- 1
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 21:32:04.82 ID:iYd/OJqb0
- 2058年7月。
人類は火星のテラフォーミングに失敗。
地球の許容量を超えた人口が、ついに行き場をなくした。
藁にすがる思いで各国が宇宙船を作成する。
いわば、「ノアの箱舟」。
いつの日か、人類を別の惑星で繁栄させることを夢見て
選ばれたいくらかの人間と動物、植物が宇宙へと放たれる。
とある国の箱舟は彗星に激突し、散った。
また、別の国の箱舟は船内で争いの末、無人となる。
地球が崩壊することを確認する前に、多くの「アダムとイブ」達は絶命した。
そう、「多くの」。
- 2
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 21:33:21.23 ID:iYd/OJqb0
つまり、一部の箱舟は
第二の地球を発見したのである。
( ^ω^)ブーンは過去の遺物のようです
- 6
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 21:40:32.90 ID:iYd/OJqb0
- ***
朝日昇る。
海に囲まれた孤島の中央には、苔むした鉄塔が立っている。
泉のそばに突き立ったその鉄塔は、おおよそ自然の作りだしたものとは思えない。
地球で言うところの鳥のような生物がさえずる。
目が異常に大きな蝙蝠といったらいいだろうか。
彼らの顔に似合わぬ可愛らしい鳴き声が、林をにわかに騒がしくした。
いつもの朝だった。
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 21:45:20.60 ID:iYd/OJqb0
- 鉄塔の壁面が空気を吐き出しながら、ゆっくりと滑る。
ぽっかり空いた口から出てくるのは、少年達だった。
('A`)「今日こそボーズは勘弁だ」
_
( ゚∀゚)「口だけ口だけwww」
肩に担いだ釣り竿は、荒削りな木でできていた。
釣り糸も細いツタで、少年達のお手製だと分かる。
('A`)「うるせー。・・・おい、お前まだ寝ぼけてんのか」
少し顔色の悪い少年が、太っちょに話しかける。
( ´ω`)「朝早すぎだおー・・・」
- 11
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 21:49:22.16 ID:iYd/OJqb0
- よたよたと後を追う太っちょは、なんと寝巻のままだ。
(゚、゚トソン「内藤様、内藤様。お着替えが済んでおりません」
成人女性が静かに呼びかけると、「内藤様」は赤面した。
(*´ω`)「おーん」
('A`)「さき行ってるからなー」
_
( ゚∀゚)「浜まで競争!」
活発そうな少年が駆けると、顔色の悪い方もならった。
(゚、゚トソン「お召し物はこちらに」
(*´ω`)「うう。いつまでも僕だけ恥ずかしいお、トソン」
- 12
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 21:54:36.40 ID:iYd/OJqb0
- (゚、゚トソン「何をおっしゃいます。わたくしめの仕事はあなた様のお世話ですゆえ」
さも当然といった表情で、トソンは応える。
太っちょが渋々と着替えると、空を目の大きな蝙蝠がゆっくりと旋回していった。
風は良好。
遠くに聞こえるさざ波が、耳に心地よい。
( ^ω^)「ありがとだお。行くお」
両手を広げて走り出そうとする太っちょに、トソンが声をかけた。
(゚、゚トソン「お気をつけて。内藤様」
(^ω^#)「もーっ。ブーンって呼んでくれお。いい加減プログラム書き換えてお」
首だけを後ろに向けて、ブーンは行く・・・。
- 14
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:00:16.33 ID:iYd/OJqb0
- 2153年。
ひとつの宇宙船が水のある惑星に不時着する。
大気の状態は、やや地球よりも酸素が薄かった。
孤島に降り立った男女は、四世代目。
出発時の意思を引き継いだ、「アダムとイブ」の曾孫達だった。
彼らはすぐさま宇宙船に搭載されていた農耕システムなどを起動させる。
それらは今も、糧を生み出し続けている。
そして、20年が経った。
- 15
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:01:35.40 ID:iYd/OJqb0
現在、宇宙船は静かに船員達の生命活動を支えながら、島の中央にそびえたっている。
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:05:29.45 ID:iYd/OJqb0
- ('A`)「・・・」
_
( ゚∀゚)「・・・」
( ^ω^)「・・・」
海辺で糸を垂らす三人。
狙うのは岩場に住み着く、ウツボにも似た魚だ。
余談だが、凶悪な顔に似合わぬ繊細な味で、刺身でもイケる。
特に唐揚げは少年達の好物でもあった。
顔色の悪い少年、ドクオの竿がぴくり、と動いた。
(;'A`)「ホァッ」
_
(;゚∀゚)「ま、まさか久しぶりにドクオが!?」
(;^ω^)「ぐ。か、かかれー、かかれー。魚さんかかれー」
- 19
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:10:17.22 ID:iYd/OJqb0
- (;'A`)「最初に釣ったら二人とも分かってるな?」
ごくり、と唾を飲み込む音。
三人は、最初に釣ったやつに昼食のおかずを提供する、という約束をしている。
おかわりをすればよい話だが、そう簡単に話が済まないのが男の子だ。
仲間内での「初めて」は特別な意味を持つ。
それがただの魚釣りであってもだ。
_
(;゚∀゚)「くそっ」
またひとつ、ぴくん。
(;'A`)「ふはははは、来たな、俺時代来たな!」
(;゚ω゚)「ふおおおおお」
- 21
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:12:58.80 ID:iYd/OJqb0
- (;'A`)
_
(;゚∀゚)
(;゚ω゚)
がつん。
('A`)「あ、地面釣ってるだけだった」
活発そうな少年、ジョルジュがドクオの頭を叩いた。
_
(;゚∀゚)「ばっ! ハラハラさせんじゃねー!!」
(;゚ω゚)「ふおぉぉ・・・」
- 24
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:18:22.80 ID:iYd/OJqb0
- 釣果は、ブーンが小さな魚を二匹ひっかけただけ。
ジョルジュは悔しそうに舌打ちすると、「また明日も勝負だからな」と言った。
(*^ω^)「望むところだお!」
小さくても、釣れていないのとでは大違いだ、とブーンは思う。
他の二人も同じ心持のようだった。
('A`)「ちぇ、たまには俺もいい気分になりたいぜ」
寄り道をして、岩場の近くにある木の実をかじる。
少し酸っぱい黄色の実は、彼らのおやつだった。
_
( ゚∀゚)「明日は仕掛けを変えていくぞ」
ポケットに一握り、木の実を詰めたジョルジュが決意を新たに拳を固めた。
若いころは、誰もが何にでも真剣になれるものだ。
- 25
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:22:23.50 ID:iYd/OJqb0
- 塔の近くを歩いていると、クワを肩に担いだ男性が現れた。
(,,゚Д゚)「お前らまた遊んできたのか」
_
( ゚∀゚)「遊びじゃないぞ親父! 勝負だ、勝負!」
ジョルジュの父親はギコという、農耕担当の船員だった。
ドクオもジョルジュに同意する。
('A`)「うん、勝負だよ。勝負」
(*^ω^)「今回はブーンの勝ちだお!」
そうかそうか、とギコがうなずくと、チャイムが鳴った。
正午の時報だった。
すると、一斉に少年達の腹の虫が騒ぎだす。
- 27
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:26:41.63 ID:iYd/OJqb0
- (,,゚Д゚)「戻って飯にすっか」
全員が、にっと笑って首を縦に振った。
塔の入り口ではトソンが待っていた。
(゚、゚トソン「お帰りなさいませ」
( ^ω^)「ただいまーだおっ」
広大な船内を歩く間、ブーンはトソンに午前中の出来事を報告する。
身振り手振りの多い話を聞きながら、トソンはわずかに口の端を上げた。
不器用な笑みに、ブーンはなんら気にすることはない。
いつものように好きなだけ、好きなことを喋るだけだ。
やがて、食堂に到着する。
- 30
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:33:42.14 ID:iYd/OJqb0
- 食堂ではサーバーが自動的に料理を提供してくれる。
少年達が注文するのは日替わりランチ。
ブーンだけは、さらに自ら釣りあげた魚の調理希望を出して着席した。
('A`)「午後は何する?」
( ^ω^)「僕はー、僕は、そうだおねー。うーん」
_
( ゚∀゚)「海で泳ごうぜ!」
やれ海岸の洞窟探検だ、秘密基地づくりだ、と話題は尽きない。
注文から五分後、料理が目の前に出されるとようやく彼らは口を閉ざした。
(゚、゚トソン「よく噛んで食べてくださいね」
(;^ω^)「もうっ、分かってるお」
横についたトソンをうるさがりながら、ブーンはハンバーグに箸をさした。
(゚、゚トソン「はしたないです。ほら、こう持って・・・」
にやにやとするドクオとジョルジュに、ブーンは苦い顔で応える。
- 31
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:37:39.21 ID:iYd/OJqb0
- 仕返しとばかりに、約束の「おかず奪取権」を行使すると、ようやく二人はいやらしい表情を消した。
('A`)「午後は女の子達と遊ぼうぜ」
(;^ω^)「えっ」
男女を多少なり意識する年頃だ。
ブーンは意外な提案にたじろいだ。
しかし、ドクオの真意を汲み取ったジョルジュは歯を見せて笑った。
_
( ゚∀゚)「それ、いいな。誰をターゲットにする?」
(^ω^;)「お? お?」
('A`)「そうこなくっちゃあな」
体力では劣るが、頭の回るドクオが作戦会議を開始した・・・。
- 33
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:45:01.96 ID:iYd/OJqb0
- ***
ミセ*゚ー゚)リ「うー、お勉強めんどくさいよー」
('、`*川「ダメダメ。ちゃんとやんなくっちゃあ『じんるいはんえー』のためにはたらけないよ」
ミセ*゚ー゚)リ「別にいいし! あたしお嫁さんになるから!」
('、`*川「ダメだよー」
少女が二人、林の中に立てられた小屋で話している。
彼女らの手元には勉強用の電子端末。
片方は10歳ほどの癖っ毛の女の子で、子供っぽい話し方をする。
もう片方は見た目こそ幼いが、しっかり者という印象を受ける。
ミセ*゚ー゚)リ「あー、素敵なお嫁さんになりたいなー」
- 36
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:50:50.43 ID:iYd/OJqb0
- ('、`*川「おかーさんゆってたもん。ちゃんとしてないと『よめのもらいて』がこないって」
ミセ*゚ー゚)リ「なにそれー」
二人のいる小屋に、もう一人の女の子が転がり込んできた。
イ从;゚ -゚ノi、「ちょちょちょ、ちょっと来て!」
あまりにあわてた様子だったので、少女達の表情が強張った。
イ从;゚ -゚ノi、「あの、えっと、あのね!」
ミセ;゚ー゚)リ「おおおお、おちけつ!」
('、`*川「どーしたの?」
深呼吸してから、飛び込んできた少女が叫んだ。
イ从;゚ -゚ノi、「ドクオが崖から落ちて足の骨折っちゃったって!」
- 39
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 22:57:18.02 ID:iYd/OJqb0
- _
(;゚∀゚)「こっちこっち! 早く助けてくれよ!」
ひどく慌てた様子でジョルジュが叫ぶ。
冷や汗をかきながら手を振っていて、まったく余裕が見られなかった。
イ从;゚ -゚ノi、「なんか深いところに落ちちゃって助けられないかもって・・・」
到着した場所で、少女が妙な表情をした。
それもそのはず、崖があるのは・・・
ミセ;゚ー゚)リ「えっ、ここって女湯の裏じゃん・・・」
ぐっ、とジョルジュが言葉を飲んだ。
- 41
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 23:01:47.96 ID:iYd/OJqb0
- 塔の近くには、清らかな泉とは別に温泉があった。
そこは先代達が整えた公衆浴場だったのだ。
周囲はもともとの高低差の激しい地形で、なんというか。
_
(;゚∀゚)「えっ、と。それは、だな」
彼の言葉をブーンが継いだ。
(;´ω`)「そのー、女湯でイタズラをー、そのー」
要は、覗きが多発する場所だったのだ。
ミセ;゚ー゚)リ
イ从;゚ -゚ノi、
('、`*川「さいてい」
- 42
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 23:05:56.54 ID:iYd/OJqb0
- 「助けて・・・痛い・・・」
崖の下、岩に隠れて見えないところでドクオの声が響く。
「脚が動かないんだ・・・誰か・・・」
悲痛な呻きに少女達が「呆れた」という気持ちをますます露わにした。
ミセ*゚ー゚)リ「自業自得ってやつでしょ。あんたたちでなんとかしなさいよ」
('、`*川「しんじゃったらいい」
イ从;゚ -゚ノi、「えっと、かわいそうだけど・・・」
_
(;゚∀゚)「怪我してるんだぞ! 頼むよ! 手伝ってくれ!」
- 45
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 23:11:46.57 ID:iYd/OJqb0
- ブーンとジョルジュの必死の説得もあって、少女達は手助けを承諾した。
_
( ゚∀゚)「そっちで縄を引っ張っててくれ。俺達は下に降りるから」
木の後ろを回した縄の一方に少年達、もう一方に少女達。
少しずつ下に降りて、ドクオを引き上げる作戦だ。
ミセ*゚ー゚)リ「早くしてよねー」
('、`*川「・・・ばかみたい」
イ从;゚ ー゚ノi、「そんなこと言わずにー」
ジョルジュが腰に結び付けたロープを確認すると、何かに気付いたように眉根を寄せた。
_,
( ゚∀゚)「その位置だと皆引きずりこんじまう。もっとこっちに立ってくれ」
- 47
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 23:16:38.46 ID:iYd/OJqb0
- ミセ*゚ー゚)リ「この辺?」
_,
( ゚∀゚)「いやー、もっとこっちだ」
イ从;゚ ー゚ノi、「もう大丈夫じゃない?」
_
( ゚∀゚)「あと少し後ろ」
('、`*川「もう、大丈――――」
ずぼっ
ちょうどその位置には、一時間前ジョルジュ達の掘った落とし穴があったのだ。
_
(*゚∀゚)「かんっぺきwwww」(^ω^*)
- 50
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 23:20:24.37 ID:iYd/OJqb0
- ('A`)「OK!? OK!?」
物陰からドクオが現れた。
その手には筒。
・・・筒は、崖の下につながっている。
_
(*゚∀゚)「だいっせいこうwww」
(*^ω^)「おっおっおっwwww」
(*'A`)「やーい、馬鹿女―wwww」
「ちょっと、ふざけんなー!!」
「しね」
「ひどいよ、心配してたのに・・・」
けたけたと笑いながら、少年達は駆けていく。
- 52
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/25(日) 23:24:01.71 ID:iYd/OJqb0
- ***
漂流した民は定住を選ぶ。
その子らが築きし文明は、地球と変わらない。
よく笑い、よく食べ、よく遊ぶ。
営みは単純であり、活力に富む。
初めは肝心だ。
少年達の矜持を差すだけでなく、単純な頃の文明ですら、その兆候がみられる。
何もかもが複雑になりすぎる。
それが破綻を招くとも知らず、人は進歩を歩むのだ。
日とともに生き、月を眺め愛を語らおう。
それだけで十分なのではないか?
***
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