327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 20:47:51.07 ID:5LOFNijE0

ようやくテストも終わり、いつもの毎日が戻ってきた。
最近僕は、朝練の途中でツンさんに電話を入れることにしている。
これで、ツンさんを毎日起こすという約束が果たせる。


( ^ω^)「ツンさん、朝だお」

ξ゚听)ξ『うえぇーい……おあよー……』


ξ;゚听)ξ『ぎゃあああああああああああああああああああああああ』


(;^ω^)「ど、どうしたんだお!?」

ξ;゚听)ξ『おねーちゃん! なにやってんのよ!』

川 ゚ -゚)『なにっておまえ、添い寝だよ。姉が妹に添い寝するくらい普通だろ?』

ξ;゚听)ξ『全裸は普通じゃないわよ! ぎゃー! どこさわってんのよ!』

(;^ω^)「……またかお」


しかし果たして、僕が起こす必要があるのだろうかと迷う。

330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 20:55:32.42 ID:5LOFNijE0

溜息をついてケータイを切った。
真後ろにドクオさんがいた。


('A`)「内藤君、最近毎日どこに電話してるの?」

(;^ω^)「お……ただの友達ですお。朝に弱いんですお、そいつ」

('A`)「ふーん、ただの友達ねぇ……黄色い声が聞こえたけど?」

(;^ω^)「……」


いろいろあったけれど、毎朝、毎夕部活に顔を出してくれるドクオさんを、
僕はやっぱり尊敬していた。だから隠し事なんて気が引けた。


(;^ω^)「実は隣の部屋に姉妹が引っ越してきたんですお。
      その人たちと仲良くなって、まあいろいろあって、電話で起こしてやってるんですお」


そしてドクオさんは腕を組んで考えこむと、とても優しい顔をしてイッた。


('∀`)「内藤くん、ダメだよ、エロゲをつけっぱなしにしちゃ」

334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 21:02:15.90 ID:5LOFNijE0

(;^ω^)「は? どういう意味です?」

('∀`)「いいんだいいんだ。みなまで言うな」


ドクオさんがうんうんと頷く。


('∀`)「俺も初心者のころはエロゲをつけっぱなしにして、
   家の電話にエロゲのボイスが流れるようにしてたもんさ」

( ^ω^)「なんでそんな無駄にテクッてるんですか?」

('A`)「だけどな、内藤くん。現実を見るんだ。
   エロゲは所詮はエロゲ。それは僕たちの妄想のなかにしか存在しない女の子たちなんだ」

(;^ω^)「ドクオさんこそ現実を見てください」

('∀`)「見てるさ、俺は。毎日な」


そう言ってドクオさんは、トラックで汗を流す部員たちを眺めた。
そしてバイトがあるからと言って、学校を去った。

その背中は、僕が目指すべきそれだった。
338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 21:07:15.78 ID:5LOFNijE0

放課後、もう日も短くなり、あたりは真っ暗だった。
それでもツンさんは、校門の前で僕を待っていてくれた。

木枯らしの吹く夜の街を、僕らは連れだって歩く。


ξ゚听)ξ「それにしても珍しいな」

( ^ω^)「なにがだお?」

ξ゚听)ξ「おねーちゃんがよ」


ツンさんは寒いのか、スカートからのぞくひざ下をもじもじさせながら話す。


ξ゚ー゚)ξ「おねーちゃんが私と仲がいい男子に何もしないのって、珍しいの。
     いや、珍しいってレベルじゃないわ。初めてのことね」

(;^ω^)「いや、ゴキブリ放たれましたけど?」

ξ゚听)ξ「そんなの、なにもされてないのと一緒よ」
344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 21:18:34.97 ID:5LOFNijE0

ツンさんはくすくすと笑いながら話す。


ξ゚ー゚)ξ「小学校のころ、私に好きだって言った男の子は翌日体育倉庫です巻きになった」

(;^ω^)「小学生をキュウリ扱いかお……」

ξ゚ー゚)ξ 「中学校のころ、ラブレターをくれた子がいた。
    その子はラブレターを全校掲示板に張り出されて登校拒否になった」

(;^ω^)「自殺しなかっただけマシだお……」

ξ゚ー゚)ξ 「ここに引っ越してくる前に私に告白してきた三人の男子の行方はいまだ分からない」

(;^ω^)「それって普通に大事件だお……」


そしてツンさんは、素敵な笑みでこう言った。


ξ゚ー゚)ξ「でも、あんたにはなにもしてない。なんでだろ?」

( ^ω^)「うん。東京湾にチンされててもおかしくないのにね」


345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 21:22:11.22 ID:5LOFNijE0

やがて僕たちのアパートが見えてきた。
ツンさんの部屋には明かりがともっている。
きっとクーさんがネットでもしているのだろう。


ξ゚听)ξ「ねえ、内藤。ひとつ聞きたい事があるの」

( ^ω^)「ん? なんだお?」


部屋の灯を見ながら、ツンさんが立ち止まり、言った。


ξ゚听)ξ「なんであんた、走らないの?」
348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 21:29:10.47 ID:5LOFNijE0

夜。町の明かりに照らされたツンさんの顔は笑っていなかった。
まっすぐに僕を見つめていた。僕もまっすぐに見つめ返す。ツンさんは続ける。


ξ゚听)ξ「聞いた話だけど、うちの高校の陸上部、かなり強いんでしょ?
    全国から選手を集めてるって話、聞いたよ。もしかしてあんたも?」

( ^ω^)「そうだお。僕の出身は九州だお。九州からはるばる、陸上のためにここに来たんだお」

ξ゚听)ξ「じゃあ、なんで走るのやめちゃったの?
    いつも雑用ばっかりじゃない。レギュラーになること、諦めちゃったの?」

( ^ω^)「……」


僕はなにも言わなかった。こんなとき、言葉は想いを半分も伝えてくれはしない。
その代わり、僕はズボンの裾をめくりあげた。

アキレス腱の上に大きく刻まれた傷跡。言葉より確実に想いを伝えてくれる。

351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 21:34:55.93 ID:5LOFNijE0

ξ゚听)ξ「そっか。大変だったね」


ツンさんは無表情で言った。悲しい顔はしなかった。
僕は嬉しかった。だって僕は悲しくなんてないのだから。

そして僕は、この子は優しい子なんだと、はっきりと知った。


( ^ω^)「僕はこのおかげで夢を見つけたんだお」


僕はズボンの裾を元に戻した。
ツンさんはひとつ頷いて、耳を傾けてくれた。


( ^ω^)「僕はこの傷のおかげで、ドクオさんの偉大さに気づけたんだお」


ツンさんは爆発した。

356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 21:42:09.19 ID:5LOFNijE0

ξ;゚听)ξ「はぁ!? ドクオって、あれでしょ!? あれよね!?」

( ^ω^)「そうだお。あれだお。だけどあれは、ドクオさんの仮の姿なんだお」

ξ;゚听)ξ「嘘だっ! あれが仮の姿なら、あいつは一生仮の姿のままよ! 目を覚ましなさい!」

( ^ω^)「そんなことないんだお。
     ツンさん、ドクオさんがなんで毎朝、毎夕、部活を見に来るか知ってるかお?」
ξ゚听)ξ「友達がいないからじゃない?」

( ^ω^)「それだけが理由じゃないお。
      ドクオさんは全国区の背選手だったんだお」


そして僕はもう一度、ズボンの裾を上げた。そして傷ひとつないひざを指差す。


( ^ω^)「でも、ひざをやったんだお」

ξ゚听)ξ「……」

( ^ω^)「だけどくじけないで、スポーツトレーナーになる決心をしたんだお」

361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 21:47:35.60 ID:5LOFNijE0

( ^ω^)「僕も選手のころは、ドクオさんのこと踏まれたトカゲみたいな顔だと思ったお」

ξ゚听)ξ「あんたも意外と毒舌ね」

( ^ω^)「でも、アキレス腱を切って絶望していた時、ドクオさんが僕の傍に来てこういったんだお」


('A`)b『そんなことより、あいつら見てようぜ』


( ^ω^)「そのあとだったお。監督からドクオさんの話を聞いたのは。
      ドクオさんは、後輩が二度と怪我をしないよう、ずっと見守ってくれてたんだって」

ξ゚听)ξ「でも、あんた怪我したじゃない」

(;^ω^)「うん。その日はドクオさん、たまたまいなかったんだお」

ξ゚听)ξ「ダメじゃない、それ」

( ^ω^)「きっと、大切な用事があったんだお。
      それに僕は、怪我したおかげで夢を見つけたんだから、いいんだお」


364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 21:53:14.97 ID:5LOFNijE0

ξ゚听)ξ「ふーん」


ツンさんは気のない返事で話を打ち切ると、カンカンと音を鳴らしてアパートの階段を上った。
その頂上で振り返って、すました顔でこう言った。


ξ゚ー゚)ξ「あんたってバカね! バカでスケベでお人よし!」

(;^ω^)「だからスケベは誤解だお……」

ξ゚ー゚)ξ「だけど、嫌いじゃないよ」


ニッコリと笑って、もう一度言った。


ξ゚ー゚)ξ「私、あんたのこと嫌いじゃないよ!」


そして、ツンさんは部屋に帰っていった。

367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 21:58:13.46 ID:5LOFNijE0

( ^ω^)「……」


夜は寒かった。だけど、頬は熱かった。
良く分からない、名前も知らないはじめての気持ちが胸に湧き起こってくる。


( ^ω^)「なんだろう、この気持ちは……」


きっと、今夜は眠れないだろうな。
僕はとまどいと、ほのかな幸せを胸に自分の部屋の戸を開けた。


川 ゚ -゚)「私、あんたのこと嫌いじゃないよ」


ドス女が待っていた。


川#゚ -゚)「私、あんたのこと大嫌いだよ」


僕の夜明けは遠い。

372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 22:04:33.51 ID:5LOFNijE0

冬休みがきた。
この町で初めての冬休みだ。


(;^ω^)「ごめんお。今日から一週間部活の遠征なんだお」

川 ゚ -゚)「オフ会で一週間アキバで暴れてくる。ニコ動にうpされるから見てね」

ξ゚听)ξ「……いってらっしゃい」


一人で過ごす初めての冬休みだ。
378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 22:10:23.10 ID:5LOFNijE0

ひとりでイブを過ごした。
ケーキは買わなかった。


川 ゚ -゚)「寂しくなったらこのURL(
http://2ch.net/)を開くんだ」

おねーちゃんが書置きを遺していた。
でもそれだけはしてはいけないような気がした。

ひとりきりの部屋はとても広くて、ひとり言が怖い位に反響した。
寂しさに外に出れば、連れだって歩く人々の群れが、どこか遠い風景のように見えた。

現実感がなかった。
自分がここにいるという事が、とてもあいまいなことに思えた。

382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 22:17:22.37 ID:5LOFNijE0

流れるようにふらふらと町を漂い、気がつけば学校の前にいた。
学校は人の気配がなかった。
いつもはあるものがそこにないだけで、学校がまったく別のものに見えた。

        (´^ω^`)   あー! 人生って楽しいな!
       __〃`ヽ 〈_
   γ´⌒´-−ヾvーヽ⌒ヽ
  /⌒  ィ    `i´  ); `ヽ
  /    ノ^ 、___¥__人  |
  !  ,,,ノ爻\_ _人 ノr;^ >  )
 (   <_ \ヘ、,, __,+、__rノ/  /
  ヽ_  \ )ゝ、__,+、_ア〃 /
    ヽ、___ ヽ.=┬─┬〈  ソ、
      〈J .〉、|..生 |, |ヽ-´
      /""  |..涯 |: |
      レ   :|:..一 | リ
      /   ノ|教師| |
      | ,,  ソ  ヽ  )
     .,ゝ   )  イ ヽ ノ
     y `レl   〈´  リ
     /   ノ   |   |
     l  /    l;;  |
     〉 〈      〉  |
    /  ::|    (_ヽ \、
   (。mnノ      `ヽnm

まったく別のものに見えた。
384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 22:20:27.54 ID:5LOFNijE0

ξ゚听)ξ「先生、ひとりでなにしてるんですか?」

(´・ω・`)「誤爆した」

ξ゚听)ξ「は?」

(´^ω^`)「冗談だよ! 乾布摩擦さ! ツンデレ君もどうだい!?」

ξ゚听)ξ「遠慮しておきます」


部屋に帰ってひとりで寝た。
一週間、ずっと部屋で寝て過ごした。
386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 22:24:36.73 ID:5LOFNijE0

ひとりで布団に入っていた一週間、ずっと内藤のことを考えていた。
召使の分際で、冬休みに主人をひとりにするなんて、なんと最低な奴だろう、と。

夢の中でも恨み事、トイレでもお風呂でも恨み事。
そして一週間が過ぎて、私はコートの下に日本刀を隠し持って、部屋を出た。


ξ゚听)ξ「あいつを殺そう」

388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/30(火) 22:29:20.22 ID:5LOFNijE0

最寄りの駅のホーム。ここに内藤は降り立つはず。
あいつは降りてきたとき、私を見て笑うだろ。

そこを、ずばっとやるのだ。
私を一週間も放っておいた罰だ。ずばっとやってやる。


ξ゚听)ξ「……寒い」


だけど、夜が来ても、何本の列車が止まっても、内藤はやってこなかった。

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