645 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 18:11:45.00 ID:laOLkGdM0
「おい…炎堂に木之下。お前たちは受験も近いというのに…!」
「すいません…」

聖剣士となった俺達だが、夜中に仕事をする分寝不足になってしまう。
その為、俺と木之下が学校を遅刻する事は珍しい事ではなくなった。

「最近お前たちは遅刻が多いぞ? 何やってるんだ」
「いえ、ちょっと色々ありまして…」
「怪しいなぁ。まさか、アルバイトなんかしてるんじゃないだろうな?」

うちの学校は、原則としてアルバイトが禁止だ。
とは言ったものの、実際にアルバイトをしているものは多々いる。まあ、俺も木之下もしていないが…。

「してないですよ。なんなら、この辺りのコンビに全件回って聞いてもいいですよ?」
「むむむ……。以後、気をつけるように」


646 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 18:20:54.26 ID:laOLkGdM0
―――放課後。

「炎堂君どうしたの? 最近遅刻が多いね」

神崎さんにまで言われてしまう。
仕事をしているとはいえ、何だか情けない気分だ…。

「ちょっと最近忙しいんだ」
「え〜? 何、本当はアルバイトとかしてるんじゃないの?」
「違う違う。一応アルバイトじゃないんだけどね…」

確かにまあ、雇われている実だというのは認めるが…。
報酬は無しで使われているのだ。アルバイトと言ってもいいものだろうか。

「まあ、気にしたら負けかなと思ってる」
「ふ〜ん」

どうも白い目で見られている…。
何か良い良い訳はないものだろうか…。


と、その時、けたたましい音をたてて教室の扉が開いた。
ふと、俺はそちらに振り返る。

そこには、一人の男が立っていた。
その表情はなにやら……怒りに満ちているような気がするぞ

「こらぁぁ!! 貴様、神崎さんに何をしているうぅぅ!!」

うお…。何だこいつ、大声出しやがって…!

647 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 18:27:23.15 ID:laOLkGdM0
「な、なんだお前…」
「黙れ黙れ黙れ! 毎日遅刻ばかりしているような奴が神崎さんに何の用だ!」
「え、いや? 何て事のない世間話をしているんだが…」
「うそだっ!!」

な、何なんだこいつ!
ひたすら大声で叫ぶし、神崎さんを異常なまでに擁護しているし…。訳が分からん。

「神崎さん、何だこいつ。知り合い?」
「え? え…見たことないんだけどなぁ」
「……え? ぼ、僕を知らない? そ……、そんなぁあ…!!」

何なんだこいつ、急に倒れやがったぞ。
本当に訳の分からない男だ…。

「ど、どうしよう炎堂君」
「放っておこうよ。さっさと帰ろう」

俺は訳の分からん男を放置して、神崎さんと帰る準備を始めた。



650 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 18:35:27.16 ID:laOLkGdM0
俺はあの日以来、神崎さんと一緒に帰宅している。
別に付き合っているわけではない。ただ、あの事件の事がカルチャーショックになってしまい、夜道を歩けないようなのだ。

その原因は、俺にもある。
せめてもの償いだ。女の子と帰るなんて、得意じゃないんだけどな…。

現在の時刻は夕方。
空は朱色に染められている。町もそれに合わせて朱色に染まっている。実に綺麗だ。


「ねーえ、炎堂君。そろそろ何で最近遅刻しているのか教えて欲しいなぁ」
「えぇ…。いや、そのだな。大した理由じゃないんだが…」

言っていいものなのだろうか。
聖剣士になって、魔物と戦っています! なんて言ってもどうせ信じてはくれないだろうけど。

『ガルシア、あんまり正体ばらすなお。適当にごまかせお』

ブーンにも忠告された。
俺は自分でも分かるが、口が軽いのだ。
この事だけは、口が裂けても言ってはいけないとまではいかないが、言うのはまずい事だろう。

「実はさ、ボランティア活動してるんだ。夜に空き缶広いとかね! 無報酬だから、アルバイトじゃないじゃん?」
「うおー! 炎堂君偉いねぇ! 木下君も一緒にやってるのかな? 見直したよ!」
「へへへ」

あながち嘘ではないのでセーフとしておこう、うん。
656 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 18:44:52.71 ID:laOLkGdM0
「じゃあ、ここでお別れだね」
「おう。また明日なー」

やがて俺たちは教会の前にたどり着き、別れた。
さて、俺も家に帰るか………と思ったとき、誰かの視線を後ろから感じた。

「………きさま」

俺を教会の影から凝視している男がいた。
ん? あれ、さっき教室であった男じゃないか。ストーキングしてたのか…?

「何やってんだよ、お前」
「き、気付かれた!」

咄嗟にそいつは教会の影に身を潜めた。
気付かれて当たり前だい。半身出して、敵意丸出しでコッチ睨みやがって…。

「何してんだ、お前」
「う、うるさーい! 今日のところは見逃してやる! さっさと帰れ!」
「あっ…!」

そいつはそのまま、俺と反対方向に駆けていってしまった。
一体なんなんだろうか、あいつは。


見た所、あいつは神崎さんをストーキングしているようだ。
明日、校舎裏に呼び出してやるか……。
657 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 18:45:07.76 ID:laOLkGdM0
*炎堂はDQNではありません

658 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 18:49:22.75 ID:laOLkGdM0
              (`Д´)ノ ゆるさあああん!!
うわあ話せばわかる ノ(  )
- = ≡⊂(゚Д゚⊂⌒`⊃  / ヽ
661 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 18:55:26.26 ID:laOLkGdM0
――次の日。
気付かなかったが、あいつとは同じクラスだったようだ。
俺は、あいつと話しをしにいった。

「おい、お前…」
「!? お、お前は悪の帝王、炎堂ガルシア…!」
「誰が悪の帝王だ!」

思わずそいつの頭をぽかりと殴ってしまう。
おっと。いかんいかん、最近俺は暴力的だな。

「物事を暴力で解決しようなど…まさに悪!」
「わ、悪かったよ。だから、ちょっと話を聞いてくれよ!」
「貴様と話すことなどない!」
「神崎の事なんだが」


…そいつの目の色が変わった。
鼻の下を伸ばしている。こいつは真性の変態だな。


「何の用だい?」
「…何だお前。まあ、いいや。お前、最近神崎さんに付きまとってないか…?」
663 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 19:05:20.49 ID:laOLkGdM0
「何を不謹慎な事を。僕はストーカーなどしていないよ」
「俺はストーカーしてるかどうかなんて、聞いてないぞ…」
「…ぬ。しかし今日は良い天気だな」

ポカリ、とまた俺はそいつの頭を殴ってしまう。
いかんいかん、魔物を倒しているのでクセになっているのだろうか。

「物事を暴力で解決など…笑止! 貴様はやはり悪だ!」
「ストーカーなんて悪質な事するお前も、十分悪だと思うぞ?」
「あ、あれはストーキングではない! 尾行だ!」
「それはイコールで繋げると思うぞ」
「繋げん!」

…ダメだこいつは。
恋愛狂だ。単純でバカだ。可哀想な奴だ…。

「神崎さんに言いつけるぞ」
「ま、待ってくれ! 何でも言う事を聞く…」

そいつは、土下座してきやがった。

どうも、いじりがいのある奴だ。
クク……面白いぜ……。


『ガルシアが日に日に悪になってきているお……』
665 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 19:11:21.98 ID:laOLkGdM0
「ちょっとジュース買ってきてよ」
「な、何で僕が貴様に命令されなければならないのだ!」
「………言いつけるぞ」
「行かせて頂きます! 勿論おごります!」

いい気味だぜ。
しかし本当に行っちまうとは…単純すぎるぞ。

――――

「あれ、炎堂君。風間君どこ行ったか知らない?」

ふいに俺は、クラスメートの女の子に声をかけられた。

「風間? 誰だそれ」
「今、炎堂君が座ってる席の子だよ。大抵教室にいるんだけどな〜。見つけたら教えてね」
「あ、ああ」

さっきのやつ……風間って言うのか。
なんだ、風間の奴。神崎さんの前では普通の奴らしいな。


「風間君ー! 一緒にお昼食べよー!」

と、今度は肩を叩かれる。
振り向けば、またもやクラスメートの女の子が…。しかも、「何コイツ」と言いたげな表情をしている。


俺は何だか、風間に嫉妬してしまった。
693 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 21:15:51.31 ID:laOLkGdM0
しばらくして、風間が教室に戻ってきた。

その姿を見て、俺は思わず吹き出してしまった。
その両手には、何本ものジュースを抱えているのだ。

「な、なんだよそれ…」
「いやあ。自動販売機でジュースを買っていたら、周りの子達が何故か奢ってくれてね…」
「………そうなのか」

俺は無言で風間からジュースをひったくり、一気飲みした。
風間は、俺の目の前にどさりとジュースの山を置く。無性に腹がたつ…。

「……くそ。絶対に神崎さんに言いつけてやる」
「お、おい! 約束が違うじゃないか!」
「うるせー! 俺の知った事じゃねー!!」

俺はまた風間に殴りかかろうとする。
……のだが、その振り上げた腕は、空中で他の手によって静止された。

「え?」

疑問を持つまもなく、俺の頬に平手打ちが飛ぶ! い、いたい!

「ちょっとあんた! 風間君に何してんのよ!」
「そうよそうよ! 風間君パシらせるなんて良い度胸ね!」

……どうやら、風間の親衛隊のようだ。
もう訳が分からない……。
696 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 21:24:20.04 ID:laOLkGdM0
―――あの後、俺は一人で屋上にのぼった。

「うっ…ぐすっ。俺は間違った事なんかしてないのに…」

フェンス越しには青い空と青い海の、鮮やかなコントラストが見て取れる。
そびえ立つ山々や、教会などの風景も絶景だ。この風景を見ていると、心が癒される気がする…。

風が俺の体を吹きぬける。
冬なので寒いのだが、今は何故かそれすら暖かく感じられる…。

――――――

「お、炎堂じゃんか。浮かない顔してどうした」

ふと、俺を呼ぶ声がした。
声の方向には、木之下がいた。
今日は学食に誘われずに不思議に思っていたら、ここで飯を食っていたのか。

「よう…木之下。お前はここでメシか?」
「ん、ああ。悪いな、今日学食パスしちまって」
「いや、財布忘れたから良いんだけどさ。腹減ったから、弁当分けてくれないか」
「え……それは無理だ」


不思議に思い、俺は木之下が先程までいた場所を見る。



あれ? 木之下、お前女の子と弁当食べてたの?
しかも同じ弁当じゃん。まさか作ってもらったりしたわけじゃないよね?
698 : ◆X5HsMAMEOw :2006/02/02(木) 21:34:18.71 ID:laOLkGdM0
「裏切り者おぉぉおぉ!!」

俺は夢中で走った……もとい、逃げた。
屋上から階段を下り、そのまま教室の窓辺まで戻った。


『ガルシア…』
「なあブーン。俺とお前は友達だよな?」
『うんお。僕とガルシアは友達だお』
「ブーン…! 俺の心を支えてくれているのはお前だけだ……」


ヒソヒソ……ヒソヒソ……。

俺の後ろから。声を屈めて言っているのだろうが、それはハッキリと俺の耳に聞こえた。


「炎堂、なんか一人でぶつぶつ喋ってねえ?」
「マジだ。キモーイ! 友達がどうのこうの言ってるよ!?」
「友達いないのかな…?」


しまった。ついつい声に出してしまった……。
これではまるで、俺が一人で喋っている様に見えてしまうではないか。


もう手遅れで、俺が今後白い目で見られた事は言うまでもない。
それ以来、俺が風間と木之下に対して怒りをぶつける様になったのも、言うまでもない。

第十話:完
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