、
音が消えたことに油断したデレが顔を上げると、目の前に「女」がいたのだ。
今は何もいない。
- 565 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:11:39 ID:e6k6/AU2O
ζ(゚、゚;ζ「……」
安堵の息を漏らす。
何気なく後ろを見た。
熟れ腐ったトマトのようなものが、視界に広がった。
思考が止まる。
生臭い息が顔にかかり、「それ」が、潰れた人間の頭部なのだと気付いた。
- 566 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:13:16 ID:e6k6/AU2O
自分は悲鳴をあげただろうか。
分からないが、口を目一杯開き、走り出していた。
また泣き声がする。足音がする。引きずるような音がする。
足や腕、頬に、何かが触れては離れていく。
怖い。
ζ( 、 ;ζ「――」
足が揺れる。
膝が曲がる。
座り込んだ。
肩を、誰かの手が掴む。
「デレ」
.
- 569 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:16:21 ID:e6k6/AU2O
ζ(;、;*ζ「……あ、う……」
( ^ν^)「……デレ」
ニュッがデレの肩を掴み、顔を覗き込んでいた。
彼の後ろには木製の扉。
視線を落とすと絨毯があった。
o川;゚ー゚)o「大丈夫?」
ζ(;、;*ζ「……きゅ、きゅーとちゃん……」
(´・ω・`)「あらあら、ぼろ泣きだ」
キュートが可愛らしいハンカチで涙を拭い、ニュッが頭や背中を撫でてくれた。
2人に礼を言って立ち上がる。
そのとき、後ろから声が飛んできた。
川д川「――皆様、もしかして全員普通の人間ですかあ……?」
o川;゚ー゚)o「わっ!!」
(´・ω・`)「いきなり出てくるなよ。……人間だけど、それが何か?」
貞子だ。
ショボンの答えに、低く唸る。
- 570 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:20:22 ID:e6k6/AU2O
川д川「じゃあ、この図書館のことも知らないでしょう……。
……ここは、本を読むのではなく、本の世界に入るための図書館なんですよお……」
ζ(゚、゚*ζ「……入る?」
川д川「本の中の登場人物になって楽しむんです……。
魔法使いなら、どの本に入るかは自分の意思で決められますけど……
弱っちい人間なんかじゃ、すぐに本に取り込まれちゃいますよ……」
川д川「……あなた方は、何とか無事に戻ってこれたみたいですけど……」
まるで、貞子達の書いた「本」のようだ。
先程の出来事は、デレが本の世界に取り込まれかけていたということだろう。
o川*゚ー゚)o「じゃあ、さっき話してた『魔女』は、どんな本を探しに来たんですか?」
(´・ω・`)「お、ナイス質問。
キュートちゃんは順応が早ければ頭の回転も速いね。誰かさんに比べて」
ζ(゚、゚*ζ「ショボンさんもニュッさんも嫌い」
( ^ν^)「まだ何も言ってねえだろ俺は」
- 571 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:23:27 ID:e6k6/AU2O
川д川「そうですねえ……たしか……」
顎に手をやり、貞子は考え込む仕草をした。
ううん、と呻く。
川д川「……1人の魔女と1人の人間が、共に、幸せに暮らしていく物語でしたかねえ……」
(´・ω・`)「……なるほどね」
( ^ν^)「その通りの本がなかったから、2号館に行ったんだな」
川д川「ええ……。……ここにあるのは、恐怖を提供するためのものばかりですからあ……。
人間と人間以外のものが共に生きていくのとは、まったく真逆な本達です……」
にたり、貞子が笑う。
川д川「1号館の本を求める者なんて、滅多に来やしません……。
普通に物語の世界を楽しみたい人には、不要な場所なんですよお……。
……それでも私は、ここが好きですけどね……」
するする、頭を下げる。
するする、髪が垂れる。
川д川「……本に取り込まれる前に、探し人、見付かるといいですねえ……」
ニュッは何か言いたげにしていたが、ああ、とだけ返し、
扉に付いている黒い取っ手を握った。
- 572 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:25:55 ID:e6k6/AU2O
ゆっくりと扉を開き、その先へ向かう。
ショボン、キュートが後に続いて、デレも足を前に出した。
だが、思い直し――貞子に振り返る。
ζ(゚、゚*ζ「私、貞子さんの書いたホラー小説好きですよ。
一回しか読んだことないですけど」
貞子が顔を上げた。
ぽかんとして――髪のせいで表情はよく分からないが、そのような印象を受けた――、
デレに視線を向けながら立ち尽くしている。
ζ(゚ー゚*ζ「また今度、読ませてくださいね」
1号館を出る。
ニュッ達に追いつくと、自然に、扉は閉まった。
*****
- 573 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:27:23 ID:e6k6/AU2O
――何故自分は生きているのだろう。
ξ゚听)ξ
哲学的な疑問などではなく、単純に、自分が生き長らえている理由が分からなかった。
内藤モナーの死、イコール、ツンの死であった筈だ。
なのに、モナーが死んだ後、何秒、何分、何時間――何日経っても、
ツンが消える気配は一向に訪れない。
「あのとき」にモナーが何かをしたのは間違いない。
だが、その内容がさっぱり分からないのだ。
.
- 574 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:28:32 ID:e6k6/AU2O
(`・ω・´)『――ラーメン食べるかい』
ξ゚听)ξ『……あ、いただきます』
ショボンの実家、ラーメン屋。
その奥にある遮木家の居間で1人ぼうっとしていたツンは、
店主の遮木シャキンが持ってきてくれた丼を受け取った。
現在、遺品の整理を内藤の親戚に任せ、
住人達は男女に分かれてショボンの自宅と実家に泊まらせてもらっている。
あのまま図書館にいたところで辛くなるだけだったし、
何より絨毯や床に染み込んだ血痕のせいで内藤が体調を悪くしてしまうので、
丁度良かったといえば丁度良かった。
ξ゚听)ξ『塩ラーメンですか?』
(`・ω・´)『おう。醤油にしようと思ったんだけど、家内に止められちまったよ。
昨日も塩ラーメンだったから、今日は別のにしたかったんだけどなあ』
「うちの店のラーメンは塩以外食うな」。
ショボンから散々言って聞かされた。よほど不味いらしい。それはそれで気になる。
- 575 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:31:49 ID:e6k6/AU2O
時計を見ると、午後3時を回っていた。
昼食をとっていなかったことに今更気付く。
ξ゚听)ξ『……貞子達は?』
(`・ω・´)『ああ、昼から店の手伝いしてくれてたよ。
今は店の方で飯食ってる。ツンちゃんも、あっちに移動するかい?』
ξ゚听)ξ『いえ、ここでいいです。……ごめんなさい、私だけ手伝わずに――』
(`・ω・´)『いいよいいよ、急なことで、まだ落ち着かないんだろ。じっくり休んでな』
ξ゚听)ξ『……ありがとうございます。――いただきます』
割り箸が、ぱきんと音を立てた。
掬い上げた麺に二、三度息を吹きかけ、啜る。
(`・ω・´)『どうだい』
ξ゚ー゚)ξ『美味しいです』
微笑む。
違和感が頬に走った。
(*`・ω・´)『おおう、そうかい』
ξ゚ー゚)ξ『ええ』
- 576 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:33:11 ID:e6k6/AU2O
何故自分は生きているのだろう。
何を笑っているのだろう。
――お前がすぐに救急車を呼んでいれば――
内藤の言う通りだ。
もっと処置が速かったら、モナーは助かっていたかもしれない。
あれだけ病状が悪化していたのだから治すことは不可能だったとしても、
命を取り留めるくらいは出来ていたのではないか。
「あのとき」。
自分が、モナーの言うことを聞かないでいれば良かったのだ。
- 577 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:35:26 ID:e6k6/AU2O
ξ゚ -゚)ξ『……』
(*`・ω・´)『いやあ、しかしツンちゃんは美人さんだねえ』
ξ゚听)ξ『……え?』
(*`・ω・´)『今でも充分すぎるくらい綺麗だけど、こりゃあ成長したときが楽しみだな』
ξ゚ー゚)ξ『……。そうでしょうか』
(*`・ω・´)『そうだよ。ああ、おじさんがもっと若かったらなあ』
ははは、と朗らかに笑って、シャキンは腰を上げた。
店に戻るらしい。
(`・ω・´)『食べ終わったら、悪いけど、丼を厨房まで下げに来てくれるかい』
ξ゚ー゚)ξ『はい』
シャキンが居間を出ていく。
ツンは表情を消すと、黙々と食事を続けた。
- 578 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:36:43 ID:e6k6/AU2O
モナーを見殺しにした。
内藤とニュッから、家族を奪った。
彼らには親がいない。親戚からは愛情をもらえない。
唯一彼らを愛してくれる血縁者であったモナーを、自分が見殺しにした。
なのにどうして、シャキンに向かって笑みなど見せられるのだろう。
もしかして反省していないのだろうか。
自分の行いに対する後悔が足りないのだろうか。
モナーはもう笑わない。
内藤達はもう、あの笑顔を見られない。
彼らにとって、自分なんかより、モナーの笑顔の方が、ずっとずっと必要である。
- 579 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:39:51 ID:e6k6/AU2O
ξ;;)ξ
スープに涙が落ちる。
自分よりも内藤やニュッの方が悲しいだろうに、よくもまあ泣けるものだ。
割り箸を取り落とす。
悠長に食事などして、呑気極まりない。
ξ;;)ξ『ひぐ、う……』
自分が憎らしい。己の何もかもが憎たらしい。
一挙手一投足、全てに嫌悪を覚える。
この思考も、いかにも悲劇のヒロイン気取りで、それがまた忌々しい。
どうしてモナーは道連れにしてくれなかったのだ。
どうしてモナーは、感情なんてものまで与えたのだ。
おかげで、こんなに苦しい。
- 581 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:42:24 ID:e6k6/AU2O
ξぅ;)ξ『……っ、……、……』
自分は、どうしたら死ぬだろうか。
死に方が分からない。
居間を見渡す。
鋏が目に入った。
衝動に任せ、鋏を手に取る。
試しに、手首に刃先を強く押しつけた。
ぶつりと皮膚が裂ける。
しかし、すぐに塞がってしまう。
やはり怪我や病気で死ぬのは無理だ。
確実に死ぬとなると――
ξ;;)ξ
ツンは、よろよろと居間から出た。
2階に上がり、寝泊まりさせてもらっている部屋に入る。
隅に並べられている皆の鞄から、貞子のものを探した。
念のために、ニュッが作家達の命である本を館から持ち出したのだが、
内藤のことを慮り、血まみれだったツンの本だけは貞子に預けていた。
- 582 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:44:01 ID:e6k6/AU2O
ξ゚ -゚)ξ『あった』
鞄の底に、白色の本を見付けた。所々に血痕がある。
それを抱え、居間に戻る。
たしかライターがあった筈。
ξ゚ -゚)ξ
棚を漁ると、何本かのライターが出てきた。
適当なものを引っ掴み、正座する。
ちゃんと火がつくのを確認して、本に近付けた。
- 583 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:46:21 ID:e6k6/AU2O
――かたりと、物音がした。
(#゚;;-゚)
ξ゚听)ξ『あ……』
振り返ると、椎出でぃと目が合った。
食べかけの炒飯が盛られた皿を持っている。
大方、ツンと一緒に食事をしようと思って来たのだろう。
気など遣わなくていいのに。
(;゚;;-゚)『……!』
ライターを見て、でぃは皿を置くとツンに突進してきた。
後ずさった拍子にライターから手が離れる。火が消えた。
ξ;゚听)ξ『つっ……!』
押し倒される。
頭を打ち、ツンは呻いた。
(*゚ー゚)『でぃちゃん、お水――って、うわっ』
グラスを持った椎出しぃがやって来る。
彼女はぎょっとして、どうしたのかと問いながら駆け寄ってきた。
- 584 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:49:14 ID:e6k6/AU2O
でぃが、本とライターを指差し、次にツンを指差した。
それで理解したのだろう、しぃが瞠目する。
そして、グラスの中の水をツンにぶちまけた。
でぃにまで被害が及んだが、でぃ本人は気にする素振りもなく、ツンの上から退いた。
しぃがツンの胸ぐらを掴み上げる。
(#゚ー゚)『この……っ! 馬鹿!』
ξ゚听)ξ『だって』
(#゚ー゚)『ブーンの言ったこと、やっぱりまだ気にしてたの?
あれはブーンが間違ってたし、ブーンも反省してたじゃんか!』
ξ゚听)ξ『ブーンは間違ってない』
(#゚ー゚)『……っ』
しぃが右手を振り上げる。
でぃは、慌てた様子でしぃの服を引っ張った。
結局、しぃの手はツンを叩くことなく、静かに下ろされる。
- 585 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:51:39 ID:e6k6/AU2O
(*゚ー゚)『……ごめん、ちょっと怒りすぎたかなあ』
言って、ツンの本を持ち上げる。
(*゚ー゚)『タオルと着替え持ってくるね。ツンさん、ちょいとセクシーなことになってるから』
しぃは一瞬泣きそうに顔を歪めたが、
ずぶ濡れになっているツンの服を見て、無理矢理に笑った。
本を抱えたまま、気まずそうに退室する。
ξ゚听)ξ『……』
(#゚;;-゚)
でぃが、ツンの頬に掌を当てた。
(#゚;;-゚)『……ツン、ちゃん、悪くないよ……』
か細い、消え入りそうな声。
滅多に出さないせいなのか、あるいは別の理由か、その声は微かに震えていた。
.
- 586 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:57:18 ID:e6k6/AU2O
――それからシャキンの家にいる間、ツンの傍にはずっと誰かが付き添うようになった。
慰めるためというより、監視の意味が強い。
自ら死ぬのも駄目なら、どうしたらいい。
でぃやしぃは止めてくれたが、本心はどうなのだろう。
陰では、ツンのせいでモナーが死んだのだと言っているかもしれない。
そう考えると、笑ったり泣いたりするのが恐くなった。
「モナーを見殺しにしたくせに」と思われそうで。
それに――もしかしたら、そうすることで、
内藤が可愛げを感じてくれるのではないかという打算的で薄暗い願望もあった。
ξ゚听)ξ
感情はある。
けれども表情は消えていく。
- 588 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 22:58:36 ID:e6k6/AU2O
まるで、ゆっくり死んでいっているようだと思った。
*****
- 589 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 23:01:01 ID:e6k6/AU2O
( ^ω‐)「……」
ξ゚听)ξ「……また起きちゃったの?」
内藤が身じろぎする。
――ニュッ達は、どうやら無事に1号館を出たらしい。
( ^ω^)「魔女さん……」
ξ゚听)ξ「なあに?」
( ^ω^)「やっぱり、ここは僕の部屋じゃないお。
僕の部屋には、木目の綺麗な、まあるいテーブルがあるんだお」
ξ゚听)ξ「何だ、そんなこと」
大した問題ではないといった風に答え、金色のペンを顔の高さまで上げた。
静かに、緩やかに、ペン先を空中に滑らせる。
- 590 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 23:02:15 ID:e6k6/AU2O
#####
『 魔女がペンを振ると、どこからか、まあるいテーブルが落ちてきました。 』
#####
丸テーブルが、ふわりと着地する。
ツンはテーブルを指差した。
ξ゚听)ξ「ほら、あれでしょう」
( ^ω^)「おー。そうだお、僕のテーブルだお」
ξ゚听)ξ「でしょう。だから、あなたの部屋なのよ」
( ^ω^)「そうなのかお」
先と同じやり取りをして、内藤は安心したように瞼を閉じた。
( ‐ω‐)「それなら、良かったお……」
- 592 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 23:03:03 ID:e6k6/AU2O
#####
『魔女が魔法で出したテーブルは、長い時間は持ちません。
青年も、いつかは完全に眠りから覚めてしまいます。
魔女は焦りながらペンを走らせました。 』
#####
( ‐ω‐)
すうすうと寝息を立てる内藤。
ツンは、そっと目を伏せた。
*****
- 595 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 23:05:45 ID:e6k6/AU2O
1号館を出た先は、渡り廊下になっていた。
長い。絨毯が途切れることなく続いている。
上には天井があるが、横に壁はなく、柱が規則的に並んでいるだけ。
柱と柱の間から外が見える。庭か何かだろうか、たくさんの木や花がある。
どれも見たことのない種類のものばかりだ。
ζ(゚、゚*ζ「……そういえば」
( ^ν^)「あ?」
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさん達も、さっき、本に取り込まれそうになったんですか?」
前を行くニュッに質問する。
彼の隣で、ショボンが頭を揺らした。
(´・ω・`)「そうだね。僕、ニュッ君、キュートちゃんの順に抜け出したっぽい」
ζ(゚、゚*ζ「怖くなかったですか?」
(´・ω・`)「血まみれの子供が抱き着いてきたから殴った」
( ^ν^)「わけ分かんねえ気持ち悪い生き物が出てきたから蹴った」
o川*゚ー゚)o「何か女の人っぽいのに話しかけられて、びっくりして鞄で叩いちゃった」
ζ(゚、゚;ζ「そっ、そんな力業で解決したの!? それで良かったの!?
必死で逃げた私は何だったの!?」
( ^ν^)「うるせえ」
- 596 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 23:07:19 ID:e6k6/AU2O
話している内に、2号館の扉に辿り着いた。
作りは1号館のものと大体同じ。
一旦立ち止まる。
(´・ω・`)「……もしかしてさあ、作家全員分、さっきみたいなの繰り返すの?」
( ^ν^)「たしかそんな感じ」
ショボンが額に手をやった。
眉間をぐりぐりとマッサージしながら、大息をつく。
(´・ω・`)「わあ、気が遠くなるね。やっぱりやめていい?」
( ^ν^)「今更遅い」
(´・ω・`)「……はあ……そうですか、っと」
やる気の感じられない声で言って、ショボンはさっさと取っ手を押した。
自棄になったようだ。
ぎい、と扉が悲鳴をあげる。
- 598 名前:名も無きAAのようです:2011/10/03(月) 23:09:16 ID:e6k6/AU2O
o川*゚ー゚)o「次、誰かな」
ζ(゚、゚*ζ「さあ……。……誰だろうと、厄介なのに変わりなさそうだけどね」
扉はゆるゆると、その大きな口を開いた。
1号館よりも明るく感じる。
4人は、淡い緑色の光に照らされる2号館へと足を踏み入れた。
最終話 続く
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