その日、ブーンは家に帰ってからこってりと絞られた。  一体こんな時間まで何をしてたんだとか、お母さんはお前をこんな子供に育てた覚えは 無いとか、しまいには泣き出してしまい、ブーンはオロオロする羽目になった。  そんな気まずい夜を過ごしたブーンは朝も憂鬱だった。 (;^ω^)「母さんに合わせる顔がないお……。」  ブーンは気まずい気分のまま、一階のリビングへと降りていった。  だがリビングはシンと静まり返っており、母親は家にはいなかった。父親も当然のこと ながらいない。うちっぱなしにでも出かけたのだろう。 ( ^ω^)「お、メモが置いてあるお。」  食卓にひっそりと置かれた、銀行なんかでただでもらえるような再生紙100%っぽい メモ用紙を拾い上げる。  「昨日はいっぱい怒ってごめんね    でもお母さんはホライゾンのことを愛しているから心配なのよ     そのくらいの年になったら親にも言えない事があるのはわかるけど      あまり無茶はしちゃだめですよ                      愛しのホライゾンへ                          母より  やわらかくまるっこい字体で書かれていたメモを見て、ブーンは自分がとても馬鹿で親 不孝な奴だと思い知った。 ( ´ω`)「ごめんお……本当にごめんお……。」  そんな思いで食卓に用意されていた朝食を一人食べるブーンだった。  それから部屋に戻ったブーンは指賀医院の開院時間までどうやって時間を潰そうか考え ていた。 ( ^ω^)「とりあえずこれからのことを考えるべきかお。」  ベッドにドカリと倒れこみ、組んだ腕を枕にして天井を眺める。 ( ^ω^)「そういえばプギャーにはまだ止めを刺していなかったお。なのになんであい つは死んじゃったんだお。」  ブーンはその原因について思案してみた。  自分が気づかぬうちに致命傷を与えていたのかもしれない。もしくは……。 ( ^ω^)「五人目かお?」  そうなると事態はまた面倒な方へ向かうとブーンは思った。  五人目は人数が減ってきた今、やっと行動を起こしたということは、それなりにずる賢 い奴なのかもしれない。 ( ^ω^)「うーん……もうこれ以上戦いたくはないお……。」  でも、五人目はそんなこちらの都合は聞いてなどくれないだろう。 ( ^ω^)「五人目……いったい何者なんだお……。」  返答が帰ってくるはずの無い疑問を虚空に問う。  そのまま無言の時間が流れる。 ( ^ω^)「ふぁ……考えすぎて眠くなって……きた……お……Zzz。」 ( ^ω^)そ「はぅぁ!! 今何時だお!?」  深い睡眠から目覚めたブーンは部屋を見渡し、時計を見る。  開院からすでに1時間ほど経過していた。 ( ^ω^)「うっわー! ヤバス!!!」  携帯やら財布やら必要最低限のものをポケットにねじ込み、勢い良く部屋を飛び出す。  向こうに着いたらツンが「あんた走るの早いくせに何でこういうときは遅れるのよ!!」 とか怒るに違いないと、ブーンは戦々恐々の思いだった。  階段をあわただしく駆け下り、玄関でバタバタと靴を履く。  家には誰もいないから鍵をちゃんとかけないとまずいが、あわてているためうまく鍵が鍵 穴に入らない。  何とか鍵を閉め終わると、腕を左右に広げ、ものすごいスピードで走り始める。 ( ^ω^)「ブゥゥウウゥゥウウゥゥンッ!!」  音をも超えるスピードで走り出したブーンはもはや誰に求められなかった。 ( ^ω^)「ちゃーっす!」  バターンと豪快にドアを開いて、息ひとつ乱していないブーンが指賀医院に現れた。  患者さんや診察待ちの人たちは驚いた顔で一瞬固まってしまった。 (;^ω^)「あうあう……。」 (´<_`#)「静かにしろといつも言ってるだろうが……。」  ブーンの登場にいち早く反応した弟者はブーンをふん捕まえると、奥へと連れて行った。  それから5秒もすると待合室の空気は先ほどの状態に戻っていった。 「ブーン君ったらあの年になってもかわらないのねぇ。」 「ほんとねぇ。まぁそれがあの子のいいところなんだけどねぇ。」  なんて、ここの常連のおば様方の会話もブーンには聞こえるはずは無かった。 (;^ω^)「い、痛いお! そんなに引っ張らないで欲しいお!」 (´<_`#)「てめぇはこの緊急事態になにをしてやがった!! 携帯に連絡入れてもでやしね ぇで!!」  ブーンの哀願を無視する形で話を切り出す弟者。 ( ^ω^)「緊急事態……?」  ブーンにはわけがわからなかった。 (;´_ゝ`)「おお、ブーン! やっと来たか!」  兄者が個人病室の前で二人を出迎えてくれた。その表情は「困惑」という感情を示していた。  病室の表札のようなものにはツンの名前が書かれていた。  中からはなにやら話し声のようなものが聞こえてくる。ブーンが聞いたこと無い男性と女性 の声だ。  おそらくツンの両親だろうと、ブーンは推測した。 (;´_ゝ`)「とりあえず中に入ってくれ。」  促されるまま病室へと歩を進める。 ( ^ω^)「ツン、おはようだお。」  もうそろそろこんにちはの時間になるところだがそんなことはどうでもいいようだ。  中に入るとやはりツンの両親と思しき二人の男女はベッドの横に備え付けられた丸イスに腰 掛けていた。  その瞳には若干の濁りが見える。 ξ;゚听)ξ「………。」  ツンは驚愕の表情をブーンへ向けていた。  ツンが今までにブーンに対して見せたことが無い表情。  なんだこれは。  ブーンはその表情に違和感を感じた。  そしてツンの口からはとんでもない言葉が飛び出した。 ξ;゚听)ξ「あんた、誰よ。」 (;^ω^)「…………。」  ツンが   僕に    「あんた、誰」と  これはいったい何の冗談なのだろうか。 ツン母「ちょっと、ツンちゃん!」  ツンのお母さんは悲しい目でツンをしかりつけていた。 ξ;゚听)ξ「ねぇ、お父さんお母さん、あの人誰? 何であたしの名前知ってるの?」 ツン父「学校の友達だよ? 本当に覚えていないのかい?」 ξ;゚听)ξ「でたらめを言わないで。あの人どう見ても高校生じゃない。あたしまだ中学生 よ?」  ツン、いくら若く見られたいからってそんなわけがないよ。昨日まで僕と一緒に学生生活 を送っていたんだからさ。 (;^ω^)「兄者……これはどういうことだお? ツンは寝ぼけているのかお?」 ξ#゚听)ξ「誰も寝ぼけてなんかいないわよ! 失礼な人ね!」  いや、ツンも相当失礼だと思う。 (´・ω・`)「やぁ、元気かぃツン。」 ('A`)「み、見舞いに来たぞ。お、ブーンも来てたか。」  病室に友人たちがやってきた。ショボンは手に花束を、ドクオは果物かごを持っていた。 ('A`)「どうした、ブーン。顔色が悪いみたいだが。」  兄者と同じく今、僕の顔には「困惑」が張り付いているのだろう。  それを見たドクオは心配そうな表情でこちらを見ている。 ξ゚∀゚)ξ「あ、ショボン君! 来てくれたんだ!」  ショボンを見て急にうれしそうな顔を浮かべるツン。 ξ゚听)ξ「ねぇ、ショボン君。そこのにやけた顔してるのと、さえない顔の人は誰? ショ ボン君の友達?」 (;´・ω・`)「な、何を言っているんだよ、ツンさん。ブーンとドクオは僕らの友達じゃな いか。」  ツンの発言にショボンも困惑しているようだ。 ξ゚听)ξ「そんなわけないわ、だってぜんぜん知らない人たちだもの!」  ツンはだんだんと不快をありありと顔に映し始めた。  ドクオも何が起こっているんだとオタオタしている。かかえた果物かごをとりあえずツンの お母さんに差し出していた。  ツンのお母さんはそれを受け取り軽く頭を下げた。 ξ#゚听)ξ「と・に・か・く! 私はあなたたちの事なんて知らないわ!!」 ( ^ω^)「ちょ、ツンまt――」 ξ#゚听)ξ「今すぐ出て行って頂戴よ!」  そういうやいなや、母の持っていた果物かごからリンゴやらを取り出し投げつけてきた。 (;^ω^)「うわわわわ!!」 (;'A`)「ひえぇえぇぇ!!」  たまらず僕らは部屋から退散することになった。 (;´_ゝ`)「ずばり、彼女の症状は”記憶喪失”だ。」  そう、兄者に聞かされた。僕は自分の耳を疑った。  そしてその現実を否定したかった。 (;^ω^)「そんな……なんで?」 ( ´_ゝ`)「おそらく精神的なショックを受けたために、その事実を受け入れるまいとしてそ の事実にかんする記憶に脳がロックをかけてしまったのだろう。」  精神的ショック……。それはやはり昨日のことだろうか。そういえばツンが叫んでいるのを 聞いた気がする。 ( ´_ゝ`)「俺が思うに……あの子はお前に関して忘れようとしているんだ。」 (;^ω^)「……。」  話についてこれないドクオはただオタオタとしているだけだった。  病室の中からは楽しそうに話すツンとショボンの声が聞こえた。そういえばショボンは中学 時代からツンとは友達だったはず。そういうことか。  つまりツンは僕が死んでしまったと思ったんだ。だからその現実を受け入れたくなくて、ツ ンの脳は僕という存在を拒否するんだ。 ( ^ω^)「ツンはいつ治るお?」 ( ´_ゝ`)「それはわからん。一分後かもしれんし、一週間後かもしれんし、もしくは一生忘 れたままの可能性もある。」 (;^ω^)「そ、そんな……。」  ガラガラと音がして扉が開く。ツンさんのご両親が現れたのだ。 ツン父「内藤君、だったかな。今日は来てくれてありがとう。あの子が失礼なことを言って申 し訳ない。」  深く頭を下げてくる。真面目そうな人だ。 ( ^ω^)「と、とんでもないですお! 記憶をなくしているんじゃ仕方ないですお。誰のせ いでもありませんお。」 ツン母「でも、うちの子を悪い人たちから助けてくれたのに、あの子ったら……。」  謝罪の気持ちをペンキにして塗りたくったような顔で、謝ってくる。 ( ^ω^)「本当に気にしないで欲しいですお。きっとツン……さんも苦しんでるはずですお。」  思わずいつもどおりの呼び方になりそうであわてて言い直した。  それがおかしかったのか、二人はクスッと弱弱しく笑ってからこちらを見た。 ツン父「私たちはこれから記憶喪失に詳しい先生のところに話を伺いに行ってこようと思う。 数日かかってしまうと思う。一応そのことはツンには話してあるし、了承は得られている。」  ツンのお父さんが一度言葉を切ると、それに続いてお母さんが話し始めた。 ツン母「それで、私たちがいない間、良かったらあの子の相手をして欲しいの。お世話に関し てはこちらの医院で頼んでるからいいんだけど、やっぱり入院生活は退屈しちゃうと思うし。」 ( ^ω^)「それならお安い御用ですお! 僕たちと話をしてたら、何かを思い出すきっかけ になるかもしれないですし、喜んで引き受けさせてもらいますお!」 ツン父「あの子はこんなに優しい友達を持って幸せだな。」 ツン母「ええ、本当に。」  二人は少し涙ぐんでいるようにも見えた。 ――病室―― (´・ω・`)「じゃあ本当に何も覚えてないのかい?」 ξ゚听)ξ「だから本当だってば。もうちょっと私のこと信用してくれてもいいんじゃない?」  ツンさんは頬をぷくっと膨らませる。これは本気で怒ってるんじゃなくて、僕をからかって いるだけなんだ。  中学のころもそうだった。いつも僕を困らせようとしていた。懐かしいな。  今はこの病室には僕とツンさんしかいない。さっき、ツンさんのご両親はツンさんと何かし ら話をつけていたようだ。 ξ゚听)ξ「ねぇショボン君、私って高校でどんな感じだった?」  まるで未来から来た相手に自分の未来の姿を教えてもらっているようなワクワクした瞳で僕 を見つめてくる。その瞳は僕の鼓動をとても早めた。  ああ、ツンさん、君はなんて美しいんだ。  僕は。僕は。僕は。 (´・ω・`)「ツンさんは高校でも明るくて可愛い女の子だよ。それに勉強も出来るし、運動 も抜群。」 ξ゚听)ξ「ほんとに〜!? そうなんだぁ。あ、そうだ、恋人とかはいないの?」      恋人。    ツンさんの恋人。 (´・ω・`)「ああ、いるよ。」 ξ゚听)ξ「えー、ほんと!? だれだれ!?」   それは。 (´・ω・`)「それは、僕だよ。」  ツンのご両親はゆっくりと歩き去っていった。二人の背中は小さく見えたけど、同時にすご くたくましくも見えたんだ。  絶望しきっていない。娘を救うために頑張ろうと希望を持っている人の背中だ。  なら僕はそれに少しでも答えたいと思う。  ('A`)「ブーン。」  隣で静かにたたずんでいたボサボサ髪の友人が静かに呼びかけてくる。 ( ^ω^)「なんだお?」 ('A`)「とりあえず中に入ろうぜ。じゃないと話は始まらない。」 ( ^ω^)「またものを投げつけられるかもしれないお?」 ('∀`)「そんときはブーンが盾になってくれよな。」 (;^ω^)「ちょwwwwwwwおまwwwwwwww」  僕は一人じゃない。だから頑張れる。  僕は軽く呼吸を整える。よし、大丈夫だ。  ドアに手をかけ、ゆっくりと扉を開く。  そこには予想もしていない景色が広がっていた。  ショボンとツンが口付けをかわしていたのだ。 9話END