495 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/01(水) 16:04:48.10 ID:apYRhw+W0
現在の季節は冬だ。
外は、とても冷え込む。
加えて今は夜だ……寒さは昼の倍くらいある。

「寒いのか?」

ドクオが俺に言う。
当たり前だ。俺は静かにうなずいた。

「まあ、これから暖かくなるだろう。お前の力は炎だからな」
「なんなんだよ…。ちょっと意味わかんないぞ」


やがて俺とドクオは、人気のない小さな公園にやってきた。
ここは住宅街から離れていて、誰も通りかからない場所だ。
公園の遊具も、何年も放置されているのだろう。錆が所々に見られる。


「さて、それじゃあやるか」

ドクオが装束の袖をまくり、腕を出す。
よく見ると、何か持っているようだ。

…ドクオが持っているのは、赤い玉?

496 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/01(水) 16:11:11.86 ID:apYRhw+W0
「なんだ、その玉」
「ん……見覚えないか?」

…見覚え?
そういえば、こんな形の玉を見たことがあるな。
そうだ、これは……レーヴァテインの唾に埋まっていた玉だ。

ドクオは、その玉を投げて俺によこす。
埋め込め、と言っているようだ。

レーヴァテインの唾には、やはりくぼみが出来ていた。
俺はそこに、そっと玉を入れる。
玉は、何の抵抗もなくそのくぼみに嵌った。

「これで準備が出来たな」
「準備? この玉、何なんだ?」
「あぁ…。この玉は、剣の魂だ。この玉を埋めなければ、神剣もその力を発しない。
 試験中に、剣がお前に語りかけてきただろう? あれは、剣の魂が語りかけてきていただけだ」


剣の魂……つまり、この宝玉を介す事で、剣と俺の間に始めて関係が生まれるわけか。

「もうこの剣にも魂が宿った。詳しい事は、そいつに聞いてくれ」


ドクオはそういうと、無責任にも消えてしまった。

498 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/01(水) 16:18:12.41 ID:apYRhw+W0
剣に魂が宿ったと言う事は、やはり喋るのだろうか?
とりあえず、何か語りかけてみようか。

「おーい」

唾に埋まっている玉を叩いてみる。
だが、返事はしない。変わりに、俺が玉を叩く無機質な音が響くだけだ。

「おいおい、返事してくれよ」

俺は更に玉を叩く。
それでも、剣からは何の反応もない。

「むかつくな…」

俺は、剣を蹴り飛ばした。
これでも反応がないのか……。そう思ったときだった。


『いたいお……!』


剣が喋った……ような気がする。

500 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/01(水) 16:23:49.70 ID:apYRhw+W0
「…? おーい」

俺は、剣に向かって話しかける。

『なんだお、お前! さっきから腹たつお!』
「………? すまんが、お前は誰だ」
『え? ああ、そうかお! 僕もやっと剣に宿れたのかお!』
「話が読めないんだが……」

剣に宿れた? 試験中に宿っていた魂とは別物らしいな…。
しかし、こいつは何なんだ。語尾に変な単語をつけてるし…大丈夫なんだろうな。

『君、名前はなんていうんだお!』
「え? 俺か? 俺は炎堂。炎堂ガルシアだ」
『ガルシアかお! 僕はブーンだお! よろしくだお!』

馴れ馴れしい奴だな。
だけど、この声どこかで聞いた事がある気がするんだよな。

そう………こいつの声、内藤とソックリだ。


「おい、お前…。内藤ホライゾンという男を知っているか?」


俺がそう訊ねた瞬間、辺りの風が…止んだ。
剣が、異様な雰囲気を漂わせている…。聞いてはいけない事だったのか…?

503 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/01(水) 16:32:13.52 ID:apYRhw+W0
『…内藤ホライゾン、かお』

やがて、ブーンが語りだした。
ブーンといいドクオといい……内藤は誰かに因縁をつけられるのが好きなようだな。

『ねえガルシア。ガルシアは、剣に宿る魂がどうやって作られているか知ってるかお?』
「…え? 何の話だ?」

ブーンの言っている事は、断片的にしか理解できない。
この魂、人為的に作られているものなのか。だが、それが何なのだろうか。

『剣に宿る魂は、保有魔力の高い代行人の死体から採取するんだお。
 内藤ホライゾンは、僕の兄だお……。そして、僕を殺した奴でもあるお……』

―――俺の頭に、嫌な痛みが奔る。
     死んだ? 殺された? 内藤が?――― 

「な、なんだと!? じゃあ、お前は内藤に殺されて……、それで剣の魂になったってのか!?」
『そういうことだお』
「まさか内藤は、それ目当てでお前を殺したりしたのか!?」
『さあ。分からないお。気付いたら、僕は剣の魂になっていたんだお』


……俺はこの時ほど、内藤を殴ってやりたいと思わなかった日はない。

504 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/01(水) 16:41:27.98 ID:apYRhw+W0
「……どういうことだ」
『そうかお。ホライゾンを知っていると言う事は、ガルシアはホライゾンに試験を受けさせられたんだおね?』
「ああ、そうだな」

ブーンは怒っているのか、泣いているのかよく分からない声で語りかけてくる。
その哀愁が、俺にもひしひしと伝わってくる。余計な事、聞いちまったな…。

『言うか迷ったけど言うお。今までホライゾンに試験を受けさせられて合格した人間には、不幸が襲い掛かるお』
「え?」
『端的に言うと、ホライゾンは代行人でもかなり嫌味な奴で、敵が多いんだお。
 腹いせに、他の代行人がホライゾン担当試験の合格者を襲うのも、少ない事ではないお。
 ガルシア、君もホライゾンが試験官を担当したなら……気をつけたほうがいいお』


…内藤が、ドクオに因縁を抱かれていたのもこんな感じの理由なのか。
なら、ドクオは良い代行人だったのか。俺を襲わなかっただけでも。

「すまんな、ブーン。嫌な事思い出させてしまったか?」
『そんな。ガルシアが気にかけることないお』

ブーンも、心の優しい奴のようだ。
俺も、こいつとならうまくやっていけるかもしれない。



―――そう思った時だった。

505 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/01(水) 16:46:30.28 ID:apYRhw+W0
『ガルシア! 剣を拾うんだお!』

ブーンが叫ぶ。俺は言われるがままに、レーヴァテインを手に持ち直す。

『ガルシア…。魔物が近くまで来てるお』
「ま、魔物!? マジかよ!」

本当に魔物なんてのが来るのかよ…!
一体どんな奴なんだ…。思わず、身震いしてしまう。

『大丈夫。僕の言うとおりに戦っていれば負けることはないお』
「で、でも! 俺は剣の使い方すら分からないんだぞ!?」
『皮肉だけど。ホライゾンが合格させたと言う事は、ガルシアはかなり潜在魔力が高い筈だお。
 心配しないで、僕の言うとおりに動いてくれお。実戦で戦いを覚えるんだお!』


…ブーンに勇気をもらった。
ブーンだって頑張ってきたんだ。俺も頑張ろう。

506 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/01(水) 16:54:09.32 ID:apYRhw+W0
―――やがて、暗闇から魔物の姿が現れた。
その姿は、犬に酷似していた。

鋭い犬歯、強靭な四肢を持っている。
牙にかまれたら、一たまりもないだろう。
俺はその姿を見て、恐怖と言う感情を持った。


『大丈夫。雑魚だお』


内藤がそう言うと同時に、犬が俺に飛び掛ってきた!

『ガルシア、右に跳んで!』

俺は内藤に言われるがまま、右の方向へと駆ける。
ギリギリで避ける事が出来た。犬のような魔物は先程まで、俺が立っていた場所に突進したようだ。

『牙は見せ物。安心して。こいつは牙は使わない、頭の悪い魔物だお』
「そ、そうなのか! 勝てる見込みがしてきたぜ! 次はどうすれば良い、ブーン!」
『そのまま斬りかかって! 動きは僕がサポートするお!』
「オッケー! 行くぜ!!」


―――こうして、俺の魔物退治の日々が始まったのだ。 
  
第7話:完



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