33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:15:46.34 ID:brX2hqXU0
第六話 耳を失くした男




(,,゚Д゚)「お前、名前なんていうんだっけ?」

( ∵)「ビコーズ」


地下のひんやりとした土に、僕は身体を突き刺していた。
モグラさんが掘ったらしい盗賊団のアジト。 居心地がいい。
ただ一つ文句を言うとすれば、僕に力を与えてくれる太陽が見れないってこと。


ギコは腰に巻いた布の中から筒のようなものを取り出し、
それを咥えて白い煙を吐き始めた。



( ∵)「わ、面白い! それ、何?」

(,,゚Д゚)「あん? これは、煙草っつうんだよ」

( ∵)「たばこ!?」
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:17:08.31 ID:brX2hqXU0
( ∵)「どうしてギコの口から煙が出るの? 不思議だ!」

(,,゚Д゚)「不思議か? はは、お前はやっぱり面白いな。」

( ∵)「うん、面白いでしょ。 僕は喋ったり動いたりできるんだよ」

(,,゚Д゚)「へっ、サボテンのクセにな」

( ∵)「サボテンのくせにともだちもいるんだよ」

(,,゚Д゚)「へえ、友達? 誰だいそいつは」

( ∵)「ツンっていうの! ひ… なんだっけ ああそう、おひめさまって言ってた」

(,,゚Д゚)「!?」


ギコがあからさまに目を丸くした。 まるで、びっくりした猫みたいだ。
尻尾もピンと立っている。 どうしたんだろう。


( ∵)「どうかしたの?」

(,,゚Д゚)「い、いやなんでもねえよ」
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:18:35.31 ID:brX2hqXU0
「ギコ、今日の収穫はそれだけ?」


少し遠くから甲高い声が聞こえてきた。
ツンと似ている感じの声。 女の人かな?



(,,゚Д゚)「おう、シィじゃねえか。 そうだよ、これだけだよ。悪いかよ」

(*゚ー゚)「別に悪くないわ。まあ、私にとっては、まともに働いてくれたほうがいいのだけれど…」

( ∵)「あなた、誰ですか?」

(*゚ー゚)「!?」

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:19:58.93 ID:brX2hqXU0
(*゚ー゚)「わわっ! 喋った!? 本当に喋るのねこのサボテン!」

( ∵)「始めまして。 喋るサボテン、ビコーズです」


「自己紹介」 というのもだいぶ慣れてきた気がする。
可愛い顔をした女の人だ。 髪の毛の色、ツンと違って茶色。ギコは黒。
人間って、色んなところが違うから面白い。 サボテンは、どれもあまり変わらないからつまらない。


(*゚ー゚)「はじめましてっ、サボテンさん」

(,,゚Д゚)「こいつは俺の妻のシータだ。 まあ団の皆はシィって短く呼んでるけどな
     団のおっかさんみたいな存在だ。 逆らうんじゃねえぜ、ビコーズ」

( ∵)「うん、逆らわない。 よろしくお願いします。シータさん」

(*゚ー゚)「シータさん なんて呼ばなくていいのよ。 シィ って呼んで」

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:20:48.84 ID:brX2hqXU0
( ∵)「うん。わかったよシィ!」

(*゚ー゚)「ふふ。 ギコ、この子可愛いね」

(,,゚Д゚)「そうだろう。 俺もこいつを一目見た瞬間、何か惹かれちまった」

(,,゚Д゚)「見世物小屋に売っぱらおうと思ってたけど… やめだ
     こいつも、銀猫盗賊団の一員だ!」

シィは、軽く微笑んで、ギコにこう言った。
お尻の尻尾が、ふわふわと浮いていてとても可愛い。

(*゚ー゚)「一員か! いいわね、マスコットキャラね、この子」

(,,゚Д゚)「いや、その気になれば棘でも飛ばせるんじゃねえか?」

( ∵)「うーん。よくわからない」

( ∵)「ところで、マスコットって何? 見世物小屋って何?
   教えて、ギコ」
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:21:48.59 ID:brX2hqXU0
(,,゚Д゚)「まあ、そのうち教えてやるよ。それより、シィさんよ」

(*゚ー゚)「何かしら?」

(,,゚Д゚)「もうなんだか腹がペコペコだ。 飯の用意はまだかい?」

(*゚ー゚)「あら! もうとっくにできてるわよ! 私、ここまで貴方を呼びに来たのよ?」

(,,゚Д゚)「おお、そういうことだったか。 おい、ビコーズ。ついてこい
     今夜はお前の歓迎会だ」

( ∵)「かんげいかい?」

(*゚ー゚)「あなたをみんなで迎えるのよ。さあ、行くわよ」

( ∵)「うん!」
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:23:06.44 ID:brX2hqXU0

広い部屋に僕はぴょんぴょんと跳ねて辿りついた。
そこには、お酒の匂いと、食べ物の匂いが漂っていて、たくさんの男の人や女の人が集まっている。
僕は、それだけで何だか胸が躍る。 ああ、この人達と、色んな話がしたいんだ、僕。


ギコは、上座に座って、グラスを手にした。



(,,゚Д゚)「蒼き光の奇跡に!」

「「蒼き光の奇跡に!」」


( ∵)

(∵ )

( ∵)「?」

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:23:44.67 ID:brX2hqXU0
(,,゚Д゚)「銀の牙の栄光に!」

「「銀の牙の栄光に!」」

(,,゚Д゚)「乾杯!!!」

「「カンパーイ!!」」


歓声と共に、人々はターバンを脱いでグラスをかちゃりとぶつけ合う。
各々の長耳がぴょこんと飛び出た。



( ∵)「わわっ!」

( ∵)「かんぱーい!」

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:24:35.00 ID:brX2hqXU0
「おーい! 酒もってこいよ!酒!」

「あ、それ俺のチキンだぞおおおおおおおお!!!」

「3番! うたいまーす!!!」



( ∵)「…」




ギコの音頭のあとは、もう飲めや騒げやの大騒ぎ。
僕はお酒も料理も食べられないけれど、もうその場にいるだけで、いい気分になる。
酔っ払った下っ端たちが、次々と僕に話しかけて、面白い冗談を話してくれるし、
エプロン姿の女性たちは、僕をかわいいかわいいって褒めてくれる。

なんだ、ツンが言ってたことは嘘じゃないか。
誰も、僕を驚かないじゃないか。

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:25:26.05 ID:brX2hqXU0
(,,゚Д゚)「おう、どうだビコーズ。口は悪いがいい奴等ばかりだろう」

( ∵)「うん! 最高!」

(,,゚Д゚)「そいつは良かった」

( ∵)「だって、みんな僕をこわがったりしないんだもん!」

(,,゚Д゚)「そりゃあそうかもな。 スイーツで出会ったときは、初見だから驚いたやつもいたが
     俺らも元は人外だったんだからな」

( ∵)「!」


そうだ。今思い出した。 彼らは、大昔はネコさんだったんだ。
そして、今もほんのちょっとだけネコさん。

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:26:05.63 ID:brX2hqXU0

( ∵)(僕もそのうち人間になれる?)

「この野郎ォーーー!!」

(∵ )「?」




そんなことを考えていたら、楽しい雰囲気を破るように、激昂の一声が轟いた。
誰だろう? 僕は突き刺した体躯を少しの角度だけ動かした。



(*゚ー゚)「誰かしら?」

(,,゚Д゚)「やれやれ。血気盛んな奴が多すぎるぜ」


ギコは、人並みを掻き分けて喧騒の源へと急ぐ。
僕も、ぴょこぴょこと後を追った。



ミ,,゚Д゚彡「オイ!! もっぺん言ってみやがれ!」

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:27:15.55 ID:brX2hqXU0
「お… 俺はただ、親分がレジスタンスと同盟を組みたいって言うのを耳にした… ってだけ」

ズゴッ!

「フニャアッ!!」


ミ,,゚Д゚彡「誰がレジスタンスと同盟を組むって!? ああ!?」

(,,゚Д゚)「やめろ! フサ!」

ミ,,゚Д゚彡「兄貴!」

( ∵)「すごい、きんちょーのいっしゅんだ」


喧騒の中心にいた男は、ギコと顔がよく似ていた。 でも、ギコよりも髪の毛が多い。
それと、みんなが脱いでいる中、一人だけターバンを巻いている。


ミ,,゚Д゚彡「嘘だろ!? あのクズなニンゲン共と手を組みたいなんてよ!」

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:28:02.21 ID:brX2hqXU0
(,,゚Д゚)「それは…」

ミ,,゚Д゚彡「あいつらは俺達のことを同じと思っていないんだ! ただの卑しいケダモノってしか見ていないんだ!」

ミ,,゚Д゚彡「町へ下った同胞の末路を知っているだろ!? 
      俺達が”人間”として町で生きていくのは、どんなに辛いことか、分かるだろ!?」

(,,゚Д゚)「ああ、分かるよ。分かるから、だから――」

ミ,,゚Д゚彡「これを見てもなんとも思わないかッ!!!」


フサと呼ばれた男は、ターバンをしゅるりと解いた。
そしたら、ぴょこんと長い耳が… 飛び出てこない。





ただ、痛々しい「痕」が残っていただけだった。







(続く)

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