5 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 22:42:38.90 ID:nJPlYQ9TO
第一話  


職も無く、夢も無く、気力も無く、金も無い‥

しかも時間の概念まで無くなってしまっていた‥いわゆるニートだ


( ^ω^)「お、いま何時だお‥?11時?じゃあもうちょっと寝とくお」

この男、内藤ホライゾン、布団から体をまったく起こさないまま、懲りもせずまた眠り始める、

( ^ω^)「‥‥‥‥」
昨日も外に出なかった。
一昨日も外に出なかった。
もう何日こんな生活が続いただろう、さすがに飽き飽きしてきた

( ^ω^)「‥なんで僕は働かないんだお‥」
いちばん楽しかったのはいつだろうかお?今にして思えば学校は最高につまらなかったし、卒業してからも働く気になれずどんどんgdgdになっていったお‥
でも高校のころはまだドクオがいたんだお‥彼は卒業して働きだしたけどあれからたまに連絡が来るぐらいで今はさしたる交流もないお‥
思えば唯一の友達だったお‥

( ´ω`)「‥‥‥」
なんでドクオは自ら進んで働きはじめたんだお‥そんなに働いてお金稼いだって‥‥

6 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 22:43:20.38 ID:nJPlYQ9TO
布団にうずくまったままブーンは考える。なにもしない自分、なにもできない自分、なにもやろうとしない自分に嫌気がさしていたのだろう



( ´ω`)「ドクオには‥なにか夢があるのかお」



久しぶりに重いことを考え出したせいか間もなくブーンは眠りへと落ちて行った‥


三月のとある午前中のことだった

7 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 22:44:47.20 ID:nJPlYQ9TO
─夜‥

ブーンやドクオの住む街、「VIP市」

この街はつい最近、遷都‥つまり東京から首都としての施設や機能が移転し、急速に発展、またたく間に高層ビルが立ち並び、高速道路が建設され、都市として完成に向かっていった。
おかげで昔からの地元住民にとっては地価が大幅に上昇し、砂を噛む思いをする者、あるいは儲かって儲かって笑いが止まらない者が生まれた

当然、この街では雇用や給料といった面も大幅に上がり、市としての収益は月ごとに過去最高益を塗り変える勢いであった


そんな街に多くの「いっちょ一旗挙げてやろう」といった輩が現れるのも必然にほかならない


もうだいぶ寒さもやわらいだ夜の港‥もう厚手のコートもいらないだろう


開発が進んでるとはいえ、まだまだ港湾事業までは手がまわってないと見えて、この海浜公園は静かで人も少ない。

でも、この夜景は最高だ─

('A`)「‥‥いいねぇ、仕事の疲れも吹き飛ぶわ」


タバコをうまそうに吸いながらニヤけるドクオ、彼にとってきっと特別な場所なのだろう

('A`)「ついに目標ひとつクリア、こいつでココに来たかったって」

8 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 22:46:16.46 ID:nJPlYQ9TO
ドクオの傍らに停めてあるクルマ‥それは男なら誰でも思い描くであろうスポーツカーの象徴である※リトラクタブル式ヘッドライトを格納していた


そう‥JZA70型のスープラである

(*'A`)「ついにかっちゃったな〜」


('A`)「アトハトナリニノッテクレルオンナガイレバナ‥」




些細でありながら重要なコトをブーたれながらドクオはスープラのキーをひねり、そのまま夜の闇へと疾走していった─


※格納式ヘッドライトのこと、普段は閉じててスイッチをつけるとライトパカッと開くやつです
11 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 22:49:24.96 ID:nJPlYQ9TO
('A`)「‥さて、このまま軽く高速にでも乗ってみるかね」


初めての愛車を手にしてウキウキのドクオ。彼の独り言はスープラのメーターが無機質に照り返した


1993年式、走行距離12万キロ弱、フルノーマルで1JZターボ5速マニュアル。価格は45万円コミコミ


しかしそれはハタチそこそこのこの青年にとってやっと手にしたかけがえのない宝だ

高速入り口の料金所でお金を払い、まだ不慣れなクラッチに戸惑いながら高速に合流するドクオ


('A`)「‥‥‥」


(*'∀`)「高速の料金所でお金払うってあんな感じなんだ‥」

彼にとっては見るものすべてが新しい。高速道路の水銀灯も、それに反射された路面も、きっと素敵なイルミネーションに見えるのだろう

(*'A`)「ん〜‥他のクルマが一台もいない‥こりゃちょこっとアクセルを多目に踏めという啓示かもわからんね、全開は怖いからしないけど」

12 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 22:51:52.00 ID:nJPlYQ9TO
思いきって5速から3速に落とし、アクセルを軽く踏み込むドクオ

その時!
ガコッ!
('A`)「アヒャ」

クラッチをいきなり繋いだせいか3速に落としたときに急激なエンジンブレーキ状態になり、ドクオは前につんのめってしまい、その分アクセルが深く踏み込まれた‥というか全開である

グォォオオオオオー!!
('A`)「ひっ!」

スープラのフル加速が始まり、ドクオはその加速感に度肝を抜かれた。まるでジェットコースターだ
は、は、はえぇeeeeeeeeeeeeeeeeee!

エンジンの回転は瞬く間にレッドゾーンの7000回転に達する

('A`)「ッッッ!」

あわてて5速にチェンジし、アクセルを緩める
150キロほどを指していたスピードメーターがようやく100キロ前後に落ち着いたとき…

('A`)「……すげえええ」

いまになって冷や汗が吹き出し、震え‥いや、武者震いのような震えが出てくる

加速した瞬間の頭がシートに引き寄せられる感覚、それはまるでクルマが後ろから巨大な力で押されていくようだった

('A`)「フヒヒヒ…これはもう駄目かもわからんね」
予期せずスープラのフル加速…そしてそのパワーを知ってしまったドクオ、その笑顔はもはや変態的である
15 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 22:57:27.46 ID:nJPlYQ9TO
(*'∀`)「さてさて、とりあいずパーキングエリアに入ってコーヒーでも飲みますか」
スープラを高速のパーキングに停め、ドクオは自販機に向かう

周りにほとんどクルマは停まっていない。大型トラックが2台と、軽トラ、あとは奥の方に数台停まっているくらいだ

('A`)「よっこらセックス」
お決まりのセリフと共に自販機前のベンチに腰を下ろし、コーヒーを飲みはじめる

('A`)(ああ、俺もこんなとこで缶コーヒーが飲める身分になったんだなぁ‥あとは彼女さえいれb)
微笑ましい思考をしているとパーキングの奥の方から、なにやら人が歩いてくる

黒いコート、黒のロングの髪‥
そして肌は白く透き通るような‥女性だった
(*'A`)「う、美しい‥」
(え、なに?俺のほうに歩いてくる?なんで?ひょっとしてフラグktkr!)

16 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 22:58:55.68 ID:nJPlYQ9TO
川 ゜‐゜)「?」

('A`)(あれ?ああそうか、自販機か、そりゃそーだよな、ちょっと考えりゃわかることなのになんでこんなことでテンパってるんだ俺!このやろー)
女性は一瞬目が合ったがすぐにコーヒーを買い、クルマが置いてあるであろう場所に戻って行った

('A`)「綺麗な人だな‥でも‥男と来てる感じじゃあ‥ないな」
結局ドクオは最後までその女性を目で追うのだが‥彼女のクルマを見て目つきが変わった

('A`)「あれは‥フェアレディZ!」

日産の高級スポーツカー、V6ツインターボエンジン、Z32型フェアレディZ、あの流麗なデザインは彼女のような女性にこそふさわしいのではないかと思えた

('A`)「シブイ‥」

彼女は漆黒のZに乗り、ドクオのいる自販機の前を通りすぎて本線へと向かおうとしている
ドクオは持っていた缶コーヒーを即座にゴミ箱に投げ捨て、脱兎のごとく自分のスープラへと走る。

17 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 23:00:08.15 ID:nJPlYQ9TO
('A`)(追い掛けなきゃ‥あんな綺麗な女性がZ乗ってるなんて‥追い掛けたって無駄だろうし、フラグなんか来ないだろうけど‥せめてもっとよく見ておきたい‥)
すぐにエンジンを掛け、クラッチを乱暴につなぎながら慌ただしく黒いZを追い掛ける

(Zはすでに本線に入ってしまっている‥おいつけるかな)

ドクオもすぐに本線に合流したが‥意外にもそう遠くない位置にZのテールランプが見えた。そんなにスピードを出してるわけじゃないらしい。
幸いにも周りに車はいない、ここぞとばかりアクセルを踏み込むドクオ

('A`)「おおおお!絶対に追いついてやるんだお!」

なにが彼をそこまでかきたてるのか?てか語尾には触れないでおいてやってほしい

しかしそこまで必死にならずとも、20秒ほどで彼女のZに追いつく彼女はだいたい時速80キロほどで走っていたようだ

18 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 23:01:18.72 ID:nJPlYQ9TO
('A`)「はぁ‥おいついた‥」

ドクオのスープラが女のZの後ろにつく。

スポーツカー2台で80キロ走行‥それにしてもこのZ、あの女性のイメージとは裏腹に

「ウ゛ォォォォォ‥‥」

かなり野太い排気音である。マフラーは大口径の二本出しだ

('A`)「よく見ると迫力あるなこのZ‥‥

‥‥とりあえずケツについててもしょーがないから横にでてみるか‥」

ゆったりと車線変更して横に並び、Zの室内を窺うドクオ
室内にはやはり運転席の女性一人だけのようだ

19 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 23:02:56.09 ID:nJPlYQ9TO
(*'A`)「それにしても‥なんて優雅な姿‥」
フェアレディZを運転する女‥
ドクオはだんだん魅惑されていくのを感じた
川 ゚ -゚)「‥‥」横のクルマに気がついた女性がチラ、とドクオの方を見る


(*'A`)「ニヤニヤニヤ」
決して彼に下心や悪気があるわけではない。しかし、あまりにニヤニヤしすぎた

川 ゚ -゚)「‥‥‥‥‥」
21 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 23:13:17.44 ID:nJPlYQ9TO
その瞬間

「スバババババババ!!!バリャリャリャリャ…」
Zの左右のマフラーから炎が!

Zはフルスロットルで加速体制に入り、激しく後輪から煙をあげて視界から遠ざかっていった

('A`)「え…?」

Zが遠ざかる…

遠くで二つのマフラーからオレンジ色のアフターファイヤーが吐きだされる…

その光景がドクオには、なぜかとてもゆっくりに感じられた‥

('A`)「う、美しい‥」
なぜいきなり置いていかれたのかも気がつかないまま、視界から消えるまでその後ろ姿を眺めていた

22 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 23:14:27.46 ID:nJPlYQ9TO
翌日…


もう太陽が西に傾きつつある時間、ブーンは家でひとり朝食とも昼食ともつかない食事をとっていた

「ブーンへ カーチャンは今日もパートです。起きたらこれを食べておいてね」


一週間前から毎日使い回されている置き手紙を横目にブーン、

( ^ω^)「カーチャン‥いつもすまないお」

一人、自虐的にご飯とコロッケをかきこんだ
( ^ω^)(いまの僕には夢がないお…なにか夢中になれるものが)


その時、突然メールの着信音が鳴る

( ^ω^)「お?ドクオからだお?」

彼からのメールなんて何ヶ月ぶりだろう?落ち込んでいたブーンだったが友人からのメールで少し目に生気が戻ってきた

『ひさしぶり、ブーン、今夜空いてたら少し顔だしてもいいかな?』

( ^ω^)「おっおっ!久しぶりにドクオが家にくるお」

すっかりご機嫌になったブーンはすぐさまメールを返信
『もちろんおっけーだお!まってるお』
( ^ω^)「何時にくるのかお、楽しみだお」

23 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 23:15:20.56 ID:nJPlYQ9TO
('A`)「おいすー」



夜、ドクオは愛車であるブルーのスープラでブーンの家に訪れた


( ^ω^)「‥‥‥」



( ;^ω^)「ちょっwwwおまwww」

一拍間をおいて衝撃を受けるブーン、それも無理のないことだろう
(*'A`)「うん、買ってしまったんだ。すまない」

( ^ω^)「それなんてショボンwwww」

会った瞬間から昔のようにじゃれ合う二人は、しばらく雑談に花を咲かせるのであった


( ^ω^)「しかし驚いたお‥やっぱり真面目に働いてる男は違うお」

('A`)「まあ‥俺このクルマのために高校のころからバイトしてたし‥やっと目標ひとつ達成ってかんじかな」

24 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 23:16:34.48 ID:nJPlYQ9TO
( ^ω^)「かっこいいお‥それにひきかえ引きこもりの僕は‥」

トーンの下がっていくブーンの声をあえて遮るようにドクオが言う

('A`)「なあ‥せっかくだからちょっとそのへんドライブでもしないか?」

( ^ω^)「うん、それがいいお!」

またブーンの声のトーンが上がる。それを見て微笑むドクオ




スープラに乗って走る二人。あたりはすっかり暗くなり、沿岸のドライブはロマンティックな雰囲気をかもしだす

25 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 23:19:06.97 ID:nJPlYQ9TO
すっかり打ち解けた二人、ふとドクオが言葉を発する

('A`)「‥‥まただ」

( ^ω^)「お?」

前の交差点から左折してきたクルマ、見覚えのある漆黒のZ
('A`)「!…ちょっとスピードだすぞ」

信号が青になりスープラが加速する

( ^ω^)「おっおっ!速いお」

ブーンがキャッキャッと軽く喜んでいるとスープラはZの横に並んだ
('A`)「‥‥」

川 ゚ -゚)「‥‥‥」

向こうもこちらを見ている。二人の視線が合った
( ^ω^)「…?知り合いかお?」

('A`)「いや、違う‥けど」
ドクオが言いかけたときにはすでにZは前方に離れつつあった
あえて追おうとしないドクオ

('A`)「昨日も追いつけなかった‥今日も‥無理だ」
またしてもZのアフターファイヤーを視界の先で捉えながらつぶやいた
27 : ◆rHi47N9WYc :2007/02/23(金) 23:22:52.95 ID:nJPlYQ9TO
離れていくZ‥



('A`)「もうひとつ目標が出来た‥
いつか、あの人の前を走る」

( ^ω^)「‥‥‥‥」
もうアクセルを離しているのにまだスピードメーターが140キロ付近を指してるのを見てブーンはこれが夢か現かわからなくなった

春の湾岸道路にエキゾーストノートが響く‥

それを見守るビル街、街路樹‥

そろそろ桜も芽を出すのだろう

第一話  完

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