4 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 20:30:28.79 ID:SVNiqUYpO
第三十三話



─クリスマスイブ─  深夜


新制首都高港湾パーキング



イブとは言え、お台場や横浜のようなレジャー施設に乏しいVIP湾岸は、それほどいつもと変わらずクルマは少なかった


相変わらずトラックが数台と…

1台の青いスープラが駐車場に停まっていた

('A`)「……さみぃ」


…ドクオは、体を震わせながら自販機で買った缶コーヒーをすする

('A`)「ったく…ブーンはケータイ繋がんないし…このまま適当に走るしかないかな…」


冬の夜の冷気は体に堪えるようで、タバコを吸うことすら躊躇っている
6 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 20:33:38.10 ID:SVNiqUYpO
('A`)「クルマん中はいろ……」


寒さに耐えかね、ヒーターの効いた車内に入ろうとドアノブに手を置いたときだった


パーキングに滑りこんで来た1台のクルマをドクオは見た


('A`)「……ん?」


もちろんトラックではない

営業回りのカローラバンでもない

新車のような輝きを放ち…

それでいて独特の野太いサウンドを響かせるBNR32…


白いスカイラインGT-Rだった


7 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 20:36:09.10 ID:SVNiqUYpO
('A`)「程度よさそうなGT-Rだな…」


ドクオは見ていた

夜の港の明かりをまだらに反射させる白いGT-Rを


ドクオは見ていた

白いGT-Rのドライバーを


('A`)「あれは…ギコさんじゃないか」


以前はFCに乗っていた、そしてドクオを巻き添えにして以来クルマから降りてしまった男……

……ギコが、ドクオの前に現れた……
10 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 20:37:57.42 ID:SVNiqUYpO
('A`)「!!……ついに乗り換えたんだ……GT-Rに」


スープラのシートに座るドクオは、恨みでもなく、称賛でもなく、妬みでもない、


なんとも言えない感情を抱きながら…


少し離れた場所からGT-Rを見つめ続けるのであった

11 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 20:40:46.88 ID:SVNiqUYpO
( ,,゚Д゚)「しぃ、何か飲むか?」



(*゚ー゚)「え?あ……じゃあミルクティーで」


一瞬びっくりした。さっきまでずっと黙ったまま、
GT-Rを運転してたギコ君が…
パーキングに入った途端、普通に声を掛けてきたから


( ,,゚Д゚)「じゃ、買ってくるから待っててくれ」


(*゚ー゚)「う、うん、ありがとね」


いままで無言だったのがウソみたいな、いつも通りのギコ君の声……

さっきまでは私が何か言っても、聞いていないような感じだったのに……
13 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 20:42:26.66 ID:SVNiqUYpO
(*゚ー゚)「まあ…いっか」


ギコ君……



まさか、運転していて…

……私には分からない何モノかに取りつかれたんじゃないか…と本気で心配しかけたけど

今、自販機で普通にボタンを同時押ししてるギコ君を見ていたら、単なる取り越し苦労だったみたい、

まあ…そんなの当たり前よね。


16 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 20:46:17.19 ID:SVNiqUYpO
( ,,゚Д゚)



「…………ん?」


ミルクティーと缶コーヒーを自販機の取りだし口から拾い上げたオレは、一瞬思考が止まる


青い、スープラがいる

半年くらい前に…たしかに見た覚えのあるクルマだ。

いや、見た覚えがあるどころじゃない。オレが事故を起こした相手のクルマ……それと極めて似ている

青い70スープラなんてそうそういるもんじゃない
19 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 20:48:46.35 ID:SVNiqUYpO
( ,,゚Д゚)



まさかと思いつつ、スープラの運転席の方へ視線を移す


('A`)「………」


( ,,゚Д゚)「………!!」


デジャブーかと思った
まさかとは思ったがシートに座っていたのはドクオだ。

ドライバーまで一致していたとは…

オレが…オレが事故に巻き込んで、クルマを潰してしまった相手…

正直に言えば、もう二度と会うことはないはずの男だった……


20 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 20:52:17.78 ID:SVNiqUYpO
( ,,゚Д゚)



………たとえ賠償金を払いきっていたとはいえ、オレがアイツにしてしまったことは重すぎた。

('A`)「………」


そんな男と、いま偶然出会ってしまったとは…


( ,,゚Д゚)「…………」


そして、目が合うとは…


しかし、それでオレは少し救われた気分になった

ドクオはまっすぐな視線で少し、顎を引いて会釈してくれたからだ

ここぞとばかりに恨みがましげに睨みつけてくるような真似は微塵も見せない

21 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 20:54:15.91 ID:SVNiqUYpO
( ,,゚Д゚)……コクン

オレも、同じように頭を傾ける。


一礼………

そして踵を返してGT-Rに向かう


ここで踵を返さなければ、フリーズしてしまう……そう思ったからだ


( ,, Д )「………すまなかった」


スープラに背を向けたまま、

虚空に向かってぼそりと呟いた
24 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 20:58:47.85 ID:SVNiqUYpO
ギコが乗り込んだBNR32が、再び野太い排気音とともに発進した


パーキングの出口に向かっていく


('A`)「ギコさん……」

ドクオも…、気がついたらなぜかスープラのギアを1速に入れ、発進させていた


このときのドクオの心理は、本人にもよく分からない……


ただ…ギコを…いや、GT-Rのテールを目で追っているうちに……

ついていってしまいたくなったから
26 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:03:54.94 ID:SVNiqUYpO


('A`)(さすがGT-Rだ…速いな、しかし俺のスープラだってノーマルとは違う……)


加速車線を2速全開で立ち上がるBNR32。

同じく全開で後を追う70スープラ。

RB26DETTの野太く、かつカン高い高回転サウンド

そして1JZ独特としかいいようがない凄みをもった高回転サウンド

新制首都高湾岸線に二台のエキゾーストが響く
30 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:10:23.64 ID:SVNiqUYpO
( ,,゚Д゚)(やっぱりついて来たか……ドクオ、だが今夜以降、俺は責任もてないぜ)

(*゚ー゚)「………?」

白いGT-Rの背後にはスープラが一定の間隔を置いてついてくる。

バックミラーの中で揺れるヘッドライトを見てギコがそれに気付いた。


( ,,゚Д゚)(本当に……久しぶりだな、こんなこと……)


そんな思いを抱きつつ、さらにアクセルを踏み込むギコ


31 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:11:57.48 ID:SVNiqUYpO
アクセルを踏み込まれたことによりスロットルバタフライが開き、

空気を全開で取り入れたRB26DETTエンジンが本領を発揮しはじめる……


幸運なことに、しぃの選んだこの中古のBNR32はマフラー交換とリミッターカット(180km/h以上出せる)だけは既にされていた


4速5000rpm

ツインターボが効き始め、RB26DETTが最もパワーをみなぎらせるポイントだ

速度は190キロ弱、


( ,,゚Д゚)「いいクルマだ……全体的な安定性が以前のFCとは比べるべくもない……」

(*゚ー゚)「…………?」
34 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:20:14.10 ID:SVNiqUYpO
('A`)


本気でアクセルを踏み込むと現れる現象


エンジンが、持てる力の全てを絞り出し、快音をあげる


等間隔で立っている水銀燈はどんどん速く過ぎていって…

やがてフロントウインドウの向こう側は幻のスクリーンになる……

まるで前方に引き込まれるような錯覚

('A`)「………」

そして、スピードが上がるごとに、体を駆け巡る快感…エクスタシー


何度見ただろう、
そしてあと何回見られるだろう、

ここでしか、見られないこの光景を……
36 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:22:25.19 ID:SVNiqUYpO
('A`)「………」

スピードメーターは180までしか刻まれていない

今、メーターは針が振り切っている…おそらく200キロ前後か─


('A`)「……追いつくだろうか」


前方には、白いGT-Rだけが巨大な壁のように走っている


まるで、自分とGT-Rが止まっていて、景色だけが後ろに流れていくような……

そんな錯覚まで感じてしまいそうだ

フロントウインドウの向こう側は、幻のスクリーン……

40 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:26:42.64 ID:SVNiqUYpO


(*゚ー゚)「……ホント速いんだね、このクルマ……」


GT-Rの助手席に座るしぃがぼそり、と呟く

( ,,゚Д゚)「ん…ああ、」


(*゚ー゚)「思い出してみれば…私がトナリにいるときにこんなにスピード出すなんて、珍しいよね……」


( ,,゚Д゚)「……そうだったか、」


ハンドルを握り、視線を前に向けたままギコは聞こえるか聞こえないかの声で答える

まるで独り言のように

( ,,゚Д゚)(そうか…確かにセブンのときは本気で走るときはトナリに誰も乗せなかったよな……)


(*゚ー゚)「…………」
( ,,゚Д゚)(まったく…いままで決別していたはずのこの行為が

……ほんの三時間前に再び、こうもあっさり蘇るとは…)
もう、決して走る事はないだろうと思っていたのに…
……しぃ、まったくお前ってやつは……
44 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:35:53.72 ID:SVNiqUYpO
4速6000回転……



('A`)(……この人の後ろについていると…とてもスムーズに走れる

付かず、離れず、絶妙の間合いで………)


ギコさん、あなたは何を想ってココを走ってるんですか……?


そして突然後ろから憑いてきた俺をどう捉えてるのですか……?


速度は240キロ前後…
ぼちぼち、今の段階では限界に近い速度……

GT-Rも見たところマフラーくらいしかノーマルとの違いは見当たらない。だからこの速度をキープするにとどまっているのだろう

45 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:39:00.92 ID:SVNiqUYpO
('A`)


……こうして走っていると、この湾岸にはまるで自分と目の前のGT-Rしかいないように感じられる

前から後ろへと流れていく水銀燈は流れ星……

遠くに見えるビル街の明かりは自分だけのクリスマスツリー……

そしてGT-Rと俺のスープラはメリーゴーランドの馬車なのだろう

俺は、GT-Rのテールを臨みながら、ギコさんの気持ちに想いを馳せていた
47 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:40:46.59 ID:SVNiqUYpO
('A`)(考えてみればギコさんの走りを見るのは初めてなんだな……そして一緒に走ることも)


たまに現れるトラックや一般車を華麗に、後を濁すことなくスルーしてゆくGT-Rの姿……

あくまで自分たちは自分たちの次元で走り、かつ周りに極力迷惑を掛けない…


それはこの場所で走る上で最も重要なことだ

('A`)(……華麗だ。美しい)

『走り』が澄んでいる。迷いなく乗れている。

ギコさんも、俺も…
49 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:43:32.35 ID:SVNiqUYpO
('A`)(ギコさんとは……これからもこうして一緒に走ることはあるんだろうか)




風切り音とエンジンの排気音に包まれていると、ついつい色々なことを考えてしまう


('A`)(ギコさんのことは俺にはわからない……

仕事も、プライベートも、どんな人なのかは………でも、

今夜偶然ここで会った……それだけで充分だ……)
51 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:47:01.53 ID:SVNiqUYpO
…………………………………
……………………
……………

二人とも、無言だった

お互いに距離を保って向き合ったまま、ずっと動かなかった


遠くに見える街の明かりがまばゆい……

( ^ω^)「…………」

ξ゚听)ξ「…………」


このまま、朝を迎えてしまいそうな雰囲気の中………

ブーンは、静かに一声を絞り出した

52 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:48:35.02 ID:SVNiqUYpO
( ,,゚Д゚)

オレは半年前に『走り』を拒絶した……


もう、こんな命知らずなマネはやめようと決めた


だから…自分を無理矢理クルマから遠ざけたというのに

とんだお笑いぐさだ。
今、自分の意思でこのアクセルを離せないなんて……


掌にうっすらとにじむ汗、心拍数は高く…いつしか呼吸は細くなり、顎を引いて前方をしっかり見据える。

自然と目つきは獲物を狙う獣のそれになる。
55 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:54:11.54 ID:SVNiqUYpO
………………………………………
……………………
……………

( ^ω^)「ツン……」


ξ゚听)ξ「なあに…?」


( ^ω^)「綺麗な夜景だお……
僕はいつも疲れたときにはこの夜景を見に来るんだお

そしてツンと今日……僕と一緒にこの夜景を見てくれていることが嬉しいお」


ξ*゚听)ξ「………」


ξ///)ξ「な、なんて返事すればいいかわかんないじゃない!」


( *^ω^)「え、えーとだお……」
58 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 21:58:35.52 ID:SVNiqUYpO
( ,,゚Д゚)

エンジンの鼓動、伝わってくる熱、そして焼けたオイルの匂い

200キロを越えると凄まじい風切り音、排気音……

そして、今まさにバックミラーの中にいる男、

……あの件があってもなお当然のように走り続けてきたであろうドクオの存在

( ,,゚Д゚)「………」

同じだ…『あの頃』毎晩のように走っていたときの感覚と

(*゚ー゚)「………」

( ,,゚Д゚)「まずいな、こりゃ」

(*゚ー゚)「え……なに?どうかしたの?」

( ,,゚Д゚)「オレはまた……あの頃に戻っちまうらしい」

5速5000回転……

GT-Rとスープラのエキゾーストノートが、夜の湾岸に還っていく
64 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 22:09:24.51 ID:SVNiqUYpO
………………………………………
………………………
………………

VIP湾の向こう側の新制首都高湾岸線からは一際迫力のあるサウンドが近付いてくる



ξ゚听)ξ「…………」



( ^ω^)「……………」


時間の間隔がおかしいように感じられる


……一瞬と一瞬が噛み合わない。

66 名前: ◆rHi47N9WYc :2007/06/12(火) 22:11:35.16 ID:SVNiqUYpO
二人のぎこちない時間の流れの中で……



『ギュオオオオオ……』

湾岸線を走るクルマの音が、ブーンたちの頭上を通りすぎ、少しずつ遠ざかっていく



( ^ω^)「……ツン!」


ξ゚听)ξ「!!」


瞬間、ブーンはツンを抱き締めた








第三十三話 完

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