なぜ僕は今こんな事態に陥っているんだろう。そう、突然現れた”異能者”と戦う羽目になるなんて。  彼女が肉薄する。僕は瞬時に後ろへ飛びのく。しかし彼女との戦闘では距離はあまり大きな意味を持たないだろう。 (*゚ー゚)「……死んで。」  そうつぶやく彼女の顔は決意に燃えていた。 ――十分ほど前―― ( ^ω^)「じゃあそろそろ僕はかえるとするお。ビロードはどうするんだお?」 (;><)「僕はまだちょっと用事があるんで、今日は失礼させてもらいます。」 ( ^ω^)「わかったお。じゃあこれ、携帯の番号とアドレスだお。何かあったら知らせるお。」  そういって先輩は僕に小さな紙切れを渡した。そこにはちょっと雑な字で番号とアドレスが書かれていた。  アドレスはとても単純なもので、これじゃあ迷惑メールもたくさん来るんだろうな、とちょっと思ってみたりした。  僕もすぐに別の紙にアドレスと番号を書いて渡した。 ( ^ω^)「じゃあもう僕は行くお。ばいばい、ビロード!」  そう言うやいなや教室から廊下へと駆け出していった。僕が返事を返すまもなく廊下の角へと消えていった。 (;><)「結構せっかちなんだなぁ。」  ぽつりとつぶやいてみたけど、誰かが聞いているわけでもなく―― (*゚ー゚)「……そうみたいね。」 (;><)「!?」  いつの間にそこに現れたのか。彼女はこちらをじぃっと見据えていた。 (;><)「あ、あなたは誰ですか!」 (*゚ー゚)「……。」  彼女は何も答えなかった。まぁ聞かれてすぐ答えるような相手じゃないとは思ったけど。  おそらく”異能者”だ。99%間違いないだろう。 (*゚ー゚)「……あなたを殺すわ。」 (;><)「! やっぱり……。」  彼女は瞳を閉じ、力を込めているようだ。右手の甲の三角模様が熱くなる。これは他の異能者が能力を使ったときに 反応するようだ。何が来るんだ? (*゚ー゚)『燃え上がれ!』  瞬間僕を燃え盛る紅蓮の炎が包み込む。 (;><)「うわぁ!? あ、熱い!」  だんだんと自分の皮膚がただれていく。そして黒くこげ、服も燃え尽き、火葬された死体のように骨だけになってい く。なのに僕の体はまだ熱さを感じ続けている。 (;><)「うわぁあああぁぁあああぁぁ!!」  少女はただビロードを見つめていた。その目の先にいるビロードは一人もがき苦しんでいた。その姿は一切何の代わ りも無く、周りから見ればただのおかしな人か、急に体調が悪くなって苦しんでいる人に見えるのだろう。  少女はビロードに幻覚を見せていた。それが彼女の能力、”言霊”だった。  これは肉体的ダメージよりも精神的なダメージで相手をじわじわと追い詰めていく。 (*゚ー゚)「……。」  何も言わずにビロードを見つめ続ける。ビロードの叫びはもはや言葉にもならず、意味不明な声をあげていた。  しかし、ぴたりとビロードの動きが止まった。そしてガクンと腰砕けになり、地面にへたり込んだ。大きく肩で息を しているが、幻覚は解けたようだ。 (*゚ー゚)「……やっぱり、5分くらいしか持たないか。」  そう、この言霊が相手に影響を与えられる時間は5分程度のものなのだ。モララーはあらかじめどんな能力が出ても ある程度互角の戦いが出来るようにハンディキャップを設定していたのだ。彼女の場合は効果継続時間が5分、プギャーの 場合は1日と、制限時間が設定されている。ビロードはまた別のハンディキャップが設定されているがそれはまた別の話。 (*゚ー゚)「……食えない男ね。」  おそらくモララーのことを言っているのだろう。忌々しいという表情だ。 (;><)「はぁ……はぁ。こ、これは一体……。」 (*゚ー゚)「まだわかってないみたいね。私の能力は相手に幻覚を見せるものなの。今あなたが見たのは全部幻覚。偽者よ。」 (;><)「幻覚……あれが?」  ビロードにとってあれは本物だった。そもそも燃やされる体験など普通の人間がしたことあるはずが無い。それで偽者を 見せられても本物との差異がわからない。 (;><)「でも幻覚とわかれば対処の方法はあります。」 (*゚ー゚)「わかっててもつらいものよ? いつまで心が持つかしら?」  というわけで今僕と彼女は戦っているわけだけど。 (*゚ー゚)『切り裂かれろ!』  瞬間、無数の刃が降り注いでくる。僕はそれを幻覚と知りつつもかわしてく。刺された苦痛は本物だろうから。  僕は彼女の口の近くに空間をつなげて、手を繰り出す。とりあえず口を押さえつければ幻覚攻撃は防げる。  だけど彼女とてそう簡単にはやられてくれない。ひらりひらりと僕の手をかわしてく。 (*゚ー゚)「もっと積極的に攻撃してこないの? その能力、私ならもっと有効に使えるわ。」 (;><)「僕は別に人殺しがしたいわけじゃありません!」 (*゚ー゚)「私はしたいわ。それで勝ち残るの。」  そういうとまた瞳を閉じた。来る! (*゚ー゚)『つぶれろ!』  彼女の言葉で空から巨大な岩石が降ってくる。これが本物なら空間をつなげて別の場所に落とせばいいんだけど、いかん せん偽者である。そういう対抗手段は通用しない。  僕は全速力で駆け出し、岩をギリギリでかわす。ゴロゴロと転がり、そのままの勢いでなんとか立ち上がる。 (*゚ー゚)「疲労困憊って感じね。そろそろ止めを刺すわ。」 (;><)「こんなところで……そうだブーンさんに!」 はやる気持ちを抑えながら電話でコールする。 ('A`)「おい、なにやってんだブーン。」 ( ^ω^)「携帯で遊んでるお……あ、電池が切れちゃったお。」 ('A`)「おいおい、もし急な連絡でも入ったらどうするんだ?」 ( ^ω^)「僕にはそんな連絡来ないから安心するお。」 (;><)「……つながらない。」 (*゚ー゚)「頼みの彼も来ないってわけね。丁度いいわ。ここで死んでちょうだい。」 ( ^Д^)「ちょっと待った。そいつは俺が殺す。」 (;><)「プギャー!?」  突然現れたのはなんとプギャーという男だった。いつからそこにいたのか、僕と彼女の間に立ちはだかるように立って いる。  そして僕を殺すと言っている。僕は彼とは初対面だ。いくら互いに殺し合いをする相手と言えども、いきなり彼女との 戦いをとめてまで僕を殺す理由が? (*゚ー゚)「邪魔しないで。あとちょっとなんだから。」 ( ^Д^)「そうはいかねぇ。こいつは俺の舎弟どもを退学に追い込んでくれたんだからな。あんな糞みてぇな奴らでも俺 の部下だ。借りは返さないといけねぇ。」  ……昼間のあいつらがこの男の部下だって? そうか、そういうことか。 (*゚ー゚)「そんな事私は知らないわ。邪魔するなら……あなたから殺すわ。」 ( ^Д^)「ほーぅ、おもしれぇ。やれるもんならやってみやがれ!」  なんだか僕を無視して盛り上がっているようだ。ここはコッソリ逃げ出すが吉だろう。 ( ^Д^)「行くぜ! 合成、ハサミと竹刀!」 (*゚ー゚)『針山地獄!』  二人は戦闘を開始した。僕はその隙を突き、わき目も振らず逃げ出した。 (;゚ー゚)「……。」 ( ^Д^)「針山地獄なんてこんなもんか。」  私は相手が見ている幻覚を見ることが出来る。そして今プギャーが見ている幻覚を見ていた。その幻覚の針山は、針と いう針をすべて切り落とされ、丸裸にされていた。 ( ^Д^)「地獄じゃ俺相手には役不足だぜ? 次は何で来る?」  両手に持った巨大な剣――ハサミを左右に分解したような形で両手に一振りずつ握られている――を軽々と振りながらこ ちらをニヤニヤと笑いながら見ている。 (*゚ー゚)「嫌な奴。」 ( ^Д^)「俺にはそいつは褒め言葉だ。」  そういうとぐぐっと体をかがめ、地面を蹴り飛び掛ってきた。振り上げた両腕を私に向かって振り下ろす。 (*゚ー゚)『巨大な壁!』  私の前にてっぺんが見えないほどの巨大な半透明の壁がせり出す。これなら攻撃を防げる。  向こう側でガイィン!と鉄がはじかれる音がした。 (#^Д^)「ち、幻覚のくせに対象者に対しては質量を持ちやがるのか。やっかいな幻覚だ。」  壁を足蹴にしていらだたしげに吐き捨てる彼。そしてこちらをちらりと見た。その目は冷たく、そして強かった。その 目に寒気を覚える。 ( ^Д^)「お前の能力の対象者は1人だけみてぇだな。ならこっちは部下を使わせてもらうぜ。」  そういうと学ランの下から何かを取り出す。ネズミと……なにやら工具のようなものだ。 ( ^Д^)「合成、ネズミとドリル!」  手に持った二つのものを胸の前にかかげてひとつに組み合わせる。そこからは奇怪な生物が生まれていた。  体長50cmほどのネズミなのだが、鼻先には巨大なドリルをつけている。手先や足先もドリルになっていて、それは その生き物の意思で自由に回転するようだった。 ( ^Д^)「壁を砕け!!」  命令とともに駆け出す彼。その生き物は彼の命令を受け、瞬時に動き出した。 私は即座に対象をその生き物にきりかえるが、そいつは私の目の前の壁をあっという間に貫いた。私はそのまま突っ込ん でくる生き物をなんとか飛びのいてかわす。   が、続いて彼が飛び掛ってきた。波状攻撃か。 (*゚ー゚)「くっ!」  飛んだ勢いでそのまま地面を転がってよける。多少体を打つが殺されるよりはましだ。  さっきまで私がいたところには二本の刃が突き立っていた。 ( ^Д^)「なかなかやるな、お前。アレをかわすとはちょっと予想外だった。」  地面から刃をゆっくりと引き抜きながらこちらに向きをかえる。 (*゚ー゚)「私にはかなえたい願いがあるから。だから負けられないもの。」 ( ^Д^)「しぃさんよ、あんたが何のために戦うのかは大体知ってるが正直俺はどうかと思うね。」 (*゚ー゚)「!?」  なぜ彼は私の名前を? それ以前にどうして私の戦う理由を知っているの? ( ^Д^)「世の中なんて金さえ積めば何でも調べられるのさ。まぁいい。今日のところはここで引いとくとするか。目的の 野郎は逃げちまったみたいだしな。」  勝手に話を進めている。私のことは置いてけぼり。 (;゚ー゚)「あなた一体……。」 ( ^Д^)「教えてやろうか? 今や誰もがその企業の商品一つは持っている。その企業の社長の一人息子。つまり御曹司。 それが俺だ。」 (;゚ー゚)「まさか……あのPGYカンパニーの!?」 ( ^Д^)「じゃあな。……人のために戦うなんてくだらねぇ。そんなのはいつか身を滅ぼすだけだ。」  くるりと身を翻し、彼はそのまま闇へと消えていった。 (*゚ー゚)「……とんでもない人が紛れ込んでるものだわ、この戦い。」  私もその場を後にした。 (;><)「先輩、昨日はなんで電話出てくれなかったんですか? 僕の体はボロボロです……。」 (;^ω^)「ご、ごめんだお。(本当のことは言えないお……。)」  昼休みの屋上。そこは日向ぼっこをする生徒や、ボール遊びをする生徒でにぎわっていた。その一角にある広場でベンチ にすわり、僕とビロードはお昼ご飯を食べていた。  今朝、彼からメールがあって昼にここに来て欲しいといわれたんだけど、まさか敵と会っていたとは思いもしなかった。 ( ^ω^)「それでその女の子とプギャーはどうなったかわからないのかお?」 (;><)「ええ、命からがらってところだったんでそこまで気が回りませんでした。」 ( ^ω^)「ほんとにごめんお。僕がちゃんと電話に出てれば……。」  本当に申し訳なく思う。 (;><)「いえ、もういいですよ。それよりもこれで4人わかりましたね。あと一人は誰なんでしょう。」 ( ^ω^)「今のところ誰かが能力を使った気配もないお。手がかりも無いしお手上げだお。」 (´・ω・`)「どうしたんだい、ブーン。」  唐突に声がして驚いて振り返ってみたらそこにはショボンがいた。 (;^ω^)「ショボン!? 一体いつからそこにいたんだお?」 (;><)「あの、先輩。こちらの方は?」 ( ^ω^)「彼はショボン、僕の友達だお。ショボン、彼はビロード君。僕らの後輩だお。」 (´・ω・`)「始めましてビロード君。」 (;><)「こ、こちらこそはじめまして。」  いつもどおりのらりくらりとした挨拶をするショボンと、対照的にぎこちない挨拶をするビロード。なんだか面白い取り 合わせだと思った。 ( ^ω^)「ところでショボンはどうしてここに?」 (´・ω・`)「ここ最近付き合いが悪かった埋め合わせに一緒にお昼でもどうかと思ってね。だけどどうやらお邪魔みたい だから失礼するよ。」 ( ^ω^)「ごめんお。明日は一緒にお弁当食べるお!」 (´・ω・`)「あはは、そうだね。あ、そうそう。ツンさんが「ブーンがいないじゃない!! まったくどこいったのよ!!」 って怒ってたよ。」 (;^ω^)「あ、しまった! 今日も委員会の仕事があったんだお! 今すぐ行かなきゃやばいお! ありがとう、ショボ ン!」  僕は急いで荷物を片付け一目散に駆け出した。 (´・ω・`)「ビロード君、だっけ。」 (;><)「あ、はい。」  この人はなんだか怖い気がする。確かにとても優しくてふんわりしてる人なんだけど……なぜだろう。 (´・ω・`)「ブーンとはいつ知り合ったんだい?」 (;><)「え? あ、つい最近です。前に絡まれてるところを助けてもらって。」 (´・ω・`)「ふふ、あいつらしいなぁ。」  何でこんなこと聞くんだろう。 (´・ω・`)「僕は彼と仲良くなってからもう1年以上経つかな。中学が別だったんだけど、1年のときに同じクラスになっ てね。そのころの僕はクラスではわりと一人でいることが多かったんだ。でもブーンが話しかけてきてくれてさ。あいつは困 ってる人を見ると放っておけない性格なんだよね。」 (;><)「そうみたいですね。後で助けてもらったときの話を聞いたら「怖くて心臓がバクバクだったお! だけど放ってお けなかったんだお。」って言ってました。」 (´・ω・`)「それでも助けちゃうんだろうね。いい奴だよ、彼は。」  過去を懐かしむような遠い目で空を見ているショボン先輩はなんだかとても儚く見えた。 (´・ω・`)「ふふ、僕もだいぶ感傷的になったみたいだな。初めて会った人にこんな話をするなんて。さて、そろそろ僕は 行くとするよ。」 (;><)「あ、はい。」 (´・ω・`)「じゃあね。また会うことがあったらよろしく。」 (;><)「こちらこそよろしくお願いします。」  ショボン先輩はゆっくりと背を向けゆっくりと去っていった。  そう、僕が彼と出会ったのはもう1年以上も前のことなんだな。もうそんなになるのか……。  あのころの僕は上手くクラスになじめなかった。中学が同じなツンさん以外には特に話す相手もいなかったし。  だから行事のときなんかも孤立しやすかったんだ。でもそんなときブーンは僕に声をかけてくれた。 ( ^ω^)「ショボン君、僕と一緒の班にならないかお? ドクオっていう奴もいるしきっと楽しいお!」  僕はとてもうれしかった。ブーンは僕のことを気にかけてくれていた。彼はクラスのムードメーカーでお祭りごとなんかは 率先して色々やっていた。僕は彼が誰かのために何かをするのが好きなんだと知った。  だから浅はかだけど僕は、同情とかそういう感情でブーンが僕と付き合ってるんじゃないかと思うようになっていった。そ して僕はそれを正直に彼に打ち明けた。関係が崩れるのが怖かったけど、同情で付き合われてもむなしいだけだから。  そしたら彼は僕を優しい目で見てこう言ったんだ。 ( ^ω^)「僕はただショボンと友達になりたいと思っただけだお。ショボンと一緒ならきっと楽しいと思ったんだお。」  僕は泣いた。彼の優しさに泣いた。自分のふがいなさに泣いた。  そんな僕に彼は優しさをこめて肩を組んでくれた。そして一緒に泣いてくれた。  ツンさんもそんな彼のことを好きになったんだろうな。僕はツンさんのことが好きだったけど、ツンさんのために身を引い た。その方がきっと良い結果になると思ったから。 (´・ω・`)「あれ、なんか目の前がかすんできた……。なんでだろうな。」  僕は人影の無い廊下で一人、立ち尽くしていた。 (´;ω;`)「ごめん、ごめんなブーン。僕は弱い人間だ……。」 3話END