4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:08:05.56 ID:OBeEal1u0
第二十話 犬と猫




敵の襲来。騒然となるモール族の住処。
ディガーは入り口から駆けつけた門番の一人に話を訊く。
門番は息を切らし、湿った鼻をひくひくとさせながら答えた。


( ●ш●)「ど、どうしたズラ。タロウ」

「し、侵入者だ。今、ジロウが食い止めている!」

( ●ш●)「なぜ侵入者と判断したズラ?」

「鎧に、”V”の文字が……!」


ミ,,゚Д゚彡「VIPの野郎だと……!?」

( ∵)「ヴぃっぷ!」


VIPが悪者だという認識は、砂漠のどこを訪ねても同じらしい。
僕は少し慄いた。ここは明かりが弱いから、思いっきり走ることはできないからだ。
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:11:52.95 ID:OBeEal1u0
( ∵)(うぅ。恐いなぁ)

僕は身震いをする。足元の細かい砂が、波紋のように揺れた。


ミ,,゚Д゚彡「どうしてVIPがこんなところに?」

(@●ш●)「VIPは以前からここを狙っていた…… 何度か襲撃されたこともある」

( ●ш●)「長老! 起きていたズラ? 危険だからここから逃げるズラ!」

長老は半身を起こし、機械のようにぎこちない動作でベッドを降りた。
非常事態にも関わらず、大欠伸と共に伸びをして、皺だらけの口元をうにゃうにゃさせている。

(@●ш●)「むおーっ。それでは、久方ぶりのランニングといこうか」

( ●ш●)「よし! スケサン! カクサン! 長老と共に奥へ!」

「「あいよ!」」


長老たちが去っていくのを見届けると、ディガーはその場にいたモールの一人から、スコップを借りる。
それで戦うつもりなんだ。長くて、硬そうで、叩かれたらヴィップの兵士でも痛いんじゃないかな。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:15:41.77 ID:OBeEal1u0
ミ,,゚Д゚彡「俺一人に任せな」

( ●ш●)「えっ?」

ミ,,゚Д゚彡「数時間前に野性に戻った性か、なんだか今も身体を動かしたくてしょうがないんだ」

( ●ш●)「しかし一人で行かせるのは…… しかも君は客人ズラ」

ミ,,゚Д゚彡「いいのさ。お前こそ、この集落の若いリーダーだろ? ここで死んだら誰が皆を束ねるんだ」

( ●ш●)「ううむ……」

ミ,,゚Д゚彡「俺には守るモノや失うモノが何もねぇ。いつ死んでもおかしくない一匹狼なのさ。いや、一匹猫か?」

フサは長老の家の入り口へと駆ける。 
僕は、ディガーの困った横顔を見てこう言った。

( ∵)「大丈夫だよ。フサはとっても強いんだ」

( ●ш●)「しかしズラ。今まで退散させてきたヴィップの連中は、みな雑魚の一般兵ばかりだったズラ」



(;●ш●)「そろそろ真打が登場してくるような気配ズラ……!!」




10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:18:28.50 ID:OBeEal1u0
逃げ惑うモール達の中、その場を動かない幾人かの男達をフサは見つける。
スコップが、通路の照明で光っていた。頬には、冷や汗が流れている。
その中の一人に、彼は話しかけた。



ミ,,゚Д゚彡「おい、お前。明かりを全て消してくれ」

「むっ? どうしてだ」

ミ,,゚Д゚彡「この明かりは歓迎のしるしだろ? VIPの兵士になんか、歓迎を示さなくてもいいじゃないか」

「そ、そうだな……」

ミ,,゚Д゚彡(それに、暗闇の戦いなら俺が圧倒的に有利さ……!!)


話しかけられたモールは、自分の背後にあった岩の壁をゆっくりと開いた。
ちょうど彼のところに、照明を制御する部屋が設けられていたのだ。

「消すどー!」

ミ,,゚Д゚彡「よし!」

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:22:27.81 ID:OBeEal1u0
瞬時にしてモール族の住処は真っ暗闇に包まれる。
猫形態になると瞳が光ってしまい、相手に存在を悟られてしまうかもしれない。
だからフサはまだ人間の姿のままでいた。入り口へと、駆ける。


※ ※ ※


( ∵)「わぁ! 真っ暗になっちゃった!」

( ○ш○)「サボテン君。僕らも早く逃げなきゃ」

( ∵)「やだ! ここでフサが戻ってくるのを待つんだ」

フサと離れ離れになりたくないという感情もあったし、
本当のところ、真っ暗な場所ではあまり動きたくないんだ。

( ○ш○)「そんなこと言ってもサボテン君! 強情を張っていても得るのは損ばかりズラ」

( ○ш○)「猫ちゃんはとても強いんズラ? だったら彼を信じて僕らは逃げるズラ」

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:24:52.61 ID:OBeEal1u0
( ∵)「……」

( ∵)「僕、サボテンだから暗闇の中だと動きが鈍くなっちゃうんだ」

( ∵)「だからさっきみたいに背負ってってくれるかい?」

ディガーはにっこりと笑い、大きな胸板を叩く。

( ○ш○)「任せておけズラ! よっしゃ、行くズラよ!」


僕はディガーの肩に乗せられ、その場所を後にした。
目を瞑って、フサの無事を願う。 
でも、負けたって勝ったって、また会えるんだ。だって二人は友達だもの。
まっ、猫になったフサは、誰からも負けないって、信じているけどね――


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:29:44.07 ID:OBeEal1u0
ミ,,゚Д゚彡(気配を感じる…… 居るな)


門の前に着いたフサ。 慎重に敵の存在を探っていく。
暗闇の中でもフサの目は効くが、どうやらその姿を確認できない。
どこかに隠れているのだろうと、彼の警戒心はいっそう強くなる。


ミ,,゚Д゚彡「……」

ミ,,゚Д゚彡「むっ」


足が何かに当たった。石の感触ではない。フサは屈んでその正体を見る。
モール族だ。きっと、侵入を食い止めていたというもう一人の門番だ。


ミ,,゚Д゚彡「ジロウか……? 俺だ。ネコミミのフサだ」

「うう……」
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:32:10.48 ID:OBeEal1u0
「目が、目が痛いよ……」

ミ,,゚Д゚彡「目?」

フサは前方で無造作に転がるゴーグルを発見した。そして、目の前で蹲(うずくま)るジロウ。


ミ,,゚Д゚彡「VIPめ。ゲスな真似しやがる」

「痛い…… 目が開けない……」

ミ,,゚Д゚彡「大丈夫だよ。もう照明は消した」

「うう……」


ゴーグルへと歩み寄り、それを拾おうとする。
しかし、それに手を伸ばした瞬間。ゴーグルはフサから逃げていった。


ミ,,゚Д゚彡「!?」

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:34:26.38 ID:OBeEal1u0
「これが欲しいのか?」

ミ,,゚Д゚彡「……!」


その言葉と共に、ゴーグルは人間の胸元あたりまで上昇した。
フサは、仕舞っていた爪をあらわにする。


ミ,,゚Д゚彡「オラッッ!!」


ゴーグルを持つ姿に向かって一閃。
エルダーが羽織っていた黒いマントが、細切れになって地に落ちた。
フサは振り返る。戦いの始まりだ。
双方、改めて敵と対峙したが、互いにその姿は完全な人間ではないと気付く。


  
∧_∧  
( ´_ゝ`)「その素早い動き。愚鈍なモール族ではないな
       しかし、このマントを切り裂いた爪を人間のものと考えるのも可笑しい」

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:37:01.51 ID:OBeEal1u0
ミ,,゚Д゚彡(兜から耳が突き出ている!! そして後ろ姿から伸びるのは尻尾……)

ミ,,゚Д゚彡「猫……」

ミ,,゚Д゚彡「いやっ」

ミ,,゚Д゚彡「イヌミミ族か!?」

エルダーはその言葉に応えるように耳をピクピクと震わす。
そして鞘からその刀身を現すは、黒曜石の剣。

( ´_ゝ`)「そういう貴様はどうやら薄汚いネコミミのようだな」

( ´_ゝ`)「差別と迫害を受けながら人間と群れ合っていればいいものを、なぜこんな辺鄙なところに」

ミ,,゚Д゚彡「黙れェェエ!!!」


飛び上がるフサの体躯。そして空中で一回転をし、エルダーへの顔面に目掛けて飛び掛る。
しかし、剣を持っていない左手のガントレットで、いとも簡単に弾き飛ばされた。
感情が先行した一打。速さと正確さが欠けていたのだ。

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:39:32.85 ID:OBeEal1u0
ミ,,゚Д゚彡「イヌミミなら暗闇でも楽勝だろう…… ケッ、別に得策でもなんでもなかったな」

ミ,,゚Д゚彡「しかしそれなら話は早い!」


いきり立つ体毛。破られる衣服。鋭さを増す牙と爪。
漆黒の空間に光るは、獣人と化したフサの眼球のみ。


ミ,,ΦДΦ彡「てめぇも犬になりな。その姿じゃ一分も持たずに死んじまうぜ」

( ´_ゝ`)「クッ。そんな野蛮な姿にわざわざ変身する必要など…… ないっ!!」


エルダー、技を繰り出す構えに入る。それが迎え撃つ類のものとは知らず、フサは突っ込む。
間合いを定め、剣は肉を絶つ。しかし、フサの一連の動きも疾風の如く。頬の肉を斬るに留まった。
ふとじわりと広がる痛みに気付くエルダー。首元から血が流れていた。
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:44:16.62 ID:OBeEal1u0

ミ,,ΦДΦ彡「フーッ。フーッ」


ネコミミの武術は「一撃必殺」 その鋭い爪で、相手の急所を的確に狙う。
頬を伝い、唇に辿り着いた血をぺろりと舐める。 
鉄の味がした。 戦の味だ。 フサは自分の中の野性がどんどん解放されていくことを感じていた。


( ´_ゝ`)「ふん」

( ´_ゝ`)(あと少しまともに入っていたら頚動脈だったッ!)


カウンター技で自分のほうが痛手を負うとは。
エルダーはフサの実力を正確に測りつつある。繰り出す陣を相応にする必要があった。
剣を両手に持ち直し、じりじりと間合いを詰めていく。


( ´_ゝ`)「……」

ミ,,ΦДΦ彡「……」
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:46:45.03 ID:OBeEal1u0
靴を破り捨て、露わになっていた猫の足。その爪先が一寸前に出る。
そのとき、エルダーの体勢は既に前のめり。斬撃の応酬だ。


( ´_ゝ`)「入ったァ!!」

ミ,,ΦДΦ彡「ぬあっ!!!」


後ずさりするフサ。肩をぱっくりとやられていた。
血は流れる。一滴、一滴、物凄い速さで地へ落ちていく。
一撃必殺で殺すか、幾多の傷を付け殺すか。犬と猫の戦法の違いが現れていた。



フサはよろけながらもその身を立て、獰猛な獣の瞳をぎろりと輝かせる。



ミ,,ΦДΦ彡「ふん。こんなもの、なんともないぜっ!!」


( ´_ゝ`)(虚勢!発声! どれもが戦には無駄なアクション! 死ね!)


エルダーの二打目が入る。 しかし、フサは虚勢を張っておきながら、その行動を囮にしていたのだ。 
太刀を見抜き、横の動きでそれを回避する。

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:49:21.85 ID:OBeEal1u0
( ´_ゝ`)「なっ……!」


大振りの一撃だった。 これで止めを刺そうとしていたのだろう。
しかし、回避されたことによりサイドががら空きになる。
フサはエルダーの鎧と鎧の隙間、皮膚が露わになっているところを目掛けて鉄拳を食らわす。

(;´_ゝ`)「ぐおっ!」

ミ,,ΦДΦ彡「爪の相乗効果で致命傷だ!」

( ´_ゝ`)「なんのっ!」


エルダーは水平に剣を振る。フサはたやすくジャンプでそれを回避。
そこからまた飛び掛るようにムーンサルト攻撃を繰り出すが、やはり逆に反撃される。
太刀は胴をとらえ、フサは血を垂れ流しながら行動するのとなんら変わりなくなった。

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:52:00.61 ID:OBeEal1u0
ミ,,ΦДΦ彡「うーっ……」

( ´_ゝ`)(どうだ? いくらタフといえど、それだけの出血では立っていられないだろう)


ミ,,ΦДΦ彡「も、もう駄目だ」

フサはその場に倒れ、大の字になる。
とどめを刺してくれと言わんばかりに、闘気を鎮めていた。
エルダーほどの武将ならば、これは罠かどうかという判断を必ず思考する。


――降参だと、判断した。


ミ,,-Д-彡「……」


( ´_ゝ`)「ふっ」


エルダーは沈んだ体躯に歩み寄る。攻撃を仕掛けてくる気配は、微塵も感じられない。
やや苦戦したが、それでも自分の相手ではなかったと、安堵の気分が身体を駆け巡る。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:54:24.88 ID:OBeEal1u0
( ´_ゝ`)「死ねっ!」


剣を体躯へと垂直に突き刺そうとする。
……だがしかし、フサは間一髪でそれを転がり避けた。
ここまでは、エルダーの想定の範囲内。すぐに次の手を用意しようとする。

しかし、それよりも速く――


( ´_ゝ`)「飛んだ!?」


ネコミミ族の利点は身の軽やかさにもあった。
元々身体能力が高く、そしてそれを最大限に引き出せるような体の仕組みが出来ている。
伏せた状態から、瞬時に飛び上がることなど朝飯前であった。



ミ,,ΦДΦ彡「今度こそ喰らえ!!!!」



三度目のムーンサルト。今度は確実にエルダーを捕らえた。吹き飛ばされる白銀の体躯。
吐血するエルダー。動揺を隠し切れず、頬には一筋の汗が流れる。
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:57:33.08 ID:OBeEal1u0
( ´_ゝ`)(……っち。甘く見過ぎていたか?)


手を口元にやり、血を拭うふりをしてエルダーは口笛を吹く。



ミ,,ΦДΦ彡「……?」


――影が、蠢く。


「兄者。いい戦い振りだったよ」



ミ,,ΦДΦ彡「!!!! ……ウッ」

ミ,, Д 彡「……」


何者かに後頭部を強打された。
ただでさえ体力を消耗していたフサは、今度こそ完全に地に伏せる。

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 22:59:15.59 ID:OBeEal1u0
( ´_ゝ`)「それ、嫌味か?」

(´<_` )「まさか」


背後に浮かび上がる第二の剣士。
そう、ヤンガだ。 フサは彼の存在を見抜けずに、エルダーとの戦いに集中していた。
その時点で敗北は決定していたのかもしれない。
悔しさが、薄れていく意識の中でいっぱいになる。涙はでないが、眉間に皺は出来た。
強張った表情のまま、昏睡状態となった。



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/06(金) 23:02:31.33 ID:OBeEal1u0

エルダーは剣についた血を拭き、鞘に収めると、フサを見下しながら一言呟く。


( ´_ゝ`)「そいつ、まだ生きてるか?」

(´<_` )「ああ。僅かに息がある」

( ´_ゝ`)「……VIPに連れていこう。面白いことを思いついたんだ」

(´<_` )「え?」

( ´_ゝ`)「頭部をよく見てみな」

(´<_` )「耳がないね……」



( ´_ゝ`)「無理に人間と同じ位置につこうとするからこうなるのさ。
       やはり亜人は自己の強さを持ち、それよりももっと強い存在に付き従うのが一番正しい生き方だ。
       見てみなこの哀れな姿。ふふ。こいつは利用できそうだ……」



暗闇の空間で、エルダーの不敵な笑みが響く。
”従属”の亜人、イヌミミ。一人ではなく、いつもタッグや群れをなして戦いを行うのも特徴の一つか。


(続く)

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