240 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 21:32:10.49 ID:frTdFFkPO
第九話



〜VIP市内、某精肉工場〜


午後五時、定時のチャイムが鳴る


パートのおばちゃんたちが作業の手を止め、後片付けをしてガヤガヤとロッカールームへ移動していく



( ^ω^)「パートのみなさん、おつかれさまですお、また明日よろしくですお」


パート達「おつかれ〜!」


そう、ブーンはこの精肉工場の正社員となっていた。

これから、報告書やら納品書の確認、工場や倉庫の点検を行ってから退社となる

241 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 21:33:27.86 ID:frTdFFkPO
( ^ω^)「ふー…今日もそれなりにハードだったお」


大急ぎで仕事をこなしながら独りごとを口走るブーン


( ^ω^)「やっと終わったお!これで帰れるお」


/ ,' 3「あ〜、内藤君、ちょっといいかね?」


( ^ω^)「あ、部長、なんですかお?」


/ ,' 3「あ〜、すまないが、あ〜、午前中のぶんの納品書の処理を忘れておった。

あ〜、向こうの倉庫に行って午前の分を全部数えてきてくれんか」


( #^ω^)ビキビキ「……わかりましたお」


社会人は、やはりラクとはいかないようだ
245 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 21:50:41.26 ID:frTdFFkPO
( ; ^ω^)「ふ〜…今度こそ終わったお…

いくら夏だからって冷凍室は地獄だお…まったくあの部長は…ブツブツブツ」


やっとこ冷凍倉庫内から解放され、ロッカーで着替えるブーン。


時刻は六時半、タイムカードを通して、会社を後にする。


会社を出ると夏の夕方特有のムワッとした空気がブーンを包む

246 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 21:51:25.90 ID:frTdFFkPO
( ^ω^)「…これから帰ってなにするかお、」


精肉工場はVIP湾岸の工業地帯に位置している。

少し歩くと寂れた工場の跡地や、

今は使われていないとおぼしき雑草だらけの線路、

路肩に停めたままの放置車両等が目につく。

それらが夕日を浴びて、まるで映画のワンシーンでも見ているようだ、

とブーンは思った

247 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 22:01:20.35 ID:frTdFFkPO
そんな、風景の中に、埠頭があった。小学校の校庭並の広さで、ここでクルマのケツを振り回して遊んだらさぞかし面白そうだ


( ^ω^)「……クルマ買ったら…ここで練習してみるお」


一瞥して振り返り、そのまま誰も歩いていない狭い歩道を歩く


伸び放題の夏草だけが、そよそよと何かを語りかける


( ^ω^)「さて…たまにはカーチャンにケーキでも買っていくかお」


ブーンは夕暮れを横目に、寂れた臨海モノレールの駅へと向かっていった

248 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 22:08:03.13 ID:frTdFFkPO
('A`)



ああ…やっぱりクルマが無い生活は…ウツダ


今は会社に行くにもバイトに行くにもチャリだ。


スープラ乗ってたころぁ仕事が終わってエンジン掛ける時が至福の時だったんだがな…


こりゃ早いとこ次のクルマを探さなきゃ駄目かも分からんね。

249 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 22:13:56.82 ID:frTdFFkPO
('A`)


そう思って最初の70スープラを買った中古車屋をこないだ見にいってみたんだけど…


その店は潰れて『テナント募集中』と書かれたペラペラな紙が情けなく揺れてた


やれやれだ…

250 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 22:14:51.76 ID:frTdFFkPO
('A`)


なんとも言えない虚無感に襲われながら国道をブラブラしていたら…



…どこかで見掛けた女性の後ろ姿があることに俺は気がついた


('A`)「あの人は…間違い無い!」

俺はたまらず駆け出し、黒い服装の女のもとへ走った


('A`)「…あ、あの!」


俺に気づいて、彼女は振り返る


川 ゚ -゚)「……?」


やっぱり、クーさんだった。
252 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 22:22:30.00 ID:frTdFFkPO
('A`)「…あの、俺にも手伝わせてくれませんか!?」

気がついたら俺はこんなことを言っていた。

〜10分前〜


川 ゚ -゚)「…スープラは、どうした?」


車の往来が激しい国道を、俺らは歩いていた

('A`)「あのクルマは…廃車にしました」


ガラガラガラガラ…
大型トラックが、俺らの横を走り抜けた


川 ゚ -゚)「……そうか、残念だな」

253 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 22:23:13.83 ID:frTdFFkPO
('A`)「…仕方ないですよ」


どこか、遠くで救急車のサイレンが鳴っていた


('A`)「…これから、どこか行くんですか?」


川 ゚ -゚)「…私の家だ。Zのエンジンを今からバラさなきゃならんのでね」

254 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 22:23:49.30 ID:frTdFFkPO
('A`)「え…?自分でバラしてるんですか?」


川 ゚ -゚)「クルマは自分の手でイジる主義なんだ」




…………そんな会話があったからだ
257 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 22:51:58.53 ID:frTdFFkPO
('A`)


しばらく間をおいて、クーさんは答えた


川 ゚ -゚)「……それは嬉しいのだが…特にお礼はできないぞ」


(*'A`)「か、かまいません!是非手伝わせてください!」


『お礼はできない』と聞いたときに不思議に心が踊ったのはなぜなんだろう

258 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 22:52:38.77 ID:frTdFFkPO
川 ゚ -゚)「……わかった。付いてきてくれ」


俺らは、国道から右に折れ、閑静な住宅街の方向へ向かった。



俺は、その日から、少し遅めのお盆休みだった

259 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 22:54:44.96 ID:frTdFFkPO
川 ゚ -゚)「…ここだ」

('A`)「…はい」


クーさんに連れられて来た場所は…かなり立派な家だった。


庭は無かったが、地下?に大きめのガレージ…(というか地下が全てガレージ)があり、リフトやエアツール、エンジンクレーン等が完備されている


工具は…Snap onと描かれたキャリア、完璧な設備だった

黒いZは今、リフトに掛けられてエンジンはすでに降ろされていた
261 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 23:02:27.73 ID:frTdFFkPO
('A`)「あ、あの〜、工場を経営なさってるとか…?」


川 ゚ -゚)「いや、趣味で揃えただけだ。」

クーさんはこともなげにおっしゃった


(;'A`)「そ…そうですか」


謎だ。今までも謎に満ちた女性だったがますますこの人がわからなくなってきた…

…なぜかそれ以上は聞く気がしなかった

262 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 23:03:20.07 ID:frTdFFkPO
('A`)


俺が3分34秒ほどボーッとしてる間にクーさんがツナギに着替えてやってきた


川 ゚ -゚)「…これはお前のぶんのツナギだ。そのままの服装じゃやりづらかろう」


クーさんは手に持っていたツナギを俺に渡してくれた。


('A`)「あ、ありがとうございます」


俺はさっそく着替えようとすると…

263 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 23:06:15.73 ID:frTdFFkPO
川 ///)「…馬鹿、私の前で着替えるな。奥で着替えてこい」


(*'A`)「アッー!し、失礼しました」


ありゃりゃりゃ…あんまり暑いんでついつい気が回らなかった、

やべー恥ずかしいぞ俺!

でもちょっとクーさんの顔が赤くなってるのを見たぞ…

なんか得した気分だ

…まてよ?このツナギってひょっとしてクーさんが使ってたやつじゃないのか?
クーさんの肌にじかに触れていたものなんじゃないのかもしかして?
そ、そしてそれを俺が着てしまうことをクーさんは承認しているということだよな。

すなわち『間接お肌タッチ』みたいなもんか
……こ  れ  は  k  t  k  r

まあ洗濯してあるだろうからあんまり意味はないだろうけど
269 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/01(木) 23:57:53.01 ID:frTdFFkPO
これからZの整備をするというのにそんな馬鹿なことを考えつつ、

あくまで冷静に…
鷹のような目つきをして着替えを終えてクーさんの元に行った


('A`)「おまたせしました」


川 ゚ -゚)「うん、じゃあ始めようか」

クーさんは既に12-14のメガネレンチを持ってスタンバっていた


('A`)「…はい!」



二人で、VG30DETTエンジンを見おろした
271 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/02(金) 00:00:22.79 ID:uR/coIeZO
( ^Д^)



こないだモララーに言われちまったな



『最高速重視のクルマを買え』的なことを


たしかに湾岸で完膚なきまでに敗北したのは久しぶりだった。


ハチロクやケンメリ乗ってたときはそんなことしょっちゅうだったがな。
273 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/02(金) 00:11:11.50 ID:uR/coIeZO
( ^Д^)


ああ、もちろん乗り換えるさ

チェイサーもいいクルマだったし、いままでは4ドアスポーツセダンならではのシブさをそれなりに楽しんでいたがな

しかしオレにとって満足できなくなった今はなんの価値もない


飽きが来たら買い換える。


これは自然の摂理だ。


オレは今までずっとそう考えている


274 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/02(金) 00:18:09.88 ID:uR/coIeZO
( ^Д^)


問題は次に何を選ぶかだ。

やはり最高速狙いならGT-Rか、


いままではどうにもGT-Rってやつは好きにゃなれなかったんだがそろそろガキみてぇな食わず嫌いもよくねぇんじゃねぇかと思えてくる


ここはひとつ大人になってGT-Rを考えてみるのも悪くないかもしれねぇ

なにしろエンジンが素晴らしいからな。

あのRB26DETTエンジンなら200万もかければだいぶイイ線いくだろう。

車両代プラス200万でイイ線いくならじっさい安いもんだ。




( ^Д^)「モララーは何か考えてんのかな…」

287 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/02(金) 00:47:59.16 ID:uR/coIeZO
( ^ω^)「………」



お盆休みのブーンはついに覚悟を決めたようです


ここは郊外の小さな中古車屋、

何年も前から店頭のクルマが入れ替わらないような…
寂れた店だ


( ^ω^)「おじさん、あのクルマを売ってほしいお」

ブーンは、その店の主とおぼしき老人に元気よく迫った。

/ ,' 3「…ほえ?」


( ;^ω^)(なんかウチの会社の部長とふいんきがそっくりだお…)


/ ,' 3「………」


290 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/02(金) 00:53:12.64 ID:uR/coIeZO
/ ,' 3「………」



( ^ω^)「ぁ、あのねだおっ!

あそこにあるランサーエボリューションYトミーマキネン仕様を見せて欲しいんだおっ!」


/ ,' 3「らん…えぼ?」



( ^ω^)「そうだお!ほら、あの赤のやつ」


/ ,' 3「……ふーん」


( ; ^ω^)「……ふーん

じゃなくてだお、見せてほしいんだお」


ブーンがせかすとようやくクルマ屋のオヤジは重い腰をあげ、並べてあるクルマの方へゆっくり歩く
293 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/02(金) 00:57:17.47 ID:uR/coIeZO
/ ,' 3「…これが欲しいの?」



( ; ^ω^)「違うお!それはデトマソパンテーラじゃないかお、三台向こうのクルマが見たいんだお」


クルマ屋のオヤジはよっぽど耳が遠いのか、やる気がないのか、はたまた脳が軟化しているのかというオーラを漂わせていたとき…


ランエボの方から話し声がしてきた


(=゚ω゚)ノ「ねえ〜、お父さんこれだよう僕が欲しいクルマ」

(=゚ω゚)「おおそうか、じゃあ買ってやるからちょっと待ってろ…

なあオジサン、これ買うから手続きしてくれよ」


/ ,' 3「そうか、よくわからんけどアンタに売るべ」


(=゚ω゚)「たのむよ〜、ハッハッハッ」

(=゚ω゚)ノ「やったょう!ランエボ買ってもらったょぅ!」
296 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/02(金) 00:58:20.46 ID:uR/coIeZO
/ ,' 3「……えーと、あんたは何の用だったっけ?」



( ^ω^)「………」




(ヽ´ω`)「………」


こうして、最後までブーンは相手にされないままランエボには『売約済』の札が貼られてしまったのであった
331 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/02(金) 12:02:32.77 ID:uR/coIeZO
川 ゚ -゚)「…ふぅ、ドクオ。ちょっとひと休みしよう」



(;'A`)「あ…はい。」

クーのガレージ、ドクオとクーはいましがたVG30DETTの分解作業を中断した。

ようやくヘッドを降ろしたところだった


川 ゚ -゚)「ほれ、」

クーはガレージの冷蔵庫の中からコーラを一本、ドクオに差し出した


('A`)「ありがとうございます」


汗にまみれていたドクオはコーラを受け取り、グビッと喉に流しこんだ。

炭酸の刺激と水分が体に染み渡る…

332 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/02(金) 12:03:20.52 ID:uR/coIeZO
川 ゚ -゚)「……大丈夫か?まだまだ時間がかかるが…無理なら拘束はしないぞ」


('A`)「いえ、めっそうもないです。…いろいろ勉強になりますんで最後まで手伝わせてください」


川 ゚ -゚)「…そうか、ならいいんだが…


しかし…君は変わった男だな」


('A`)「はは……」

(だって…クーさんと一緒に…いられるじゃないか…もちろん整備の勉強になるのも本当だけど)


川 ゚ -゚)「………じゃあ、それ飲んだら再開するか」


('A`)「ハイ!」

ドクオとクーは、再び作業にとりかかった

333 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/02(金) 12:03:55.00 ID:uR/coIeZO
ξ゚听)ξ



…私は、NSXで夜の高速を流していた。

父は、あれからも私には何も言ってこなかった。だから私も何も言ってない。

父が何も言わないことこそが答えなのかしら…そうだとしたら

私が『ツンデレ』な性格なのだとしたら父は……なんと形容したらいいんだろう

334 : ◆rHi47N9WYc :2007/03/02(金) 12:04:39.78 ID:uR/coIeZO
ξ゚听)ξ

まだ答えは出てないけれど、

私は後先考えずにまたNSXを持ち出して…乗り回している

どうしても、乗りたかったから

エンジンの音を、聞きたかったから



ξ゚ー゚)ξ「………素晴らしいと思うわ」



運転中に、独り言をいう癖がついてしまったかもしれない


第九話  完

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