- 2
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 18:14:02.67 ID:QaN5xVhN0
- ブーン達が女の子達を罠にはめたことでコッテリと絞られきった後、
空はとっぷりと宵闇に包まれていた。
ほろほろほろ。
第二の地球にいる鳥が、ゆったりと鳴く。
ちょうど秋口のような涼しげな音に、トソンが耳を澄ませていた。
(゚、゚トソン
何をいうでもなく。
何をするでもなく。
(‐、‐トソン
ただ目を閉じ、そして、全身を風にゆだねるように佇んでいた。
- 3
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 18:18:44.94 ID:QaN5xVhN0
- びょう、と強い風が吹いた。
たなびくスカートを押さえ、トソンが目を開く。
(゚、゚トソン「・・・」
空が、赤い。
(゚、゚トソン「・・・」
赤い輝きが夜空を斜めに走っている。
それを、トソンは知っている。
それが何なのか、トソンは記憶している。
宇宙から降りる赤熱した鉄塔。
- 4
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 18:20:04.17 ID:QaN5xVhN0
・・・箱舟の、到来。
- 5
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 18:24:05.23 ID:QaN5xVhN0
- (゚、゚トソン
煌めく宇宙船が水平線へ、鋭角に落ちていく。
(゚、゚トソン
トソンの表情が心なしか緩んだように見えた。
(゚、゚トソン
しかし、身近にあるはずのブーンでさえ、それを見抜くことは難しかったはずだ。
(゚、゚トソン
夜が、更ける。
- 7
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 18:29:34.65 ID:QaN5xVhN0
- 深夜、ブーン達がこっそりと鉄塔を抜け出した。
彼らは時々こうして探検にでかけることがあった。
声を殺し、興奮にはやる胸を抑える少年達の顔は生き生きとしている。
ドアの開閉、歩き方、ひとつひとつをそれぞれに注意し合うのさえ、楽しんでいる。
大人に気付かれないように動く。
たったこれだけで、彼らは楽しめる。
やってはいけないと思うことを、あえてする。
その背徳感が、快感ですらある。
小さな反抗が、小さな胸を興奮に打ち震えさせるのだ。
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 18:36:28.51 ID:QaN5xVhN0
- 外界と繋がるスライドドアは、圧縮空気の音が大きい。
少年達は大きく飛びあがった。
ブーンに至っては小さく悲鳴を上げてしまい、他の二人に睨みつけられた。
大人達は・・・気付いていない。
ジョルジュが親指を立てると、いち早く駆けだした。
彼は荒くも整備されている小道を外れ、あえて草の中に突進する。
月(厳密には違う惑星だが、船員はそう呼ぶ)に輝く芝は輝いている。
ドクオはのんびりと、頭の後ろに手を組み鼻歌を歌っている。
そのメロディは、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハート・クラブバンド』。
宇宙船に唯一載せることが許されたCDの、一曲目にあるものだった。
ほろほろほろ。
鳥が鳴く。
- 10
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 18:42:57.87 ID:QaN5xVhN0
- ブーンがポケットに隠し持っていた料理を手に、二人を呼ぶ。
ジョルジュ達が喜んでそれを受け取った。
表面がカリカリのホットサンドは、すっかり冷めてしまっていたけれど
イタズラの件で夕飯抜きにされていた彼らにとってはごちそうだった。
泉に小さな波が立つ。
風のある夜だった。
草いきれの香りを胸いっぱいに吸い込みながら、ドクオが満足げに鼻腔を広げた。
ジョルジュが指についたマスタードを舐めながら横を行く。
ブーンは、暗い脚元におっかなびっくり、二人の後をついて行った。
ちょっとつまづいては、小走りに追う。
ジョルジュが振り返って、ブーンを笑った。
笑われた本人は、恥ずかしそうに頭をかいた。
- 14
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 18:50:06.24 ID:QaN5xVhN0
- 小高い丘に広がる草原に三人は寝転がった。
ジョルジュが道すがら拾った枝を空に向け、何かを描く。
_
( ゚∀゚)「なあ、宇宙に俺達みたいな人間はどれくらいいると思う?」
('A`)「えっと、35隻の宇宙船が地球から出たんだっけ?」
( ^ω^)「確か37隻だお」
彼らは教養として、地球の滅亡の歴史を学ぶ。
理由は様々だ。
ひとつは、どうして自分がここにいるのか、確かめるため。
ひとつは、同じ歴史を繰り返さないため。
_
( ゚∀゚)「俺達みたいに第二の地球を見つけられてたらいいな・・・」
('A`)「どうしたんだよ急に」
- 16
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 18:55:50.84 ID:QaN5xVhN0
- _
( ゚∀゚)「今日、ドクオが落とし穴に入るってイタズラしただろ」
仰向けに寝そべったまま、二人が「うん」と頷いた。
_
( ゚∀゚)「もしも、もしもだぞ? 本当にドクオみたいに抜けられない穴に落ちて、助けを求めてもダメで・・・」
ブーンが真っ暗な中に取り残されて、身動きが取れない様子を想像した。
ドクオも同じことを考えたのか、ごくりと唾を飲んだ。
_
( ゚∀゚)「死ぬしかないってなったら、どんな気分なのかなって」
沈黙が流れた。
頬を撫でる風。
もしも、宇宙に漂うだけなら、そんな風も感じられない。
宇宙船が壊れてしまえば、もうどうにもならない。
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:01:39.51 ID:QaN5xVhN0
- _
( ゚∀゚)「逆に、俺達みたいに第二の地球を見つけて、幸せに過ごせてたらいいなって、さ」
密室に閉じ込められ、することもなく、気の狂いそうな日々を過ごし
窓の外には闇ばかりで、それでも子孫を残す使命を帯びている。
箱舟の大半はそうして広大な宇宙を漂った。
あてのない旅を続け、果てた者もあったはずだ。
ジョルジュは活発でイタズラ好きだが、感じやすい子供でもあった。
近頃、彼はずっとそのことを考えていたようだった。
('A`)「きっと、みんな必ず助かってるさ」
ドクオは口数が少なく、思慮深いタイプだった。
ジョルジュの言いようのない不安を感じとって、安堵を誘えるくらいには、賢しい子であった。
- 18
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:06:40.69 ID:QaN5xVhN0
- 何を言っていいのかブーンがまごついていると、ジョルジュが跳ね起きた。
_
( ゚∀゚)「そうだよな! みんな元気でやってるよな!」
面識すらない船員を案じ、ありもしない希望を語る。
それこそが幼さゆえの優しさだ。
先入観を持たず、それだけ見えない壁を作らぬ純真さ。
そんな一種の美徳ともいえる性格が、ジョルジュにはあった。
_
( ゚∀゚)「どんな惑星にたどり着けたのかな・・・」
( ^ω^)「きっとおいしいブタさんがたくさんいる星だお!」
('A`)「ずっと涼しいところだったらいいなあ」
三人はそれから、しばらく理想の地球を語り合った。
- 20
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:15:09.98 ID:QaN5xVhN0
- ジュースで出来た湖のある星。
木々が全て甘いお菓子。
重力が軽くて、ジャンプすればどこまでも行ける。
毎日地形が変わって、探検するところが尽きない場所。
想像は際限なく膨らむ。
そういった、夢を求める姿こそが人間の性質であり
そして、地球を滅ぼしてしまった原因であることを、彼らは知らない。
- 21
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:18:03.39 ID:QaN5xVhN0
- どうすれば世界は住みやすくなるのか。
どうすれば人間は存続できたのか。
その解は共存し得ない。
快適さが、母体を破壊する。
人間の存続が、存続を妨げる。
いかに矛盾してしまった生物であるかを、彼らは知らないのだ。
_
(*゚∀゚)
(*'A`)
(*^ω^)
だが、笑顔で語る彼らを誰が責められるだろう・・・。
- 22
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:23:59.16 ID:QaN5xVhN0
- ***
惑星に、「箱舟」が不時着した。
三日月型に陸地を持つ島の湾の、中央に鉄塔が突き刺さった。
即座に箱舟は定着用プログラムを始動。
半ばまで海中に入った船体を、海面まで浮上させた。
海上に浮かんだ船体の出入り口が、ひとつだけ開く。
中から現れる人間達は完全に言葉を失っていた。
酸素がある。
緑がある。
そして、何よりも海がある。
歓喜の声が上がるまでに時間はかからなかった。
ξ )ξ「―――――ッ!!」
ようやく。
ようやく悲願がかなったのだ・・・!!
***
- 24
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:27:35.88 ID:QaN5xVhN0
- 朝日昇る。
海に囲まれた孤島の中央には、苔むした鉄塔が立っている。
泉のそばに突き立ったその鉄塔は、おおよそ自然の作りだしたものとは思えない。
地球で言うところの鳥のような生物がさえずる。
目が異常に大きな蝙蝠といったらいいだろうか。
彼らの顔に似合わぬ可愛らしい鳴き声が、林をにわかに騒がしくした。
いつもの朝だった。
- 25
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:30:45.24 ID:QaN5xVhN0
- 鉄塔の壁面が空気を吐き出しながら、ゆっくりと滑る。
ぽっかり空いた口から出てくるのは、いつも少年達だった。
('A`)「今日こそボーズは勘弁だ」
_
( ゚∀゚)「口だけ口だけwww」
肩に担いだ釣り竿は、やっぱりいつもの荒削りな木。
簡素な造りだが、彼らは気にしないようだった。
('A`)「うるせー。・・・おい、お前まだ寝ぼけてんのか」
ドクオが、ブーンに話しかける。
( ´ω`)「朝早すぎだおー・・・」
- 26
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:32:23.21 ID:QaN5xVhN0
- よたよたと後を追うブーンは、なんと、というべきかやはりというべきか寝巻のままだ。
(゚、゚トソン「内藤様、内藤様。お着替えが済んでおりません」
トソンが静かに呼びかけると、ブーンは赤面した。
(*´ω`)「おーん」
('A`)「さき行ってるからなー」
_
( ゚∀゚)「浜まで競争!」
活発そうな少年が駆けると、顔色の悪い方もならった。
(゚、゚トソン「お召し物はこちらに」
(*´ω`)「うう。いつまでも僕だけ恥ずかしいお、トソン」
- 27
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:33:05.62 ID:QaN5xVhN0
- (゚、゚トソン「何をおっしゃいます。わたくしめの仕事はあなた様のお世話ですゆえ」
さも当然といった表情で、トソンは応える。
ブーンが渋々と着替えると、空を目の大きな蝙蝠がゆっくりと旋回していった。
風は良好。
遠くに聞こえるさざ波が、耳に心地よい。
( ^ω^)「ありがとだお。行くお」
両手を広げて走り出そうとするブーンに、トソンが声をかけた。
(゚、゚トソン「お気をつけて。内藤様」
(^ω^#)「もーっ。ブーンって呼んでくれお。いい加減ロボットならプログラム書き換えてお」
首だけを後ろに向けて、ブーンは行く・・・。
- 29
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:38:38.79 ID:QaN5xVhN0
- そうして釣りをして、昼食をとり、イタズラをする。
夕食を取ってる最中に雷が落ち、しょげているところに、トソンが現れた。
(゚、゚トソン「育ち盛りからご飯をとりあげるのは感心しません。どうぞ、栄養剤です。皆には内緒ですよ」
( ^ω^)「おっ? ありがとだお。・・・皆の分は?」
渡された錠剤は二粒。
色合いの異なるカプセルだ。
少し頭の鈍いブーンでも、栄養剤が三人分に足りないことは理解できた。
(゚、゚トソン「他の二人にはちゃんと渡しておきました。ご心配には及びません」
ブーンはそれを聞いてにっこりと笑んだ。
彼は抜け駆けしてまで、お腹を膨らませるほど姑息ではない。
- 30
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:39:10.14 ID:QaN5xVhN0
ぐんにゃああぁり
( ω )
ぐにゃぁあありぃ
- 32
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:40:39.54 ID:QaN5xVhN0
どうして そんな
だって
おかしい
・・・やめたほうが
- 33
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:41:38.34 ID:QaN5xVhN0
- 朝日昇る。
海に囲まれた孤島の中央には、苔むした鉄塔が立っている。
泉のそばに突き立ったその鉄塔は、おおよそ自然の作りだしたものとは思えない。
地球で言うところの鳥のような生物がさえずる。
目が異常に大きな蝙蝠といったらいいだろうか。
彼らの顔に似合わぬ可愛らしい鳴き声が、林をにわかに騒がしくした。
いつもの朝だった。
ブーンはいつも通り寝ぼけ眼のままベッドを抜け出した。
今日は釣りに出かける約束をしていたのだ。
今日は。
今日は。
- 34
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:42:16.78 ID:QaN5xVhN0
- 鉄塔の壁面が空気を吐き出しながら、ゆっくりと滑る。
ぽっかり空いた口から出てくるのは、いつも少年達だった。
('A`)「今日こそボーズは勘弁だ」
_
( ゚∀゚)「口だけ口だけwww」
肩に担いだ釣り竿は、やっぱりいつもの荒削りな木。
簡素な造りだが、彼らは気にしないようだった。
('A`)「うるせー。・・・おい、お前まだ寝ぼけてんのか」
ドクオが、ブーンに話しかける。
( ´ω`)「朝早すぎだおー・・・」
今日は少し寝すぎただけだ。
今日は。
そう、今日だけ。
- 35
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:44:21.70 ID:QaN5xVhN0
- よたよたと後を追うブーンは、なんと、というべきかやはりというべきか寝巻のままだ。
(゚、゚トソン「内藤様、内藤様。お着替えが済んでおりません」
トソンが静かに呼びかけると、ブーンは赤面した。
(*´ω`)「おーん」
('A`)「さき行ってるからなー」
_
( ゚∀゚)「浜まで競争!」
活発そうな少年が駆けると、顔色の悪い方もならった。
(゚、゚トソン「お召し物はこちらに」
(*´ω`)「うう。いつまでも僕だけ恥ずかしいお、トソン」
今日くらいはカッコつけさせてくれてもいいじゃないか、トソン。
そんな風にブーンはつぶやく。
今日くらい。
- 36
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:45:25.34 ID:QaN5xVhN0
- (゚、゚トソン「何をおっしゃいます。わたくしめの仕事はあなた様のお世話ですゆえ」
さも当然といった表情で、いつものようにトソンは応える。
ブーンが渋々と着替えると、空を目の大きな蝙蝠がゆっくりと旋回していった。
風は良好。
遠くに聞こえるさざ波が、耳に心地よい。
( ^ω^)「ありがとだお。行くお」
両手を広げて走り出そうとするブーンに、トソンが声をかけた。
(゚、゚トソン「お気をつけて。内藤様」
(^ω^#)「もーっ。ブーンって呼んでくれお。いい加減ロボットならプログラム書き換えてお」
首だけを後ろに向けて、ブーンは行く・・・。
「ちょっと、本気なの? それであんたはいいの?」
ブーンは行く・・・。
- 37
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 19:46:48.01 ID:QaN5xVhN0
- そうして釣りをして、昼食をとり、イタズラをする。
夕食を取ってる最中に雷が落ち、しょげているところに、トソンが現れた。
(゚、゚トソン「育ち盛りからご飯をとりあげるのは感心しません。どうぞ、栄養剤です。皆には内緒ですよ」
( ^ω^)「おっ? ありがとだお。・・・皆の分は?」
渡された錠剤は二粒。
色合いの異なるカプセルだ。
少し頭の鈍いブーンでも、栄養剤が三人分に足りないことは理解できた。
(゚、゚トソン「他の二人にはちゃんと渡しておきました。ご心配には及びません」
ブーンはそれを聞いてにっこりと笑んだ。
彼は抜け駆けしてまで、お腹を膨らませるほど姑息ではない。
「それは・・・!! 何やってるのよ! あんた!」
カプセルをしっかりと嚥下すると、ブーンはベッドに
( ゚ω。)
- 51
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 21:59:35.33 ID:QaN5xVhN0
- ***
人間が求めてきたものを列記してみてほしい。
曖昧なものから、具体的なものまで。
欲求を明文化してみてほしい。
単純なものから、実現に難いものまで。
すべてをまとめよう。
すべてを一言にしよう。
それは、幸福だ。
いずれの行動も、本人にとっての幸福を実現するべく行われる。
広範囲における福祉よりも、たったひとかけらの幸せでいい。
- 52
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:02:31.25 ID:QaN5xVhN0
- 飴玉ひとつが彼を癒す。
角砂糖だけで彼女は幸せだ。
悠久を求め、その中で見出す。
不変の幸福を。
***
ブーンが目覚めると、そこには見知らぬ天上があった。
かいだことのない香り、柔らかなベッド。
部屋の調度品は、彼がいまだ想像すらしたことないものばかりだった。
- 53
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:07:17.24 ID:QaN5xVhN0
- アナウンス。
『おはようございます。本日は――』
日付と時刻、本日の仕事が告げられると声は止んだ。
代わりにふわふわとした音楽が流れる。
ブーンが知る由はなかったが、その音楽はヴィヴァルディの『四季』の一節であった。
(;^ω^)「ここはどこだお?」
おどおどと手足を弄びながら、ブーンは呟く。
白っぽい部屋で、一人。
不安にかられて、彼は身を縮めた。
- 54
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:13:06.07 ID:QaN5xVhN0
- 腕にはガーゼと一緒に管がつなげられている。
ブーンが無理に外そうとすると、管の先についていた針が深く刺さった。
( ゚ω゚)「〜〜〜〜」
悶絶すること数分。
部屋に来客があった。
現れたのは、背の高い男性だ。
手には食事の乗ったトレイを持っている。
( ´∀`)「おやおや。起きたモナ?」
男性がにこやかに話しかけるも、ブーンの表情は硬い。
(;^ω^)「僕はどこ? ここは誰?」
( ´∀`)「まあまあ、落ち着くモナ。時間はたっぷりある」
- 56
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:22:04.18 ID:QaN5xVhN0
- 男性はモナーと名乗った。
曰く、箱舟第七世代の船員。
( ´∀`)「私達はつい先日ここらに到着したモナ・・・」
船内ですれ違う人々は皆生き生きとしている。
念願かなって重力を感じているのだ。さもありなん。
( ´∀`)「さあ、皆に紹介しよう。メインデッキに来てくれモナ」
重力に沿って内装を変化させた宇宙船は、縦型住居のようだ。
メインデッキへは梯子を利用する必要があった。
( ´∀`)「どうぞ、内藤君」
( ^ω^)「お?」
どうして自分の名前を知っているのか、ブーンは聞きそびれてしまう。
何故なら、船員達が歓声を上げて彼を迎えたからだ。
- 57
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:26:26.96 ID:QaN5xVhN0
- 「よく生きていてくれた」
「おめでとう、地球の子孫よ、おめでとう」
「よかった、本当によかった」
(;^ω^)「お? お?」
「共に歩もう」
「ああ、これから一緒に地球を再興するんだ」
( ´∀`)「皆、君の味方だよ」
- 59
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:31:12.46 ID:QaN5xVhN0
- ブーンが船外へ担ぎ出されるまで時間はかからなかった。
興奮しきりの船員達は、彼を連れて海へ丘へと走っていく。
成人がほとんどだったが、幼い顔つきで水を掛け合い、草の上を転がる。
娯楽の少ない宇宙船に比べれば仕方のないことかもしれない。
世代を超えて押し込められていたという、圧倒的な閉塞感が取り払われたのだ。
本能が抑えられないのだろう。
( ^ω^)「・・・」
魚とりに興じる大人達に交じって、ブーンは思う。
( ^ω^)「・・・」
どうして自分はここにいるのだろう、と。
- 60
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:37:07.90 ID:QaN5xVhN0
- この島は三日月型をしている。
自分がいたのは楕円に近い島だ。
しかし、水平線どこを見てもそんな影はない。
自分の家である鉄塔がどこにも見当たらないのだ。
( ´∀`)「どうしたのかね?」
( ^ω^)「その、僕は・・・」
ξ゚听)ξ「元気そうじゃない」
女性がブーンの肩を叩き、質問は再度遮られた。
( ´∀`)「紹介しよう、内藤君。こちらはツンだ」
( ^ω^)「お。よろしくお願いします」
- 61
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:42:08.87 ID:QaN5xVhN0
- ツンは絶え間なく喋り続けた。
これまでの旅のこと、ついてから数日の出来事。
ブーンが口を挟もうとすると、その勢いは更に増した。
不自然に思いながらも、ブーンは耳を傾けるしかなかった。
元来、彼は押しの強いタイプではなかったのだ。
日が傾きかけてから、ツンはブーンを浜辺に連れ出した。
その手に、釣り竿を持って。
木製で荒い造りの釣り竿を、二本。
- 62
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:48:30.46 ID:QaN5xVhN0
- なんとなく見覚えのある竿を受け取り、ブーンは糸を垂らした。
餌は紫色をしたミミズ。
岩をひっくり返すとたくさんとれる。
ξ゚听)ξ「・・・辛かったでしょう」
波間に揺れる木を眺めながら、ツンは口を開いた。
ブーンには彼女の言っている意味が分からなかった。
ξ゚听)ξ「ここには仲間がいる。安心していいのよ」
釣り糸は動かない。
ξ゚听)ξ「あんなことになってるなんて・・・」
釣り糸は動かない。
- 63
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:50:42.71 ID:QaN5xVhN0
- 釣り糸は動かない。
きっと餌の付け方が悪かったんだ。
「もうあんな奴のいるところになんて、いなくていい」
釣り糸は動かない。
まるでドクオが釣りをしているみたいだ。
「あなたは自由なのよ」
釣り糸は動かない。
ジョルジュはいまどこにいるのだろう。
「・・・」
- 65
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:53:19.20 ID:QaN5xVhN0
- ξ;;)ξ「辛かったでしょう・・・」
どうしてこの人は泣くのだろう。
( ^ω^)
僕はどうしてここにいるのだろう。
ξ;;)ξ「たった一人で生き抜いていたなんて・・・考えられない・・・」
この人は何を言っているんだ。
( ^ω^)
そんな、そんなわけ。
- 66
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:56:06.04 ID:QaN5xVhN0
- ***
彼の幸福が幻想であったとして
彼の幸福が幻想にあったとして
誰が彼を責められるのだろう。
空から降る数えきれない星の下、少年が望んだもの。
そして、その人物が望んだもの。
既に私は述べている。
単純なものこそが強力に人を肯定する。
純粋なものこそが常にそこにあるのだ、と。
***
- 67
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/26(月) 22:57:38.40 ID:QaN5xVhN0
ブーンはその晩、ホバーボートを盗み出す。
目指すは自身のいた島。
仲間が待つ島。
いや。
もしかしたら、仲間が「待っていた」島。
戻る