いったい何が起こったって言うんだ。  マジでわけがわからねぇ。  今こうして一人で道を歩いていてもさっきまでの出来事を頭が理解しねぇ。  ちょっと前の病室で。  ドアを開いた先にはキスをするショボンとツンの姿があった。  もう驚いたなんてもんじゃなかったな。  隣にいるブーンの顔を見たら、まるで今家に帰ってきたら家が全焼してなくなった 人みたいな顔をしていた。  いや、実際そんなやつは見たことないけどな。  俺らが入ってきたことに気がついたのか、二人はこちらを振り向いた。  ツンはブーンと同じように驚愕の表情をした後、だんだんと顔が真っ赤になってい ってまるで茹でたエビかカニみたいだった。  ショボンはいつもどおり落ち着いた表情で、つい今さっきの状況がさも当たり前か のように振舞っていた。 (;'A`)「お、おまえr――」  俺が何か言おうとするより早く、ブーンは部屋を飛び出していた。 (;'A`)「ブーン!!」  あわてて追いかけようとしたけど、もう廊下のはるか向こうに消えていた。 (#'A`)「一体どういうことなんだ。」  冴えない彼は私とショボンを見据えてそう言った。  その声には怒りの感情が入り混じっているのがよくわかった。  私といえば自分のキスなんて人に見られたくないものを思いっきり見られてしまっ て恥ずかしくてたまらなかったりする。  それから胸の隅っこがちょっとだけチクチクするような気もするけど、きっと気の せいだろう。  隣にいるショボン君は小さく小さく微笑んでいた。 (´・ω・`)「どうもこうも見たとおりじゃないか。」  ゆっくりと、小さな子供を諭すかのような優しい声色で冴えない彼――ドクオ君、 だったかしら――に話しかける。 (´・ω・`)「ボクと彼女はキスをしていたんだ。」  キス。  その言葉に私は思わず恥ずかしくなってしまった。顔が熱くなっていく。きっと今 私の顔は熟れたリンゴみたいに真っ赤になっているんだろう。 (#'A`)「それぐらい見りゃわかる。俺が聞きたいのはどうしてお前たちがキスをして いたかってことだ。」  ショボン君はその質問に何も答えなかった。 ξ゚听)ξ「そんなのあなたには関係ないでしょ。」  私は自らが思っていることを素直に口に出した。  そうだ。彼には関係ない。これは私とショボン君の話なんだから。 (#'A`)「高校生活を一緒に過ごしてきた俺にはわかる、お前らはそんな関係じゃない はずだ」 (´・ω・`)「それはどうかな? 君は僕の、いや僕らのすべてを見てきたのかい?」  私のそばによりそい、手を握ってくれる。  その手のひらからはやわらかな暖かさがあふれ出ていて、握り締めているととても 安心できた。 (#'A`)「そりゃあ全部見てるなんてストーカーぐらいなもんだ。でも雰囲気でわかる。 ショボン、お前ツンに何を吹き込んだ?」 (´・ω・`)「ツンさん、彼の言葉を信じてはいけないよ。彼は嫉妬しているんだ。 嫉妬なんて見苦しいよね。」  ショボン君はドクオ君のことなどお構いなしに私に話しかけてきた。  たしかについ数分前まで名前も知らなかった人間と、良く知っている人間の言葉な ら私は後者の方が信じれる。 ξ゚听)ξ「わかってるわ。大丈夫よ。」 (;'A`)「ツン、お前!」 ξ゚听)ξ「気安く呼ばないでちょうだい。私はあなたを信じたわけじゃない。」 (#'A`)「くっ……。」  それきり彼は黙り込んでしまった。  それからしばらくはショボン君に刺すような鋭い視線を浴びせていたけど、ふっと 悲しみと哀れみと諦めのこもった表情になった。  かと思うとそのまま振り返りゆっくりと病室を出て行った。  扉を閉じる前に「邪魔したな。」と短い一言を残して。  そして今、ドクオはこうして一人病院からの帰路についている。  その表情は納得がいかない心中をありありと示していた。  何に納得がいかないかといえば、いわずともわかるだろう。ショボンとツンの関係 についてだ。 ('A`)「なんであの二人が……不自然すぎるだろ。」  絶対にツンはブーンが好きだと思っていたのに、とドクオは心で反芻していた。そ れはドクオのみならず、クラスメートの大多数、いや全員と言ってもいいかもしれな い。それほどの人たちがそうだと考えていた。  にもかかわらず、ツンとショボンはあのように互いを好いていて、仲良くやってい る。  ドクオはおかしいとは思うものの、現状を受け入れるしかないのかとあきらめかけ ていた。  ショボンの堂々とした嘘を見抜けないのはやはり人生経験の少なさからくるものな のかもしれない。  そんなドクオの背中を一人の人物が電信柱の影から見据えていた。  その瞳は妖しく輝き、目の前の青年を熱意的な目で見つめていた。  その人物はドクオの後ろからゆっくりゆっくりと、まるで獲物に忍び寄る蜘蛛のよ うに忍び寄っていた。  そしてそのまま肩を叩いて呼び止める。 ???「君、ちょっといいかな?」 ('A`)「え、あ、なんでs…………」 (;'A`)そ「!?」  顔に驚愕が張り付いた。  話しかけてきた相手が女性だったからだろう。ただ、理由はそれだけではないよう だが。 川 ゚ -゚)「やぁ。」  その女性は顔に緑色の薄っぺらい楕円――きゅうりの輪切りを貼り付けていたのだ から誰だって驚くであろう。 (;'A`)「……。」  その女性はさらりと伸びる黒い長髪をしなやかになびかせながらそこにたってい た。ドクオはそんな彼女を綺麗だ、と思って眺めていた。  年はドクオと同じ位に見えるが、雰囲気が大人びていたので、ドクオはとても緊 張してしまった。  ただ固まっているのはそれだけが原因ではなく、女性の顔に張り付いているそれ に仰天しているせいもあった。  その硬さに気がついたのか、柔らかい表情になって、その女性は話しかける。 川 ゚ -゚)「ああ、君は確か女性と一対一で接するのが苦手だったのだね。これは失 敬。」 (;'A`)「あ、ああ、あ、か、か、顔に、きゅきゅきゅきゅうりが……。」  いっぱいいっぱいになりながら何とか自分の言わんとすることを伝えようとする。  女性はそのドクオの発言に、さも今気がついたと言わんばかりの表情になって、 その顔のキュウリを指でなでた。 川 ゚ ー゚)「ああ、これか。私は美容に気を遣っていてな。これはいわゆるきゅう りパックというやつだな。」  ドクオはきゅうりパックという言葉で、前に母親がテレビで見ていた番組を思い 出した。  確かにその番組ではきゅうりパックは肌に良いと言っていた。  が、しかし。 (;'A`)「た、たしかきゅうりパックは日光に当てるといけないって、テレビで言って ました。」  それを聞いたとたん、「む、そうなのか」と発言して顔からあっさりとキュウリ をはがして女性は地面に投げ捨てた。 川 ゚ -゚)「これはいいことを聞いた、ありがとう。」 ('A`)「は、はぁ……。」  さっきから情けない声しか出してないな、とドクオは軽く凹んでいたりした。 ('A`)「ところで、何か俺に用ですか? 俺はあなたには初めて会いましたけど。」  そう、二人は初対面なのだ。この女性はドクオにとってはまったく見ず知らずの人 で、自分が何かしたんじゃないかと言う不安を抱いていた。 川 ゚ -゚)「私は君と同じ学校の生徒なんだが……見覚えがないのか。まぁそれはいい。 私は君に用があるんだ。」  そういうと背筋をただし、まっすぐドクオを見据えてきた。  そんな強烈な視線にドクオは耐え切れず、思わずそっぽを向いてしまう。が。 川 ゚ -゚)「ちゃんと私のほうを向いてくれ。」  という、女性の一言になぜか逆らうことができず、ゆっくりと女性のほうを向き直 った。  そこには先ほどと同じく真摯な瞳でドクオを見つめ続ける女性の姿があった。  女性は瞳を閉じて、何度か深呼吸をすると、もう一度ドクオをじっと見つめた。 川 ゚ -゚)「ドクオ君、今から私が言うことをよーく聞いていてほしい。二度は言わな い。」  ドクオはなぜ彼女が自分の名前を知っているのかが疑問だったがそんなことを言い 出せる雰囲気でもなかったので、黙って女性を見つめ続けることにした。  が、女性は中々言い出せないのか、深呼吸や瞳の開け閉めを繰り返している。  ドクオはその場を動くわけにも行かず、二人の間には長い沈黙が流れていた。  路上で見詰め合ったまま、黙って立っている男女。周りから見ればかなりこっけい な様子だろう。  やがて女性は意を決したのか、ゆっくりと言葉を吐き出した。 川 ゚ -゚)「私は君のことが好きなんだ。」  たくさんの思いが詰まった愛の言葉を。 ( ´ω`)「……。」  多くの人々が行きかう駅前を、ブーンは一人歩いていた。  その足取りはフラフラとしておぼつかず、まるで夢遊病の症状が出ているかのよう だった。  すれ違う人々は異質なものを見るような目をブーンに向けていたが、ブーンはそん なことなどどうでもいいと言うように無視して歩いた。  どこに向かっているかは本人もまったくわかっていなかった。  人の多いところにいるのがいやになったブーンは路地を入って、人気のない道をさ 迷い出した。 ( ´ω`)「……なんでだお。」  その言葉はいったいどれだけの思いがこもっているのか。それはブーンにしかわか らなかった。 ???「――……に用ですか? 俺はあなたには初めて会いましたけど。」  曲がり角の向こうから、ブーンにとって聞き覚えのある声が響いてきた。ドクオの 声だ。 ???「そうだったそうだった。私は君に用があるんだった。」  今度は女性の声が聞こえてくる。聞いたことのない声だとブーンは思っていた。  その声に導かれるかのようにふらふらと路地から顔だけ出して様子を伺った。  ドクオの背中がまず見えた。その向こうには長い黒髪をたなびかせた女性が真摯な 瞳でドクオを見つめていた。 川 ゚ -゚)「ドクオ君、今から私が言うことをよーく聞いていてほしい。二度は言わな い。」  女性はしばらく逡巡したのち、ドクオに一言、伝えた。 川 ゚ -゚)「私は君のことが好きなんだ。」 ( ゚ω゚)「……。」  その瞬間、ブーンの脳裏にはある映像がフラッシュバックした。  真っ白な世界で口付けを交わす二人の男女。ショボンとツンだ。  つい先ほど見たばかりの映像は瞬く間にブーンの脳内をかけまわり、汚染していく。 ( ゚ω゚)「うわぁあぁぁあぁぁっ!!」 (;'A`)そ 川;゚ -゚)そ「!?」  突然の叫び声でブーンの存在に気がついたのか、二人の視線がブーンに注がれる。 (;'A`)「ブーン! お前なんでここに!?」  ドクオの呼びかけにも答えず、ブーンはそのままその場から逃げ出した。 (;'A`)「ブーン! おいブーン!」  ドクオはそれを追いかけようとしたが、女性に肩を抑えられた。 川´゚ -゚)「行かないでくれ、ドクオ。私はまだ君の返事を聞いていない。」  申し訳なさそうな顔でドクオの肩をぎゅっとつかんでいる。ドクオにはその手から不 安という感情が感じ取れた。  ドクオは追いかけようとしていた体を女性に向けて、そっと瞳を閉じてうつむいた。  女性はそのまま所在なさげにその場で立ち尽くしていた。 ('A`)「その、なんていうか……俺、今まで女と付き合ったことないし、ださいし、正 直なんであなたが俺を選んだのかまったくわからねぇ。」  一つ一つ、言葉を選ぶように、ドクオはつぶやき始めた。  女性はそんなドクオを見つめ、黙って立っていた。 ('A`)「でも、そんな俺でも良いって言ってくれるなら……あなたと付き合っても良い かなと思ってる。」 川 ゚ -゚)「それじゃあ……。」 ('A`)「よろしく頼む。」  そういってドクオは右手を差し出した。クーはそれを見ると、その右手を握り締めた。 ドクオは少し緊張した面持ちだったが、その顔はわずかに微笑んでいた。  クーはそのままドクオの右手を思い切りひっぱり抱き寄せた。 (;'A`)「ちょ、まっ!?」 川 - _-)「やっと……やっと。」  ドクオはあわてて離れようとしたが、幸せそうな顔をしている彼女を見ると何もいえ なかった。 ('A`)「なぁ……ひとつ聞いてもいいか?」 川 ゚ -゚)「今とても幸せな気分だから何を聞かれても答えてあげられると思う」 ('A`)「まだ名前を教えてもらってないんだが……。」  その質問に女性はきょとんとしたあと、その顔はああしまったという表情にかわって いった。  ドクオはそんな彼女が可笑しくてなぜだか笑い出してしまった。  最初はそんなドクオに怪訝な顔を向けていたが、いつしか彼女もつられて笑っていた。 10話END