4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/21(金) 23:58:07.97 ID:jviwgyL10
第十二話 不思議地下牢








ショボンとクーの突撃班が城へ突入した頃、ツンとドクオの潜入班も地下へと潜っていた。
ツンは地下の間取りを正確に覚えている。途中によほど厄介なことでもなければ、容易く父のもとへ辿り付ける筈だ。
彼女はそう思っていた。 しかし…


ξ;゚听)ξ「…」

地下に降りて数十分。彼女の頬を嫌な汗が伝った。
背中を冷たい風が唆(そそのか)す。


ξ゚听)ξ「どうなってんのよ… これ」


ぶつくさと文句を言いながら、通路を突き当たりまで直進していく。
ドクオは一言も言葉を発せずそれについていった。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:00:04.53 ID:4NUVqqBo0
ξ゚听)ξ「ここの突き当たりにある黄土色の傷」

ξ゚听)ξ「左に曲がれば、地下二階に降りる階段があるという目印なの」

ξ;゚听)ξ「でも…」

ツンは半ば諦めたような気持ちを抱えて角を曲がった。
目の前に広がるのは、階段のある景ではない。永遠に終わらないような暗闇の回廊。
地団駄を軽く踏み、わざとドクオに聞こえるよう言葉を零した。

ξ゚听)ξ「おかしいわ」

ξ゚听)ξ「まるで地下が迷いの森になっちゃったみたい…」


('A`)「…」


ドクオの方をちらりと向いてみる。
依然としてこの男は無関心、無反応である。 
度を過ぎているようにも思われる彼の寡黙さに、ツンは少なからず苛立ちを感じていた。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:02:18.57 ID:4NUVqqBo0
ξ゚听)ξ「ねえ、ドクオさん」

ξ゚听)ξ「あなたはどう思う? この異常な地下牢を」

('A`)「…」

ξ#゚听)ξ「私は助言を求めているのですよ! 答えなさい!」

('A`)「…」

囚人はVIPから占領されたときに何かの処置を受けこの場から去った。
誰もいない地下でツンの張り上げた声だけが寂しく響く。
嘲笑うかのように、蝙蝠が彼女等の頭の上を滑空していく。

ξ゚听)ξ「…いいわ。わかったわよ。 そんなに話すのが苦手なのね。
     それ以前に、あなたの仕事は私のボディーガードだしね。ふんだ。なんとしてもお父様のいる二階に降りてみせるもん」

ξ;゚听)ξ「それにしても変だわ。魔法をかけられているみたい。
      クーさんみたいな魔法使いがVIPにもいるってことかしら?」

('A`)「――」

ξ゚听)ξ「…」


ドクオが「クー」という単語に少しだけ反応した気がした。ツンは再び果て無き回廊を歩き続ける。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:06:02.41 ID:4NUVqqBo0
ξ゚听)ξ「あの、ドクオさん」

ξ゚听)ξ「あなたの故郷はどんなところなの?
     クーさんは、あなたと水車塔の上で見た星空が綺麗だって言ってたわ」

ξ゚听)ξ「さぞや空気も美味しいところなんでしょうね。もしかして貴方達は砂漠の外から?」


('A`)「…」

暗闇の中、ツンの声だけ変わらず響く。そして時々、蝙蝠の嗤い声。
ドクオは返事をしないと分かっているのに、心寂しさや焦りから彼女は喋るのを止められなかった。

ξ゚听)ξ(虚しい…)

ξ;゚听)ξ(お人形相手に喋ってるみたい)
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:10:00.85 ID:4NUVqqBo0
ξ--)ξ(ああ…… 時間だけが無駄に過ぎていくわ)

ξ--)ξ(突撃班は今城のどこら辺かしら? 町のみんなは傷を負っていないかしら?)

ξ--)ξ(そういえばビコーズは……)

溜息が闇のまどろみの中へと溶けた。

ξ--)ξ(私って無力。 ただのお姫様だもんね。所詮)

ξ;--)ξ(どうすればいいの……?)


そのうちツンは疲れ果てて石畳に腰を下ろしてしまった。
ひんやりとした地面が彼女の頭までを冷ました。
正午まで作戦を遂行できないかもしれない。その原因は自分になるかもしれないと、焦燥が募る――――
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:12:22.53 ID:4NUVqqBo0
※ ※ ※


「うおおお!! 帝国のイヌめ!!」

「しっかりしろ! 傷は浅いぞ! 浅すぎる! …転んだくらいで泣くなってば!」



街では賑やかな声が聞こえる。
五月蝿くって、休めたもんじゃない。だけど、なんだか心はわくわくする。
ギコとフサもお祭りに混ざってるのかな。

( ∵)「今日も空は青いなあ」

( ∵)「どうしてあんなに青いんだろう」

( ∵)「…ふしぎ」

「むぅ…ううん」

空を眺めていると、カバみたいな唸り声が聞こえた。 
カバは見たこと無いけれど、きっとこんな鳴き声をしているんじゃないだろうか。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:15:13.54 ID:4NUVqqBo0
(ーAー)「…」

(ーA・)

(・A・)「はっ! お、俺は一体どうして…」

(´B`)「うーむ。遠くで戦の音が聞こえる。耳鳴りかと思いきや、その音は段々と近づいてくる心地だ」

(A・ )「いくさなのか!?」

( ´B)「いくさなのだ!!」

二人の兵士は顔を見合わせ、目をまんまるにした。そしてどたばたと走り回る。 
起きたばかりなのに、この人たち元気だなあ。


(・A・)「急ぐぞB作! 早く支援に向かわねば!」

(´B`)「そんなこと言ったってA次郎! ここの門番はどうするのだ!」

「僕に任せて!」

(・A・)「だとよ!」

彼らは同じタイミングで後ろを振り向いた。 
僕は彼らに対してピースでもしてやりたいんだけど、悲しいことに指は持ってないんだ。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:17:41.93 ID:4NUVqqBo0
(・A・)「むっ! 誰もいないではないか!」

┌| ∵|┘「ここにいるよ!」

(;´B`)「ドヒャーーー! A次郎! サボテンが喋っておる!」

(・A・)「貴様はまだ夢を見ているのか!」

( ∵)「ゲンジツだよ!」

(;・A・)「ヒョエーーー!! B作! サボテンが喋った!」

(A・ )「夢なのか!?」

( ´B)「夢なのだ!!」

(A・ )「ならばB作! 俺の頬をつねろ!」

( ´B)「分かった!!」

( ´B`)つ<・A・)  ぐにににににに〜
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:19:44.98 ID:4NUVqqBo0
…ぽかり!

(´B`#)「つねろと言ったのはお前ではないか!」

(#;A・)「強すぎるのだ!
       痛い! ということは夢じゃない!」

(´B`)「こりゃ大変だ! どうするべきか!?」


そう言ってまたバタバタと走り回る。 
街のお祭りの陰で、なんて平和な人たちなんだろう。僕、この人たち好きだ。
なんだか可笑しくって吹き出しそうだけど、我慢した。彼らを街へ向かわせなくちゃ。

きっとこの地下の入り口からツンは出てくるんだ。そして彼らはVIPの兵士。
そしたら都合がきっと悪いだろう。 また彼らはぶっ倒されるかもしれない。ツンも困る。
ふふん。どうだ。僕もなかなか人間みたいに”ろんりりょく”が出てきたね。


( ∵)「ここは僕に任せてってば」

( ∵)「早く街へ行っておいでよ!」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:23:13.60 ID:4NUVqqBo0
(・A・)「ふむ。中々頼れるサボテンだ。どうするB作」

(´B`)「馬鹿者が。きっと中に人でも入っているに違いない。やいサボテン、名を名乗れ」

( ∵)「僕はビコーズ! サボテンのビコーズだよ!」

(´B`)「知らんな。俺はVIP兵士団の事務を一時期任されていた。
      どの名簿にもサボテンノビコーズなどという奴はおらん」

(・A・)「馬鹿者が。そもそもサボテンの兵士など聞いたことがないわ」

m9(´B`)「すると何かい。 お前はお上の新兵器か何かであるか」


(; ∵)(ヘ…イ…キ? 兵器、武器のこと? 僕は生き物だけど… えーーと)

( ∵)「そう! 僕はヘイキだよ! VIPが作り出したすごいサボテンなんだ!」


\(´B`)/「なんと! お前は実はオソロシイ奴なのだな」

(・A・)「やはり! やいB作。とあるウワサを思い出した」
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:26:56.46 ID:4NUVqqBo0
( ∵)「なになに!? 僕にも教えてよ!」

(A・ )「軍の・・・・魔法兵が・・・ごにょごにょ」

( ´B)「ああ・・・この城にも・・・一体だけ・・・ごにょにょにょん」

(A・ )「つまり・・・・これが・・・その・・・」

兵士は耳打ちして話をしているから僕には聞こえない。
気になるけどまあいいや。話が終わると彼らは僕のほうを向いて背筋を正した。
思わず僕も後ろのヒフをしゃんとする。棘もちょっとだけ上を向いた感覚。

(・A・)「話が繋がりました! 魔法兵士サボテン・ノ・ビコーズ殿! ここの警備をよろしくお願いしまする!」

(´B`)「サボテン・ノ・ビコーズ殿。とりあえずはその入り口から女と剣士が出てくると思うんで、そいつの始末をどうかよろしく」

(´B`ゝ「敬礼っ!」


左腕を上げてその掌を額に合わせ、右腕は下に折り曲げ腰にあてる。 ねえそれって僕の真似?
僕も「けいれい」をした。といっても僕は自然体で「けいれい」なんだ。
そして二人はあっという間に僕の目の前から消えちゃった。忙しい人たちだったな。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:28:40.97 ID:4NUVqqBo0
( ∵)「さて、ツンが出てくるのを待とう」

( ∵)(魔法兵 ってなんだろ…?)

( ∵)(僕は僕。 僕はサボテンのビコーズのはずなのに)


なんだか胸が、ぞわぞわするよ。
この気持ち、初めて―――――――――


※ ※ ※


ミ,,゚Д゚彡「ぐるっと回ってみたけど、見つからねぇなあ」

(,,゚Д゚)「町の外に出たのか? もしかして城の中とか」

ミ,,゚Д゚彡「兄貴、ビコーズにじっとしてろって言わなかったのかよ!」

(,,゚Д゚)「言ったさ」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:31:49.30 ID:4NUVqqBo0
(,,゚Д゚)「でも、やっぱりイヌやトリを躾けるみたいに上手くいかねーようだな
     完璧にシカトしちゃってるもんな。」

(,,゚Д゚)「自分の意思を、持ってんだな。あいつ、”生き物”なんだ」

ミ,,゚Д゚彡「不思議な奴だよな…」

(,,゚Д゚)「…」


ギコとフサは、戦いの渦中を離れた通りで腰を下ろしていた。

ギコはビコーズと自分は同じような存在かもしれないと、青い空を眺めながらぼんやり思っていた。
元々の自分達は自我を持っていなかった。それが神の悪戯により知能を手に入れ、現状がある。

現状? 酷いものだ。 町を出入りするのにいちいち通行証がいる。中に入ったとしても、勿論白い目で見られる。
ヒトの店屋は何も売ってくれず、自給自足をするか、それでも足りないものは、胡散臭い旅商人を相手にしなければならない。
人間と亜人の恋など持っての外、会話を交わすことさえ、あまり好まれない。他にも、見えるところと見えないところの区別なしに、沢山の差別が……


仄暗い亜人の歴史。自分を手に入れた先祖の猫達は、何を思っていただろうか。
ビコーズのように、無邪気に世界に触れていたころが、あったのだろうか―――


そんなことを、ギコは考えていた。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:34:07.93 ID:4NUVqqBo0
ミ,,゚Д゚彡「さて、と」

ミ,,゚Д゚彡「今度は東側の塀周りを探してみようぜ」

(,,゚Д゚)「ああ」


二人は再び歩き始めた。遠くで争いの音が響き渡る。
しかし、そんなことは、彼らにとっては案外どうでもいいことである。

亜人たちは、殊にネコミミ族は、人間の行動について疑問に思う節がいくつかある。
それは… 「ニンゲンはなぜあんなに戦争が好きなのか?」ということだ。
本能や「ケダモノの部分」が人間より多いはずの彼らだからこそ、戦争という行為について疑問を持つのかもしれない。


フサが口を開いた。


ミ,,゚Д゚彡「なあ兄貴」

(,,゚Д゚)「なんだよ」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:36:41.30 ID:4NUVqqBo0
ミ,,゚Д゚彡「こうして歩いていると、迷子の子供を捜してるみたいだな」

(,,゚Д゚)「そういやそうだな」


ミ,,゚Д゚彡「…」

ミ,,゚Д゚彡「ところでさ、この一言から展開したい話題は何かというと、
      兄貴の子供はまだかい? ってことなんだ」

(,,゚Д゚)「シィとの子供か。当分先かな。
     少なくともVIPと周辺国のゴタゴタが無くなってからだ」

(,,゚Д゚)「…平和な時代で育てたいんだ」

ミ,,゚Д゚彡「この世が平和かそうじゃないかなんて、ニンゲンの基準だ!
      ネコミミ族はいつだって互いを労わり合ってるから、平和だよ」

(,,゚Д゚)「そうともいかないのか現実だ。人間の社会とネコミミの社会は、もはや切り離せないんだ」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:39:44.98 ID:4NUVqqBo0
(,,゚Д゚)「そういうお前こそどうなんだ」

(,,゚Д゚)「三毛のナギーに思いを寄せられてるそうじゃないか」

フサは眉毛を釣り上げて言った。

ミ,, Д 彡「俺は… 結婚はしないよ。誰かを愛すなんて、いや、恥ずかしいからここから先の台詞は省略さ……」

(,,゚Д゚)「…そうか」

ミ,,゚Д゚彡(そういや、結婚なんてのも、ケッ、人間の慣習じゃないか)



また無言の雰囲気へと戻る。
ギコは弟が言った言葉を汲み上げ、また考えていた。
「ネコミミ族はいつだって互いを労わり合っている」 


猫の類は元来群れない動物だ。孤高、互いの干渉ない環境を好む。

しかし、身を寄せ合わなければ生きていかざるを得なくなったのは、やはり――――



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:42:24.19 ID:4NUVqqBo0
※ ※ ※


ツンは懐中時計を徐に見た。 
時計の針を見て、上階で奮闘する二人を想像した。
それに引き換え自分はなんだと、ツンは頬を真っ赤にさせた。
歩き疲れて足は棒だった。少し泣きたい気持ちだった。亡き母に甘えたい気分でもあった。
しかし、そんなとき隣にいるのはひたすら無口の剣士様だ。


ξ゚听)ξ「あー! もー! いやっ!」

ξ゚听)ξ「歩けど歩けど同じ道! 下への階段はどこにあるの!?」


つんとした視線をドクオに向け、言い放った。


ξ#゚听)ξ「答えなさいよっ!! むっつり剣士っ!」


ドクオは肩を怒らし、鎧をがしゃりとさせ、ツンの前に立ちそびえる。
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:45:19.66 ID:4NUVqqBo0
('A`)「………」


ξ;゚听)ξ「うっ! ご、ごめんなさいっ! 許して!」


ドクオは右手を後ろにやった。剣の柄を握り、引き抜き、刀身がゆっくりツンの前に現れた。
しかし、その剣の姿にツンは口をぽかんとさせる。

刀身が、業火に包まれている。


ξ;゚听)ξ「炎の… 剣?」


剣が放つ炎は、ドクオが纏う鎧の紅蓮によく似ていた。




42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:48:04.81 ID:4NUVqqBo0
暗い暗い地下牢で、その剣は非常に上質な松明(たいまつ)となる。
黙ったままドクオは歩き始めた。炎の剣を掲げながら。


ξ゚听)ξ(ドクオさんについていくしかないわ…)

ξ゚听)ξ(それにしても凄い剣。どんな名刀もこれには平伏すんじゃないかしら)

ξ゚听)ξ(やっぱりクーさんの魔法と関係があるのかしら)

ξ゚听)ξ(そういえば彼女も真っ赤な衣を纏っていたわね。そして真っ赤な瞳。
      髪の毛は綺麗な蒼なのにって、ミスマッチと思っていたわ)

ξ゚听)ξ(…ドクオさんはどこまで歩くのかしら)



数分歩き始めたところで、ドクオはぴたりと止まった。
ただの突き当たりで、ツンは「闇雲に歩いただけだったのか」と、嘆息を漏らした。
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:50:07.48 ID:4NUVqqBo0

しかし次の瞬間、けたたましい轟音が響き渡った。

ξ゚听)ξ「な、なに?」

俯いていた彼女が驚いて頭を上げると、崩された壁の先に現れたもう一枚の壁を目にした。
その壁には、黄土色の傷がある。階段の目印……



ξ゚听)ξ「ドクオさん…」

('A`)「……」



ドクオは無論照れもせずじっと前を向いていた。
何故彼が正しいルートを歩めたか という疑問は一先ず置いて、ツンは駆け足で地下二階へと下る。
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:52:57.11 ID:4NUVqqBo0
※ ※ ※


地下二階は見覚えのある間取りが広がっていた。ツンはほっと一息をつく。
このフロアは元々、重罪人を収容する空間。故に面積は一階のそれよりもこじんまりとしている。
レイラ王の場所まで三分もかからない。

ξ゚听)ξ(お父様… やっと帰ってきましたわ)

ツンは歩みを止めた。
どのような顔で父と対面しようかと一考する。
まだ作戦は終わっていないのだから、再会に涙腺を緩めるのだけは我慢しよう だとか、
その一方で、一刻も早く父との抱擁を交わしたい だとか…
そんなことを考えていた。
一国の姫とはいえ、年はまだ二十にも満たない。大人と子供の境を漂う女の子だった。


松明代わりの炎の剣が煌々と燃えていた。




47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:55:18.87 ID:4NUVqqBo0
やがてツンは歩き出した。
一歩一歩、踵は石畳に当たり、かつんかつんと打ち鳴らす。


その音が響き、届いたのか、彼女と数メートル離れた牢屋からガシャガシャというのが聞こえた。
鉄柵を揺らす音である。
ツンもそれを聞き取り、堪らず牢へと向かって駆ける。


/ ,' 3 「おお…。我が娘よ…」

ξ;゚听)ξ「お父様!」



牢の中の生活でやつれたのか、以前の恰幅あるそれとは顔色が違うが、
見慣れた父が確かにそこにいた。
ツンのつま先から頭までを、ぬくい噴水のようなものが噴き昇る。
感情は瞳から溢れそうになったが、ツンは必死でそれを堪えた。
父はそんな娘の様子を見て、優しく微笑んだ。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 00:57:30.10 ID:4NUVqqBo0
ξ゚听)ξ「お父様! 今開けます!」


ツンは衣の内ポケットから合鍵を取り出し、錠前に差し込む。
数秒間ガチガチとこねていると、錠は外れ、地に落ちた。
その鈍い音が、レイラ王には解放を告げる音に聞こえただろう。


/ ,' 3 「ああ… ツンよ。私の命を守り、しっかりと今、役目を果たしたのだな」

ξ )ξ「そうよっ! 私… いつまでも… 子供じゃないんだからっ」



堪えようとしても染み出る涙は世界のどこにでもある。
一国の姫は一人の少女に戻り、父の胸で小さく小さく泣いた。


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 01:00:22.29 ID:4NUVqqBo0
※ ※ ※

優しい時間が流れた。

無意識のうちに泣いていた自分に気付くと、
ツンはすぐさま顔をあげ、べそを拭って会話を続けた。


ξ゚听)ξ「…べ、別にそれほど寂しかったわけじゃないわよ。
      砂漠の旅も中々楽しかったんだから」

ξ;゚听)ξ(一度本気で死にかけたけど)

/ ,' 3 「ほう。思い出話が楽しみだ」

/ ,' 3 「ところで城は…」

ξ゚听)ξ「今頃ショボンさんたちが主を倒したところだと思うわ!
      戻りましょ、お父様!」
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 01:03:01.42 ID:4NUVqqBo0
ふむ。と一回唸ったあと、
レイラ王はおもむろに紅蓮の鎧に視線を移した。


/ ,' 3 「なるほど。して、隣の剣士はどちらかな?」

('A`)「…」


ξ゚听)ξ「この人はドクオさん。ショボンさんが雇った傭兵よ
     ちょっと寡黙過ぎるけど… 素晴らしい剣士だと思うわ」

ξ゚听)ξ「ここへ辿り着くまでだって…………」

ξ;゚听)ξ「―――!!??」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/22(土) 01:03:57.43 ID:4NUVqqBo0
/ ,' 3 「貴様っ…… 何を……」


ξ;゚听)ξ「ドクオさん!!!」





ほとばしる業火の剣。
その剣先は、レイラ王の喉元を指していた。





('A`)「……」



ξ;゚听)ξ(まさか…… あなた……)





(続く)

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