- 122 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 13:59:59.84 ID:gYgBfaUpO
- 第二十七話
すれ違う人々が、お互い干渉することなく、思い思いの時間を過ごそうとしている…
深夜0時
VIP市、駅前の高層ビル通り
ネオンが煌めき、夜空に解放される広告塔の明かりたち…
そんな街から…数キロほど離れた場所。
VIP港、工業地帯や倉庫街が広がる、
いわゆるベイエリア
夜中だというのにクレーンが動き、フォークリフトや大型トラックの移動も絶えない。
首都、VIPの産業を支えるのがこの湾岸地帯なのだ
都会と海の狭間
混沌としたこの場所に架る長大なステージ、
フォークリフトの作業員がだるそうにタバコを吸ってる場所から300メートル離れた場所にある…新制首都高速湾岸線。
- 123 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 14:01:12.26 ID:gYgBfaUpO
- 今夜も、一台の…白いBCNR33、スカイラインGT-Rが、
夜の闇に身を隠しながら最高速アタックをしていた。
オールクリア、周りにクルマは一台もいない、
それを考慮したとしても信じがたいスピード。
そして、エキゾーストサウンド。
真のチューンドRB26DETTは…地獄の底からの断末魔のような音を、VIP湾岸全域に響き渡らせている。
あるときは深く、あるときは浅く、ゆらめきを残しながら
音がクルマの通過したあとに聞こえてくるその様子は…まるで戦闘機を彷彿とさせる
- 125 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 14:05:49.19 ID:gYgBfaUpO
『…なんでかな。やっぱり自分はここに来てしまった。もはや理由など分からない。
いや、理由ではないな…
ただただ引き寄せられるように…
この場所…湾岸線に魅せられて来てしまったんだ
…それにしてもこの33Rは素晴らしい。
今まで挑んできたクルマを全てなぶり殺しのように凌駕してしまうこのパワー…
なおかつ最高速域でのこの安定性…
現在320km/h
この領域になるとまともな思考なんて出来ない…
- 126 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 14:06:52.75 ID:gYgBfaUpO
- でも『公道でこんなことをしている』という罪悪感、背徳感から様々な感情が生まれる…
今までそれなりに真面目に生きてきたつもりだが…こんなことをしてしまっては意味がない
でも…世の中なにが正しいのかなんてもう自分には関係ないと…
今ならそう思えてしまう
今はただ、この33Rに身を委ねることが…
自分にとっての最優先事項なんだ』
33RはVIPブリッジまで全開のまま、湾岸線の果てまでカッ飛んでいった
- 127 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 14:38:43.34 ID:gYgBfaUpO
- VIP駅前の高層ビル街
パソコンのモニターが並ぶデスクの列にただ一人…
深夜だというのにまだ帰れない…
いま、何時だろう…?
22時34分…?もうこんな時間だなんて…
終電のことを考えなきゃだから…今日はこれで終わりにしなきゃ
(*゚ー゚)「……ふぅ」
オフィスで溜め息をつく。
出版社勤務、入社二年目の私…
(*゚ー゚)「…はぁ、疲れた…」
仕事を切り上げてパソコンを切り、私は大きく背伸びをしながら給湯室へと向かった
- 129 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 15:00:37.16 ID:gYgBfaUpO
- (*゚ー゚)
帰る前に給湯室でコーヒーを煎れて…
口うるさい上司や仕事に追われることなくオフィスでのんびりコーヒーを飲んで過ごす。
それだけが入社二年目の私が社内で唯一くつろげるひとときだった。
(*゚ー゚)「…いい香り」
ネスカフェゴールドブレンド
インスタントコーヒーだけど私は大のお気に入り。
これを仕事用のデスクで飲む。
本当は片付けるべき仕事をあえてやらずに飲むとなぜか美味しく感じるのは何故だろう?
- 130 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 15:45:29.85 ID:gYgBfaUpO
- (*゚ー゚)
そんなことを思いつつ、私は誰もいないオフィスでコーヒーを親しむ。
(*゚ー゚)「ギコ君は…まだ仕事してるのかな…」
時間があくとついついギコ君のことを考えてしまう私。
普段会えない日が続くことが多いから…
いつだってギコ君と一緒に居たいと願ってる
(*゚ー゚)「そういえば…ギコ君そろそろ免停明けるんだったっけ…」
ギコ君は湾岸での事故が原因で半年間の免停になっていた。
でも免停が明けたら…ギコ君はまたクルマに乗るのかな…
ドライブ…行きたいな
- 132 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 16:21:09.22 ID:gYgBfaUpO
- (*゚ー゚)
会社を出て…すっかり寒くなった外をVIP駅まで歩いて…
私を含めた無表情の人々が終電に乗り込んでいったときも…
まだ私は漠然とギコ君のことを考えていた。
しい「………」
終電…席はほとんど満員。
そんななか、誰もがそうであるように、周りに表情を悟られないように…
私はそっと思考を巡らす
- 133 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 16:22:16.23 ID:gYgBfaUpO
- (*゚ー゚)
ギコ君と最後にドライブしたのは何処だったかな…、
たしか静岡の浜松だったかな…
RX-7で東名を走って…
浜名湖パーキングの鰻はあんまり美味しくなかったっけ…
それでも、私もギコ君もニコニコしていたことだけは覚えてる…
そのあとはVIP港に夜景を見に行ったんだ、あのときは夏の匂いがしたっけなぁ…
あの頃、たった半年前のギコ君と…今のギコ君は別人のよう
私と会ってるときも、どこか心から楽しめていないみたい…
RX-7が無くなったから…?
でも、それってギコ君にとっては私よりクルマの方が重要ってこと?
いや違う。そんなことない…
ギコ君があのRX-7を買うに至ったきっかけが私だからだ。
- 134 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 16:23:13.47 ID:gYgBfaUpO
- (*゚ー゚)「………はぁ」
あのRX-7はいわば私たち二人の思い出。
それが跡形もなく潰れてしまったから…ギコ君はやりきれなくなってしまったんだ
ギコ君はああ見えて、繊細で脆い部分もある…
私に出来ることといったら…
『つぎは東VIP駅、東VIP駅です』
(*゚ー゚)「…!」
電車内のアナウンスによって私の思考は閉ざされた。次で降りなきゃ…
私は席から立ち、そそくさと降りる体制を整えて、満員で動きが悪いなかドアの方へと向かった
- 137 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 16:57:40.21 ID:gYgBfaUpO
- …………………………
………………
(*゚ー゚)「…………」
なんか音がすると思ったら…
目覚まし時計が鐘盥のような音をたてていたんだ…
もう…朝、
11月18日、午前六時半…仕事に出かけなきゃいけない時間…か
(*゚ー゚)「ふぁ…」
しぶしぶ布団に別れを告げ、一気に立ち上がる。
こうしないといつまでも起きられないのは分かりきってるから
(*゚ー゚)「今日は…何時に仕事終わるかなぁ」
朝起きたばかりだというのにもうそんなことを考えてしまうのが鬱だ
会社辞めてしまえばどんなに楽か、
それでギコ君と暮らせればどんなに幸せか…
- 138 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 16:59:00.37 ID:gYgBfaUpO
- (*゚ー゚)
なんて、そんなこと考えてる場合じゃないね、あと40分で支度しなきゃ
ササッと顔を洗ってスーツに着替え、私は支度を整えて部屋を出たのであった
(*゚ー゚)「出版社なんて…入って正解だったのかなぁ…」
たしかに世間的には有名な会社だし、給料も悪くない…
でも、残業も多いし、人間関係もなんとなくしっくり来ない…
こんなことを思う私はわがままなのかな…
でも、社会人て皆そうだよね…
ギコ君だって、いろいろ辛いこともあるはず…
- 139 : ハンター(関東):2007/03/25(日) 16:59:50.72 ID:gYgBfaUpO
- (*゚ー゚)「学生の頃は…良かったなぁ」
そういえばギコ君と付き合い始めたのも大学の頃だった。
あの頃は、あんまりお金は無かったけれど、
今よりずっと楽しかったなぁ…
あの頃のギコ君はマークUに乗ってたっけ…
最近、仕事のときも、ごはんのときも、電車の中でもこんなことを思い巡らすのは何故だろう…
べつだんギコ君と上手く行ってないってわけでもないのに…
(*゚ー゚)「クルマ…か」
私は女だからよくわからないけれど…
男性にとっての『クルマ』は…やっぱり特別なものなのかな…
第二十七話 完
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