- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:27:37.10 ID:brX2hqXU0
- 第五話 紅蓮のふたり
ラクダはツンとレジスタンスの男を乗せて、砂漠を駆けていた。
その足並みは速い。ラクダの機動力とは思えないスピードで、大地を踏み付けていく。
ξ゚听)ξ「ねえ、このラクダ、まるで馬みたいね」
「ホバーボートだけを足にしては、今回のようにもしもの場合が大変ですよ。
このラクダは、秘薬の投与によって脚力を増幅させているのです」
ξ゚听)ξ「秘薬… ね」
その言葉から醸し出される怪しげな響きから、ツンは修道院で療養しているデレの容態を連想した。
何か、変な処方を受けていないだろうか… そんな事柄をイメージしたのである。
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:30:01.68 ID:brX2hqXU0
- ξ゚听)ξ「お姉さまは大丈夫かしら」
「大丈夫ですよ。 修道院のあるモラ皇国は中立国です。
VIPが足を踏み込める範囲ではありません」
ξ゚听)ξ「心配だわ…」
ξ゚听)ξ「あら」
┌| |┘┌| |┘┌| |┘
安否を気にするツンの視界に、仲良く三つに並ぶサボテンが写る。
ツンはその景色に、続いて心配事を引き出された。
ξ゚听)ξ(ビコーズ… 何処に行ったのかしら?)
- 6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:33:01.87 ID:brX2hqXU0
- ξ゚听)ξ「退屈しちゃって、どこかへ出掛けちゃった?」
ξ゚听)ξ「誰か、悪い人に捕まえられてなければいいけど……」
ラクダの操縦に退屈している男は、ツンの独り言に口を挟む。
「何の話ですか?」
ξ゚听)ξ「レイラからスイーツへ行く間、ともだちが出来たのよ」
「ほう。 砂漠にいる小動物… サバクリス辺りですかな?」
ξ゚听)ξ「いいえ。サボテンよ」
「…?」
ξ゚听)ξ「ふふ。なんでもないわ」
ξ )ξ「…」
きっとまた逢えるだろうと、ツンはボンヤリと考えていた。
砂煙をあげて、そのうち何処からか現れてくれると、信じて止まなかった。
- 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:36:32.00 ID:brX2hqXU0
- 見渡す地平が、段々、黄色から灰色へとグラデーションのように変わる。
レジスタンスのアジトは、岩山の中にあった。
砂漠と外の大陸を隔てる山脈。 中でも、西側に広がるそれを「ロック山脈」と人々は呼んでいた。
「姫様、ロック山脈が見えてきました」
ξ゚听)ξ「山の中にアジトはあるの?」
「はい。 洞窟を造る要領で居住のスペースを設けたのです」
ξ゚听)ξ「まるで岩窟王ね… あなた達」
それからまた数時間が過ぎた。
ラクダの足が山肌の前でピタリと止まった。
ツンは降り、聳える岩と山を眺める。 この、ちょうど向こうには、憎きVIPの城がある。
自然に、拳を小さく握っていた。
- 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:39:17.50 ID:brX2hqXU0
- 「ここからもう少し北へ上れば、VIP領に繋がるトンネルがあるのですよ」
「さて……」
明らかに色の違う山肌の前でレジスタンスの男は立ち止まる。
そして、一言を呟いた。
「かゆ」
『うま』
ギィ と砂漠には似合わない物質が擦れ合う音がした。
それと同時に、山の壁を模したドアが開く。 若い兵士が二人を出迎えた。
「おかえりなさい。無事に姫様と合流できましたか?」
「ああ、この通りだ。 姫様をショボン様の所へ案内しろ」
「御意」
- 13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:42:13.78 ID:brX2hqXU0
- 「こちらです。ついてきてください。 足元に、お気をつけて」
ξ゚听)ξ「ええ」
「それじゃ、頼んだぞ。 …ふう」
レジスタンスの男は若い部下に指示をすると、見張り番の椅子に座り込んだ。
任務を果たした安堵感を噛み締め、手には煙草が握られている。
※ ※ ※
アジトの通路には、冷たい空気が流れていた。
ツンはきょろきょろとしながら、重なる心配を紛らす為に「どれくらいの月日で築いたの?」
などと簡単な質問をしては、一人、嘆息を漏らす。
- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:45:20.37 ID:brX2hqXU0
- 「こちらです」
大きな両扉の前で、兵士は足を止めた。 扉が重苦しく開く音が、狭い通路に響く。
通路よりも若干明るい室内は、埃と土の匂い、そして、酒の匂いが漂っていた。
ツンは、不鮮明な視界の中、一人の男がテーブルに座っているのに気づく。
その男は、ツンに話しかけた。
「やあ、久しぶりですね。 ツン・デ・レイラ姫」
ξ゚听)ξ「ええ、そうですわね。 ショボンさん」
隣にいた若い兵士が一言を呟いた。
「ショボンさん! また昼間からお酒を飲んでいるのですか?」
「いいじゃないか。 私は幾ら飲んでも酔い潰れない体なんだ」
- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:47:42.79 ID:brX2hqXU0
- ξ゚听)ξ「相変らずですわね」
そんなことを囁きながら、ショボンと呼ばれた男の向かいにツンは座る。
小さいテーブル。 上に乗せられた酒瓶や果実。 そしてチェス・ボード。
どうやらここは、アジトの中枢ではないらしい。 よく周りを見回してみると、暗がりの向こうにベッドがあった。
ξ゚听)ξ「ここはショボンさんの部屋?」
(´・ω・`) 「ふっ。 いい住まいだろう」
ξ゚听)ξ「私だったら、鼠と煤が怖くて夜は眠れないですわ」
(´・ω・`) 「いや、最近のスナネズミはどういう訳か大人しいんだ
サンドワームが暴れている性かな」
ξ゚听)ξ「サンドワーム。 私もレイラからスイーツへ行く途中遭遇しました」
(´・ω・`) 「ほう」
- 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:49:35.01 ID:brX2hqXU0
- ※ ※ ※
しばらく歓談の雰囲気は続いた。
レジスタンスという社会の吹き溜まりのような集団の長であるのに、
ショボンはまるで貴族のように流暢な語り口である。
外見もまた端麗で、顎に蓄えられた髭は、しっかりと整えられてある。
(´・ω・`) 「スイーツの村の、最近できた名物に”和スイーツ”というのがあってね
それってただの”フジヤマガシ”じゃないか って 僕と部下は笑ったんだ」
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「…さて、そろそろ本題に入ろうか。 君、席を外してくれたまえ」
「はい」という声と共に、扉の前で見張りをしていた若い兵は帰っていく。
(´・ω・`) 「まず、現状から確認していこうか」
ショボンは、チェス・ボードの上にキング、クイーン、ルーク、それからポーンの駒を撒いた。
- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:52:03.55 ID:brX2hqXU0
- ξ゚听)ξ「チェスの駒ですか?」
(´・ω・`) 「どの駒を手に取るね?」
ξ゚听)ξ「それでは… クイーンを」
ショボンは徐にクイーンの駒を掌の上に乗せた。
(´・ω・`) 「クイーン。 これはレイラの国に例えよう。
レイラ王の妻であるヤン・デ・レイラ女王は素晴らしい美貌の持ち主だったからね
おっと、勿論、君と、その姉も」
ξ゚听)ξ「でも、その美貌と相俟って、お母様は気性が激しかったらしいですわ
いつもお父様は尻に敷かれていたみたい」
(´・ω・`) 「あの豪傑がかい? ふっ。その話をじっくり聞きたいがまた今度だ」
(´・ω・`) 「……先日、VIPの襲撃を受けたらしいね」
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:56:10.28 ID:brX2hqXU0
ξ゚听)ξ「ええ。 ここで不思議なのは騎兵の数ですわ」
ξ゚听)ξ「完全に、私たちの方が量では勝っていた。」
(´・ω・`) 「当然だ。攻め入られる側だもの。 …それとも 質で、負けてしまったと?」
ξ゚听)ξ「…不思議なのです。 VIPの兵は」
(´・ω・`) 「不思議?」
ξ゚听)ξ「あの時息絶えてしまった、若い兵の死に際の言葉が… 今でも忘れられません」
(´・ω・`) 「言ってみてくれるかい?」
ひと呼吸を置いて、ツンは呟く。
ξ゚听)ξ「”VIPの兵は、不死身の、からくり人形のようです…” と」
(´・ω・`) 「なるほどね。 私が考えている通りだ」
- 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 00:58:50.34 ID:brX2hqXU0
- ツンは疑問の色を示す。 しかし、ショボンは顔色を変えず、淡々と会話を進めていく。
ξ゚听)ξ「…? どういうことでしょうか」
(´・ω・`) 「後で話そう。 そして、レイラ王はVIPの捕虜に」
ξ゚听)ξ「ええ。 自分が設けた牢の中に入れられた気分は…」
ツンの哀しみの瞳に、ショボンははにかんでこう言ってみせる。
ショボンとレイラ王の間にある、何かしらの関係を示唆するような一言だ。
(´・ω・`) 「アイツなら大丈夫さ」
ξ゚听)ξ「…ええ」
(´・ω・`) 「ふむ。 結論から言うと、今、レイラはVIPに占領されている」
ξ゚听)ξ「ある程度予想は出来ていた事態です。
砂漠の平和だった独立国が、次々とVIPに取り込まれています」
(´・ω・`) 「ああ、まさにサンドワームのようだ………
それに、予想が出来ていた事態なのに、こうも簡単に攻め込まれるとは」
(´・ω・`) 「相手の力は、大きい」
- 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:01:08.43 ID:brX2hqXU0
- ξ゚听)ξ「……」
(´・ω・`) 「さて、それではキングの駒だ」
ξ゚听)ξ「VIP ですか?」
(´・ω・`) 「そうだ。 悔しいけど、今現在、砂漠の覇者はVIP。 VIP帝国なんだ」
ξ゚听)ξ「それを打ち崩すために、ショボンさん達は奔走しているわけなのね?」
ツンが転がっていたポーンの駒を立てる。
(´・ω・`) 「ああ、そうだ。 しかし、レイラの姫様が助けを求めに来たからには……」
(´・ω・`) 「次の作戦の矛先は、レイラ。 レイラの国で威張っているVIPの奴等を追い払うのが、先だ」
ξ゚听)ξ「頼もしいですわ。 それと同時に…… なんて感謝の言葉を捧げればいいか分からない」
ショボンは微笑交じりに答えた。
(´・ω・`) 「感謝の言葉は作戦を果たせたあとに頂くとしよう」
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:02:42.52 ID:brX2hqXU0
- (´・ω・`) 「最後に、ルークの駒を これは、モラ皇国なんだけどね」
ξ゚听)ξ「修道院で、お姉さまは… デレは無事に療養を続けているのですよね?」
(´・ω・`) 「ああ、心配はいらない。 修道院の長であるペニサスと私は古い仲だ。
安心したまえ。」
ξ゚听)ξ「良かった… その言葉を聞く為に、ここまで足を運んだようなものですわ」
(´・ω・`) 「下っ端兵士の言葉では安心できなかったかね?」
ξ゚听)ξ「そ、それは…」
(´・ω・`) 「ふふ。 こちらとしては、今からが本番だ」
(´・ω・`) 「レイラ奪還作戦。 今から作戦の概要を説明する」
ξ゚听)ξ「はい」
- 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:05:11.83 ID:brX2hqXU0
- ここでツンは一つの疑問を頭に浮かべた。
ξ゚听)ξ「こんな個室で会議を行うのですか?
もっと広い部屋に、収集をかけなければいけないのでは?」
ショボンは、テーブルの隅に転がっていたナイトとビショップの駒を掴んだ。
そして、それをツンに掲げながらこう発声する。
(´・ω・`) 「良い所に気がついたね。今回の作戦のミソは少数精鋭だということだ。
クー、ドクオ、入りなさい」
ショボンが二回手を叩くと、小さな扉、所謂裏口が小さく開いた。
そこから、一人の女性と、一人の騎士が姿を現す。
- 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:07:06.51 ID:brX2hqXU0
- 川 ゚ -゚)「始めまして。傭兵のクー・スナオです」
('A`)「…」
川 ゚ -゚)「こちらはドクオ・ボッチ」
川 ゚ -゚)「姫様。 以後お見知り置きを」
燃えるように紅いローブ、そして鎧をそれぞれ身につけていた。
ドクオが身につけている鎧が、灯りに反射して小さく煌いている。
ξ゚听)ξ「始めまして。 クー、ドクオ
私はレイラの国の二番目の姫… ツンよ」
(´・ω・`) 「二人とも傭兵のプロなんだ。 同時に流浪の旅人でもある。
だから、今はこの砂漠の端っこに居ついてるってわけさ」
(´・ω・`) 「座りたまえ」
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:08:54.00 ID:brX2hqXU0
- ショボンの説明は数分で終了した。
その間二人はただ押し黙ってそれを聞いているのみ。
ツンは、傭兵のプロの品格を感じた。
※ ※ ※
(´・ω・`) 「作戦は以上だ。 単純な作戦だ。質問はあるかね?」
川 ゚ -゚)「いえ、特にありません」
('A`)「…」
- 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:09:39.97 ID:brX2hqXU0
- (´・ω・`) 「それじゃ、決行は明日のキュウの刻だ。 みんな、体を存分に休ませておいてくれ。
特に姫。 あなたは長旅で相当身体に疲労があるだろう」
(´・ω・`) 「個室を用意した。 ついてきてくれ」
ξ゚听)ξ「ありがとうございます」
――コツン
ξ゚听)ξ「あっ」
ツンは立ち上がり、椅子をテーブルの中に閉まおうとする。
その時、椅子の足をドクオのつま先にぶつけてしまった。
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:11:07.71 ID:brX2hqXU0
- ξ゚听)ξ「あ、すいません… ドクオ、さん」
('A`)「…」
ξ゚听)ξ「あ、あの」
('A`)「…」
ドクオは、ぴくりとも動かない。 ただ、紅に染まった鎧を、灯りに照らしているだけだ。
表情にも変化はなく。 まるで鎧を着た案山子のようだとツンは感じた。
川 ゚ -゚)「いいんです。 姫様。 こいつは必要以上に無口なのです
無礼だと感じたら私が謝ります」
ξ゚听)ξ「いえ、いいの。 それでは、おやすみなさい」
川 ゚ -゚)「おやすみなさい」
('A`)「…」
- 30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:12:58.11 ID:brX2hqXU0
- 個室へと向かう通路の途中、ツンはショボンに或る事柄を尋ねた。
ξ゚听)ξ「さっき、”私の考えている通り”だ って、どういうことなんですか?」
(´・ω・`) 「ああ… あれかい」
ショボンは思わせ振りに立ち止まる。
(´・ω・`) 「私の考えでは… VIPの騎士達は… 人間じゃない」
ξ゚听)ξ「!?」
(´・ω・`) 「あれは… ”レイ”の力によって動かされている、そう、まさにからくり人形なのだよ
難しい言葉を使うとしたらそうだな… 魔法生命体 だ。」
ξ゚听)ξ「”レイ”! やはり、VIPの軍事力の裏には”レイ”が関わっているのですね?」
- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:14:19.53 ID:brX2hqXU0
- (´・ω・`) 「関わっているも何も、”レイ”のおかげで、VIPはあそこまで大国になったようなものだ」
ξ゚听)ξ「”レイ”…… 子供の頃は、ただのおとぎ話だと思っていました」
(´・ω・`) 「あの傭兵、クー達も”レイ”の恩恵を受けているそうだ」
(´・ω・`) 「あの真っ赤な鎧とローブを見ただろう」
ξ゚听)ξ「え、ええ。 でも、それと”レイ”には何の関係が?」
ξ゚听)ξ「実は私は、”レイ”についてほとんど何も知らないのです」
ξ゚听)ξ「ただ… ”光を手に入れし者の願いを叶える”としか」
(´・ω・`) 「ふふ。 私はもう少し知っているよ」
ショボンは、暗闇の天井に向かって、一言、二言と呟いた。
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/31(土) 01:15:03.60 ID:brX2hqXU0
広大な砂漠に 不思議な星々あり
その輝きを手に入れし者の 願いを 叶える
蒼の瞬きは 命を与えし 光
紅の瞬きは 力を与えし 光
(続く)
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