50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:30:12.28 ID:QlZq9i7P0
第十四話 上は洪水・下は大火事(後)



姿を現す異形。 地を這うような低い声で、ドクオに喋りかける。


「ナゼ、オレ レイラ王ジャナイッテ ワカッタ?」

「ダレニモ ワカラナイハズナンダ。ダレニモ」

「ダッテオレサマ マホウヘイナンダ。コノヨデ イチバンツヨイ、ソンザイナンダ」

「オレハ、チカラモツヨイシ、”マホウ”ダッテツカエルンダゼ?」

「コノシロニ、マヤカシヲカケタノモ オレサ」

「……ソウダ!!! キサマラハ、ドウシテココマデ、タドリツケタンダ!!! オカシイ!!!」

「アサピサマガ、イッテクダサッタ。オマエノ、コノ、マヤカシハ、ダレニモトケヤシナイ トナ」

「キサマハ イッタイ ナニモノダァアアア!!!!!!!!」



('A`)「……」


ドクオは少しも表情を変えない。
それどころか、後ろを振り返ってツンのほうへと進んでいった。
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:34:16.21 ID:QlZq9i7P0
「フン! キサマ、ソレデハ、オレニ ”コロシテクダサイ”ト イッテイルヨウナモノダ!」

「シネ!」


ドクオの背後に凶牙が襲い掛かる。しかし、喰らう直前の距離で、跳んだ。

「……ナッ」

重厚そうな鎧をもろともせず、逆に魔法兵のバックを取るドクオ。
そこから剣を抜き、敵の胴を貫くまで、”一瞬”としか形容できないほどの時間しか、経っていない。


「ウギャァアアアアアアアウウウウ!!!」


冷たい地面に、音を立てて沈む巨体。ドクオは再びツンの方へと進行する。
そして、彼女を抱き上げ、戦火が及ばないであろう隅の場所へと連れていった。
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:37:00.39 ID:QlZq9i7P0
ドクオは、王が居た小部屋へと戻る。


……そのとき、魔法兵は起き上がっていた。



「グフフ…… ヤハリ オレハツヨイ」

「ソウサ マホウヘイハ フロウフシ」

「ダガ コブシ デハ キサマヲ トラエラレナイヨウダ」



そう言って、魔法兵は痰を溜めるように喉の奥を鳴らした。
そして吐き出す。 所謂、火炎放射がドクオの体躯に浴びせられた。


「ゴハハハ!! ヤケロ! ヤケロ! ニンゲンハ、ホノオニヨワイ!」


ドクオは火炎に包まれる。しかし、ぴくりとも動かない。
熱そうな表情すら見せない。どうやら、纏っている鎧が関係していると推測できる。
それでも、魔法兵は高笑いをしながら炎を吐き続ける。


炎の中、ドクオが身を屈め、ゆっくりと前進していることも知らずに。
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:41:33.74 ID:QlZq9i7P0
「ゴハハ!……   ングッ!!!???」


('A`)「……」


――ドクオの剣は再び兵を貫いていた。
今度は、口から脳天へと一直線の、太刀。


「アグァアァァァアアアアアア!!!!!!!!」


「ガァッ! グガア゛アッ!! ヌ゛ゲ! ヌ゛ケ゛ェエ゛エエ゛!!!」


激しく痛覚を揺さぶられる魔法兵。急所を捕らえたらしい。
ドクオはゆっくりと剣を差し抜いた。崩壊寸前の体躯が、足元に沈む。


「ガァッ…… ガアッッ……」

「ナゼ…… オレハ…… ツヨカッタノデハ ナカッタノカ」
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:43:55.70 ID:QlZq9i7P0
朦朧とした意識の中、魔法兵はドクオの顔を見上げる。
少しも目を合わそうとしない。 ただ押し黙って、帰り道の方を向くだけだ。
その態度がつれないのだろうか、魔法兵は思わず口を開く。


「オイ……」

「グググ。コレデハ、シャベリヅライ」

兵は喉元を捻る。声色を、人間(レイラ王)にするためだ。


「おい、貴様……」

「俺は……」


('A`)「……」




 俺は、お前等みたいに”生まれた”んじゃない、”造られた”んだ。

 これがどういうことだか分かるかい。

 俺という自我がある日、ポッと出て湧いたのさ。
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:46:29.43 ID:QlZq9i7P0

 そして、目覚めたばかりの俺に、俺を造ったヤツは言った。

 「お前は地上で一番強い存在だ」 とな。

 俺はそんなこと言われても何のことだかさっぱり分からなかったよ。

 だから黙っていたら、「喜べ」と言われた。

 「喜ぶ」とはどういうことだと訊いたら、笑うことだと言われた。

 では「笑う」とは何なのだと訊いたら、そいつは「笑う」動作をした。

 間抜けな顔だと思った。 だが俺も真似してみたんだ。

 ……中々いい気持ちだったよ。

63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:47:46.38 ID:QlZq9i7P0
ξ-听)ξ「ん……」

ξ゚听)ξ(お父様の声?)



 街を行く子供たちや、鼻歌交じりの工場の男たち。

 俺はそいつらに密かに憧れていたよ。

 いつでもニコニコとしていたからな。

 だが、”造られていた”俺に課せられていたのは、殺し、殺し、殺戮だらけだ。

 ちっとも笑えないよ。

 そうさ。俺という自我を成り立たせていたのは、この強さ、だけだ!!

 しかし、それも今この瞬間、あっけなく崩れ去ってしまったんだ。

 なあ、ならば、


ウグ! ゴッホ! ゴッホ!

64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:49:16.88 ID:QlZq9i7P0
('A`)「……」

ξ;゚听)ξ(なんなの!? あの怪物は……)



ゴホ……

ナラバ、オレハドウシテ、コノ ダイチニ アラワレタンダ?





     オレハナンノタメニ ソンザイ シテイタンダ!!!




「グフフ…… マアイイ」

「オレハ シッパイ シタガ、ジョウナイノ ヤツラハ、ドウダ?」

「アヤツラレテイル ホンモノノ オウサマヲ オヤダマト カンチガイシテ」

「ブッコロシテルカモナア!!! グハハハハハハ!!!!」
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:50:49.12 ID:QlZq9i7P0
(くそ…… どうしてこんなときだけしか、笑えないんだ!)

(……ん? なんだこれは)

(……そうか、これがアサピー様がおっしゃっていた”涙”か)

(今度生まれてくるときは…… ちゃんとした、”イキモノ”に……)



怪物の巨大な眼球。その瞳孔は完全に開いた。
それを確認すると、ドクオは剣をしまって、ツンの元へ歩み寄る。

ξ゚听)ξ「……」





状況をなんとなく理解した彼女の表情は、沈んでいた。

慰めの言葉の一つもかけず、ドクオはただ帰路を進む。

彼にはそれしかできなかった。

自分の不甲斐なさから染み出る涙を堪えて、ツンはそれについて行く。

彼女にはそれしかできなかった。



67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:52:39.92 ID:QlZq9i7P0



(´・ω・`) 「盲点だったっ! まさか扉以外も”ワープゾーン”になっていたとはな!」

川 ゚ -゚)「小腹が空いたと言って、食料庫の黄色い壺を開けたことが功を奏しましたね」

(;´・ω・`) 「だが…… この階段はいつまで続く?」



まやかしを掻い潜り、なんとか三階へと階段を登る突撃班。
しかし、次の幻惑が彼らを妨害する。
まるで果てが無いかのような長さに、階段が変容しているのだ。
いや、きっと果てが無いのである。しかし二人にはもう走るしか術はなかった。


(;´・ω・`) 「はぁはぁ…… くっ。年を取ったな」

川 ゚ -゚)(ドクオ達は上手くやっているだろうか? もう王を救出しただろうか?)

川 ゚ -゚)「……ん?」


川 ゚ -゚)「ショボンさん! 扉が目の前に現れました! まやかしが解けたのです!」
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:54:06.69 ID:QlZq9i7P0
天井を仰いでいた目線を下げると、確かに扉はそこにあった。
両扉造りの立派な拵えだ。


(´・ω・`) 「まるで我々の徒労を馬鹿にするかの如くひょっこり現れたな」

(´・ω・`) 「なぜ、ここにきて永遠回廊が途切れたと思う?」

川 ゚ -゚)「敵の親玉が”早くかかってきな” と挑発しているのでは」

ショボンはにやりと笑った。

(´・ω・`) 「同感だ」


(´・ω・`) 「三階に着いたらすぐに王の間だ! 行くぞ!」


勢いよく窓を叩く。
南中した昼の太陽の光が、窓から差し込んで眩しい。
二人は駆ける。すんなりと王の間の前まで辿り着いた。
もはや城にかけられていた幻惑は、完全に解かれたようだ。

70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:55:24.69 ID:QlZq9i7P0
ショボンは深呼吸をして呟いた。

(´・ω・`) 「この扉の前。レイラの国に仕えていたころを思い出すよ」

川 ゚ -゚)「なぜ今はレジスタンスの長を?」

(´・ω・`) 「その話はまた、いつかな」

もう一度、大きく深呼吸をして、扉を開く。
ゆっくりと絨毯の上を進んでいく。
その先には、真っ青な顔をした敵の親玉が、悠然と待ち構えていた。



/ ,' 3 「……」

(´・ω・`) 「おいでなすったかレイラ王…… いや、化けているんだろう?」

(´・ω・`) 「魔法兵とやらの実力を見せてもらおう!」


そう言ってショボンは剣を抜く。 鋼の刀身が太陽に照らされ輝く。
クーに背中を向け、喋りかける。

「おい、クー」

71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:56:46.26 ID:QlZq9i7P0
川 ゚ -゚)「はっ」

「お前の魔法は治癒の力もあるのだろう」

川 ゚ -゚)「ええ」

「ならばお前の魔法力はそれにとっておけ! まずは俺一人で戦う!」

川 ゚ -゚)「了解。私は必要に応じて援護射撃を…… 小火球弾を用いて行います」

そう言うクーの五本の指には、早くも第一陣、
つまり一本一本の指に、火球が蓄えられていた。




/ ,' 3 「……」

一方親玉は、すごみを効かせてショボンを睨んだ後に、ゆっくりと剣を抜いた。
黄金に煌くフルーレ。
だが、構えが少しもそれになっていないのが、ショボンにとって気になった。

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:57:58.13 ID:QlZq9i7P0
(´・ω・`) 「魔法兵よ。剣っていうのはただ振り回すだけじゃないんだぜ」

(´・ω・`) 「……こうするんだっ!」


一気に間合いを詰める。この隙の多さならば一撃で仕留められると直感したからだ。
しかし、反射的に親玉は太刀を防御する。
完璧に塞がれたショボンの第一手。


(;´・ω・`) (ぬっ! あの構えからどうしてこの動きが出る!?)

(;´・ω・`) (実はやり手か……)

/ ,' 3 「……」

(;´・ω・`) 「……」


川;゚ -゚)(回り込んで撃ち込むか……?)



(;´・ω・`) 「……!!」
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 00:59:44.37 ID:QlZq9i7P0
ショボンの疑念を、とある発見が覆す。
その発見は、彼に笑みすら浮かばせるものであった。


「クーよ! 撃つな!」


川 ゚ -゚)「!!」


クーはその指示がなければ、二秒後に火球を発射していた。
咄嗟に腕を下ろし、ショボンの表情の変化から戦局の流れを思考する。
……思考不可能。 一体、彼は何を発見したのだろうか。


(´・ω・`) 「もう少しで首をたたっきるところだった」

(´・ω・`) 「クー! 水だ! 思いっっっきりこいつに水を浴びせろっ!」

川 ゚ -゚)「み、水!? 私の魔力では、水鉄砲で擦り傷を作らせるくらいしか……」

(´・ω・`) 「水鉄砲じゃなくていいんだ! バケツの水をぶっかけるように、早く!」
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 01:01:39.91 ID:QlZq9i7P0
川 ゚ -゚)「了解!」


クーは掌に巨大な水球を創る。
魔力の膜で覆われていて、それが物体に衝突すると中身の水が溢れる。
いわば水ヨーヨーのような仕組みだ。


/ ,' 3 「!!」

(´・ω・`) 「おっと!」


親玉の攻撃意識は変わらず。むしろ先程より激しくなっていた。
ショボンは手を出さない。必死で受け流しつつ、何かの機を待っている。


(´・ω・`) 「その手…… その足の運び…… 操られていても出ちまうな」

川 ゚ -゚)「!?」

(´・ω・`) 「お前は酒に弱いから、一緒に酒盛りをしたときは、いつも泥酔して眠ってしまう」

(´・ω・`) 「だから、私が水をぶっかけて、城まで背負って運んだものさ」


喋りながらも巧みに太刀はかわす。
まるで相手の次の手が分かっているように。
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 01:03:11.11 ID:QlZq9i7P0
川 ゚ -゚)「いきます! 伏せてください!」

「豪快にぶちまけてやれ!」


水球が、操られているレイラ王目掛けて発射される。
ちょうど顔面に直撃し、一寸ひるむ体躯。
その隙を狙い、水飛沫の中、懐にショボンは飛び込んだ。


崩れ落ちる身体に、ショボンは馬乗りになった。
びしょ濡れになった彼に、クーが言葉をかける。


川 ゚ -゚)「もしやそいつは本物のレイラ王ですか!?」

「ああ。フルーレの癖がそっくりだ」

「それに…… 両耳たぶに一個ずつ黒子がある」

「魔法兵も、さすがにここまでコピーできないだろう!」


川 ゚ -゚)「ならばどうやって我を取り戻させるのですか!?」

(´・ω・`) 「ふっ」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/15(日) 01:06:17.80 ID:QlZq9i7P0
(´・ω・`) 「水をぶっかけても酔いから覚めないとき、私はどうしたと思うね?」

川;゚ -゚)「……」

(´・ω・`)つ 「平手打ちさ! 2、3回ベチンベチンとやると、否が応でも目覚める!」

そう言ってショボンは、腕を高く振り上げ、手をパーにする。
……しかし、すぐに掌を閉じた。


川 ゚ -゚)「まさか」

ショボンはクーの方を向き、にんまりと笑った。

(´・ω・`) 「娘や国民に多大なる迷惑をかけおって」

(´・ω・`) 「悪酔いだから、グーだ!!!」





鈍い音が城の上から響く。
レイラ奪還は、ひとまず成功として幕を閉じた。





(続く)

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