160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 23:21:26.77 ID:KDmpE48bO
「9:1年目のクロニクル」

【ヴィップ村】

日の沈みかけた西の空にクリスタルは赤く染まり、薄暗くなった村にはかがり火が焚かれている。

村の皆(兄の姿は見ていない)がクリスタルの周りに集まり、モナーさんと僕にその視線を注いでいる。

今日は水かけ祭。一年の最後に、クリスタルをミルラの雫で浄める儀式の日だ。

161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 23:23:31.65 ID:KDmpE48bO
クリスタルの正面に村長、その後ろにキャラバンが並ぶのが通例なのだが、今年は僕とモナーさんしか居ないため、視線の刺さり具合がものすごい。
普段こんなに注目されたことはないため、とても恥ずかしいというか、くすぐったい気持ちになる。

そういう訳で早く終わらないかな、とか思っていた矢先に、モナーさんがスッと両手を挙げ、祈りの呪文の詠唱を始めた。

村の皆の視線がそちらに流れたので、ちょっと気持ちが楽になる。
とはいえ、気を抜く訳にもいかないのでモナーさんの呪文に集中することにした。

162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 23:24:59.96 ID:KDmpE48bO
呪文は確かこんな意味だった気がする。

( ´∀`)【浄めの水は器に満ち、ここに太陽は三百と六十の時を越えんとす。偉大なる水晶よ、願わくは命の水の力によりその身を浄め、その力にて今一度、我等が祖国を守りたまえ】

ゲージに満ちたミルラの雫が、モナーさんの古代呪文に反応して小さな粒になって、夕暮れの空へと散っていった。

キラキラと輝くその粒は、暗くなりかけた空に夕日の朱を受けて、どんな宝石よりも美しく思えた。

光の粒はクリスタルに一粒一粒吸い込まれるように消えてゆき、それはとても神秘的な光景だった。
小さい時から見てきた風景ではあったが、自分の役目のことを思うと言葉にできない何かが込み上げてくる。

163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 23:29:31.71 ID:KDmpE48bO
光の粒がクリスタルに触れる度に、そこから波紋のように淡く光の輪が広がる。
そして最後の粒が消えた時、クリスタルがひときわ強く輝いた。

と、それを合図にしたように村全体から歓声が上がった。
村の皆が僕に向かって駆け寄って来て、胴上げをされた。

体が宙を舞う度に、数ヶ月前の幸せな気持ちが胸の奥から溢れてくる。
村にたどり着いたあの時の感動と興奮を思い出す。
165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 23:30:30.03 ID:KDmpE48bO
胴上げから降ろされた後には、シィに抱きつかれたり(不覚にもドキドキした)、ショボンに皮肉っぽいねぎらいの言葉を貰ったり(不覚にもイラッとした)、ヒートに背中をバシバシとやられたり(不覚にも涙目になった)。

母は涙を流して僕の無事を喜んでくれて、父は滅多に見せない笑顔で僕の帰還を称えてくれた。

食べきれないほどの沢山のごちそうに囲まれ、陽気な音楽はいつまでも流れ続けた。

と、まぁそんなこんなで。
この日は今まで生きてきた中で一番楽しく、嬉しく、そして幸せな一日になった。
168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 23:34:56.08 ID:KDmpE48bO
……………

祭りの騒がしさから逃れて一息つこうと村はずれにある崖へ行き、草むらに腰を下ろした。

小脇に一年間行動を共にしてきたクロニクルを抱えてきた。
少々暗いが、今夜は満月。文字が読める程度には明るいので、ここで一年間の旅路を振り返ってみようと思う。
170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 23:35:44.69 ID:KDmpE48bO
……………

――旅立ち

今日から、僕の旅が始まる。
皆の生活を守れるよう、頑張ろう。
……散々何を書こうか悩んだ挙げ句の言葉はこれになった。
でもこれから、もしかしたら何年何十年と、僕はこいつと付き合っていくことになるかもしれない。そう考えると、この真新しいクロニクルにこの真新しい気持ちはピッタリだと思う。
僕の旅が続く限り、いつまでも今のこの気持ちを忘れたくないって、そう思う。

171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 23:36:41.20 ID:KDmpE48bO
――出会い

たった3日でこの前の気持ちを忘れかけた今日、アルフィタリアのビコーズさん一行と出会った。
旅の大先輩のやたら渋いモーグリのシブザワさんと、生意気な顔のモーグリのマタンキを紹介してもらった。ありがたいことに、マタンキは今後も同行してくれるらしい。
剣の指導や旅の話をしてもらい、楽しい時間を過ごした。とてもいい時間だったなと思う。
……二日酔いは酷かったけど。
177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:00:16.98 ID:UyShr4hhO
――リバーベル街道

今日は心に残ることが沢山あった。何から書いていいか分からないぐらいだ。
まず、一番びっくりしたのは黒い鎧のリルティだろうか。昼飯を潰されたジャイアントクラブに刺し違えられそうになった時に、滝から飛び出してきて助けてくれたのだ。
いや、助けられたという表現は微妙かなぁ。僕のことが見えてすらいなかったような……
まぁそれはともかく、次に驚いたのはミルラの木の美しさだろうか。
無事(?)にミルラの雫を得られた上に、あんな美しい景色に出会えるとは、とてもいい経験だった。
後は、魔石や新しい必殺技、そういえばショボンの時計細工にも助けられたっけ。
いろいろ反省すべき点を多く残してしまったけれど、とりあえず今は無事に生きているだけで良しとしよう。
これからも、頑張ろう。まだ旅は始まったばかりだ。

178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:01:58.84 ID:Zgy3P3zEO
――瘴気ストリーム

過去に何人もの旅人が通った、クリスタルキャラバン最大の関所、「瘴気ストリーム」。
途中までは、無知ゆえに属性を間違えていることに気付かずに進んでいたが、マタンキからの指導を受けて無事にストリームを通過することができた。
過去のキャラバンが通った歴史のある道。僕も彼らと同じ道を歩んでいると思うと、強い責任感のようなものを感じる。
村を守るのは僕なのだ。気を引き締めて、雫集めを頑張ろう。

179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:05:20.17 ID:KDmpE48bO
ストリーム通過の数日後、マール峠のキャラバンと出会った。
姉御肌のポッポちゃん、知的なベルベット君、少しドジなビロード君。
皆仲良く、楽しそうに旅をしているのが分かった。
偶然ビロード君を助けたことで、お礼に剣を貰い、さらに宿屋まで紹介してもらった。
とてもありがたい。彼らにはまたいつかお礼をしなきゃな……
181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:09:32.58 ID:UyShr4hhO
――マール峠

(ФωФ)「わがはいの やどに とまれ」

(・∀・)「そうする」

ヾ(・∀・)ノ「ウホホーイ」


……昨日は妙なテンションのせいで変な落書きをしてしまった。
我ながら、なかなか上手く書けてる気はする…いやいや。
話は実際はもっと複雑なのだが……まぁいいか。
昨日は、詐欺にあいそうになった所を、ファムのアニジャさんに、助けてもらった。
ファイアリングというレアなアイテムの偽物を掴まされそうになったのだ。
……本物だったら欲しかったんだけどなぁ。

まぁとにかく、色々と運のいい一日だった訳だ。
183 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:11:27.93 ID:UyShr4hhO
――キノコの森

辺り一面、キノコキノコキノコ。
生えてるのは木じゃなくて、キノコ。踏みしめる大地もキノコ。毒々しい黄色のキノコ。
もう、やってられない。植物相手に炎が使えないとか、もう、もう。
モーグリ君に出会ってなかったらマトモな精神は保てていなかっただろう。
そうだ。そういや……
いや、これはやめよう。

帰ったらキノコ鍋だった。死にたい。

184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:15:07.56 ID:UyShr4hhO
――動き出す世界

伝道師。
消えゆく記憶。
哀しげなヒーロー。
僕は記憶の中に、ホライゾンさんと似た笑顔を見た。
彼は、一体何者なのか?
彼を見たとき、僕の中の世界が、確かに変わった。
彼の瞳の中に、違う世界が見えた。
僕は、この世界を知りたい。あの世界が知りたい。
いつか、知る時は来るのだろうか?
ホライゾンさんの詩だ。
『ハリの大王、雷撃たれ その身に雷電を宿す』
……続きを聞かないと、何とも言えないな。
……寝よう。
186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:16:52.82 ID:UyShr4hhO
――カトゥリゲス鉱山

僕は、一人で戦っていたんじゃない。今日、僕はそれを思い知らされた。
オークキングと戦って、僕は死んだ。
死んで、助けられて、それで、マタンキと話をして。
それで、気付いた。僕は一人じゃなかった、って。
知らない所で、皆に助けられていたんだ、って。
……見えない所で、皆繋がっているんだ。
この繋がりで、僕らは互いに助け合っているんだ。

皆、ありがとう。

マタンキは来年以降も同行してくれるらしい。とても頼もしい仲間ができて、心強いな。
188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:18:56.25 ID:UyShr4hhO
……………

( ・∀・)「……で、今年最後のクロニクルだな」

クロニクルに挟んであるペンを手に取る。
月の光を頼りに、今日のこと、この一年のことを思い返し、筆を進めた。
190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:20:39.60 ID:UyShr4hhO
……………

――一年目のクロニクル

楽しいことがあれば、苦しいこともある。
悲しいことがあれば、嬉しいこともある。
この一年は、きっと僕の人生の中で、とても大きな意味を持った一年になるだろう。
旅によって、知らない世界を知った。
出会いによって、大切な事に気付いた。
……旅立ちの時と、気持ちは少し変わった。でも、もしかしたら人生はそういうものなんだろう。
試行錯誤で、見えない未来を探る。当たりもすれば、外れもする。
でも、明日に向かって生きていくんだ。
歩みは続く。僕の人生は、まだ始まりにすぎない。

果てしない旅路に、幸が多からんことを祈り。
今日は、幸せな気持ちで過ごすことにしよう。
191 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:21:39.49 ID:UyShr4hhO
……………

( ・∀・)「……」

人生。その意味は、まだ16歳の僕には、はっきりと分からない。
これからそれを知っていくんだ。キャラバンとしての旅路に、それを見出だしていくんだ。

( ・∀・)「……そうだな」

「何がそうなの?」

( ・∀・)「人生ってモノが、さ」

「……プッ」

( ・∀・)「……!」

サッ(・∀・ )彡

(*゚ー゚)「へへ…」
198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:40:25.92 ID:UyShr4hhO
( -∀-)

( ・∀・)「……笑いに来たのか」

(*゚д゚)「あらら、女の子にそんな対応は無いんじゃないの?」

( ・∀・)「ならちょっとは女の子らしくしような」

(*゚−゚)「ふーんだ、余計なお世話よ」

( -∀・)「……そっか」

(*゚ー゚)「あ、そうだ、指輪……」

( ・∀・)「あぁ、つけてくれてるんだ」

(*゚−゚)「……」

( ・∀・)「……なんだよ」

(*゚−゚)「……その」

(*゚ー゚)「……ありがと」

( ・∀・)「……あぁ、うん」

199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:42:12.65 ID:UyShr4hhO
(*゚ー゚)「……なんで、くれたの?」

(・∀-∩)「あー……」

( ・∀・)「……拾った」

(*゚−゚)「……?」

(-∀- )「特に、理由は無いよ。日頃のお礼的な、そんなんだよ」

(*゚ー゚)「……」

(*゚−゚)「……ふんだ、モラちゃんのバカ」

( -∀・)「バカとは心外だなぁ」

(*゚−゚)「バカだ」

( ・∀・)「バカか」

(*゚д゚)「バーカバーカ!」

( ・∀・)「あぁ、そうだね!」

( -∀・)「……何なんだ一体」

( ・∀・)「……行ったか」
200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/08(日) 00:42:57.36 ID:UyShr4hhO
( ・∀・)「……」

( ・∀・)「言えるかよ、って」

( -∀-)「……気の迷いだな」

( ・∀・)「……帰るか」

あれとこれから一年やっていくのか。……まぁ、それはそれで心が踊る。

満月が綺麗だ。
今日が出発点。これから、僕の「人生」を探す、本当の「旅」が、始まる。

「9:一年目のクロニクル」 終



一年目『ヨーイドン』

―終―

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