329 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/30(月) 21:45:54.29 ID:PylBVESq0
「わっかんねー…」

剣と幾時間かにらめっこを続けている俺。
内藤は力を借りろと言うが……正直、意味不明だ。

俺は、不意に剣を見直す。

白銀の刀身が、やはりとても美しい。見ているだけで引き込まれそうだ。
炎の神剣というだけあって、柄は燃えるような赤い色をしている。
白と赤というコントラストが、なんとも美しい……。

「う…っ!?」


―――その時、俺は不意に頭痛を感じた。
単なる頭痛ではない。怪音波か何かを浴びせられているような感じだ!

視界が、ぐにゃりと歪む……!?


ぐっ……! 意識が………、剣に吸い込まれる……!?

330 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/30(月) 21:53:15.22 ID:PylBVESq0
「………?」

気がつくと、真っ暗な空間にいた。
前も、後ろも、横もどこもかしこも真っ暗だ。
目を開けているのに、景色を何も確認することが出来ない……。

「足場は、あるのか」

地面を叩くと、コンコンと音がする。
地面は固く、しかも冷たい。
先程の花畑とは違う場所のようだ…。


「……。あれ?」

俺、どうしてここに来たんだっけ?
そうだ。確か、剣を見ていて……引き込まれるような感じがして……。

そして、気がついたらここにいたんだ。


「……まさかここ、剣の中なのか?」

そんな馬鹿な。
332 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/30(月) 22:01:11.24 ID:PylBVESq0
…とりあえず、歩いてみるか。
前に向かって、足を一歩踏み出す。


―――刹那、轟音が当たりに鳴り響く。

岩石がどこかで音を立てて崩れ落ちている!?
何かが……流れている! 地面が、揺れている!
な、何が起こってるんだ!

そして次の瞬間……、白光が空間を支配する!

「ぐぁぁっ!!」

あまりの眩しさに、俺は目を瞑る。
目を開けていたら、失明してしまうほどの……それほど強烈な光だった。



――――――やがて。

その光がおさまる頃、俺は静かに目を開ける。

「……え?」

そして俺は驚愕する。
俺の立っている場所は、小さい岩の上。そしてその下を流れるのは……マグマ。

333 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/30(月) 22:08:51.98 ID:PylBVESq0
「なんだよ、これ!」

俺の乗っていた岩は、マグマから数メートル上に浮いている。
俺の下のマグマは、流れている! ここは、活火山の近くなのか!?

……熱気が込み上げてくる。
猛暑の気温より暑い……。このままここにいたら、水分が足りなくて死んでしまう程に汗をかいてしまうだろう。


どうにかして、ここから抜け出さなくては!


……しかし、俺の乗っている岩以外に見えるのは……マグマだけ。
抜け出す? 不可能だ…。


「くそっ!」

万事休すか…?

334 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/30(月) 22:15:09.03 ID:PylBVESq0
………その時、俺は何かが光っている事に気づく。

俺の傍らにある剣の唾に埋め込まれた、宝石のような球体が光を放っているのだ。

「なんだこれ」

俺は剣を拾い上げ、その球体に目をやる。


……その瞬間、頭の中に……何かの声が入り込んできた!


『聞こえるか』
「な!?」


け、剣が喋った!?
そんな馬鹿なことがあるか!

『返事をしろ』

もう、何が何だか分からない……。
とりあえず俺は、流れに身を任せることにした。

「聞こえてるぞ…」
336 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/30(月) 22:23:59.76 ID:PylBVESq0
『宜しい』

剣が、俺に向かって喋る。
訳が分からないが、何もしないよりはマシな状況だ。
それに、この試験は剣の力を借りると言う所にある。これは重要な事かもしれない。

「早速で悪いんだが、あんたの力を借りたい。そうしなきゃ、俺が殺されちまうんだ」
『我が力を望むか……。何年ぶりだろうか、そのような事を言う者は』

剣は、どこか躊躇いを見せている。
鬱陶しいな。

「頼むよ。どういう事かはよく分からないが、あんたの力を貸してくれ」
『…良いだろう』

剣は、あっさりと受け入れてくれた。
なんだ、この試験も簡単に終わったな。

『ただし、条件がある…』
「条件だと?」
『今から、私の言う事を聞け』
「…それくらい、構わないぞ」


『では、そのマグマの中に私を抱えて飛び降りろ』

337 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/30(月) 22:30:23.61 ID:PylBVESq0
「…は?」
『聞こえなかったか? 私を抱えて、飛び降りろ」

な……何を言ってるんだ、こいつ?
下はマグマなんだぞ? 熱気をこんなにも放っているんだぞ?

落ちたら………間違いなく死ぬぞ。

「ふ、ふざけんなよ! 落ちたら俺が死んじゃうじゃねーか!」
『私は飛び降りろと言っている』
「無茶言えよ! 嫌だよ!」
『ならば力は貸せぬ』


俺はどうすればいいんだ!?
こいつの言うとおりにしたら、ほぼ間違いなく俺は死ぬ!
だが、こいつは飛び降りた後に力を貸すような言葉を見せている…。
もしかすると、飛び降りても死なずにすむのかもしれない…。

どうすれば良いんだ!?
葛藤する。こんな事決められない! だが、決めなければいけない!!


「ああ…!! もうヤケだ!!」

俺は無我夢中でレーヴァテインを抱え、マグマに身を投げた。

338 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/30(月) 22:37:50.73 ID:PylBVESq0
「ひぃいぃぃ!!」

マグマが近くなる!
熱気もそれにあわせて近くなる! 体が溶けそうなくらい熱い!
やっぱ俺死ぬんじゃないか!? おいおい、こんなのないだろう!?


……やがて、俺の体がマグマにぶつかる。
俺は、思い切り目を瞑った。



――――――――――――

「…………?」

熱くない。というか、着水したような感覚もない。
俺は、そっと目を開ける。

「!?」

俺の体を、薄いオーラのようなものが包み込んでいた。
それによって、俺はマグマから守られているらしい。皮肉な事に、俺は確かにマグマの中にいるようだった。

そのオーラだが……、どうやら剣が出しているようだ。
俺の度胸でも、試したのか?
342 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/30(月) 22:47:34.76 ID:PylBVESq0
『貴様の覚悟、しかと受け止めさせてもらった』

剣がそう言う。
つまり、最後のこの試験は、俺の度胸を見せる試験だったわけだ。


……辺りの風景が変わる。
そこは、先程の花畑になっていた。

「あれ?」

剣がなくなっている。
あれ? 剣はどこへ行ってしまったんだろう?


剣を探そうとする俺の手を、何かがつかんだ。

内藤だ。

「合格だ。やはり貴様には資質があったな」
「そ、そうだ! 合格したなら早く生き返らせてくれよ! 俺の体、まだ無事なんだろうな!?」
「案ずるな。今焼かれようとしている」
「ば、バカヤロー!! さっさと戻せ!」


内藤が、静かに俺の額に指を当てる。

次の瞬間、俺の意識が途絶えた。

343 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/30(月) 22:48:52.75 ID:PylBVESq0
第五話:完

6話は明日の10時くらいからかもしれません…(´・ω・`)
落ちていたら、スレ立てます(´・ω・`)
ではみなさんおやすみ
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