- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 21:40:21.23 ID:/6vr19Kl0
第八話 同じ月を見てた(前)
流れ星だと勘違いした煌きは、大きく弧を描きながら、僕等の方へと接近してきた。
フサに言われるがまま、僕は砂の中にうんと身をうずめる。
顔だけをちょこんと出して、フサに尋ねた。
( ∵)「あいつ、何?」
ミ,,゚Д゚彡「”ヒカリオオワシ”だ。あの光で虫を誘き寄せて、捕まえるんだよ」
- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 21:44:19.37 ID:/6vr19Kl0
- ミ,,゚Д゚彡「だがしかし困ったもんでね。 中々凶暴で、人間にもためらいなく攻撃を仕掛けてくる。
砂漠の奴等は、総じて好戦的さ」
( ∵)「うん。それすっごくわk(ry」
フサに頭を踏み付けられ、僕の身は完全に砂漠にめり込んだ。
ミ,,゚Д゚彡「また来るぞっ!」
危機感という感がいま一つ育たない僕は、少しだけ頭を突き出した。
視界にヒカリオオワシが飛び込んできた。
夜の闇を切り裂くような光。 逆にわくわくしてしまうのは悪いくせ?
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 21:46:58.07 ID:/6vr19Kl0
- 「クエェェエエエエエーーーッ!!!!!」
ミ,,゚Д゚彡「…」
( ∵)「ちょっと、こわい、かも」
光がフサの体躯を目掛けて直線を引く。物凄いスピード。
僕はたまらず目を塞ぐ。
――――その次の瞬間、「ゴキリ」という太い音が鳴った。
- 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 21:50:21.78 ID:/6vr19Kl0
- ( )「…」
( ∵)「…!」
再び瞳を開いたとき、フサの姿格好は出会った時と異なるものに変貌していた。
どこから伸びてきたのか、全身の体の毛が逆立ち、瞳の中に湛えられてあった黒い目は、丸く広がり…
まるで夜の猫のような鋭さを発している。
ミ,,ФДФ彡「フ――ッ」
盛り上がった強肩から伸びる腕は、ヒカリオオワシの首根っこを強く掴んでいた。
大鷲の発する光が、段々と弱まる。獣の血が、砂漠に滴る。
- 10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 21:54:08.73 ID:/6vr19Kl0
( ∵)「フ… フサなの?」
ミ,,ΦДΦ彡「一丁あがりだ」
ヒカリオオワシが完全に息絶えたことを確認すると、フサは砂塵に鷲を放った。
そして手に付いた血糊を腰布で拭き始め、彼の姿は、次第にまた戻っていった。 髪、爪、牙、尻尾………
ミ,,゚Д゚彡「ヒカリオオワシは中々美味しいんだぜ。 兄貴に褒められるかもな、ふふ」
( ∵)「今のフサは、僕の知っているフサは少し違った。
フサは、誰になったの?」
ミ,,゚Д゚彡「あん? 俺は俺だ」
( ∵)「じゃあ、今の姿は何なの?」
- 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 21:58:09.66 ID:/6vr19Kl0
ミ,,゚Д゚彡「身の危険を感じたり… 本腰入れにゃあ ってときには
体が獣に、元の姿に少しだけ戻るのさ」
ミ,,゚Д゚彡「あの姿になるたびいつも思う…。 俺は一体何者なんだろうって」
ミ,,゚Д゚彡「獣でもねえ、ヒトでもねえ、どっちつかずの生き物だ」
( ∵)「ネコミミ族?」
ミ,,゚Д゚彡「そんなのは先祖が作った都合のいい言葉じゃねえか? ははっ」
フサはほんの少しだけ寂しそうだった。だから僕は、フサを元気付けようとしたんだ。
どうすれば元気になるだろう? …ああ、褒めたりすればいいんだ。
( ∵)「なんだかかっこいい。 僕もフサみたいに元の姿になれるかな?」
- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:01:10.51 ID:/6vr19Kl0
- ミ,,゚Д゚彡「何言ってんだ。 お前はまんま、サボテンじゃねえか」
その言葉を受けて、僕の頭にはこんな返事が思い浮かんだんだ。
( ∵)「今の僕は、本当の僕じゃなかったら どうする?」
ミ,,゚Д゚彡「…」
ミ,,゚Д゚彡「?? 何言ってやがる。訳のわからないことばっか言うなよ。俺、馬鹿なんだから」
( ∵)「うん。 僕も、なんだかよくわからないんだ」
( ∵)「……世界には、よくわからないことがいっぱいだね」
- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:03:50.64 ID:/6vr19Kl0
- フサは僕を指差して言った。
ミ,,゚Д゚彡「俺はお前の存在がよくわからない」
僕はフサの顔見上げて返した。
( ∵)「それを言うならフサだって」
ミ,,^Д^彡「それを言っちゃおしめぇだ」
フサがこれまでで一番朗らかな表情を見せた。
月明かりに照らされて顔の半分だけよく見えた。
僕はフサの中にある温かいものを感じ取ったんだ。
ミ,,゚Д゚彡「もう帰るぞ。 あまり夜風に吹かれていると風を引いちまう」
( ∵)「サボテンは風邪をひかないんだ。 たぶん」
( ∵)「だからもうちょっとここにいるよ」
ミ,,゚Д゚彡「流れ星を探すのか?」
( ∵)「うん!」
- 0 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:06:34.44 ID:/6vr19Kl0
- ヒカリオオワシを肩に担ぎ、フサはアジトへと帰っていく。
ビコーズは彼のどこか寂しげな背中を見送っていた。
僕は、僕じゃなかったらどうする?
その言葉がビコーズの頭の中でぐるん、ぐるんと駆け巡っていた。
猫と人という二つの存在の真ん中に立つギコ達、そして、それ故に悲しみを背負うフサ。
自分を猫だと思っていたら、人でもあった。 自分を人だと思っていたら、猫でもあった。
どちらに、身を寄せればいいのかは、よく分からない。 分かっているとしても、認めたくない。
そんな不安定な場所に座る彼らと出会い、
ビコーズの柔らかい価値観は少しずつ形を変えていくのだった。
- 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:09:36.63 ID:/6vr19Kl0
- ( ∵)「僕はほんとにサボテン?」
( ∵)「そのうちにんげんになるかもしれない」
( ∵)「僕って、なんだろう?」
( ∵)「ああそうか」
( ∵)「考えるサボテンだ」
( ∵)「いやまてよ」
( ∵)「んー…」
どうやら僕は、「自分を疑うこと」を覚えたようだ。
この気持ちは、とっても不思議だ。
世界が、縮んで広がって、かと思えば、また一気に縮むような――――
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:11:23.78 ID:/6vr19Kl0
- (#∵)
頭がごちゃごちゃとする。 そしてそれを整理できない。
おもちゃ箱をひっくり返したみたいだ。
ツンと早くまた会いたいって気持ちも逸るし、ああ―――
僕もだいぶ、色んな感情を扱えるようになってきたんだね。
ふと空を見上げてみた。 星の海の真ん中で月の船が泳いでいた。
月は、月。 これは多分、変わりっこない不変の真実なんだ。
じゃあ僕は? ツンは? フサは? ギコは? シィは?
変わりゆくもの? 変わらないもの―――――?
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:13:46.94 ID:/6vr19Kl0
- ( ∵)「なんだか、落ち着かないなあ」
( ∵)「…」
そこで僕はゆっくり息を吸い込んで、また吐き出して、
まるで目覚めたときのように頭を真っ白にしてみた。
するとどうだろう。
月、星が一際綺麗に見えてきて、あーやっぱり生きててよかったかもね そんな気分になるんだ。
( ∵)「綺麗だなあ」
( ∵)「ツンも同じ月を、見ているのかな?」
- 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:16:03.93 ID:/6vr19Kl0
- ※ ※ ※
宴が終わった静かな広場に、乾いた足音が響いた。
一人酒をしていたギコは後ろを振り向く。 フサが立っていた。
ミ,,゚Д゚彡「よお」
(,,゚Д゚)「よお じゃねえよ。なんだ、それ」
ミ,,゚Д゚彡「ヒカリオオワシだ。 外で黄昏てたら飛んでたんだ」
ギコは親指と人差し指で額を押えて、「やれやれ」というモーションを作った。
その仕草を見てフサは微かに笑った。
ミ,,゚Д゚彡「…」
ミ,,゚Д゚彡「さっきは悪かった」
(,,゚Д゚)「別にいいさ」
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:17:53.55 ID:/6vr19Kl0
- ミ,,゚Д゚彡「人それぞれの考えがあるんだ。
だからそいつに、いちいちケチつけちゃぁいけねえよな」
(,,゚Д゚)「分かってるじゃないか」
フサは鷲を降ろし、長い八重歯をニッとさせた。
わざとらしい、汚い笑顔を見せた。
ミ,,゚Д゚彡「でもよぉ、なんだか、カッカとするんだ。 すんごく嫌になって…
なあ、兄貴よ。こんな俺は、まだまだケダモノの血が残ってるなあ」
(,,゚Д゚)「知るかっ…」
ミ,,゚Д゚彡「じゃあな、兄貴。俺は、寝るよ」
- 30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:19:59.00 ID:/6vr19Kl0
ギコは僅かに残った酒を飲み干し、静かにグラスを置いた。
そして、歩いていたフサの後姿に一言投げかける。
(,,゚Д゚)「おい、フサ」
ミ 彡「あ?」
(,,゚Д゚)「明日はレイラの城下町へ食料を調達に行く」
ミ 彡「…レイラの町、VIPに占領されてるらしいぜ」
(,,゚Д゚)「町は機能しているだろうさ」
フサは再び歩き出した。
それを尻目に、ギコはグラスに酒を注ぐ。 赤い葡萄の色が照明で輝く。
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/06/28(土) 22:22:38.11 ID:/6vr19Kl0
- (,,゚Д゚)「蒼い星瞬きし時、獣、大地に立つ… か」
(,,゚Д゚)「…」
ギコは徐にちぢれた猫髭を引っ張った。 片耳が、ぴこぴこと動いた。
(続く)
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