417 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/31(火) 21:52:06.89 ID:X4p6ue490
「む」

次に意識が戻った時、俺は暗くて狭い空間の中にいた。
恐らく、棺の中か何かだろう……。まさに火葬直前なのか。

だが、ここで俺が普通に出てきたらどうなるんだろう?
死んだ人間が生き返るなんてけったいな話だよな。右腕もどうなってるやら。

だが、深く考えていても仕方がない。
俺は意を決め、棺の蓋を押し開けた。


――――日が差し込む。
時刻は日中のようだ。いい天気だな。

…だがそんな事よりも、気になるのは俺に向けられる、沢山の声だ。


「な、なんだってー!」
「お、おい! 生き返ったぞ!?」
「そんなバカな!」


……なんて言い訳しようかな。
420 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/31(火) 21:59:13.77 ID:X4p6ue490
とりあえず、狭苦しくて臭いので棺から体を起こす。
まるで何日も体を動かしていなかったかのように、全身の骨が軋む。

そこで、俺は気づいた。

…右腕の傷が、完治している。
傷跡もない……。周りの大人たちでも、その事を話している人も少なくない。


「おい、ガルシア! お前大丈夫なのかよ!」

と、突然誰かに肩をつかまれる。
逆立つ茶髪が特徴的なこいつは……同じクラスの、木之下だ。

「ああ、問題ねえ」
「あ、あのな! お前、死んだんじゃないのかよ!?」
「生き返ったんだよ」

木之下は、呆然としている。
当然か。死んだ人間が目の前で生き返るなんて、そうそうない事だ。

そのうち、周りの大人たちも続々と俺に身を寄せてきた。

暑苦しいな。
422 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/31(火) 22:08:50.54 ID:X4p6ue490
「炎堂君!!」
「ぬぉ!?」

そんな暑苦しい群集を抜けて、俺に飛びついてきた人がいた。
…神崎さんだ。

彼女に抱きつかれて、俺はその場に仰向けになって倒れてしまった。
その上に、彼女がまたがっている。凄い状況だ…。

「よかった……。私の所為で炎堂君死んじゃって……うぅ……」
「あ、あ、その…。ええと、俺別に死んでないし…ええと」

泣かれた。どうしよう。
まあ、確かに彼女には一番心配をかけたのは事実だろう。
自分の所為で誰かが死ぬような事があったら、正直俺は耐えられないだろう。

「まあ、なんだ。神崎さん、俺は生きてるんだから気にしなくていいって」

……本当は、死んだんだよな。
内藤が生き返らせてくれたから、俺は今ここにいられる。



―――ん?
そういえば、なんで俺は生き返らせられたんだろう…?

まさか、生き返らせたのは……何かに俺を使う為か…!?

423 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/31(火) 22:16:07.64 ID:X4p6ue490
「やれやれ……」

戸惑う俺の前に、ドクオが現れた。
周りの大人たちは、どうやらドクオの存在に気付いていないらしい…。
俺は小声で、ドクオに話しかけた。

「おいおい、そういえば俺は何で生き返らせられたんだ?」
「それを今説明しに来たんだ。内藤の奴、適当に終わらせやがって…」

ドクオはぶつぶつと内藤の悪口を言っている。
やはり、仲が悪いのだろうか?

「悪いがここじゃ説明できん。人のいない所に行きたいんだが……無理か?」

周りは、大人たちが囲んでいる。
逃げ出したら、それこそ大変な事になるだろう。ちょっと無理な注文だ。

「無理っぽいな。夜とかに回すのもいいんだが、マスコミとか来そうで怖い」
「………仕方ないな。お前が暇になったらまた来るよ」


ドクオはそう言って、消えた。


そうだよな。考えてみれば、死人が生き返るなんて……俺は本当にニュースに出るかもしれないなぁ。
面倒くせぇ…。
429 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/31(火) 22:31:18.40 ID:X4p6ue490
その後は酷かった。
何故か親父にぶん殴られて、神崎さんには泣き喚かれ、医学者が勝手に俺を調べて……。

やっと自由になれたのは、数日経った頃だった。
その日の夜に、ドクオはきちんと俺のところにやってきた。

「やれやれ……。本当はお前が戻った日に言う筈だったんだがな」
「何をだ?」
「お前の仕事だよ」

…仕事?
やはり内藤たちは、何か目的があって俺を生き返らせたのか。

「仕事って何だよ?」
「ん…。その前に、剣出せるか?」

剣…レーヴァテインか?
馬鹿言え、俺が戻ってきたときからどこにもないんだぞ。

「どこにあるんだよ」
「ああ……。剣出て来い! って念じてみな」
「…? 念じる?」
「簡単に言うと、お前の心の中にしまってあるんだ。お前が出そうと思えば、いつでも出せるわけだ」


俺が試しに念じてみると、本当に何処からか剣が出てきて、俺の手中におさまった。
434 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/31(火) 22:45:47.78 ID:X4p6ue490
「……それで、この剣で俺に何をしろと?」
「簡単に言うと、魔物退治だなぁ」

…は? 何を言ってるんだ、こいつは…。
魔物? それって、ファンタジーの世界の生き物だろう?

「魔物?」
「ああ、魔物だ」
「いや……なんだよ、それ」
「なんだ、内藤の奴何も説明してないんだな……」

それから俺は、ドクオの説明を受けることになった。
俺の仕事とやらと、魔物について。

「俺や内藤は、その道では代行人と呼ばれている魔道士だ。
 魔道士といっても、別に魔法を使って云々するわけじゃないぞ。
 力を与えるんだ。例えば、お前の炎の力なんかそうだなぁ」
「炎の力? なんだそれ…」

訳が分からない。魔法なんて、ファンタジーの世界のものだろう。

「お前はレーヴァテインの力を借りている。
 レーヴァテインは炎の神剣だ。だからお前は、炎の力を持っているんだ。
 試しに、外に行ってその力を使ってみるか」

ドクオはそういって、外へ行ってしまった。
だが、俺は正直頭の中が混乱して、その場に立ち尽くしてしまっていた。


第6話:完
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