- 51 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:02:35.47 ID:WFEUX999O
- 第三十二話
(*-_-)「……んあ」
布団から顔を上げた私は…
寝惚けつつも今日の予定を描いて…
完全に目を覚ました
(*゚ー゚)「…そっか」
今日はイブ。
どうにか仕事は休みを取ることができた。
幸運なことにギコ君も休みになったみたい。
今日は二人でゆっくりできる…
(*゚ー゚)「…ふふ」
今日の希望に心を踊らせながら
私はいつものように布団を跳ね退けて朝のシャワーをあびに浴室に向かう
- 54 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:07:48.06 ID:WFEUX999O
- (*゚ー゚)
タイルに響く水の音、
マイナスイオン溢れるシャワー室、
湯気で出来た霧の中で私は考える
今日のスケジュール…
そして…
私はまだ自分がクルマを買ってしまったことが信じられない
べつに私が乗りたくて買ったわけじゃない…
とすればやはりギコ君のため?に買ったということになるんだろうか…
- 56 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:12:16.39 ID:WFEUX999O
- (*゚ー゚)
…あのクルマ、一応名義は私ということになってるけど、きっとあのクルマはギコ君が乗るに違いない。
まだ見せてもいないのに、そうなることが分かってしまう
それを悪いとは思わないし…良いことでもない
きっと、それが自然だし
クルマに乗るギコ君の笑顔が見たくて…
ギコ君が感じていた喜びを私も感じたくて…
そういう、思いがある
(*゚ー゚)「……ギコ君」
だけど、本当の自分の本心はよくわからない…
それが分かる日は…今日なのかな?
期待と不安を入り乱らせて、私はシャワーを浴び終えた
- 60 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:18:25.40 ID:WFEUX999O
- …クリスマスイブ、昼のVIP港海浜公園…
日本の物流、産業を支える工業地帯をベースに、峡海が見える
いっけん無機質なこのベイエリア
お台場や横浜、幕張と違ってレジャーに適した環境ではないから、クリスマスであっても人は少ない
だがそれがいい、と俺は思う
空は少し曇り、冷たい風が吹いている
しかし12月はそれほど寒くない
本当に寒いのは2月からだ…
自分にそう言い聞かせ、寒空の中、マルボロに火をつける
それにしてもこんなところが待ち合わせ場所になるとは思わなかった。
てっきりVIP駅前で落ち合うものだとばかり思っていたが…
( ,,゚Д゚)y ̄~「遅いな…」
- 62 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:22:44.56 ID:WFEUX999O
- ( ,,゚Д゚)
俺はしぃとの待ち合わせでこの寂れた場所に来ていた
いつもは聡明なしぃだが…今日は一体なにを考えているのだろうか…?
こんな待ち合わせはいままでにないパターンだったから思わずしぃを疑ってしまう
( ,,゚Д゚)y ̄~「……」
ウィィィィ………ン
ガランガラン…
向こう岸の工業地帯から、クレーンやらなにやらの音が絶えず響いてくる
退屈な俺はしばらくその無機質な音に耳を澄ませ、波の音と共に聴いていたがやがて後方から…
…昔よく聴いた音が近付いてきた
ブロロロロロ……
( ,,゚Д゚)「………」
公園の入り口駐車場に今、一台のクルマが入ってきた
- 67 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:29:30.92 ID:WFEUX999O
- ( ,,゚Д゚)「どっかのアベック、もしくはコゾーか…」
こんなところに来るスポーツカーといったらそれしか思い浮かばなかった。
( ,,゚Д゚)y ̄~「それにしても遅いな…しぃ」
俺は今日何本目かのマルボロに火をつけたとき、
そのクルマから求める人の姿が現れた…
- 70 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:33:39.63 ID:WFEUX999O
- BNR32
スカイラインGT-R
グループAと呼ばれたかつてのツーリングカーレースで29連勝(全勝)するほどのスペックを持つマシン
このクルマが発売されたことによって、
ついに、『国産でポルシェを凌駕する』というそれまでは完全に夢物語とされていたことが現実になったのだ
もちろんGT-Rはバブルの影響もあってか大売れに売れ、
買った者も売った者も笑いが止まらないクルマになった
時は流れ、今…GT-Rは中古で100万円台というリーズナブルな価格で手に入れることができる
しかし、その性能は今でも一流だ
- 72 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:37:48.12 ID:WFEUX999O
- ……………
( ,,゚Д゚)「…………」
(*゚ー゚)「…ひさしぶり。ギコ君」
しぃは…GT-Rのドアを静かに開け、猫のようにおそるおそる外に出て…遠慮がちに声を発した
( ,,゚Д゚)「……ああ、
ひさしぶり、だな」
俺が、今見ている光景は…現実なのだろうか
- 74 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:43:54.10 ID:WFEUX999O
- ( ,,゚Д゚)「………」
(*゚ー゚)「………」
…しばらく続く沈黙。
およそ一ヶ月ぶりの再会だというのに、なにから話していいか分からない二人…
(*゚ー゚)「…買っちゃったんだ、コレ」
( ,,゚Д゚)「……本当に、お前が…買った…のか」
スカイラインGT-R
ここにあるこのクルマは過去、多くの人たちの人生を変えてきたのと同様に…
これからの二人の人生を変えることになる
- 76 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:46:59.73 ID:WFEUX999O
- ('A`)「うぉ…もう夕方になっちまったか」
クルマをいじってると時間が経つのが異常に早い
なんとなく辺りが暗くなってきたかな〜と思ったらもうコレだ
('A`)「ふぅ…」
まあなんだかんだ言って車高調の取り付けは完了した
…と思う
なにしろ2980円のバッタもん工具セットしか持ってなかったからいかんせん苦労が多かった
シロート作業だから多少不安は残るが、アライメント調整するときに流石兄弟が組み付け具合いをチェックしてくれるはずだから心配ない
- 78 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:48:18.90 ID:WFEUX999O
- ('A`)y ̄~「とにかく作業完了したあとの一服はうまい」
…しかし、これからどうしよう?
このさいだから今からでも流石整備に持ってってみるか…
もし店が閉まってたとしても駄目でもともとだ。
どうせヒマだしよ…
すっかり暗くなった空を一瞥し、俺はスープラのエンジンに火を入れた
- 79 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:50:25.62 ID:WFEUX999O
- ('A`)「あー…俺ってもしかしてバカかも」
走り出して分かった
国道がクソ渋滞だ
そうだよな、イブの夕方の国道はお盆の東北道並に酷い渋滞だったのになんで予測できないんだ…
('A`)y ̄~「…………」
前の信号は青なのにさっきからまったく動かない…
心は三つ先の信号まで行ってるのにまったく動かない…
だいたい別に大した用じゃないのにこんな渋滞に首を突っ込むハメになってしまったとは…
さっきから歩道ではカップルたちが嬉しそうに歩いているのも鬱だ
('A`)「今宵、新制首都高湾岸線で身をよじるように走ろう…」
あ、でもアライメント調整と組み付け最終チェックしてからでないと危ねぇや
いろいろとバカなことを考えつつ、さっきからずっと前にいるイストのテールランプを睨みながら渋滞と格闘する俺であった
- 82 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:55:23.68 ID:WFEUX999O
- (´<_` )「今日は流石に客もこないな、兄者よ」
( ´_ゝ`)「そうだな。そろそろ店を閉めてサンタコスのキャバ嬢のとこに飲みにいくとするか」
(´<_` )「………兄者よ、悪いが俺は彼女と約束があるんだ」
( #´_ゝ`)「……なんか言った?」
(´<_`; )「ま、まあとりあえず仕事もないし、もう今日は工場を閉めようではないか」
( ´_ゝ`)「うむ、チャッチャと工場閉めてネーチャンと朝まで飲…
みwwなwwぎwwっwwてwwきwwたww!ww」
(´<_`; )「やれやれ…」
一人盛り上がる兄者を横目に弟者が事務所を出てガレージのシャッターを閉めようとした、そのときだった
ブォン、ブォン、ブロロロ…
(´<_` )「はて、なにやら妙な予感が…」
- 83 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:58:07.09 ID:WFEUX999O
- なにやら一台、元気の良さそうな音をしたクルマが店の前の道路を曲がってきたようだ
(´<_` )(あーあ…なんかきちゃった)
('A`)「あ、どうも…
今からアライメント見てもらえません?」
(´<_` )「ぶっ…」
噴いた
たしかに本来の閉店時間まではあと二時間ほど余裕はあるが…
もう帰る気マンマンだったのにこの飛び入りはキツイ
(´<_`; )(どーしよ…
断ろうかな…でもせっかく来てくれたドクオ君に悪いしなぁ)
(;'A`)(やべ…やっぱ明日にすりゃよかったかな…困ってるよ弟者さん)
(´<_`; )「えーと…中に兄者がいるはずだから…その…まあなんだ。そっちに頼んどいてくんない?」
(;'A`)「え?はい、わかりました…」
(´<_` )(俺も人がいいなぁ…
でもこの隙にさっさと帰ってしまおう…フフフフフ〜)
- 85 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
22:59:51.84 ID:WFEUX999O
- 流石自動車整備事務所内
('A`)「兄者さん、アライメントとって欲しいんですけど」
( ´_ゝ`)「今日は誰を指名しようかなぁ…レミちゃんていう新人の子…まだ辞めてなかったら彼女でいこう」
('A`)「あのー…」
( ´_ゝ`)「でもアキちゃんでもいいなぁ…六万でぉkって話だったし…」
('A`)「兄者さーん…」
( ´_ゝ`)「あ、割引チケットどこやったっけ…とりあえずアキちゃんに電話してみよう」
('A`)「あのー…兄者さーん…」
( *´_ゝ`)「あ、もしもしー?アキちゃん?今夜店でてくんの?…
え?俺出入り禁止になってる?
なんでよ?
…こないだの裸踊り?
まってよ!そんなのやった覚えない…
え?ガチャン…ツー、ツー」
(;'A`)「…………」
- 87 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:03:18.65 ID:WFEUX999O
- ( ´_ゝ`)「………あれ?ドクオ君いたの?」
('A`)「どうも…じつはこれこれくあはぬmt.gawdふじjgこ」
( ´_ゝ`)「……………………一時間で終わらせよう…そして飲みにいこう」
(;'A`)「よ、よろしくお願いします…」
(´<_|壁(哀れな兄者…しかし許せ、俺は帰って彼女とセクロスする)
(;'A`)「ホント申し訳ないっす…俺もなんか手伝いますから」
( ´_ゝ`)「弟者までがどっかいったようだな……まああいつなんかどーでもいーや…」
こうして暗い工場に再び電源が入り、黙々とスープラの作業が始められるのであった
- 88 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:06:13.28 ID:WFEUX999O
- (*゚ー゚)
ギコ君が…今GT-Rのハンドルを握っている
さっきからずっと無言のまま、港の倉庫街を流している
( ,,゚Д゚)「………」
私がしたことは…正しかったのギコ君…?そう聞きたかった
(*゚ー゚)「………」
そういえば、なぜ私は、RX-7ではなく、GT-Rを買ったんだろう?
いまさらになって、そんなことを考えてしまう…
- 89 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:08:27.51 ID:WFEUX999O
- (*゚ー゚)
…たしか、ギコ君は前、『Rは別格だ』と言っていた…
だからって訳でもないけど…なんとなくあのクルマのオーラに惹きつけられて…
私は、GT-Rを選んだんだ
( ,,゚Д゚)「……しぃ」
(*゚ー゚)「うん?」
( ,,゚Д゚)「…いや、なんでもない…」
(*゚ー゚)「……そう」
やっぱり、私がしたことは間違っていたのかしら…
GT-Rを買うなんて…出すぎた真似だったかしら…
ギコ君…答えて…
そう聞きたかった。けど聞けない
( ,,゚Д゚)「………」
ギコ君は、また黙ったままひたすら走っている
- 90 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:12:07.94 ID:WFEUX999O
- ξ*゚听)ξ「わぁ……いい景色」
─VIP港工業地帯─
ブーンの勤める精肉工場の近くの港
ここは殺伐とした港町のタメ、イブといえども人通りはいつもと変わらず少ない
( ^ω^)「すっかり辺りが暗くなってきちゃったお…」
ξ゚听)ξ「…いい場所ね、ここ穴場じゃない」
( *^ω^)「お?気にいってくれたかお?」
- 91 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:14:00.65 ID:WFEUX999O
- ξ///)ξ「ちょ…べ、べつにアンタを誉めたわけじゃないんだからねっ」
( *^ω^)「まあまあ…寒くなってきたお、ツンなにか飲むかお?」
ブーンは公園の自販機に向かって歩き出す
その姿は少し誇らしげで、いつもより少し落ち着いて見えた
精一杯気張っているのだろう
ξ///)ξ「………」
ツンも赤面したまま、ブーンの後についていく
- 94 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:23:21.67 ID:WFEUX999O
- 人を好きになる
好きになるって…それ自体は自由なものだけど
それを相手に分かってもらえるまでは…いろいろとしがらみもある
恋敵…相手との距離…タイミング…
さまざまなしがらみの中で…やっぱり一番の大敵はやっぱり自分自身だと思うの
相手を想うあまりの自分勝手な行動
もしくは踏み切れない自分
わたしは…貴方が好きなだけ
- 95 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:28:26.76 ID:WFEUX999O
- 人を好きになったら、
たとえストーカーになっても…
ツンデレになっても…
結局は自分が満たされるために動く
相手を思いやるのも、結局自分が満たされるためなんだから…
とても…とても自分勝手よね
(*゚ー゚)「ギコ君…どう?このクルマ」
さっきからずっと、ギコ君はGT-Rで港湾工業地帯のはじっこの方の…周回できるターミナル?
をグルグル回っている
( ,,゚Д゚)「………ああ、これはいい」
ギコ君は前を見据えたまま、ぼそりと呟いた。
まるで独り言のように…
そして…私は、貴方が好きなだけ
- 96 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:34:06.49 ID:WFEUX999O
- ( ^ω^)「そういえば今日はクリスマスイブだったんだおね」
ξ゚听)ξ「いまさら何いってんのよ…」
( ;^ω^)「い、いや…なんといいますか…えーと」
ξ゚听)ξ「…………」
はあ…間がもたない
ブーンてば男なんだからこういうときはもっと空気読んだエスコートくらいして欲しいわね…
…しょーがない、なんか言ってあげるか
- 100 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:37:42.70 ID:WFEUX999O
- ξ゚听)ξ「なんかお腹すいてきたわね」
さて、ブーンはなんて言うかしら?どこか食事に誘ってくれるかしら?
( ^ω^)「お?それならNSXの中に買ってきた柿ピーが置いてあるから食べるかお?」
ξ゚听)ξ「………」
ξ#゚听)ξビキビキ…(空気嫁…)
- 104 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:40:14.39 ID:WFEUX999O
- ………………………………………………………………
('A`)「いや、ホント助かりました…しかも安くやってもらっちゃって」
流石整備にてようやく終わったスープラのアライメント調整…時刻はすでに八時を回っていた
( ´_ゝ`)「うん…それじゃ俺はもう出るから…ガレージ閉めといてね」
(;'A`)「え?え?」
( ´_ゝ`)ノシ「じゃ、また来年」
兄者はサッサと工具を片付け、バス停へと小走りで向かっていってしまった
( ;´_ゝ`)(早くアキちゃん指名しにいかないと…)
- 107 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:43:05.50 ID:WFEUX999O
- ('A`)「…………閉めといてって、アンタ…」
ガレージに一人取り残されたドクオ。
蛍光灯の明かりが力なく彼の影を形づくるのみであった
まだ付けっぱなしのラジオからはクリスマスソングがノイズと共に流れている
('A`)「ここ戸締まりしたら…
今宵、身をよじるように走ろう」
- 110 : ◆rHi47N9WYc :2007/05/10(木)
23:48:22.01 ID:WFEUX999O
- ……………………………………………………………………………………
( メメ^ω^)(………)
太陽はとうに沈んでいる
港湾地帯から見る街の明かりが眩しい
影法師のように動かない二人─
ξ゚听)ξ「………」
( メメ^ω^)「ツン……」
ツンが、ブーンに背を向けて海を見ている。白い息を吐きながら、ただ無言で─
ブーンは…ツンの背後でただオロオロしているだけ…
何秒たっただろうか…?
( メメ^ω^)「………?」
一瞬と一瞬がぎこちなく繋がり、ツンはブーンの方へと振り返った
第三十二話 完
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