( ^ω^)ブーンは偉い魔道士です
- 41 : ◆6Ur6tf9/s6 :2006/01/29(日)
00:13:04.00 ID:1+3uhbrI0
- 「炎堂君、お待たせ!」
「おう」
神崎さんは、バスケットボールのユニフォームから制服に着替えていた。
彼女は、随分と明るい性格であった。
「じゃあ、帰ろうか〜」
「わかったよ」
俺たちは、校門へと向かった。
現在は、夕日も沈むころなので、町を通る人も少ない。
俺が女の子と一緒に下校している姿なんて……見られたらそうとう恥ずかしいぞ。
都合のいいことだ。
――――やがて、町は暗くなり始める。
- 45 : ◆6Ur6tf9/s6 :2006/01/29(日)
00:18:40.19 ID:1+3uhbrI0
- 夏は、昼が長く、夜が短い。
現在の時刻、七時過ぎである。
それでも気温は、寒くはなく涼しいくらい。
朝とは違う風が、気持ちいい。
「炎堂君はスポーツとかやらないの?」
「……昔まで、ジュードーをやってたんだけどねぇ」
「じゅ、柔道! 渋いねえぇ。これは、不審者に襲われた時、炎堂君と一緒なら安心だね!」
「あ、いや。受身ばっかりで技はあんまりやってないんだ。俺、力もないから安心できないいよ……」
……どうも俺は、マイナスにばかり物事を考えるタイプらしい。
根暗なんだろうか。どう考えても、神崎さんの性格と相反しているぞ。
「あ、そうだ! ねえねえ、炎堂君!」
「ん? どうしたの?」
と、突然、神崎さんがにやけながら俺のほうを見た。
「町外れの、倉庫が沢山ある波止場って知ってる?」
- 47 : ◆6Ur6tf9/s6 :2006/01/29(日)
00:23:42.72 ID:1+3uhbrI0
- ………そこは、俺が今朝近道をしようと通った波止場だ。
朝通ったと言うのに、悪寒を感じた、あの波止場。
「え……? 知ってるけど、どうしたの?」
「ホント!? ねえねえ、今からそこに言ってみない!?」
―――体中から、血の気が引く。
言い知れぬわだかまりが、心を支配する。
葛藤とは違う。本能的に、俺自身がそれを拒んでいるのだ。
恐らく、恐怖と言う感情から。
「やめようよ。今は夜だし、危ないよ…?」
「私ね、怖いものとか大好きなんだ! へへ、私一人じゃ怖いけど、炎堂君がいると心強いもん」
……一人ではしゃぐ彼女を見て、俺は呆然としていた。
俺は一体、どうすればいいんだろうか………?
- 48 : ◆6Ur6tf9/s6 :2006/01/29(日)
00:27:08.63 ID:1+3uhbrI0
- 「……そこまでいうなら、いいよ」
―――何言ってるんだ、俺―――
心では、違う事を考えている。
だが、くだらない見栄のために、こんな事を言ってしまった…… 。
「ホントに? ふふ、炎堂君はやっぱりカッコイイねえ!」
神崎さんが、俺の腕にしがみついてくる。
だが、正直、嬉しいと言う感情はなかった。
それ以上に、恐怖が俺を支配している。
冷や汗が、今にもとめどなく頬を伝って垂れてきそうだ。
(……言ってしまった事は仕方ない。腹をくくろう)
俺はそう自分に言い聞かせ、波止場に駆け出した。
- 49 : ◆6Ur6tf9/s6 :2006/01/29(日)
00:32:19.91 ID:1+3uhbrI0
- 波止場は、夜という神秘的な空間に包まれ、異様な光景を溢れさせていた。
何故かは分からないが、街灯は機能しているようだ。
あたりは、街灯と月明かりで、妙に明るかった。
「ここなの?」
「そうだよ」
神崎さんは、つまらなさそうな顔をしていた。
それはそうだ。期待してきた所が、こんな何も無い場所だったのだから。
逆に、俺はそれで安堵感を取り戻した。
やっぱり、何も無いに決まっている。幽霊なんか、存在しないって。
「ちぇー、つまんないの。帰ろうか」
「そうだね」
やっと彼女は、帰ることを決めたみたいだ。
俺は、ホッと息をついた。
だが、その安堵感は、すぐに打ち破られてしまった。
- 51 : ◆6Ur6tf9/s6 :2006/01/29(日)
00:35:55.95 ID:1+3uhbrI0
- 「おやおや、若い男と女がこんな夜中に何してるんだ……?」
……背後から。
図太い、男の声が聞こえた。
反射的に俺は振り向き、その姿を見て…………驚愕する。
体格の良いその男は、身長は俺と同じくらい。
筋骨隆々で、図太い声に似合った武将髭が目立つ。
インナーベストを着用し、ニット坊をかぶっている。
だが、それだけでは、俺は驚愕などしない。
俺が驚いたのは……、その男の得物だ。
それは、月光に煌き、鈍い鉛色の輝きを放つ…………ナイフだった………。
- 52 : ◆6Ur6tf9/s6 :2006/01/29(日)
00:39:36.80 ID:1+3uhbrI0
- 「な、な、な……!」
俺も、神崎さんも動揺を隠しきれない。
心臓の鼓動が、いやに高まっていく……。
「俺の家で何してんだ? ここで誰にも見つからずに、愛し合おうとでもしてたのか?」
男は、ナイフを持ち替えて言った。
その目には………殺意がある。
「俺はな、前にこの町で人を殺しちまってなあ。脱獄して、ここを住処にしてたんだが……」
男が、ナイフを構える。
俺はその瞬間に、神崎さんの前に仁王立ちをする。
足がすくむ……。必至に恐怖をこらえる……。
「俺たちをどうする気だ…!?」
「見られちまったら…、殺すしかねえだろうが!!」
男が、ナイフを構えて突進してきた…!!
- 53 : ◆6Ur6tf9/s6 :2006/01/29(日)
00:43:20.84 ID:1+3uhbrI0
――――どうする、俺!
俺だけ避けたら、神崎さんにナイフが刺さる!
だけど、避けなきゃ俺が死ぬ!
二人助かるにはどうすればいい!?
…どうしようもない?
そんなことはない!
絶対に何か方法があるはずだ!
いや、ない――――
二人が同時に助かる方法は………、ない。
ならば俺は……………――――――
- 54 : ◆6Ur6tf9/s6 :2006/01/29(日)
00:48:55.26 ID:1+3uhbrI0
- 鈍い音。
その瞬間、俺の視界が……ぐるりと、回る。
目の前が………、薄暗くなる。周りの景色が…かすむ………。
「………!!」
「え………炎堂君?」
男にも………、神崎さんにも動揺がはしっている。
これはこの上ない…………チャンスだ!!
「ぐおおぉぉおおお!!」
俺は、懇親の力で、自身の右腕に刺されたナイフを、男の手を払って引き抜く!
男は動揺し、力を入れていなかった! ナイフは、肉から抜ける音とともに、俺の手におさまる!
「ぐぅうっ!!」
鋭い痛みが俺を襲うが……、構ってなどいられない!
「!!」
男は驚愕し、その場から逃げようとする。
だが、そのような隙は与えない。
俺は、懇親の力で、男の胸を…………刺した。
- 57 : ◆6Ur6tf9/s6 :2006/01/29(日)
00:53:53.72 ID:1+3uhbrI0
- それから後のことは………覚えていない。
ただ覚えているとすれば、泣き喚く神崎さんの声が、いつまでも耳に木霊していたこと。
後は、真っ暗な空間が目の前にあるだけであった。
そこで、俺はふいに、何かに向けて語りだす。
――――俺はどうなったんだ?
死んだよ―――――
――――あの男は?
死んだと思う―――――
――――神崎さんは?
生きている―――――
――――じゃあ……、先程から俺に語りかけているあんたは誰だ…?
……それは自分の目で確かめろ―――――
その言葉と同時に、暗い空間が、眩い光を放ち始めた。
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