42 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 15:24:35.28 ID:d+Ts2sEc0
《第三話 それは数多に別れた三叉路のよう》

ξ゚听)ξ「……ねぇ、本当に何でクーがここにいるのよ」

対峙したまま、私達は数秒見つめあった。
信じられないことが今平然と私の目の前に転がっている。


川 ゚ -゚)「まるでここにいちゃいけないみたいな口ぶりだな」


いや、そう言うわけじゃない。
ただあの夢を見た後だったから――――


ξ゚听)ξ「違うのよ。違う。えーっと……とりあえず訊くわ。どうしてここにいるの?」
川 ゚ -゚)「話せば長くなるが……」
ξ゚听)ξ「400文字以内ならおk」


川 ゚ -゚)「まよった」


ξ゚听)ξ「4文字!?」

変わってないな。とクーが喉の奥で笑う。
私の中で安心したような感情が広がる。クーこそ変わってないわよ。
44 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 15:33:54.88 ID:d+Ts2sEc0
川 ゚ -゚)「ああ、編集部に行こうとしてな。そしたらここに着いた」
じゃあ意図して私に会いにきた、と言うわけでもないのか。
……少し残念だ。
って。

ξ゚听)ξ「編集部?」

訊きなれない単語。そしてリピートする。

川 ゚ -゚)「今作家紛いのことをやらせてもらっている」
一応、本業で。クーの付言があって、

ξ゚听)ξ「……訊いてないわよ!?」
川 ゚ー゚)「そういえば、話してなかったな」
緩やかにマイペース。

ξ゚听)ξ「……本当に変わってないわね」
川 ゚ー゚)「ツンこそ」

そうやって小学校からの腐れ縁はまた愉快そうに笑った。

訂正。変わっていないと言ったけれど。多分それは方便でしかない。
クーは変わった。

落ち着いた物腰はさらに輪をかけて雰囲気としてクーを包んでいるし、
言動だって大人びたものになって。


45 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 15:35:54.65 ID:d+Ts2sEc0



じゃあ、私は?


あの時をずっと引きずっている私はどうなの?


川 ゚-゚)「ツン。一応訊くが、ここはシベリア町ではないのか?」


思考が一気に吹っ飛んだのはクーの一言だった。
……訂正。クーも私も変わってない。


ξ゚听)ξ「シベリア町はここから真反対の方角よ……」


私の呟き声は、クーに届いただろうか。
また可笑しそうにクーが笑うのが、視界に入った。




46 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 15:48:46.75 ID:d+Ts2sEc0
急ぎの用ではないと言うことをクーがぽつぽつと話してくれたので、
じゃあ久しぶりに何処かゆっくりと落ち着ける場所で話そうと言う事になった。

しかし時間は午前7時。
あいている所といえばコンビニや24時間営業のファミレス位だ。


ξ゚听)ξ「私の家近いし、来る?」
川 ゚ -゚)「いいのか?」
ξ゚听)ξ「いいわよ。少し散らかってるけど気にしないでくれる?」


樹海のような有様にはなっていなかった。……と思う。


川 ゚ -゚)「ああ、ありがとう」


家路に付くまでは約10分程度。その間の会話が切れることは、多分ない。
積もる話。何せ3年ぶりの再会って奴だから。

ξ゚听)ξ「さっきも言ったけど、作家って何ジャンルなの?」
SF? ファンタジー? 一番可能性が濃いのはミステリか。
予想を張り巡らせながら聞いてみる。

47 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 15:55:42.42 ID:d+Ts2sEc0
川 ゚ -゚)「ん? あ、ああ。丁度書いたの持ってたな……」


肩がけのバックを開けて、クーが中身を漁り始めた。
端はしに見せる本質的なものや仕草は変わらないものの、
どことなく大人びたクーをぼんやりとみる。

川 ゚ -゚)「お。あった……ほら、これだ」
ξ゚听)ξ「ん? どれどれ……?」


禁断の男子校シリーズ 〜その菊門は俺のもの〜


ξ゚听)ξ「……なんですかこれは」
川 ゚ -゚)「あ。ああ、間違えた。それは別ネームで書いてる方だな」

別ネームて。クーが書いてたの。これ。

今度サイン下さい。


川 ゚ー゚)「ほお……?」
ξ゚听)ξ「……ハッ、失言ッ!? って、ほらほらっ! 本業の方って?」
51 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 16:16:20.66 ID:n766GXUk0
川 ゚ -゚)「んー……なんだ、少し恥かしいな……ほら。これだ」
クーが出した一冊の文庫本。
表紙を見て、そして作者名を見て。

……数秒間、唖然とした。

ξ゚听)ξ「伊藤ペニサス先生って……クーのことだったの!?」
作者紹介のところに乗っている顔写真を交互に見ながら、
ハア!? とか、あれっ? とか、あまり意味のない言葉連発する。

川 ゚ー゚)「まあな」
伊藤ペニサス。
美味しいカルピスの入れ方が代表作の新人恋愛小説家、だったっけ。

川 ゚ -゚)「……む。そう言われると少し恥かしいな……」
ξ゚听)ξ「……凄いわよ。やっぱりクーって凄い」
川 ゚ -゚)「いや、そうでもないような気もするが……」
ξ゚听)ξ「私なんか国立大学のしがない医学部生……」

川 ゚ -゚)「「充分凄いぞ」

ξ゚听)ξ「ごめん、ちょっと誇張した」
笑い声が早朝の町に響く。

――片や実力派の小説家。片やただの大学生、か。
人生って解らないものだ。



52 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 16:17:20.03 ID:n766GXUk0
ξ゚听)ξ「ねえ。ここの作者紹介にある顔写真とクー、どう見ても別人なんだけど」
川 ゚ -゚)「いや、それは正真正銘私だ」
ξ゚听)ξ「どう言う事?」
川 ゚ -゚)「……顔の筋肉を自在に動かしッッ! そしてッッ!」



('、`*川「これでいいか」



ξ゚听)ξ「……バキかよ……!」

閑話休題。



53 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 16:19:33.20 ID:n766GXUk0
ξ゚听)ξ「そう言えば、地元残留組はどう?」
川 ゚ -゚) 「地元残留組か……まあ変わらないよ」

そう言い、クーはゆっくりと喋りだした。
ドクオは一浪して公立大学、ショボンは親父さんの店を継いでバーテン。

ξ゚听)ξ「あ、ドクオ一浪しちゃったんだ?」
川 ゚ -゚) 「どうしても入りたかったらしい。バイオ科学を扱ってる所にな」
へえ。常に意識薄弱としたあのドクオが。

川 ゚ -゚) 「ああ、私もそう思う」
いや、そこは否定する所でしょ。

ξ゚听)ξ「……内藤は?」
川 ゚ -゚) 「ああ、アイツは――――」
クーが遠い目をした。 私は怪訝そうに顔を覗き込む。


川 ゚ -゚) 「ハルシオンデイズ。だそうだ」


ξ゚听)ξ「……は?」

それはどう解釈すればいいのだろう。
一瞬迷った。それは私のいない毎日? それとも――――

疼きのような感覚が私を襲う

54 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 16:20:29.77 ID:39HGAksL0
川 ゚ -゚)「ん? あ、ああ。丁度書いたの持ってたな……」


肩がけのバックを開けて、クーが中身を漁り始めた。
端はしに見せる本質的なものや仕草は変わらないものの、
どことなく大人びたクーをぼんやりとみる。

川 ゚ -゚)「お。あった……ほら、これだ」
ξ゚听)ξ「ん? どれどれ……?」


ξ゚听)ξ「……なんですかこれは」
川 ゚ -゚)「あ。ああ、間違えた。それは別ネームで書いてる方だな」

別ネームて。クーが書いてたの。これ。

今度サイン下さい。


川 ゚ー゚)「ほお……?」
ξ゚听)ξ「……ハッ、失言ッ!? って、ほらほらっ! 本業の方って?」
ξ゚听)ξ「私の家近いし、来る?」
川 ゚ -゚)「いいのか?」
ξ゚听)ξ「いいわよ。少し散らかってるけど気にしないでくれる?」

ξ゚听)ξ「さっきも言ったけど、作家って何ジャンルなの?」
SF? ファンタジー? 一番可能性が濃いのはミステリか。
予想を張り巡らせながら聞いてみる。
56 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 16:22:35.92 ID:n766GXUk0

ξ゚听)ξ「ハルシオンって……平穏な……」

私の言葉を遮るように、クーが重い口を開いた。
入道雲が高く上がる空を見上げる。



川 ゚ -゚) 「『睡眠薬を飲みつづける毎日』」



クーの言葉は、私の言葉と180度違っているもので。
疼きは更に深まっていく。

川 ゚ -゚) 「内藤、短大出たはいいが就職先がどうも悪条件だったらしくてな」

川 ゚ -゚) 「それで睡眠薬に頼ったらしい」

ξ゚听)ξ「…………」

川 ゚ -゚) 「『夢は幸せだ』とか、言ってたっけな――夢に縋っても前進なんて、出来ないのに」


57 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 16:24:24.89 ID:n766GXUk0
ξ゚听)ξ「…………」

それは、どう言う意味なのだろう。
私は――どう解釈すればいいのだろう。


川 ゚ -゚) 「一番変わったのは内藤だろうな」

ξ゚听)ξ「それは、どう言う意味で?」

川 ゚ -゚) 「雰囲気から疲れた感じが漂ってくる」

ξ゚听)ξ「……へぇ」

言っている合間に私の家に着いた。
どことなくくたびれた印象を受ける4階建てのアパート。

川 ゚ -゚) 「お邪魔します」
ξ゚听)ξ「ごゆっくり」

鍵を開けて招き入れる。
『一番変わったのは内藤だろうな』

クーのその言葉が何故かいつまでも頭の中に残っていた。


58 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 16:24:33.67 ID:39HGAksL0
その一件があってから、僕とツンはたまに会話するようになった。

それでも一緒にご飯を食べるだとか、
ξ゚听)ξ「お母さんが作りすぎただけなんだから……!」
と言って弁当渡してくれるとか、


一緒に登下校するだとか、
ξ゚听)ξ「……その……一緒に帰らない?」
と言って中央玄関で彼女が待っていただとか、


それなんてギャルゲ的な展開には恵まれず、
到って平穏な『ハルシオンデイズ』で。


まあ現実なんてこんなもんだろうと僕は打算した。


メールも少しはするようになった。
そして嫌いだったいんげんをちょっと食べれるようになった。
……これはさらに関係ないお。

自分でも恥かしくなるくらいに僕はツンに惹かれていた。

59 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 16:25:21.63 ID:n766GXUk0
玄関で靴を脱いで、部屋を見渡したクーが開口一番。

川 ゚ -゚)「中々さっぱりとした感じだな」
ξ*゚听)ξ「一応気ぐらいは使ってるわよ……」

一人暮らしになると、とりあえず寝て食べるスペースが
あればいいって考え方になりがちだけど、いやほら私、一応花の大学生。


川 ゚ -゚)「ん? これ……」
クーが机の上に置いてあった音楽ノートを手にした。
……あ。直すの忘れてた。そう思った時にはもう遅い。

ξ゚听)ξ「あっ……それはっ」
パラパラとクーがページをめくる。
題名の書いていない一番最初の、例の曲。

川 ゚ -゚)「ツンの作曲したものか?」
ξ゚听)ξ「…………ええ」
俯きながら頷く。

川 ゚ -゚)「そうか」

クーが軽く返事をする。


60 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 16:26:48.42 ID:n766GXUk0
川 ゚ -゚)「題名は?」


答えていいのだろうか。何処となく喉に言葉が詰った。
クーが先刻言った意味で解釈されないだろうか。


ξ゚听)ξ「……ハルシオンデイズ」

黙り続ける訳にも行かなかったから、
聞き取れるか聞き取れないか位の声量で。



川 ゚ -゚)「――『平穏無事な日々』か」



ξ゚听)ξ「……さすが作家さん。博学多識」
川 ゚ -゚)「茶化さないでくれ。たまたまさ」
クーが喉の奥で笑う。謙そんも上手くなっちゃって。

川 ゚ -゚)「なあ、ツン。何でここの途中にあるファ、何でここだけ黒ペンなんだ?」
ξ゚听)ξ「……っ。い、いや。それは……えーっと、いつも間違えちゃうのよ、そこ!」
川 ゚ -゚)「……へぇ」

あ、多分嘘だってこと見抜かれてる。


61 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 16:28:15.28 ID:n766GXUk0
ξ゚听)ξ「さっ! お茶かなにか……」
川 ゚ -゚)「気を使わないでくれていい」

ξ゚听)ξ「いやいや、大先生様が折角来てくださったんですものねー」
川 ゚ -゚)「印税印税と言うがあまり入らないものだぞ」

ξ゚听)ξ「え、そうなの?」
川 ゚ -゚)「ああ」

大佐、作戦は失敗だ。

ため息を挟んで
ξ゚听)ξ「それでも何もないって言うのも寂しいでしょ。コンビニ行ってくる。何か欲しいものとかは?」
川 ゚ -゚)「庭付き一戸建て」
ξ゚听)ξ「コンビニにあるかそんなもの」
川 ゚ -゚)「冗談だ。超神水を頼む。料金は後で出す」
ξ゚听)ξ「それくらいおごるっつの。……しかしよくあんなもん飲めるわね。妙な飲み物好きは変わらない、か」

川 ゚ -゚)「よろしく」
ξ゚听)ξ「行ってきます」
川 ゚ -゚)「いってらっしゃい」
63 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 16:32:28.92 ID:n766GXUk0



川 ゚ -゚)「……変わっていない、か……」


部屋に一人残されたクーが手の中にある音楽ノートに視線を落した。
黒ペンのファと、真っ白の最後の一小節を見た後に


川 ゚ -゚)「変わっていないのはどちらだか……」


懐かしむように笑った。


《第三話 それは数多に別れた三叉路のよう》 終

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