710 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 22:19:09.68 ID:laOLkGdM0
「はぁ……」

俺は夕方、教室で一人溜息を漏らしていた。
数日前の出来事がこたえたらしい。誰も俺に近づいてくれない。
神崎さんさえも、俺に近づかなくなった。早く卒業してしまいたい気分だ。

窓辺から見る景色も、最悪。
今日は雨が降っていて、空が曇っているのだ。
そして傘が無くて帰ることが出来ないという最悪のオチだ。


「む、お前はガルシアじゃないか」

…背後から、聞きおぼえのある声がした。風間だ。

「風間か…。お前がこんな時間にどうしたんだ」
「いや。僕はもう推薦で大学に合格しているしねぇ。散歩かな」

…風間は、悪い奴ではない。素直すぎるのだ。
だから、場をわきまえない事を言ったりもする。今の言葉だって、俺に皮肉をぶつけた訳ではないのだろう。

「ガルシアは帰らないのか?」
「俺は傘忘れちまってなぁ…。風間、持ってないか」
「折り畳み傘ならあるぞ」


風間が鞄から折り畳み傘を取り出し、俺に渡す。
何だか俺は、心の中が情けなさでいっぱいになった。

711 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 22:28:06.40 ID:laOLkGdM0
その日は、風間と帰った。
後で知ったのだが、意外と俺の家は風間の家に近いのだ。

「はぁ。俺は何か悪い事をしたのかなぁ…」

雨がひしひしと俺の心の状況を表すかのように、落ちてくる。

「どうしたんだい? 浮かない顔をしているな」
「ちょっとな…。この前クラスで独り言を言ってしまって…」
「ああ、窓辺でブツブツ言っていたな…。それで、誰も近寄らなくなったのか」
「俺、どうすればいいんだろうか」

そんな俺に、風間が手を差し伸べてきた。
この手は……どういう意味だろう……?

「僕でよければ友達になるぞ。一人は辛いだろう」
「か………かざま………ウッ」

俺はそれまでの自分を、今捨てた!
友情……それは人生にとって掛け替えの無いものである事を知った!!
風間……有難う! お前は俺の一生の友達だ!

俺は、その手をギュッと握り締める。

「風間…ありがとう」
「キ、気持ち悪いな! 放せ!」
715 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 22:35:57.64 ID:laOLkGdM0
「は、放せ!」
「うふふふふふふふふ」

友情…素晴らしい。
神崎さんが何だ。世の中にはもっと素晴らしいものがあるのだ。


―――と、感激に浸っているわけにもいかなかったようだ。

『ガルシア…まずいお。来る』
「分かってる。出来るだけ人気の無い所へ行こう」

そう言って、俺が駆け出そうとした瞬間だった!


ぐわぁっ、と轟音! そして揺れる大地!

「な、なんだ? 地震か!?」
『違う……これは魔法!』

「クク……良くぞ見破った」
「何者だ!」

声の方向に視線を向ける。
そこには、一人の男がいた。
手には黒い剣を持っている! コイツは……魔剣士か!

716 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 22:40:37.17 ID:laOLkGdM0
「な、なんだこいつは!」

風間が腰を抜かしている。
まあ、無理も無い事だ……。

「風間! 先に帰ってろ! こいつは俺に任せな!」
「何を言うガルシア! 殺されてしまうぞ!!」
「なめるなよ!」

俺は戦闘体勢に入り、レーヴァテインを構えて男と対峙する。

「な、な、な!? じゅじゅじゅ、銃刀法違反だぞぉ!!」
「ごちゃごちゃうるさいなぁ! 危険だから下がってろよ、風間!」


俺はそのまま、男に突進する。
だがしかし、男は俺の攻撃を容易く見切り、避け、返し技に繋げる。

「ぐっ!」

相手の返す剣を剣の刃先で受け止め、俺はそのまま力と逆のほうへと受け流す!
相手のバランスが一瞬崩れる! 今がチャンスだ!

「炎!」

この魔法で、終わる…!


―――と、思ったのも束の間であった。
………え? あ、あれ? 炎が出ない………?
739 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/03(金) 08:12:15.66 ID:cUdp0NXA0
「お、おいブーン! 何で炎が出ないんだよ!」
『雨だからね…。炎を出すには元素がちょっと…』
「おいおい、それじゃあ俺は雨の日が全然ダメな奴じゃないか!」

その間に、男が体勢を立て直す。
俺は仕方無しに後退し、間合いをあけた。

「危ねぇ危ねぇ…。ガキだと思って油断してたぜ」
「誰がガキだ。この老け顔」
「……俺は老け顔じゃねえ。俺の名はアーノだ」
「どうでもいいな…っ」

炎が使えない今、体術だけで俺はこいつに勝たなければならない。
それは……多分無理なことだ。俺よりも、数倍アーノの方が戦い慣れている。
となると、俺がするべきことはただ一つだ。


「木之下が来るまで持ちこたえよう」

俺は風間に携帯電話を投げつける。

「木之下に電話しといてくれ! ガルシアが町の噴水の所で待ってるって! 急用だってな!」
「え…? わ、わかった! わかったぞ!」


後は……時間稼ぎだ。

740 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/03(金) 08:23:06.94 ID:cUdp0NXA0
「おい、てめぇ。魔剣士がこんな町に何の用だ?」
「貴様に用などない。用があるのはそちらの少年だ」

アーノは風間を指差した。
まさか……資質があったのか? ブーンでも気付かなかったのに?

「その少年の資質は確かに低い。
 だが、少年の波長が合う武器は……少ない魔力を持ったものでも扱える」
「それで風間を魔剣士にしようってか……!」
「ご名答」

アーノが跳ぶ。
俺も反応し、上からの攻撃を避ける。

「好きにさせるか!」

アーノに向かって、がむしゃらに斬りつける。
奴は防ぐので精一杯のようだ。このまま木之下が来るまで持ちこたえられれば…!

「貴様に用などない、といっただろう!」

突然、アーノが剣から力をゆるめる。
そして俺の攻撃を受け流し、途端に風間の方へと駆けた。


「ま、待て! ちくしょぅ!」

741 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/03(金) 08:32:20.77 ID:cUdp0NXA0
「おっと、動くなよ!」

アーノは、風間の首に剣を押し付けて言った。
動けば殺すというのか……汚いやつめ!!

「お、おいガルシア……助けてくれ……」
「く、くそっ! ブーン、どうすればいいんだ!」
『風間君が大事なら。言うとおりにするしかないお……』
「……ぐっ」


俺はその場に止まった。
こうするしかないのか……風間の命を救う方法は…!

「ガルシア……」

風間も、俺が手出しをすれば自分が殺されるのは分かっている。
だから、何も言わなかった。

―――くそ、俺は肝心な時に……何も出来ない!!


そう、嘆いた瞬間だった!
突然、アーノの右腕が切り裂かれたのだ!

「……待たせたな」

742 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/03(金) 08:39:53.13 ID:cUdp0NXA0
「木之下!」

木之下は一回俺のほうを向くと、目にも見えない剣速でアーノの肩を切りつける。
スピードが途轍もなく速い! アーノも、悶絶している!

「終わりだぁっ!」

俺はアーノの真正面から切りかかる。
アーノは、先程の木之下の攻撃で腱を切られている! 剣などもてまい!

「なめるなぁ!!」

だが、アーノも一筋縄ではいかない!
突如、地面から土の槍が出現し、俺の行く手を阻んだのだ。

だが、それも長くは続かなかった。

俺に気をとられていたアーノの背後に木之下が回り、背中に一発食らわせたのだ。


「が……はぁっ!」

アーノが、その場にゆっくりと崩れ落ちる。
出血が酷い。致命傷になっているだろうか。

743 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/03(金) 08:48:37.75 ID:cUdp0NXA0
――その時、背後で風間の悲鳴が聞こえた。
俺たちは、油断していたのだ。

見れば、シュウトが風間を抱えている。

「やれやれ。アーノはいつもこうだねぇ。先に帰っているよ」
「ま、待て! 風間を放せぇえ!!」

俺の声も虚しく、次の瞬間には風間もシュウトもその場から消えていた…。


―――――――――

「くそっ…! 俺は助けられなかったのか!?」
怒りに任せて地面を叩く。
拳から、雨にぬれた血が滲んできた。

『ガルシア、まだ諦めちゃいけないお。風間君は恐らく、鬼殿にいるお』

ブーンの言葉に、少しだけ希望を持つ。
風間はまだ……生きている!

「鬼殿ってのはどこにあるんだ?」
『鬼殿は代行人の世界のそこにある。だが、心配しないでいい。
 近いうち、奴らは風間を手先として送るだろう。それを待つんだ』

…ショボの言うとおりだ。
俺は絶対、風間を助けてみせる…!!

11話:完
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