33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:23:13.81 ID:/6vr19Kl0
第九話 同じ月を見てた(後)



その頃、ロック山脈の麓。 ツンもまた、夜風に身を任せていた。
風に揺れる砂塵を眺めながら、今までのこと… そしてこれからのことをボンヤリと想っていた。
白魚のように綺麗な手には、ロケットが握られている。



ξ゚听)ξ「…」

ξ゚听)ξ「お母様… お父様… お姉さま…」




思いに耽るその時、ツンの目の前にあった灌木が突然燃え始めた。




ξ;゚听)ξ「え、なに!?」

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:26:04.75 ID:/6vr19Kl0
ツンは咄嗟に後ろを振り返った。
暗闇でも分かるくらいの、真っ赤な法衣を着た女性の姿がそこにはあった。
瞳の奥に湛える光は紅蓮、しかしフードからはみ出た麗らかな長髪は、鮮やかなブルーである。


ξ゚听)ξ「あなた…」

川 ゚ -゚)「クー・スナオです」

川 ゚ -゚)「こんな真っ暗闇では、ご家族の顔もよくご覧になれないでしょう」


ξ;゚听)ξ「この炎は貴方が?」

川 ゚ -゚)「ええ」


そう言って、クーはツンの隣に腰を下ろした。
木が燃えるパチパチという音だけが鳴っていた。
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:28:27.45 ID:/6vr19Kl0
川 ゚ -゚)「時に姫様、つまらぬことをお聞きしますが
     ”魔法”というものを信じますか?」


ξ゚听)ξ「まさかこの炎は魔法で呼び寄せたものなの?」


川 ゚ -゚)「…」 

クーはにこりと口元を歪めた。



ξ;゚听)ξ「…驚いたわ。 驚きの針が振れすぎて、素直なリアクションを取れないくらいに!
      あなた、”魔法使い”なのね!」

川 ゚ -゚)「世間ではそう呼ぶのかもしれませんね」

川 ゚ -゚)「…」
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:31:25.59 ID:/6vr19Kl0
クーは両手を組み、何か呪文のような言葉を呟きながら、人差し指の指先同士をつけた。
するとそこから、ちょろちょろと水が流れ出る。 ツンは口をぽかんと開けた。


ξ;゚听)ξ「今度は水!?」

川 ゚ -゚)「強く力を込めますと…」



まるで銃を構えたような形状の両掌から、水鉄砲が噴き出た。 クーはそれを灌木に向ける。
鉄砲の水圧は非常に強く、灌木を燃やしていた炎を一瞬にして消火する。


ξ;゚听)ξ「す、すごいわ…」


ξ;゚听)ξ(喋るサボテンに魔法使い。 レイラを出てから不思議な出来事の連続だわ…)
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:36:16.97 ID:/6vr19Kl0
―――再び夜闇が二人を包んだ。
暗闇の中からクーはツンに話しかけた。



川 ゚ -゚)「これが魔法というものです。 いかがですか?」


有機物が燃えた臭いがツンの鼻をくすぐっていた。
彼女はくしゅっ、くしゅっ と啜って問いに答える。


ξ゚听)ξ「素晴らしいわ… まるで、私、絵本の中の人と一緒にいるようよ。今」

川 ゚ -゚)「有難きお言葉。 ”紅蓮の民”が持つ力。 それは、水、風、土、炎…… 
     自然の力を、人間が自在に操れる能力のことを言うのです
     それを俗世間は時に”魔法”と呼ぶ… それだけのことです」


クーはそう言いながら、アジトから持ってきたカンテラを、自分とツンの間に置いた。
優しい灯りが二人を照らす。
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:38:58.49 ID:/6vr19Kl0
ξ゚听)ξ「自然の力を、自在に操れる…」


川 ゚ -゚)「だから、人間の蒸気機関技術や、風車だって 
     あれも一種の魔法だと私は思いますわ」

ξ゚听)ξ「確かにそうね」


ξ゚听)ξ「…」

ξ*゚听)ξ「それでもっ! あなたは凄いわ!」


その褒め言葉を受け取るクーの横顔は切なさを含んでいた。
クーはぽつりと呟く。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:41:15.58 ID:/6vr19Kl0
川 ゚ -゚)「凄い凄いと煽てられた末、魔法の力は暴走し、私の故郷は無くなりました…」

ξ゚听)ξ「…ご、ごめんなさい」

川 ゚ -゚)「いえ。ありがちといえばありがちな衰退のエピソードの一つだと、今となっては思います」

ξ゚听)ξ「そんな…」

川 ゚ -゚)「それほど魔法というのは恐ろしい本質を持っているのです」



クーの顔に悲しげな色が混じっていく。 
しかし、それを一旦断ち切り、彼女は話を進める。 
クーは心の底に強い何かを秘めている。そんなことをツンはふと感じ取った。




川 ゚ -゚)「…ん。 そうでした。 本題は私の魔法のことではありません」

川 ゚ -゚)「作戦の最終説明のために参ったのです」

ξ゚听)ξ「わざわざありがとう」

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:42:59.24 ID:/6vr19Kl0
川 ゚ -゚)「それでは… さっと説明致します」


川 ゚ -゚)「グループは三つです。 レジスタンス兵班・姫様とドクオ班・そして、私とマスターです」

ξ゚听)ξ「マスター?」

川 ゚ -゚)「失敬。 ショボン・サマ・サのことです」

ツンはクーとドクオが雇われの身であることを思い出した。


川 ゚ -゚)「作戦は至って安易です。 理由は、現在レイラに駐屯しているのはVIPの下級兵団ばかり。
     情報屋の情報によると、明日はVIPとモラ皇国の会食があるそうです。
     だから、上層部がレイラに訪れているという心配もありません」


川 ゚ -゚)「そして、作戦の内容ですが」


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:44:53.63 ID:/6vr19Kl0
ξ゚听)ξ「レジスタンス兵が城門前で騒ぎを起こす。 
     その隙に私は地下牢へ王を救出に、貴方達は城を上り、主を倒す。 これでいいのよね?」


川 ゚ -゚)「はい。まさにその通りでございます。単純であるが故に、よく頭を使わねばいけない局面も多々あるかと
     また、細かい手順がその班に応じて多かれ少なかれあると思われます」

ξ゚听)ξ「まかせといて! お父様を助けるためならなんだってやってみせるわ」

川 ゚ -゚)「頼もしい限りです」

ξ゚听)ξ「そこで、私気になったのだけれど、貴方達の相手…
      兵士団のボスはどんな奴なの?」




川 ゚ -゚)「それは分かりません。 ただ、巷で噂の”魔法兵”ではないかと情報屋は申しておりました」





ξ゚听)ξ(魔法兵… ショボンさんがおっしゃっていた、”レイ”で動く生命体だわ…)
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:47:55.24 ID:/6vr19Kl0
ξ゚听)ξ「ま、どんな奴でもショボンさんの剣術と貴方の魔法があれば勝てるわ!」

川 ゚ -゚)「その言葉を励みに、明日はスマートな運びで力を交えてきます」

ξ゚听)ξ「…」

川 ゚ -゚)「…」


会話が一旦途切れた。 言葉を無くしたツンとクーは、自然と夜空を見上げていた。
大なり小なりの星が瞬く中、半分になって傾き気味な月は一際輝いているように見えた。


ξ゚听)ξ「…今夜は月が綺麗ね。形は歪だけど」

川 ゚ -゚)「はい。ドクオと水車塔で星空を見上げた夜を思い出します」

「あ、そういえば」といった表情でツンはクーを見た。

ξ゚听)ξ「気になっていたのだけれど、ドクオさんとはどういった関係なのかしら?
     ただの仕事仲間ではないわよね。 容姿を見る限り… 同郷よね?」

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:50:21.59 ID:/6vr19Kl0

川 ゚ -゚)「ええ。 ドクオとは竹馬の友です。但し彼は魔法が使えません」

ξ゚听)ξ「?」

川 ゚ -゚)「話せば長くなります。その件についてはまた後日で宜しいでしょうか…?」

ξ゚听)ξ「ええ、いいわよ!」

川 ゚ -゚)「一つだけ言えるとすれば、あいつは無愛想で無口ですが、素晴らしい剣の才を持っています」

川 ゚ -゚)「明日の作戦。ボディーガードとして姫様とペアにしましたが、きっと役に立ってくれるでしょう」

ξ゚听)ξ「本当に頼もしいわ。あなた達。 ショボンさんは見る目があるわね」

川 ゚ -゚)「私には、今のところ酒豪の気取った紳士にしか見えませんね…
     明日、お手並み拝見といきたいところです」
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:53:13.78 ID:/6vr19Kl0
川 ゚ -゚)「…それでは、今夜はこれで失礼致します。あまり夜風に吹かれると風邪を引きますのでご注意を」

ξ゚听)ξ「うん。ありがとう」

川 ゚ -゚)「カンテラ、ここに置いておきます」

ξ゚听)ξ「ええ」





クーは場を去り、ツンは再度月を眺めてみる。
綺麗に半分に割れた月。 

「ねえねえ、なんで月は丸かったりそうでないときがあるの?」と尋ねるビコーズの姿が、ありありと映し出されるようだった。


(続く)

 

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