- 2
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:48:46 ID:mPl6OvfgO
街の外れ、とある林。
その中を進んでいくと、開けた場所に出る。
そこに、二階建ての館があった。
入口に掲げられている看板には館の名前が見られる。
「VIP図書館」――
.
- 3
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:49:34 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚ー゚*ζ あな素晴らしや、生きた本 のようです
.
- 4
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:51:03 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ
くらくらする頭を押さえながら、少女――長岡デレは町の中を駆けていた。
時折すれ違う人とぶつかっては、適当に謝り、また走り出す。
――早く逃げなくては――
ちらりと後ろを見れば、「それ」は先程よりも若干近付いていた。
ζ(゚、゚;ζ「……っ」
走る、走る、走る。
家に着けば勝ち。
そうすれば逃げ切れる。
- 5
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:52:25 ID:mPl6OvfgO
――道に、人気が無くなった。
17時。この時間帯、ここら一帯は滅多に人が通らなくなる。
おかげで、今ここに居るのはデレと、
「それ」だけだ。
ζ(゚、゚;ζ
怖い。心細くてたまらない。
だが、あと少しで家に着く。
愛しの我が家が視界に入った。
あと10歩ほど行けば、終わる。
デレは、もう一度、足を止めないまま振り返った。
数メートルは離れている。大丈夫。これならば追いつかれない。
- 6
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:53:54 ID:mPl6OvfgO
ドアの前に立ち鍵を開ける。
そして、すぐに家の中に入った。
ドアが閉まりきる寸前、門の前にじっと立つ「それ」が、一瞬だけ見えた。
鍵を閉め、チェーンをかける。
休む暇もなく家中を走り、窓の施錠を確認した。
最後に2階の自室へ。
窓に鍵がかかっているのを確かめ、そのままデレはガラス越しに玄関を見下ろした。
心臓がどくどくとうるさい。
門の前には女。
入ってくるな、入ってくるなとデレは心中で呟く。
女はしばらくそこに留まっていたが、不意に溶けるように消えていった。
ζ(-、-;ζ「……はあぁぁ……」
深い深い溜め息。
ようやく安心したデレは、その場にずるずると座り込んだ。
- 7
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:57:09 ID:mPl6OvfgO
ここ最近、毎日こうだ。
学校から帰宅する際に、わけの分からぬものに追いかけられる。
白い服を着た、痩せこけた女。
輪郭はあまりはっきりせず、ぼやぼやとした煙のような印象を受ける。
あれは人間ではない。デレ以外の者には見えないのだ。
幽霊か何かだろうと、彼女は推測している。
こうして家の中にさえ逃げ込めば、向こうもそれ以上近付いてこない。
あれの正体は分からないが、
「原因」らしきものは、大体理解していた。
ζ(-、-;ζ「参ったね、どーも」
デレは机の上にあるものを見て、こめかみを押さえた。
一冊の本。
これを持ち帰った日から、あの異様な女はデレを追いかけ始めたのだ。
- 8
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:57:54 ID:mPl6OvfgO
第一話 あな恐ろしや、ホラー小説
.
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:59:36 ID:mPl6OvfgO
長岡デレは高校1年生である。
入学してから半年になるその学校の中でも、彼女は図書室を非常に気に入っていた。
本が好きだというわけではない。
人が少なく、静かな場所。
そういった空間が好きなだけ。
昼休みや放課後に図書室へ行き、勉強、読書、あるいは考え事をする。
それが日課。
友人と遊ぶより、1人で居るのが楽なのだ。
さて、そんな彼女、つい先日――1週間前であったか――、
図書室の奥の本棚から、とある本を見つけ出した。
本というか何というか、「分厚いノート」と呼んだ方が正しいかもしれない。
ハードカバーの、少し高級そうな真っ黒い外装。
表紙と背表紙にはラベルが貼られていた。
表紙に貼られたラベルは2つ。
上部のラベルにはタイトルらしきもの、下部のラベルには著者らしき名前。
背表紙のラベルには縦に並んだタイトルと著者名。
それぞれ、手書きで記されている。
- 10
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:01:41 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ(変なの……)
市販の本とは全く違う。
著者名も聞いたことがなかった。
表紙をめくってみると、中身も手書きであった。
だが、なかなか綺麗な字で、読みやすい。
出だしを見るにどうやらホラー小説らしい。
興味が沸いてきたので、デレは司書のいるカウンターへ本を持って行った。
少々不安だったが、平常通りの手続きで借りることが出来た。
――その日の帰宅中。
ふと振り返ったデレは、白い何かが徐々に近付いてくるのを見た。
距離が縮まり、それが女であると理解する。
「自分を追っている」。
「捕まってはいけない」。
何故だか、そんな考えが頭に浮かんだ。
妙な確信を伴って。
デレは走った。
走って、家に逃げ込み、鍵をかける。
自室の窓から玄関を見ると、白い女は門の前に佇んでいた。
しばらく揺らめいた後、それは消えた。
- 11
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:02:34 ID:mPl6OvfgO
緊張感が失せる。
逃げ切れたのだと安堵する。
それも、やはり、どういうわけか確信出来た。
翌日。
登校してきたデレは、鞄の奥から例の本を発見する。
借りたのをすっかり忘れていた。
授業が始まるまでの時間潰しにと本を読み始める。
ある程度進んだところで、デレは既視感に襲われた。
学校帰りの主人公を追いかける不気味な女。
主人公が家に入れば、それ以上は近付いてこない――
ζ(゚、゚;ζ『これって』
昨日のデレとまるで同じだ。
- 12
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:06:18 ID:mPl6OvfgO
授業が始まってからも、デレは本を手放せなかった。
だが、思いの外、すぐに読み終わることが出来た。
本――ノート――は分厚いのだが、その物語自体はひどく短く、
僅か十数ページほどの掌編だったのである。
あとは真っ白なページが延々続くだけだった。
話は、家に乗り込んできた女に主人公が殺されたところで終わっていた。
「家にさえ逃げられれば怖くない」と油断しきった主人公が
うっかり部屋の窓の鍵を閉め忘れていた、というオチ。
ζ(゚、゚;ζ『……』
自分も、こうなるのではないか。
足元からじんわりと体が冷え、心臓が凍りついていきそうな心持ちだった。
*****
- 13
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:08:53 ID:mPl6OvfgO
それからというもの、毎日デレは追いかけられている。
誰かに相談しようにも、こんな話を真面目に聞いてくれる者など周りにいない。
本が原因なのだろうから、本を返そうと思っても――
ζ(゚、゚;ζ「なーんで返ってきちゃうのかな」
どうしてか、気付くと手元に戻ってきているのだ。
つい先日、返却した日の帰りも女に追いかけられたし、
帰宅してみれば机の上に堂々と本が存在していた。
今日だってこっそり図書室の棚に入れてきた筈なのに。
こうして、デレの自室、机の上にある。
はてさて、どうしたものか。
命に関わるかもしれない問題だというのに、
デレは呑気に「困ったなあ」なんて呟いた。
*****
- 14
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:10:04 ID:mPl6OvfgO
次の日のことだ。
昼休み。
昼食を食べ終えたデレは、いつも通りに図書室へやって来た。
念のため、例の本が収まっていた棚を覗きに行くが、
やはりそこには、ぽっかりと本一冊分の空間があいているだけだ。
ζ(゚、゚*ζ「うーん……いっそ、燃やしちゃおうかな、あれ……」
「――そんなん困りますお!」
ζ(゚、゚;ζ「ひぃっ! ごめんなさいっ!?」
唐突に後ろから響いた怒鳴り声。
驚きのあまり肩を跳ねさせながら、デレは振り返った。
- 15
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:11:46 ID:mPl6OvfgO
(-@∀@)「そうは言われましても……こちらだって、どうにも――」
(;^ω^)「しっかり管理しねえからこうなるんだお! これだから野郎は!!」
(#-@∀@)「……あなたの態度、協力する気を無くさせますね」
(#^ω^)「あ? 人のモン勝手に紛失させといて、よく言うお」
どうやら、デレへ怒鳴ったというわけではなさそうだ。
眼鏡をかけた細身の男と、スーツ姿の男が言い合いながらデレの方に近付いてくる。
そして、眼鏡の男がデレの前で立ち止まった。
(-@∀@)「あれ、長岡さん。来てたの」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、こんにちは。どうかされました?」
(-@∀@)「ん。ああ、いやね、こちらの方が探し物があるってんで、ここに来たんだ」
彼は、この図書室の管理をしている司書教諭、アサピー。
まだ若い上、野暮ったい見た目をしているために
生徒達からは対等に(あるいは下に)見られ、「アサピー」と呼び捨てにされている。
彼のことを「先生」と呼び、敬語で話すのは、デレを含めた一部の者だけだ。
- 16
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:13:29 ID:mPl6OvfgO
デレの問いに答えながら、アサピーは斜め後ろに立つ男を手で示した。
( ^ω^)
アサピーより幾分か年上――30歳になるかならないか――に見える。
中肉中背。スーツを着ているため、どこか堅い印象を受けた。
甘い匂いがする。多分、香水の。
その男は細い目でじろじろとデレを不躾に眺め回し――
(*^ω^)「……かっわいいお」
ζ(゚ー゚;ζ「え」
――まるで漫画のように、鼻の下を伸ばした。
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:15:16 ID:mPl6OvfgO
(*^ω^)「はじめましてお嬢さん、僕は内藤ホライゾンといいますお。
あ、これどうぞ」
ζ(゚ー゚;ζ「は、はあ」
内藤ホライゾン、と名乗った男は、いそいそと名刺を手渡してきた。
受け取る際、デレの手と内藤の手が一瞬だけ触れ合う。
直後、にやにや、笑みを深くさせながら内藤は触れ合った指先を見つめ始めた。
ζ(゚ー゚;ζ(何、この人)
(*^ω^)「お嬢さんのお名前は?」
ζ(゚ー゚;ζ「……長岡デレと申します」
(*^ω^)「長岡さん。デレさん。デレちゃん。デレちゃんね。
何か困ったことあったら、この名刺に書いてある番号に電話くれお。
困ったことがなくても電話くれお」
今まさに内藤に困っているのだが。
とも言えず、デレは曖昧に頷く。
(*^ω^)「あー、かっわい。たっまんねえお。女子高生可愛い」
(;-@∀@)「ないとーさーん?」
( ^ω^)「やめて喋らないで耳腐る。僕は今この子の言葉しか受け付けないお」
ζ(゚ー゚;ζ(誰か助けてー)
- 18
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:16:59 ID:mPl6OvfgO
(*^ω^)「見れば見るほど可愛いお。デレちゃん、授業は何時に終わるんだお?
もし良かったら放課後に僕とデート――」
ξ゚听)ξ「ナンパしに来たんじゃないでしょ」
(;^ω゚)「あっ、いったい!!」
ζ(゚、゚;ζ「きゃっ!?」
そのとき、内藤の後ろから現れた少女が、彼の頭を本棚に叩きつけた。
デレは、まだ人がいたことに驚き、
内藤の頭から物凄く痛そうな音が響いたことに驚き、
最後に、その少女の美しさに驚いた。
ξ゚听)ξ
くるりと巻かれた金髪は天井の照明を反射し、きらきらと輝く。
吊り目がちの大きな瞳やら真っ白な肌やら小さな顔やら、
「西洋人形のような」と例えるのが相応しい。
綺麗で、可愛らしい少女だ。
デレと同い年くらいに見えるのだが、何というか、
「格」が違うとデレは思った。
- 19
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:18:57 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ(……きれー……)
(;^ω^)「いったたた……痛いおツン」
ξ゚听)ξ「本来の目的を忘れないでくれる?」
( ^ω^)「あ、嫉妬かな? 大丈夫大丈夫、僕は君を一番愛しているお」
ξ゚听)ξ「三十路のくせに節操ないのね」
(;^ω゚)「ツンちゃん僕まだ29歳なんだけどなあ!?」
ζ(゚、゚*ζ(かわいいこ……)
ξ゚听)ξ「ごめんなさいね」
ζ(゚、゚*ζ「え?」
ξ゚听)ξ「このおじさん、女の子好きなの」
(;^ω^)「おじさんじゃないからね! まだお兄さんの範囲だからね!」
ζ(゚、゚;ζ「はあ……あ、それじゃあ私、これで……」
そそくさとその場を離れ、デレは図書室を出た。
本のことは、すっかり忘れていた。
- 20
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:20:50 ID:mPl6OvfgO
昼休みも終わり、午後の授業中。
デレは内藤からもらった名刺を眺めていた。
――VIP図書館 館長 内藤ホライゾン――
名刺には、そう書かれている。
ζ(゚、゚*ζ(図書館……)
図書館の人間が、何故学校の図書室なんかに来たのだろうか。
たしかアサピーは「探し物」と言っていた。
ζ(゚、゚*ζ(本、かな。……探し物)
あのとき、アサピーと内藤はデレのもとにやって来た。
用があったのは、デレではなく――
恐らく、あの棚。
あそこにあるべきものを探しに来ていた?
しかしそれが無いから困っていた?
- 21
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:22:59 ID:mPl6OvfgO
ある筈なのに無いもの。
ζ(゚、゚*ζ
ある筈なのに無い、本。
ζ(゚、゚;ζ「――先生!」
手を挙げる。
逡巡し、デレは口を開いた。
ζ(゚、゚;ζ「……死ぬほどお腹が痛いので、早退します」
.
- 22
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:24:41 ID:mPl6OvfgO
図書室に行くが、内藤は既にいなくなっていた。
アサピーが本棚の整理をしている。
(-@∀@)「おや? 今、授業の時間でしょ? 帰るの?」
ζ(゚、゚;ζ「ちょっと、急用が出来て。……あっ、あの、内藤さんは!?」
(-@∀@)「内藤さんならもう帰ったけど」
ζ(゚、゚;ζ「じゃあ……えっと、あの人、何を探しに来てたんですか?」
(-@∀@)「本だよ。『手書きの本はないか』って訊かれた。
そんなの一冊しかないからね、すぐにぴんときた」
――やっぱり、と、デレは口の中で呟いた。
確認のため本のタイトルを問えば、返ってきた答えは案の定。
デレを悩ませている、例の本であった。
- 23
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:26:30 ID:mPl6OvfgO
図書室の奥に行き、デレは電話をかけた。
名刺に書かれた番号へ。
ぷるるる、と数回のコール。
音が途切れる。
『――はい、VIP図書館』
男の声だ。内藤とは違う、気がする。
ζ(゚、゚;ζ「あの、あの、すみません、館長さんは、内藤さんは……」
『は? 死ね』
ぷつん。
ζ(゚、゚*ζ
つー、つー。
無機質な音がただただ鳴り続ける。
――電話を、切られた。
- 24
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:27:14 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ
しかも「死ね」という捨て台詞付きで。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ
- 25
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:28:41 ID:mPl6OvfgO
もう一度かけてみる。
きっと番号を間違えたのだ、と自分に言い聞かせながら。
……相手はしっかり「VIP図書館」と名乗っていたのだが。
ぷるるる。ぷるるる。
『しつけえ死ね』
ぷつん。つー。つー。
ζ(゚、゚*ζ
ぷるるる。
『だからしつk』
ζ(゚、゚*ζ「お前が死ね」
ぷつん。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「はっ!!」
いや、こんなことをやっている場合ではない。
- 26
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:30:33 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ(どうしよう……)
まだ内藤が帰っていないのだろうか。
名刺を見つめる。
肩書、名前、電話番号。
住所。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「先生!」
(-@∀@)「ん?」
ζ(゚、゚*ζ「この図書館って、どの辺にあるんですか?」
アサピーに名刺を見せる。
彼は顎に手をやり、ふむ、と唸った。
(-@∀@)「実は僕、VIP図書館というところに行ったことがないんだ。
というより存在自体知らなかった。今日、彼らが来たことで知ったのさ。
……だから詳しくは分からないんだよ。ただ、」
言いながら、後ろの棚から薄い冊子を取り出す。
この県内の地図帳だ。
あるページを開き、アサピーは机の上に冊子を置いた。
- 27
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:32:56 ID:mPl6OvfgO
(-@∀@)「彼らが言うには、この辺り……らしいんだけど」
ζ(゚、゚*ζ
デレは眉根を寄せた。
アサピーが指差したのは――
ζ(゚、゚*ζ「ここに図書館なんてあるんですか?」
(-@∀@)「本人が言うんだから、あるんじゃないかな」
街の外れの、林。
図書館どころか、建物が存在しているかすら怪しいような場所だ。
(-@∀@)「正直半信半疑だけどね」
ζ(゚、゚*ζ「……内藤さんは、本を取り戻しに来たんですか?」
(-@∀@)「そういうことらしい。
……でも、変なんだよ。君があれを返してくれた後、
僕はちゃんと本棚にしまった筈なのに。
影も形も見当たらない」
本が勝手にデレの家に戻ってきた、と説明したところで、
アサピーは信じてくれないだろう。
そうなんですか。不思議ですね。
デレは、それしか言えなかった。
- 28
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:34:36 ID:mPl6OvfgO
(-@∀@)「どこに行ったんだろうね」
ζ(゚ー゚;ζ「さあ……」
そのとき、チャイムが鳴った。
現在14時半。5時間目の授業が終わった合図だ。
ζ(゚、゚*ζ
考える。
林まで走って向かったとして、何時に辿り着くか。
幸い、この学校からそう遠くない場所である。
あまり時間はかからない筈だ。
だが、今デレが校舎から外に出れば、
ほぼ間違いなく、あの不気味な女が現れる。
果たしてVIP図書館に着くまで、追いつかれずに済むだろうか?
ζ(゚、゚*ζ「……それじゃあ、先生、さようなら」
(-@∀@)「ああ、また明日」
一か八かの賭けにも似ていたが、
ここ数日悩まされ続けた件の、解決の糸口が見えたのだ。
一刻も早く、VIP図書館へ行きたかった。
*****
- 29
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:36:49 ID:mPl6OvfgO
校門を抜ける。
いつもとは逆の方向へ駆け出しながら、デレは振り返った。
――やはり、来た。
女が不可思議な動きで揺れながらこちらへ向かってくるのが、遠くに見える。
ζ(゚、゚;ζ(追いつかないでね、追いつかないでよ!)
――少し走ると、林の前に出た。
高いフェンスが林と道路を区切っている。
フェンスに沿いながら進めば、やがて、
入口――フェンスが開閉可能になっている箇所に差し掛かった。
デレはほっと息をついた、が。
- 30
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:40:00 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「鍵ぃいいいいいい!?」
手前に引けば、フェンスは開くのだろう。
この、がっちりと閉ざされた南京錠さえ無ければ。
ζ(゚、゚;ζ「嘘、嘘、嘘っ!!」
がちゃがちゃ揺らすも、それで開く筈がない。
錠の前であたふたしている内に、女は距離を詰めてくる。
壊す? 無理。
よじ登る? フェンスはとても高いし、上の方には有刺鉄線が巻きつけられている。
ζ(゚、゚;ζ「――うううっ!!」
何にせよ、このままここで考え込むのはよろしくない。
そう判断し、デレは泣く泣く、再び走り出した。
- 31
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:41:46 ID:mPl6OvfgO
一旦林を離れ、街の中へ戻る。
携帯電話を取り出し、発信履歴の一番上にある番号を選んだ。
ぷるるる。
もう出てくれないかもしれない。
ぷるるる。
ああ、足が、体が、疲れてきた。
ぷるるる。
これで誰も出てくれなかったら、もう、デレは諦めてしまうだろう。
ぷるるる。
諦めて、足を止めて、あの女に捕まって、きっと死ぬ――
ぷるるる。
ぷ。
『……貴様……』
ζ(;、;*ζ「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!!
すみませんでした! 申し訳ありませんでした!!」
『あ?』
- 32
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:43:11 ID:mPl6OvfgO
ζ(;、;*ζ「だ、だか、うえっ、だか、らっ!!
フェンス! フェンス……っ! わああああん!」
『……何お前泣いてんの』
ζ(;、;*ζ「林の入口! フェンス! 鍵!
――開けて下さいぃいいいい!!」
死んじゃう、死んじゃう、死ぬ。
そんなことを叫んでいる内に、
いつの間にやら電話は切れていた。
伝わっただろうか。
冷静に考えてみると、イタズラ電話にしか聞こえなかったのではないかとも思える。
これが多分最後のチャンス。
涙を拭い、デレは止まろうとする足を叱咤しながら走った。
角を曲がる。
ここをしばらく行けば、再び林の前を通ることになる。
そのときに、あの電話の相手が鍵を開けてくれていなければ。
もう、おしまい。
- 33
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:44:56 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ
足を動かし続け。
林の前。
フェンスに沿って進む。
――開け放たれた入口が、見えた。
ζ(゚、゚;ζ「あ」
そこに、誰かが凭れかかっている。
ζ(゚、゚;ζ「あ」
あ。あ、あ。
ζ(゚д゚;ζ「ぁああああありがとうございますぅうううううああああああ!!!!!」
絶叫。
中に転がり込む。
- 34
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:46:43 ID:mPl6OvfgO
「あれは? あれも入れんの?」
地面に突っ伏して、ぜえぜえと呼吸するのに必死になっているデレへ、
フェンスに凭れていた男が問いかけた。
「あれ」は、例の女を指しているのだろう。
デレ以外にあの女を視覚で捉えられた人間は、デレの知る限り、彼が初めてである。
ζ( 、 ;ζ「ひめ、ひ、し、閉めて、あれは、入れちゃ、だだ、ら、らめ、駄目」
かしゃん、フェンスが音を立てた。
それから、がちゃん。硬い金属音。
深呼吸。
デレは身を起こし、顔を上げた。
同時に、フェンスに鍵をかけた男がデレを見下ろす。
- 35
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:48:32 ID:mPl6OvfgO
( ^ν^)
若い男だ。
上唇が下唇を僅かに覆っているのが特徴的な顔。
何だか見覚えがあるとデレは考え、その既視感の理由に思い当たる。
内藤が鼻の下を伸ばしたときの顔に似ているのだ。
ただ、この男の方が若いし、服装がだらしない上――
見下ろすというより「見下す」と言った方が相応しいような、
冷め切った目が、内藤とまるで違っていた。
鼻の下を伸ばした、と表現したものの、そこに嫌らしさなどは見えない。
感情が見えない。
内藤の朗らかさが、彼には全く無い。
ζ(゚、゚;ζ「……」
何を考えているのか分からない、そういった恐怖を抱かせる男であった。
- 36
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:51:17 ID:mPl6OvfgO
( ^ν^)
ζ(゚、゚;ζ
見つめ合う。
――不意に、がしゃり、大きな音が鳴った。
その音の原因はすぐに発見出来た。
ひっ、とデレが小さな悲鳴をあげる。
あの女が、フェンスにしがみついていた。
女は濁った目でデレを睨みつけたまま、腕をひたすらに動かし始める。
がしゃん、がしゃん。
がしゃがしゃ。
がしゃがしゃ、がしゃがしゃ。
フェンスを壊さんと、めちゃくちゃに揺らす。
- 37
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:53:31 ID:mPl6OvfgO
10秒ほど経った頃。
( ^ν^)「うるせえ死ね」
デレは腰を抜かして動けなかったのだが、
男は臆することもなく暴言を吐き、フェンス越しに女を蹴った。
一際大きな音を立ててフェンスが揺れる。
そして、女は消えた。
ζ(゚д゚;ζ
( ^ν^)
ζ(゚д゚;ζ「えええええええええええええ!!?」
まさかの物理攻撃に驚愕しきっているデレの隣に移動し、
男は「立てば」と言い捨てた。
ζ(゚、゚;ζ「あ、は、はい」
デレが手を伸ばす。
――てっきり、男が助けてくれると思ったのだが。
- 38
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:54:38 ID:mPl6OvfgO
( ^ν^)
ζ(゚、゚;ζ
( ^ν^)
ζ(゚、゚;ζ
男は、ポケットに手を突っ込んだまま動かない。
ああ。立たせてくれるわけではないんだ。
期待した自分を嘲りながら、デレは1人で立ち上がった。
制服についた土を払い落とす。
ζ(゚、゚;ζ「あ、ありがとうございました……」
男は何も言わない。
ζ(゚、゚*ζ「えっと、私、内藤さんに話があって」
( ^ν^)「出掛けてる」
ζ(゚、゚*ζ「いつ帰ってきます?」
( ^ν^)「知らね」
ζ(゚、゚*ζ「……この奥に、VIP図書館ありますよね?」
( ^ν^)「ん」
- 39
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:56:58 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ「お邪魔してもいいですか? 内藤さんを待ちたくて」
図書館、と言っても、公共の施設なわけでもなさそうだ。
一般人が自由に利用してもいいのなら、こうして入口に鍵をかけるのは妙である。
( ^"ν^)
ζ(゚、゚;ζ「……そんな露骨に顔を顰めないで下さい」
男は踵を返して、奥へと進み始めた。
歩行用なのか、雑草も生えていない一本道がある。
幅もそれなり。目を凝らすと、タイヤの跡らしき線条が視認出来た。
誰かしら車で行き来しているようだ。
デレは男の後を追う。
ζ(゚、゚*ζ「あの、VIP図書館の職員の方なんですか?」
無言。
男は黙々と歩いている。
――この男とは絶対に仲良く出来ない。
いや、仲良くしたくない。仲良くしない。
デレは苛々しながら決意した。
.
- 40
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:58:50 ID:mPl6OvfgO
図書館に到着するのに、あまり時間はかからなかった。
入口から存外近い。
現れた建物は、図書館というか、金持ちの別荘のように思えた。
外壁に汚れは見当たらない。
一本道は真っ直ぐ図書館まで伸び、館の前で二手に分かれている。
片方は館の扉へ、もう片方は館の隣へ伸びていた。
普段は、そこに車を停めているのだろう。
ζ(゚、゚*ζ「VIP図書館……」
立て札に書かれた文字を読む。
たしかにここがVIP図書館で合っているらしい。
男は扉を開き、さっさと中に入っていった。
ばたん。扉が閉じる。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「お、お邪魔しまーす!! お邪魔しますよー!?」
せめて客が入るまで開いておけという文句を胸にしまい、デレは扉を引いた。
- 41
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:00:57 ID:mPl6OvfgO
――中は、図書館然とした造りになっていた。
だだっ広いホール。ずらりと並んだ本棚。
テーブルと椅子のセットがいくつか、
入口付近には貸出や返却のためのカウンターがある。
だが。
ζ(゚、゚*ζ(……寂しいところ)
がらがら。デレが抱いた感想はそれだ。
電気は消えていて、全体的に薄暗く、利用者もいない。
そして――何より妙なのが。
見た限り、どの本棚も空っぽなこと。
一つの棚に2、3冊の本がぽつんと置かれているため、完全に空というわけではないが、
それでもこれは異様だ。図書館としてあるべき姿をしていない。
しんと静まり返った館内。
寂しい。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「……あれ?」
そういえば、男がいないではないか。
- 42
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:01:51 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ「すみませーん」
大声で呼びかけるが、ホールに響き渡るだけに終わった。
どこに行ったのだろう。
ζ(゚、゚;ζ「むむ……」
まあ、元よりあの男には用も無い。
内藤に会えればいいのだ。
ζ(゚、゚*ζ「……失礼しますねー」
念のため断って、デレは扉に一番近い椅子に腰掛けた。
*****
- 44
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:02:57 ID:mPl6OvfgO
ζ(-、-*ζ
暗闇にあった意識が浮上した。
頬の辺りに、誰かの吐息が当たっている。気がする。
甘い匂い。
覚えがある。
昼間に嗅いだ、そう、内藤の――
ζ(゚、゚*ζ
(*^ω^)
ζ(゚д゚;ζ「――わあああああああああっ!?」
目を開くと、視界一杯ににやけ面が広がっていた。
のけ反る。
足元が浮いた。
- 45
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:05:57 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ「あっ」
背中が引っ張られるような感覚。
咄嗟にスカートを両手で押さえたのは乙女の本能だったのだろうか。
――デレは、椅子ごと後ろに倒れた。
ζ(+、+;ζ「いっ、たたた……」
(;^ω^)「おっとと、大丈夫かお?」
内藤が差し延べた手を掴み、立ち上がる。
倒れた椅子を置き直してもう一度腰を下ろした。
ありがとうございます、と内藤に礼を言う。
ζ(゚、゚*ζ「……ん?」
(*^ω^)「お?」
ζ(゚、゚*ζ「あれ、いつの間に――」
そこでデレは、待ちくたびれたために眠ってしまっていたことに気付いた。
腕時計を見ると、もう19時。
付近の蛍光灯のみが点灯し、煌々と光を注いでいる。
内藤達は一体いつ帰ってきたのやら。
- 46
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:07:57 ID:mPl6OvfgO
ξ゚听)ξ「起きた?」
ζ(゚、゚;ζ「あっ、お、おはようございます!」
どこから来たのか、例の美少女が盆を持って現れた。
テーブルに盆を置く。
その上には、3人分のティーカップと、クッキーが盛られた皿。
ξ゚听)ξ「どうぞ。召し上がれ」
ζ(゚ー゚*ζ「わ、ありがとうございます」
ξ゚听)ξ「敬語いらないわよ。同じくらいでしょ。歳」
ζ(゚ー゚*ζ「ん……分かった」
ξ゚听)ξ「私、ツンっていうの」
ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃん。私はデレ。よろしくね」
ツンと名乗った美少女は、一切表情を変えない。
まるで、本当の人形のようだ。
デレの向かいに内藤、その隣にツンが座る。
- 47
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:10:20 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「君がここにいるのを見たときは驚いたお」
ζ(゚、゚*ζ「あ……寝てしまって、すみません」
(*^ω^)「それはまったく構わないお。寝顔も堪能したし――」
ξ゚听)ξ≡⊃))^ω゚)「アガサッ!!」
ζ(゚ー゚;ζ
(;^ω^)「やだもうツンちゃん乱暴……そこも可愛いけど」
殴られた頬を擦りながら、内藤はティーカップを持ち上げた。
ふわり、紅茶のいい匂いが漂う。
それに刺激されて、デレも紅茶を一口含んだ。
ふ、と鼻から息を漏らすと、紅茶の風味が抜けていった。
舌は肥えていないし茶葉に詳しくもないが、
それでも上等な葉が使われていることぐらいは分かる。
- 48
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:11:54 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚ー゚*ζ「美味しい……」
( ^ω^)「それは良かった。
さて、僕にお話があるんだって? ニュッ君から聞いたお」
ζ(゚、゚*ζ「ニュッ君?」
( ^ω^)「……あいつ、客を放置するどころか自己紹介すらしなかったのかお」
聞き慣れぬ名前にデレが首を傾げると、内藤は深い溜め息をついた。
腰を上げ、カウンターへ入っていく。
カウンターの向こう側、奥の壁に内藤が触れると、そこが開いた。
いや、壁が開いたのではなく、
元々ドアが取り付けられていたのにデレが気付かなかっただけだ。
ドアの先には階段があった。
階上に向かって内藤が叫ぶ。
( ^ω^)「ニュッくーん! 下りてきなさい!」
何だか、父親が子供を呼ぶのに似ていた。
しばしの間をあけてから、とんとん、階段を下りる足音が聞こえた。
( ^ν^)
顔を出したのは、デレをここまで案内した男。
無言かつ無表情のまま男は内藤を睨む。
- 49
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:15:33 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「挨拶ぐらいちゃんとしなさいっていつも言ってるお?」
( ^ν^)「うっぜ」
( ^ω^)「 あ い さ つ 」
( ^ν^)「……」
頭を掻きながら、男はテーブルまで足を運んだ。
デレは慌てて立ち上がる。
ζ(゚、゚*ζ「……どうも」
( ^ν^)「うぃ」
ζ(゚、゚;ζ
それだけ言って帰ろうとした男の肩を内藤が掴む。
内藤はすっかり呆れ顔だ。
(;^ω^)「お前は本当に……。
……座れお。僕に話があるってことは、ニュッ君もいた方がいいかもしれんお」
( ^"ν^)
- 50
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:17:49 ID:mPl6OvfgO
デレの隣の椅子に、男はどっかりと座り込んだ。
乱暴な手つきでクッキーを掴み取り、ぼりぼり噛み砕いていく。
唖然とするデレの手元からティーカップを奪うと、それを一気に飲み干した。
ζ(゚д゚;ζ「あー!!」
( ^ν^)「うっせ」
ζ(゚、゚#ζ「なっ、何てことすんのよおっ!」
ξ゚听)ξ「……新しいカップに入れ直すわ」
( ^ν^)「俺にも」
紅茶を入れ直すと言うツンにティーカップを渡して、
男は椅子の背もたれにぐったり寄り掛かった。
あまりにも悪すぎる態度に、デレの怒りが爆発する。
- 51
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:18:49 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚д゚#ζ「あなたみたいに最低な人、初めて!」
( ^ν^)「ふーん」
ζ(゚д゚#ζ「電話じゃ話も聞かずに『死ね』なんて言うし!」
(;^ω^)「ちょっ、ニュッ君またそんなこと……」
( ^ν^)「お前も俺に死ねっつったろ」
ζ(゚д゚#ζ「だって! だって!」
(;^ω^)「……ま、まあまあ、落ち着いて」
どうどう、と内藤がデレを宥める。
無理矢理口を噤んだが、それでもデレは男を睨み続けた。
- 52
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:20:25 ID:mPl6OvfgO
(;^ω^)「ええとね、デレちゃん、こいつは内藤ニュッというんだお」
ζ(゚、゚#ζ「ニュッ……」
( ^ω^)「そのままだと言いづらいから、
やっくんみたいな感じで『ニュッ君』と呼ぶも良し、
ぐっさんみたいな感じで『ニュッさん』と呼ぶも良し、
なっちゃんみたいな感じで『ニュッちゃん』と呼ぶも良し」
ζ(゚、゚#ζ「出来れば名前呼びたくないです」
( ^ν^)「死ね」
( ^ω^)「ニュッ君、こちらの可愛らしいお嬢さんは長岡デレちゃん。
今日訪問した高校の生徒さんだお」
( ^ν^)「心底どうでもいい」
ζ(゚皿゚#ζ ギリギリ
(;^ω^)「……デレちゃーん、乙女にあるまじき顔しないでくれおー……」
- 53
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:21:27 ID:mPl6OvfgO
しばらくすると、ツンが2つのティーカップを運んできてくれた。
紅茶を飲み、デレは心を落ち着かせるよう努める。
さて、と内藤が場を仕切り直した。
( ^ω^)「デレちゃん。君は、何か本に関する話をしに来たんじゃないかお?」
ζ(゚、゚*ζ「――はい」
( ^ω^)「その本を手にしてから、デレちゃんの周りで妙なことが起き始めた、とか」
ζ(゚、゚;ζ「……! そう、そうです!」
(*^ω^)「やっぱりかお!」
ずばり言い当てた内藤は、嬉しそうに顔を輝かせた。
やっと見付かった、と呟く。
( ^ω^)「その本の題名はもしかして――」
内藤が口にしたタイトルはまさしくあの本のもの。
デレは、うんうんと頷いた。
- 54
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:23:52 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「ええと……あれの作者は誰だったかお」
( ^ν^)「貞子」
( ^ω^)「ああ貞子……じゃあホラーかお」
ξ゚听)ξ「どんな話?」
( ^ν^)「女に追いかけられる話」
ニュッの答えに、またもデレは頷いた。
内藤が、ツンを見ながら「呼んできてくれお」とカウンターの方を顎でしゃくる。
ツンはドアを開け、階段を上っていった。
( ^ω^)「――2階には、僕らの部屋があるんだお」
ζ(゚、゚*ζ「部屋……住んでるんですか?」
( ^ω^)「だお。僕とニュッ君とツンと……他にも、何人か」
ζ(゚、゚*ζ「家族?」
( ^ω^)「いや、血が繋がってるのは僕とニュッ君だけだお。
それも、従兄弟ってだけで」
身寄りのない者を住まわせているのだそうだ。
ツンもその1人だとか。
- 55
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:25:42 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「んで……彼らには、家賃代わりに、ちょっとした労働をしてもらってるんだお」
ζ(゚、゚*ζ「労働って?」
( ^ω^)「――小説を書くこと」
きい。ドアが開く。
ξ゚听)ξ「はい、こっち来て」
川д川「……なあに? せっかく気持ち良く寝てたのに……」
ツンが連れてきたのは、1人の女性。
だらり、長い髪を垂らしている。
( ^ω^)「おっおっ。来たかお。
デレちゃん、紹介するお。彼女は……」
( ^ω^)「山村貞子。君を困らせているホラー小説の作者だお」
*****
- 56
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:26:56 ID:mPl6OvfgO
川д川「ああ……書いた書いた。……いつだったかしら……」
( ^ν^)「10年前の夏」
川д川「それぐらいね……」
デレが話の概要を話すと、たしかに心当たりがあると貞子は答えた。
懐かしい、なんて言って笑う。
作者が判明したものの、デレにはまだ訊きたいことがある。
何故本の内容が現実になっているのか、だ。
ζ(゚、゚*ζ「……ホラーだから……本に幽霊が取り憑いちゃった、みたいなことですか?」
川д川「んー……呪われた本、みたいなこと言いたいの……?
……そういや、そんな話も書いたことあったわね……」
( ^ν^)「『血の香る本』」
川д川「そうそう……さすがニュッ君……」
ζ(゚、゚;ζ「……」
(;^ω^)「あー。僕が説明するお」
ローペースな話し方に加え、話題が飛ぶ。
このまま貞子に話をさせても進まないと察したか、内藤が口を開いた。
- 57
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:27:51 ID:mPl6OvfgO
――だが、それは、デレには到底信じられぬような内容であった。
( ^ω^)「どうしてか、ここで書かれる物語には……いや、本には命が宿るんだお」
.
- 59
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:28:57 ID:mPl6OvfgO
意味が分からず、デレは訝しげに眉を顰めた。
何かの比喩かとも思ったが、答えは出ない。
ζ(゚、゚*ζ「……命ですか?」
( ^ω^)「命。あるいは意思。『本』が欲求を覚える」
欲求。
まさか食欲や性欲などではあるまい。
( ^ω^)「そうだおね……デレちゃん、君が本だとしよう。
どんなことを望む?」
ζ(゚、゚*ζ「望むって……」
本が「してほしい」ことといえば。
ζ(゚、゚*ζ「たくさん読んでほしい、とか?」
( ^ω^)「うん、そんな風にささやかで控えめな本もいるだろうお。
ただし、欲ってのはどんどん大きくなるもんだお。
その大きくなった欲こそが――」
( ^ω^)「――『自分を、表現してほしい』」
.
- 60
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:30:19 ID:mPl6OvfgO
デレが言葉の意味を図りかねているのに気付き、内藤は人差し指を立てた。
たとえば、と、前置き。
( ^ω^)「有名な作品は、映画になったり、演劇になったり、アニメになったりするおね」
ζ(゚、゚*ζ「はい」
( ^ω^)「そんな風に、『自分』を人間に演じてもらう――
擬似的とはいえ、文字の世界を飛び出して現実に表現してもらうことは、
本にとって最上の喜びなんだお」
ξ゚听)ξ「実際に本から聞いたわけじゃないけれど、
そんなところだろうっていう推測ね。一応」
ζ(゚、゚*ζ「……」
ζ(゚、゚;ζ「……え……それじゃあ、つまり――」
まさか。
あの本は、デレに「表現させている」?
.
- 61
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:31:44 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「ま、そういうことだお」
ξ゚听)ξ「普段は、私達が定期的に演じることで、その欲求を抑えてあげていたのだけれど」
( ^ω^)「数年前にちょっとしたことがあって、
色々な本が僕達の手元を離れてしまったから……」
「ちょっとしたこと」によりVIP図書館から学校の図書室に引っ越した本は、
数年間、誰にも表現されることがなかった。
表現されたい欲求は溜まりに溜まっていき――
ζ(゚、゚;ζ「……たまたま手に取った私に、無理矢理表現させた」
川д川「そゆことぉ……」
デレは今、あの本の主人公を演じさせられているのだ。
ならば、それじゃあ。
ζ(゚、゚;ζ「どうやったら、私は解放されるんですか?」
( ^ω^)「そりゃ、結末を迎えれば本も満足するお」
ζ(゚、゚;ζ「……け、結末……」
- 62
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:33:07 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「ぱぱっと手早く終わらせちゃえばいいんだお。
というわけで、デレちゃん。面倒だろうけど、最後まで演じてくれお。
そうしない限り、本は諦めてくれないお。
逆に言えば、終わらせてしまえばすんなり解決――」
事もなげに内藤は言い放つ。
だが――とんでもない。
ζ(゚д゚;ζ「なっ……」
結末。
結末なんて。
( ^ω^)「そういや、あれはどんなオチなんだお?」
( ^ν^)「主人公が殺される」川д川
( ^ω^)
( ^ν^)川д川
( ^ω^)「ん?」
( ^ν^)「主人公が殺される」川д川
( ^ω^)
- 63
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:34:18 ID:mPl6OvfgO
(;^ω^)「……えっと……」
ζ(゚、゚;ζ「あの、すみません」
(;^ω^)「なんだお」
ζ(゚、゚;ζ「え、『演じる』だけなら……殺されたふりで済みます、よね?」
ξ゚听)ξ「普通はね」
ζ(゚、゚;ζ「普通?」
ξ--)ξ「……でも、あなたの話を聞く限り……今回は、そうもいかないみたいだわ」
「本」と「現実」が混ざってしまっているから。
ツンがそう言って、ティーカップを口元で傾けた。
混ざっている。とは、どういうことか。
デレだけが、その言葉を理解出来ないでいる。
- 64
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:36:35 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ「……どういう」
ξ゚听)ξ「つまり」
かちゃん。ソーサーとカップが、小さく鳴った。
ξ゚听)ξ「あなたが殺されないと終わらないってこと」
ζ(゚、゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「い」
ζ(゚д゚;ζ「嫌! 嫌です! 私死にたくないです!」
(;^ω^)「僕だって君みたいに可愛い美少女が死ぬのは嫌だお!
……まあ、とにかく現物を見てみなきゃ始まらんおね」
内藤がデレに手を差し出した。
その手と内藤の顔を交互に見遣り、デレは首を傾げる。
- 65
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:38:11 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「ん」
ζ(゚、゚*ζ「?」
(*^ω^)「わあ小首傾げる仕草超可愛い。
……じゃなくて、ほら。出してくれお」
ζ(゚、゚*ζ「何を?」
( ^ω^)「……本」
ζ(゚、゚*ζ「私の家にあります」
( ^ω^)
ζ(゚、゚*ζ「?」
(*^ω^)「わあ超可愛くて怒るに怒れない」
( ^ν^)「殺人級の馬鹿だな」
ζ(゚、゚#ζ「なっ、何よ!」
ξ゚听)ξ「本の相談だから、てっきりその本を持ってきているものだと思ったわ」
ζ(゚、゚;ζ「……うぐっ」
- 66
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:40:02 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「……デレちゃん。君を追いかける女は、君が逃げ切れたら消えるんだおね?」
ζ(゚、゚;ζ「はい」
( ^ω^)「たとえばその直後に君が家を出たとする。
そういった場合も、やっぱり女は現れるのかお?」
ζ(゚、゚*ζ「いえ。一度、家に入って逃げ切った後、
どうしても買い物に行かなきゃいけなくなったので
びくびくしながら外出したことがありますけど……」
ξ゚听)ξ「女は出なかったのね?」
ζ(゚、゚*ζ「まったく。
なんかね、学校帰りに限り現れるみたい。
本の中でも、主人公が学校から帰るときにだけ追われてたし……」
(;^ω^)「……なら……。
君が家に帰って本を持ち出し、
それからゆっくりここに来れば良かったんじゃないかお」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「それは。ほら。私も。ね。必死だったので。ね」
――デレは、あまり頭がよろしくない。
この瞬間、全員がそれを悟った。
- 67
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:41:08 ID:mPl6OvfgO
*****
ξ゚听)ξ「4人も急にお邪魔して平気なの?」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫。今は、この家、私しか住んでないもの」
時刻は21時。
場所は長岡家。
――直接本を取りに行った方が早いだろうと、
内藤の車に乗せられてここまで来たのだ。
デレの両親は2人共遠方で暮らしている。
故にこの一軒家はデレ1人のものであり、気を遣う相手もいない。
- 68
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:42:57 ID:mPl6OvfgO
(*^ω^)「失礼しますおー。……女の子のいい匂いがするお」
川д川「お邪魔します……」
( ^ν^)「腹へった。飯」
ζ(゚、゚#ζ「……内藤さん、どうしてこの人も来たの?」
この人、とデレがニュッを指差した。
当のニュッは家主よりも先に家に上がり込み、廊下を早足で進んでいく。
ζ(゚、゚#ζ「あっ、ちょっ、勝手に歩くなー!」
(;^ω^)「……一応、ニュッ君の本だし、あの子も連れてきた方がいいかと思ったんだけど。
やめときゃ良かったおね……」
ζ(゚、゚#ζ「? あの人のって……。書いたのは貞子さんでしょう?」
( ^ω^)「ああ、いや、作者はたしかに貞子だけど、
所有者はニュッ君なんだお」
川д川「私はニュッ君のために書いただけー……」
ζ(゚、゚#ζ「はあ……」
いつか殴ろうと胸に誓いながら、デレはニュッの背中を睨む。
ばたん、と大きな音を立ててドアを閉めることで、せめてもの怒りのアピールとした。
.
- 69
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:43:44 ID:mPl6OvfgO
リビングに内藤達4人を案内し、デレは一先ず遅めの夕食を用意した。
皆、すっかり食事のタイミングを逃していたため、空腹だった。
ζ(゚ー゚*ζ「どうぞ」
川д川「冷凍食品……まあ、グラタンをチョイスしたセンスは認めてあげる……」
ζ(゚、゚*ζ「ごめんなさい、本当は一から作りたかったけど、時間かかっちゃうから」
(*^ω^)「冷凍食品でも美少女が温めたってだけで高級フルコース並の価値がつくお」
( ^ν^)「どうせこいつの手作りに比べりゃ、冷食の方が数段も美味いんだ」
ζ(゚ー゚#ζ「おいグラタン返せ」
ξ゚听)ξ「……それにしても、よくもまあ。グラタンが5人分もあったものね」
ζ(゚ー゚*ζ「美味しいものをたくさん買い置きすると幸せな気分になれるでしょ?」
ξ゚听)ξ(だからってグラタン5つ常備はおかしい……とは、言わない方がいいのかしら)
.
- 70
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:45:34 ID:mPl6OvfgO
――食事を終えて。
茶を入れた後、デレは自室から本を持ってきた。
寛いでいる貞子にその本を渡す。
川д川「あー……これ……。……うん、私の……」
ページをぱらぱらめくり、久しぶり、と囁く。
内藤が横から覗き込んで、結末に目を通した。
(;^ω^)「……死んでるお」
川д川「ね、死んでるでしょう……」
(;^ω^)「どうするお? 最悪の場合、燃やしてしまうしか――」
川д゚川「ふざけんな」
(;^ω^)「デスヨネ」
- 71
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:47:17 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ「じゃあ私に死ねと申すか」
ξ゚听)ξ「高校を卒業するまでの2年半、我慢して逃げ続ければ?」
ζ(゚、゚;ζ「絶対いつか捕まる! 殺される!」
( ^ω^)「学校帰りというシチュエーションを避けるために、学校を辞めるとか」
ζ(゚、゚;ζ「それも嫌です!」
川д川「ていうか……『本』が許さないわよ……。
……卒業出来ないよう留年させるとか……退学届書かせないようにするとか……。
そういう妨害ぐらいすると思うけど……」
ζ(゚、゚;ζ「そ、そんなことも出来るの!? 本が!?」
(;^ω^)「自分を表現させるために、現実を多少捩じ曲げるぐらいは、まあ……。
とても我が儘な本なら、出来ないこともないお」
ζ(゚、゚;ζ「チート……」
がくり、うなだれる。
どうしろというのだ。
- 72
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:50:05 ID:mPl6OvfgO
ξ゚听)ξ「まあ、とにかく。考える時間はまだまだあるわ。
少なくとも明日の夕方、放課後までは、デレに命の危機が訪れることは――」
( ^ν^)「どうだろな」
ξ゚听)ξ「……なあに?」
( ^ν^)「まず前提として、この本は、多少の差異は問題にしていない」
( ^ω^)「何で分かるんだお?」
( ^ν^)「物語通りに進ませたいなら、今日、あの女が現れる筈がなかった」
主人公が学校から家に帰るときに女はやって来る。
しかしデレは今日、学校から図書館へ向かった。
本来なら、そのときに女が現れるのはおかしいのだ。
( ^ν^)「多分、本は、
『主人公が学校を出てからどこかに入るまでを学校帰りと見なす』
っつー最低限の条件を決めていた。
だから今日も女はデレを追いかけた。
学校から林に入るまで。それも学校帰りというシチュエーションに含まれたんだ」
ζ(゚、゚#ζ「馴れ馴れしく呼び捨てに……」
(;^ω^)「そこは今は見逃すお」
- 73
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:52:54 ID:mPl6OvfgO
( ^ν^)「本には、それぞれにそれぞれの性格がある。
この本みたいにある程度の違いは無視する奴もいれば、
一から十まで台本通りじゃないと許せない奴もいる」
ぺらぺらと話す姿が、少し意外だとデレは思った。
内藤がニュッも連れてきた理由が分かった気がする。
きっと――ニュッは、誰よりも本のことを理解しているのだ。
( ^ν^)「さらに言えば、貞子の書く本達には、とある傾向が見られる」
ξ゚听)ξ「どんな?」
( ^ν^)「貞子は掌編を好む。それに似たんじゃねえかな」
( ^ν^)「さっさと終わらせたがるせっかちな野郎が多いんだ」
――かん。
どこからか、小さな音がした。
.
- 74
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:55:05 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ「?」
かん、かん。
こつこつ。
川д川「何の音……」
ξ゚听)ξ「窓」
ツンの言葉に、皆がリビングの窓を見た。
庭に通じる大きな窓。
今はカーテンに隠されている。
( ^ω^)「猫か鳥でもいるのかお?」
内藤が立ち上がった。
――デレと貞子とニュッの3人には、この状況に覚えがあった。
デレの顔が、さっと青くなる。
物語の中。主人公が殺される日。
その日だけは、例の女がいつもと違う行動に出ていたのだ。
.
- 75
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:59:10 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ「内藤さん、駄目――」
*****
『 コツンと居間の窓が鳴りました。
はて、近所の子供が石でも投げたのかしらと彼女は首を捻りつつ
音の正体を見てやるためにカーテンを引きました。 』
*****
デレの制止も間に合わず、内藤はカーテンを開けた。
開けてしまった。
*****
『 すると窓には、 』
*****
窓には。
へばりつく女が。
(;゚ω゚)「……おおおおおっ!?」
ζ(゚д゚;ζ「いやあああ!」
- 76
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:00:57 ID:mPl6OvfgO
女は窓を殴り始めた。
どんどん。がんがん。
それでも駄目だと分かるや、拳から頭突きへ方法を変える。
がつん。がつん。
ごつん。ごつん。
血が流れた。
構わず頭突きを続ける。
打ちつける度、ガラスに赤が飛び散った。
窓は壊れない。
ようやく諦めたか、女は窓を離れると、どこかへふらふら歩いていった。
(;゚ω゚)「い、今の、は」
川д川「わあ、すごーい……私がイメージしてた女の姿とぴったりー……」
ζ(゚д゚;ζ「あ、あ……ひ……」
かつん。
今度は、リビングの後ろ――キッチンから音がした。
.
- 77
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:02:27 ID:mPl6OvfgO
*****
『 女は家中の窓を叩いて回りました。 』
*****
次に、またどこかの窓が叩かれる。
かつん、かつん、こつん、こつん。
( ^ν^)「今日中に終わらせるつもりらしいな」
ξ゚听)ξ「迷惑ね」
――そのとき、辺りが真っ暗になった。
電気や、デジタル時計など、明かりになるものが完全に沈黙する。
(;^ω^)「うわっ……て、停電? ひええ、愛しのツンたんの美顔が見えないお!」
ξ゚听)ξ「そういう問題かしら」
- 78
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:06:13 ID:mPl6OvfgO
全ての明かりが消え失せた直後。
女は、主人公の部屋の窓に鍵がかかっていないのを発見し、
そこから家の中へと侵入するのだ。
自室へ逃げ込んでいた主人公は女と遭遇し――
殺される。
川д川「……窓の鍵は……?」
ζ(゚、゚;ζ「し、閉まってます、さっき、本を持ってくるときに確認したし、」
(;^ω^)「勝手に鍵開けんじゃねーかお、話を進めるために」
ξ゚听)ξ「うん、有り得る」
きい。
何かが開く音。
ぱたん。
何かが閉じる音。
.
- 79
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:07:34 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「あ……」
ぶわり、デレの頭の中で先程の記憶が一気に巡った。
この家に帰ってきて、内藤達を上げて、ニュッの無礼さに怒って、デレは、
玄関のドアの鍵を、閉め忘れた。
ばたばた――玄関から、激しい足音が近付いてきた。
それはまず階段を駆け上がっていった。
階上から、走り回る音と色々な部屋のドアを開け放っていく音が聞こえる。
物語では主人公は2階の部屋にいた。そのせいだろう。
――女は主人公を探している。
――女はデレを探している。
- 80
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:09:34 ID:mPl6OvfgO
デレが、恐慌状態へ陥った。
ζ(;、;*ζ「ひ、や、どうし、どうしたら、あ、ああ、」
真っ暗ではあるが、住み慣れた家だ。
手探りしながらリビングからキッチンへ逃げる。
キッチンの奥で丸まって、ひたすらに震えるしか出来なかった。
「――方法が無いわけでもない」
ぶっきらぼうな言葉が飛んできた。
ニュッの声。リビングから聞こえる。
ζ(;、;*ζ「へ……」
「結末を書き換えることは不可能だが、書き加えることは可能だ」
ζ(;、;*ζ「書き、加える?」
- 81
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:11:21 ID:mPl6OvfgO
「いやいやニュッ君、それはたしかにそうだけど、主人公は死んでんだお!」
「蘇生オチにすれば?」
「うわっツンったら頭良い。ちゅーしてあげるお。
って暗くてどこにいるか分かんねえ!」
「館長……うるさい……ていうか暗くて何も書けないんだけど……」
ζ(;、;*ζ「テ、テーブルの下、隅っこに、箱があります……そこに、懐中電灯……」
「ん……あった、あった……。館長、ペン貸して……。
……んんー……? ……なあに? ニュッ君……」
かちりと懐中電灯のスイッチが入る音。
少しの間をあけて、ペンが紙を撫でる音が耳に入った。
ζ(;、;*ζ「……?」
ふと気付く。
あれだけ騒がしかった足音が無くなっている。
- 82
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:12:20 ID:mPl6OvfgO
ζ(;、;*ζ「……」
どうしたのだろう。
まさか帰ったわけもあるまい。
恐る恐る、デレは顔を上げる。
ぎょろぎょろとした、濁った瞳が、目と鼻の先に見えた。
.
- 83
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:14:08 ID:mPl6OvfgO
――デレは、一瞬、世界が真っ白になったように感じた。
それが死んだ人間の視界なのだろうとさえ思った。
しかし、すぐに世界は色を取り戻す。
見慣れたキッチン。
どうやら、急に電気がついたために目が眩んだだけらしかった。
ζ(;、;*ζ「あれ……?」
( ^ν^)「泣いてんじゃねえよ」
ζ(;、;*ζ「うわ」
ニュッがリビングから、ひょいと顔だけを覗かせた。
続いて内藤がキッチンに飛び込み、デレに駆け寄る。
(;^ω^)「あわわ、よしよし、僕のハンカチを使うお」
グシグシ
(;^ω^)つ□、;*ζ「う、うう」
- 84
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:16:37 ID:mPl6OvfgO
内藤に涙を拭われ、ついでに頭を撫でられた。
ようやく落ち着いてきたデレは、深呼吸をして、
気になって仕方のないことを訊ねる。
ζ(゚、゚*ζ「……どうなったんですか?」
女はどこに行ったのか。
貞子は何を書いたのか。
自分は知らない、と内藤が答えるので、
デレはリビングへ移動した。
川д川
貞子は苛ついているようだった。
左手で頬杖をつき、右手に持ったペンでテーブルを叩いている。
ξ゚听)ξ「納得いってないのね」
川д川「時間がなかったとはいえ……こんなオチ、認めたくないもの……。
私がプロで、これを堂々と世に出したら……すぐさまファンが消え去るわ……」
- 85
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:17:54 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ「……あのう……」
ξ゚听)ξ「あ、大丈夫だった?」
ζ(゚、゚*ζ「うん。……貞子さん、どんなことを書いたんですか?」
川д川「……」
ζ(゚、゚;ζ「わっ」
無言で、貞子はデレに本を放り投げた。
受け取ったそれを開き、結末を見る。
ζ(゚、゚*ζ
『 以上は全て女の妄想であり、主人公は現実では殺されてなんかいませんでした。 』
走り書きの一文は、あんまりにもあんまりな内容だった。
デレが思わず吹き出す。
- 87
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:19:13 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚ー゚;ζ「……これは……」
川#д川「笑わないでよ……。……これなら蘇生オチの方が良かったわ……。
それでも最悪な出来だろうけど、これよりはマシよ……」
ζ(゚ー゚*ζ「だったら、そうすれば良かったのに」
川д川「私もそうしたかったわ……でもニュッ君が……」
ζ(゚、゚*ζ「あいつが?」
川д川「生き返るとしても、結局一度は死ぬってことだろ、それじゃあ気の毒だ
……って……小声で言うんだもの……」
ζ(゚、゚*ζ
( ^ν^)「しね」
川д川「あ……いたい……」
ぱこん。
ニュッが貞子の頭を叩く。
ついでに、照れ隠しだと笑う内藤も殴られた。
- 88
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:20:41 ID:mPl6OvfgO
ξ゚听)ξ「ま、何にせよ一件落着ね。これは回収させてもらうわ」
ツンがデレから本を取り上げる。
帰ろう、と内藤へ声をかけた。
( ^ω^)「うん、帰るかお。
――デレちゃん、お邪魔しましたお。……色々、ごめんお」
ζ(゚、゚*ζ「あ、いえ、ありがとうございました」
川д川「このことは他言無用ね……」
( ^ν^)「ねみー」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさん」
( ^"ν^)
- 89
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:21:05 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚ー゚*ζ「……ありがとう」
( ^"ν^)
( ^ν^)
( ^ν^)「ふん」
*****
- 90
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:22:10 ID:mPl6OvfgO
翌朝。
目を覚ましたデレは、昨日のことは夢だったのではないか、なんて疑った。
それほど、現実感の薄い出来事だった。
ζ(゚、゚*ζ「……うん。ない、ね」
机の上へ視線を向ける。
いつもはそこにある黒い本が、無くなっていた。
.
- 91
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:23:32 ID:mPl6OvfgO
――昼休み。
昼食をとったデレは、図書室へ足を運んだ。
ζ(゚、゚*ζ「?」
入るなり、隣の司書室が騒がしいのに気付く。
「――、……っ、――!」
どことなく聞き覚えがあるような。
いけないとは思いつつ、司書室に繋がるドアに耳をくっつけた。
「――ですから! あなたは『手書きの本』と言ったじゃないですか!
あれは手書きじゃなかったから、関係ないと思いますよ、普通!」
「あれでも手書きなんだお! ぱっと見は活字のようだけれど……
よく見りゃ分かるっつの!!」
ζ(゚、゚;ζ
言い争う2人の男。
片方はアサピーの声。
もう片方は。
- 92
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:26:00 ID:mPl6OvfgO
「……ああ! もう、勝手に探させてもらうお!
ツン、おいで!」
――あの男だとデレが確信した瞬間。
急に支えが無くなり、デレは体勢を崩してしまった。
ドアが向こう側から引かれたのだ。
ζ(+、+;ζ「ぎゃうっ!!」
「おおおっ!?」
あわや転ぶかと思われたが、何かにぶつかり、それは阻止された。
甘い香水の匂い。
黒いスーツ。
ζ(゚ー゚;ζ「……こんにちは、内藤さん」
(*^ω^)「……こんにちはだお、デレちゃん」
やはりと言うか、またかと言うか、内藤。
- 93
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:28:38 ID:mPl6OvfgO
図らずも寄り掛かる形になっていることに気付いたデレは、内藤から離れようとした。
が。
(*´ω`)「聞いてくれおデレちゃん」
ζ(゚、゚;ζ「わぶっ」
そのまま、ぎゅうと内藤に抱きしめられた。
(*´ω`)「あのガリガリ眼鏡ったら酷いんだお。
我がVIP図書館の本がもう一冊あったのに隠してたんだお」
(#-@∀@)「だから隠してたわけじゃないって言ってるでしょう!」
(*´ω`)「しかもそれを紛失したっつーんだお。……ああ柔らかい。いい匂い」
ξ゚听)ξ≡⊃)))^ω゚)「クリスティ!!!!!」
ξ゚听)ξ「変態」
:(;∩ω゚):「ツ、ツンたん、いつもより力入ってないかお……」
- 94
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:29:45 ID:mPl6OvfgO
ξ゚听)ξ「ごめんなさいね、デレ。
このセクハラ親父にはなるべく近付かない方がいいわよ」
ζ(゚、゚;ζ「そうだね」
(;^ω^)「軽くショック! ……そうだ、デレちゃん」
ζ(゚、゚*ζ「はい?」
(;^ω^)「……手伝ってくれないかお? 本を探すの」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「……は?」
.
- 95
名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:31:07 ID:mPl6OvfgO
VIP図書館。
そこで書かれた、様々な本。
自我を得て、欲を覚えて。
そうして「彼ら」が引き起こす事件は、現実世界で新たな物語を綴る――
第一話 終わり
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