あれから帰宅した二人はそれぞれの用事をこなしていた。  ブーンはリビングの食卓で黙々と歴史書を読み耽っていた。彼は勉強が得意なよう で、分厚い歴史書をかなり速いスピードで読み進めているようだ。  ツンは地下室で野菜ツヤツヤ薬を調合していた。怪しい液体が机のあちこちに並べ られていて、室内は異様なにおいに包まれている。  二、三時間ほどたっただろうか。ブーンは歴史書を読み終わり、そこへタイミング 良くツンが現れた。 ξ゚听)ξ「はー終わった。服に匂いついちゃったかなぁ」 ( ^ω^)「お疲れ様だお。どうだお? 完成したかお?」 ξ゚听)ξ「ばっちりよ! 後は明日お隣さんに届けるだけね」  ガッツポーズをとりながら得意げに答えるツン。 ξ゚听)ξ「そっちはどうなのよ?」 ( ^ω^)「……今大体読み終わったとこだお。ついでに新聞もチラッと読ませても らったお」 ξ゚听)ξ「ふーん。まぁとりあえずご飯にしよっか」  ツンはそう言うとキッチンに並べておいたつくり置きの料理を持って食卓に並べ始 める。  ブーンは食卓をちゃっちゃと片付けてツンの準備を手伝う。 ξ゚听)ξ「で、どお? 読んでみてなんかヒントはあった?」 ( ^ω^)「ちょこちょこそれっぽい文献みたいなのはあったお。そこから推測する 限り、この国のどこかにある可能性が高いお」 ξ゚听)ξ「あら、ならちょうどいいじゃないの。探すのも少しは楽でしょ」 (;^ω^)「うーん、どうかおね。ほかの国に比べたらここは小さいけど、それでも かなり国土は広いお」  難しい顔をしながらうーんとうなるブーン。 ξ゚听)ξ「とりあえず今日のところはもう寝ましょ。うだうだ考えても始まらない し、きちんと休息をとらないとだめでしょ?」 ( ^ω^)「そうだおね、そうするお。」  そこまで言ってブーンは顔をしかめた。 ξ゚听)ξ「何? どうしたの?」 (;^ω^)「僕はどこで寝ればいいんだお?」  ああ、そうか。とツンは納得した表情になる。  仮にも一人暮らしの女性の家だ。客間なんてありはしないし、もちろん一緒に寝る わけにはいかない。 ξ゚听)ξ「しょうがないからここで寝てもらうしかないわね」 (;^ω^)「やっぱそうなるかお」 ξ゚听)ξ「まぁ布団は予備のがあるから我慢してちょうだい」  ブーンはしぶしぶといった表情で頭を縦に振った。 ξ゚听)ξ「大体ね、あんた泊めてあげて料理も出してあげてるんだから文句は言わ ないでよね!?」 (;^ω^)「わ、わかってるお」  それから20分ほどたったであろうか。  ツンは自分の寝室のベッドにごろりと横になっていた。眠気はない。  あまりにもめまぐるしく、非現実的な一日だった。  過去からやってきたという英雄が一つ屋根の下にいるのである。  なんともいえない不思議な感覚が胸の奥から湧き上がってくる感覚だった。 ξ゚听)ξ「あいつ、これからどうするのかしらねぇ」  なんとなく、ポツリと虚空に向かってつぶやいてみたが、それはツン以外の誰の耳 にも届くことなく、掻き消えていった。 ――ゴトッ  不意に音が響く。  続いてギシッ、ギシッと床板がきしむ音が寝室のドアの向こうから響いてきた。 ξ;゚听)ξ「(ブーン?)」  ツンは身を起こし、ドアの向こうへ意識を集中させた。  音はどんどんと部屋に向かって近づいてくる。  ツンの心臓は早鐘を打ち始めた。 ξ;゚听)ξ「(こんな時間に何か用かしら……もう寝たと思ったのに)」  音はドアの前でぴたりと止まった。  ツンの鼓動はさらに早くなる。  だがしばらくすると音はドアの前を離れて玄関へと向かって消えていった。  ツンはほっと胸を撫で下ろした。  しばらくして冷静になったツン、なぜこんな時間にブーンがうろうろしているのか という疑問を持ち始めた。 ξ゚听)ξ「(ちょっと見に行ってみようかな?)」  ツンは素早くベッドから起き上がると、上着を羽織って外へと向かった。  途中、一応リビングを覗いたがブーンはいなかった。  外は夜中ゆえ、少し冷えていたが、満天の星空がキラキラと宝石箱のように輝いて いた。  ツンはしばしそれに心を奪われていたが、当初の目的を思い出し、ブーンの姿を探 した。  まずは家の前をうろついてみたが、それらしき人影は見えなかった。  このあたりは町のはずれであるため、人家は密集しておらず、畑や空き地、田んぼ などが土地の大半を占めているような場所だった。  それゆえ人影をさえぎるような場所はなく、どこかに立っていればすぐに見つけら れるのである。 ξ゚听)ξ「となると……」  一人つぶやきつつ家の裏手に回る。  ツンの家はすぐそばに森があり、薬草や山菜、あとは虫だのトカゲだのをとりによ く通っていた。  その森と家との間にあるちょっとした平地には大きな大きな巨木がでんと構えてい る。  その巨木はツンがここに引っ越してくる以前からずっと生えているようで、推定樹 齢100年を超えるが、今も青々とした葉を立派に空へと向かってはやしていた。  ツンはこの巨木が好きだった。落ち込んだときや悲しいときにこの木を見ていると なぜだか自然と心が安らいだものである。  その気のふもとに、ツンはブーンを見つけた。  彼はツンに背を向ける形で座っているため、ツンの存在には気づいてないようだっ た。  ツンは少しずつ、そのそばへと近づいていった。  遠目からは暗くてよく見えなかったが、近づいてみてブーンが悲しげな表情をして いるのに気がついた。 ξ゚听)ξ「……ブーン?」 (;^ω^)そ「ふぉおぉぉぉおおぉっ!?」 ξ゚听)ξそ「ひゃっ!?」  突然声をかけられたことに驚いたのか、素っ頓狂な声を上げるブーン。  その声に驚いてツンも声を上げてしまった。 (;^ω^)「な、なんだツンかお。ビックリさせないで欲しいお」  振り返ったブーンは視線の先にいる人物の正体に気づき、安堵のため息を漏らし た。 ξ#゚听)ξ「な、なんだとはなによ! あんたがうるさいせいで目が覚めちゃったん だからね!」 ( ^ω^)「え? ……それはすまないことをしたお。ごめんお」  ブーンは立ち上がって頭を深くたれた。 ξ゚听)ξ「もういいわよ、気にしなくても。……それよりこんなとこでなにしてん のよ?」  ツンは「よいしょっ」と言いながら巨木を背もたれにして座り込んだ。  背中に木の暖かなぬくもりを感じた気がしていた。  ブーンは少し困ったような表情をしながら先ほどと同じように座り込んだ。  二人の間には少し距離があった。 ( ^ω^)「ちょっと、考え事をしていたんだお。」 ξ゚听)ξ「どんな?」  ツンは純粋な好奇心と少しの心配をこめて聞いた。  ブーンはちょっとだけ考え込むような表情をした後、静かに語りだした。 ( ^ω^)「この世界のことを考えてたんだお。今、この世界は僕がいたころより 100年以上も後の世界だお。」  ツンは何も言わず、星空を見上げながらブーンの話に耳を傾けていた。  ブーンも星空を見つめて続けた。 ( ^ω^)「今、この世界では大きな戦争が起こってるお。その戦争で多くの人が 命を落としてるお」 ξ゚听)ξ「なんでそんなこと……そうか、歴史書とか新聞とかで……」 ( ^ω^)「だお」  ブーンはそこでいったん話を止めて、じっと考え込んでいた。  ツンは今ブーンが何を思っているのかいまいち推測できず、ブーンが続きを話し てくれるのを待った。 ( ^ω^)「僕は、これから輝きの剣を手に入れて、僕のいた時代に戻って、魔王 を倒すお。でも、それで訪れる平和もこの時代では無くなってるんだお」  ブーンがうつむく。 ( ´ω`)「僕が……僕が戦って、魔王を倒すことに意味があるのかわからなくな ったお。僕が頑張っても平和がなくなってしまう。だったら僕が頑張ることに意味 なんかないんじゃないか。そう思ったんだお」 ( ´ω`)「僕は情けない奴だお」  それきりブーンは何も言わなくなってしまった。  少し肌寒い風が二人の間を吹き抜けていく。  二人は何も言わずにただそこにいた。 ξ゚听)ξ「……」  それからしばらくしてブーンは立ち上がった。 ( ^ω^)「さぁ、もう戻ろうお。ここは寒いお。風邪をひいてしまうお」  そういって歩き出すブーン。  その足取りは重かった。 ξ゚听)ξ「私、難しいことはわかんないわ。」  ツンは座ったまま語り始めた。  今度はブーンがツンの話を黙って聞く側になった。 ξ゚听)ξ「でもね、今幸せだなって思うの。お父さんもお母さんもいないけど、 ご近所のみんなは優しくしてくれるし。私にはかなえたい夢がある。だから毎日 幸せに生きていける」  そう言ってツンは立ち上がった。  そしてゆっくりとブーンを見据えた。 ξ゚听)ξ「きっとね、私みたいに思ってる人、この世界にまだまだいると思 うんだ。それにずっと昔、あなたが魔王を倒してから後の世界にも、いたと思 う。だから、ブーンにはそういう人たちがそういう幸せを手に入れられるよう に、助けてあげて欲しいな」 ( ^ω^)「……」 ξ゚听)ξ「たしかに今起こってる戦争なんて本当に愚かだと思う。けど、その 戦争だっていつか終わるわ。人間は自分の愚かさに気づける生き物だもの。だか らまた平和はやってくる。私たちの世界だもの。私たちできっと何とかできるわ」  その瞳は強い意志が宿っていた。  ブーンはその瞳をじっと見つめた。 ( ^ω^)「……そうだおね。ここは、僕が生きている時代じゃないお。だから 僕があーだこーだ考えても仕方ないんだおね」 ξ゚听)ξ「そうよ、あんたは自分たちの時代で魔王におびえてる人たちのことを 考えなさいよ。こっちはこっちの人たちでなんとかするからさ」  そう言ってツンはニッと笑った。  ツンらしい、元気で、けど優しさのある笑顔だと、ブーンは感じていた。 ( ^ω^)「ツン、ありがとうだお! ツンのおかげで吹っ切れたお!」 ξ///)ξ「ま、まぁ別にあんたのためじゃないんだけどね あんたが頑張ってく れなかったらこの時代になっても魔王に支配されてたりしちゃうかもしれないか ら困るしね!」 ( ^ω^)「うはwwwwww」 ξ゚听)ξ「はぁ、さぶー……早く家入りましょ」 ( ^ω^)「そうだおね」  二人はそう言って歩き始め。 ξ><)ξ「キャァッ!?」  ツンがこけた。 (;^ω^)「だ、大丈夫かお?」  あわててブーンが駆け寄る。  ツンは足を巨木の根っこにとられたようだった。  幸い怪我はなさそうである。 ξ>听)ξ「あいたたー。……あれ?」  ツンは自分が躓いた根元に何か埋まっているのが見えた。  それはなにやら古びた鉄製のケースのようなものだった。 ξ゚听)ξ「こんなものあったんだ。気づかなかった」 ( ^ω^)「なんだろうおね」  ブーンはその埋まっているケースを腰に携えていた剣で掘り起こし始めた。  根っこを傷つけないように少しずつ少しずつ掘り出していった。  半分ほど見え始めたところで、手で持って思い切り引っ張ってみると案外と 簡単にすっぽ抜けた。 ( ^ω^)「開けるお?」  ツンはブーンの問いかけにうなずいて見せた。  パカっと音を立てて、ふたが開かれた。  そこには折りたたまれたぼろぼろの紙切れが一枚入っていた。 ξ゚听)ξ「広げてみてよ」  ブーンがそれを取り出して広げてみると、何か文字が書かれていた。  それを見たブーンの顔に驚愕の表情が張り付いていた。 ξ;゚听)ξ「ね、ねぇ、何が書いてあったの?」  ブーンは無言のままその紙切れを手渡してきた。  ツンはそれに書かれていた字を目で追った。  そこには  『輝きの剣は朽ち果てた姿で城の宝物庫にしまわれている』  と、書かれていた。 続く