4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:16:04.00 ID:aELG6mTG0
第三話 きみはともだち






( ∵)「…」


僕のヒフをまだ弱い光の太陽が照らす。
空は青みが増し、切れ切れの雲が姿を現してくる。 朝がやってきた。

サボテンは早起きだ。
それに加えて、何故か昨夜の僕は目が冴えていた。
実は、ずっと前から、じっと夜が蒼に切り替わるのを待っていた。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:18:25.45 ID:aELG6mTG0
※ ※ ※


ξ゚听)ξ「…ん」


ξ゚听)ξ「おはよう」


( ∵)「おはよう」


彼女が目を覚ましたのは、朝日が昇りきってしばらくした頃だった。
よっぽど疲れていたんだろう。 だって今も、なんだか元気のない顔をしている。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:20:35.10 ID:aELG6mTG0
ξ゚听)ξ「砂漠のめざめは最悪ね」

ξ゚听)ξ「寝起きの気分もよくないわ…」

( ∵)「フライパンで転がされている気分」

ξ゚听)ξ「巧いね」

泉の水で、ぱしゃぱしゃと顔を洗いながら、彼女はぽつりと一言呟いた。

ξ゚听)ξ「汗で体が気持ち悪い…」

( ∵)「汗 ってどんな感じ?」

ξ゚听)ξ「砂漠に雨が半端に降って、地面がべちょべちょになる感じ」

( ∵)「巧いね」


そう言って僕は砂煙をあげながら、後ろを向く。


ξ゚听)ξ「ほんとに気がきくサボテンさんね」

ξ゚听)ξ「さて… 水浴びしようかしら」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:23:06.35 ID:aELG6mTG0
┌| ∵|┘「…」

┌| ∵|┘「…そろそろ?」


水の跳ねる音が聞こえなくなる。 水浴びは、終わったみたいだ。
僕はゆっくりツンの方を向いてみた。


ξ;゚听)ξ「…ちょっ!」


両手で上半身を覆う彼女の姿、天気の良い日に見る雲のような肌の色。
やっぱり綺麗だ。 だけど、その表情は強張っていて…


ξ;゚听)ξ「まだもうちょっと後ろ向いててよ! バカっ!」

( ∵)「ごめんなさい…」

ξ゚听)ξ「…ま、サボテンだし、別に見られてもいいわね」


そう言うと彼女は、薄い布にまた一枚二枚と服飾を重ねていった。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:26:16.26 ID:aELG6mTG0
泉の水を最後に一飲みし、ツンは再び歩き始めた。
僕もなんとなく後を着いていく。 


( ∵)「ねえツン」

ξ゚听)ξ「なに?」

( ∵)「さっき、ツンの裸を見たとき、人間ならどうするのかな?」

彼女は微笑み混じりに答える。

ξ゚听)ξ「顔真っ赤にして、鼻から血出すんじゃない」

( ∵)「なにそれ、面白い!」

( ∵)「ぼく、人間になりたいな」

ξ゚听)ξ「ばぁか、ビコーズのすけべっ」

( ∵)「スケベ ってなに?」

( ∵)「人間には、男の人と女の人がいるんだよね」

( ∵)「スケベ っていう人間もいるの?」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:29:44.57 ID:aELG6mTG0
ξ゚听)ξ「スケベは男の人よ… もう」

( ∵)「へーえ そうなんだ」


僕は「男」だろうか 「女」だろうか?
ツンは自分のことを「私」というから、女だろうな。 見た目もそうみたいだし。
じゃあ僕は僕を僕と呼ぶから 男? 

ああそうか

サボテンは、サボテン!



( ∵)「うん、なるほど」

ξ゚听)ξ「何に納得してるのよ」

( ∵)「自分の存在について」

ξ゚听)ξ「あなた… 昨日から思ってたけど、面白いわねっ」

( ∵)「ふふふ。ありがとう」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:32:23.02 ID:aELG6mTG0
ツンと砂漠を歩いた。 ひたすらに歩いた。
「目指している場所まであとどれくらいなの?」と尋ねたら、「ラクダを2000頭並べたくらいよ」と答えてくれた。
僕は、納得した。 そして、それ以外にも沢山質問をした。


砂漠では、太陽は西から昇って東へ沈むけど、ツンが住んでいるところも一緒なの? とか

砂漠を歩いているターバン姿のおじさんは、いつもなにを運んでいるの? とか



気がつくと、全て砂漠が絡む質問だった。
僕は、僕という世界の狭さを思い知らされた。 ああ、もっと色んなことが知りたい。
だから、僕はツンについていくんだ。


( ∵)「あっ、そうだ」

ξ゚听)ξ「なによー。まだ訊きたいことがあるのかしら?」

( ∵)「うん」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:34:24.53 ID:aELG6mTG0
( ∵)「ツン って名前は、誰がつけてくれたの?」

ξ゚听)ξ「お母様よ」

( ∵)「名前をつけてくれるのは、お母さんか、お父さんなんだね?」

ξ゚听)ξ「そうよ」

( ∵)「じゃあツンは… 僕のお母さんだね!」

僕はぴょんぴょんと飛び跳ねた。 
その後すぐに石につまづいて、転んでしまったのだけれど。

ξ゚听)ξ「そうねえ… でも私はまだ若いわ… お母さんになんかなれない」

( ∵)「えっ、そんなあ」

ξ゚听)ξ「ビコーズは、私の”友達”よ」

( ∵)「ともだち?」

ξ゚听)ξ「そう」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:36:07.48 ID:aELG6mTG0
ともだち。

不思議な四文字が、僕の目の上の、トゲトゲらへんでふわふわ浮かぶ。
ああ、アタマの中にあるってだけで、意味が分からない言葉が、僕には多すぎる。



( ∵)「ともだち… ってなに?」

また彼女はくすっ、と笑ってこう言った。

ξ゚听)ξ「ともだちは、ともだちよ」

( ∵)「わからないよ」

ξ゚听)ξ「わかりなさい」

( ∵)「わかった、わかる」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:37:56.10 ID:aELG6mTG0
ともだちともだちともだちともだち。


親とか、兄弟とか、そういうのなら、なんとなく分かるんだ。
でも、ともだち というのは… いまいちイメージが沸かない。


もやもやとしていて… 正に、目の前で漂っている蜃気楼のようだ。
あの蜃気楼の向こうには、何かしらの答えが待っているのだろうか。




ξ゚听)ξ「村まであともう少しだわ…」

ξ;゚听)ξ「がんばらなきゃっ」


ツンは額に滴る汗を拭い、ひたすら前方を見て歩いていた。
僕は逆らって横っつらを向く。 
ああ、どこを見渡しても、広がるのは砂漠色だ… そして、蜃気楼。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:39:19.16 ID:aELG6mTG0
( ∵)「…」

( ∵)「?」


蜃気楼の向こう、砂丘がぞわっと蠢いた気がした。
砂嵐に崩されてしまったのだろうか? 
いや、違う。 あの蠢き方は、風に吹かれているものじゃない。

蜃気楼が、ぴしりと歪んだ気がした。




――――蠢きが、僕たちに近づいてくる。




( ∵)「ツンっ、あぶない!」

ξ゚听)ξ「!?」
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:42:56.51 ID:aELG6mTG0
僕らとラクダ10頭分くらいの距離で、そいつは姿を現した。 凄まじい砂と風を伴って。
砂漠では、初めて見る顔だ。 背丈は僕を20こ積み重ねたくらい、横の幅はえーと…


ξ;゚听)ξ「さ、サンドワームだわ!」

( ∵)「サンドワーム?」

ξ;゚听)ξ「…」


ツンの喉が、ごくり、と唸った。
そして、一瞬に蒼白となる彼女の表情で、コイツがどんな存在だか、飲み込めた気がした。


「クシュウウウウウゥッ!!!」



ξ;゚听)ξ「わっ!! す、吸い込まれそう!!!」



さらに強い風が吹き荒れた。 それは、サンドワームとやらの「呼吸」と気がつくと、
僕はほんのりと恐怖というものを覚えた。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:45:24.34 ID:aELG6mTG0
ξ;゚听)ξ「ビコーズ! 大丈夫!?」

( ∵)「うん。 しっかり”足着いてる”からっ!」

ξ;゚听)ξ「こいつは砂漠の掃除機って異名で有名の怪物なのよ…
       逃げなきゃ… 村まではもう少しなのに!」



ツンは、吸い込みの攻撃に抗い、前進しようとする。
しかし、サンドワームの口は予想以上にデカイ。 えーと… 僕5個分。
彼女は中々進めず、足元に砂塵を溜めていくのみだ。


「クシュウウウウウウウウウッ!!!」


ξ;゚听)ξ「きゃあーっ!!!」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:47:14.42 ID:aELG6mTG0
┌| ∵|┘「…」


僕は地中深くに体躯を突き刺したから、なんとかなる。
しかし、これは危機というやつだ。 このままじゃツンが、吸い込まれてしまうかもしれない。
そんなのは絶対嫌だ。 ツンはぼくの「ともだち」なんだ。





ぜったいいやだ


ぜったいいやだ


ぜったいいやだ――――――――
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:49:36.82 ID:aELG6mTG0
「クシュウウウウウウウウウッ!!!!」






    プツッ





「ク、クシュッウッ…………」


巨大な影が、攻め寄せる。


ξ;゚听)ξ「こ、こっちに倒れてくる!?」

( ∵)「右だツン!」

その言葉と共に、ツンは僕の教えた方向に横っ飛び。ぎりぎりセーフ。
巨大なサンドワームの体躯が、ゆっくりと、砂漠に沈んだ。
奴のイモムシみたいな皮膚には、傷一つない。 だのに何故?
しかし、ツンを救えたという安堵感の方が、僕の体の中で先に駆け巡った。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:51:16.30 ID:aELG6mTG0
ξ;゚听)ξ「ど、どうしたんだろう。 突然」

ξ;゚听)ξ「やっつけちゃったね…」

( ∵)「やったね」




ξ゚听)ξ(あら、これ…)

ξ゚听)ξ(サボテンの棘?)




ツンは、サンドワームをまじまじと観察していた。 
僕はご機嫌に話しかける。


( ∵)「何やってるんだい、ツン!」

( ∵)「突然起き上がって、また襲ってくるかもしれないよ! 早く行こうよ!」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:53:20.01 ID:aELG6mTG0
ξ;゚听)ξ「え、ええ! 先を急ぎましょう!」



強風で煽られた髪を整えながら、彼女は呟く。


ξ゚听)ξ「…ありがとね、ビコーズ、私を護ってくれて」


護った? いつ? 僕は身体を砂漠に埋めて、祈りを捧げていただけだ。

でもまあ… ここは頂いておくことにしよう。





( ∵)「だってツンは僕の…」

( ∵)「友達だもの」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/25(日) 00:54:01.81 ID:aELG6mTG0
( ∵)「……使い方、合ってるかな」

ξ(゚ー゚*ξ「うん、合ってるよ」




その時、僕には彼女が砂漠に咲く一輪の花のように見えたんだ。

この笑顔を、僕はおそらく死ぬまで忘れない。





(続く)

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