( ^ω^)ブーンは偉い魔道士です

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/28(土) 22:52:46.55 ID:/tEYW0fI0
ゴーン………。ゴーン………。

朝を告げる教会の鐘が、町中に鳴り響く。
その鐘の音は優しく、全てを包み込むような気さえする。
だからだろうか? その鐘を迷惑に思うものは、誰一人とていない。

そして、俺は毎朝、その鐘の音で目を覚ましていた。


「ふわ〜あ……。もう朝か…」

ベッドから、ゆっくりと体を起こす。
寝起きの直後に体を動かすと、どこかぎこちない。
が、起きずにいるわけにもいかないので、俺はのっそり立ち上がる。


カーテンを開ける。
窓から日光が差し込み、部屋を照らし出す。
そして、俺の目も同時に覚まさせてくれる。


鐘は、まだ余韻を響かせている。

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/28(土) 22:58:30.16 ID:/tEYW0fI0
「いい朝だぜ」

俺は、窓の外を見ながら、一人で笑う。

現在の季節は、夏だ。
と言っても、初夏なのでまだ暑くはない。
むしろ、梅雨が明けてたので、じめじめした感じがなくなって気持ちいいくらいだ。

俺は、窓をそっと開ける。
それと同時に、開いた窓からは、風が吹き込む。

風、といっても、冷たくはない。
あの鐘の音と同じように、優しくて暖かい。

俺は窓辺で、いつになくぼんやりとしていた。


だが、ふと時計に目をやって、俺の気持ちは一変する。

「!? もうこんな時間か! や、やべぇ、遅刻しちまうじゃんかよ!」

俺は、急いで身支度を始めた。

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/28(土) 23:04:27.36 ID:/tEYW0fI0
「くっそ……! 何だか今日はボケっとしてるなぁ…」

俺は、急いで家を飛び出し、学校へと向かった。
もっとも、どんなに急いでも遅刻必至な時間なのではあるが…。
それでも、急がずにはいられない。不思議なものだ。

「ちぃ……。そ、そうだ! 近道すりゃ間に合うかなあ?」

俺は、学校へ行くのに近道があることを思い出す。
そこは、普通の通学路から大きくコースを外れ、港の倉庫が点々と並ぶ路地を行くコースだ。

その場所は、朝も晩も人気がなく、少し不気味なオーラがある。
更に、その近辺では行方不明の事件が複数発生しており、誰一人近づかない有様だ。

だが、そんなことは、焦っている状態の俺には気にしていられなかった。

「しゃーねぇ。遅れるよりはマシだ……」

俺は、普段のコースを外れ、港へと向かった。

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/28(土) 23:11:42.92 ID:/tEYW0fI0
やがて、港が見えてくる。
この町は貿易が盛んだったと言うが、この港はもう使われていない。
逆に、こことは反対側の港が繁栄し、この港は町の人たちに捨てられたように、そのままの状態で残っているのだ。

倉庫などにも誰も手をつけず、外観はとても汚く見える。
それに、町内会の掃除役員なども掃除をしない有様で、床には近くの工場から噴出される黒いススが散っているのだ。

「いつみても汚ねえな。これだけ汚けりゃ、何か出てもおかしくないかも知れねえな……」

今更だが、俺の心に恐怖感が生まれる。
いくら焦っていたとはいえ、ここは町内で誰もが恐れ、近づかない場所。
思い返せば、それこそ何がいてもおかしくない。



例えば、犯罪者とかの隠れ家になっている可能性もあるではないか。




そして、そう思ったとき、俺は何かに操られたように後ろを向いていた。

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/28(土) 23:15:45.82 ID:/tEYW0fI0
「…………」

寒気を感じた。
ただの寒気ではない。悪寒だ。

何かに、物凄い形相でにらまれたような気がする。
だが、そんなのは………、気のせいでしかないはずだ。

俺の眼中に今ある光景は、港と、その手前にあるいくつかの倉庫。
目を持った生き物は、何一ついない。
睨まれるはずはない。

だが、俺はガマみたいに脂汗をかいていた。
夏だから………とか、そういう理由ではないのだろう。自分でも何故か分からない。

「くそっ、気味悪いな!」

俺は、自分が学校に遅刻しそうになっていたことに気付き、急いでその場を後にした。



「……………」

だが、その「何か」は、走り去る彼をずっと見つめていた。

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/28(土) 23:22:44.01 ID:/tEYW0fI0
俺の名前は、炎堂ガルシア。
日本人と、米国人のハーフだ。

本名は、炎堂・ラルドゥ・ガルシア・博美。
和名の「炎堂博美」という名前を使っているのだが、親も友人も「ガルシア」と呼ぶ様だ。

帰国生という訳ではないが、米国で生まれ、その地で数年を過ごした後に、俺は日本に来た。

数年と言っても、本当にわずかな年だ。
日本に来たのは、まだまだ子供な頃なので、どちらかと言うと俺は米語よりも日本語のほうが得意であった。

ただ、周りの奴らと違うのは、髪の色と虹彩の色。
俺はその「炎堂」と言う名から想像できるような、赤毛だ。
そして、それに相反するような蒼い虹彩。

幼い頃は、これをタネにされて馬鹿にされたこともあった。

まあ、現在は町内でも有数の進学校にいるため、そんなことでイジメを受けることはなくなった。
もっとも、名前だけは少し自分でも違和感があるのだが。

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/28(土) 23:31:00.26 ID:/tEYW0fI0
「っふぅう!」

駆け足で教室の扉を開き、椅子に座る。
時計を見れば、チャイムが鳴るまで後数十秒だ。
まさに、間一髪である。

……のだが、すでにこんな時間となれば、クラスメート達は席についているし、教師も教室にいる。
俺は、この上極まりなく白い目で見られ、縮こまってしまった。



――――そして、今日も学校が始まり、終わる。


「ふぅ、今日も一日終わったな」

……現在の時刻は夕方を過ぎた頃。
現在は放課後で、部活に勤しむ生徒や、勉強を頑張る生徒達が学校に残っている。

かくいう俺は帰宅部で、することもなく教室で空を眺めていた。
朝とは打って変わって、空は朱色に染められている。
俺は今朝同様、その美しい景色に心を奪われ、窓辺でぼけっとしていた。

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/28(土) 23:39:45.37 ID:/tEYW0fI0
そんなとき、教室のドアが開く音で俺はハッとする。
後ろを見ると、そこには、クラスメートの女の子が立っていた。

「あら、炎堂君じゃない。何してるの?」
「え? ん、あ、あぁ。別に何も……」

…俺は正直、日本人の女性と話す機会はあまりない。
だから、このような一対一の会話では相手の目を見て話せないし、口調もどこか慌しくなる。

更にまずいのは、俺がこの人の名前も知らない事だろうか……。


「炎堂君、ハーフなんだよね?」

彼女は、俺の顔色を伺って、話題を切り替えた。
だが、正直な所、俺はハーフという立場の話をされるのは好きではない。

「まあな。ハーフだからって、小さい頃は苦労したもんだぜ」
「……何でかな?」
「ハーフっていうとさ。気持ち悪いとか、何で髪の毛黒くないんだとか。そんな餓鬼の喧嘩にしょっちゅう付き合わされたもんだぜ?」
「へぇ……」

気付けば、彼女も俺と一緒に、窓の外を眺めていた。

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/28(土) 23:43:49.61 ID:/tEYW0fI0
「私は、炎堂君カッコイイと思うよ?」
「え、えっ!」

俺は思わず赤面する。
正直、俺の顔はカッコよくは無い。こんな事を言われるのは、初めてだ。

「だって、勉強できるし、運動も出来るし………。カッコイイじゃない。自信もっていいと思うな」
「ははは……。そういうことか」

俺は、肩で息をする。
そんな様子を見て、その女の子はくすくすと笑う。

「顔も結構かっこいいゾ!」

そして、俺の鼻に人差し指を突きつけて、そう言った。

その瞬間、俺は顔面から耳まで真っ赤になった。
気持ち悪いな、俺………。

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/28(土) 23:50:52.52 ID:/tEYW0fI0
そんな時、俺は横目で彼女の名札に目をやる。
名札には、「神崎 雫」と名前が彫られていた。

「……神崎さんは、部活とかやってないの?」
「! あれ、炎堂君、私の名前知ってたんだ!?」

……そんなに対人付き合い悪そうに見えているのだろうか?
なんだかちょっと、疎外感が生まれるぞ。

「私は、今部活終わったところだよ。今から帰るんだよ」
「へえ。何部なんだい?」
「バスケットボール部だよ! へへ、運動得意なんだ」

そういって、神崎さんはガッツポーズをする。

確かに、彼女は背が高い。
俺の身長は、米国の血の所為か、他の奴らに比べて結構高いのだが。
彼女の身長は、俺の肩ほどまである。女性にしては、随分とあるな。

「あ、そうだ!」
「ん?」
「ねえ、炎堂君、もしよかったら一緒に帰らない?」


今度は、俺は吹き出してしまった。

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/01/28(土) 23:57:42.33 ID:/tEYW0fI0
「え、え? 神崎さん、友達と帰らないの?」
「へへ……。私と同じ家の方向の人いないんだ…。みんな、この町の外から通ってるの」

まあ、ここは有名な進学校だ。
そうなると、町の外から入学してくる人がいてもおかしくない。

「炎堂君って、この町に住んでるんだよね?」
「え、うん」
「私の家、あの教会のすぐ近くなんだ〜。炎堂君の家はどの辺りかな?」
「あ、俺の家も近いよ。教会から歩いて少しだよ」


その後、色々話し合って、俺は神崎さんを家まで送る事になった。
正直かったるいと言う気持ちはあったが、それ以上に嬉しさがこみ上げていた。


―――だけど正直、この時は予想もしてなかったんだ。

これが、俺が後々たどる事になる「運命」という道の、始まりだったってこと―――

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