- 9 :MAMEO:2006/05/21(日) 17:59:34.02 ID:FF2BkkNa0
- 第14話 『日常と』
- 10 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:00:28.85 ID:FF2BkkNa0
- 早いもので、冬が過ぎ去った。
季節は春となり、俺たちは卒業式を迎える事となった。
卒業後は、それぞれの進路に向かって一直線だ。
俺と風間は大学にいくし、木之下や神崎さんは専門学校へ行くらしい。
風間や木之下とは聖剣士としてこれからも繋がりがあるだろうが、神崎さんと別れるのは少し惜しい気がした。
その気持ちは、風間もしかり……。
卒業式が終わった途端に、空間から何かが開放されたようになる。
女子は泣き出し、男子でも友との別れを惜しむ者達でいっぱい。
制服のボタンをあげたり、後輩と親しんだり。
桜風が舞う中、思い出も舞っている。
そんな俺はというと、実際卒業式などどうでもよく、一人帰路に立とうとしていた。
- 11 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:01:13.89 ID:FF2BkkNa0
- 「おーい、ガルシアー!」
そんな時、俺を呼び止める声。
声の主は…木之下だ。
「どうした?」
「こっちこい! 面白いもんが見られるぞ!」
と、木之下は突然俺の腕をつかみ、走り出した。
その顔は皮肉な笑顔でひきつっている。何を考えているんだ、こいつ。
面白いものって何だ? 下らないものの間違いじゃないの?
――――――
やがてたどり着いたのは、校舎裏だった。
卒業式と校舎裏……結びつければセオリーなのは分かっていたが、あえて黙秘しよう。
いたのは、風間と…神崎さんだ。
風間が呼び出したに違いない。風間は告白でもするのか!?
いや、まさかなぁ。
あのチキンが告白なんてねえ。
- 12 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:02:05.47 ID:FF2BkkNa0
- 「な、なに? 用って」
神崎さんは困惑した表情をしている。
勿論、風間の用件には気付いているのだろうが。
その上でああいった表情をするというのは、告白を迷惑と思っているからだろう。
風間もすみにおけない奴だ。
「かかかかかんざきさん。ぼぼぼぼぼぼぼくは………」
風間は完全にあたふたしている。
顔は引きつり、赤面し、俯き……。
この様子を見ていると、俺まで情けなくて恥ずかしくなってくる…。
神崎さんも、見ていられない様子だ…。
「ぼぼぼぼぼぼぼぼぼく!!」
「ごめんね。ちょっと今日は用があるから帰るね」
「え…? あ、ちょ、ま、まって!」
そう言い残すと、神崎さんは慌てる風間を尻目に去っていってしまった。
まあ、当然と言えば当然だよね。俺が神崎さんの立場だったら相当迷惑すると思うしなぁ。
でも今日は用があるって………神崎さんと風間、もう会うことはないだろうにねえ……。
- 13 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:02:52.40 ID:FF2BkkNa0
- 「よう、風間」
「!!」
やがて、俺と木之下は風間の目の前に現れる。
あれ以降、俺たちは聖剣士として結びつき、仲の良さも結構なものになっていた。
こんな場面は他人に見られたくはないだろうが、俺たちなら許容できる範囲だ。
「フられたのね」
俺は風間に優しく問いかけるが、風間は首を横に振った。
「……フられてない。神崎さんは用があっただけだ」
「そう……か」
木之下はそういうと、静かに風間の肩を叩いた。
何かを悟らせるかのように。
風間は泣いていた。
歯を食いしばりながら必死にこらえていたが……目から滴るその液体を、俺は見逃さなかった。
あわれなり。風間乙。
でもね、ストーカーしてたら嫌われるよ…。
- 14 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:03:10.61 ID:FF2BkkNa0
- 「しかし、もう卒業か〜」
俺たちは、帰路に発っていた。
先程の騒動もすっかり忘れ、三人で楽しく会話を弾ませている途中である。
「早いもんだよなぁ。卒業」
まあ、男三人とむさくるしいが、日ごろのうさ晴らしにはちょうどいい。
波止場の潮風を肺いっぱいに吸い込み、朝日を満遍なく浴びて今日もいい気持ちだ。
桜の花も咲き始め、心地よい香りが辺りを支配している。
これだから俺は春が好きなんだよね。
「飯でも食いにいくか?」
木之下が言う。
今の時刻は昼過ぎ……昼食をとるにはちょうどいい時間だ。
「行こうか」
「把握した」
俺と風間も同意し、満場一致で俺たちはレストランへ向かう事にした。
- 15 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:03:32.58 ID:FF2BkkNa0
- ―――レストラン・バーボンハウス
内装はマホガニーが主。
音楽も流れず、テレビもない静かなレストラン。
故あってか客入りはそんなに多くなく、町の外れにぽつんと立っている小さなレストラン。
もともとこの町は海産物がよくとれるので、それらをふんだんに使ったシーフードメニューが多い。
だから町のレストランと言うとシーフード店ばかりなのだが、ここの味は格別だ。
そんな訳で俺たちは常連客となっている。マスターとも面識があるほどまでの常連、だ。
「マスター、俺シーフードカレーね」
威勢のいい声で最初に注文をしたのは木之下。
シーフードカレーはここの人気メニューで、とても美味しい。
何と言っても、ここのシーフードカレーには俺の大好きなマグロの切り身を焼いたものが入っているから良い。
と、言うわけで俺もシーフードカレーを食べよう。
「俺もシーフードカレーでいいよ」
「じゃあ、僕もそれで良いや」
「へいへい、シーフードカレー三つね。ちょっと待ってろよ」
マスターは俺達の注文を聞くと、水の入ったグラスを置いて厨房へと立ち去った。
そうするともう俺たちは、くだらない雑談で盛り上がる。
周りには客など殆どいない。平日の昼間だからという理由もあるのだが、俺にとっては好都合。
こう人がいないと、ブーンたちと話していても怪しまれないからな…。
- 16 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:04:30.66 ID:FF2BkkNa0
- 『羨ましいね。僕もシーフードカレー食べてみたいな』
「ショボ達は何も食えないのか?」
当然のことを、木之下が訊ねる。
『そりゃあねえ。僕達は魂だけの存在なんだから。食べるも寝るもないよ』
「え? 寝てもないのか?」
風間も口を挟む。
『だから夜中は暇なんだよな、俺たち』
『そうだお。ガルシアが横でぐっすり寝てるのに僕はずっと暇だお』
「うへえ。今度からちょっと夜更かしすることにするよ」
「そんなこと言ってると、また遅刻するぞ? 結局、僕なんか一回も遅刻してないじゃないか」
「な、なにを――!」
風間が怪訝そうに笑って、俺に言う。
皮肉に口を少し頬に吊り上げている所が、またなんとも腹立たしい。このヤロウ、殴ってやる!
「――――ッ!?」
そのまま殴りかかろうとする俺を静止させたのは、木之下………ではなく、マスターであった。
「何騒いでるんだよ。ほら、出来たぞ」
「ちっ」
不機嫌ながらも、席につく俺。
とりあえず目の前のカレーを食って落ち着くことにした。
- 17 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:04:46.25 ID:FF2BkkNa0
- 「あー、うまかったな」
「まったくだ」
あの後、飯を食い終えた俺たちは、自分たちの家に戻ることにした。
ここで別れれば普通にもう会うことはないのだろうが、聖剣士としての宿命がある限りは俺たちはいつでも会うだろう。
別に惜しむこともなく、俺たちは別れた。
「じゃあな。また今夜な」
「ああ。しっかりしろよ〜」
俺は疲れていたので、家に帰ってそのまま寝ることにした。
- 18 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:05:15.04 ID:FF2BkkNa0
- 「ふう」
木之下は、薄暗い路地を歩いていた。
今日は家に早く帰ってテレビの特番を見たいので、近道をしていたのだ。
細い路地の間を、猫のようにすり抜けて走る木下。
だがしかし、その途中で足が何かに躓いた。
「なんだ?」
ふいに、それを覗き込むようにして見る。
形状は、宝石…のように見えた。
暗い路地の中で燦然と輝き、神々しさをかもし出している。
木之下は、ふと本能的にそれを掴み取った。
「綺麗だな」
よく見ればそれは、神器の魂の宝玉に似ている気さえした。
ショボと比較しても、大きさといい形といい全てが酷似している。
「ショボ、これなんだ?」
『ん…。別に覇気みたいなものは感じないね。ただの石ころじゃないのかな?』
「そうなのか」
価値がないとわかり、木之下はそれを捨てようとした。
右手にそれを握り締め、遠くに投げようとした刹那だった。
- 19 :MAMEO:2006/05/21(日)
18:05:33.01 ID:FF2BkkNa0
- その瞬間、木之下の姿が忽然とその場から消えた。
その場に残ったのは、吹きぬける風だけだった。
14話 完