- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/13(金) 22:10:37.14 ID:PrL+I73LO
- 第三十五話
( ´∀`)
やあ、ようこそ社長室へ
まあマルボロでも一本どうかね?
今回は閑話休題というか……
勝手ながら私の若い頃の話をさせてもらう。
まあ若い頃といっても30代の頃だがね
………気に入らなければ捨ててくれ
- 7 :
◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
22:13:52.85 ID:PrL+I73LO
- 私も社長業が長いが……一時期、少しばかり異色のクルマに乗っていた経験がある
たしか、ツンがまだ小学校に入るか入らないかくらいだったかな
………そう、バブルで世の中が狂っていた時期のことだった
とにかく、世間全般のカネの巡りが凄まじかった。
当時は東京の銀座あたりだと坪4億円もしたくらいだ……クレイジーだ
- 11 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
22:18:14.77 ID:PrL+I73LO
- ……………………………………………
…………………
15年前
|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「やあ、VIP建設のモナー社長ではないですか、どうです景気は?」
( ´∀`)「おや、VIP不動産のポリフェノール社長、これはこれはごぶさたしております、……私共はなにぶん起業したばかりですから……まだまだこれからが勝負ですよ。いかがですか社長は?」
|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「いやあ、こう言ってはなんだけど儲かって儲かって笑いが止まらないんだ。
スポンサーもいくらでもゼニを出してくれるし、何を出してもヒットするし、株価だって天井知らずさ、ハッハッハッ!!」
バブルで一番凄まじかった業界はいわずもがな不動産関係だった。
地上げはもちろん、売買に至っては儲かって儲かって笑いが止まらないほどだったらしい
( ´∀`)「そうみたいですねぇ、……羨ましい限りです。
まあこの好景気は今後あと20年は続くみたいですから……
ウチは焦らずにまず借金の返済を済ませることが優先になっちゃいますよ」
- 12 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
22:20:36.86 ID:PrL+I73LO
- |;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「ハハ、この御時世なら借金なんてすぐ返せるでしょう……
ところでモナー社長はクルマはなにか乗ってましたかな?」
( ´∀`)「??ウチの社用車は……セドリックですが?」
|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「いやいや、プライベートのクルマで」
( ´∀`)「ああ、大したクルマじゃないですよ……初期のZです」
|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「ほう、いわゆるS30Zといつやつですな。これはまた渋い」
- 14 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
22:24:48.25 ID:PrL+I73LO
- ( ´∀`)「ええ、まあ自分もクルマももういい加減トシですけど、ハハ……」
|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「では短刀直入にお伺いしましょう、
この機会と言っては失礼かもしれませんが……私のクルマ、買いませんか?」
( ´∀`)「え?まさか社長のフェラーリテスタロッサのことですか?」
|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「ええ、そのまさかです。じつは今度F40を買うことになりましたのでね、
テスタの売却を考えていたんですよ。
どうだろう?モナー社長もそろそろフェラーリを経験してもいいと思うんですがね?いいもんですよ。アレは……」
( ´∀`)「………………」
- 16 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
22:31:07.87 ID:PrL+I73LO
- ( ´∀`)「………………」
高嶺の花……いやもっと崇高な位置にいるフェラーリテスタロッサが、自分のクルマになる……
そんな話が唐突に舞い込んでくるなんて……
|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「……………せっかく苦労を重ねてこうして実業家になったのです。
クルマくらい少しばかり贅沢してもバチは当たらんでしょう?」
思わず黙ってしまった私に対して、ポリフェノール氏が的確なアドバイスを発してくれたおかげで、やっと自分は我に帰った
そして少しお情けばかり躊躇してから……
( ´∀`)「……それも、そうかもしれないですね。では今度、見せて頂きたいと思います……」
Yes、そう言ってしまった
そう、我々は、かの有名な『スーパーカーブーム』世代であった。
元々クルマが好きで、高校の頃から親父のハコスカを無免許でコッソリ乗っていたほどの私が、そのブームを経てフェラーリに憧れを抱かないわけがない
- 19 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
22:34:10.88 ID:PrL+I73LO
- 就職して自分で免許を取り、親父のハコスカや自分で買ったZに乗るようになっても、
いつも心のすみっこでずっと、ずっと欲しいと思っていた。
乗るだけでもいいから、いや座るだけでもいいから、フェラーリに近付きたいと……そう思っていたんだ
( ´∀`)(そうだモナ、気がつけば……フェラーリを買うだけの余裕が出来ていたんだモナ)
手続きはトントン拍子に進み、ロッソコルサ(赤)のフェラーリテスタロッサはすぐに私の元へと届けられた
- 21 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
22:39:47.58 ID:PrL+I73LO
- ( ´∀`)「ほほう……」
5リッター水平対向12気筒エンジンを搭載し、
鮮血のごとく紅く煌めくボディ
不気味なほどに低く、幅広く構えたシルエット
……猛毒のカタマリのようなクルマだなと思った
ほかにうまい表現が思いつかないくらいに……
( ;´∀`)「…………」
いままで色々なクルマに乗ってきたが、これほどに緊張するのは初めてだった、というか私自身が前日から妙に寝付きが悪かった
興奮していたわけではなく、緊張して……
- 24 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
22:45:06.09 ID:PrL+I73LO
- 意を決してシートに座る。
( ´∀`)「……ん?」
少しシートポジションがおかしいようだ……イタリアのクルマはみんなそうだと聞いてはいたが……いかんせんシートを一番前に出してもまだ足とペダルが遠い
しかしそんなことを気にしていても仕方がない。
いよいよ12気筒に火を入れる。
『クォクォクオオオーーン!!』
( ´∀`)「…………」
まるで違った。
他のクルマでは決して起こりえない快感が、ただエンジンを掛けただけで私を襲ってきた
そうだ、いままで乗ってきたどんなクルマとも違う……
- 26 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
22:51:48.23 ID:PrL+I73LO
- ( ´∀`)
さっそく新制首都高に乗り、軽く回すといままで知らなかった世界が分かってきた。
国産系チューニングカーとは違った世界だ
フェラーリのエンジンは音と音が互いに共鳴し、得もいわれぬ快音を紡ぎだす
なおかつ、その共鳴音に『揺らめき』のような波動が含まれており、そいつを聞いていると素晴らしく脳下翠黛を刺激されるようだった
( ´∀`)「…………」
私のS30Zとはまるで違う。
フルチューンしてあるから充分、それ系の快感のあるクルマのはずだが………たぶんフェラーリとは評価する基準自体が違うのだろう
( ´∀`)(……これでレッドゾーンまで回したら………おそらく気絶するほどだろうな)
いま、正直この状態でも少しヤバい。クルマではなく、私が……
たかだか100キロちょいしか出していないというのに
本当にこれで7000rpm以上回してしまったら快楽に溺れたまま死んでしまってもおかしくないくらいだ
- 27 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
22:56:01.48 ID:PrL+I73LO
- そう思ったせいではないのだが……どうにもアクセルが踏み込めない。踏み込む勇気が無い
右足が動かない
いつものZなら普通に踏めるのに……
……こいつを踏んでしまったらなにかとてつもなく恐ろしいことが起こってしまう気がする
しかし、踏めばこのテスタロッサはさらに未知なる領域を見せてくれることは間違いないだろう
( ´∀`)(踏むか、止めるか……)
そう葛藤していたときだった
- 29 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
23:02:26.74 ID:PrL+I73LO
- 急に車内にガソリン臭が充満したのだ
( ;´∀`)「え……?」
とてつもなく嫌な感じがした。
こういう時は落ち着きが肝心だ。冷静に思考してみよう……
もしかしてエンジンのフューエルホースからガソリンが漏れだし、引火するのではないかと思った
( ´∀`)「まずいな……」
そう思って、後ろのエンジンルーム側に視線を向けてみたら……果たしてその通りだったのである
( ´∀`)「ッッッ!!!!」
あっという間に火が回り、リヤセクションは完全に火だるまになってモクモクと煙をあげる
- 31 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
23:06:00.60 ID:PrL+I73LO
- すぐにブレーキを踏み、路肩に停めてクルマを降りたが、もはや時はすでに遅かった
夜の新制首都高の路肩で、赤いテスタロッサが、おごそかに炎を上げて燃えている光景だけが、理解出来た
( ´∀`)「…………」
イタリア車は炎上する可能性が国産車に比べてとてつもなく高い。
そういう説は知っていたが、まさか納車されたその日に、フツーに走っただけで燃えるとは思わなかった
なぜ、私はイタリア人を見習って消火器を用意しなかったのだろうか……
壊れない日本車に乗っていると、こういう点で平和ボケしてしまうのだな……と納得した
- 33 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
23:07:24.65 ID:PrL+I73LO
- しかし、そんなことはいまさら仕方がない。
もうこんなに燃えてしまっては……たとえ消火器が用意してあったとしても手がつけられない。
私は、完全に力が抜け、ただただ路肩に立ち尽くして、パチパチと音を立てて燃えるフェラーリを眺めていた
( ´∀`)「おそらく、一生忘れない光景だろうなぁ……」
まるで他人ごとのように、そう思った
実際、夜の湾岸で炎を上げて燃えるフェラーリテスタロッサは映画のワンシーンのようで、美しかったとさえ感じる………
- 36 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
23:11:56.79 ID:PrL+I73LO
( ´∀`)「………………………」
( ´∀`)「………」
結局2000万円のテスタは一晩で廃車
そしてその数週間後にはバブルが崩壊………
………つくづく愉快な夏だった
…………………………
それ以来、私はイタリアのクルマには乗らないことにした。
だから現在、ホンダNSXという選択なのである。
他の同業他社の社長にはフェラーリオーナーも多数いるが、私には怖くてとてももう二度と乗れたものではなかったのだ
- 38 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
23:17:34.23 ID:PrL+I73LO
- その後、私はあちこちの知り合いのフルチューンのGT-RやらRX-7やら911ターボやら……
じつに様々なクルマに乗る機会に恵まれた。
たしかにどれもパワーは素晴らしいのだが、
しかしあのフェラーリテスタロッサのような少し『異質』な快感を感じることはなかった
チューンドGT-Rやポルシェ、
対してフェラーリ
前者が重点を置いているのが、『性能』なら、後者は……さしずめ『官能』だったのだろうか
それとも、もっともっと異質なものだったのだろうか
- 40 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
23:21:23.32 ID:PrL+I73LO
- ( ´∀`)(……結局、あのテスタロッサのエンジンの真のフィーリングはわからないままだったな……)
正直、フェラーリのことはあまり思い出したくなかったが、あのエンジンの素晴らしさだけは、いまだに忘れられないでいる
4000回転であの快感を生んだあのエンジン、
水平対抗12気筒……
- 41 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
23:23:50.55 ID:PrL+I73LO
- もし、7000回転まで回していたらと思うと……
いまでも、それだけは心残りだった
そのせいか、今ウチにあるNSXのチューンも、無意識のうちにフェラーリを意識したものになってしまっている。
やっぱり未練はあるようだ
……いつか、本当に憂いがなくなったらまたフェラーリに乗ろうか、とも考えつつある
- 43 : ◆rHi47N9WYc :2007/07/13(金)
23:30:20.50 ID:PrL+I73LO
- ( ´∀`)
しかし、あれからもう15年も立つとは……まったく早いものだ。
ツンももう22歳だし……私ももう長くないかもしれないな。ハッハッ……
そういえばあのクリスマスの夜……ツンの帰りがかなり遅かったが……なにかあったのだろうか?
おや、タバコが切れてしまったようだ
それでは……私は失礼してNSXでマルボロを買いに出かけなくては
第三十五話 完
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