6 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 13:10:20.78 ID:n766GXUk0
《第二話 ハローハルシオンデイズ》

オープンハイスクールがあるとかで
『まあきったねぇ校舎だけど見栄え位はよくしとこうぜ!』
という目的で大清掃の日。

ξ゚听)ξ「……ちょっと、ブーン」
(  ^ω^)「……お?」

いつもと変わらず音楽室で1人真面目(なのかどうかは定かではないけれど)に
清掃に励んでいた僕に声が掛けられた。


はいはいどーせパシリでお?


半ば諦めながら振り向けば――

ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると、
ベッドの中で自分の姿が一匹の、とてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。

「大丈夫だよグレゴール・ザムザそれは悪い蟲じゃない」


…………っていやいや、何だお。別の物語だお。
勢いあまって別の物語だお。

軌道修正。


8 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 13:10:44.11 ID:n766GXUk0
(  ^ω^)「ツン? って何で1人何だお」


いつもツンに群がってる取り巻きはどうした。


ξ゚听)ξ「え? あー、クーは窓拭き用のクレンザー取りに、
ドクオはそれがもうここにあったってことをクーに伝えに、
モナー君はあると思われていた窓拭き用のクレンザーの中身が普通の水であることをドクオに伝えに、
長岡君はさらにもう一本窓拭き用のクレンザーがあり、
それがちゃんとしたものであったことをモナー君に伝えに行ったわ
で、ショボン君はスポンジがないことを全員に報告に。これでいい?」


何その嫌スパイラル。


(  ^ω^)「大きなカブかお……」
ξ゚听)ξ「あははっ! 確かに現状はそうとも思えわね。さて、貸しなさいよ」

ツンが僕の方へ寄って来た。
そして箒を寄越せと手を差し伸べてくる。

(  ^ω^)「……これは僕の仕事だお」
ξ゚听)ξ「別にいいじゃない。いつもちゃんとした掃除できてないし」
(  ^ω^)「そうだおね。いっつもいっっも……ああ!」
ξ゚听)ξ「な、何よ」


9 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 13:11:13.27 ID:n766GXUk0
(  ^ω^)「ピアノ! ツン、ピアノ弾いて欲しいお!」


あ、行き成り何言ってんだお僕は。
あーあ、引いてる。引いてるお。
ツンちゃんドン引きしたっちゃだお。


ξ゚听)ξ「何を言い出すかと思えば」
そーっすね。
(  ^ω^)「いや……言ってみはかったんだお」

どもってるし。
噛んでるし。最悪だ僕。

ξ゚听)ξ「……ブーン、私のピアノなんか聞いてないかと思ってた」

(  ^ω^)「い、いやいやいやいや! 聴いてたお!?
 ブーンはいっっもちゃんとツンのピアノ聴いてたお!?」
ξ゚听)ξ「……ふーん」

……あっれー? なんだこの反応。

(  ^ω^)「だから! 今日も弾いて欲しいんだお!」

勢いってすごいね。
本当凄い。勢い万歳。

ξ゚听)ξ「別にいいけど。……あ、これまだ練習中なんだから、失敗しても馬鹿にしないでよ?」
(  ^ω^)「全然おっけーっす!」

10 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 13:11:35.43 ID:n766GXUk0
ピアノの方へ彼女が寄って行く。
ついでに僕もそれについて行く。


ギィ、と。彼女が座ったピアノ椅子が軋んだ。


ξ゚听)ξ「…………」
(  ^ω^)「…………」

廊下から音がする。いつも消えていた音だ。
いつもピアノの音にかき消されていた音。
掃除時間にかかる、音の割れたワルツ、校舎に溢れるのは忙しない喧騒。

そんな中で鍵盤にツンが手を置く。そして演奏が始まった。

所所詰まる伴奏に、早走りになるメロディ。
ああ、じれったいなぁ、もう。なんて苦笑いしながら、僕はピアノの脇に立つ。
そして見渡す音楽室。
ああ、いつも僕はあの辺りに立ってたのか、なんて。


ξ゚-゚)ξ「……って、あれ? んー?」


彼女の旋律が完全に止まった。
いつもじゃこんな事ははっきり言って無い。
彼女のピアノ演奏が止まることは無かった。けれど。

11 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 13:12:01.72 ID:n766GXUk0
(  ^ω^)「ここ、ファ、じゃないかお?」
ξ゚听)ξ「え? ……ああ、そっか。ありがとうブーン」

この一瞬一瞬が僕はどうももどかしくそれでいて限りなく幸福で。
ああそうだ。いつもは彼女のピアノ演奏が止まる事はなかった。
そして僕がツンとこんな風に関る事だって、なかったんだ。

西日が西向きの窓に降り注いで、オレンジ色した柱を作る。
空中に舞うほこりがキラキラと輝くのは中々綺麗な光景だった。

ξ゚听)ξ「久しぶりね……こんな風に喋るの」
いつのまにかツンが弾く曲が変わっていた。
その事にまず驚いて、次に声を掛けられた事に驚いて、
うお。なんて間の抜けた返答を返してしまう。

ξ゚听)ξ「ったく……変わってないわね、ブーン」
(  ^ω^)「そうかお?」
ξ゚听)ξ「ええ、昔からアンタはそう」
(  ^ω^)「それはどういう意味で?」
ξ゚听)ξ「顔もそうだけどまず動作が子供っぽい」
(  ^ω^)「う」
ξ゚听)ξ「それでいて格好を付けたがるそして失敗する」
(  ^ω^)「ぐ」
ξ゚听)ξ「今みたいに」
(  ^ω^)「……ぬぬぬぬぬ……お?」
いやいや、格好を付けたつもりはないのだけれど。


12 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 13:12:21.77 ID:n766GXUk0
ξ*゚听)ξ「一丁前に黄昏るなって事よ!」


(  ゜ω゜)「ぐほぉっ」
見られてたのかお。


ξ゚听)ξ「……さて。リベンジ!」
(  ^ω^)「へ?」

そう言うなりツンは一旦手を止めて、
もう一度最初に弾いた曲を弾き始めた。

(  ^ω^)「……それ、何て曲?」
ξ゚听)ξ「《ハルシオン・デイズ》。ギリシャ語で平穏無事な生活」
(  ^ω^)「……へえ」

素直に感嘆する。
ツンはよく知ってるお、そう言うこと。

ξ゚听)ξ「ま……まあね」

ツンの顔が赤かったのは、例の西日の所為だろうか。
もしかしたら、そうじゃなかったのかもしれない。
いや、そうじゃなかったら、いいな。


13 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 13:12:41.05 ID:n766GXUk0


その一件があってから、僕とツンはたまに会話するようになった。

それでも一緒にご飯を食べるだとか、
ξ゚听)ξ「お母さんが作りすぎただけなんだから……!」
と言って弁当渡してくれるとか、


一緒に登下校するだとか、
ξ゚听)ξ「……その……一緒に帰らない?」
と言って中央玄関で彼女が待っていただとか、


それなんてギャルゲ的な展開には恵まれず、
到って平穏な『ハルシオンデイズ』で。


まあ現実なんてこんなもんだろうと僕は打算した。


メールも少しはするようになった。
そして嫌いだったいんげんをちょっと食べれるようになった。
……これはさらに関係ないお。

自分でも恥かしくなるくらいに僕はツンに惹かれていた。



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