川 ゚ -゚)「そろそろ帰らないとまずいんじゃないか? 明日は学校があるし。」  あれから小一時間ほど立っただろうか。  ブーンはいまだに屋上で立ち尽くしていた。  ブーンの手の甲の痕は、数字の3を表示した後、2に変化していた。  それが、ショボンがもうこの世に存在しないのだということを証拠付けていた。 川 ゚ -゚)「その……つらいのは、わかるんだが。」  クーは折れた妖刀を回収した鞘にしまい、自らの剣とともに携えて、ブーンの そばに立っていた。 ( ^ω^)「……ん、そうだおね。」  ブーンはうつむいていた顔を上げ、空に輝くまばゆい星たちを見上げた。  星は何も言わずにただ優しくまたたいていた。 ( ^ω^)「えと、それじゃあ。クーもまただお。……ドクオと仲良くやるお。」 川 ゚ -゚)「ん、あ、ああ。」  ブーンは思い出したように最後に言葉を付け加え、そそくさと屋上を立ち去っ ていった。 川 ゚ -゚)「また、か。」  クーはブーンが立ち去ったドアをしばし眺め立ち尽くしていた。  ブーンはあれから帰宅すると泥のように眠りについた。  その日は夢を見なかった。  次の日の朝。 ( ´ω`)「朝かお……。学校行くお。」  ブーンはてきぱきと着替えを終えるとリビングへと降りていった。  だがそこにいつもの父と母の姿はなかった。 ( ^ω^)「あ、そういえばなんか親戚の葬式だったお。僕は行かなくていいっ て置いてかれたんだったお。」  ふと、何気なく手の甲に目が行き、そこに刻まれた三角を見た。  それがひどく忌々しい物に見えて、ブーンは思わずその痕をかきむしっていた。  やがてそれもむなしく感じ、誰もいない家を後にした。 ( ´ω`)「ふぅ……なんだか生徒の数が減ったように思えるお。」  登校中、今までと何か景色が違って見えると思っていたブーンは、そういう結 論に至っていた。  しぃ、プギャー、プギャーに殺された人たち。行方不明者は少しずつ増えてい く。  その恐怖は、弱い心や繊細な心を持った人たちを縛りつけ、学校へ登校させま いとしているのだろう。  ブーンはその風景を、なんだか物寂しく感じていた。 ('A`)「よぉ、ブーン。今日は早いな。」 ( ^ω^)「あ、ドクオ。」  後ろから肩をたたかれて振り返ると、そこには変わらない友達が立っていた。  だがブーンの顔を見るなり眉が怪訝な表情を作り出した。 ('A`)「どうした、なんかあったか? 元気ないな。」 ( ^ω^)「今日はとーちゃんもかーちゃんもいないから朝飯食ってないんだお。」  ブーンはとっさにうそをついた。いや、うそでもないのだが、今は食事が喉を 通る気などしなかったのだが、そういうことで気分が落ち込んでいるわけではな かった。 ('A`)「何ー!? 朝飯はちゃんと食わねぇとだめだろうが。」 川 ゚ -゚)「そうだぞ、ブーン君。一日の始まりの食事だ、きっちり食べなくては。」 (;^ω^)そ「うお、クーだお!?」 川 ゚ -゚)「私がドクオと一緒に登校していると何か不満なのか?」 (;^ω^)「い、いや、そんなことはないお。」 ('A`)「……なんかお前ら仲いいのな。」  かなりいじけた表情でドクオがつぶやく。  まぁ、初めて出来た彼女がほかの男と仲良くしていれば嫉妬するのは当然だろう。  多分、僕もそうなると思う。 川 ゚ー゚)「おやドクオ、それは嫉妬してくれているのかな?」  ニヤニヤと笑いながらドクオの腕にまとわりつくクー。  あれは絶対にうれしがってるな。 (;'A`)「バばババばばバーロー!! そんなみっともないまねするかよ!」 川 ゚ -゚)「そうか……それは残念だ。私はドクオがほかの女の子と仲良くしてたら嫉 妬するぞ?」 ( ^ω^)「ドクオがほかの女の子と仲良くなんてねーよwwwwww」 ('A`)「ウツダシノウ。」 川 ゚ -゚)「ドクオが死ぬなら私も!」 (;'A`)「ちょwwwwwおまwwww」  そんな二人を見ているとなんだか救われる気がした。  なんだか、ショボンやツンと普通に一緒に過ごしていたころを思い出させる。  僕は今、少し笑えてる気がする。  あれ、そういえばクーって同じ学校の生徒だったのか。知らなかった。 ( ^ω^)「ふぅ……。」  時刻は今、昼休みである。ドクオとクーのラブラブ弁当交換にあてられてしまった 僕は、こうして今、一人で屋上のベンチに座って昼食を済ましたわけで。  吹いている風はもうすっかり秋の気配を漂わせていて、少し肌寒いくらいだ。  そんなわけだから周りに生徒の姿はまばらで、何だか余計に寒く思えてしまう。  ショボンは今日はもちろん休みだった。と言ってもここ数日学校に姿を現していな かったので、ドクオは「またか……。」なんて肩を落としたりしていた。  もう、二人が会うことはないんだろう。 (;><)「あ、先輩! 良かった、無事だったんですね!」  不意に懐かしい声がして振り返ると、ビロードの姿があった。 ( ^ω^)「おお、ビロードかお。元気してたかお?」 (;><)「ええ、病院の人たちがよくしてくれまして……ってそんな世間話をしに来 たんじゃないんです!」  ああ、やっぱりそういう話題になるよな。  ビロードの手の甲にも脱落を告げる数字が現れたのだろう。 (;><)「もしや先輩が……なんて考えちゃって気が気じゃなかったですよ!」 ( ^ω^)「まさか僕がやられるわけないお。」 (;><)「まぁ、それもそうかもしれませんけど……。」  ビロードは僕が座っているベンチの隣に腰掛けた。  それから寒そうに手をすり合わせるとこちらをじっと見つめてきた。 (;><)「で、誰だったんですか?」 ( ^ω^)「……。」  誰だったか。それを答えるのはひどく簡単だ。  だけど、何故だか僕はすぐには言い出せなくて、何度も逡巡してしまった。  しかしいつまでも黙っているわけにはいかない。ビロードがなんだか怪訝そうな 顔をしているからだ。  意を決して僕は切り出す。 ( ^ω^)「5人目は、ショボンだったお。」 (;><)「えぇ!? そうだったんですか!?」  驚くのも無理はない。僕だって驚いた。  知人に能力者がいるなんて思いもしなかった。  今彼が感じている驚愕は僕のものより少ないかもしれないが、それでも同質のも のと言えるだろう。 (;><)「じゃあ……ブーン先輩はショボン先輩を?」 ( ^ω^)「倒したお。……あの場合は仕方なかったお」  僕はそれから昨日の経緯をビロードに説明して見せた。  ショボンの最後の言葉などは伏せておいたが。  すべて説明し終わり、僕はそれきり黙りこんだ。  ビロードも何も言わなかった。  それからどのくらいたっただろうか。  昼休みもそろそろ終わりのときを迎えていた。  僕は弁当箱を片付け、立ち去ろうとした。 (;><)「先輩……先輩はこれからどうするんですか?」  そう、ビロードに問われた。  これからどうするか。  ビロードがそれを言わなかったら、僕はこのまま去るつもりだった。  だが、問われてしまった。  ならば言うしかないだろう。 ( ^ω^)「僕は……君を倒すお」    ビロードの顔には、先ほどよりも大きな衝撃を受けたことがありありとわか るような表情が貼りついていた。  僕の口からそれが出ることを予想だにしていなかったようだ。  彼の「これからどうするか」という質問は、この戦いが終わったから、これ からどうするかという意味だったのだろう。  だけど僕にとっては違っていた。まだ戦いは終わってない。 ( ^ω^)「僕はツンの記憶を取り戻すために戦うお」  そう、僕は彼女のために戦う。それが正しいか間違ってるかなんて関係ない んだ。  僕は、彼女を助けたいんだ。  だから。 ( ^ω^)「ビロード、僕と戦ってくれお。今じゃなくていいお。決心がつい たら言って欲しいお」 (;><)「ちょ、ちょっと待ってください! ツン先輩、どうかしたんですか!?」  そういえば話していなかった気もする。 ( ^ω^)「ツンは、あの時以来記憶喪失なんだお。高校時代のこと、全部 忘れてるんだお」 (;><)「そんな……」 ( ^ω^)「僕は君に勝ってモララーに願いをかなえてもらおうんだお。ツン の記憶を取り戻して欲しいと」  もう、それ以上語ることなんて僕には無かった。 ( ^ω^)「いつでもいいお。必ず返事をくれお」 (;><)「……もし……もし、僕が嫌だと言ったら?」  そんなこと考えてもいなかった。 ( ^ω^)「……それなら、仕方ないお」  僕の仕方ないという言葉に安堵の表情を浮かべるビロード。 ( ^ω^)「そのときは、君の大事な人が危険な目に会うと思うお」  その表情はすぐに凍りついた。  昼休みが終わって教室に戻ると、ドクオとクーはまだラブラブしていた。  バカップルめ。みんなもあきれた顔で見てるぞ。 (;^ω^)「そろそろ授業が始まるお。クーはそろそろ教室に戻ったほうがいいお」 川 ゚ -゚)「私は授業なんかよりドクオのほうが大事だ」  やれやれ……。ドクオも大変だなこれは。 (;'A`)「クー、そろそろ戻ったほうが……」 川 ゚ -゚)「ドクオは私と一緒にいたくないのか?」  眼をうるうるとさせながらドクオを見つめるクー。  アレじゃあドクオもタジタジだろう。  ここは助け舟をだしてあげるべきか。 ( ^ω^)「ドクオが授業を受けられないとドクオはバカになってしまうお。 ドクオがバカになったら将来きっと困るお」 川 ゚ -゚)「む、たしかにそれは困るな。…………わかった、私はそろそろ教室に戻ろう」  クーはしぶしぶと言った様子でドクオのそばから離れた。ドクオはやっと開放され たと言わんばかりに軽いため息をこっそりとついた。 川 ゚ -゚)「ドクオ、校門で待っているから一緒に帰ろう。では名残惜しいがまた後で」  綺麗な黒髪を翻らせながら、颯爽と歩き去る背中を、僕らは眺めていた。  放課後、僕は特にすることもないのでさっさと家に帰ることにした。  ドクオは補習だとかで居残りをさせられているようだった。となると当然校門 で待っているクーは長時間待たされる羽目になるわけだ。  そこでドクオは僕に「クーに先に帰ってるように伝えておいてくれ」なんてこ とづてを頼んできたわけで。  正直面倒くさかったがこれも友人のためだと言い聞かせつつ、今こうして校門 にたどり着いた訳である。 川 ゚ -゚)「おお、ブーン。ちょうどいいところに来た。ドクオがどこにいるか知ら ないか? さっきからずっと待っているんだがまったくやってこないんだ」 ( ^ω^)「ドクオなら今日は補習があるから先に帰ってて欲しいって言ってたお」 川 ゚ -゚)「何、そうなのか……。なら仕方ないな」 ( ^ω^)「じゃ、そゆことで」  さぁ、用は終わった。家に帰ろう。 川 ゚ -゚)「ちょっと待った。少し付き合ってくれ」  僕の腕はクーの意外と強い握力――いや、意外でもないか――で捕らえられてし まっていた。 (;^ω^)「なんなんだお?」 川 ゚ -゚)「なに、そんなに構えることは無い。2、3聞きたいことがあってな」  クーが急に鋭いまなざしで僕を見る。  大体何の話がしたいのか察しはついた。 ( ^ω^)「この間のことかお」 川 ゚ -゚)「そうだ。少し話を聞かせて欲しいんだ」  僕はこの間の戦いのわけや、この戦いに関して話して聞かせた。  もしこれがまずければモララーの邪魔が入るはずだが、実際のところそういっ た類のことは一切無かった。  とにかく説明することが多かったので、僕らは落ち着ける場所と言うことで 公園に来ていた。これってはたから見たらどう見えるのかなぁなんてちらりと 考えてみたりもした。 ( ^ω^)「と、まぁこんな感じだお……。何か他に聴きたいことはあるかお?」 川 ゚ -゚)「では聞くが……今何人残っているんだ?」 ( ^ω^)「後は僕とビロード君だけだお」  クーはそれを聞くと眉を潜めた。 (;^ω^)「言っておくけど僕は他の人を殺してなんかいないお……ショボン以外は」 川 ゚ -゚)「……そうか、ソレを聞いて安心したよ」  それきり黙りこんでしまった。  クーが話さないと僕も話すことがないので黙って横に座っているわけで。  もちろんちゃんと距離は開けてある。ドクオの彼女だしね。 川 ゚ -゚)「なぁ、ブーン。君はこれからどうするつもりなんだ?」  同じ事を聞かれた。  ならば同じ事を答えるしかない。 ( ^ω^)「僕は……ビロードと戦うお。勝ってモララーに願いを叶えてもらうお」 川 ゚ -゚)「!?」  やっぱり、クーは驚いた。  そうだろう。誰だって驚くだろう。 川 ゚ -゚)「本気なのか?」 ( ^ω^)「男に二言はないお」 川 ゚ -゚)「なぜだ? なぜなんだ? モララーは君を戦いに巻き込んだ張本人でも あり、ショボンと君が戦うことになった原因なんだぞ!?」  僕は。それでも。 ( ^ω^)「ツンを救うためなら、僕はやってやるお。悪魔にでもなるお」 川 ゚ -゚)「それでツンが喜ぶと思ってるのか?」  そのあたりの事情はドクオから聞いて知っているのか。  なら話が早い。 ( ^ω^)「ツンが喜ぶかどうかは問題じゃないんだお」  言うなれば、自己満足だ。  それでもいい。  せめて、せめて少しでも。  壊れてしまった日常を取り返したい。  もう帰ってこないとわかっているのに。 川 ゚ -゚)「それではショボンと一緒ではないか!」 ( ^ω^)「それは違うお。ショボンは……あのときのショボンは自分のために戦っ ていたお。僕はツンを救うために戦うんだお」  そうだ。救うんだ。 川 ゚ -゚)「ビロードとやらを犠牲にしてもか?」 ( ^ω^)「僕は、ヒーローじゃない。だからすべてを救うことなんて出来ないんだ お。だから一番を選んだんだお」 川 ゚ -゚)「だが!」  まだ食い下がってくる。  ならばこう言えば退いてくれるだろう。 ( ^ω^)「じゃあ君が僕の立場ならどうするお? ドクオが君の事をすべて忘れて しまうんだお? そして嫌いになるんだお?」  クーはハッとした表情になって黙り込んだ。 川 ゚ -゚)「……」 ( ^ω^)「……」  僕たち二人の間は静寂に包み込まれた。 ( ^ω^)「話はそれだけかお? なら僕はそろそろ帰るお」  きびすを返し、彼女のそばから立ち去る。  クーは何も言わない。僕が立ち去るのを見つめているだけだ。  ああ、早く帰って明日の準備をしなければ。 川 ゚ -゚)「その質問は……卑怯だ……」  そんなクーの声が聞こえた気がした。 15話END