784 :豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/02/03(金) 20:42:42.25 ID:rXsWrQwH0
…風間がさらわれてから既に五日が過ぎた。
街中で戦ってはいたものの、その日は雨であったし、場所も廃屋の近くの広場だったために気付かれてはいないようだ。
風間の事は、行方不明の事件として扱われた。

「では、風間君と別れたら……それが最後だったと」
「はい」

当の俺は、失踪の日に風間と会った人物として警察に呼ばれていた。
重要参考人だそうだ。

「そうですか。何か分かりましたら、いつでもお電話ください」
「はい」

取調べも終わり、俺は少し遅れて学校へ向かう。
学校では風間がさらわれた事があってか、集団登校が義務付けられていた。



――――クラスでも、風間の話題で持ちきりだった。

俺は風間と一緒にいた事から、クラスの女子に質問攻めにされた。まったく…。

790 :豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/02/03(金) 20:54:28.65 ID:rXsWrQwH0
「よう、ガルシア」
「ん…木之下か」

当事者は俺と木之下だけだ。
他の奴らは、ただの行方不明事件と思っている…。

「ショボが言うには、資質が少ないほど適性に時間がかかるらしい。
 今日あたりに来るらしいぞ…」
「な!? 本当か…! でもなぁ……風間と戦うのか…」

風間と戦う。
相手は、多分操作魔法をかけられている。否応無しに俺に刃を向けるだろう。
例え俺の命を狙っているとしても……俺は友達を殺せない……。

「気絶させる程度で行こう。殺してしまっては元も子もない」
「わかってるって。じゃあ、準備しとけよ。夜に連絡する」


木之下はそう言って、家へと帰っていった。


今夜……俺は風間を取り返す! 絶対にだ!

794 :豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/02/03(金) 21:02:48.67 ID:rXsWrQwH0
――――やがて、空が漆黒に包まれる。

夜が来た。
聞こえるのは、ミミズクの声だけ。俺は、木之下からの連絡を待っていた。
時刻は既に12時をまわっている。そろそろ連絡が来てもいいだろう。

「ブーン、魔力を感知できないか?」
『風間君の魔力は比較的に低いお…。多分、それを強力すぎる武器が補うはず。
 となると、人間の魔力よりも武器の魔力を感知したほうが早いお…』

ブーンが魔力感知をしている間に、俺は木之下に電話をかける。
いい加減に遅すぎる…。


――ツーツーツー……。

しばらくして、留守番電話サービスに繋がった。
何だ? 木之下の奴、寝てるのか……?

『ガ、ガルシア! 大変だお!』
その時、突然ブーンの大声が聞こえた。
あまりの声の御気差に、俺は一瞬びくんとする。

「どうした!」
『街中で大きな魔力が二つ動いてる……! 木下君と風間君に違いないお!』

797 :豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/02/03(金) 21:11:47.34 ID:rXsWrQwH0
くそっ! 奇襲でもされたのか!」

俺は携帯電話を放り出し、レーヴァテインを持って外へ出た。


冷え込むが、雨は降っていない。
炎はだせる…! 相手は風間一人なんだ! 俺と木下の二人がかりで行けば勝てる!


――――――

『ガルシア、この辺りから魔力がする!』

やがて、ブーンが叫ぶ。
ここは……以前シュウトと対決した場所だ!


「ガルシア! やっと来たか!」

突然の声。その主は木之下だ!
風間と交戦している……ここで間違いない!

「連絡くらいよこせよ!」
「すまねぇ、いきなり襲われた…! それよりも風間だ! 早く止めるぞ!」
「おう!」

800 :豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/02/03(金) 21:25:32.06 ID:rXsWrQwH0
風間は槌を持っていた。
槌、といっても形状は普通のものとは違う。
柄の部分から先が、鋭利な刃物のようになっている。
鈍器にもなるし、短剣としても扱える半面リーチが短いが、風間の長い腕がそれをカバーしている。

「何だあの武器は!?」
『…! あれはミョルニールだね。気をつけて! あの武器は、投げて使うものなんだ!』

ショボが言うと同時に、風間がミョルニールを俺たちに投げつけてくる。
ミョルニールは、その重さからは不可能なはずなのに、ブーメランのように速度を落とさずにこちらに向かってきた。

「くそっ!」

懇親の力でレーヴァテインを構え、それを弾く!
だが、軌道を反れたはずのミョルニールは再び俺を追撃し始める!

「な、なんだこれ!」
『ミョルニールは一度投げられれば、相手を倒すか持ち主が引き戻すまで持ち主の手に戻らないんだ!
 炎堂がミョルニールの気を引いているうちに、ノアは風間君を攻撃しろ!』
「分かった!」

俺は力を振り絞り、ミョルニールを防ぎ続けていたが、やがてそれが風間の方へ戻っていった。

「!」

木之下が風間を攻撃しようとした刹那、ミョルニールを戻し、右手だけでその重い攻撃を防いだのだ。

37 :豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/02/04(土) 16:23:44.58 ID:rXsWrQwH0
「ちぃっ!」

木之下が顔をしかめて後退する。

距離を開ければ投げられたミョルニールが攻撃を防ぎ、距離を詰めればミョルニールが戻る…。
操られているだろうか? 風間の戦い方は非常に単純であった。

「木之下。俺が風間に近づく。お前も隙を見て風間に近づくんだ」
「分かった」


俺は、自ら風間のほうへ駆け出す。
案の定、風間は俺のほうに向かってミョルニールを構える。


だが、風間の後ろでは既に一人の人間が、剣を振り被っていた。
木之下である。

「ふんっ!」

木之下が、峰で風間を殴りつける。
だがしかし、風間はすばやく体の向きを転換させ木之下の剣撃を防ぐ。

「もらった!」

俺はそのまま風間に斬りつける! 詰みだ!

39 :豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/02/04(土) 16:28:56.90 ID:rXsWrQwH0
「ぐわぁっ!?」

詰んだ。そう思っていた俺の体が、衝撃によって後方に飛ばされる。
見れば、風間は片方の手でバルムンクを防ぎ、もう片方の手を俺に向けている。

『雷の魔法だお! ミョルニールは風と雷を操るんだお!』
「風で吹き飛ばされたってわけか……」

くそ……。
安易に近づけば吹き飛ばされるってことか…。


「ちっ!」

木之下は俺が吹き飛ばされると同時に、風間と打ち合い始めた。
どちらも引けをとらない。風間は武器のリーチの短さなど気にせぬように、無駄なくミョルニールを振っている。
心なしか、木之下が押されているようにも見る。

「ブーン、どうすればいいんだ!」
『木下君は地の魔法を使えるお。風の抵抗を受けない地の魔法が、風使いの弱点だお!』

地の魔法が、風間の弱点…!
これを使えば、勝機はまだある!

40 :豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/02/04(土) 16:35:19.83 ID:rXsWrQwH0
「木之下! 魔法を使え!」
「把握した…!」

俺は木之下に代わり、風間の方へと向かう。
それと同時に、木之下は風間から身を引く。風間は案の定、俺の方へと向かってきた。

「風間! 元にもどれ…!!」

一身に力を込め、俺は風間と剣撃を繰り広げる。
風間は……目から光が消えている。くそ、操作形の魔法って言うのはこんなにも人を変えちまうのか!?


―――――

『ノア。魔法の使い方は分かるね』
「ああ。ショボから教わったとおりにやればいいんだよな」
『風使いが相手の場合、地を奔る衝撃が有効だ。それをイメージしてくれ』
「おう」

木之下が、勢いよくバルムンクを地面に打ち付ける。
それに呼応し、地面が砕ける! 衝撃波が地面を伝い、風間のほうへと駆ける!

「………!」

風間が反応し、突風を起こす! だがしかし、その衝撃は止まらない……!

41 :豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/02/04(土) 16:39:57.67 ID:rXsWrQwH0
「……ふん」

風間は次の瞬間、俺の襟首を物凄い力でつかんだ。
そしてそのまま俺を………衝撃の奔る方へと投げつけたのだ!!

「え、ちょ、おま!!」

…万事休すだ。このまま行けば、俺が衝撃をまともに受けることになる…!
くそ! ここまで来て、そんな事をさせられるか…!


「うおぉおぉぉ!!」

衝撃に剣を向け、炎をそれにまとわせる。
俺の体重と、重力の勢いを重ねた剣は衝撃と共に、更に地面を深く砕く!
炎が地を奔る……! もう逃げられない!

風間は、必死に風を起こして炎を消す!
だが、炎は消えても地の衝撃は止まらない!

「ぐぁっ…」


次の瞬間、風間の体は力の方向へ吹き飛ばされた。
風間はそのまま、気絶した。

43 :豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/02/04(土) 16:45:12.71 ID:rXsWrQwH0
「…やったのか?」

風間は、倒れて動かない。
死んではいないだろうが、傷は浅くないだろう。

『……魔力が弱まっている。おそらくやったね』

ショボが言う。魔力が弱まっているという事は、操作魔法が消えたと考えていいのだろう。
俺は、風間に近づいた。


「風間……起きてたら返事しろ」
「…………………」

風間は脛と肩から出血していた。
脛の傷はそれなりに深い。放っておけば致命傷に至るだろう。

「ガルシア。一先ずは風間を病院に連れて行こう」
「そうだな……」


風間は救えたが、また俺に近い人が鬼に何かされるのではないか…。俺には、それが気がかりだった。
それに何故。鬼に見込まれるのが皆、俺の友人なのか……。俺は、言い知れぬ罪悪感を感じていた。

12話:完

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