- 3
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 20:43:39.20 ID:fGRMSVXA0
- 第十八話 モグラのネグラ
果てしなく続くように思えた一面の砂漠色。
それが一旦途絶えたことに僕は気がついた。
一列になって高い壁が並んでいる。壁の灰色は、砂漠の景色にとっては異質だった。
同じ地味な色とはいえども、何か人工的な感じを思わせるんだ。
( ∵)「ねえフサ、あれ何?」
ミ,,゚Д゚彡「関所だな」
( ∵)「せきしょ?」
ミ,,゚Д゚彡「モール族の住処はVIP領にあるんだ」
( ∵)「じゃああそこを通らなきゃいけないの? VIPはワルモノだよ。大丈夫なの?」
ミ,,゚Д゚彡「ところがどっこい」
フサはハンドルを右に切った。振り飛ばされそうになる僕の体躯。
- 5
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 20:46:22.80 ID:fGRMSVXA0
- ( ∵)「フサー。せきしょは真っ直ぐだよ。どうして曲がるの?」
ミ,,゚Д゚彡「地下道があるのさ」
( ∵)「?」
太陽の方向へと進路変更して進む船。
少しすると、僕は向こうの砂地がところどころ窪んでいるのに気がついた。
( ∵)「なんだか、穴っぽこが沢山あるよ」
ミ,,゚Д゚彡「地下道の入り口だよ」
( ∵)「ふうん」
穴っぽこ通りの真ん中らへんで、ホバーボートは止まった。
フサは機体から降り、一番大きいと思われる窪みへと歩み寄る。
( ∵)「危ないよフサ。なんだか、それ、でっかいアリジゴクみたいじゃないか」
ミ,,゚Д゚彡「へえ、お前蟻地獄知ってるんだ」
- 6
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 20:48:56.94 ID:fGRMSVXA0
- 知ってるさ。僕が生まれた炎天下の砂漠地帯じゃお目にかかれないけど、
レイラ城の塀の陰みたいな、さらさらした砂のところにそいつらは居る。
這い上がれない落とし穴作って、小さな虫を捕まえて食べるんだ。なかなか巧妙な奴等。
( ∵)「フサは食べられちゃうのー?」
砂穴の淵に立ち、フサは何をするかと思えば、
唇に指をあててのどかな口笛を吹き始めた。そして、地面が少しだけ揺れたのを僕は感じ取る。
( ∵)「……?」
振り返ってフサは僕に手招きをした。
ミ,,゚Д゚彡「こっち来てみろよ」
- 9
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 20:53:28.94 ID:fGRMSVXA0
- 巨大な巣の中心から、主の頭部がちょこんと飛び出している。
ガラスのような眼はギロリとこちらを向いた。
そして、ハサミのような牙を自慢げにシャキシャキと動かす。ものすんごい大きさだ。
( ∵)「アリジゴクの親玉だね」
ミ,,゚Д゚彡「ああ。こいつが地下道関所の門番さ」
( ∵)「地下道にも門番はいるんだ…… それじゃげんなりじゃないか」
ミ,,゚Д゚彡「だがこいつは人間よりも融通が聞くんだぜ」
そして、フサはその場に中腰になる。目線はアリジゴクのガラスの眼をじっと指していた。
ただただ、見つめている。
ミ,,゚Д゚彡「こうやってな。アイコンタクトをするのが意思の伝達方法さ」
ミ,,゚Д゚彡「敵意を鎮め、目的を解し、その頭をひっこめてくれるはずだ」
- 11
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 20:57:03.96 ID:fGRMSVXA0
( ∵)「そうなんだ」
ミ,,゚Д゚彡「ああ」
ミ,,゚Д゚彡「……」
ミ,,゚Д゚彡「…………」
僕は、少し暇だなあとさえ感じてきた。
でも、迂闊に動いて彼らの餌になったらいけないから、この場にじっとしている。
一方フサといえば、まだアリジゴクと”イシソツウ”をしている。
フサの身体くらいある、突き出た牙。こんな凶暴そうな奴は本当にここを通してくれるのだろうか。
( ∵)「?」
アリジゴクは頭を引っ込める気配を見せない。
それどころか……
( ∵)「ねえねえ、段々身をのりだしてない?」
- 13
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:00:21.79 ID:fGRMSVXA0
ミ,,゚Д゚彡「ま、さ、か……」
「キシャァァアアゴオォオオ!!!」
次の瞬間、物凄い速さで巨大アリジゴクはその身を地上に表す。
まるで飛びつくように、巣の淵に向かってその猛牙を振るった。
間一髪で横っとびするフサ。
僕はなんだかおっかないから、五歩後ろに下がったよ。
「アグルルルル……」
ミ,,゚Д゚彡「うーむ。おかしいな。顔見知りなのにな。
門番係の人事異動か? ……それとも」
フサの後姿。首筋から薄らと獣の毛が生えてきた。
固めた拳の爪は長く鋭利になり、穿いていた靴は後ろ蹴りのようにして僕のほうへ脱ぎ捨てられた。
かかとの部分から微かに見える肉球。触ったらちょっと気持ち良さそう。
ミ,,ΦДΦ彡「俺を誰だか忘れちまったか? この野郎」
- 15
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:04:32.35 ID:fGRMSVXA0
- 本当のフサだ。
ヒカリオオワシが現れたときに見せてくれた。
猫の、強い姿の、フサだ。
きっとあっという間にやっつけてくれるだろうと、
僕は安心して二歩半前に進む。
「アグルルルルルラァアアアア!!!!」
ミ,,ΦДΦ彡「おっと!」
ほとんどその体躯をあらわにしたアリジゴク。
爪や牙は太く鋭く、喰らったらとても痛そうだ。そして、ラクダ五頭分くらい吹っ飛ばされそう。
だけど、スイングが大きいのか、フサはまるで踊りを舞うかのごとく、ひらりひらりとかわしていく。
( ∵)「さっきからよけてばかり! やっつけないの?」
ミ,,ΦДΦ彡「こいつは殺す必要はないよ」
- 17
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:06:57.35 ID:fGRMSVXA0
その言葉を発した直後。
フサの下半身を掬うようにして、巨大な牙が彼を襲った。
少しタイミング早めにジャンプ! そして、なんとフサは牙の上にしがみ付いた。
( ∵)「わわわ! おっかない! 早く、早く立ち上がらないとまっぷたつー!」
牙が閉じる運動リズムより、本当に微かなタイミングで、
フサはまたそこから、ひょいっとアリジゴクの頭部に乗っかった。
ここなら奴の死角。大きな牙も、鋭い爪も届かない。
ミ,,ΦДΦ彡「フサ様のヒジテツを喰らえ!」
アリジゴクの眼と眼の間に、フサの強烈な一撃が当たった。
その身をよろけさせながら、ゆっくりと根元から体躯は砂に沈んでいく。
アリジゴクは、小さな声で「キュウーー」と鳴いている。
可愛い声だ。なるほど、確かに殺す必要はないかもしれない。
一方、フサは華麗にバック宙をして僕の足元に着地。ふと顔を見たら、またいつもフサに戻っていた。
- 22
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:13:34.25 ID:fGRMSVXA0
- 「キュウー」
「……」
アリジゴクは弱弱しくその身をもたげ、もそもそと地底へと帰っていった。
僕は大地が微かに揺れたのをまた感じ取る。僕の足元の下で、蠢いているんだ。
ミ,,゚Д゚彡「退散した。よし、手荒かったがここを通させてもらうぜ」
⊂( ∵)⊃「んー」
ミ,,゚Д゚彡「何やってんだよ。両腕広げて」
( ∵)「最後に太陽の光をいっぱい浴びておこうと思って」
ミ,,゚Д゚彡「大丈夫だって。行こう」
僕らは再びホバーボートに乗り込んだ。
流砂に突っ込むように前進。ずぶずぶと砂の海に溺れていくようにただ前進。
僕は全然平気だけど、フサは砂がかかるからってホロを付けて進んでいく。
ところで、僕はちょっとだけ嬉しかったんだ。
僕のこの二つのフシを、フサは「腕」って呼んでくれたからね……
- 25
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:19:24.46 ID:VkL2ZvVM0
- ※
地下の空洞トンネルをしばらく進んでいた。真っ暗で、ひんやりで、あまり好きじゃないな。
この空間ではっきりと見えるのは、フサの丸く光った瞳だけ。
( ∵)「ねぇー。これどこまで続くの?」
ミ,,゚Д゚彡「もうすぐだと思うんだが……」
そう言ったあと、フサはいきなりブレーキを踏み込む。
急ブレーキは嫌いだ。体がふき飛ばされそうになるからね。
案の定僕は前のめりになって車体からはじかれる。宙を舞う。
( ∴)「あーれー」
うん? 何かとぶつかった。
「あいだっ!」
ミ,,゚Д゚彡「むっ。 人の声?」
- 27
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:22:43.37 ID:VkL2ZvVM0
- どうやら人とぶつかったらしい。そいつは僕の首根っこを掴む。
痛がらない。植物の棘なんか、もろともしない厚い皮膚の手を持っているようだ。
こんな地面の下に人間がいるとは思えないし、もしかして?
( ○ш○)「何ズラ? なんだかトゲトゲするズラ。あっ、これはサボテンズラね。」
( ∵)「ぼっ、僕はサボテンのビコーズだよ! 離して!」
( ○ш○)「喋るサボテンなんて珍しいズラ。食べたら美味しいかな?」
ミ,,゚Д゚彡「おーい。俺だ。ネコミミ族のフサだよ。そいつは友達だから離してやってくれ」
(○ш○ )「ぬぅん?」
フサの声を聞くなり、そいつは僕を地面にどさっと落とした。
なんだい僕をモノのように。ちょっとだけ苛立つ。
(○ш○ )「聞き覚えがある名前ズラ」
- 29
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:26:44.95 ID:VkL2ZvVM0
- ミ,,゚Д゚彡「だから、ネコミミ族のフサだってば。ここには三回くらい訪れたぞ。アジトも造ってもらったし」
( ○ш○)b 「ぬごっ! 思い出したズラ!」
ミ,,゚Д゚彡「ふうっ」
( ○ш○)「それで猫ちゃんが今日は何の用ズラ?」
またホバーボートのエンジンの鳴き声が聞こえ始めた。
ミ,,゚Д゚彡「つもるはなしは集落に着いてからだ。とりあえず道案内してくれないか。
あと少し進むと、確か別れ道があるだろう? ここは真っ暗だし、いつもそこで迷ってしまうんだ
いくらネコミミ族といえども、お前等みたいに完全に暗闇の中を把握できるわけじゃないんだぜ?」
( ○ш○)「なるほどーん? おっけーズラ。僕についてくるズラ」
( ○ш○)「レッツゴーズラ!」
( ∵)「ねぇフサ、もしかしてコイツが」
( ∵)「どわー!」
やっと身体を起こしたと思ったら、今度は踏み出した足で思い切り蹴られた! また吹っ飛ばされた!
なんて思いやりがなくてガサツがない奴。僕はモール族が少し嫌いになった。
- 31
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:30:06.27 ID:VkL2ZvVM0
- ( ○ш○)「おおっ、サボテン君! すまなかったズラ。まさか足元にいたなんて」
( ∵)「ふんだ!」
僕はむくれた調子でモールの横側に退けた。
( ○ш○)「おわびに家へ帰ったらモールマイス名物の岩石飴をあげるズラ。だからさあ早く帰ろうズラ」
( ∵)「食べ物なんかにつられないもん。僕は植物だしね」
( ∵)「フサー! 僕、一人で先に行っちゃうからね!」
ミ,,゚Д゚彡「はは。どうぞお先に」
暗闇の中をぴょこぴょこと歩く。なんとかなるさ。この節穴の目は…… 中々……
……
( ∵)「いてっ!」
ミ,,゚Д゚彡「はっはっは! 何度つまづいているんだビコーズ? お前一人じゃここは無理だ」
- 32
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:34:27.23 ID:VkL2ZvVM0
- ( ∵)「むぅ」
( ○ш○)「とゆーわけズラ。ア、よっこらせっと」
僕は半ば強制的にモールに担ぎ上げられる。
太い腕、広い肩。 筋骨隆々な体格をしているのだと気付く。
ここに漂う空気は冷ややかだけど、モールの身体は熱が篭っていて温かい。
まあ、さっきの件は故意ではないとして、うん。
いい奴そうだし、僕のむくれた気持ちは段々しぼんでいった。
ミ,,゚Д゚彡「おっ、ここか? 地下の交差点」
( ○ш○)「そうズラ。右に行ってしまうとアウトズラ
VIP都護府のとても近くに出てしまうズラ」
ミ,,゚Д゚彡「あぶねえ…… 道端にお前がいて良かったよ」
( ○ш○)「左に行くと堂々巡りズラ。真っ直ぐ行くとまた違う地上の入り口ズラ」
ミ,,゚Д゚彡「というと残された道はこの左斜めの道だな。」
( ○ш○)「すぐ着くズラ」
- 35
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:44:50.67 ID:kgcp/TZT0
- ※
モールの身体は温かい。
だけど、ずっとこうして丸太みたいに扱われるのも、しんどい。
( ∵)「ねえモグラさん。まだ着かないの?」
( ○ш○)「着いたズラ」
( ∵)「……真っ暗で分からないよ」
モールは大きく息を吸い込んだ。筋肉で盛り上がった肩がさらに浮く。
そして、思わず耳を塞ぎたくなるほどの大声が、地下内に轟いた。
( ○ш○)「客人ズラーーー!!!!!!! ゴーグル付けろぉおお!!!! 灯りを点せぇえええ!!!!」
- 36
名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/28(土) 21:46:20.98 ID:kgcp/TZT0
- その声が響くなり、一斉に何かが蠢く音がそこかしこから聞こえた。
そして火の玉がぽつぽつと現れ、それらは通路の壁に寄るように集まる。
僕はなんだか胸がドキドキした。ふと目を瞑り、そしてもう一度開けると……
真っ暗な地下が、一瞬にして仄かな煌きを発し始めた。
くっきりと現れるモグラさん達の姿格好。火の玉の正体は、松明を持ったモグラさん達だったのだ。
ミ,,>Д<彡「まぶしっ!! 別に灯りなんか付けなくて良かったのによぉ」
( ●ш●)「いいや。お客が来たら道に灯りを点すのは、モール族の礼儀ズラ」
( ●ш●)「それにサボテン君は真っ暗じゃ困るだろうしね!」
( ∵)「わぁー…… ありがとうモグラさん。すごい。すごいや。地下ってこんなに面白そうなところだったんだ!」
色々な形に切り取られた岩々。地上じゃ見られない色をしている石壁。
そして何よりモグラさんたち。大きな身体に面白い顔。灰色の顔。
( ●ш●)「さあて、長老を呼んでくるズラ。ここで待ってるズラ。今夜は宴ズラ!」
(続く)
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