3 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:07:36.06 ID:xFQFvane0
――塔・入り口――

とっくに豪雨になっていた。
雷までも鳴っていた。

幾度となく脚を取られた。
何度も何度も立ち止まりそうになった。




川 - )




ここに至るまでの道で、ついに見つけられなかったクーを。
ようやく見つけた。



水しぶきの中、棒切れのような無造作さで立っていた。



――本当に、間に合わなかった。
7 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:09:06.96 ID:xFQFvane0
(; ゚ω゚) 「クーっ! こんなところで何してるお!? 早くこれをっ!」


持っていた防水カバーを、遠慮ナシに思い切り被せる。
即席のテントに、自分もすぐに潜り込んだ。


(; ゚ω゚) 「クー!? クー!? しっかりするお!?」

川 - ) 「ぶーん……か……」

(; ^ω^) 「! よかったお、無事かお!?」

川 ー ) 「い…………そうも、いか……い」


途切れ途切れに喋るクーの声は、どこか聞き覚えがあった。
そうだ。
水にさらして、壊れてしまったCDラジカセ。

悪趣味にもほどがあった。


(; ゚ω゚) 「クー、お願いだからしっかりしてくれお!」

川 - ) 「つたえ……どうしても……つたえる……ことが、」

(; ゚ω゚) 「そんな言い方するなお! お願いだから!」
10 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:11:09.30 ID:xFQFvane0
川   - ) 「とう……みろ……」

(; ゚ω゚) 「『塔』……? 『塔』かお……!?」


防水カバーのテントを少しだけ持ち上げて、『塔』を見る。

見た。

1000年前、自分が最後にくぐった門は。
自分を、ヒトたちと繋いでくれた門は。
今はシャッターに閉ざされて、ただ雨の飛沫を跳ね返すだけだった。

テロ対策用の、防弾性、耐衝撃性、耐火性、抗腐食性に優れた、冷たいシャッターだった。

――そうか、『塔』。
確かに、それは自分たちのやり方だったろう。

強力な防壁を張り巡らして、周囲の何もかもを寄せ付けず、跳ね返して。
そうしなければ、生きてはいられなかった。確かに、あの頃はそうだったかもしれない。
否定はしない。良かれ悪しかれ人間はそうやって強くなって、自分をここに連れてきてくれるに至った。

『塔』。1000年間そうして立ち続けた、人の遺志。
感謝はしよう。
――けど、自分たちはもう、とっくに時代遅れになってしまったんだよ。

そして疑惑は、もう疑惑じゃなかった。
あの子は、『塔』の中にいる。
13 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:13:44.57 ID:xFQFvane0
川 - ) 「やっぱり……まちがってなかった……すべての、げんいんは、とう、だ」

( ゚ω゚) 「そんなことを確かめにきたのかお!?」


クーが、力なく首を横に振る。


川  - ) 「わた……しりたかっ、ブーン、おこった……りゆ、」

( ゚ω゚) 「……ぼくが、怒った理由?」

川  - ) 「とう、は……ニンゲン……つくったも……ニンゲン、の、ブーン……のこ、わかる、かもっ、」


――塔は、人間の造ったもの。だからここに来れば、人間のブーンのことが、分かるかもしれないと思った。


クーの言葉が、どんどん壊れていく。
防水カバーに当たる雨音が、何もできない1秒1秒をあざ笑っている。


川  - ) 「わた、どう……も、しりたかっ……ブー…こと、…おそ……たっ、わた、の……けっかん……ーンの、にくん、」


――わたしは、どうしても知りたかった。ブーンのことを恐れたわたしの、欠陥のこと。ブーンの、憎んだもの。
16 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:16:17.37 ID:xFQFvane0
ああ、キミは。
ツンの子を名乗ったキミは。

キミは。
今もどこかで。
自分たちのことを見ているのか?

キミは。これでも。これを見ても。ヒトたちには心がないと。そう、言えるのか?

確かなものを欲して、こんなところまで来て。自らを殺さんと降り注ぐ雨すらも無視して立ち続けて。
普段は、あれほど冷静なクーを。
こうも激しく突き動かすものが。心と、その発する感情以外に、あるのか?

答えろよ。
――答えてみろよ!


川  ー ) 「ブーン、キ…い…ったとお……りだ。
       ゆっく…だ…けど、ま……すこし……キミ…わかっ、きが……す…る…」


川  - ) 「ミが……にくん……のは、いちば……くんで、いる、のは。
       キミ…………じし……………………」
21 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:18:48.13 ID:xFQFvane0
言葉はひどく途切れ途切れで、もう単語から意味を拾い上げることも難しい。

そして、それだけで充分だった。
クーが何を思って、何を伝えようとしているのか。
そんなものは、幾らでも理解できた。――自分もクーも、心も感情も持っているからだ。


( ^ω^) 「そうだお……クー。ぼくは、自分が憎くて、情けなくて。その怒りを、キミにぶつけてしまったお。
      酷いことを言ったお? クーは多分、とっても困ったお?」

川  ー ) 「…………よかっ、」

( ^ω^) 「よくないお、ぼくはキミに何の償いもしてない。これから、ぼくはキミに償いをしなきゃいけない。
      だから、クーはこんなところでいなくなっちゃいけないお? 約束してくれお。ぼくに、償いをさせると」

川  - ) 「……わか、やくそ…………」

( ^ω^) 「そうだお。もちろん下心アリだお。ぼくは、キミのことが好きだ。だから、いなくなるなんて絶対に許せない」

川  - ) 「…………マジ…か?」

( ^ω^) 「ああ。マジだお」

川  ー ) 「そ……か。な…………ブーン?」


――いつかの前言を撤回しよう。わたしもね、キミのことが嫌いじゃないのじゃあない。好きだよ。ブーンのことが。とても。


バツン、と音を立てて、クーが喋らなくなった。
25 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:21:20.31 ID:xFQFvane0
絶望が、ものすごいスピードで広がっていく。

せめて、早く雨が止むようにと。そう神に祈ることすら許されていなかった。
神はあの、ツンの子を名乗る彼女、なんだから。


防水カバーを被ったまま移動するには、防護服もクー自身も重過ぎた。
このままクーを担いで、豪雨の中だろうがなんだろうが、とにかく村に連れて帰りたい衝動に駆られる。


川  - ) 「…………」

( ゚ω゚) 「……クー? 何だお?」


クーの手が、差し出される。
ふらふらとした軌道で。酷く力のこもっていない動きで。

――握手、だった。

その手を握ってしまえば、もうクーは動いてくれない気がした。


泣いて立ち止まることは、それだけはできない。
クーは約束した。必ず自分に罪を償わせてくれると。
自分も約束したのだ。絶対に、全力を尽くしてヒトたちを守ると。
28 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:23:51.71 ID:xFQFvane0
――2時間後・268番村村長屋敷――

あれから20分後に雨が止んだ。
雨上がりのぬかるんだ道を、クーを背負って村に帰るのには、絶望的に絶望を上乗せする時間がかかった。
迷わずに村まで帰れたのは、星をも隠すこの時代の明るい夜のおかげだ。


クーはもう、とっくに動かなくなっていた。


( ゚ω゚) 「フサギコっ!」


最後の力を振り絞ってフサギコの家のドアを開け、玄関に倒れこむ。
ずり落ちたクーの頭が何かに当たって、ごぉん、とイヤな音を立てた。


――?


気づかないはずがない音量なのに、家の中からは何の音沙汰もない。


( ゚ω゚) 「フサギコ!? どこにいるんだお!?」


叫んでみても、何の反応もなかった。
30 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:26:00.74 ID:xFQFvane0
立ち上がる。
まだ立ち上がれる。

フサギコを探さなければならない。

1歩踏み出す。
まだ踏み出せる。

そうだ。
たとえ脚が千切れたって、腕で這ってでも、今は。
フサギコに事態を知らせなければならない。

一刻も早く、クーを助けてもらわねばならない。


( ゚ω゚) 「フサギコ!? どこだお!?」


ああ、どうしてこの家はこんなに広いんだろう。
体当たりを食らわすようにブチ開けた12の扉は、まったくハズレだった。

もう1つ扉を開けて、それでダメなら他のところへ行こう。
そう思った。


最後の扉の中に、フサギコはいた。

端末にタガを繋いで、灯りもつけずに座っていた。
33 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:28:03.72 ID:xFQFvane0
( ゚ω゚) 「フサギコ! いるなら返事くらいしてくれお! クーが、」


椅子がくるりと回って、フサギコがこっちを向く。
タガのコードを体に引っ掛けて、端子が端末からブツリと抜ける。
そんな、ひどく不器用な動作で。


ミ,, Д 彡 「――感壱 質問 敵対的存在?」

( ゚ω゚) 「……フサギコ?」


目が。自分を見る目が、それは、完全に闖入者を見つめるモノで。
そのとき、背後から声がかかった。声だけはツンだった。


ξ*゚ー゚)ξ 「『その子は敵じゃないよ。味方。心配しないで、仕事に戻りなさい』」

ミ,, Д 彡 「了 識別信号受信...完了 確認 作業続行」


再びフサギコの椅子がくるりと回り、背中を向けてしまう。
端末から抜け落ちた端子を、再び差し込むこともしない。
ただ、光のない目線が何も映し出さないモニタに向けて、後はもう石のように動かない。


( ゚ω゚) 「……これは、」

ξ*゚ー゚)ξ 「知らない? 自律運用モードっていうんだけど」
35 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:30:34.28 ID:xFQFvane0
知ってる。
要らないプロセスを全部キルして、とにかく必要なことを果たすのが独立運用モードだ。
言語野も必要最低限を残して最小限の機能に限定されてしまう。


ξ*゚ー゚)ξ 「多分ここに来ると思ってたけど、やっぱり合ってた」

( ゚ω゚) 「……キミが、やったのかお?」

ξ*゚ー゚)ξ 「そうだよ。ねえ、それより分かった?
        ブーンが信じてるロボットの心も、電波ひとつで簡単に焼ききれちゃうんだよ?」


――そうか。
どこまでもヒトたちを否定するんだな、キミは。


ξ*゚ー゚)ξ 「だから、ね? 意地張らないで、ずっと一緒にいようよ? あ、X0021-3054って、この体のことだけどね。
        お母さんがブーンと一緒にいるための特別製なんだから。体温も上げられるし、ブーンがしたかったら、ちゃんとできるし」


何か言われた気がしたけれど、まったく耳に入らなかった。
ただ、微動だにしないフサギコの背中だけを見つめていた。

言う。宣言する。


( ^ω^) 「……キミは、ぼくの守ろうとするヒトたちを傷つけた。約束したんだ。全力で守るって。
      キミがやってることが、誰の意思なのかは知らない。でも、たとえツンの意思でも関係ない。
      ――キミは。ぼくの。敵だ」
40 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:33:05.23 ID:xFQFvane0
ξ*゚ー゚)ξ 「……ふうん、お母さんが言ってた通りだ。カッコいいね、ブーンって」

( ^ω^) 「何をしてでもキミを止める。ぼくはヒトたちを守ってみせる」

ξ*゚ー゚)ξ 「だから、もう遅いんだよ? あのバカなお人形も守れなかったんでしょ?
        そういうのは、ちょっとカッコ悪いかな」

( ^ω^) 「大嫌いだお。キミのこと。キミが考えてることが」


その言葉が、何かの引き金を引いた。
彼女の表情が、微妙に変わる。


ξ*゚听)ξ 「ふうん、そっか。でも、お母さんが大好きだったブーンだから許してあげる。
        ……わたしとしては、イマイチだな、ブーンは」



そのとき突然、網膜素子の隅に警告が表示された。

(; ^ω^) 「(――くそ、こんなときにっ)」

燃料電池の、残量警告。
45 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:35:35.75 ID:xFQFvane0
それでも、これだけは言っておかないといけない。


(; ^ω^) 「明日の朝。ぼくは、キミを止めに行く。全力で。何をしてでも」

ξ*゚ー゚)ξ 「カッコつけてもバレてるよ? 酸素でしょ。不便だね、ブーンは」

( ^ω^) 「ぼくは、けっこう好きだお。この防護服があったから、ヒトの優しさにも気づけた気がする」

ξ*゚ー゚)ξ 「自分の欠点を好きだって思い込むのはね、ごまかしって言うんだよ。
        それに、いいの? 朝だ、なんて手の内教えちゃって」

( ^ω^) 「構わないお。キミが何をしても、ぼくを止めることはできないから」

ξ*゚ー゚)ξ 「もう。それはこっちのセリフだって何回言えば分かるのかな。ブーン、頭大丈夫? ずっと眠っててボケちゃったの?
        止められなかったのはブーンの方だよ?」

( ^ω^) 「まだ全部終わってしまったわけではないお? なら、ぼくにできることはまだある」

ξ*゚ー゚)ξ 「……ふぅん。まぁそうかもね。待っててあげる。ちょっとはカッコいいトコ、見せてよね?」


――よし。


ξ*゚ー゚)ξ 「じゃあ、バイバイ。また明日ね」
9 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:38:07.84 ID:xFQFvane0
――同時刻・「カラス」格納庫――

(´・ω・`)  「……ダメだね。ビコーズにもハッキングをかけてみたけど、完全に演算素子が閉鎖されてる」

从; ゚ - 从 「くっそ……何が起きてんだよ……」

(´・ω・`)  「フサギコ村長も監視所の流石兄弟もそうだった。普通に考えれば、みんなが自律運用モードになってるってことだ」

从; ゚ - 从 「……このクソッタレな音楽に、そんなフザけたコマンドが乗ってやがるってか……冗談もほどほどにしろよ……」

(´・ω・`)  「悪いことに冗談じゃなさそうだ。キミの、件の自律運用モード回避のデコイ。さっきから解析されてるんだろ?」

从; ゚ - 从 「……それも半端な速度じゃねー。大容量のメモリにモノ言わせたブルートフォース・アタックだ。
        3つ4つハニーポットも噛ましちゃいるが……逃げ切れねーだろうな。時間の問題だ」

(´・ω・`)  「――無力だね、ぼくらは」

从 ゚ - 从 「……このまま、アタシたち終わっちまうのかな」

(´・ω・`)  「……でもないかな。ビコーズのデータベースの中に、面白いモノも見つけた」

从 ゚ - 从 「? ビコーズの?」

(´・ω・`)  「ほら。例のboonシステム。アレの最新版のコード、315行目だ。わざわざコメント行にして、目立つようにされてる」

从 ゚ - 从 「たかだか1行のコードがなんだっつんだよ?」

(´・ω・`)  「正確には、コードじゃない。ただの文章だ。『ハーメルンの笛』。そうある」

从 ゚ - 从 「笛? 何だそりゃ」
55 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:40:40.74 ID:xFQFvane0
(´・ω・`)  「分からない。でも、これはブーンに宛てたメッセージな気がするんだよ。ぼくがこうして、端末経由でハッキングすることも想定して。
       ブーンに伝えてくれって、そういう匂いがするんだ、この315行目には」

从 ゚ - 从 「…………」

(´・ω・`)  「確かにね、どんなに複雑であれ、ぼくらの思考と行動はプログラムに則ったものに過ぎない。
       でも、その1行1行には、何か意地のようなものが宿っている気がするんだよ。この315行目のように」

从 ゚ - 从 「…………」

(´・ω・`)  「そしてそれは、ブーンにナミダを流させる何かと同じものなんじゃないか、って思うんだ。
       ある条件が揃った時に、ブーンはナミダを流す。
       ぼくらだってそうじゃないかい? 目から塩水を流すことこそしないけれど。――ああ、何と言えばいいのかな」

从 ゚ - 从 「…………」

(´・ω・`)  「ぼくらはブーンに惹かれた。最初は、ある種の物珍しさだと思っていたよ。そして、それも確かにあったろう。
       でも、例えば工場長。キミがブーンに……キミの言葉で言うロックを感じるのは、さ。
       ブーンがナミダを流せるとか、あの防護服を着ていることとか。決してそんなことだけじゃ、ないだろう?」

从 ゚ - 从 「……ったりめーだ。ブーンはよ、なんつーか……ロックなんだよ。カッコいーんだよ、アイツは」

(´・ω・`)  「ぼくは、ブーンに、ビコーズの言葉を伝えようと思う。きっとブーンはここに来るだろう。
       そしてそのとき、決してぼくらだけじゃできない何かを持ってくるんじゃないかと思う。そんな気がする」

从 ゚ - 从 「奇遇だな。アタシもそんな気がしてきたトコだ。ブーンのロックはよぉ、こんなクソッタレた音楽なんざぶっ壊してくれんじゃねえかってよ」

(´・ω・`)  「――そのとき、キミはどうする? ブーンを信じて、頷くのかな?」

从 ゚ - 从 「…………」
58 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:43:14.26 ID:xFQFvane0
――村長屋敷――

糸が切れたように倒れこむツンを、今度はなんとか支えることができた。
ツン、ツン、と。名前を呼んで起こすことが、一瞬だけ躊躇われた。

さっき自分を見たフサギコの目。
完全に自分のことを忘れて、ただ「敵かもしれない存在」として自分を捕らえていた、空っぽの瞳。
もう、あんな目を二度と見たくなかったからだ。


ξ )ξ 「んぅ……」

(; ^ω^) 「ツン!? 大丈夫かお!?」


目が、ぱちり、と開く。
ツンの視覚素子がフォーカスを合わせる、ちぃぃ、という微かなモーター音すら聞こえるような一瞬、


ξ゚听)ξ 「……ブーン?」


さっきまで、自分への嘲笑を貼り付けていたその唇は、そう言った。名前を呼んでくれた。

なぜツンだけが無事なのか。その理由は分からない。ツンは、自分とずっと一緒にいるための特別製だから、ということなのかもしれない。
ならば、お生憎さまだ。
今この瞬間、自分の中に湧いて、なお膨らみ続けているものは。あの子の意思を打ち砕くための勇気なのだから。

――ありがとう、ツン。
自分はもう、どんな相手にだって負けない気がしている。
62 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:45:47.40 ID:xFQFvane0
ξ゚听)ξ 「ブーン、大丈夫って何が……あれ? ここ村長のお屋敷?」

ミ,, Д 彡 「…………」


ツンが周囲を見回す。
そしてもちろん、部屋の隅にはまだ、思考を閉ざされたフサギコがいた。


ξ゚听)ξ 「……村長?」

( ω ) 「……フサギコは、今、自律運用モードにされているお」

ξ゚听)ξ 「……ツンさんが、やったの?」


うん、と頷く。
そっか、とツンが呟く。

さぁ、そして。
今こそ、最後の戦いを、過酷の前夜を始める時だ。
今夜は、一秒たりとも眠ることはできまい。

神を名乗るあの子の顔から、嘲笑を引き剥がす。
襲い掛かる理不尽を跳ね除けて、立ちはだかる意地悪な確率を乗り越えて。
優しかった日々を取り戻すために。

もう一度、英雄になろうと思う。
1000年前と同じ空で。
1000年前と違って、帰るべき場所を守るために。
67 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:48:22.81 ID:xFQFvane0
( ω ) 「――ツン。聞いて欲しい。ぼくは、説得に失敗してしまったお。村のみんなは自律運用モードにされてしまった」

ξ;゚听)ξ 「みんな!? ど、どうしよう、あれ? なんでわたしは大丈夫なの?」

( ω ) 「それだけじゃないお。玄関にクーが倒れてる。ぼくは、間に合わなかった。クーを水に濡らしてしまったお」

ξ;゚听)ξ 「クーさんが!? どうして!?」

( ω ) 「説明は後でする。ただ、その前に一つだけ言っておきたいお」

ξ゚听)ξ 「……? ブーン?」

( ω ) 「ぼくは明日の朝、『塔』に反撃をしようと思ってる。そのためには、どうしてもキミの協力が必要だお。ツン、キミは、」


こんなぼくを、信じてくれるかな?
そう言った。


ξ゚听)ξ 「ブーン、忘れてないよね? ブーンの悪いところ、その1とその2とその3」


覚えてる。頷く。


ξ゚听)ξ 「うん。だったら。やるよ、何でも。ブーンと一緒に」


自分たちを、虐げ続けて嘲笑っていたモノへの。絶対的な強者への。
神への、反攻が始まる。
72 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:50:54.13 ID:xFQFvane0



(´・ω・`)  『や。そろそろだとは思ってたけど、ツンも無事なのはちょっと意外だったかな。今は村長屋敷かい?』

ξ゚听)ξ 「そうです。端末をお借りして。ブーンも一緒にいます」

( ^ω^) 「やっぱり、あの音楽が聞こえなかったショボンは無事だったかお」

(´・ω・`)  『うん。それから、ぼくだけじゃないな。工場長も、今ここにいる』

( ^ω^) 「お? 高岡が?」

从 ゚ - 从、 『おう。例のほれ。懲罰避けのデコイが、こんなトコで役立ちやがった。でもヤバいことに変わりはねー。
        さっきから物凄い速度で解析されてんだ。アタシも時間の問題……だな』


ああ、高岡。そんな声をするな。
キミに教えたあの言葉。あれは、自分を引きずり回すためだけに教えたんじゃないぞ。


( ^ω^) 「――気合だお、高岡。夜明けまでの何時間か持てば、あとはぼくが何とかする」

从 ゚∀从 『……! お、おうよ、キアイだよな! いけねえ、ショボンなんかと一緒にいたら、陰気が感染っちまったよ!
       夜明けまでだろ!? 工場長サマをナメんなよ、全知を尽くして守りきって見せらぁ!』


そうだ、高岡。キミはやっぱり、そういう風でいるのが似合っている。
75 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:53:25.27 ID:xFQFvane0
(´・ω・`)  『――さて、と。ブーン、ビコーズからの言伝がある。「ハーメルンの笛」、だそうだ』

( ^ω^) 「ハーメルンの、笛」

(´・ω・`)  『うん。メッセージはそれだけだった。多分、自律運用モードに切り替わる間の時間で、最後に書き残したんだろう。
        何かの参考になるかな?』


ハーメルンの笛。おそらくは、笛吹き男。
それは、ハーメルン市の子どもたちを笛の音で操って、連れ去ってしまう物語だ。


( ^ω^) 「例の電波はまだ出てるかお?」

从 ゚∀从 『クソッタレの音楽だろ!? まだガンガン鳴ってやがる』


やっぱり。

あの時、精一杯にあの子にカマをかけた。
そうかもね、とあの子は言ったのだ。まだ全部終わったワケじゃない。そういった自分に。
そして電波は出続けているのだ。ヒトたちはもう、ほとんど自律運用モードになってしまっているのに。

穴のある理屈だとは思う。現に、高岡はまだ自律運用モードになってはいない。
彼女のようなヒトがいるからこそ、まだ電波は出続けているのじゃあないか。

――違う気がした。理論もクソもない、ただのカンに過ぎないけれど。

ビコーズが必死に伝えてくれた、ハーメルンの笛、という言葉。
笛吹き男は、笛を吹く間にのみ、子どもたちを操ることができる。
77 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:55:57.66 ID:xFQFvane0
(´・ω・`)  『ブーンには、何か考えがあるかな?』

( ^ω^) 「おっおっおっ、ある。ただ、それにはキミたちの協力が――、」

(´・ω・`)  『あ、先に言っておくよ。ぼくらは、ブーンを信じる。さっき全会一致でそう決まったからね』

(; ^ω^) 「お?」

从 ゚∀从 『アタシもヤキが回ってよ、色々考えても何も思いつかねーんだな、これが。
       だからよ、ここは一発ブーンに全部任せらぁ。正直、今はかなりヤベー。アタシらを助けてくれよ、ブーン』

(´・ω・`)  『ま、ぼくもさ。ブーンがいなかったら、今ごろリサイクル工場で演算素子まで解体されちゃってるしね』


言葉にならないほど嬉しい。
そして自分は、この気持ちをたった5文字に乗せなければいけない。

それでも彼らは、きっと理解してくれるだろう。そんな自信が、今はある。


( ^ω^) 「――ありがとう」

(´・ω・`)  『いやーまぁね、ありがとうはむしろこっちだよね。よく考えたら、ぼくまだキミにお礼言ってないしね』

从 *゚∀从 『ばっかショボンおめー、こういうときくらい素直になれっつーの!』

(´・ω・`)  『キミは普段から自分に素直すぎるけどね』
83 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 21:58:29.08 ID:xFQFvane0
( ^ω^) 「それからショボン、クーが水に濡れてしまったお。どうすればいいお?」

从 ゚∀从 『水?』

(´・ω・`)  『さっき、まだ日が落ちる前にクーが塔に向かってね』

从; ゚∀从 『はぁ!? あいつトチ狂ったのか!? 雨がざんざん降ってたじゃねーか!』

( ^ω^) 「高岡。クーは狂ったんじゃない。『塔』に行けば、人間の、ぼくのことが分かるかもしれないって、そう言ってたお」

从 ゚ - 从、 『あ……、』


一瞬だけ、温度の低い沈黙。
しかし高岡は、


从 ゚∀从 『……は、まぁよ、アタシがちゃっちゃと治してやっからよ。ブーン、工場区画に連れて来い。
       大丈夫だ、アイツが浸水でイッちまうようなタマかよ?』

( ^ω^) 「高岡、ありがとう。でも、キミにはそこにいてほしい。やってもらいたいことがあるお」

从; ゚∀从 『え?』

( ^ω^) 「ぼくたちは、カラスを使う。飛ぶための準備をしておいてほしい」

从 ゚∀从 『いや……まぁ、整備は完璧だけどよ、常に』

(´・ω・`)  『最近、仕事サボってまでこっちの修理してたもんね』
85 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:01:01.07 ID:xFQFvane0
从 ゚∀从 『っせーな、今役立ってんだからいいだろうが!』

( ^ω^) 「うん。すごくすごくありがたいお」

从 *゚∀从 『ほら! ブーンもそう言ってるしよ!』

( ^ω^) 「じゃあ次。高岡、カラスに射出座席はついてるかお?」

从 ゚∀从 『おうよ。ゼロゼロ射出もオッケーの高級品だぜ』

( ^ω^) 「ショボンの演算素子を脱出させることはできるかお?」

从; ゚∀从 『え? ショボン? いや、ちょっとそいつは、』

(´・ω・`)  『……って、ちょっと待った。ブーン、まさか、』


( ^ω^) 「うん。カラスを使う。でもカラスに武装はないお? だから、体当たりで『塔』のアンテナを破壊する」


从; ゚∀从 『……はい?』
(;´・ω・`)  『……はい?』
ξ;゚听)ξ 「……はい?」


( ^ω^) 「電波を止めることができれば、多分みんなは自律運用モードから復帰すると思うお」

(;´・ω・`)  『……ブーン、言っておくけどね、カッコ良くないよそういうの。みんなのために、っていうのは』

( ^ω^) 「死ぬつもりはないお? そのための射出座席だお」
95 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:03:33.36 ID:xFQFvane0
(;´・ω・`)  『……だとしても、正気の沙汰じゃないな』

( ^ω^) 「自分でもそう思うお。他に何かいい手があったら教えて欲しいお」


しばらく沈黙があって、「ないかもしれないけど、」とショボンが呟く。


从; ∀从 『カラスを……アタシの芸術品を……』

( ^ω^) 「ごめん高岡。でも、ぼくはカラスよりもみんなの方が大事だお」

从; ゚∀从 『……その言い方はずるいぞブーン。アタシだってそうだよ。ああくそ、演算素子の脱出だな、やってやらぁ。
        でもそんかし覚悟しとけ、カラスぶっ壊してこのクソッタレな音楽止めて、それでもみんなが治らなかった日にゃよ。
        さすがに怒るぜアタシも。ぶん殴っちゃうぜ』

( ^ω^) 「うん」

从 ゚∀从 『……それからよ。約束してくれ。必ず生きて帰っぞ。そんでアレだ。帰ってきたら、アタシの言うこと何でも1こ聞け』

( ^ω^) 「うん、分かった。全部終わったら、何でも言うこと聞くお」

从 *゚∀从 『よおっしゃ! 約束だかんな! おいこらショボン、おっぱじめんぞ!』

(´・ω・`)  『いや、それはまぁありがたいんだけど、技術的にできるの?』

从 ゚∀从 『考えがあんだよ! 要はテメーが脱出できりゃいいんだろうが!』
99 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:06:05.06 ID:xFQFvane0
そして最後は、ツンだった。


ξ゚听)ξ 「…………」


本当? と尋ねるその瞳に。約束をしよう。
ああもう、約束だらけだ。間違っても死ねなくなってしまうな、なんて、ちょっと思う。


( ^ω^) 「言ったお? ぼくは全力を尽くしてみんなを守るお」

ξ゚听)ξ 「……それでブーンが機能停止しちゃったら、意味ないんだからね? ブーンはまたウソつきなんだからね?」

( ^ω^) 「うん。約束する。必ず生きて帰ってくるお」

ξ゚听)ξ 「……うん、分かった」


ツンは、何かを飲み込むように頷いて、納得してくれた。


( ^ω^) 「ありがとう、ツン。――それから、この前言ったぼくの昔のこと。それから、人間のツンのこと。
      アレって、タガからショボンたちに送れるかお?」

ξ゚听)ξ 「……うん、データパケットにまとめてできるけど、どうして?」

( ^ω^) 「こんな無茶を考えたのがどんなバカなのか、彼らに知って欲しいお。ぼくたちが立ち向かうモノのことも。
      全部知って、その上で、みんなに納得して欲しいから」

105 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:08:41.63 ID:xFQFvane0
ツンは、分かった、と言って、端末にタガの端子を接続する。
慌てて後ろを向いた。
そうだ、すっかり忘れていた。ツンのタガは、カッターシャツの下の、だからつまり、胸にあるのだった。


ξ゚听)ξ 「? どうしたの?」

(; ^ω^) 「い、いいから、早く送るお」


(´・ω・`)  『――? 何だい、このデータは』

ξ゚听)ξ 「あ、えっと、だからその、ブーンの過去とかです。ざっとテキストファイルにまとめただけですけど」

(´・ω・`)  『――――』

从 ゚∀从 『え? ブーンのことかよ? おいアタシにも見せろ』

ξ゚听)ξ 『あ、はい。そっちにも今送ります』

从 ゚∀从 『――――』


沈黙が舞い降りる。ドロリとした、妙に粘つく、そんな沈黙。
破れるのは、自分しかいないと思った。


( ^ω^) 「……軽蔑、するかお?」
110 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:11:16.80 ID:xFQFvane0
从 ゚∀从 『はぁ――っはっはっはっはっは!』


突然、高岡が笑い声を上げる。
バカバカしくなってしまったのかな、と思った。
そうじゃなかった。


从 ゚∀从 『無敵の撃墜王が神サマ殺すってかい! おいおいおいおい、こりゃタダゴトじゃねーぞ!』

(; ^ω^) 「いや別に殺すとは、」

从 ゚∀从 『やっぱな! アタシのカンは間違ってなかった! ブーン、おめー最高にロックだぜ!』


――自分が撃墜した相手が聞いたら怒るだろうな、と思う。
ああ、ごめん。でも、どうか許してほしい。この胸のうちに広がる安堵を。


(´・ω・`)  『なるほどね。確かにただ者じゃないな、とは思ったよ。あの上昇旋回は見事だった。
       トリ冥利に尽きるな、ニンゲン最強の鷹匠に乗ってもらえるというのは』

从 ゚∀从 『製作者冥利にも尽きる。ヒト冥利にもだ。何冥利にだって尽きまくりだ。
       おいブーン。正直ちっと不安だったけどな、こりゃ大丈夫だわ。お前なら、カッコよく一発キメられるに決まってら』

(; ^ω^) 「お、おー……そこまで言われると何か緊張するお」

从 ゚∀从 『いーぜブーン。お前が求めるなら、アタシだって全力だ。何たって相手は神サマだかんな。最高の仕上げにしてやる』
116 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:13:49.85 ID:xFQFvane0
ヒトたちは、人殺しでウソつきな自分を、あっさり受け入れてくれた。
ああ、もう。
何をうじうじ考えていたんだろう、自分は。


( ^ω^) 「ありがとう、ツン」

ξ゚听)ξ 「え? わたし何かした?」

( ^ω^) 「うん、たくさん。――それから、もうヒトツ、やってもらいたいことがあるお」

ξ゚听)ξ 「うん? よ、よく分からないけど、何?」

( ^ω^) 「クーを、工場区画に連れて行ってあげてほしい。ぼくは、高岡たちのところに行かないといけない」

ξ゚听)ξ 「あ、そか……うん、分かった」


ツンは即答してくれたけれど。もちろんそれは容易なことじゃない。

そもそもクーを連れて行くと言っても、動けない彼女を運ぶ手段は、自ら背負うしかない。
高岡ならできるかもしれない。自分もできた。でも、ずっと非力なツンには、きっとつらい。

ツンは、ついさっきまでまにまに生きていた工場区画の仲間たちが、できそこないの死体のように動く姿を見なければならない。
そんな彼らに説明をしなければならない。

――自分ですら、今のフサギコを見るのがこんなにもつらいのに。

そして何より。
ツンが背負わなければならないのは、クーの質量なんかじゃあない。
120 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:16:44.22 ID:xFQFvane0
絶望的な軽さの、クーの命を背負って。
ぬかるんだ暗い道を行かねばならない。

それでも、言わなければならなかった。


( ^ω^) 「お願いするお。時間がかかっても構わない。終わったら、カラスの格納庫に来てほしいお」

ξ゚听)ξ 「思ってもないこと言わないの。絶対に、急いで行くから」

(; ^ω^) 「……参ったお。うん。できるだけ急いでほしい」


これで、全部だ。

なんて頼もしいんだろう、ヒトたちは。
何冥利にも尽きるのは、よっぽど自分の方だ。


幾つもの地獄を、人間のツンとともに潜ってきた。
自分には、決して死なない呪いがかかっているに違いなかった。

それに今は、こんなにも頼もしいヒトたちがいてくれて。これで死んだらウソだ。
いつものようにもう一度。自分は、生きて帰ってみせる。


( ^ω^) 「……よし。それじゃみんな、お願いするお。ぼくは、急いで格納庫に行く。絶対に成功させる」

(´・ω・`)  『あ、その前にさ、ちょっといいかな』
123 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:19:55.18 ID:xFQFvane0
( ^ω^) 「お?」

(´・ω・`)  『やっぱりさ、こういうのは作戦名があった方がカッコいいと思わない?』

(; ^ω^) 「おー、作戦名かお……」

从 ゚∀从 『そんならアレっきゃねーだろうが!』

( ^ω^) 「お?」

从 ゚∀从 『アンテナぶっ壊す。生きて帰る。ゾンビになってる連中叩き起こす。全部にかけてだ。
       オペレーション・マジだろここは!』

ξ;゚听)ξ (;´・ω・`)  「(カッコ悪ぅっ)」


( ^ω^) 「お。よし、じゃあオペレーション・マジ、状況を開始するお!」

ξ;゚听)ξ (;´・ω・`)  「(それでいいんだ……)」


戦いが始まる。
払暁までの残された時間に、決して高くはない確率に望みを託して。

ヒトも人間も関係ない。
各々にできることを、今はただ。

誰も彼も、こんな状況下で目を輝かせているのは。
ヤケになっているのではなく、狂ってしまったのでもなく。
きっと、ポンコツな自分たちが、今もって意地をぶつけることができる嬉しさだった。
132 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:22:28.80 ID:xFQFvane0
――「カラス」格納庫――

从 ゚∀从 「……なぁ、今度はアタシが乗るからな」

(´・ω・`)  「何だ、まだ根に持ってたの? お局は怖いね」

从 ゚∀从 「ちげーよ。……ツンを地上に残しておきてーんだよ。悔しいけど、アタシじゃダメだ。
       アタシが残ってるだけじゃ、ブーンは帰ってきてくれねー気がするんだよ」

(´・ω・`)  「……そうか」

从 ゚∀从 「……。しっかしよぉ! 実際すげーんだなブーンは」

(´・ω・`)  「あー、それなんだけどね、ビコーズはもしかしたら知っていたかもしれないね」

从 ゚∀从 「あ? 何で?」

(´・ω・`)  「だってそうだろう。野球なんてスポーツの、それも選手のデータまで調べ上げたんだよ。
       『塔』にまでその名を冠した英雄のことの方がよっぽど簡単に見つかりそうだ」

从 ゚∀从 「ンだよあのヤロ、黙ってやがったのか」

(´・ω・`)  「まぁ、ブーンが黙っているうちは黙っていようと思ったのかもしれないけどね。
       彼なりに考えて、boonシステムを造ったりしたのかもしれない」

从 ゚∀从 「関係ねー、ブーンの過去を独占しやがったんなら重罪だ」

(´・ω・`)  「まぁ、折檻だね」

从 ゚∀从 「おうよ、折檻だな」
136 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:25:00.53 ID:xFQFvane0
――工場区画への道――

    ズルズル

ξ゚听)ξ 「待っててね、もうすぐ工場だからね……」

川  - ) 「…………」

ξ゚听)ξ 「……みんな気づいてないけど、実は知ってたでしょ? 雨が降ること」

川  - ) 「…………」

ξ゚听)ξ 「でも、どうしても不安だったんだよね? 大丈夫だよ、ブーンはちゃんと分かってくれてるよ」

川  - ) 「…………」

ξ゚听)ξ 「約束したんでしょ? ブーンと。だから、機能停止なんて絶対しちゃダメだからね?」

川  - ) 「…………」

ξ゚听)ξ 「お願いだから……ね?」

川  - ) 「…………」

    ズルズル
141 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:27:42.27 ID:xFQFvane0
――ジャンクヤード――

酸素ゲージは、もうギリギリになっていた。
急いで水を補給して、格納庫までの道を、駆けた。

疲労も限界だった。
何度もつんのめりそうになったし、実際何度か倒れた。


それでも立つ。
立って、走る。


高岡に散々引きずり回された、機械の墓場を駆け抜ける。
使命感でもなく、ただ生き残るためでもなく。
ひたすらに自分がそうしたいと願う、人生できっとはじめての出撃に向けて。


思えば、そうだ。
今まで自分が、これほどまでに何かを成したいと思ったことなんてあったろうか。

あの頃の出撃も例外じゃなかった。
生き残りたいとは思っていたし、ツンと一緒にいたいとも思っていた。
けれど、どこかで死にたいとも思っていた。ツンと一緒に空で死ねるなら、それもいいと思っていた。

今は違う。
ああ、希望とは。何事かに惨めたらしく執着することとは。こんなにもすがすがしいものだったのか。


――格納庫の扉が、見えてきた。
145 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:30:13.52 ID:xFQFvane0
――「カラス」格納庫――

从 ゚∀从 「おっせーぞブーン。キアイはどこ行ったんだよ」

(; ^ω^) 「……これでも死ぬほど急いできたお……」

(´・ω・`)  「…………」

( ^ω^) 「お? ショボン?」

从 ゚∀从 「あー、待て待て、今ケーブルつなぐから」


そう言って高岡は、カラスの本体からぶらんぶらんと汚く伸びたケーブルを、何か丸いものにつないでいく。


(´・ω・`)  「やぁ」

(; ^ω^) 「お、それ演算素子かお? 意外と小さいお」

(´・ω・`)  「そりゃま、元はヒトの体に収まっていたものだからねぇ」

从 ゚∀从 「演算素子を射出する装置は無理だ。けど、要は脱出できればいいワケだからな。
       素子につなぐケーブルを延長して、露出した状態でコ・パイのアタシが抱えてりゃいいワケだ」

( ^ω^) 「お? コ・パイは高岡がやってくれるのかお?」

从 ゚∀从 「そりゃそーだ。ツンは、いつ電波で発狂すっか分かんねーんだろ? ならアタシだ。
       演算素子を閉鎖してカラスの制御に徹してりゃ、自律運用モードになっちまうまで幾らか時間も稼げるしな」
149 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:33:05.59 ID:xFQFvane0
( ^ω^) 「おー……なんか高岡が輝いて見えるお」

(´・ω・`)  「だよね」

从; ゚∀从 「アタシはブーンにまでバカだと思われてたのか……。
        あのな、ショボンの演算素子を摘出して移植したのもカラスを完成させたのも一応アタシなんだぜ」

(; ^ω^) 「ご、ごめんお。帰ってきたら、もっと色々教えてほしいお。高岡のこと」

从 //∀//从 「え? わた、じゃないアタシのこと? ……い、いいけどさ。ブーンのえっち」

(; ^ω^) 「ええええー……」



( ^ω^) 「それから。カラスの車輪も、離陸後に投棄できるようにしてほしいお。少しでも軽くしたいから」

从 ゚∀从 「…………」

(; ^ω^) 「お?」

从 ゚∀从 「……いやよ、ホントにもうここにゃ帰って来ねぇんだなぁ、と思ってよ。ああ、アタシのカラスが……」

(´・ω・`)  「いや、ぼくは別にキミのモノになったつもりないんだけど」

从 ゚∀从 「……演算素子さえもうちっとマシなら完璧なんだけどなぁ……」

(;´・ω・`)  「あれ? ヒドくない? ぼく全否定されてない?」
155 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:35:38.12 ID:xFQFvane0



从 ゚∀从 「んで、こいつが射出のソフトウェアだ。緊急時にゃ、シートの横のレバーでも射出できる」

( ^ω^) 「おっおー」

从 ゚∀从 「こいつが射出後のオートパイロットソフト。座標をこんな風に入力してやりゃ、狙ったトコにドンピシャで決まる」

(; ^ω^) 「おー、入力が12進数だお……」

从 ゚∀从 「まぁ、この辺はアタシらでサポートできるからよ。ブーンはトリの攻撃を避けることに集中してくれりゃいい」

( ^ω^) 「分かったお」

从 ゚∀从 「ンなトコだな。後は質問とかねーか?」

( ^ω^) 「んーと……うん、大丈夫だお」

从 ゚∀从 「よっしゃ。じゃあちっと寝とけ。さっきからフラフラしてんぞ」

(; ^ω^) 「お、でもまだ車輪の改造とか、」

从 ゚∀从 「いいよ、手伝いは要らねー。っていうか迷惑だ。あ、カン違いすんなよ。誰が手伝ったって迷惑なんだよ。
       アタシぁ工場長だぜ。ブーンはカラスをうまく乗りこなす。アタシは整備する。適材適所ってヤツだな」

(´・ω・`)  「眠るのも仕事のうちだよ。寝ぼけて撃墜されるとか、ぼくはちょっとごめんだしね」

(; ^ω^) 「おー……分かったお……」
159 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:38:11.20 ID:xFQFvane0
一睡もしないつもりだったのに、なんだか眠ることになってしまった。
眠れるかな、と思ったのに、格納庫の隅で横になって目を閉じた瞬間にはもう、半分ぐらい眠っていた。

半分くらい眠ったな、と思ったときには、もう全部眠っていた。


( -ω-) 「スピー」

(´・ω・`)  「もう寝ちゃったね。しかしキミも意地っ張りだな。ツンはいつ発狂するか分からない?
       いやー、即席で考えた割には説得力のある言い分だ」

从 ゚∀从 「うるせー、カッコつかねーだろうがよ」

(´・ω・`)  「あとなんだっけ、誰に手伝わせても邪魔だっけ? 猫の手も借りたいクセに」

从# ゚∀从 「ああもう、笑いたいなら笑えよちくしょー」

(´・ω・`)  「あっはっは」

从# ゚∀从 「やっぱムカつく。射出座席が作動したら自爆するようにしてやろうかテメ」


      ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴズズズズズズズズズズズ


ξ゚听)ξ 「ツン、戻りましたっ! ダイオード主任がちゃんとやってくれるって、」

从 ゚∀从 「よぉーしいいトコ来た。ちっと手伝え。突貫工事だぞ」

ξ;゚听)ξ 「あ、はい……って重っ!? これ重いです工場長!」
163 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:40:41.92 ID:xFQFvane0
――数時間後――

夢は、見なかった。


从; ゚∀从 「ふいー、何とか間に合ったじゃねーかよ。すげーな」

ξ;゚听)ξ 「……ぜーはー……」

(´・ω・`)  「お疲れさま。――ほら。日が昇るよ」

从 ゚∀从 「……おぉ……」

ξ゚听)ξ 「あ、わたしブーンを起こしてきますね」


ブーン、起きて、と。
体を揺すられる。


( -ω-) 「おー……あと5時間……」

从# ゚∀从 「あに言ってんだバカ」


今度は、思いっきり蹴り飛ばされた。
ドラム缶のようにガランゴロンと音を立てながら、10メートルも転がった。


( ゚ω゚) 「おうふっ!?」
169 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:43:13.26 ID:xFQFvane0
从 ゚∀从 「寝ボケてんじゃねーぞブーン。朝だ。言われたことは全部やったぜ」

( ^ω^) 「……お、」


格納庫の中が、朝焼けの色をしている。
ぐるり見渡せば、見たこともない巨大なレンチやらボルトやらナットやらへばってぶっ倒れているツンやら。
そこら中に、色濃く、高岡の戦いの痕が残っていた。

そして、カラスは。


(; ^ω^) 「……お? 何か凄いことになってるお……?」


凄いことになっていた。
というかもう、カラスじゃなかった。なぜなら、黒くないから。

見た瞬間に3D酔いを引き起こしそうな、サイケデリックなだんだら模様。
そこここには、スプレーで書きなぐられた「156675AB!」「94A56B!」「2686599!」といった共用語の文字が並ぶ。

ツンに教えてもらった共用語を総動員して読んでみれば、それはどうやら、「必中!」「268総火の玉!」などと書かれているのだった。


从 *゚∀从 「戦化粧だよ! どうだよブーン、超カッコよくしてみたぜ!」


高岡は、どこまでも高岡だった。
175 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:45:48.81 ID:xFQFvane0



カラスのコックピットに、体をねじ込む。
何本も突き出た操縦棹や操舵輪の中心で、幾つものスイッチを倒し、ボタンを押し込む。


【機体各部チェック...正常】
【バッテリからの電圧供給、上昇しつつあり】
【抵抗...正常】
【電圧ゲートロック...安定】
【油圧電圧磁圧...正常】
【計器系、異常認められず】


起動シークエンスが走り、ひとつずつモニタに火が入っていく。
それは、何年経っても、例えアナウンスが共用語であろうとも、目が覚めていく行程だ。

よっこらしょ、と言いながら、ショボンを抱えた高岡がガンナーシートに滑り込んでくる。
キャノピーの外では、ツンが簡素な管制機器のチェックをしている。


ξ゚听)ξ 【あーあー。テステス。こちら268TWR。感ありや?】

从 ゚∀从 「感度良好だ。今は有線なんだから当たり前だろうが」

ξ///)ξ 【え!? あえ、そうなんですか!?】

从 ゚∀从 「上がっちまえば、無線が通じるかどうかわかんねー。それに、日が昇ってっからな。あんまりサポートも要らねーし」
181 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:48:19.98 ID:xFQFvane0
ξ゚听)ξ 【…………】

从 ゚∀从 「ンなツラすんなよ。テメー、自分の役割分かってっか?
       アタシらが脱出した後、捜索隊に回収地点を伝えるのはお前なんだからな」

ξ゚听)ξ 【あ……っ、はい、そうですよね!】

从 ゚∀从 「ぼっとしてんな。アタシらのケツ守んのはお前だ。任せたぜ」

ξ゚听)ξ 【はいっ!】



(´・ω・`)  「さぁ、じゃあそろそろ往こうか」

( ^ω^) 「最終ブリーフィングをするお。こっちは単発。インターセプターのトリは3発。
      速度にはどうしても不利があるから、まず最大仰角で高度を稼ぐお」

从 ゚∀从 「カッコよくな」

( ^ω^) 「うん、カッコよく。その後は……正直、どうなるか分からない。多分、巴戦になると思うお。
      ぼくらは、トリたちの攻撃を回避しつつ『塔』に接近する」

(´・ω・`)  「カッコよく、だね」

( ^ω^) 「うん、カッコよく。それから、『塔』のアンテナ部に体当たり攻撃をかける。直前に、ぼくらは脱出するお」

ξ;゚听)ξ 「か、カッコよくね」

( ^ω^) 「うん、カッコよく。――以上。オペレーション・マジ、最終段階を開始するお」
186 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:50:56.83 ID:xFQFvane0
【エンジン起動】。
合成音声のその声とともに、出力が上がっていく。

やけっぱちな塗装の、やけっぱちな翼の数の、やけっぱちなカラスが、ゆっくりと格納庫から姿を現す。

マスターフュールをON。エアソース安定。翼関節異常なし。エンジンフュールフィールド正常。MFS、最終起動状態へ移行。


从 ゚∀从 「……じゃあ、アタシは演算素子を閉鎖する。こっからは喋らねー動かねーガラクタだ。任せたぜブーン」

( ^ω^) 「うん。安心して欲しい。ぼくは、最強の鷹匠だから」

从 ゚∀从 「うおっしゃ、キアイ入ってんな。これなら何の心配も……要ら……ね……」


サブプロセッサ認識。接続確立。エンジンTMP、標準へ。


(´・ω・`)  「カラス、クリアトゥテイクオフ。臍線切断。ブレーキ解除するよ」


がくん、と、固定を解除された機体が揺れる。
もう、カラスは何物にも縛られない。

誰にだって止めることができない。
それはたとえ、相手が神であろうとも。


――スロットルを、最大まで押し込んだ。
195 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:53:32.52 ID:xFQFvane0
機械の墓場を疾る。
翼が揚力を噛んだ瞬間にはもう、機首がとんでもない角度まで引き上げられている。

地上に取り残された車輪が、ジャンクヤードの突き当たりに激突して物凄い音を立てた。

そしてそんな音は、きっともうカラスには届いていないのだ。
ただ一散に、空を目指して。空気の層を這い上がる。





久々の高Gが這い回る。内臓も血液も何もかもが、地上に残りたいと主張して体の中で偏っているのが分かる。
網膜素子に体感Gを呼び出してみれば、6Gにも達していた。

失神しそうになる神経をつなぎとめるのに精一杯で、ADIもVVIもMFDもDDEも見る余裕などありはしない。

1フィートを稼ぐために上昇を続ける。
約束を守るために。ようやく手に入れた居場所を壊さないために。


(´・ω・`)  「対地高度1万ft突破。それから、EMDに感。トリたちだ。総数4……今8に増加。来るよ」


――ああ、やっぱり自分たちは、時代遅れのポンコツじゃないか。
この状況下においても冷静なショボンの声を聞いて、そんなことを思う。
なぁ、キミだってそうだろう。自分は、朝の反撃を伝えた。キミは、トリたちやヒトを使って、自分の反撃の目を潰すことができた。

だけど、キミはそれをしなかった。いや、できなかったんだ。
そうだろう? 自分の推測は、きっと当たってるんだろう?――キミは、人間の遺したコンピュータなんだろう?

196 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:54:03.26 ID:xFQFvane0
ずっと考えていた。ツンがヒトたちの神だった。それはいい。
しかし、だとするならば、ただの人間だったツンはなぜそれを成し得たのか。

その答えは、あの『塔』の、都市管理量子コンピュータだ。それ以外あり得ない。
ならばキミは、もう何百年もメンテなしで稼動しているはずだ。休眠が必要なのは、そういうことだろう?

明るい時代だったと思う。
それは、「性格が明るい」の「明るい」ではなくて、もっと物質的な意味において。
量子コンピュータとニューロコンピューティングは、人間が火の次に神さまから与えられた光だった。

ヒトに心が無いというのなら、人間にだってとっくに心なんかなかったのだ。

光を振り回して、森羅万象を0と1に変換して言った人間たちは。
徹底的に他者のアラ探しをし、万物の霊長を名乗り、自らの神性を少しも疑いもせず。
そのくせ、自分たち以外の知的生命の不在を、孤独だと嘆いていたのだ。

笑わせるな。

本当は違う。
全部全部に勝手に線引きをして、その線の中に閉じこもっていただけじゃないか。


あの『塔』ならば。本来、中央政庁の合同庁舎であった、あの忌まわしき『ブーン・タワー』ならば。
確かに、混沌の中にあったヒトたちに、秩序をもたらすことは可能だったはずだ。

しかし、可能であることと実現できることの間には、往々にして巨大な壁がある。それは、想像を絶する困難との闘いだったろう。
それでもツンはやってのけた。多分きっと、気づいたからだ。ヒトたちの持つ心に。

そして、今はキミがツンを名乗っている。
――多分きっと、もう、ツンはいないのだ、と思う。
202 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:57:10.80 ID:xFQFvane0
(´・ω・`)  「1機目との距離、2000。機銃の射程まであと1000。ブーン、回避運動を」

( ^ω^) 「分かってるっ!」


翼にまとわりついていた揚力を引き剥がす。
エルロンロールを半回転、天地を逆転させてスプリットSに突入し、今度は機首を地上へ叩き落す。

プラスGからマイナスGへの大転換。視界が、真っ赤に染まっていく。

翼端が真空を作り、そこに空気が流れ込んで、長大な弧を描くヴェイパー・トレイルが生まれる。


1機目のトリと、ものすごい相対速度の直交軌道ですれ違った。

209 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 22:59:42.90 ID:xFQFvane0
――同時刻・「カラス」格納庫――

ξ゚听)ξ 「(……! 音が……!)」

ξ゚听)ξ 「(……工場長は、ずっとここに座ってろって言ってたけど……)」

ξ゚听)ξ 「(……やっぱり見に行こう)


――「カラス」格納庫・外――

ξ゚听)ξ 「(えっと……視覚素子の望遠をいっぱいにかけて……)」

ξ゚听)ξ 「(カラス……カラスはどこ……!?)」

ξ゚听)ξ 「! 見つけた!」



――インメルマンターン2秒、バレルロール5秒で5機目と6機目をさばいた。ようやく反転してきたノロマな1機目と2機目が、横殴りの弾幕を張る。
照準は100点をやってもいいが、操機がデタラメすぎる。そんなのではハエ1匹落とすこともできない。やはり思ったとおりだ。トリの操縦は、ツンの技術が元になっている。
ならば勝てる。ケツにひっついた1機をギリギリまでひきつけてブレイク。シザースに持ち込んで抜かさせる。上方から弾幕。バカめ、そこにいるのはもう10秒も前から知ってる。
コブラとフックの中間の軌道で大ブレーキ。ストールアラートを無視してダイブ。ついてこられるものならついてこい。カラスに武装がないことを幸運に思え。
ガンナーシートにツンが座っていたならば、今ごろお前たちは1機残らず蜂の巣だ――



ξ゚听)ξ 「…………すごい…………」
218 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:02:14.52 ID:xFQFvane0
――『塔』上空――

もう何度目かも分からない高G旋回に突入した瞬間、凄まじい音とともに激震がやってきた。


(; ^ω^) 「お!? 被弾かお!?」

(´・ω・`)  「違う。17番翼がもげた。さっきから無茶苦茶に飛んでるからね、揚力に耐えられなくなったんだ」

(; ^ω^) 「大丈夫なのかお!?」

(´・ω・`)  「大丈夫だ。ダテに64枚も翼があるわけじゃない。バランサーで補正をかける。今ソフトウェアを書き換えてる」


――ダメだショボン、そんなことをしていては間に合わない。
間に合わなかった。
キャノピーの外、8時の方向にトリ。致命的なタイミングの、致命的な軌道。

ヤバい、と思った次の瞬間には、撃ち込まれていた。


(;´・ω・`)  「……く、今度はマズいな。左翼側がかなり持っていかれた。エンジンオイルが漏れ出してる。油圧に異常発生」


カラスが、悲鳴を上げている。

振動に何度も遮られながら、なんとかMFDに対地高度を呼び出す。12760ft。ということは、今カラスは『塔』の上空にいる。
左半身の揚力を大幅に失って機体のバランスが崩れている今は、機を傾斜させる必要などなかった。

キャノピーの外を探す。塔は、塔はどこだ、
232 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:04:49.92 ID:xFQFvane0
――あった。


( ^ω^) 「ショボン! 現在位置から『塔』への最短の突入回廊を計算してほしいお!」

(´・ω・`)  「もうやってる! 軌道、MFDに出すよ!」


MFDに、モデル化された三次元座標が出現する。
スカルな『塔』、その上空に小さな赤い光点。ご丁寧に、8機のトリたちも画面にバラ撒かれている。
赤い光点から点線が伸びる。点線は、左旋回の螺旋を描きながら、ゆっくりと高度を下げ、『塔』のアンテナ部に到達した。


(´・ω・`)  「イレギュラーなしのオートパイロットなら、カラスに搭載されたトロい演算基盤でも何とか激突まで持っていけるはずだ。
        航法プログラムはもう完成してる。ぼくらの仕事は終わりだ。射出シークエンス、起動するよ」


起動された射出シークエンスが、5種類の警告を吐いた。どれもこれも共用語の文章で、ろくに理解はできなかったけれど。
警告のひとつひとつに承諾コマンドを食らわせて黙らせていく。


なんだか、少しだけ違和感がある。
――これで終わりか?


ウィンドウがひとつ閉じていくたびに、不安が大きくなっていく。
それは、まだ酸素が無料だった時代の記憶。

自分の経験した地獄は、こんなに甘いものだったろうか。
239 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:06:31.46 ID:xFQFvane0
(´・ω・`)  「よし。射出座席のロック解除。カウント3で射出するよ。衝撃に備えて」


3。おしまいのカウントが始まる。
安堵するべきはずなのに、自分は何を考えているんだろう。
誰かに言われたじゃないか。ひとりで考え込むのは悪いクセだって。

2。
MFDを見ろ。マヌケな8つの光点は、どれもこれも自分に追いつけてはいない。もう攻撃はない。
終わったんだ。全部。このままカラスは『塔』に突入するだろう。電波は止まって、それでおしまいだ。

1。
――そして。この程度で死を免れるのであれば、自分は352機も撃墜しないで済んだのではないか。


マーク。

キャノピーが爆破される。
ロケットモーターの噴煙で、視界が真っ白に染まる。

懐かしい感覚。それは、自分がこの時代に降り立った時の感覚。
キャノピーの保護を失って、時速330ノーティカルマイルで突き刺さるような激しさの、これは、大気だ。


Gの足りなさに、絶望した。


――ああ、そうそう。
生きるというのは、こういう感覚の中にいることだったかもしれない。
241 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:07:05.00 ID:xFQFvane0
Gが足りない。あまりにも足りない。
射出座席は、時としてパイロットの背骨すら折ってしまうというのに。

噴煙が晴れる。
視界が何一つ変わっていない。
突き出した何本もの操縦棹。目の前のMFD。右側に置かれたDDE。その他無数のスイッチ類。

目の前のガンナーシートだけが空っぽで、

自分は、まだ、カラスのコックピットにいる。



脊髄反射でシート横のレバーを引く。
ガチガチと音を立てて。何度引いても、縦Gがこない。

射出、されない。


――ウソだろ。
253 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:09:47.90 ID:xFQFvane0
恐慌をきたした。風のせいで水の中にいるような抵抗の中、スイッチというスイッチを殴りつけるように入れて、ペダルというペダルを踏む。
花火のようにフレアを射出し、MFDが狂ったように矢継ぎ早に機体の情報を告げ、合成音声が何事か警告を告げても。

ゆっくりと左旋回を続けて加工する、プログラムに支配されたカラスの軌道は変わらない。
目の前の光景も変わらない。


( ^ω^) 「あははは……あははははははははははははははははははははは!」


やれることが何もなくなってしまうと、もう笑えてきた。
なるほど。
これは、罰なのかもしれない、と思う。

逃げ続けてきた。
死ぬことから逃げ、かといって生きることからも逃げ、ついには時代からも逃げ続けてきた自分が。
何のツケも払わずに、ただヒトたちの優しさに甘えることなど、やはり虫のよすぎる話だったのだ。


9時の方向、下方にそびえ立つ『塔』を睨む。


いいだろう。1000年間意地を守り続けてきた『塔』よ。人の遺志よ。
一人立ち続けてきた孤独を、最後に自分が埋めてやろう。

お前を連れて行く。

楽しかったんだ。ヒトたちと必死にコミュニケーションを取るのが。こんな生活が。
嬉しかったんだ。ヒトたちもまた、必死に自分を理解してくれようとしていたのが。
――もう充分だ。そうだろう『塔』。こんな未来を遺せたのなら、人間はきっと、それだけで価値があった。
266 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:12:30.43 ID:xFQFvane0
みんなは怒るだろうな、と思う。
結局自分は、最後の最後までウソつきだった。

クーはきっと、「残酷だ」と言うだろう。高岡はきっと、「そんなのロックじゃねえよ」と言うだろう。
ショボンはどうだろうな。何も言わないかもしれない。
ビコーズも、きっとみんなには何も言わない。でもあの無表情の下で、きっと「残念だ」と思ってくれる。
フサギコは「あのバカやろう」って言うんだろうな。しわがれた声で。
流石兄弟は、やっぱり野球をするんだろう。「寂しくなったな」、なんて、きっと兄者がそんなことを言う。
荒巻は――彼は発声器官を持たないけれど、やっぱり彼のやり方で、彼の気持ちを伝える。

ツンは――ツンは、どうするだろう。
ああ、あんなに近くにいたのに、キミがどうするか分からないや。
でもそんなものかもしれない。一番近くにいるものは、往々にして一番よく見えないものだったりするから。


そして。
彼らは、目から塩水を流すことこそしないけれど。

きっと、泣いてくれると思う。


だから、いい。
それに、クーは言ってたじゃないか。彼らは人間のように、いなくなった仲間を忘れたりはしない。

だから、いいんだ。
ヒトたちがそうやって、また彼らのやり方で生きていけるなら。
自分など、いてもいなくても、きっと一緒だから。


――そのときだった。
271 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:13:00.82 ID:xFQFvane0
声を聞いた気がした。
1000年ぶりの声。1000年前、最後に聞いた人間の声。

わたしは、ここにいるよ。


( ^ω^) 「ツン……ツンなのかお?」


MFDに表示されていた三次元座標が、微妙に変化する。
螺旋の軌道が少しだけ深くなって、アンテナ部に衝突するはずだった点線が、『塔』の中腹へと衝突コースを変えた。
わたしは、ここにいるよ。


( ^ω^) 「ツン……」


操縦棹が勝手に動き、スパイラルダイブの深さを少しだけ変える。

そうか。ツンもそこにいるのか。


ずいぶん遅れてしまった。
でも、最後の最後に、ようやくあの約束だけは果たせそうだ。

ずっと一緒にいよう。もうこれからは、ずっと一緒だ。



カラスが、吸い込まれるように塔に接近していく。相対距離のデジタル表示が、目で追えない速度で減少していき、ついに、
275 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:13:31.15 ID:xFQFvane0




目の前に、



巨大な巨大な『塔』の壁が、













289 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:16:57.20 ID:xFQFvane0
――268番村・村長屋敷――

爆音。

フサギコは、その音を端末の前で聞いた。


Σミ,,;゚Д゚彡 「……うおい!?」


もやがかかっていた意識が復活する。
反射的に窓の外を見たけれど、そこにはただ、青い空があるだけだ。

何事もなかった、ワケはない。
ずいぶん長く稼動してきたけれど、あんな音は聞いたことがない。


ミ,,;゚Д゚彡 「ああ、くそ何が起こってやがる!?」


椅子から立ち上がって部屋を飛び出す。
タガから伸びっぱなしのケーブルを引きずっていることにも気づいていない。
309 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:19:27.90 ID:xFQFvane0
――ビコーズの家――

爆音。

ビコーズはその音を、やっぱり端末の前で聞いた。


( ∵)  「……朝?」


さっきまで日が落ちていたのに?
こういうとき、ビコーズは自分の積層ログを信用しない。データサーバーにアクセスして、256桁のパスワードを打ち込む。
直前に自分がしていた作業。boonシステムβ1.01。最終の更新は、やはり昨日の夜だ。

315行目に目を留める。

ハーメルンの笛。


記憶が蘇ってきた。
そうだ、あのとき自分は音楽を聴いた。強制介入型の自律運用モード移行コマンド。
コマンドが解除されさえすれば復帰できる。その一念で、とにかくブーンに伝えようと思ってこの1行を書いた。

ショボンは、ちゃんとデータベースをハッキングしてくれたろうか。ブーンには、伝わったのだろうか。


気づく。


( ∵)  「音楽が、止まってる……?」
324 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:21:36.00 ID:xFQFvane0
――監視所――

爆音。

その音を、流石兄弟は、X-7監視サイト群のエラーメッセージという形で聞いた。


(´<_` ;) 「…ん? お、おい兄者、起きろ! X-7監視サイト群が定常ping送信に応答してない!」

( ´_ゝ`) 「……信号が途絶? 断線でもしたのか?」

(´<_` ;) 「落ち着いてる場合かっ! クーさんが言ってたろう、『塔』が何かをやらかすって、」

( ´_ゝ`) 「愚弟。よく耳を澄ませ」

(´<_` ) 「……あれ? 音楽が止まってる?」

( ´_ゝ`) 「何かが起きたな。村長屋敷に連絡。あとお前、外を見て来い」

(´<_` ) 「……緊急時にだけは無駄に頼りになるな……ああくそ、行ってくる!」


弟者が、監視所を飛び出す。
兄者が、ぽつりと呟いた。


( ´_ゝ`) 「……爆音の観測結果は『塔』、か」
334 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:23:12.48 ID:xFQFvane0
――「カラス」格納庫――

爆音。

その音を、ツンはカラス格納庫の外で聞いた。
聞くだけじゃない、見てもいた。カラスは、塔の中腹に激突したのだ。

最大望遠をしてなおよく見えなかったけれど、急にガタついたカラスから何かを射出されるのを見た。


ξ゚听)ξ 「…………」


ただ、微かな違和感は。
射出された「何か」は、一つだけ、だったような。


首を振る。頬を叩く。
そうだ、工場長が言っていたじゃないか。自分は捜索隊に予測回収地点を伝えなければならない。


ξ゚听)ξ 「ブーンは、約束したもんね。必ず生きて帰るって。みんなも無事だよね」


不安を振り切って、カラスの格納庫に駆け込む。
端末にタガを繋いで、村長屋敷を呼び出す。

出ろ。早く出ろ。ブーンの目論見通り、音楽は止まった。ならば村長、あなたはもう自律運用モードから復帰しているはずでしょう?
345 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:25:43.01 ID:xFQFvane0





音楽が、聞こえる。


ああ、ツンの好きだったクラシック。
パガニーニによる大練習曲集第3番嬰ト短調。リストの、『ラ・カンパネラ』。



ラ・カンパネラ。それでも意地で統制を保ち続ける旋律の。
福音を告げる、小さな『鐘』。







――誰かに、名前を呼ばれているような気がした。
359 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:27:15.62 ID:xFQFvane0
「ブーン、ブーン。起きてよ。起きなさいったらネボスケ」


体を揺すられる。
ああもう、ゆっくり眠らせてくれ。もう全部終わったんだから。


( -ω-) 「おー……あと5時間」

「っざっけんなバカっ!」


今度は蹴飛ばされた。
ガランゴロンとドラム缶のように転がるはずなのに、自分は防護服を着ていなかったし、1メートルも動かなかった。


「ああもう、早く起きなさいってば! 何百年待たせれば気が済むのよバカ!」


目を開く。
白い。網膜素子の絞りが狂ってるのかもしれない。


ξ*゚听)ξ 「早く起きなさいっての!」



無敵の複座戦闘機、緋蜂のガンナー。ツンが、いた。
373 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:29:16.25 ID:xFQFvane0
( ^ω^) 「お……ツン。久しぶりだお」

ξ゚听)ξ 「相変わらず情緒も何もあったもんじゃないわね。遅いってのよ」

( ^ω^) 「キミがせっかちすぎただけだお?」

ξ゚听)ξ 「あたしの知ったっちゃないわよ。起きたらもうぐっちゃんぐっちゃんでさ、大変だったんだから。オマケにブーンはグーグー寝てるし」

(; ^ω^) 「そんなの、コールドスリープの技術者に言って欲しいお」

ξ゚听)ξ 「っざけんじゃないわよねー、あのハゲの政治士官。覚えてる?
       『1000年後のキミたちにも栄光があるように』って、あたしゃ450年も前に起きたっつーの!」

( ^ω^) 「……聞かせてほしいお、それからのこと」

ξ゚听)ξ 「……うん。大変だったんだから、ひとりぼっちで」



長い時間をかけて喋った。
ときどき涙を交えて、ツンはツンの経験した過酷を語った。

大変だったね。そう言って頭をなでる。
ツンは「大変なんてもんじゃなかったわよバカ! とっとと起きなさいよノロマ!」と怒りながらも、決して手をのけようとはしなかった。

――ああ、でもツン。
よかった。
全てを話し終えたキミが、笑っていたから。
385 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:31:17.57 ID:xFQFvane0
ξ゚听)ξ 「最初はさ、あたしもさ、ロボットたちをコキ使ってブーンとずっと一緒にいられたらなー、とか思ってたワケよ」

( ^ω^) 「でも、気づいてしまったお?」

ξ゚听)ξ 「そ。ロボットたちにも――って、その頃はヒトたちも自分でロボットって言ってたんだけどね、心があってさ。
        だから、なんかブーンのことなんかどうでもよくなっちゃった」

(; ^ω^) 「おー……ヒドいお……」

ξ゚听)ξ 「……ごめん。ちょっとウソ。やっぱりね、どうしてもどうしても会いたかったよ。
       だから、最後に量子コンピュータにお願いした。ブーンが起きる頃に、ツンっていうヒトを造ってくれるように」

( ^ω^) 「似すぎててびっくりしたお」

ξ゚听)ξ 「そりゃそーよ。似るようにしたんだもん」

( ^ω^) 「……ちょっと似てないけど。ツンより優しいし、ツンみたいにすぐ殴ったり蹴ったりしないし、ツンみたいにすぐキレないし」

ξ゚听)ξ 「ムカつく……けど、ま、無理な話だったのよね。だって、ヒトは心を持ってるんだもん。同じ人間なんて、いないもんね。
       あの子に悪いことしちゃったな。まさか、電波でヒトを管理するなんて思ってもみなかったし」

( ^ω^) 「……あの子は、そのために造られた子だから。他のやり方を教えられてなかったお?」

ξ゚听)ξ 「一緒にがんばったんだけどねー。伝わらなかったみたい。残念だな」

( ^ω^) 「おー。でも、これからはもうみんな一緒だお?」

ξ゚听)ξ 「はぁ? 何言ってんの?」

(; ^ω^) 「え?」
394 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:33:19.62 ID:xFQFvane0
ξ゚听)ξ 「あんたね、まだ地上にいっぱい約束残してんでしょーが。それに、あの子だってまだ生きてるし。
        まーた『ぼくなんていなくてもいいおー』とか思ってるんでしょ。はー、バカは死んでも治らないってホントね」

(; ^ω^) 「おー……」

ξ゚听)ξ 「仲間だって言ってくれたんでしょ? あたしは別に、ブーンなら無条件に仲間だと思うようになんて教えてないんだからね」

( ^ω^) 「…………」

ξ゚听)ξ 「だったら、約束を果たして、ブーンが何十年か経って死んじゃうまで、ブーンはヒトと一緒にいなきゃダメ」

(; ^ω^) 「……お」

ξ///)ξ 「……そっ、それで、でも死んじゃったらちゃんと帰ってきてよね? あたしだってその、ブーンと一緒にいたいっていうか何ていうか……」

( ^ω^) 「……ん、分かった。約束するお」

ξ///)ξ 「じ、じゃあもうさっさと行きなさいよ! 急がないと『塔』が崩れるわよ!
        ああもう、「ブーンタワー」なんてだっさい名前の塔、さっさと崩れちゃえばいいのよ!」


ツン。
それじゃあ、また何十年かお別れだ。

でもきっと、そんなのはすぐにやってくる。
キミは、何百年も自分のことを待っていてくれたんだから。

最後に、一言、何か言おうとした。

言葉が、出てこなかった。

410 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:35:21.83 ID:xFQFvane0
――塔・都市管理電算室――

誰かが泣いていた。

夢を見ていた気がする。
白くて、暖かくて、ツンの匂いのする夢だ。


ξ*゚听)ξ 「…………ひどいよ…………」


目を開いて、周囲を見渡す。
1000年前の、人間たちの機械に埋め尽くされた部屋。
何十基もの演算ユニットが並ぶ一角には風穴が開いていて、カラスのコックピットが半分ぐらい埋まっていた。

誰かが泣いていた。

――どうして生きているんだろう。というか、自分は生きているんだろうか。
そう思って体を動かそうとして、四肢がやたら重いことに気づく。
そうか、防護服。これが守ってくれたのか。

誰かが泣いていた。

ああ――しかし、左腕はもう完全にダメだな。
左側の肋骨も何本か折れてる。ヘルメットのバイザーも、左側は血色に曇ってしまっている。
それでも脚が大丈夫そうなのが救いか。

誰かが泣いていた。

激痛をこらえて立ち上がる。
425 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:37:52.15 ID:xFQFvane0
何度も何度も転びそうになりながら、それでもなんとかバランスを保って、都市管理量子コンピュータのシートに座った防護服に歩み寄る。
コンソールに突っ伏すように眠るそれは、もうピクリとも動かない。
痛みのせいでひどく苦労したけれど、なんとかヘルメットをこっちに向けさせた。

中には、遺骨が納まっていた。


ξ*゚听)ξ 「ひどいよっ!」


誰かが叫んでいる。


ξ*゚听)ξ 「わたしだってブーンを殺しちゃうつもりなんてなかったのに! お母さんの言いつけを守ったのに!
        どうしてこんなひどいことするの!?」

( ^ω^) 「お……キミかお……」


言葉を出すだけでも、ひどい痛みが全身を貫く。
それでも言わなければならない。教えてあげなければならない。


ξ*゚听)ξ 「わたし、そんなに悪いことしたの!? だって、だってお母さんはブーンと一緒にいたいって!
        そのために2人でがんばってたんだもん! ロボットたちにやるべきことを教えて、こんな世界を作ったのに!」

( ^ω^) 「……お、それは、違うお?」

ξ*゚听)ξ 「何が違うのよ!?」
433 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:39:55.39 ID:xFQFvane0
( ^ω^) 「ツンが、やりたかったのは、管理じゃ、なくて、」

ξ*゚听)ξ 「ロボットが、管理されないで生きられるもんかあっ! だってそうでしょ!?
        人間がいなくなったから、ロボットたちが暴走して、それであんなひどいことになってたんだもん!」

( ^ω^) 「そう……でも、キミたちは、ヒトに、たくさんのことを教えてあげたお?」

ξ*゚听)ξ 「そうだよ! わたしたちがいたから、今までロボットが生きてられたの! 2人きりで! お母さんがいなくなったら、1人ぼっちで!
        もう『塔』は崩れる。そうなったら、またあんなひどいことになるんだから! もう知らないんだから!」

( ^ω^) 「……キミは、ヒトたちに、もっ、と大切なことを教えてあげていたお……ヒトは、もう、キミがいなくても生きていけるお」

ξ*゚听)ξ 「―――!」

( ^ω^) 「……ぼくは、キミを助けに来る。約束、するお。みんなと一緒に、必ず」

ξ*゚听)ξ 「……そっ、そんなの要らなっ、」

( ^ω^) 「ぼく、は、ここが崩れたら、死んでしまう。だから、今は、帰るお。でも、必ず来るから」

ξ*゚听)ξ 「要らないって言ってるでしょう!」

( ^ω^) 「どんなに、壊れていても、必ず、直して、それで。キミに、教えてあげるから、」

ξ*゚听)ξ 「ブーンのバカ!」


それだけ言って、彼女は沈黙してしまう。
でも、そんなことをしても無駄だ。どんなにキミが黙っていたって必ず助けに来て、キミがヒトたちに与えてくれたものの暖かさを、イヤになるほど教えよう。

440 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:41:30.48 ID:xFQFvane0
ツンに肩を貸して、立ち上がる。
ああ、痛いな。

でもこんなところで、『塔』のガレキに埋まって何十年も待つことはない。
とても暖かい場所があるんだ。
一緒に行こう、そこまで。

歩き出す。
ああ、生きているとはなんと痛いことだろう。


振動が走る。床が踊る。
『塔』の崩落が始まる。


大丈夫。自分は死にはしない。きっと地上に、あの村に帰り着く。
もうそれは呪いなんかじゃない。

優しい約束だ。
ヒトたちの、そして自分の、意思だ。


一歩一歩、着実に。
一歩一歩、約束への距離を縮める。




さようなら、人間。
――それでも、ぼくは。人間であることを、誇りに思うよ。
455 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:43:44.96 ID:xFQFvane0
――268番村・広場――

ミ,,;゚Д゚彡 「お、おい、『塔』が――、」

( ∵)  「崩落していくね。何と言うか――物悲しくて、壮観だ」

(´<_` ;) 「なんて言ってる場合じゃないんじゃないですか!? この辺までガレキが降ってきますよ!?」

ミ,,;゚Д゚彡 「お、おう、そうだな。よっしゃ、全員ウチに集合だ! 地下室に潜りゃ、多少のガレキはしのげんだろ!」


      タッタッタッタッタッ!


ξ;゚听)ξ 「村長! フサギコ村長!」

ミ,,゚Д゚彡 「おおツン、テメーも急いでウチに、」

ξ゚听)ξ 「そんなことしてる場合じゃないです! 早くブーンたちを助けに行かないと!」

Σミ,,;゚Д゚彡  「はぁ!?」

( ∵)  「……やっぱりそうか。音楽を止めてくれたんだね、彼は」

ξ゚听)ξ 「でも、でも、『塔』の方にはまだブーンたちがいるんです! 急がないとブーンが!」

ミ,,;゚Д゚彡 「ええい、ちくしょ、鉄板でもなんでもいいから盾になりそうなもんかき集めろ! キアイで突破すんぞ!」
467 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:45:45.37 ID:xFQFvane0
――『塔』上空・射出座席パラシュート下――

(´・ω・`)  「おーい、工場長ー。もう演算素子を開放していいよー」

从 ゚∀从 「っぷは! やっぱ狭苦しくてヤだな、電卓になるってのはよぉ!」

(´・ω・`)  「うん。なんかね、全部終わったみたいだ」

从 ゚∀从 「おぉ! さすがブーンだぜ!」

(´・ω・`)  「……そのブーンなんだけどね。脱出が確認できてない」

从; ゚∀从 「はぁ!?」

(´・ω・`)  「射出座席のエラーかソフトウェアのエラーか、今となっては判断つかないけどね」

从; ゚∀从 「ぶ、ブーンはどうなったんだよ!?」

(´・ω・`)  「『塔』に激突した。ちなみに、『塔』は今、崩落中だ。ほら」

从; ゚ - 从 「…………ブーン、イッちまったのか…………?」

(´・ω・`)  「……なんだかね、相変わらず確証なんて何もないんだけど、大丈夫な気がするんだよね、不思議と」

从 ゚∀从 「…………だ、だよな!? ンなワケねーよな!? あはは、アタシとしたことが。ちょっとボケてたぜ!」

(´・ω・`)  「それに、今は自分たちの心配をした方がいいな。ほらガレキが」

从; ゚∀从 「うおおおっ!?」
479 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:47:12.08 ID:xFQFvane0
――『塔』への道――


うおおおい! いたぞ! ブーンだ! ぶっ倒れてやがる!

ち、近くに工場長とショボンさんもいるはずなんです!

え? どうして工場長とショボンが?

話は後でします! それよりブーンをシールドの中へ!

……なぁ、なんか2着ないか? 防護服。

ええい、どっちも引っ張り込め! 急げ! ガレキが降ってくんぞ!



――――。

――――。

――――。
488 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:49:47.20 ID:xFQFvane0









       エピローグ。
  それからのことについて言えば。









503 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:51:48.14 ID:xFQFvane0
――数日後・ツンの家――

幾日か経って、目が覚めた。


ξ゚听)ξ 「……! ビコーズさん! ブーンが!」

( ^ω^) 「……お?」

( ∵)  「ようやくか。大変だったんだよ、ニンゲンの医療関係のデータさらってさ」

( ^ω^) 「おー……あれ、ビコーズ。久しぶり」

( ∵)  「……ボケてるのかな? 頭にも損傷があったからねぇ……」
 
( ^ω^) 「おっおっおっ?」


無意識に体を動かすと、ちいいい、というモーター音がした。

――モーター音?

音がしたのは左腕、だと思う。
左腕を見た。

すげえことになっていた。


Σ(; ^ω^) 「お!? 左腕がメカになってる!?」
511 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:52:50.50 ID:xFQFvane0
( ∵)  「いやー、もうアレだね、修復不能だったからさ。
     それだって大変だったんだよ、ニンゲンの神経信号を拾って動くようにするの。工場長の特別製だ」

( ^ω^) 「おー……」


ういいい、ういいいい、と動かしてみる。なんだかロボになったみたいでカッコいい。
ホントに意のままに動く。やっぱり高岡は凄いなあ、なんて思う。

……肩のところに、見覚えのあるグロテスクな金属部品がついていた。


( ^ω^) 「お……これ、タガ?」

( ∵)  「うん、そうだね。ついでだからつけてみたぜ! って工場長は言ってた。後でテストしてみようか」

( ^ω^) 「おー…………」


あれ、なんだか感情が浮かんでこないな。
やっぱり、まだボケているのかもしれない。

ああ、だってそもそも、そうだ。何でぼくはこんなところにいるんだっけ。


ξ゚听)ξ 「ブーンのバカっ!」


……いきなり、グーが降ってきた。
531 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:54:54.60 ID:xFQFvane0
Σ(; ^ω^) 「どぅふ!? 痛っ!?」

ξ゚听)ξ 「おー、じゃないの! みんな心配してたんだからね!」


ものすごく痛かった。
痛かったけれど、おかげで目が覚めた。

見回す。実感する。
ああ、そうか。
全部終わったんだな。

そして。
帰ってきたんだ。自分はまた、この村に。



( ^ω^) 「――ただいま、ツン」

ξ゚听)ξ 「――おかえり、ブーンっ! ありがとっ! マジだよっ!」


抱きつかれた。


( ゚ω゚) 「ぎゃああぁー!」

ξ゚听)ξ 「? ブーン、どうしたの?」

( ∵)  「……ツン、一応ブーンは今、絶対安静だから」
544 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:56:55.63 ID:xFQFvane0



日常は、ゆっくりと帰ってきた。

なんだかふわふわしていて、何の実感もなかったけれど。
ただ、村から眺める北に、『塔』の姿がなくなってしまったことと。

村中に散らばるガレキと。
メカになった左腕と。そこについたタガと。
何事もなかったかのように元に戻っていたみんなが、ゆっくり時間を認識させてくれた。


( ´_ゝ`) 「あーダルい、だいたいオレら頭脳労働派じゃん? ホワイトカラーじゃん? なんでガレキの撤去作業なんか」

(´<_` ;) 「……さっきから座り込んで何もしないくせに、そこまで文句言えるのはある意味尊敬に値するよ」

ミ,,゚Д゚彡 「キリキリ働けゴルァ!」


从 ゚∀从 「そろそろよー、カラス2号機を造ろうと思うんだよな。お前もそんな演算素子だけじゃ味気ねーだろ」

(´・ω・`)  「まぁね。感覚器は工場長と共有させてもらってるから、色々これはこれで楽しいけど」

从 ゚∀从 「……ぶっ飛ばすぞ……」

(´・ω・`)  「で、今度はどんなのにするの?」

从 ゚∀从 「前と同じじゃ芸がねーからな、今度は3倍の192枚翼のすっげーカッコいいヤツだ!」
552 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/01(土) 23:58:37.15 ID:xFQFvane0
( ∵)  「boonシステムは、一応これで完成ってことになるかな。まぁ、ブーンにもタガがついちゃったしね。もう意味がないっちゃ意味がないけど」

ξ゚听)ξ 「そんなことないですよ! ね、ブーン!」

( ^ω^) 「そうだお。ありがとうビコーズ。本当に感謝してるお」

( ´_ゝ`) 「ピー」

ξ゚听)ξ 「?」

( ´_ゝ`) 「ピー ピー ピー ……おお、これ面白いぞ。アレな言葉を言うとピー音が入る」

ξ///)ξ 「何言ってるんですかっ!」

( ∵)  「うん、ニンゲンはよくそうしていたっていうから」

(; ^ω^) 「前から聞きたかったけど、ビコーズはどういうところから情報を仕入れてるお?」



/ ,' 3 v 「…………」(ブイ







――あれから昏睡状態にあったクーが目を覚ました、と聞いたのは、そんなある日のことだ。
567 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/02(日) 00:00:38.82 ID:y1OC2rFv0
――工場区画――

川 ゚ -゚) 「…………」

从 ゚∀从 「一応、治った。早いうちに修理を開始できたのがよかったな。……でも、データホルダーに欠損があってな。
       アタシのことも忘れられてたぜ。はっはっは」

ξ゚听)ξ 「……そう、なんですか。クーさん? わたしのこと、覚えてる?」

川 ゚ -゚) 「ツン。忘れるわけないだろう」

( ^ω^) 「ぼくのことは?」

川 ゚ -゚) 「…………待ってくれ。今思い出すから。ええと、」

ξ゚听)ξ 「ブーンのこと、忘れちゃったの!?」

川 ゚ -゚) 「……ブーン。ああ、待ってくれ。今思い出す。絶対に思い出す。
      大切なモノな気がするんだ。大好きだったと思うんだ。約束をしたと思うんだ。だから絶対に思い出す。ちょっと待ってくれ」

( ^ω^) 「……クー。焦ることはないお? 忘れてしまったなら、また教えてあげるから。ゆっくりでいいお」

川 ゚ -゚) 「…………うん」

ミ,,゚Д゚彡 「おっしゃ祝いだ! 工場長、特上オイル持って来い!」

(; ^ω^) 「……フサギコ、ぼくはオイル飲めないお」

川 ゚ -゚) 「……ブーンはオイルが飲めない。うん、ひとつ分かった」
577 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/02(日) 00:02:39.71 ID:y1OC2rFv0
――『塔』・跡地――

/ ゚、。 / 「通電確認。すごいシステムリソースだ。OS、起動するよ」

ξ*゚听)ξ 「……。何しにきたの? 笑いに来たの?」

( ^ω^) 「違うお。約束したお? キミを助けに来るって」

ξ*゚听)ξ 「……嬉しくない。こんなことされても」

( ^ω^) 「ぼくは嬉しいお。キミが無事でいてくれて」

ξ*゚听)ξ 「誰かさんのおかげで、6割がたデバイスが死んじゃったけどね」

/ ゚、。 / 「……ということは、これで4割? すごいハードウェア資源」

( ^ω^) 「何しろ、元・神さまだお」

/ ゚、。 / 「神さま?」

ξ*゚听)ξ 「……今はただのポンコツよ」

( ^ω^) 「ちょうどいいお?」

/ ゚、。 / 「うん。268番村はポンコツの村。ようこそ、ぼくらの村へ」

ξ*゚听)ξ 「…………ふん」
588 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/02(日) 00:04:42.06 ID:y1OC2rFv0
――268番村・ツンの墓前――

( ^ω^) 「ツン、ごめんお。ここには花も生えていないから。せめて水だけ置いておくお」

ξ゚听)ξ 「……ツンさん、神さま、だったんだよね。わたしたちを助けてくれた」

( ^ω^) 「うん。ツンはとってもがんばったお」

ξ゚听)ξ 「…………ありがとう、ツンさん。さびしくないかな」

( ^ω^) 「大丈夫だお? すぐそこに野球場も作ったし。いつでも賑やかだお」

ξ゚听)ξ 「……。ツンさん、ちょっとの間だけ、ブーンをお借りしますね」

(; ^ω^) 「おー……」

ξ゚听)ξ 「……神さまがいなくなって、大丈夫なのかな、わたしたち」

( ^ω^) 「大丈夫だお。ぼくたちは、もう自分の足で歩いていける。ツンも、そうなることを願っていたお」

ξ゚听)ξ 「そっか……。そうだね。うん、ツンさん、がんばるからね、見ててね」


――がんばりなさいよ。ブーンを取ったらマジでぶっ飛ばすけど。


ξ;゚听)ξ 「あれ? ブーン、何か言った?」

( ^ω^) 「お?何も言ってないお?」
595 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/02(日) 00:06:12.67 ID:y1OC2rFv0
――268番村・野球場――

( ´_ゝ`) 「ぶぇー! ぶぇーぶぇーぶぇー! ぶぅあーだぶぁんだぶぁだだぶぁーだーだー!」

(; ^ω^) 「……何の歌だお、あれ」

( ∵)  「元阪神のバースの応援歌だね」

(; ^ω^) 「バースって誰だお……」


川 ゚ -゚) 「ふう。復帰後初マウンドだ。ここは完封に抑えねばな」

( ´_ゝ`) 「病み上がりにそうそう活躍されてたまるかよ! 来い! 特大ホームランにしてやるから!」

川 ゚ -゚) 「行くぞ……新投法。渡辺俊介の世界最低のサブマリンを受けろ!」 (シュビッ!

(; ´_ゝ`) 「アンダースローっ!?」 (ブゥンっ!

ξ*゚听)ξ 「すとらいーく。……なんであたしがこんなこと……ぶつぶつ……」

(; ^ω^) 「だから渡辺俊介って誰だお……」


ミ,,;゚Д゚彡 「……クーの野郎、前より調子よくなってねえか……」

川 ゚ -゚) 「ふ。死線を越えた者が強くなって帰ってくることは常識だ」

ξ;><)ξ 「あんなの打てないようっ!」
603 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/02(日) 00:07:43.85 ID:y1OC2rFv0
川 ゚ -゚) 「さぁ、次はブーンの番か。キミを抑えて9連続奪三振だ」

( ^ω^) 「おっおー、いい度胸だお? サイボーグとなったぼくの新たなる力を見るお?」


ざっ、ざっ、と。足元のグラウンドをならす。
うん、まだちょっと痛い。

バットを構える。今までの傾向からして、おそらく初球は内角いっぱいに速球で来る。
少しバットを短く持った。初球から狙っていく。

クーの脚が、マウンドから上がる。
それほど速い球ではないから、タイミングは、そう。この辺から、1、2、の、


3っ!

カキンッ!


思いっきり引っ張ったフライが、空へ高く高く上がっていく。
酸素と二酸化炭素の逆転した空。
人間がもう、滅びてしまった時代の空へ。

いや、それは少し違うか。

あと何十年かの間は、人間が、ヒトの間で生きていく時代の空へ。


                                       ――結果を言えば、まぁ、ライトフライ、だったけれど。
607 :1 ◆JTDaJtyHNg :2007/12/02(日) 00:08:19.61 ID:y1OC2rFv0








        ( ^ω^)は、水も酸素もなくては生きられないようです



                     完





そうだ。最後に、高岡の言っていた「何でもひとつ言うことを聞く」件については。
本人が「アタシが機能停止するまで絶対に秘密だからな!」と言っていたので、詳しくは言えないけれど。

まぁ、ものすごいことをさせられたと。

ここでは、それだけを言うに留めよう。

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