- 34 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
22:13:40.88 ID:VFldiv99O
- 第二十八話
('A`)「ぅお、ブーンのZ31速ぇ…」
新制首都高湾岸線。
赤いZ31フェアレディZと青い70スープラが昼間の日常を捨て、いま全開で疾走している
('A`)「やっぱノーマルだしな…俺のは」
ドクオの視界にある赤いZ、
闇の中でぼんやりと明滅するテールが少しずつ離れていく…
('A`)「一人で走るにはいいが…
相手がいるとなると…このパワーでは満足できなくなる…」
- 35 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
22:14:58.66 ID:VFldiv99O
- こんなに、こんなにアクセルを踏んでいるのに…前のZ31についていけない…
やがて、赤いZはアフターファイヤーを残して、闇の向こうへ見えなくなった
( ^ω^)「……やっぱり速いお。僕のZ31…」
本気でアクセルを踏めばドクオのスープラをみるみる引き離してしまうZ31。
ひょっとしてこれ以上速いクルマなんてありはしないんじゃないか?とブーンは思う。
- 36 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
22:16:20.89 ID:VFldiv99O
- ( ^ω^)「……素晴らしいお」
230km/h
景色がすごい勢いで前から後ろへと流れ、
ハンドルは路面の凹凸を拾って常に細かく振動する
このまま、このままいつまでもアクセルを踏んでいたらぼくはどうなってしまうんだろう?
ほんの半年前までは全く知らなかった世界が…
今では…この湾岸を踏み切った先に見え隠れしている…
( ^ω^)「………」
ギュオオオアアアア………
ブルゥゥオオアアア………
赤と青のマシンが、湾岸線を駆け抜けていく
- 40 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
22:27:08.45 ID:VFldiv99O
- カッ、カッ…
シュルシュル……
( ´_ゝ`)「弟者よ、一寸そこのオイルエレメントをとってくれんか?」
(´<_` )「ああ、把握」
ここは流石自動車整備工場
流石兄弟は赤いZ31と青い70スープラの二台をリフトに掛け
二人して同時にオイル交換をしていた
( ´_ゝ`)「オイルドレーン抜くコツは
…思い切りのよさが重要」
(´<_` )「しかし俺の方が巧いんじゃないかなぁと思う今日このごろ」
- 42 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
22:30:35.04 ID:VFldiv99O
- その様子を工場隣接の事務所兼待合室からコーヒーを飲みつつ眺める二人…
('A`)「やっぱオイルは三ヶ月、もしくは3000キロに一回は換えないとな」
( ^ω^)「そんなもんなのかお?
ドクオがそういうなら僕は1ヶ月、もしくは1000キロで交換することにするおww」
('A`)「…わけのわからん張り合いはやめようではないか」
( ^ω^)「それは残念だお」
今日は二人とも仕事は休みだった。
だから昨晩は二人して自慢の愛車を出し、湾岸でずっと走っていた。
- 43 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
22:36:02.23 ID:VFldiv99O
- そこで気がついたら朝になったので、
『ヒマだしオイル交換でもしにいくか』
…という流れで二人はここに来ていた
( ´_ゝ`)「お待たせ、終わったよドクオ君」
コーヒーを飲み終え、タバコを吹かしていたドクオにスープラの作業終了を伝えに来た兄者
('A`)y ̄~「ああ、どーもすいません、突然飛び込みで来ちゃって」
( ´_ゝ`)「いやいや、どうせヒマだったし、でもこの際君たちさえ来なけりゃのんびり昼寝でもするはずだったなんてことは(ry」
(´<_` )「兄者よ、たしかにそういう予定だったのは事実だがそんなことをお客に言うのはどうかと思うぞ」
(;'A`)「サーセン」
( ;^ω^)「すまんかったお」
やはりこういった個人経営のクルマ屋の対応は東京トヨペットや日産プリンス千葉とは違うのだと二人は悟った。
- 45 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
22:44:08.64 ID:VFldiv99O
- この兄弟、腕はいいのだが…
と二人は思ったが、よくよく考えてみれば腕のいい整備士は大概そんな性格である。
真面目な性格ではとても務まらないのだ
もし真面目に見えたならそれはフェイクだ
(´<_` )「あ…いや、気にすることはない。今日は作業依頼ありがとう
これからも何かあったら面倒見させてもらうよ」
( ^ω^)「はいですお!」
( ´_ゝ`)「まあそういうことだから一人5000円ね」
('A`)「あ…はぃ」
(´<_`; )(兄者の空気の読めなさは異常)
(;'A`)(我同感)
( ;^ω^)「高級オイルはやっぱり高いお…次はいつ交換するか迷うお」
- 47 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
22:52:20.13 ID:VFldiv99O
- カランカラン……
(´・ω・`)「やあ、ようこそバーボンハウスへ…ひさしぶりだね」
ξ゚听)ξ「そうかしら?とりあえずいつもの紅茶おねがいね」
私はカウンターの椅子に腰を降ろし、いつもと変わらない返答をする。
この椅子も…座るのに少し緊張感を強いられる。ゆっくり落ち着いて座るのではなく、ほとんど立っているのと変わらないような…そんな椅子。
でもそれもいつものことだ。
マスターもいつものように相想がいい。
いつ来ても変わらない店…バーボンハウス
(´・ω・`)「どうかな?最近の調子は?」
ξ゚听)ξ「なんの調子?」
マスターは紅茶を煎れながら私に答える
(´・ω・`)「人生の調子さ」
- 48 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
22:58:08.21 ID:VFldiv99O
- ξ゚听)ξ「……まあ、最近はそこそこかしら」
人生の調子…ね、
マスターはたまに突拍子もなくそういうことも聞いてくる。
…だからすぐには返答が浮かばなくて…
つい曖昧なことを言ってしまう私
(´・ω・`)「うん、いいとこで安定してるみたいだね、
まあツンちゃんの年なら今が人生で一番楽しいと思われる時期だから
…悔いがないようにね」
マスターはそう言いながら私に紅茶を出してくれた
私は21歳、大学三年生、
大学を卒業後は父親の会社で役員をやらなくてはならない…
たしかに今しかできないことは山ほどある…
今わかっておかなければ一生わからないまま…そういうことだってあるはず…
…気がつけば、私はマスターの質問に答えてから改めて自分の心を問い詰めている。
- 49 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
23:03:54.00 ID:VFldiv99O
- ξ゚听)ξ
たしかに今しか出来ないことはたくさんある。
だけど何から手をつけていいかわからない。
…半年前もそう言ってた私。
でも、今の私は今の私。
あの時とは違う。
今は、免許も、自分が使っても差し支えないクルマもある…
私は変わった
私が変われたのはマスターの助言があったからだ
そして、もうひとつ突き抜けるために…
今日もこうして私はここに来たんだ
ξ゚听)ξ「ねぇ、マスター」
(´・ω・`)「ん?なにかな?」
ξ゚听)ξ「…青春って、どうあるべきなの?」
マスターが相手なら…こんな帯分数や仮分数並に単純な質問もしてしまえる
- 51 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
23:12:21.20 ID:VFldiv99O
- ξ゚听)ξ
私は紅茶に砂糖を入れながら、マスターの返答を待った
(´・ω・`)「…………」
(´・ω・`)「…『満足しないこと』じゃあないかな」
ξ゚听)ξ「どうして?なんか正しいとは思えないんだけど」
(´・ω・`)「何をやってもうまくいく。失敗なんて皆無…
完璧な青春などつまらないと思わないか?
それよりも『あの時あれをやっておくべきだった』とか『違う仕事に就いたら自分はどう変わっていたんだろう』とか考える余地があるほうが
夢があっていいんじゃないかな。
どのみち全ての選択肢を選べるわけじゃない。
選べる道は一本だけ、だから後悔することは必ずある
それ故に満足したら負けだと僕は思うよ」
- 52 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
23:16:47.87 ID:VFldiv99O
- ξ゚听)ξ「………?」
(´・ω・`)「…まあ、それは僕の持論なんだ。
あくまで自分の考えを押し付ける気はないからね、忘れてくれて構わない」
ξ゚听)ξ「………」
砂糖を入れすぎたみたい…紅茶が甘すぎる…
なんとなく今の自分を示しているような…そんな感じがした
ξ゚听)ξ「マスターは…どうなの?」
(´・ω・`)「僕は…
正直わからない。いつかわかる日がくるかどうかもわからない…」
ξ゚听)ξ「…そう」
やっぱり甘い…カップの底に砂糖が溜って…
甘さがハッキリ分かってきた…
- 54 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
23:28:29.12 ID:VFldiv99O
- その夜、私はNSXに乗った
私には羽がないから
夜という空を駆けるために
…この黄色い翼を纏った
むしょうに走ってみたかった
走ってるときだけは…
いつもと違う考え方が生まれるから…
本来の私がいるから…
だってほら、頭の中が真っ白になるこのスピード、
ビルの明かりが全部流れ星のよう
そして胸のすくような…官能的なエンジン音、
このクルマは、確実に私に何かを与えてくれている…
- 56 : 漂流者(関東):2007/03/27(火)
23:29:39.14 ID:VFldiv99O
- これは、表現する言葉もないわ…
過去の私も…未来の私も感じることの出来ない…
いま…ほんとうに今の私だけが…味わうことのできるこの感覚
ξ゚ー゚)ξ「そう…今、なのよね…」
気の遠くなるようなこの湾岸線を
私はNSXという翼で駆けていった
第二十八話 完
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