3 :1:2007/11/20(火) 15:24:23.90 ID:RnnoZN3b0
そういえば、宇宙飛行士たちが辿り着いたサルだらけの星が、実は地球だったなんて映画もあった。

Anything one man can imagine, other men can make real。

「15少年漂流記」の作家で、SFの大家なんて呼ばれてる人は、そんなことを言ったそうだ。

――人類が想像し得ることは、人類が成し遂げうることだ。

ああ、作家さん。あなたの名前は何て言ったっけ。
でもそう、どうやら、あなたの言ったことは正しいらしい。
遥か昔の映画監督が想像したことが、なぜだか今、現実になってしまっているのです。


あ、でもちょっと違うかな?
ここには、サルはいないから。

そうだな。やっぱりちょっと違う。
自分が辿り着いたここは、ヒトだらけの場所なんだから。




   ( ^ω^)は、水も酸素もなくては生きられないようです
           2話 散開星団

4 :1:2007/11/20(火) 15:26:43.51 ID:RnnoZN3b0
――268番村・情報統合監視所――

(´・ω・`)  「あぁ……退屈なんだよねぇ、ここの勤務。たまには誰か代わってくれてもいいのに」

(´<_` ) 「そんなこと言っても、この辺の機器はアンタが一番詳しいんです。適材適所ですよ」

(´・ω・`)  「だけどさぁ、1日中なぁ――んも映らないモニター見てるんだよ? 拷問だよ?」

( ´_ゝ`) 「ウソつけ。たまに演算素子の一部を浮かして何か作業してるクセに」

Σ(;´・ω・`)  「ぎく」

( ´_ゝ`) 「隠れてコソコソ何をやってるんだか?」

(;´・ω・`)  「あー、それはね、ほら、この辺に飛んでる電波のインターセプトとか、そういう高度な……」

(´<_` ) 「……ウソくせぇ……」

( ´_ゝ`) 「実はこっそりログも取ってるんだけどな」

(;´・ω・`) 「えええええ!?  どうやって!? 隔離モードにして、128bitの暗号鍵で防御してたのに!?」

( ´_ゝ`) 「企業秘密。えーっとなになに、『看護婦しぃのドキドキお注――』」

(;´・ω・`)  「わー! ごめん、ごめんってば! もうサボらないから」

( ´_ゝ`) 「勘違いしないでくれ。オレはアンタがサボるとかサボらないとかそういうのはどうでもいいんだ。
       話は簡単さ。――その映像アーカイブ、オレにも分けやがれこのエロガッパ」
7 :1:2007/11/20(火) 15:28:46.04 ID:RnnoZN3b0
――268番村・工場区画――

从 ゚∀从 「あ、そだ。なーおい、先任」

/ ゚、。 / 「なに?」

从 ゚∀从 「先代の工場長が作ってたってヤツ、アレどこにあるんだ?」

/ ゚、。 / 「……トリ?」

从 ゚∀从 「そうそう。ちょーっとツラぁ拝ましてもらおうかと思ってよ」

/ ゚、。 / 「……なんで?」

从 ゚∀从 「飛ばしてやりてーヤツがいるんだよ」

/ ゚、。 / 「……飛ぶの? アレで?」

从 ゚∀从 「とーぜん、アタシが手ぇ加えるけどな。超カッコよくしてやる」

/ ゚、。 / 「……本気?」

从 ゚∀从 「マジ!」

/ ゚、。 / 「……マジってなに」

从 ゚∀从 「今、ナウなヤングにバカウケの流行語だ。先任もこれぐらい知らねーとバカにされっぞ」
12 :1:2007/11/20(火) 15:30:48.21 ID:RnnoZN3b0
/ ゚、。 / 「……ふぅん」

从 ゚∀从 「ンなこたいーんだよ! それよっかトリだトリ!」

/ ゚、。 / 「オススメできない。製作を断念してからもう20年も経ってるし、機体強度にも問題が――、」

从 ゚∀从 「ンなこと言っちまっていーのかよ? アタシ知ってんだぜ?」

/ ゚、。 / 「なにを」

从 ゚∀从 「アンタ、先代と組んで造ってたんだろ? そのトリをさ。先代の情熱に、アンタが押し切られたって聞いたぜ」

/ ゚、。 / 「……古い話」

从 ゚∀从 「かもな。けど、生きてる話だ。アンタ、先代が機能停止したときに、必ず完成させるって約束したんだろ?」

/ ゚、。 / 「…………」

从 ゚∀从 「アタシにやらせてくれ。機械イジリの腕は、先代にゃ負けないつもりだよ」



/ ゚、。 / 「先代のトリは、村長屋敷の先にあるジャンクヤードの倉庫。向かって右から7番目。……マジ」

从 ゚∀从 「さんきゅ! 今度上モンのオイル持ってきてやるからな!」

/ ゚、。 / 「オイルはいい。でも、飛ばして欲しい。あのトリを」

从 ゚∀从 「もちろんだ! 意地にかけて飛ばしてやるよ!」

13 :1:2007/11/20(火) 15:32:50.56 ID:RnnoZN3b0
――統合情報監視所――

(; ´_ゝ`) 「うおおお、コイツぁすげぇ……ショボンさんよぉ、こんないいモンを独り占めってのは、ちっと意地が悪いな」

(;´・ω・`) 「村長たちにはナイショにしてくれよ? ぼく、ただでさえ印象悪いんだから」

( ´_ゝ`) 「ソイツは条件次第だなぁ。次の映像アーカイブのデキにかかってるぜ。またよろしく頼まぁ」

(´・ω・`)  「あれ? これ、ぼくタカられてるよね? ユスられてるよね?」


(´<_` ) 「……なぁ、ときに兄者、これっていいモノなのか?」

( ´_ゝ`) 「何を言ってるんだ愚弟。最高じゃないか。このカメラワーク! このシチュエーション!」

(´<_` ) 「……でも兄者、たとえばツンあたりが服を全部脱いで村を歩いていたとしたらどうだ?」

( ´_ゝ`) 「アホだなと思う」

(´<_` ) 「……でも、この映像アーカイブは興奮するのか?」

( ´_ゝ`) 「当然だ! リビドーだ! なぁショボン! アンタもそう思うだろ!」

(;´・ω・`) 「え? あ、ああまぁ、うん。ぼくの選んだ珠玉の映像アーカイブだからね」


(´<_` ;) 「正直、理解の外だな……だいたい、この行為に何の意味があるんだ? 雑菌汚染は怖くないのか?」

( ´_ゝ`) 「愚弟よ。いつかお前にも分かる日が来るさ……なんかいいんだ。なんかいいんだよ、こいつはよ」
17 :1:2007/11/20(火) 15:36:00.46 ID:RnnoZN3b0



(´-ω・`) 「(あれ……なんか眠いな……。
        ちょっと眠気覚ましに監視機器のチェックでもしようか……。各部にping送信、っと……)」

   『防壁系、NP』
   『統合システム内、NP』
   『R-1監視サイト群、NP』
   『X-7監視サイト郡、NP』
   『R-2-5監視サイト郡、NP』
   『X6監視サイト郡、NP』
   『チェック、村外の監視システムへ』
   『0-100番村への質問信号を送信』
   『100-200、同』
   『200-250、同』
    ………………。
    
(´-ω-`) 「ぐー……」


(; ´_ゝ`) 「あ、おいおい、また寝てるぞ」

(´<_` ;) 「こんなに寝るヒト、他にいないよな……おーい、ショボンさーん。寝ないでくれって、オレらも怒られるんだから」

( ´_ゝ`) 「……まぁ、所詮はポンコツ村だからなぁ。このヒトも、こんなだからここにいるんだろうが」

(´<_` ) 「とかなんとか、もっともらしいこと言ってないで兄者も手伝えって。
       また寝ぼけてヘンな信号出してもらっちゃ困る。おーい、ショボンさんってばよー」
19 :1@ξ///)ξニートじゃないもん!:2007/11/20(火) 15:39:01.20 ID:RnnoZN3b0
――数日後・ツンの家――

簡単な会話くらいなら、できるようになったと思う。
もっともこんな環境では、言葉を覚えるのに大した努力は要らなかった。

驚いたのは、ヒトたちも「眠る」ことだ。

「なぜ眠るのか?」という問いに対するツンの回答は難解で、単語を拾うのも難しかった。
分かったことといえば、とにかくヒトも疲れて眠るらしいということだけ。

――まぁつまり、何も分からなかったと。そういうことだ。


( ^ω^)v 「『おはよう、ツン』。ぶい」

ξ゚ー゚)ξv 「あ、おはようブーン。ぶい。朝ごはん、何がいい?」


食事の問題は、ちょっと困りモノだったりもする。
高岡の持ってきてくれたあのウミウシのお化けは、「高タンパクゲル」というらしい。
生体部品の培養に使うモノなんだそうだ。

何が問題かといえば、味だ。
何しろ3種類しかない。バナナっぽいヤツ、鶏肉っぽいヤツ、あとなんだかよく分からないヤツ。


(; ^ω^) 「(さすがにこれだけのローテーションだと飽きてくるお……)」


――ヒトが「食べる」ことをしない以上、贅沢なのは、分かってはいるけれど。
23 :1:2007/11/20(火) 15:42:02.80 ID:RnnoZN3b0
ヒトたちとの会話では、できる限り彼らの「共用語」を使う。
例えば、こんな風に。


( ^ω^) 「『バナナ味が好き』。朝っぽいお」

ξ゚听)ξ 「分かった。でも、『バナナ味が好き』じゃなくて、『バナナ味が欲しい』だよ」

(; ^ω^) 「うあ……また間違えたお……『バナナ味が欲しい、これでいい?』」

ξ゚听)ξ 「うん。それでオッケー。すぐ用意するね」


――いや、笑わないでほしい。
これでも、ずいぶんマシになったんだから。

拙い語彙力を補強してくれているのは、主にツンだ。
他のヒトとの会話では、ちょっとした通訳みたいなこともしてくれている。


( ^ω^) 「『おいしい。ありがとう』」

ξ゚听)ξ 「どういたしまして。……それ作ったの、わたしじゃないけどね」


ツンの世話焼きなところは、人間のツンに似てなくもないかな、とちょっと思う。

24 :1:2007/11/20(火) 15:45:05.37 ID:RnnoZN3b0
そして――あとは、やっぱり空気の問題だ。
生命活動に酸素を必要としないヒトたちと違って、自分には酸素も要れば水も要る。

ツンの家には、この前、高岡に手伝ってもらって酸素供給装置を取り付けた。
けれど、そこから一歩でも出ようと思えば、自分は、重苦しい防護服を着なければならない。

なんとかならないかな。――無理だろうなぁ、こればっかりは。


      ガサゴソ。ガチャガチャ。
      
      
ξ゚听)ξ 「あれ? ブーン、行くの?」

( ^ω^) 「『はい、歩く。村のことを知りたい』」


本当の理由はそれだけじゃなかった。
なんというか、このままでは無為徒食というか。限りなくヒモっぽいというか。
とにかく、何か自分に役立てることを探しに、最近はよく村を歩いている。

もちろん、そんなことはツンには言わないけれど。
カッコ悪いし、だいたい、「無為徒食」とか「ヒモ」って何て言って伝えればいいか分からない。


(; ^ω^) 「(……防護服、重いお……絶対30キロはあるお……)」


自分に酸素を供給するこの防護服に難点があるとすれば、そこだった。
27 :1:2007/11/20(火) 15:48:08.25 ID:RnnoZN3b0
核戦争にも対応できる、という触れ込みの防護服は、放射線はもちろん、防弾防刃耐熱難燃の豪華仕様だ。
再生型の燃料電池を用いた生命維持装置は、平静にしていれば24時間分の酸素を余裕で作り出せる。

ただその代償として、とてつもなく重い。
着込むだけでも、ちょっとした重労働になるくらいに。

通気性の悪さは我慢しよう。
野暮ったい外見だって文句は言うまい。

でも、この重さだけはなんとかならなかったのかなぁ、と思う。
――まぁ、これも贅沢か。これがなければ、自分はあの封印区画から一歩も出られなかったのだから。


10分もがちゃがちゃやって、ようやく準備を整えた。


ξ゚听)ξ 「ん、オッケー? じゃあ、行く?」

( ^ω^) 「『はい、行く。お願いします』」

28 :1:2007/11/20(火) 15:51:11.91 ID:RnnoZN3b0
――268番村――

ツンに先導されて、がちゃん、がちゃんと音を立てながら村を歩く。
こうしていると、ヒトなんかよりもよっぽど、自分の方がロボットっぽいと思う。


ξ゚听)ξ 「ブーン、あれは?」

( ^ω^) 「『そら』だお」

ξ゚听)ξ 「空に浮かんでるのは?」

( ^ω^) 「『くも』だお」


時々ツンは、その辺にあるものを指さして、テストするように単語を尋ねてくる。


ξ゚听)ξ 「じゃあ、こr」  (バッ
(; ^ω^) 「『タガ』! それは分かったから、絶対それだけは忘れないから、早くしまうお!」

ξ゚听)ξ 「……? ごめん、言葉分からないけど……ブーン、怒ってる?」


ヒトたちが、体のどこかに持っている「タガ」。
情報の伝達なんかに使うらしい、グロテスクな外観の金属部品だ。
ちなみにツンのタガはどこにあるかというと、胸にある。
だから、単語テストをしようと思えば、ツンはシャツの胸元をがばっと開けることになる。

そんなことをすれば、そりゃもう、見える。断然、見える。
30 :1:2007/11/20(火) 15:54:13.37 ID:RnnoZN3b0
(; ^ω^) 「『怒ってない』……」

ξ゚听)ξ 「? そう? あ、これは、タガだからね。タ・ガ」

(; ^ω^) 「『うん、知ってる』……」


ヒトたちは、裸を見られることを恥だと思っていないらしい。
それはまぁそうだろうな、と思わなくはない。
ないが、何も着ないで家の中を歩き回られたりするのは、やっぱりちょっと困る。


      ヒィィィィィィィィンッ!
            
突然、頭上に甲高いエンジン音。そうだ。それから、あれだ。
ツンが指さして、問う。


ξ゚听)ξ 「ブーン! あれ! あれは!?」

( ^ω^) 「『トリ』! 『トリ』だお!」


「トリ」は、頭上の遥か高くにいた。
放射状に広がる18枚の翼に、日光の反射をギラギラと瞬かせながら飛ぶ飛行機。

そういえば、1000年という時間は、航空機にはそれほど大きな変化をもたらさなかったらしい。
自分の乗っていたヤツと、速度も大きさも、多分そんなには変わらない。

違うとすれば、翼の数だ。自分が知る最後の人間製飛行機は、6枚の翼しか持っていなかった。
34 :1:2007/11/20(火) 15:57:19.86 ID:RnnoZN3b0
ふと、疑問に思った。
トリに、ヒトは乗ってるんだろうか?


( ^ω^) 「『ツン。トリに、ヒトは――、』」


あれ、困った。「搭乗する」は、何と言えばいいんだろう。
ええと、ええと……。


ξ゚听)ξ 「うん。ブーンはトリが好き。知ってるよ」


いや、そうじゃなくてね、ツン。
身振り手振りで、なんとか疑問を伝えようとする。


⊂二( ^ω^)二⊃ 「『トリに、ヒトはいるの?』」

⊂二ξ゚ー゚)ξ二⊃ 「あはは、ブーン!」


――ダメだこりゃ。
自分なりに工夫を凝らしたボディランゲージは、残念ながらまったく伝わらなかった。


なんだか、だんだん恥ずかしくなってきた。
腕を広げたまま、「ブーン!」と叫んでダッシュする。
防護服が重過ぎてめちゃくちゃ疲れた。ツンは、喜んでくれたみたいだけど。

35 :1:2007/11/20(火) 16:00:25.11 ID:RnnoZN3b0
――268番村・長老の家――

( ^ω^) 「『荒巻ー、来たー』」

川 ゚ -゚) 「やぁ、ブーン」

ミ,,゚Д゚彡 「よぉ。どうだ調子はよ」

( ^ω^) 「あれ、えっと、えーっと……『2人、来てたの?』」

ミ,,゚Д゚彡 「お? 何だお前、共用語がうまくなったな」

(; ^ω^) 「はい? 『ごめん、聞き取れない』」

ξ゚听)ξ 「ブーンはいい子だって」

( ^ω^) 「あ、あは? 褒めてくれたのかな……えっと、なんだかよく分からないけど、『感謝します』」

川 ゚ -゚) 「……まだ基本的な会話、といったところか」

ミ,,゚Д゚彡 「そう言いねぇ。がんばってんじゃねーかよ」

川 ゚ -゚) 「……あ、うん。そういう意味じゃない。ブーン、がんばれ」

( ^ω^) 「『うん、がんばる!』」


/ ,' 3 「…………」

( ^ω^) 「『荒巻、こんにちは』、だお」
37 :1:2007/11/20(火) 16:03:27.25 ID:RnnoZN3b0
( ^ω^) 「『荒巻? 荒巻ー?』」

   、ゞヾ'""''ソ;μ,
  ヾ  ,' 3    彡   ブワッ
  ミ        ミ
  彡        ミ
   /ソ,, , ,; ,;;:、ヾ`
  
Σ( ゚ω゚) 「おわ! 驚いた!」


荒巻。彼はけっこう、謎のヒトだ。
「彼」でいいのかも分からない。というか、そもそもヒトなのかも今もって分からない。

最初に紹介されたときは困った。
何しろ、こっちが話しかけても、何も答えてくれなかったから。

荒巻は、発声器官を持たないらしい。
事実荒巻は、ヒトとも、音声でなくタガを通じて会話していた。
自分にタガはない。諦めるしかないかな、と思っていた。


( ^ω^) 「もふもふ」

/ ,' 3 「…………」


――けれどだんだん、荒巻の「言葉」も分かるようになってきたと思う。

38 :1:2007/11/20(火) 16:06:24.62 ID:RnnoZN3b0
例えば今、荒巻は喜んでいる。多分。

なぜ分かるか、と言われると難しい。
少なくとも言えるのは、自分に特別な観察眼があるとかではない、ということだ。

それはむしろ、ヒトたちに共通する特徴だった。


/ ,' 3 「…………」

( ^ω^) 「『荒巻のお腹、柔らかい』」

/ ,' 3 「…………」


――そう、やっぱり個性、なんだろう。
ヒトたちは共通して、強い個性と、自分の雰囲気を持っている。
だから、言葉の通じない自分でも、何を思っているかを推し測ることができる。


( ^ω^) 「『荒巻、いつもより元気そうに見える』」

/ ,' 3 「…………」


人形相手に気分を出すようなものだろうか、という疑問は、ずいぶん前に捨てた。
こんな人形がいてたまるものか。

彼らは、確かに生きている。
40 :1:2007/11/20(火) 16:09:35.18 ID:RnnoZN3b0
川 ゚ -゚) 「……不思議なものだな」

ミ,,゚Д゚彡 「ん? 何がだ?」

川 ゚ -゚) 「タガも介さず、長老と会話をしているように見える。そんなこと、わたしたちにだってできないのに」

ミ,,゚Д゚彡 「そうだな。……タガを持ってねーからこそ、なのかもしれねーな」

川 ゚ -゚) 「? どういう意味だ?」

ミ,,゚Д゚彡 「いやよぉ。オレたちはよ。言葉も分かるし、いざとなりゃタガをつないで情報を共有することもできる。
       でも、ブーンはそれができねぇ。だから、ブーンはブーンのやり方でジィさんと話をしてんのかな、ってな」
       
川 ゚ -゚) 「…………」

ミ,,゚Д゚彡 「あ、つまんねー話だったか?」

川 ゚ -゚) 「そうじゃないけど……あなたは変わったと思う。そんなことを言うヒトじゃなかった」

ミ,,゚Д゚彡 「……そうかも知んねーな。ニンゲンがなんだか不思議でよ。ちっとだけ、ああいうのもいいかな、と思っちまうんだよ」

川 ゚ -゚) 「……そういうものかな。あんなものを背負って歩いて、不便だと思う、わたしは」



ξ゚听)ξ 「あ……そういえば、村長たちは、どうして長老のおうちに?」

ミ,,゚Д゚彡 「あ、ああ? あ、いやよ、ちょっとな……」

川 ゚ -゚) 「――ショボンに、重篤なエラーが発生してるみたいなんだ」
43 :1:2007/11/20(火) 16:12:57.38 ID:RnnoZN3b0
ξ゚听)ξ 「え? ショボンさんにエラー?」

Σミ,,;゚Д゚彡 「わ、バカ、どうして言っちまうんだよ」

川 ゚ -゚) 「隠しても仕方ない。いずれ分かることだ」

ξ゚听)ξ 「エラーって、それは、その、」

ミ,,゚Д゚彡 「……。はぁ、しょーがねぇ。あいつ、元からネボスケだったがよ。最近は輪をかけてひでーらしい」

川 ゚ -゚) 「彼も古い。そろそろかもしれない、と思ってな。一応、報告だ」

ミ,,;゚Д゚彡 「だっ、だからよ、お前はどうしてそうストレートに、」

ξ゚听)ξ 「……そうなんだ……ショボンさんが……」



( ^ω^)v 「荒巻ー、ほら、ぶいぶい」

/ ,' 3 v 「…………」

( ^ω^)v 「そうそう、ぶいだお!」


ξ゚听)ξ 「…………」

( ^ω^) 「……お? 『ツン、どうしたの?』」

ξ゚听)ξ 「あ、んーんっ! ばってん! 何でもないよっ!」
46 :1@オワタ……:2007/11/20(火) 16:16:11.42 ID:RnnoZN3b0
( ^ω^) 「……? まあいいお、荒巻とも会えたし、次は――、」


      ガチャッ!


从 ゚∀从 「ちーっす、生麦生米工場長だぞー! ブーンがいるって聞いて……ん? 村長? クーも何やってんだ?」

ミ,,゚Д゚彡 「村長が長老の家にいちゃいけねぇって法があるかよ。それよりどうしたんだお前こそ」

从 ゚∀从 「おお、そうだブーン! ちょっとな、見せたいものがあるんだよ! 来てくれ!」

川 ゚ -゚) 「……高岡、仕事は?」

从 ゚∀从 「そんなもんお前、ユーキューだユーキュー。知ってっか? へっへー、この前ブーンに教えてもらったんだぜー」

ミ,,゚Д゚彡 「……要するにサボりってことかゴルァ」

从 ゚∀从 「だっからちっげーよ、ユーキューだっつってんだろ! ほらブーン、さっさと行くぞ!」

(; ^ω^) 「お!? 『なに!?』」

ξ゚听)ξ 「あ、えっとね、ブーン、来いって」

从 ゚∀从 「ちげーよ! 超ウルトラスペシャルビッグニュースがあるから来い、だ!」

ξ゚听)ξ 「そんなこと言っても、ブーンには分かりませんよ!」

(; ^ω^) 「わっ!? 『はい、分かった、行く!』 だから高岡、引っ張るのやめてー!」
48 :1:2007/11/20(火) 16:19:12.75 ID:RnnoZN3b0
      ズルズル……バタン!


「とにかく早く! こっちだ!」  「わぁっ、ブーンはそんなに早く走れませんよ!」 「痛い痛い、高岡痛いお!」


川 ゚ -゚) 「……行ったな。相変わらず騒がしい」

ミ,,゚Д゚彡 「あんなに堂々とサボるヤツははじめて見たぞゴルァ……」


/ ,' 3 「……」

ミ,,゚Д゚彡 「……まぁ、そういうワケなんだわ。ショボンがな、ちょとヤベぇみてぇだ」

川 ゚ -゚) 「いつ倒れてもおかしくないと、ビコーズが言っていた」

/ ,' 3 「…………」

ミ,,゚Д゚彡 「…………」



川 ゚ -゚) 「? 何をしてるんだ?」

ミ,,゚Д゚彡 「いや、オレもブーンみたいに、タガを介さないでジィさんの言葉が分かるかなって」

川 ゚ -゚) 「結果は?」

ミ,,゚Д゚彡 「サッパリだ。全然分かんねー。何でアイツ分かるんだろうな?」
50 :1:2007/11/20(火) 16:22:16.68 ID:RnnoZN3b0
――ジャンクヤード・7番倉庫――

高岡は、加減も容赦も知らなかった。。
荒巻の家を出、フサギコの家の裏手から村を抜け、何やら機械の墓場のようなところを突っ切った。
――ダッシュで。もちろん、防護服を着て。


( ゚ω゚) 「ぜぇっ! ぜぇっ! 死んじゃう、高岡、ぼく死んじゃうお……」


ようやく高岡が腕を解放してくれた瞬間にぶっ倒れた。


ξ゚听)ξ 「だっ……大丈夫……?」

( ゚ω゚) 「…………『大丈夫』…………」

ξ;゚听)ξ 「全然大丈夫に聞こえないんだけど……」

从 ゚∀从 「ンだよブーン、だらしねぇなぁ」

ξ゚听)ξ 「工場長っ! ニンゲンとヒトは性能が違うんですから、考えてあげないと……!」

从 ゚∀从 「この前ブーン、こういうのはキアイだって教えてくれたぞー?」


――確かに、教えた気がする。


( ゚ω゚) 「(何やってんだお、あの時のぼく……気合なんて言葉、教えるんじゃないお……)」
53 :1:2007/11/20(火) 16:25:12.34 ID:+nYEDvdd0
从 ゚∀从 「ふっふっふーん、まぁ見て驚けよぉ!」


何やら得意げに言った高岡が、目の前の倉庫の巨大な扉に手をかける。
ごごごごごごずずずずずず、と、油の足りない音を立てて、ゆっくりと扉が開かれる。


从 ゚∀从 「じゃじゃーん! どうよ!?」


正直、じゃじゃーん、どころじゃなかった。


ξ゚听)ξ 「……すごい……」


扉の向こうを見つめたまま固まって、ツンがちょっと呆けたような呟きを漏らす。
釣られるようにして、視線を上げる。

酸欠のブラックアウトで、倉庫の中はまるで見えなかった。

ゆっくりと深呼吸をする。
網膜素子の絞りを、慎重に開放していく。

工具の散乱した机や、何かの鉄片や、よく分からない機械の向こう。
――なんとも形容しがたい物体が、そこに鎮座していた。
55 :1:2007/11/20(火) 16:27:13.87 ID:+nYEDvdd0
从 ゚∀从 「どっ、どうだブーン! 気に入ってくれたかな!?」

ξ゚听)ξ 「あ、あのね、ブーン、これ好きかって」


めちゃくちゃ興奮した様子の高岡の言葉を、ツンが翻訳してくれた。
好きか――と言われても困った。
何だこれ。前衛アートな彫刻か何かかな?

だとすれば、何を表現しているんだろう?
真っ黒なカラーリング。前後左右にこれでもか、と突き出した金属板。
特に目を引くのは、左右対象に配置された盾型の金属板と、中心から伸びる剣形のポールのようなものだ。

ウニと言えばウニだし、どことなくツンの顔に似ているような気もしてくる。


从 ゚∀从 「ブーンのために造ってみたぜ!」

(; ^ω^) 「(……お?)」


――高岡のその言葉を引き金に、悪寒によく似たものが、唐突に降りてきた。

もしかして、あの後部のノズルのようなものは。
もしかして、この無意味に多い金属板は。
もしかして、あの中心部の、いかにも人型のものが2体ほど収まりそうな部分は。


(; ^ω^) 「(……まさか…まさか……)」

56 :1:2007/11/20(火) 16:29:48.12 ID:+nYEDvdd0
倉庫に鎮座したオブジェを指さす。声に出して確認するのに、ちょっと勇気が要った。


(; ^ω^) 「『高岡……これ、トリ?』」

从 ゚∀从 「もちろんっ! 名づけてヴァルキリー・高岡ブーンスペシャル!」


「もちろん」以外のところは何を言っているのかよく分からなかったけれど、トリ、らしかった。

やっぱりだ。あの金属板は、信じがたいことに、どうやら翼なのだ。
ひぃふぅみぃ、と数えてみると、前進翼だけで左右12枚、後退翼が18枚、意味がよく分からないのが32枚もあった。

計、64枚の翼。
思わず、「マジかよ……」と呟いてしまった。


从 ゚∀从 「あ! なぁおい、今ブーン、マジっつったぞ!? 気に入ったのかな!?」

ξ;゚听)ξ 「え、いや、それは……どうかな、どっちかって言うと困ってるような……」


(; ^ω^) 「(こんなもんで飛んだら、空中分解しないかお……?)」


いやいや、それも違うな。
そもそも、こんな重くてトロそうなシロモノが飛べるのか?

この構造、まさか、こんなモンでマッハを出そうってことか?
58 :1:2007/11/20(火) 16:31:49.32 ID:+nYEDvdd0
ξ゚听)ξ 「……でも、よくこんなもの造れましたね。トリの勝手な製造って、ご法度ですよね?
       どうやって許可取ったんですか?」

从 ゚∀从b 「はっはっは、許可なんて取れるワケねーじゃん!」

ξ;゚听)ξ 「……はぁ?」

从 ゚∀从b 「当然無許可だ!」

ξ;゚听)ξ 「……はい……?」


この世に、こんなにバカバカしいモノはないんじゃないか、と思う。

常軌を逸した枚数の翼も。剣のようなぶっといポールも。盾のようなでっかいスタビライザーも。
実用性なんてどうでもよかったのだ。
ただ、カッコよかったからつけた。何を賭けてもいい、高岡は絶対にそう言う。


( ^ω^) 「……カラス」


――なのに、ああ、どうしてだ。


从 ゚∀从 「か、からす? からすって何だ?」


――どうして自分は、コイツで飛びたいと思ってるんだ?

59 :1:2007/11/20(火) 16:33:50.83 ID:+nYEDvdd0
ξ゚听)ξ 「……わたしも分かりませんけど、もしかしたら、このトリの名前、かな?」

从 ゚∀从 「おいおい違うぞブーン、こいつの名前はヴァルキリー・高岡ブーンスペシャルだ」


もう二度と、空に上がることはないと思っていた。
カラスに近づいて、なでる。

たったそれだけのことで落ち着いてしまうのだから、自分も底が知れるな、と思う。
所詮自分は、どこまで行っても、何年経ってもパイロットなのか。

いや、そりゃあそうか。
自分は、ただ飛ぶためだけに人生を費やしてきたのだから。
そうしなければ、パイロットになどなれなかったのだから。


ツンが、どこか伺うような顔つきで、

ξ゚听)ξ 「ブーン、笑ってる?」

( ^ω^) 「お……『ついつい』」

ξ゚听)ξ 「ブーン、カラス、好き?」


さぁ、どう答える?
言うのか?
言っちまうのか?

――言っちゃえ!
61 :1:2007/11/20(火) 16:37:10.20 ID:+nYEDvdd0
( ^ω^) 「『はい。好き』」

ξ゚听)ξ 「……そっか」

从; ゚∀从 「……ま、まぁ、ブーンがカラスがいいって言うならそれでいいや……」


――後悔するかな。するかもしれないな。でもいいや。まずは、言わないといけないことがある。


( ^ω^) 「『高岡。ありがとう』」

从 ゚∀从 「え、あ、うん、当然だ、とーぜん! ブーンのタメだからな、がんばっちゃうぜ!」

ξ;゚听)ξ 「いやあの、ですからその前にですね、これ勝手に飛ばしたら怒られるじゃ済みませんよ?」

从 ゚∀从 「ばっか、トリに乗る鷹匠ってのはな、スリルがある方が燃えるんだよ! なぁブーン!?」

(; ^ω^) 「え? は? ごめんお、高岡は早口すぎて、何言ってるのかイマイチ聞こえないお」

从 ゚∀从 「ほら、ブーンもそうだって言ってるって」

ξ゚听)ξ 「勝手にブーンの言語を翻訳しないでくださいっ! どう見ても困ってるじゃないですかっ!」

从 ゚∀从 「違うね、むしろブーンは燃えてるね。アタシにゃ分かるんだよ、ブーンの考えてることが」

63 :1:2007/11/20(火) 16:40:07.01 ID:+nYEDvdd0



その後、ツンを交えて、カラスについての説明を受けた。少しだけ。
なぜ少しだけかと言うと、航空関連の専門用語がまったく通じなかったからだ。

エルロンやエレベーターといった基礎的な単語からして、まったく分からなかった。
翼面積やレイノルズ数、揚抗比といった単語になると、もう絶望的だった。


(; ^ω^) 「(この辺の用語は何とか通じるようにしないと、危なっかしくて飛べたモンじゃないお……)」

从 ゚∀从 「ぱぱぱーっと完成させちまうからよ、楽しみにしておいてくれ!」

ξ゚听)ξ 「……楽しみに待ってろ、って」

( ^ω^) 「『はい、そうする』」

从 ゚∀从 「その分厚くてカッコいい服でも乗れるようにしとくからな!」

(; ^ω^) 「お……『なんて言ってるの?』」


問うと、ツンは防護服を指さして、何かを着込むような仕草をし、カラスを指さした。
ああ、なるほど。確かに、こんな服を着て搭乗するからには、コックピットは特別製じゃないといけないか。


( ^ω^) 「『よろしく。ありがとう』」

从 ゚∀从 「任せとけっ!」

64 :1@ξ///)ξ:2007/11/20(火) 16:42:54.11 ID:+nYEDvdd0
――268番村・道――

結局、「何か自分が役立てることを見つける」ことはできなかった。
それどころか逆に、高岡から嬉しいプレゼントまでもらうことになってしまった。

これでいいのかなぁ、とちょっと思う。
例えばあのカラスだって、ロハで造れるワケはない。自分が毎日もらっている食料にしてもそうだ。
そういえば、この時代の貨幣はどうなっているんだろう?


ξ゚听)ξ 「……ブーン、あのね?」

( ^ω^) 「お? 『なに?』」

ξ゚听)ξ 「あの……えっと、残念なお知らせです」


残念なお知らせ。はて、なんだろう。
残念ながら、お前は村にとって負担なのでどっか行け、とかだったらどうしよう。


ξ゚听)ξ 「あのね、えっとねー……ブーンが、カラスを使う」


そう言って、「ここまでは分かる?」と言ったツンに、うん、と頷く。
するとツンは、ごめんね、と一言ことわって、いきなり防護服の頭をぽかぽか叩きはじめた。
――ちょっと、意味が分からなかった。


(; ^ω^) 「……お? 『カラスを使うと、ツンにぶたれる?』」
66 :1:2007/11/20(火) 16:45:54.60 ID:+nYEDvdd0
ξ゚听)ξ 「ううん、違う」


そう言って、ツンは、少し夕焼け色になってきた空を指さす。
空……?


(; ^ω^) 「『カラスを使うと、空にぶたれる……?』」


いやいや、もっと意味が分からない、それじゃ。
なんだろう。空。


ξ゚听)ξ 「うーん、これは歴史から勉強してもらわないとダメかな……」


ツンが何事かつぶやいて、地面にかがみこみ、その辺に落ちていた棒切れで、何やら図を書き始めた。

中心に、丸。その周囲に、おおよそ放射状に、決して綺麗ではない四角形。
ツンは、中心の丸に最も近い四角形に、268、と書いた。

それで分かった。ああ、これは、地図か。


ξ゚听)ξ 「昔、すごく昔。ニンゲンは、いなくなっちゃいました」
68 :1:2007/11/20(火) 16:48:57.97 ID:+nYEDvdd0
身振り手振りの試行錯誤と幾つもの誤解を乗り越えて、ツンに教えてもらった話をまとめると、こうなる。

今よりもずぅっと昔に、人間は滅亡してしまった。
人間から作り出されたヒトたちは、創造主を失い、混乱した時代に突入した。
たくさんの苦難があったらしい。それは、破壊と略奪が支配する、荒々とした時代だった。

そんな時、ヒトたちは、新たな神を得た。
ヒトたちの社会に秩序をもたらし、なすべきことを与え、人間たちが駆使してきた技術を復興した。

そして神は、自分たちの眠ったこの空のどこかで、今もヒトたちを見守っている。


ξ゚听)ξ 「……それでね」

( ^ω^) 「……? 『ツン、困ってる?』」

ξ゚听)ξ 「ううん、困ってないよ。大丈夫。それでね、」


268番村は、『塔』に一番近い村。
そしてここは、ツンの言葉によれば、少し困ったヒトたちが集まる村、なのだという。


( ^ω^) 「『困ったヒト?』」

ξ゚听)ξ 「うん、わたしたちは、『ポンコツ』って言うけどね」

( ^ω^) 「『ポンコツ』」

ξ゚听)ξ 「そう。ダメな子なんだよ。わたしたちは」
70 :1:2007/11/20(火) 16:51:44.73 ID:+nYEDvdd0
それでね、ここからが、ブーンにとって重要なんだけどね。
そう言って、ツンが続ける。

トリは神の所有物であり、空の防衛機構だ。
そして、ヒトたちが勝手にトリを製造することは、許されていない、らしい。
つまり、カラスを飛ばすことは、ヒトにとっての最大級の禁忌、というわけだ。

なるほど。「空にぶたれる」は、当たらずとも遠からずか。何しろ神さまは、この空のどこかにいるのだから。

――そしてまぁ、それは確かに、残念なお知らせだった。


ξ゚听)ξ 「……ごめんね、ブーン。喜んでたのに」

( ^ω^) 「『いいえ、大丈夫。これは決まっていること、ぼくは守る』」


もちろん、がっかりしなかったワケじゃない。――いや正直、かなりがっかりした。
けれど、意外とすんなり、仕方ないかな、とも思えた。
秩序の中で生きるということは、秩序のために何かを耐えること。それくらいの分別はある。


それよりもショックだったのは、人間が滅亡してしまったことの方かもしれない。

そうか、やっぱり人間は、この地上にはいないんだ。ぼくはもう、一人ぼっちというわけか。
だとしたら、ねぇツン、人間のツン。

キミも、もういなくなってしまったのかな?
73 :1:2007/11/20(火) 16:54:23.35 ID:+nYEDvdd0



気がつけば、もう夜になっていた。


ξ゚听)ξ 「あ……えっと、長く話しすぎちゃったね。ごめん」

( ^ω^) 「『いいえ。悪いのはぼく。もっと言葉を勉強したい。そうすれば、もっと早く分かることができる』」

ξ゚听)ξ 「おぉー」

( ^ω^) 「『? なに?』」

ξ゚听)ξ 「今、すごく長い文を喋った。ブーン、成長してるよ」

( ^ω^) 「おっおっおっ。『ありがとう』」


空を見上げる。この時代に来て、ずっと思っていたことがひとつある。


( ^ω^) 「『夜なのに、星が見えない』」

ξ゚听)ξ 「ホシ? ホシってなに?」


夜が、明るすぎるんだ。
深い紺色に塗りつぶされた空では、月の光すらどこか鈍っていた。
75 :1:2007/11/20(火) 16:57:27.35 ID:+nYEDvdd0
ああ、カラスで飛んで、この明るさの届かない高みへ行ければ、ツンに星を見せてあげることもできるだろうに、なんて。
何のことはない、ツンには冷静なことを言っておきながら、自分はまだ、カラスに未練を持っているらしい。


ぴこ、と、唐突に、網膜素子の隅に、警告が表示された。


( ^ω^) 「……いけない、燃料電池の補給をしないといけないお」

ξ゚听)ξ 「? ブーン、どうしたの?」

( ^ω^) 「『帰らないと。水がなくなってきた』」

ξ゚听)ξ 「あ、そっか。今日は長い時間、外にいたもんね」

( ^ω^) 「『はい。少し不便』」

ξ゚听)ξ 「……あの、ブーン?」

( ^ω^) 「『なに?』」

ξ゚听)ξ 「帰る道、分かる? 一人で帰れるかな」

( ^ω^) 「『できる。でも、なんで?』」

ξ゚听)ξ 「あー、えっと、何て言えばいいんだろ。えっとね、行くところ、あるんだ」

( ^ω^) 「『分かった。先に帰る。夜だから、気をつけて』」

ξ゚听)ξ 「うん、分かった。ありがとう」
78 :1:2007/11/20(火) 17:00:11.86 ID:+nYEDvdd0
――ショボンの家――

ξ゚听)ξ 「お邪魔します……ショボンさん?」

(´・ω・`)  「あ、やあ。来てくれたのか、参ったよ。ははは」

( ´_ゝ`) 「おー? なんだ、ツンも来たのか」

ξ゚听)ξ 「へ?」

(´<_` ) 「ブーンはどうしたんだ?」

ξ゚听)ξ 「あ、えっと、先に帰したけど……流石さんたちも、来てたんだ」

(´・ω・`)  「やー、意外と人望あったんだね、ぼく」

( ´_ゝ`) 「いや、オレはアレだ。まだあんたから2本目の映像アーカイブもらってないからな」

(´<_` ;) 「兄者の場合、マジで言ってそうだから困るんだよな……」

ξ゚听)ξ 「映像アーカイブ?」

(;´・ω・`)  「なんでもない、なんでもないよ」
( ´_ゝ`) 「いやーそれがなぁ、このヒトこう見えて、これがもうナイスなセンスで――」

(;´・ω・`)  「わーもう、だからナイショだってば!」

ξ゚听)ξ 「……よく分かりませんけど、体は大丈夫なんですか?」
81 :1:2007/11/20(火) 17:02:44.13 ID:+nYEDvdd0
(´・ω・`)  「ん、問題ないよ。ピンピンしてる。なのに監視業務から外されちゃってねぇ、ヒマでヒマでさ」

(´<_` ) 「アンタは仕事しててもヒマだヒマだって言ってましたけどね」

ξ゚听)ξ 「はぁ……思ったよりお元気そうで良かったです。村長が長老の家に行ってたから、もう何事かと」

(´・ω・`)  「あのヒト、昔からちょっと大げさだからね。あんまり本気にしちゃダメだよ」

ξ゚听)ξ 「はぁ……」

(´・ω・`)  「それより、何か土産話はないのかな? 病人にはそれが一番なんだけど」

ξ゚听)ξ 「あ、はい、そういえばですね、今日は工場長が――、」





(´・ω・`)  「なるほど、工場長がトリをねぇ。それは一度見てみたいな」

ξ゚听)ξ 「でも、トリの製造はご法度でしょう? なのに勝手にあんなことして、大変なことになっちゃいますよ」

(´・ω・`)  「……そうでもないんじゃないかな」

ξ゚听)ξ 「え?」

(´・ω・`)  「いや、なんでもないよ。
       そんなに目くじら立てることもないんじゃないかな、工場長なりの配慮だろうさ。彼、鷹匠だったんだろう?」

ξ゚听)ξ 「それはそうですけど……」

82 :1:2007/11/20(火) 17:05:15.02 ID:+nYEDvdd0
(´-ω・`)  「そうか。ぼくも無職になっちゃったからね、ブーンと一緒に村を回ってみるのもい…いか…も……」

ξ゚听)ξ 「……? ショボンさん?」

(´-ω-`) 「ぐー」


(´<_` ) 「あー、寝ちまったな」

ξ゚听)ξ 「寝るって……こんな唐突に?」

(´<_` ) 「そういうことだよ。1日の稼働時間がかなり短くなってるのは事実だ。
      ショボンさんはああ言ってるけど、こいつはやっぱり、な」

ξ゚听)ξ 「そう……なんだ…… 」

( ´_ゝ`) 「なぁに、大丈夫だよ。2本目くれないとみんなにバラすって約束してるからな」

(´<_` ;) 「や、だから、兄者が言うとなんか欲望がチラついて微妙だからさ……」

ξ゚听)ξ 「……わたし、帰るね」

(´<_` ) 「おう。ここは任せとけ。ブーンによろしくな」

ξ゚听)ξ 「うん……ばいばい」


      ガチャ バタン。
86 :1:2007/11/20(火) 17:08:14.90 ID:+nYEDvdd0
――ツンの家――

ξ゚听)ξ 「ブーン、ただいまー」

( -ω-) 「ぐー」

ξ゚听)ξ 「わ、ブーンも寝てる。しかも、あの服着たまま……。
        ほらー、こんなの着てたら、何かの拍子に駆動系壊しちゃうよー?」

( -ω-) 「ぐー」

ξ゚听)ξ 「……起きる気配なし。ああもう、しょうがないなぁブーンは。ほら、脱いで……って重っ!?」

( -ω-) 「むにゃむにゃ」

ξ゚听)ξ 「……この服、こんなに重かったんだ……こんなの着てたら、疲労もするよね……」

( -ω-) 「……お? ツン?」

ξ゚听)ξ 「あ、ごめんなさい。起こしちゃったかな」

( -ω-) 「……ずっと……いっしょ……ぐー」

ξ゚听)ξ 「……? 寝ぼけてるの、かな?
       ――ねぇブーン、寝ぼけるってどんな感じ? データホルダーにランダムアクセスする感じ、なのかな?」

( -ω-) 「すぴー」

ξ゚听)ξ 「……ヒトはね、そういうの、よく分からないんだ。そういうのは、エラーじゃないと起きないから。
        ……ブーンなら、ショボンさんのこと、分かってあげられるのかな……?」
88 :1:2007/11/20(火) 17:11:31.78 ID:+nYEDvdd0
―――――― 

古い古い、夢を見た。

ツンと、人間のツンと、ピクニックに行く夢だ。
その日は春で、晴れていた。

久しぶりの休暇が取れて、じゃあどこかに行こうか、と、そういう話だったと思う。
結論から言って、ノープランのドライブは完全に暗礁に乗り上げた。
ツンの運転は何と言うか限りなくアレで、完全に酔った自分は、始終おえおえ言っていた。

地図をページごと間違えるという神業や、数回のパンク等などのアクシデントの果てに、花畑に辿り着いた。


そこで、そうだ。
約束したのだ。

高価な指輪など買えはしなかったから、その辺の花をぶっちぎって作ったリングで。
教会の神父などいるわけもなかったから、テキトーに選んだ樹を立会人に。

健やかなるときも、病めるときも。
喜びのときも、悲しみのときも。
富めるときも、貧しきときも。

ずうっと一緒にいよう、と。


ツンは、笑っていたと思う。

――――――
90 :1:2007/11/20(火) 17:13:44.42 ID:+nYEDvdd0
――次の日の朝・ツンの家――

朝起きたら、夜だった。
夜というか、暗かった。


(; ^ω^) 「(――まさか、寝過ごしたかお!?)」


焦って跳ね起きようと思って失敗する。
四肢が重い。重すぎる。
手に力を入れようとして、ようやく自分が、アホみたいに重い防護服を着たまま眠ってしまっていたことに気づいた。

「跳ね起きる」という爽やかなイメージとは程遠い、陸に打ち上げられてもがく死にかけの魚のような動きで体を起こす。

起こしてみたら――やっぱり朝だった。


(; ^ω^) 「(お? お? なんか意味が分からないお?)」


パサ、と。
禅問答の答えが、床に落ちる。


(; ^ω^) 「(……タオル? あ、そうか、これがバイザーの上にかかってて暗かったのかお……)」


朝っぱらから、何を一人でマヌケなことをしているんだろうなぁ、と思う。
92 :1:2007/11/20(火) 17:16:14.50 ID:+nYEDvdd0
( ∵)  「や。ニンゲンの寝起きは、なんだかずいぶんアレだね、なんだね」

Σ(; ^ω^) 「ぎゃふ! びっ、ビコーズ!? なんで? え?」


――驚くべき答えが返ってきた。


( ∵)  「――『それは、ぼくがツンの家にお邪魔しているから』」


内容じゃない。彼の喋った言語が、だ。


(; ^ω^) 「お? ビコーズ、ぼくの言葉を……?」

( ∵)  「『学習してるのはキミだけじゃない。ぼくもがんばってみた。予想以上に、キミの言語の資料は残っていた』」

( ^ω^) 「そ、そうなのかお? 確かに、ビコーズの言葉、けっこう流暢だお……」

( ∵)  「『褒めてくれてありがとう。でもこれは、タネも仕掛けもある手品。
      ぼくらは、データとタガがある。もう少しで、配布用のディクショナリーファイルが完成する』」

( ^ω^) 「お、そしたら、もしかして」

( ∵)  「『YES。ぼく以外とも、こうしてキミの言葉で話せるようになる。なかなか便利?』」

( ^ω^) 「マジかお!? ビコーズ、ありがとうお!」

( ∵)  「『マジ。お互いのことを知りたいと思ってるのは、キミだけじゃない』」
94 :1:2007/11/20(火) 17:18:21.67 ID:+nYEDvdd0
――あ、いけないビコーズ、そんな言葉は。

それは、この重たい、銃弾も刃も通さない防護服にすら、ヒビを入れる言葉だった。
ああ、そうだったのか、と思う。
思ったらもう、我慢がきかなかった。


( ;ω;) 「――あ、あれ、うあ、ごめん、なんか、あれ?」

( ∵)  「『キミは……そうだ。泣き虫』」


泣き虫か。そうかもしれない。自分は何回、ヒトたちの前で涙を流したっけ。
でも、なんだか嬉しい。

お互いのことを知りたいと思っているのは、自分だけではない。
その言葉は、フサギコがはじめて口にした「マジ」と同じ温度だった。
98 :1:2007/11/20(火) 17:20:34.59 ID:+nYEDvdd0
マジ、か。

あの時は、とにかく意思疎通を図ろうと思って、口をついて出ただけの言葉だったけれど。
今では、自分とヒトたちを結んでくれた、大事な大事な言葉だ。


( ∵)  「『調べた。キミのナミダのことも』」

( ^ω^) 「――え?」

( ∵)  「『感情、というトリガーを持っている。人間は』」

( ^ω^) 「人間は、って、感情ならヒトも持ってるお?」

( ∵)  「『残念ながら、ヒトにそういう概念はない。ぼくたちを動かすものは、プログラム』」

( ^ω^) 「……そうかお?」

( ∵)  「『実に残念』」

( ^ω^) 「……ほら。やっぱり」

( ∵)  「『?』」
101 :1:2007/11/20(火) 17:22:49.42 ID:+nYEDvdd0
( ^ω^) 「ぼくだって、ヒトのことを色々見てきたお。キミたちにも、感情はあると思うお。
      現に今、ビコーズは残念だって言ったお? それも立派に感情だお。人間が言うんだから間違いないお」

( ∵)  「『そうか……』」


ビコーズはそう言って、しばらく黙った。

――沈黙の長さに比例して、なんだか少し恥ずかしくなってくる。
少し、クサいことを喋りすぎただろうか。何しろ、久々にストレートな言葉で会話できる相手だったから。

でも、少なくとも、出まかせのウソじゃないと思う。
ヒトは涙を流さないのかもしれないけれど、そんなものは、凄く表面的なことだ。


( ∵)  「『そうだといい。うん、そうだといい』」


そういう結論、らしい。


( ^ω^) 「ありがとう、ビコーズ。あ、でも共用語の勉強は止めないお。それはそれで楽しいし」

( ∵)  「『うん、それがいい。知っていて損になることはないし、キミがぼくらを理解する手助けにもなるかも』」

( ^ω^) 「うん、あ、えと、『ありがとう』」

( ∵)  「いや、自分のためさ。ぼくらは、キミのことが羨ましいんだ。多分ね」

(; ^ω^) 「う……ごめん、全然分かんないお……」
103 :1:2007/11/20(火) 17:25:21.52 ID:+nYEDvdd0
やがて、たん、たん、と軽い音がして。
階上から、ツンが起き出してきた。


ξ;゚听)ξ 「おはようブーン……ってわひゃぁ!? ビコーズさん!? なんで!? え!?」

( ∵)  「『……キミら、似たり寄ったり』」

(; ^ω^) 「っていうかビコーズ、ツンにも連絡してなかったのかお……」

ξ;゚听)ξ 「え? なに? え? 起きたらビコーズさんがウチにいて、ブーンの言葉で喋ってる?」

( ∵)  「ここしばらく、家にこもりっきりでデータベース漁ってたんだ。なんか久しぶりだね」

ξ゚听)ξ 「は、はぁ、お久しぶりです。それであの、ビコーズさん、言葉は?」

( ∵)  「うん、あ、そうだ。パイロット版のディクショナリーファイル、キミに送りつけていいかな? テストユーザってことで」

ξ゚听)ξ 「え! そんなの作ってたんですか!」

( ∵)  「ぼくなりに色々考えもするさ。で、どう? どんなバグが入ってるか分からないけど」

ξ゚听)ξ 「そんなこと言って、ビコーズさんの作ったプログラムはいつも完璧じゃないですか。お願いします、ぜひ!」

( ∵)  「分かった。割と違和感なく話せたし、使ってみたところ異常はないけど……まだ、他のヒトには広めないでね」

ξ゚听)ξ 「分かりました! 分かりましたから、早く!」

(; ^ω^) 「(……なんか、全然会話に入り込めないお……)」
107 :1:2007/11/20(火) 17:27:32.73 ID:+nYEDvdd0
ツンのしてくれていた気遣いに、今さら気づく。
そうか、彼女は自分のために、平易な単語を選んで、話すペースもゆっくりにしてくれていたのだ。

――何が、ヒトの考えていることが分かる、だ。
まだまだ、全然分かっていないじゃないか、自分は。


ビコーズが、背中にある自分のタガに器用に手を伸ばし、コードをツンの胸につなぐ。


(; ^ω^) 「(見ようによっては、なんかちょっとエロいお……)」


……いやまぁ、もちろん、本人たちにそんなつもりはないんだろうけど。



ξ゚听)ξ 「適用……っと。『あーあーあー、テステス。本日ハ晴天ナリ、本日ハ晴天ナリ』」

(; ^ω^) 「……ビコーズ、なんか参考にしてるデータが微妙に古くないかお?」

( ∵)  「『贅沢言ってられないかった。片っ端から調べた』」

ξ゚听)ξ 「わ! ホントだ! ブーンの言ってること分かる! 喋れる!」

( ∵)  「落ち着いてツン、それ共用語だから」

ξ゚听)ξ 「あ、いけない。えっと、『これでいい?』」
109 :1:2007/11/20(火) 17:29:35.22 ID:+nYEDvdd0
これはすごいな、と奇妙に感心した。そうか、タガはあんなこともできるんだ。


( ^ω^) 「感度良好ですお、どうぞ」

ξ゚听)ξ 「『! すごい、すごいよビコーズ! ありがとう!』」

( ∵)  「『予想外に好評。じゃあ、ツンはしばらくa8>15#?=!』」

(; ^ω^) 「……お?」

( ∵)  「『ごめん、変換エラー。完璧に言葉を収集できたワケじゃないから』」

ξ゚听)ξ 「あ、それで、しばらく、なんですか?」

( ∵)  「うん、しばらくそのファイルを使ってみて、レポートしてほしい。みんなに頒布できるモノを作りたいからね」

ξ゚听)ξ 「分かりました!」



( ∵)  「『そうだ。いけない、本当の仕事を忘れるところだった』」

( ^ω^) 「お? 本来の仕事?」

( ∵)  「『悪いけど、言語の方はついで。本当の仕事が別にある』」

ξ゚听)ξ 「『? なに、ビコーズ?』」
112 :1:2007/11/20(火) 17:32:30.93 ID:+nYEDvdd0
( ∵)  「あー……実はね。ショボンのことなんだ」

ξ゚听)ξ 「!? どうかしたんですか!?」

( ∵)  「いや、どうもしない。とりあえず安心していいよ。ところでブーンにショボンのことは話してあるの?」

ξ゚听)ξ 「あ……いえ、まだです」

( ∵)  「そうか。じゃあ、ぼくもそのように話そう」


( ∵)  「『ブーン、ショボンたちと、野球どう?』」

( ^ω^) 「どう? って、野球しないかってことかお?」

( ∵)  「『そう』」

( ^ω^) 「い、いやまぁ、いいけど、野球ってみんな知ってるのかお……?」

( ∵)  「『知らない。キミの資料を調べる過程で、ぼくが見つけた。でも、みんなもデータを共有して知ることができる。
      野球のデータをまとめたファイルを作った。これで、みんなできる』」

( ^ω^) 「マジかお……まさか、この時代に来て野球をするとは思わなかったお……」

( ∵)  「『どう?』」

( ^ω^) 「……面白いと思うお。ちょっと人数足りない気がするけど」

( ∵)  「『試合にする必要はない。みんなで守って、一人が打つ』」
119 :1:2007/11/20(火) 17:35:34.20 ID:+nYEDvdd0
( ∵)  「『手始めに、ツンに野球を教えてみる』」

ξ゚听)ξ 「『は、はい……? やきゅう?』」

( ∵)  「『いくよ』」


ξ゚听)ξ 「『あ……分かった』」

(; ^ω^) 「(あっさり分かるんだなぁ……)」

ξ゚听)ξ 「『面白そう。やってみたい』」

( ^ω^) 「いいお、みんなでやってみるお」


ξ゚听)ξ 「……それはいいんですけど、ショボンさん、こんなことして大丈夫なんでしょうか?」

( ∵)  「うん、別に身体機能には問題ないし、エラーが出そうならぼくもフォローするからね」

ξ゚听)ξ 「……そうですか」

( ∵)  「いやね、ここに来る前にショボンの家に立ち寄ってみたら、起きててさ。色々話したら、ぜひやりたいって言うから。
      もうみんなにも話を通しててね。高岡なんて大慌てで道具を用意してる。
      正直、ブーンに断られたらどうしようかと思ってたよ」

ξ;゚听)ξ 「ビコーズさんって、思ったよりアバウトなんですね……」

( ∵)  「はっはっは」
124 :1:2007/11/20(火) 17:37:47.74 ID:RnnoZN3b0
( ^ω^) 「……いま、ビコーズ、笑ったかお?」

( ∵)  「『え? どうして?』」

( ^ω^) 「そういう感じがしたお」

ξ゚听)ξ 「『どうして分かる? ビコーズ、表情の変化が少ない』」

( ∵)  「『……なんだかそれも失礼』」

( ^ω^) 「ふっふー、ビコーズが言ってたことだお。お互いを知ろうと思ってるのは、キミたちだけじゃないお」

( ∵)  「『……なるほど。村長は不思議がっていた、ブーンのそういうところ』」

( ^ω^) 「人間さまをナメるなお、こちとら何百人の人間にもまれて生きてきたお。顔色伺うのは得意だお」

ξ゚听)ξ 「『色々、ブーンのことも聞かせてほしい』」

( ^ω^) 「分かったお。そのうち。――じゃあ、そろそろ行くかお?」

( ∵)  「『ちょっと待った』」

( ^ω^) 「お?」

( ∵)  「『チーム名が決まってない。野球の』」

(; ^ω^) 「おっおー、そんな細かい……」

( ∵)  「『名前は大事。それに、こういうのはディテールが大切』」
127 :1:2007/11/20(火) 17:40:19.75 ID:RnnoZN3b0
( ^ω^) 「えーと、じゃあ……」


少し考えて、すぐに思い至る。
268番村。なんだか、何かを思い起こさせる数字だな、とは、ずっと前から思っていたのだ。


( ^ω^) 「リャンウーパーズ」

ξ゚听)ξ 「『? なにそれ?』」

( ^ω^) 「麻雀っていうテーブルゲームの用語だお。リャンウーパーっていうのは三面待ちで……」

( ∵)  「『ごめん、聞き取り側の変換エラーだらけ、言ってること、よく分からない』」

( ^ω^) 「今度教えてあげるお。ともかく、リャンウーパーっていうのは、268のことだお」

ξ゚听)ξ 「『いいと思う。異議なし』」

( ∵)  「『……なにか腑に落ちない。でも異議なし』」

( ^ω^) 「じゃあ、リャンウーパーズ、行くかお!」

ξ゚听)ξ 「『おー』」

( ∵)  「『おー』」
132 :1:2007/11/20(火) 17:42:46.30 ID:RnnoZN3b0
――268番村・広場――

広場に集まったみんなに、ビコーズが、タガを通じて野球を教えている。
彼らは例外なく、野球を一瞬で理解していった。

なんというか、ホントに便利だな、と思う。自分にもちょっとほしい。


(´・ω・`)  「やーやー、じゃあシマっていこーかー!」

( ´_ゝ`) 「うす!」

(´<_` ;) 「……なんか、ショボンさんが言うとシマるものもシマらないような……」


4〜5人の寒々しい野球を想像していたのに、数えてみれば10人の大所帯だ。
――そうか、と改めて実感する。自分には、10人もの友だちがいたのか。

マウンドには、クーが立った。
監督席の荒巻を除けば、野手は8人。打者が1人。充分、野球ができる人数だった。

第一打席に立った流石(兄)が吼える。


( ´_ゝ`) 「1番! ショート! 石井琢朗!」

(´・ω・`)  「じゃ、キャッチャーのぼくは谷繁か」


(; ^ω^) 「(……なんか、ぼくも知らない野球データが……ビコーズ、キミは何を教えたんだお……)」
137 :1:2007/11/20(火) 17:45:13.95 ID:RnnoZN3b0
川 ゚ -゚) 「……全盛期の川村の球だ、このコースなら打たせて取れるっ」  (シュビッ

ミ,,;゚Д゚彡 「うおお!? 外角高めのはずなのに、ボテボテの凡打に!?」


从 ゚д从 「セカンド! 行ったぞ!」

ξ゚听)ξ 「ちょぉっ! じゃんぷっ!」  (バシッ!


(; ´_ゝ`) 「……なぁ、よく考えたら、アレだよな。ランナーが出ると守備がどんどん穴だらけになっていくよな」

(´<_` ;) 「キアイでカバーだ兄者、ラクしたきゃヒットを打つしかない」


( ^ω^) 「そういえば、バットとボールってどうやって用意したお?」

( ∵)  「『バットは金属を削りだした。ボールは、ゴムの塊に人工皮膚を貼り付けた。高岡が用意した』」

(; ^ω^) 「マジかお……このボール、ちょっとマッドな逸品だお……」


(´・ω・`)  「……伝家のマシンガンを抜く時が来たようだね……打つ!」  (カキンッ!

/ ,' 3 v 「…………」  (ブイ


             ………………。

                          ………………。
142 :1:2007/11/20(火) 17:47:32.21 ID:RnnoZN3b0



最終的には、1割を切った。
もちろん、自分の打率の話だ。


(; ^ω^) 「ぜーはー」

( ∵)  「『ブーン、疲れた?』」

(; ^ω^) 「おっおっおっ……それもあるけど、キミら本当に野球を知らなかったのかお……?
       昨日今日に野球を始めた人の球じゃないお……」

( ∵)  「『それはそう。ぼくらは、実質的に野球暦50年くらい、ということになる』」


そう言ってビコーズは、自分の背中にあるタガを、どこか誇らしげに指さす。
なるほど、野球のデータというのは、ルールや単純なデータだけに留まらないワケだ。
確かに、アレは間違いなくプロの動きだった。

それは分かったし、素晴らしいことではある。
でも、「ズル」という概念も知ってもらわないとな、と思う。


( ^ω^) 「(――まぁ、楽しかったから、いいお)」


うん。まぁそうだ。楽しかった。
この重たい防護服を忘れて、即席のフィールドを、ヒトらと一緒に駆け回ってしまうほどに。
146 :1:2007/11/20(火) 17:49:38.57 ID:RnnoZN3b0
( ´_ゝ`) 「ヒーローインタビューです。防御率2.21、投球数382球、23連続奪三振を記録しましたクー投手です」

川 ゚ -゚) 「ベストを尽くした。永久に不滅だ」


どこかから持ってきた、テキトーな箱を即席のお立ち台にして、ヒーローインタビューが始まる。
広場の隅に体育座りで腰掛けて、それをボーっと眺めていた。


(; ^ω^) 「(芸が細かいお……あんなことまで……)」

(´・ω・`)  「やぁ」

( ^ω^) 「おっおっおっ、『ショボン、お疲れさま』」

(´・ω・`)  「うん。今日はありがとう」

( ^ω^) 「『ぼくも楽しかった。野球なんて、長い間やらなかった』」

(´・ω・`)  「そうか。共用語、うまくなったね」

( ^ω^) 「『ありがとう。嬉しい』」

(´・ω・`)  「楽しみで体を動かす、という概念は、ぼくらにはなかった。野球、ぼくらも楽しいと思ってる――伝わるかな?」

( ^ω^) 「『はい。大丈夫、分かる』」

(´・ω・`)  「それはよかった。きっとこれから、流行るよ。野球は」

( ^ω^) 「『ショボンも、また一緒にやる』」

147 :1:2007/11/20(火) 17:51:56.25 ID:RnnoZN3b0
(´・ω・`)  「そうか。そうだね、またやろう」

( ^ω^) 「『チーム、できたばかり。まだ強くなる』」

(´・ω・`)  「(……そうか。経験の考え方も、ヒトと人間では異なるんだな。
        タガのない彼らは、より上を目指して、長時間の経験を積む、か)」

( ^ω^) 「『……? ショボン?』」

(´・ω・`)  「(――そんな時間が、あったらよかったな。ぼくにも)」


違和感を感じる。
いつも、ちょっと困ったように寄った彼の眉は、やっぱり今も八の字で。
もちろん、彼の目から、塩水なんて流れてはいないのに。


(´・ω・`)  「ツンを頼むよ。村長やクーは、ほら。ちょっと頭がカタいだろう? キミなら、分かってあげられると思うんだ」


早口の共用語で、何かを言ったショボンが。
――どうして、泣いているように思えるんだろう。


( ^ω^) 「『……ショボン? キミはなにか変、うまく言えない、でもなにか』」

(´-ω・`) 「(ほら、ぼくの見込み通りだ。言葉なんかなくても、キミ…は……ヒ……気……)」


(´-ω-`)
155 :1@あと30レスくらいあります:2007/11/20(火) 17:55:28.86 ID:RnnoZN3b0
いきなりショボンが目を閉じて、何も喋らなくなった。


(; ^ω^) 「『ショボン!? ショボン!? みんな、ちょっと!』」


イヤな予感に突き飛ばされて張り上げた大声に、何事か、とみんなが寄ってくる。
フサギコが、自分の腕の中で動かなくなっているショボンを見つめる。
左右にゆっくり首を振る。自分の血の気が抜ける音が聞こえた。


ミ,,゚Д゚彡 「――まぁた眠ってやがる」

(´-ω-`) 「ぐー」


抜けた血の気は、1秒で戻ってきた。


(; ^ω^) 「『は?』」

ミ,,゚Д゚彡 「ショボンはなぁ、昔からすーぐ寝っこけるクセがあってよ。
       ったく、一応は村の危機管理担当なんだけどな。まぁ、ポンコツ村なんざぁこんなもんかもな、ははは」


スラングの多すぎるフサギコの言葉は、自分にはよく分からなかった。
翻訳を求めて、ツンに視線を投げる。


ξ゚听)ξ 「あ、えっと、あ、つまりね、ショボンさんは、いつもこう。だから大丈夫」
159 :1:2007/11/20(火) 17:57:42.12 ID:RnnoZN3b0
がくぅ、っと、肩の力が抜けた。


(; ^ω^) 「『人騒がせ』」

ξ゚听)ξ 「ホントだね、あはは……」

(; ^ω^) 「『それから、フサギコの言葉、早くて難しくて分からなかった。残念』」

ξ゚听)ξ 「大丈夫、すぐに慣れるよ、ブーンなら」

ミ,,゚Д゚彡 「ははは、悪ぃな、クセでよ」

川 ゚ -゚) 「(…………)」

( ^ω^) 「『すぐに理解可能になってみせる』」

ミ,,゚Д゚彡 「できっかなー? オレさまの言語は年季入りだぜ」

(; ^ω^) 「『……早くもよく分からない』」

ミ,,゚Д゚彡 「がはは、まぁゆっくりやれや」

160 :1:2007/11/20(火) 18:00:17.96 ID:RnnoZN3b0
(´<_` ) 「それじゃ、ショボンさんは、オレらが家まで運ぶか」

( ´_ゝ`) 「えー」

(´<_` ) 「えーじゃありません、一応同じ部署の先輩なんだから」

( ´_ゝ`) 「ち……しょうがねぇなぁ」

ξ゚听)ξ 「よろしく頼みます」

(´<_` ) 「分かってるよ。ほら兄者、行くぞ」

( ´_ゝ`) 「へいへいほー」


ミ,,゚Д゚彡 「んじゃぁ、オレも、ジィさん連れて帰るからよ」

( ∵)  「ぼくも帰る。ブーンの言語をまとめないといけないから」

ξ゚听)ξ 「あ、はい。お疲れさまでした」

( ^ω^) 「『はい。ばいばい』」


そういえば、今日は高岡がずいぶん大人しいなぁ、と思って周囲を見回すと、もう彼女の姿がなかった。
仕事をしに帰ったのか、或いは――カラス、だろうか。

ちゃんと話をしないといけないなぁ、と思う。
ご禁制を破ってまで造ってくれているのは嬉しいけれど、やっぱり自分は、飛ぶことはできないだろうから。
164 :1:2007/11/20(火) 18:02:48.96 ID:RnnoZN3b0
さぁ、じゃあそろそろ帰ろうか。
えっちらおっちら、ノロノロした動きで、比喩でなく重たい体を起こす。

どぉっこいせぇー、っと立ち上がった瞬間に、背後から声がかかった。


川 ゚ -゚) 「村長は、平易に説明をすることもできた。ただ逃げただけだ」


ツンかと思った。今日のMVP、クーだった。


( ^ω^) 「……お? 『クー、お疲れさま』」

川 ゚ -゚) 「村長の言うことも分からなくはない。けれど、それはフェアでないとわたしは考える」

(; ^ω^) 「……お? 『ごめん、何を言っているのかよく』、」

川 ゚ -゚) 「だっておかしいだろう。村長がもしキミに敬意を払っているのなら、ウソをつくことは矛盾する」

(; ^ω^) 「……クー……?」


クーはなんだか、少し怒っているように見えた。
いや分からないか。実は少し、クーの気持ちを推察するのは苦手だ。
彼女はある意味、荒巻よりもよっぽど、考えていることを読ませてくれない。


川 ゚ -゚) 「ブーン、キミに話がある」
167 :1:2007/11/20(火) 18:04:59.53 ID:RnnoZN3b0
最後の言葉だけ、クーは、ゆっくり、はっきりとした発音で喋った。
話、って何だろう?


(; ^ω^) 「『話?』」

川 ゚ -゚) 「フサギコはね、ウソをついている」


なにか、絵本を読み聞かせでもするように、ゆっくりと。


川 ゚ -゚) 「――ショボンは、もう長い時間動いていられないんだ」


――微妙な線だった。
ヘンに頭が冷静になっていた。
どうとでも解釈できる言葉だな、と思う。


ξ゚听)ξ 「クー」

川 ゚ -゚) 「どうした? 止めるか? キミもウソをつくのか?」

ξ゚听)ξ 「……ウソがいいことだとは、思わない。でも、不用意に言うことでもないでしょう?」

川 ゚ -゚) 「不用意だと、本当に思うのか? キミも村長も、いささか欺瞞が過ぎないか?」

ξ゚听)ξ 「どうして、そんなこと言うの?」
170 :1:2007/11/20(火) 18:07:37.27 ID:RnnoZN3b0
川 ゚ -゚) 「ここのところの村長は、なにか少し変わった。別に変わるなとは言わないよ。
      けれどそれは、違う方向だと思う。わたしたちのやり方じゃない」

ξ゚听)ξ 「わたしたちのやり方ってなに? それは、ブーンが来たからってこと?」

川 ゚ -゚) 「そうだ。村長やキミだけじゃない。何か、村全体がそうだ。――驚くべきことにね、わたしもなんだよ。
       野球なんて、ニンゲンの真似事を、本気で楽しいと思ってしまったんだ」

ξ゚听)ξ 「……何が言いたいの?」

川 ゚ -゚) 「ブーンは危険だ。わたしだって排除すべしとは言わない。しかし、闇雲にニンゲンの真似をすることは、」

ξ゚听)ξ 「それが! それが、ショボンさんのことをブーンに教えるのと、何の関係があるの!?」

川 ゚ -゚) 「だから、それがわたしたちのやってきたやり方――、」


( ^ω^) 「『クー。教えてほしい。ショボンに、何が起きているのか』」


言い争いをしている2人に割り込んで、そう言った。
なるべく抑えて言ったつもりなのに、予想以上の威力があった。
2人が、ほとんど同時にくるり、とこっちを向く。

口を開いたのは、クーだった。


川 ゚ -゚) 「――ショボンは、もうすぐ止まる」

( ^ω^) 「『それは、どういう意味?』」

171 :1:2007/11/20(火) 18:09:44.17 ID:RnnoZN3b0
川 ゚ -゚) 「そのままの意味だ。ショボンには、時間がない。いつ壊れてもおかしくない」

( ^ω^) 「『…………』」

川 ゚ -゚) 「フサギコは、キミにウソをついた。ショボンのことを隠した」


普段は読み取りづらいクーの気持ちが、今ははっきりと分かる。
彼女の声色に、態度に、表情に浮かぶのは、満足、だ。

それは、フサギコのウソを正せた満足だろうか。
それとも、ざまぁみろ、と、嘲笑しているのだろうか。自分を。

あんな稚拙な、おままごとのようなもので、コミュニケーションと呼べるとでも思ったか、と。
気持ちが通じたような錯覚をして、手前味噌な自己満足に浸っているだけではないか、と。
お前なんて所詮は――、


思考をねじ切った。
それは、クーの言葉などではないからだ。
その正体は、自分自身の中に抱えている不安に他ならない。

そんなものをクーに投影してはいけない。
それよりも、彼女に言うべきことはヒトツだ。


( ^ω^) 「『教えてくれて、ありがとう。クー』」

川 ゚ -゚) 「あ……、」
177 :1:2007/11/20(火) 18:12:48.00 ID:RnnoZN3b0
どうしてフサギコは、自分にウソをついたのか。
そのことについては考えるまい、と思う。


川 - ) 「――だから、イヤなんだ」

ξ゚听)ξ 「クー?」

川 - ) 「だからイヤなんだニンゲンはっ! 何だこれ、何なんだ!? なぁブーン、キミは知っているのか!?
       わたしの胸郭ユニットの奥の、このおかしな熱量は何だ!?」

ξ;゚听)ξ 「クー? ちょっと落ち着い――」

川 - ) 「ニンゲンなんか嫌いだ! 大嫌いだ!」


クーが何かをぼくに叫んで、走っていってしまう。
「大嫌いだ」と、その部分だけはよく分かった。

――クーがそうした理由についても、今は考えない。


( ^ω^) 「…………」

ξ;゚听)ξ 「『ブーン、気にしないでほしい。クー、ちょっとヘンだった。何か理由がある』」


ツンが、自分の言葉で話しかけてきてくれる。でも、ちょっとそれは的外れだった。
そんなことはいいのだ。今、なによりも悲しいのは。
ショボンの、友だちの危篤に瀕して、あまりに無力な自分だった。
180 :1:2007/11/20(火) 18:15:21.85 ID:RnnoZN3b0
ああ、自分はひどいことを言ってしまった。
また一緒に野球をしよう、なんて。デキの悪いドラマだ、これじゃ。


ξ゚听)ξ 「『ブーン、聞いてほしい』」

( ^ω^) 「……何かお?」

ξ゚听)ξ 「『フサギコ村長もわたしも、ショボンさんのことを隠していた。ごめんなさい。
        でも理由もあって、』」


ツンの言う理由は、大体のところで理解できる気がする。
自分たち人間だってそうだ。そんな優しいウソを、幾億も重ねてきたんだから。

どこまでも意地悪なのは、よっぽど自分の方だった。

この、どうしようもなく卑しい満足感を、ぶちまけてしまいたい。
やっぱりそうだ、と。ショボンのあの態度に何かを感じ取れた、そんなことに、どこか自分は、誇りすら抱いてしまっている。


( ^ω^) 「分かってるお。ツンは、別に悪気があって隠したんじゃないお?」

ξ゚听)ξ 「『うん……それに、ショボンさん、楽しそうだったと思う』」


そんな優しいことは、言わないでくれ。
もっと言ってしまおう。自分は、クーにすら、どこか勝ったつもりでいるんだ。
クーの抱いた脆弱な満足感と不安を、どこまでもどこまでも、執拗に理解して。
182 :1:2007/11/20(火) 18:17:54.80 ID:RnnoZN3b0
ビコーズは、人間の感情を羨ましいと言った。

けれどビコーズ、キミは分かっているだろうか。
それは決して、キミの羨ましがるような、綺麗なものだけじゃないんだ。


( ^ω^) 「うん。ありがとう」

ξ゚听)ξ 「『……そろそろ、帰ろう』」


ツンが手を差し伸べてくれる。
その手を取る。

二酸化炭素と酸素の比率が逆転した大気も変わらない。
ヒトのツンの手が、人間よりもずっと冷たいことも変わらない。

そのはずなのに、なんだか今のツンの手は、自分よりもよほど暖かい気がした。


( ^ω^) 「……Our lies are dreadful than your fibs. ...by far.」

ξ゚听)ξ 「『……? ごめん、変換エラー。よく分からない』」

( ^ω^) 「ううん、なんでもないお」


言葉が伝わらない方がいいと思ったのは、この時代に来てはじめてだ。
最低だと思う。
自分は、こんなことで、少しでも罪滅ぼしになる気がしている。
187 :1:2007/11/20(火) 18:20:54.50 ID:RnnoZN3b0
――夜・ジャンクヤード7番倉庫――

从 ゚∀从 「うおおぉぉぉぉ……ブーンにゃ大見得切っちまったけどよぉ……。
       どうすりゃいいんだ……部品は足りねぇ、飛びゃぁご法度。ぐおおお……」

从 ゚∀从 「……合わせる顔がねーぜ、ったくよぉ……ブーンはあんなに嬉しそうな顔するしよぉ……」

从 ゚∀从 「……はぁぁぁ……どうしよう……やっぱり、わた、じゃない、アタシにゃ無理だったのかよ……?」


      ゴンゴン


从 ゚∀从 「……ん? 誰だ?」


      ゴゴゴゴゴズズズズズズ


(´・ω・`)  「やぁ、工場長。重いねこの扉」

从 ゚∀从 「……ショボン? こんな遅くになんだよ? アンタ、一応安静にしといた方が――、」

(´・ω・`)  「キミにまで病人扱いされると気持ち悪いな。それに、あれから一眠りしたら目が冴えてしまってね」

从 ゚∀从 「そうなのか。いやそりゃいいけどよ、情報技師長サマが何の用だっつのさ」

(´・ω・`)  「あ、その役職まだ覚えてたんだ。いやー自分でも忘れてたね。
       それよりさ、聞いたよ? ダイオードさんとツンから。トリを造ってるって?」
191 :1:2007/11/20(火) 18:23:28.68 ID:RnnoZN3b0
从 ゚∀从 「ンだよぉ、笑いにきたのか? あーそーだよ、無鉄砲にやったら何一つできやしねー」

(´・ω・`)  「はっはっは」

从 #゚∀从  「帰れこんちくしょう!」

(´・ω・`)  「いやいやごめん。キミにとって、いい話を持ってきたんだ」

从 ゚∀从 「……いい話?」

(´・ω・`)  「それも2つもね。気分転換にどうだい、壊れかけの話を聞いてみないか?」







从 ゚∀从 「……マジかよ?」

(´・ω・`)  「マジだ。そうさ、キミのカラスは、きっと夜なら飛べる」

从 ゚∀从 「そっちじゃねえ、2つ目のほうだ」

(´・ω・`)  「ああ、そっちもマジだよ」


(´・ω・`)  「――ぼくのパーツを使ってくれ。キミのカラスに」
195 :1:2007/11/20(火) 18:25:30.45 ID:RnnoZN3b0
从 ゚∀从 「……でもよ、やっぱりならねぇよ。そんなことしたら、」

(´・ω・`)  「だからいいんだって。ぼくにだって下心アリなんだしさ。
        だいたい、このまま時間を待ってオサラバしたら、ぼくはリサイクル工場送りだ。
        そしたら、キミは、パーツをどこから手に入れるつもりなのかな?」

从 ゚∀从 「…………」

(´・ω・`)  「これは、ぼくのお願いでもあるよ。飛ばせて欲しいのさ。ぼくは、ブーンも好きだしね」

从 ゚∀从 「…………マジか?」

(´・ω・`)  「マジ。――マジって、いい言葉だね」





/ ゚、。 / 「……本当にやるの?」

(´・ω・`)  「ああ、頼むね」

从 ゚∀从 「……ショボン、今のうちに言っとくぞ。ありがとうよ」

(´・ω・`)  「なんのなんの。ぼくも今のうちに言っとこう。さよなら」


/ ゚、。 / 「……じゃあ、やる」

(´・ω・`)  「……あ、痛くしないでほしいな。それだけ、最後のお願いだ」
201 :1:2007/11/20(火) 18:28:03.81 ID:RnnoZN3b0
――次の日の朝・ツンの家――

ξ゚听)ξ 「『ブーン、起きて』」

( ^ω^) 「……お? 『おはよう、ツン』」

ξ゚听)ξ 「『……あの。ショボンさんが、今朝――、』」


機能停止した、らしい。
意外と早かったな、という感想しか持たなかった。

「いつでもおかしくない」という言葉は、いつだって駆け足でやってくる。


( ^ω^) 「……そうかお」

ξ゚听)ξ 「『うん。今は、村長の家で最終確認をしてる。一緒に行こう』」

( ^ω^) 「うん、そうするお。すぐに準備するから」


10分かけて、がちゃがちゃ防護服を着込みながら考えたのは。
ヒトも、死ぬんだな、と。
今さら過ぎる、そんなことだけだった。
203 :1:2007/11/20(火) 18:30:06.32 ID:RnnoZN3b0
――村長屋敷――

( ∵)  「タガに送ったpingが、2時間経っても一切帰ってこない。――確認で、いいと思うよ」

ミ,,゚Д゚彡 「……そっかよ……」

( ∵)  「……回収屋、呼んでくるね」

ミ,,゚Д゚彡 「……そうだな。頼むわ」

/ ,' 3 「…………」


(´-ω-`) 「…………」


(´<_` ) 「……いつ見ても不思議なものだな。昨日はあんなに動いていたのに。オレたちも、いつかこうなるんだろうが」

( ´_ゝ`) 「……ばっきゃろー、みんなにバラしちまうっつったろーが……」


        ガチャ


ξ゚听)ξ 「村長、来ました。ブーンも一緒です」

( ^ω^) 「『来た』」

ミ,,゚Д゚彡 「おう。今しがた、ビコーズが確認したよ。――ダメだってよ」
205 :1:2007/11/20(火) 18:32:39.84 ID:RnnoZN3b0
共用語のフサギコの言葉を理解しなくても、その場の雰囲気で分かった。
硬そうなベッドに、ショボンは目を閉じて横たわっている。

気味が悪いくらいに、頭の中はからっぽだ。

そうか、ショボンはもう起きないのか、と思っても、それ以上は何も浮かんでこない。


ξ゚听)ξ 「ショボンさん……」

( ^ω^) 「…………」


泣きはすまいと思っていたし、実際、涙は出てこない。
今さら、どんなツラで泣けばいいのか分からなかったからだ。


( ^ω^) 「『フサギコ、お願いがある』」

ミ,,゚Д゚彡 「ん? なんだ?」


ただ、昨日のうちからやろうと思っていたことを、プログラムの自動さで組み立てた。


( ^ω^) 「『ショボンの髪の毛、少しもらっていい?』」

ミ,,゚Д゚彡 「髪ぃ? ――まぁいいがよ、どうすんだそんなモン」
213 :1:2007/11/20(火) 18:35:21.80 ID:RnnoZN3b0
――268番村・広場――

昨日、みんなで野球をした広場に、ひとりで立っていた。

ショボンの体は、これからリサイクル工場に送られ、使える部分は抜き出して、使えない部分はスクラップにするのだという。
本当は体丸ごとがよかったけれど、そうもいかないから、せめて髪の毛だ。


( ^ω^) 「えっさ、ほいさ」


フサギコに借りたスコップで、少し深めに穴を掘る。
これだけ掘れば、多少の風化には耐えられるかな、と思ったくらいのところで手を止める。

紙に包んだ遺髪を、穴の中にそっと置いた。

ごめんショボン。ぼくには、これくらいのことしかできそうにない。


( ^ω^) 「よいしょ、よいしょ」


掘ったばかりの穴を埋め戻していく。
ああそうだ、すっかり忘れていた。碑はどうしよう?
今はまだ掘り返した土が新しいけれど、こんなのすぐに分からなくなる。


「何をしているんだ」
216 :1:2007/11/20(火) 18:38:02.11 ID:RnnoZN3b0
背中から、急に声がかけられた。
振り向かずとも声で分かった。クーだ。


( ^ω^) 「『ショボンの髪の毛をもらって、埋めた。オハカって言う』」

川 ゚ -゚) 「オハカ? 何のために?」

( ^ω^) 「『難しい。――多分、忘れないため』」

川 ゚ -゚) 「ニンゲンは、いなくなった仲間のことを忘れてしまうのか?」

( ^ω^) 「『悲しい。でも、時間が経てば、そう。色々なことを忘れる』」

川 ゚ -゚) 「……ニンゲンは、残酷なんだな。わたしたちは、そんな大事なことは忘れない」

( ^ω^) 「『そう思う』」


それから沈黙が舞い降りる。
墓碑の意味は、もちろんそれだけじゃないと思う。

例えば、ショボンには、ここでみんなの野球を見守っていてもらいたい、とか。
でも、うまく言葉にできないし、言う必要もないような気がした。
そんなのは、所詮生き残った者の自己満足に過ぎないかもしれないんだから。


川 ゚ -゚) 「昨日、あれから色々と考えていた」
222 :1:2007/11/20(火) 18:40:35.20 ID:RnnoZN3b0
川 ゚ -゚) 「少し言い過ぎたと思う。それは謝る。ごめん」

( ^ω^) 「『気にしてない。し、ぼくも悪い』」

川 ゚ -゚) 「……自分でも、よく分からないんだ。正直、わたしはキミのことが少し怖い」


クーの言った複雑な言葉はよく分からなかった。
でも、自分のことが怖い、というのは聞き取れた。

そうだろうな、とは思っていたし、やっぱりそうなのか、とも思う。

打ち解けたつもりでいても、自分はやはり、どこまで行ってもよそ者だ。


( ^ω^) 「『ごめん』」

川 ゚ -゚) 「いや、謝る必要はない。わたしの機能が劣っているのかもしれない。
      現に、みんなはキミと打ち解けている。こんな風にしているのは、わたしだけだ」


端々の単語を拾って意味をつなげて、返す。


( ^ω^) 「『ゆっくり分かると思う。ぼくは、キミのことが嫌いじゃない』」

川 ゚ -゚) 「……そうだな。わたしもそうだ。キミのことが嫌いなんじゃない。少し焦ったんだ、多分な」


すっ、と、クーの手が差し出された。
224 :1:2007/11/20(火) 18:43:06.19 ID:RnnoZN3b0
仲直りの握手、だと思う。
なかなか粋なことをする。

お互いの抱えたものは、全部全部しまいこんで、今はとりあえず、握手だ。

クーの手に、自分の手を伸ばした。
握手、できなかった。
それは別に、クーが手を引っ込めて意地悪したとかそういうことではなくて、


从 ゚∀从 「ブーンっ! 探したぞっ! 今すぐ来てくれっ!」

Σ(; ^ω^) 「は!? 高岡!? ちょっと、え!?」

从 ゚∀从 「いいから来るんだよ! ほらダッシュだダッシュ!」  (ガシッ

(; ^ω^) 「うわっ! 分かった、分かったから引っ張らないで! 高岡速い、走るの速すぎだって!」

从 ゚∀从 「行くぞほら、モタモタすんな!」

(; ^ω^) 「『クーごめん、また後で!』」


高岡にずるずる引っ張られながら、まだ手を差し出したままだったクーに謝る。
返事を聞くことはできなかった。何しろ高岡は、遠慮も洞察も知らなかったから。



川 ゚ -゚) 「(……なんか、散々迷ったわたしがバカみたいじゃないか……)」
227 :1:2007/11/20(火) 18:45:37.97 ID:RnnoZN3b0
――ジャンクヤード・7番倉庫――

途中で、自分を追って広場に向かっていたツンも合流した。
「ほらキアイだキアイ、走れ!」「腕もげる、腕もげちゃうって!」「わぁもう! だから工場長、加減を――、」

そんな、なんか既視感のあるマラソンをして、なんか既視感のある場所に辿り着いた。


(; ^ω^) 「『カラス……? 高岡、飛ぶことは違法。それに今、そういう気分じゃ、』」

从 ゚∀从 「何言ってんだブーン! アタシの知ってるお前は、そんなこと言うヤツじゃねーぞ!」

ξ゚听)ξ 「工場長、ですからそれは、工場長の勝手な思い込みで……」

从 ゚∀从 「ぐだぐだ言ってんじゃねーっ! できたんだよ! 完成したんだよ! カラスが! ブーンのトリだ!」

ξ゚听)ξ 「……はい?」


呆気に取られていた自分の手を取って、高岡はさらに倉庫の奥へと引っ張っていく。


从 ゚∀从 「入れ!」

(; ^ω^) 「『は、はい?』」

从 ゚∀从 「いいから! 座れ、ほらパイロットシートに!」


カラスの中に、ぎゅうぎゅう押し込まれた。
231 :1:2007/11/20(火) 18:47:49.28 ID:RnnoZN3b0
(; ^ω^) 「(乗れって……シートのテストか何かかお? いやでも、早く止めてもらわないと後戻りできなく――、)」

从 ゚∀从 「よぉっし、いいぞ。カラス、オールパワーアップだ!」


高岡の声に反応して、ぶぅん、と低い音が響き渡った。
狭苦しいコックピットの中、触ってもいないトグルスイッチが勝手にパチパチ倒れ、タクトスイッチがガチガチ入っていく。


【機体各部チェック...正常】
【バッテリからの電圧供給、上昇しつつあり】
【抵抗...正常】
【電源ゲートロック...安定】
【油圧電圧磁圧...正常】
【計器系、異常認められず】


――これってもう、とっくに後戻りできないんじゃないか?

合成音声が何かを告げ、モニタにひとつ火が入るたび、その思いが確信に変わっていく。
同じ速度で、自分の中でなにか抑えがたく膨らんでいくものを感じる。

トドメは、目の前に設置されたマルチプルメインモニタだった。


(´・ω・`)  「やぁ」


驚くべき顔と声が、そこにいた。
242 :1:2007/11/20(火) 18:50:21.16 ID:RnnoZN3b0
Σ(; ^ω^) 「ショボン!?」

ξ゚听)ξ 「え!? ブーン、ショボンさんがどうしたの!?」


思わず口からこぼれた叫びに、ツンがコックピットを覗き込んでくる。
なに――? と、ツンがこっちに顔を向ける。
やがて、釘付けになった自分の視線を追って、ツンも同じところに辿り着く。


ξ゚听)ξ 「……ショボンさん!? 何してるんですか、こんなところで!?」

(´・ω・`)  「ツンもいるのかい。それは都合がいい。いやね、実はさ、工場長に頼んでみたんだよね」

ξ゚听)ξ 「何をですか!?」

(´・ω・`)  「機体制御の演算装置が足りないっていうからさ、じゃあぼくを使ってくれないかなーって」

Σξ;゚听)ξ 「はぁ!?」

(´・ω・`)  「やー、ピッタリだと思わない? 電情機器の扱いには、ちょっと自信があるしさ」

ξ;゚听)ξ 「――で、でも、ショボンさんってすぐ寝ちゃうんじゃ、」

(´・ω・`)  「ああ、その辺は大丈夫だよ。常に監視機器に叩き起こされてるから。不満があるとすればそこかな。うるさくてね、これが」

ξ゚听)ξ 「…………ぽかーん」
246 :1:2007/11/20(火) 18:52:32.13 ID:RnnoZN3b0
ツンとショボンの会話は、もちろんまったく分からなかった。
ただ、明るいショボンの声と、ツンの呆れた表情でなんとなく理解した。

いや、リクツは分からない。まったく分からないけれど、


( ^ω^) 「『ショボンは、カラスになったの?』」

(´・ω・`)  「うん。やっぱりブーンはいいこと言うね。そういうことさ。マジだよ」


マジ、らしかった。


从 ゚∀从 「そーゆーこった! これで飛べるぞブーン!」

ξ;゚听)ξ 「え、いやちょっと待ってください、でもまだご禁制が、」

(´・ω・`)  「いやー、それなんだけどね? おかしいと思わない?」

ξ゚听)ξ 「はい?」

(´・ω・`)  「ツンはさ、夜中にトリが飛んでるのを見たことある?」

ξ゚听)ξ 「…………ない、ですね」

(´・ω・`)  「眠ってるんじゃないかなぁ、と思うんだよね」

ξ゚听)ξ 「眠ってる?」
253 :1:2007/11/20(火) 18:54:33.70 ID:RnnoZN3b0
(´・ω・`)  「よく考えればさ、トリにだって鷹匠が乗っているワケだろう? そして彼らはヒトだ」

ξ゚听)ξ 「それは……そうですけど」

(´・ω・`)  「だったら、眠りもするんじゃない?」

ξ゚听)ξ 「でも……そんなの、推測じゃないですか」

(´・ω・`)  「ここ30年の村の監視データの中では、夜中にトリを見つけたことはない。
       それだって推測の域は出ないけどね。だからブーンは、正確に言うと99%飛べるようになったんだ」

ξ゚听)ξ 「99%……?」

(´・ω・`)  「そう。残りの1%は、こういうことだ」


(´・ω・`)  「ブーン、キミは飛びたいかい?」


ああ、そんな問いかけはずるいぞショボン。
キミにだって、分かっているはずだ。心音、体温、眼球の動き、どれで調べたって同じ結果が出るに違いない。
自分の中にあるこの気持ちは、疑いようもないこれは、歓喜、だ。


( ^ω^) 「飛びたい!」

(´・ω・`)  「よし、これで100%だよ」

ξ゚听)ξ 「……そんな……」
264 :1:2007/11/20(火) 18:57:13.25 ID:RnnoZN3b0



夜までの時間を、カラスの説明と、飛行プランのブリーフィングで費やした。

ショボンのデータによれば、夜にトリは飛ばない、らしい。

なるほど、彼らは鳥目というわけだ。
空に上がった無法者を叩くトリたちが沈黙しているのなら、当面の危険はない。

さらに、夜中に「神」の対空監視システムが眠っている可能性も、極めて高いという。
もしそんなものがあるのなら、トリたちも夜をものともせずに飛ぶことができるはずだからだ。
現に、カラスは夜間航法装置を積んでいる。

夜に飛ぶ技術がありながら、飛ぶことをしないのは、つまり親鳥が眠っているからだ、とショボンは言った。


(´・ω・`)  「まず、100フィート以下のNORで村から200キロ南西に飛ぶ。
       その辺りには村が何もないから、もし監視システムに引っかかっても、どこの村がご禁制を破ったのかは分からない。
       その後、飛行試験を兼ねつつ上昇。理論上飛べる5万フィートまで上がる」

(; ^ω^) 「『ごめん、全然分からない』」

ξ゚听)ξ 「――えっとね、だからね、」


いまいち乗り気でないツンを交えての会議には、ものすごく時間がかかった。
計ったようなタイミング。相互の意思疎通を終えたのは、ちょうど太陽が落ちきったころだった。
267 :1:2007/11/20(火) 18:59:15.20 ID:RnnoZN3b0
(´・ω・`)  「まぁ、操縦棹の操作なんかは、こっちでもできるからね。気楽に行こう」

(; ^ω^) 「『そうしてくれないと困る。操舵輪だけで4つもある。ワケが分からない』」

(´・ω・`)  「はっはっは、そうだろうね。何しろ平行可動翼32枚、独立可動翼32枚のトリだ」

从 ゚∀从 「でも、そんかしすげーぞ! 奇跡のレイノルズ数! 極限まで昇りつめた揚抗比!」

(´・ω・`)  「うん、分かるけど、そういうマニアックな話はまた今度にしようね。――それより、ブーン」

( ^ω^) 「『なに?』」

(´・ω・`)  「見ての通り、こいつは複座だ。もう一人要るんだよね、タガを持ったコ・パイが」


そんなこと、何をわざわざ尋ねることがあるんだろう、と思った。


从 //゚∀//从 「あっ、あのなっ、それでなっ、アタシがパートナーでっ、」

( ^ω^) 「『ツン、いっしょに行こう?』」

ξ;゚听)ξ 「え!? わたしなの!?」


ツンは戸惑い気味に答えて、チラ、と高岡に視線を投げる。
ああそうか、キミはやっぱり、自分とコンビを組んで空に上がっていた人間のツンとは違うんだな。


( ^ω^) 「『不安? 大丈夫、ぼくがいる。空を飛ぶのは楽しい』」
21 :1@コピペありがとう:2007/11/20(火) 19:13:54.07 ID:k1OIowCt0
从 ゚∀从 「…………」

ξ;゚听)ξ 「あ、あのねブーン、そういうことじゃなくって……工場長?」

从 ゚∀从 「――だぁーよなぁー!」

ξ゚听)ξ 「……はい?」

从 ゚∀从 「ったりめーだぞツン。アタシはほら、地上班で観測データの収集とかやらなきゃなんねーしよ!」

ξ゚听)ξ 「こっ、工場長、でも、」

从 ゚∀从 「おら、分かったらさっさと乗り込めよ。タガのポートは右側だぞ!」


高岡に背中を押されるようにして、戸惑い気味なツンが、コ・パイシートに滑り込んでくる。
懐かしい。この眺め。
自分はパイロットシートで。ツンをガンナーシートに乗せて。

これから、また、飛ぶんだ。自分は。


(´・ω・`)  「……よかったのかい?」

从 ゚∀从 「おめーまで何言ってんだよ、ツンなんかに任せられるか! ブーンの帰ってくるところを守んだよ!」

(´・ω・`)  「……そうか。なら、これ以上は何も言わない」

从 ゚∀从 「そーだそーだ。ウダウダ言ってねーで、さっさとエンジンに火ぃ入れっぞ!」
25 :1@あ、コピペでしたら、終わってから自分でやりますOTZ:2007/11/20(火) 19:15:56.94 ID:k1OIowCt0
【エンジン起動】


合成音声の声とともに、ヒィィィィィ、と聞きなれた音が響き始める。
いい気持ちだ。
この時代に来てから、ずっと地上から眺めるだけだったこの音を、今は、自分のものにできるんだから。


(´・ω・`)  「じゃあ、2人はシートベルトを締めて。工場長は白線の内側に下がってお待ちください」

ξ゚听)ξ 「タガって……ここで、いいのかな、っと」

(´・ω・`)  「……ん。データリンク確立。キミの演算素子を借りて、航法や索敵をするからね」

ξ゚听)ξ 「りょ、りょーかい、です……いいのかなぁ、こんなことして」

( ^ω^) 「『大丈夫。行こう、空へ』」


エアインテークの呼吸音が、エンジンの鼓動音が、段々と高くなっていく。
チョークが外れる。がくり、と、機体が自由になる。


( ^ω^) 「『……そう言えば、機体強度とかのテストは?』」

(´・ω・`)  「うん、するよ。これから」

(; ^ω^) 「(ホントに大丈夫かお……)」
30 :1:2007/11/20(火) 19:18:27.14 ID:k1OIowCt0
ういいい、という音とともに、アクチュエータに支えられたキャノピーがゆっくりと下りる。

機体正面に、高岡が立った。
――うん、そうだ。自分のためにこのカラスを仕上げてくれた、彼女の腕を信じよう。

叫んだ。


从 ゚∀从 「行ってこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」


叫んだ。


(´・ω・`)  「エンジン出力、ピークへ! カラス、クリア・トゥ・テイクオフ! 行くよ!」


叫んだ。


ξ゚听)ξ 「うあああ、やっぱり怖いですぅぅっ!」


叫んだ。


( ^ω^) 「行こう、ツンっ!」
34 名前:1 :2007/11/20(火) 19:21:01.44 ID:k1OIowCt0
車輪のブレーキが外れる。
エンジンの出力に後押しされて、最初はゆっくりと、しかしどんどん速度を増していく。

機械の墓場の中を、ガタガタ揺れながら、カラスは疾る。

速度が上がっていく。
狭いコックピットの中で、誰かが何かを叫んでいる。
と思ったら、それは自分の雄たけびだった。

速度が上がっていく。
脳ミソが耳からハミ出しそうなくらいの激震。
こんなに揺れていいのか? という疑問がよぎる。

速度が上がっていく。
エンジンの轟音が、その音量を増す。
滑走路の終点が見えてくる。距離が足りない。まだ、速さが足りない。

振り向いたツンの不安げな視線。
そんな顔をしないでくれ、自分だってめちゃくちゃ不安なんだ。


速度が、上がっていく。
――祈るように、操縦棹を、引いた。


ふわり、と、重力から脚が離れる感覚。
振動が、止む。


(´・ω・`)  「――ナイステイクオフ」
37 :1:2007/11/20(火) 19:23:32.95 ID:k1OIowCt0
ショボンの言葉を聞いても、まだなんだか実感がわかなかった。


(; ^ω^) 「『飛んだ』……のかお……?」

(´・ω・`)  「というか、飛んでるね。ちなみに高度がちょっと高い。もう少し抑えて。方位210へ転舵して」

(; ^ω^) 「……『うん』」


空っぽの思考のまま、ショボンに言われるままに、操縦棹を操る。

キャノピーの外を見る。
真っ黒な中、相変わらず鈍い月の輝きは、地上で見るのと何も変わらない。

真南に向いた機を転進させるために、操縦棹を倒す。
傾斜計が傾き、視界がぐるりと回って、地上の灯りが見えた。

灯りは、ものすげぇスピードで飛び去っていった。


いや違う。だから、そうだ。


( ^ω^) 「飛んでるお――っ!」


カラスは、真っ黒な機体を、確かに空に浮かべていた。
41 :1:2007/11/20(火) 19:25:35.70 ID:k1OIowCt0
从 ゚∀从 【あーあーあー。こちら286TWR。工場長だぞー、カラス、応答どうそ】

(´・ω・`)  「感度良好。離陸はうまくいったよ」

从 ゚∀从 【ったりめーだ、あたしのカラスだぞ】

ξ;゚听)ξ 「あわわわわ……飛んじゃった、っていうか飛んでるの? 何? わたしはどこですか?」

从 ゚∀从 【お前も壊れてんじゃねーよ。キアイだキアイ。ブーンに笑われっぞ】

( ^ω^) 「『高岡! 飛んだ!』」

从 ゚∀从 【あっはっは、ブーン、なかなかロックな離陸だったぜ】

(; ^ω^) 「『……ごめん、意味が、』」

(´・ω・`)  「いい離陸だったよ、ってさ」


動揺して上の空のツンの代わりに、ショボンが通訳してくれる。


( ^ω^) 「お。『高岡、ありがとう!』」


ホントは、そんな言葉だけじゃ足りないんだろうけど。
48 :1:2007/11/20(火) 19:28:05.25 ID:k1OIowCt0
从 ゚∀从 【そのまま200キロ飛べ。速力90ノーティカルマイルで1時間ちょいだ】

(´・ω・`)  「りょーかい」





プロペラで飛ぶレシプロ機のようなゆっくりとした速度で、カラスが夜を飛んでいく。
こんな速度で飛べるのは、64枚もある翼が生み出す莫大な揚力のおかげだ。


(´・ω・`)  「うん、それが第1エレベーター。第2エレベーターは、今手動管制にするからね」

( ^ω^) 「おっおー……『うん、分かった』」


200キロの地点までの1時間と少しは、カラスの試験も兼ねた、実機演習をした。
バカみたいに多い操舵輪や操縦棹をひとつひとつ動かして、空を切って飛ぶ感覚を思い出していく。

空気に機体を乗せる方法を思い出す。空気の壁の厚さを、それを乗り越える方法を。
芽吹くように、空を飛ぶ技術が手の中に帰ってくる。


( ^ω^) 「『ツン、空を飛ぶのは、どう?』」

ξ゚听)ξ 「こ…わ…い…」

( ^ω^) 「お?」
53 :1:2007/11/20(火) 19:30:06.50 ID:k1OIowCt0
(´・ω・`)  「あー、機体の管制をツンに回してるからね。かなりリソースを食ってるし、実行速度が遅くなってるな」

ξ゚听)ξ 「そ…う……重…い…」

(´・ω・`)  「我慢してくれ、何しろキミがいないと飛べないんだから」

ξ゚听)ξ 「分……かっ……」

( ^ω^) 「『ツン、ありがとう』」

ξ///)ξ 「べっ……別……に……」





(´・ω・`)  「しかし、目論見どおりだね。ここまで来てもトリが飛んでこない」

( ^ω^) 「おー……『ビックリしてて、忘れてた』」

(´・ω・`)  「ん? なんだい?」

( ^ω^) 「『ショボンが生きてて、よかった』」

(´・ω・`)  「はっはっは、ぼくは諦めが悪いからね。――さぁて、200キロの地点、どうやら来るよ」
55 :1:2007/11/20(火) 19:32:12.51 ID:k1OIowCt0
(´・ω・`)  「ブーン、キミ、左右どっちの視力がいい?」

( ^ω^) 「『左』」

(´・ω・`)  「なら左旋回だな。螺旋状に、5万フィートまで駆け上がる」

( ^ω^) 「『了解』」


スロットルを開けた。

操縦棹を握る手に、力を込める。
わずかに左に倒して、手前にゆっくりと引いていく。
南西を向いていた機首が、何かから剥がれるように、段々と上を向いていく。

機首の、剣型のポールが、挑むように空を睨む。
ずるり、と、体の中を、Gが這う。


(´・ω・`)  「なかなかいい腕だ」

( ^ω^) 「『ありがとう。でも、ショボンとツンのサポートのおかげ』」

(´・ω・`)  「そう謙遜することもないよ」

ξ゚听)ξ 「ブ…ーン、曲が……ってる…」

( ^ω^) 「『大丈夫、安心して』」

ξ゚听)ξ 「う……ん……」
57 :1:2007/11/20(火) 19:34:13.95 ID:k1OIowCt0
カラスが、夜の空を舞い上がっていく。
ずっとずっと高くへ。
わずかな気流の変化を捉えて、身にまとった翼を、精密に躍らせながら。

何かを確かめるような、ゆっくりとした上昇。
それは、人が空を飛ぶようになった奇跡をかみ締めているようでもある。








長い長い螺旋階段を抜けた先には、1000年前と同じ、満天の光があった。
61 :1:2007/11/20(火) 19:35:44.76 ID:k1OIowCt0
ξ゚听)ξ 「これが、空。ブーンの好きなもの……なんだ」

( ^ω^) 「『そうだよ、それから――』」


この高度にいたってようやく、わずらわしい計算から解放されたツンを導くように。
キャノピーの外、頭上を指差す。――ごらん、あれが星空だ。

見上げたツンは、あられもなく驚いた。


ξ゚听)ξ 「なに!? 何あの光!?」

( ^ω^) 「『ツン、ぼくがこの前言った。あれが、星』」

ξ゚听)ξ 「ホシ……そっか。空の上には、こんなものがあるんだ!」

(´・ω・`)  「ホシ、というのは見たことなかったな。なんというか――、」

ξ゚听)ξ 「綺麗!」


じわり、と。
高度5万フィートの、防護服がなければ凍え死ぬような極寒の中、暖かい物が広がる。


( ^ω^) 「『――そう言ってくれて、嬉しい』」


オリオン座の瞬く、冬の空だった。自分は、今が冬だということも知らなかった。
66 :1:2007/11/20(火) 19:37:15.74 ID:k1OIowCt0
高度5万フィート。
地上の、どんな光も追いつけないこの高さの、衛星も恒星も、1等星も2等星も3等星もそれ以下も、ごちゃまぜの。
圧力すら感じるような星空だ。


――ありがとう、高岡。

そう、改めて思う。





真っ暗な空の中。
あの『塔』よりも、雲よりも。
この星の何よりも高いところを。

キャノピーに、圧巻の星空と、地上よりもよほど強烈な月光を反射させながら。
カン高い音を立て、薄い空気を切り裂いて。


カラスが、悠々と飛んでいる。

67 :1:2007/11/20(火) 19:37:48.30 ID:k1OIowCt0
空を飛ぶことは、昔からの夢でした。

もう失くしてしまったはずのその機会を、ぼくの友だちが与えてくれました。


ヒトと人とは、同じ星空を見て、同じように綺麗だと言えるのだと知りました。

それで充分なのではないかと、思います。


ぼくは、ブーン。

今はもう、たった一人の人間らしいけれど。

けっして、一人ぼっちではないようです。





   ( ^ω^)は、水も酸素もなくては生きられないようです
           2話 散開星団  おしまい


(; ^ω^) 「『……そういえば、着陸は?』」

(´・ω・`)  「はっはっは、キアイだね」

Σξ;゚听)ξ 「はい!?」

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