- 8 :猪(カレー味):2006/12/29(金) 14:25:44.70 ID:+SaNHieu0
(-A-)「んん……ん」
それはとても開放的な夢だった。
翼を手に入れたドクオは、皆の注目の的。
大空を飛び回る彼は、太陽の光を浴びて燦々と輝いていた。
下界から聞こえる賛辞の声、妬みの声、賞賛の声。
(-A-)「昨日の夢とは大違いだぜ……」
やらないか、と連呼する男に開発される悪夢を思い出し、身震いするドクオ。
- 9 :猪(カレー味):2006/12/29(金) 14:25:59.49 ID:+SaNHieu0
しかしいつしか翼は破れ、地面へと急降下していく。
白い白い大地に追突したドクオは、周りに群がる民衆に手を振った。
(-A-)「大丈夫大丈夫……なんとか着陸できたよ……」
保健医「残念、どうやら墜落したようだぞ」
('A`)「ん?」
- 11 :猪(カレー味):2006/12/29(金)
14:30:56.81 ID:+SaNHieu0
目を覚ましたドクオのベッドを、数人の生徒と教師が囲んでいた。
皆の表情には、一様に苦笑いが張り付いている。
('A`)「え? 何?」
保健医「……俺の神聖な保健室でナニをナニするとは……いい度胸だなぁ」
('A`)「ナニ? ナニって……うわっ、冷たっ」
男子生徒「ドクオ……今回ばかりはフォロー出来ないわ……」
('A`)「え、ちょ、何で俺ズボン下がってんの!?
うっわ、何この白いの!!」
- 12 :猪(カレー味):2006/12/29(金)
14:33:31.88 ID:+SaNHieu0
(*゚ー゚)「……」
(;^ω^)「……」
ブーンの体液で白く汚れてしまったベッド。
そこに移動させられ、身代わりにされたドクオ。
(;^ω^)「(ドクオ……許してくれお)」
ブーンは罪悪感と保健室での情事を思い出し、深い溜息をついた。
- 13 :猪(カレー味):2006/12/29(金)
14:39:07.10 ID:+SaNHieu0
一限目が終わり、二限目までの短い休息の時間。
二人は距離を置いて廊下を歩いていた。
前を歩くしぃは、保健室を出てから一度も振り向かない。
沈黙に耐えきれなくなったブーンは、しぃの背中に話しかけた。
(;^ω^)「あの……」
(*゚ー゚)「ツンのコト、好きなんでしょ?」
(;^ω^)「へ?」
(*゚ー゚)「大丈夫。今日のコト、言いふらしたりしないよ。ってか同罪だしね」
ブーンは安心すると共に、保身しか考えてなかった自分に少し嫌気がさした。
- 14 :猪(カレー味):2006/12/29(金)
14:46:52.22 ID:+SaNHieu0
(*゚ー゚)「あたしのお父さん、コレなんだよね」
そう言ってしぃは、指で頬を縦になぞる。
( ^ω^)「……ヤクザさんかお」
(*゚ー゚)「そ。しかも結構過保護」
しぃは歩く速度を緩め、ブーンの隣に並ぶ。
つらつらと自分の事を話し出すしぃの顔には、自分を蔑む笑顔だった。
(*゚ー゚)「あたしの周りにいかついボディーガードとかつけようとすんの。やんなっちゃうよ」
- 15 :猪(カレー味):2006/12/29(金)
14:47:09.47 ID:+SaNHieu0
(*゚ー゚)「ホラ、あたしって可愛いじゃない?」
同意を求められて、ブーンは改めてしぃの顔をマジマジと見た。
……確かにしぃは可愛い。
そこいらのアイドルにも劣らない、いやむしろ……。
ブーンがどう表現しようかと言葉に詰まっていると、しぃは前を向いて話を続けた。
(*゚ー゚)「可愛いってやっぱ罪なのかな〜、結構女の子の妬みがきつくってさ」
- 16 :猪(カレー味):2006/12/29(金)
14:47:32.22 ID:+SaNHieu0
あはは、と舌を出しておどけるしぃ。
ブーンには少しも自慢に聞こえなかった。
事実、しぃはクラスの女子と比べ、ずば抜けて可愛いのだ。
(*゚ー゚)「……あたし、ヤリマンなんかじゃないよ。だって処女だもん」
( ^ω^)「!!」
(*゚ー゚)「女の子って、ホント噂好きだよね。
街中で男の人と歩いてるトコとか見られちゃったらしくてさ」
(;^ω^)「そ、そんな!! 誤解だって言えばいいじゃないかお!!」
(*゚ー゚)「なんて言うの? あたしの周りにいるのはただのボディーガードです、って?」
(;^ω^)「あ……」
(*゚ー゚)「まぁ皆、あたしがヤクザの娘なんて知ったら、ますます近寄らなくなるかもね」
(;^ω^)「そんな……」
- 17 :猪(カレー味):2006/12/29(金)
14:53:08.64 ID:+SaNHieu0
そんなコトないとブーンは言いきれなかった。
理解のある連中もいるだろうが、誰もが彼女を笑って受け入れるとは限らないのだ。
(*゚ー゚)「今までだって……そうだったもん」
そう言ったしぃは、泣き笑いの様な表情になっていた。
自分の想像もつかないような孤独を味わってきたのだろう。
ブーンは、未だ知らぬ彼女の過去が垣間見えた気がした。
- 18 :猪(カレー味):2006/12/29(金)
14:53:23.48 ID:+SaNHieu0
( ^ω^)「なんで……だお……?」
何故話した事もなかった自分に、こんな秘密をバラすのか。
ブーンの言葉は足りなかったが、しぃはブーンの疑問に勘付いて答えた。
(*゚ー゚)「ブーン君にはホントのコト知ってもらいたくってさ」
( ^ω^)「……」
彼女は、きっと理解者を求めていたのだ。
諦めたような口調だったが、真の孤独を求める人間なんてそうそういないはずだ。
ブーンは自分がその理解者になろうと心に決めた。
- 19 :猪(カレー味):2006/12/29(金)
14:53:46.29 ID:+SaNHieu0
( ^ω^)「大丈夫。今日のコト、言いふらしたりしないお」
( ^ω^)「でもヤリマンなんて噂はむかつくお!!
それはなんとかしなくちゃいけないお!!」
(*゚ー゚)「な、なんとかって?」
( ^ω^)「なんとかはなんとかだお!!
とにかくなんとかするんだお!! だって、本当は違うんだお!?
このまま噂に振り回されるのは我慢できないお!!
ブーンが頑張ってなんとかするお!!」
(*゚ー゚)「……!!」
- 20 :猪(カレー味):2006/12/29(金)
14:54:00.85 ID:+SaNHieu0
(*゚ー゚)「優しいなぁ……」
ブーンを見るしぃの目が、急に親しげなモノになる。
(*゚ー゚)「ずっとね、遠くから見てたよ。やっぱり思った通りの人だ」
( ^ω^)「?」
(*゚ー゚)「あたし……さ」
(*゚ー゚)「ずっと前から好きだったんだよね。ブーン君のコト」
(;^ω^)「……!!」
- 22 :猪(貧乏):2006/12/29(金)
15:00:14.19 ID:+SaNHieu0
紅潮し、緊張を携えた顔でブーンを真っ直ぐに見つめる。
恋慕の情を告げる彼女の顔は、下卑た噂とはかけ離れたものだった。
(;^ω^)「しぃ……さん……」
(*゚ー゚)「やだ、さん付けで呼ばないでよ。あそこまでした仲じゃない?」
(;^ω^)「……し、しぃ」
(*゚ー゚)「……えへへ」
- 27 :猪(貧乏):2006/12/29(金)
15:04:01.42 ID:+SaNHieu0
見つめあう二人を引き裂くように、校舎にチャイムが鳴り響く。
(*゚ー゚)「やっば、さすがに二限目は出なきゃね」
(;^ω^)「あ……」
(*゚ー゚)「……わ、忘れてもいいよ。ツンのコト好きなんでしょ?」
(;^ω^)「いや、その」
(*゚ー゚)「と、とにかく、またね!!」
逃げるように走り去るしぃ。
その背中を一人見つめていたブーンは、見事に二限目を遅刻することになった。