31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:05:26.52 ID:OBeEal1u0
第二十一話 STAND BY ME (YOU)




(  ω )「……」

( ´ω`)

( つω^)「むにゃ」

( ^ω^)「おしっこ」



ブーンはふと目覚めた。
夜中になり、宴会場は静まり返った…… 訳ではない。
秋の夜長の鈴虫のように、いや、そんな風情のあるものではないが、四方八方から…… という点では似ている。
兵士たちの寝息があちこちから響き渡っていた。


(;^ω^)「うるさいお」

「ごがぁああああああ ごがぁあああああ」

(^ω^;)(あっ、この人壇上にあがってきた人だお。こわいこわい…… 起こさないようにしよっと)

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:08:05.90 ID:OBeEal1u0


抜き足差し足忍び足で入り口へ辿り着いたブーン。昼間とは、門番が交代している。

( ^ω^)「こんな夜中にお疲れ様ですお。通してくださいお」

「おお。通りな」

( ^ω^)「ありがとうございますお」

ブーンの頼りない背中に、門番は一言を投げる。

「しっかしなぁ、お前、このサーバ砂漠のこと、少しは知っといたほうがいいぜ」

(;^ω^)「勉強しておきますお」

「でも、天文学徒なんだろ?」

(;^ω^)「はい」

「なら、”レイ”って知ってるか? ……まあいいや、今日の夜空に出てる、あの星座はなんていうんだ?」



門番とブーンは五歩前に出る。
外では砂漠といえども涼しげな風が流れていた。ブーンはゆっくりと深呼吸をする。
砂漠の空気を思い切り吸い込むと、彼は自分が完全なサーバの住人になったと思い込んでしまう。
そんな優しさが、夜の砂漠にはあった。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:10:39.36 ID:OBeEal1u0
( ^ω^)「えーっと」

( ^ω^)「……」

( ^ω^)「白鳥座」


「ふーん。白鳥座か」

「……少なくとも鳥には見えないな。まっ、星座なんてそんなもんか。ありがとよ」



門番と別れ、ブーンは岩陰を探す。
手ごろなそれが見つかると、ブーンは用を足し、アジトへ戻ろうとした。

ここで、ある重大なことを思い出す。



( ^ω^)「……あ」


(ξ゚听)ξ「とりあえずウシミツの刻に東尖塔の下に来て。私、窓辺で待ってるから、顔見えるはずよ」 )
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:12:38.06 ID:OBeEal1u0
( ^ω^)「門番さーん」

「なんだ?」

( ^ω^)「今、何時くらいですお?」

「えーっと。あ、これお前がやってきたニコ王国製の時計なんだぜ。かっこいいだろ
 今はな、ニの刻だ」

( ^ω^)「それはちょうどよかった…… ほっ」

「こんな夜中に何かあるのか?」

(;^ω^)「あ、いいえ。なんでもありませんお!」


ちょうど約束の時間に目覚めたと安堵するも、次なる問題がブーンの脳裏を過る。
この暗闇の中、どうやって何里か離れた場所へ行くか だ。
半日かけ、この足で行きは歩いてきた。それを思い返すと、太腿がじんじんと痛む。


( ^ω^)(とりあえず馬小屋に行くお)
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:15:45.16 ID:OBeEal1u0
手に持っていたカンテラに火を灯してもらい、ブーンは入り口から少し離れた小屋へと進む。
なるべく音を立てないように戸を引き、馬の足音や寝息を聞く。
どうやらここが馬小屋で間違いないようだ。


( ^ω^)「えーっと…… よし、君に決めたお」


大きくも小さくもない、手頃で従順そうな若馬の前に立つ。
彼はこの夜にも目が冴えていて、鼻息を荒くしてブーンの搭乗を受け入れたようだった。
ブーンは馬を舎に括りつけていた金具を外し、手綱を持って彼を入り口へ誘導させる。


そのとき、様子を遠くから発見する人影が一つ。


(´・ω・`) (むっ。馬泥棒か……?)
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:18:27.56 ID:OBeEal1u0
ショボンもまた夜風に吹かれようと外へ出ていた。
カンテラを眼前に上げ、目を凝らす。
馬泥棒にしては柔和な顔つき。どうやら手綱を引っ張っているのはブーンのようだ。


(´・ω・`) 「なぁにをしてるんだアイツは」

( ^ω^)「馬術は一応嗜んでるお! よし、とにかくあっちへ一直線! 全速力で頼むお!」

「ヒヒーン!!」

(;^ω^)「ちょwww わっwww そんなに声を荒げなくていいお! 誰かにばれちゃうお!」


ブーンはアジトから早々と遠ざかっていく。中々上手い馬の扱い方だ。
……などと感心も束の間、ショボンはブーンの後をつけようと馬小屋へと向かった。


(´・ω・`) (思えばあいつは謎が多いんだよなぁ)

(´・ω・`) (うーむ)
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:21:13.53 ID:OBeEal1u0



ξ゚听)ξ「……」


一方レイラの町。東尖塔からツンは城下町を見下ろしていた。
普段と変わらぬ夜の町の姿。明かりを付けるのは酒屋と宿屋のロビーだけである。
確かに平和な顔を取り戻したのは嬉しい。だが、この屋根の連なりはもう見飽きてしまった。


ξ゚听)ξ「遅いなぁ……」


ふと胸に手を当てると、心臓がすごい速さで波打っている。
夜特有の高揚感も合わさって、ツンの拍動は今までにないくらいペースを上げていた。
この感情。ワクワクでも、ドキドキでもない。


ξ゚听)ξ「……」


空には綺麗な月が浮かんでいた。今宵の月に浮かぶ影は、なんとビコーズに見える。
彼は、今頃何をしているのだろうか。
早く、あの子に近づきたい。 ツンは、そんなことを考えていた。
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:23:39.46 ID:OBeEal1u0
服の裏ポケットに忍ばせたロケットを開き見る。
姉の穏やかな笑顔。これを見るたびに胸を締め付けられて仕方がないのだった。
いつか…… 体が弱りきって…… 笑顔さえ浮かばせることができなくなったら。

姉の病は治ると、床に伏せた日からずっとずっと祈っている。
それでも、そんな懸命な気持ちの隙間には、不安や憤りがどうしても生じてしまう。
夜とは感傷的になってしまう時間帯である。
ツンは、思わず睫毛を少しだけ濡らしてしまった。


ほんの数滴の涙を拭い、ふと下を見る。
涙などというものに無縁そうな笑顔の少年が、そこに到着していた。



( ^ω^)ノシ


ξ゚听)ξ「あ、あんたっ! 遅いわよっ! 一体どれくらい待ったと思ってるの!?
      朝が来ちゃうわよー!!」



ξ;゚听)ξ(めそめそしてるの見られちゃったかなあ?)

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:26:18.89 ID:OBeEal1u0

上から下へと声を落とすのは簡単。
では、下から上へ声を届けるのは? 
大声を出すことなく、かつ塔にいるツンに話しかけるのは、中々難しいとブーンは感じた。



( ^ω^)ひそひそ……

( ^ω^)(遅れてごめんおー。今からロープを投げるからねー)



留めた馬の元へ戻る。 ここで単純かつ致命的なミスに気付くブーン。


(  ゚ω゚)「……」

ξ゚听)ξ(何固まってるのかしら?)

(  ゚ω゚)(ロープ忘れたwwwwwwwwwwww)

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:28:20.92 ID:OBeEal1u0
ブーンは手に何も持たず、再び尖塔の下へ戻る。
嫌な予感がツンの脳裏を過る。



ξ;゚听)ξ「……」

(;^ω^)(ごめーん! ロープ忘れた!!!!)

ξ#゚听)ξ「バッ、バカ!!! ほんと使えないわね!!!」


罵詈雑言の乱れうち、垂直落下。
ブーンも、ツンも、心の中で色んな感情が行き交って大騒ぎである。


( ^ω^)「ピコーン!」

ξ゚听)ξ「何よ! ふざけないで!」

( ^ω^)「そこから飛び降りるお! 僕が受け止めるから!」

ξ゚听)ξ「はぁ?」
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:31:32.69 ID:OBeEal1u0

ツンは半身を乗り出して地面を見る。 
一定の高さはある。飛び降りるのにためらうくらいの。
そして、ブーンの体躯。華奢な腕、頼りない表情。
駄目だ。とてもじゃないが飛び降りれない。


ξ;゚听)ξ「むっ、無理! 信用できない!」

(;^ω^)「大丈夫だおっ! さあ!」


――そのとき、草葉の陰から双方にとって聞き覚えがある声が。


「なるほど。そういうことだったのか」


( ;゚ω゚)「!? その声は!」


(´・ω・`) 「よっこらせっと」

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:34:22.98 ID:OBeEal1u0
ツンもブーンも、予想外の人物の出現に、目を丸くする。
特にツンは、鎧を脱いだショボンの姿を初めて目にしたのだった。


( ^ω^)「しょ、ショボンさん」

(´・ω・`) 「ロープならここにあるぞ。しかも鉤爪付き」

( ^ω^)「あ、ありがとうございますお……」

(;^ω^)(こんなに素直に受け取っていいのかな?)


ブーンはロープを手渡され、爪の付いているほうを垂らし、ひゅんひゅんと回す。
そして勢いよく尖塔の窓へと放った。運よく、一度で爪が石壁の縁に噛み付く。
ロープをピンと張り、ツンにゆっくり降りるよう指示した。


(´・ω・`) 「おー。馬の扱いも上手かったがロープの使い方もいいな」

( ^ω^)「そ、そうですか? ありがとうございますお」

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:36:20.35 ID:OBeEal1u0
ξ゚听)ξ「んしょ……」

ξ゚听)ξ「よっし!」



ツンは地に足を着ける。
そのときの足裏の感触が、非常に新鮮なものに覚えた。
そして、夜の町の澄んだ空気も。


ξ゚听)ξ「……」


向こうに見える町の出口から、一面に広がる水平線を見渡す。
自分は、今この瞬間から、あの向こうへと駆ける自由を、手に入れたのだ。
そう思うと、温い空気の中でも、身震いがする。


(;^ω^)「う、馬を勝手に使ってごめんなさいですお」

(´・ω・`) 「追放だ」

( ^ω^)「……」

(  ゚ω゚)
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:38:48.07 ID:OBeEal1u0
(;^ω^)「そ、そんなあ!! 土下座しますお! いっぱい雑用しますお!
       だからそれだけはー!!」

(´・ω・`) 「ならば、一つ条件がある」

( ^ω^)「な、なんですお!?」

ブーンとの会話を一旦保留し、ショボンはツンの方を向いた。


(´・ω・`) 「姫。若さゆえの挑戦、その目的地は?」


そんな言い方をされて、少し腹も立つ。
しかし、年長者に対しては落ち着いた口調で会話するツンであった。


ξ゚听)ξ「お姉さまのいるモラ皇国ですわ。一人で、お見舞いに行くのです」

ばっさりと切り捨てるショボン。

(´・ω・`) 「無理だ。無謀すぎる」

ξ;゚听)ξ「……」

54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:41:46.80 ID:OBeEal1u0
「しかしもう決断したこと」と、次なる言葉を放とうとする。
だが、それよりも早くショボンがブーンの肩を叩いた。


(´・ω・`) 「ブーン。姫をお守りするのだ。
      お前は今この瞬間から、ツン王女のプリンセスガードだ」

(;^ω^)「えっ……」


芯を持った声で、ツンは返答する。


「――嫌です」


(´・ω・`) 「むん?」

ξ )ξ「この旅は、自分一人の力でやり抜くと決めました。
      だから、プリンセスガードなんか、いらないんです」

しかし、その言葉をもショボンは勿論切り捨てる。
この姿勢の裏側には、年長者としての見解の確かさがあった。


(´・ω・`) 「無茶無謀は、必ずしも勇気に結びつかない」
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:43:47.83 ID:OBeEal1u0
ξ゚听)ξ「……」


(´・ω・`) 「どうせ自分の娘じゃないさ。冒険の一つや二つ、好きにすればいい
      だけど、君はただの女の子じゃない。背負っているものが違う
      今、君が道中で何かあったら、アラマキや、国民はどうなる? そのくらいの思考の深さもないのか?」


ξ )ξ「わかって…… いますわ……」

ξ )ξ「だけど……」


ツンの声が微かに震える。
こんなに強い口調で窘められたのは、生まれて初めてかもしれなかった。


(;^ω^)(おーこわ。 っつーか、姫様のお守りとして旅立つなら、
       それって追放と同じではwwwww)


ξ;゚听)ξ「だけどっ! 私は自分を試したいのです!」


ショボンに背を向け、踏み出す。
しかし、数歩歩いたところで、小石につまづき、盛大に転んでしまった。
ずでーん と。


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:45:48.17 ID:OBeEal1u0
(;^ω^)(あらら)

(´・ω・`) 「言わんこっちゃない。はじめの一歩で既に挫けているではないか」


ξ;;)ξ「う、う゛っ……」


その場に崩れるツンの元へ、ブーンが急いで駆け寄る。


――手を、差し伸べた。


( ^ω^)「ほら、立つんだお。ツン」


しかし、ツンはその手を払いのけた。


ξ;;)ξ「ばっ、馬鹿にしないでよ! 一人で立てるよ!! 子供じゃあるまいし!!」

59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:48:08.21 ID:OBeEal1u0
ξ )ξ「……」

(;^ω^)「……」


ブーンが、思い出したようにポケットから何かを取り出す。
それは、ハンカチだった。紋様は、ニコ王国特有の様式で、ここらでは見られない。


( ^ω^)つ□ 「涙、拭けお! 僕は人の泣き顔を見るのが嫌いなんだおっ」

ξ )ξ「……」


ツンは物凄い勢いでハンカチをブーンからもぎ取る。
そして、涙を拭った。 鼻もかんだ。
やはり自分は弱い存在だと思い知らされ、だが、それ以上に……


ショボン、ブーンの配慮が、心の支柱を揺らした。


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:50:27.04 ID:OBeEal1u0
(´・ω・`) 「中々有能なプリンセスガードじゃないか」

(´・ω・`) 「そんなお前にこれをやるよ」


ショボンは腰に携えた剣の鞘を解き、ブーンに手渡した。
ブーンはそれを受け取る。様々な意味を含んだ”重み”がブーンに伝わる。


( ^ω^)「これは……」

(´・ω・`) 「鋼の剣だ。私が若い頃使ったものだ。振り回すだけかもしれないが、持ってないよりはマシだろう?
      道中で何かしらに遭遇したとき、最後の手段として何かがないとな」

( ^ω^)「でも僕は、剣なんて……」


次に、ショボンは小冊子のようなものをブーンの胸に押し当てる。


(;^ω^)「うわっぷ!」

62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:52:58.71 ID:OBeEal1u0
(´・ω・`) 「剣の基本が記してある。
      それを読んで理解して実戦で使えるほど…… 剣の道は甘くないがな。
      これもまた、やはり、ないよりマシってやつだ」

(;^ω^)(剣かぁ…… 自信ないお)

ξ゚听)ξ「……」




泣きべそを拭った瞳で、ツンは青みがかかってきた空を見上げる。
その空は、「行ってらっしゃい」と、自分に語りかけてきたような気がした。
小さな声で、彼女は「行ってきます」と呟く。旅の、始まりだった。





自分の弱さを、知るために。そして、その弱さを、超える為に。





(続く)

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