( ^ω^)ブーンは偉い魔道士です

85 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 08:05:27.68 ID:1+3uhbrI0
風が体をかすめる…。
冷たくはない。春風のように暖かい。
それにどこか…・・・心地よい気分だ。


そしてその瞬間、それはおかしいことに気付く。


あれ? …俺、死んだんじゃなかったっけ?

意識がある……?

手、足……。しっかりと動くな。


体を動かせる? 右腕も痛くない?
どうなってるんだ?


俺は訳の分からぬまま、重いまぶたを開いた。

86 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 08:14:03.05 ID:1+3uhbrI0
「…………え?」

そして、その瞬間に目に焼き付けられた景色に……俺は驚愕する。


あたり一面に、花が咲いている。
ここは……丘のような場所で。俺も、沢山の花の上に寝そべっているのだ。

それに、空の色が何か変だ。
青くもなく、黒くもない。夕暮れの空と酷似しているが、何だかそれとなく柔らかい感じがする。

例えるならそれは、「あの世」である。
黄泉、と言う言葉がぴったり当てはまりそうだ。


そして、その証拠かは知らないが、辺りを見渡すと川が見える。
あれは……、三途の川なのか?


と言う事は、やっぱり俺、死んだのか?

87 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 08:22:55.52 ID:1+3uhbrI0
とりあえず、歩いてみる。
如何せん、足元には花の絨毯が広がっているため、歩く時には花を踏んでしまう。
何だか、いやな気分だ。

しばらく歩くと、俺は目の前に人の姿があるのに気づく。

……俺以外にもここに来る人がいるのか。
そう思い、俺はその人物に近づいて………腰を抜かした。


それは……、先程、俺を殺した男であったからだ。


「ん? あ、てめぇは!」

男が、俺に気付いたようだ。
だが……、俺だって怒ってるんだ! 俺の事よくも殺しやがって!


男が殴りかかってくる!
俺も、男に殴りかかる!

88 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 08:26:56.27 ID:1+3uhbrI0
………だが、手応えはない。
代わりに、空を切る音。そして、男の体を突き抜ける俺の腕。

「なっ!?」

お互いに、驚きあう。
俺の腕は男の胸を、男の腕は俺の頭を貫いていた。

だが、痛みはない。
俺たちの体が、透けているのだ……!

「どうなってんだ…!?」

男が拳を引っ込め、後ずさりする。
俺もどこか虚しくなり、その場に腰を下ろす。

「てめー、よくも俺の事殺しやがったな! 絶対お前地獄に落ちる!」

寝そべりながら、男に罵声を浴びせる。
それに怒り、男は再度俺を殴ろうとするが、やはりそれは、俺の体を貫通するだけ。

男も流石に意味がないとわかり、腰を下ろした。

90 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 08:36:22.52 ID:1+3uhbrI0
「てめー、ふざけんじゃねえよ! よくも俺の事殺しやがって…!」
「うるせぇな! お前だって俺の事殺しただろう!」
「何言ってんだ! お前から仕掛けてきたんだろうが!」
「黙れ糞ガキ! 人の家に勝手に入ってきておいて……!」
「バーカ。あそこは公の場所だよ。いつお前の家になったんだ?」

男がいきり立ち、また俺を殴る。
意味はないのだが、この男はすぐに暴力に訴えたがる。

しばらく立つと男はまた落ち着き、ふてぶてと座った。


「…なあ」
「なんだよ」

「……俺たち、この後どうなるんだ?」

突然、男が遠くを見るような目で言う。

「さあな。あの世からお迎えでも来るんじゃないか? おめーは地獄確定だがな」
「お前だって俺の事殺したじゃねえか。お前も地獄行きだな?」
「抜かせ」


俺たちは、忌み嫌い会っているのに、何故か笑いあった。

91 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 08:40:02.08 ID:1+3uhbrI0
「あの世からのお迎えか、縁起悪いな」

………そう言った瞬間だ。
背後に、何かの気配を感じた。俺は咄嗟に、後ろを振り向く。


そしてそこで俺と男は………、この世のものでない何かを………見た。

そいつの体は、人間と同じようだった。だが、何かが違うように感じる!
黒装束を羽織り、細く開いた目が不気味だ…。


「な、な、な! 何だお前!?」

男も俺も、動揺を隠せない。
一番の理由は、そいつが両手に鎌を握っているからだ!
まさかこいつは………死神!?


「………動くな」

そいつは、日本語を話しやがった!
そして、こちらに歩いてくる! どど、どうすりゃいいんだ………!?

100 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 09:28:57.25 ID:1+3uhbrI0
やがてそいつは、俺たちの前に立ちはだかった。
身長はそれほど高くない。俺の肩辺りまでしかない。

だが、その手に持つ鎌は、比較にならないほど大きい。
柄の部分だけでも、手に余る大きさと長さだ。
そしてその刃先には………、なにやら赤黒いものがついているのは気にしないでおこう……。

「お前たちは死んだ」

と、突然そいつが口を開いた。
俺たちはわけも分からず、身震いするばかりだ。

「これより私は、お前たちを黄泉へと送る」

そいつはそう言い、俺ではなく男の前に立った。
そして、男の胸に手を当てる。

……何故か? そいつの手は、男の体を貫通しなかった。



「…………ふむ」
しばらく経って、そいつは男から手を放す。
男は冷や汗を沢山かいている。当たり前と言えばそうなのだが…。


それから、またそいつは口を開いた。
少し、怒ったような表情を浮かべて。

「お前はダメだな」

103 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 09:38:39.27 ID:1+3uhbrI0
そいつが、男に向けて鎌を振るった。


一瞬だった。


男は叫びもせずに………消滅……した。


「う、うわあああ!!!」

俺はハッとして後ずさりする!
やばい! このままじゃ俺までやられちまう!
逃げなければ! 死んでしまう! 俺はもう死んでいるけど、この意識まで消されるに違いない!!


俺は夢中で駆け出した。
花を踏み潰し、丘を駆け、息を切らす。


だが、それは無意味な事であった。


「止まれ」


次の瞬間、そいつは、いつの間にか俺の前に立ちふさがっていた…。

もう、逃げられない。

105 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 09:46:11.33 ID:1+3uhbrI0
「お、俺をどうする気だよぉ!」

俺は無我夢中で叫ぶ。
死にたくないからだ!!

「案ずるな」
「殺す気なんだろ! やめろよ!」

俺はまた走り出そうとする。
が、そいつの腕をしっかりとつかまれた。

振りほどこうとするが、出来ない!
すさまじい力だ……! 人間の大人以上の力!?

「放せ! 放せ!」

そいつは、もがく俺の腕を押さえる手とは逆の手で、俺の胸に手を当てた。
先程の、男と同じように。

「ひ、ひぃぃっ!!」

109 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 09:49:54.39 ID:1+3uhbrI0
「………」

――それから、どのくらいの時が経ったろうか?

そいつは、俺の胸の手を当てたまま、じっと動かなかった。


「うむ」

だが、やがて、その手を放す。


そして―――、そいつはやはり、鎌を持ち直した。


「ま………、待てよ」


やべえ。殺される。


……だがしかし、そう思う間もなく、そいつの鎌が俺の体を切り裂いた。

111 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 09:53:47.74 ID:1+3uhbrI0
………ヒュッ、と。

聞こえたのは、空を切る音だった。


「え……?」

そっと、まぶたを開ける。


先ず目に入るのは、変な生き物。
鎌を、確かに俺の体に突き刺している。

そして、俺の胸に目をやる。
鎌は……、俺を貫通している。

ど、どういう事だ!?


「ほう。貴様には資質があるな。では、今から貴様に選択肢をやろう」
「は、はぁ?」

俺は自分が生きられた事への喜びと同時に、今後の事への恐怖を持った。
死んだ俺をわざわざ生かすとは……、何かある。

大体その、選択肢ってのは一体……。


「一つ、貴様が我々に協力するか。一つ、背き、死ぬか。さあ、選べ」

113 : ◆X5HsMAMEOw :2006/01/29(日) 09:58:50.93 ID:1+3uhbrI0
「な、なんだよそれ……」
「黙れ。選べ」

そいつは、淡々と言葉を言い放つ。

要約するに、生きるか、死ぬかを選べと言っているのだろう。


なら、答えは見えているではないか。


「わ、わかった。協力するよ! だから、俺を殺さないでくれよ!」
「よろしい。だが」

そいつは、俺を服従させて直、曇った表情をしている。
今度は、何を言い出すんだ…。俺の頬を脂汗が流れる。


「これからいくつかの試験を行う。それに合格できればの話だ」

もう、わけがわからなくなってきた。
試験に合格すれば生、不合格すれば死という事なのか……?

無茶苦茶だ……。

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