- 20 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:05:49.42 ID:FF2BkkNa0
- 第15話 『霊界』
- 21 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:06:27.80 ID:FF2BkkNa0
- 「……ん?」
気がつくと、そこは荒野だった。
草木は荒々しくはだけ、地平線が遥か彼方まで広がる。
辺りに緑はなく、どちらかと言うと荒々しい砂地と言うのかもしれない。
荘厳な雰囲気は微塵もなく、お世辞にも居心地のいい場所ではない。
空は青くはなく、夕暮れの空色。
朱色に染まりがかった空には、薄っすらと月さえ浮かんでいる。
雲は一つもなく、いたって快晴。なのに薄暗さを感じる矛盾。
要約すれば、そこにあったのは先程とは打って変わった景色だ。
- 22 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:06:54.60 ID:FF2BkkNa0
- 「な、ななな!?」
木之下は驚愕した。
気がついたら、見知らぬ場所にいたなど…馬鹿げている!
慌てて木之下は自分の頬をつねる。
頬は赤みを少し増し、やがて彼が痛みを感じたのか、手は離れて、頬は元の形に戻る。
木之下は目を丸くして辺りを見回した。だが、その光景に覚えなどは…一切の如くない。
「な、何が起きたんだ?」
冷静になり、今までの出来事を考慮する。
記憶の淵を漁り、先ず浮かんだのは……人気のない裏路地。
そこで拾った、紫紺の如く輝く宝玉…。
そして木之下は、ハッとする。
身をかがめ、それを手に取った瞬間に世界が豹変したのだ…!
慌てて彼は足元を見渡す。
そこには案の定、想定していた物体があった。
木之下は特に警戒するもなく、それを手に取った。
それこそ、紫紺に輝く宝玉。
先程脳裏に浮かんだ、謎の宝玉であった。
- 23 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:07:24.08 ID:FF2BkkNa0
- 「どうなってんだ…」
宝玉をつまみ、夕日に透かして凝視する。
淡く紫に輝くそれは、単に見ているだけなら見惚れそうなくらいに美しい。
しかし、木之下にとってはそうは感じない。
自分をわけの分からない世界に導いた、謎の宝玉……気味が悪い。
「おい、ショボ。ここに見覚えないか?」
心細くなったのか、木之下はショボに声をかける。
『ん……? ここは……』
対してショボは、何かを思い出すかのような声を出す。
その声に、木之下が期待する。
『あれ? ここ、霊界じゃないか』
「れ…霊界? なんだそりゃ!?」
予想外の返事と、謎の単語に戸惑う木之下。
ショボはそんな木之下を気にしながら、口を開く。
『霊界っていうのは、代行人の世界の事さ。僕やブーンも元々こっちの世界の住人。
でも、おかしいね。なんで先刻まで人間界にいたノアが、いきなり霊界に……?』
- 24 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:07:43.05 ID:FF2BkkNa0
- 二人で呆然とした。
木之下もショボも神妙な表情になった。
空気が少しずつ淀み、風が吹き始め、寒さが増す。
だがしかし、そんな雰囲気を一気に崩したのは、重い地響きだった。
ズシン、ズシンと、地の果てから地響きが聞こえる。
それと同時に木々が揺れ、大地が揺れ、木之下も揺れる。
「うわわわわ。な、なんだ!? 地震か!?」
どうにかバランスを保ちながらの発言。
揺れたと言ってもそれは僅かであって、震度の大きい地震ほどはない。
むしろ、家の前の道路を大型自動車が通って、家が揺れる程度のもの。
『何言ってるんだ。霊界は地上と隔離されてるんだから、地震なんてないよ』
「じゃ、じゃあなんだよ、この揺れ」
揺れはなおも静まらず、次第にその大きさを増していった。
気のせいでなければ、遠くでは木々が倒れるような音さえする。
一体何が起きているのだろうか…。
木之下はそう思い、ごつごつした岩に実を隠れさせながら、音の方向を見た。
- 25 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:08:28.96 ID:FF2BkkNa0
- そして、驚愕した。
そこにいたのは、甲冑に身をまとった騎士であった。
それも、桁違いの大きさ。木之下が三人分くらいと言っても過言ではない。
その甲冑が、足を一歩踏み出すたびに先程の地響きが起こる。
わけのわからぬ甲冑が、この地震の正体だったのだ。
更にその甲冑だが、首から上がない。
白銀に輝く鎧は、日光を浴びて鉛色に輝いてはいるが、首から上にだけそれがない。
甲冑は首を亡くして動いているのだ! 人間が動いているのではない!
「ショ、ショボ。なんだあいつ…」
『………!? な、な! そんな馬鹿な!』
その甲冑を見るなり、普段は冷静を保つショボまでもがそれを欠く。
木之下は不安の募る心を沈めながら、ショボの言葉に耳を傾けた。
『あ、あれはデュラハン! 鬼組織の幹部だよ!?
今まで何人もの代行人が奴に狩られた! 何でこんな奴が……!?』
ショボは押し殺した声で、そう言った。
- 26 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:08:48.23 ID:FF2BkkNa0
- ――――鬼組織の幹部!?
それだけの単語に、木之下は身震いをした。
鬼という言葉には聞き覚えがある。本来の代行人の敵である組織。
その組織の幹部!? 何人もの代行人が狩られた!?
そんな奴と対峙している今、一体どうすれば助かることが出来るっていうんだ!?
「お、おいショボ…。どうしたら元の世界に戻れるんだ…?」
『う〜ん…。僕にも分からないけど……とりあえずこの場から逃げたほうがいいのは確実だね。
デュラハン相手じゃ、ノア一人では絶対に勝てない。ガルシアと風間がいても、恐らく無理だろうね…』
ガルシアと風間がいても、倒すことは無理……!?
そんな相手が目の前にいるって言うのかよ!?
「逃げるしかないんだな?」
『うん。デュラハンは相手の気配を察知して動いてるんだ。気配を隠せば絶対に逃げ切れる』
「分かった」
木之下は慎重に足を前に出し、前に出し。
音もたてず、気配を完全に消して岩から身を出し、その場を離れようとした。
その時であった。
- 27 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:09:27.51 ID:FF2BkkNa0
- キィン! と、重たい金属音が荒野に鳴り響く。
慌ててそちらをみれば、何と! 誰かがデュラハンに剣を向けているではないか!?
しかも、その剣の持ち主……女性!? 女性がたった一人で、デュラハンに!?
あまりに無謀すぎる。突然の事に、木之下の目は女性に釘付けとなった。
『ノ、ノア! どうする!? 逃げる? それとも援護する?
あ。僕は、勿論後者を選んだほうがいいと思うよ!?』
ショボが緊迫した様子で語りかける。
通常ならここで木之下は何も言わずに逃げるだろうが、今回はそうもいかなかった。
それもその筈。
なぜなら…その後姿に、見覚えがあったから。
- 28 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:09:52.80 ID:FF2BkkNa0
- 風になびき、朱の空色に染まるその青い髪。
女性にしては高い身長。
そして、その身につける制服……まさに自分の学校の制服。
全てに見覚えがあった。
先程あった気がする。
それは疑問であった。
だが、彼女が振り返り、木之下が彼女と対峙した時……それは確信へと変わった。
「神崎……なんでお前が……!?」
木之下はただ、戸惑うばかりであった。
15話 完