- 143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 09:37:04.65 ID:SPTXA5EUO
- 「3:リバーベル街道」
この街道沿いの美しい川には、小鬼が棲んでいると誰かが言った。
だけど、小鬼を見たひとは誰もいない。
その理由をあるひとはこう教えてくれた。
小鬼を見かけたら最後、かならず奴らに食われてしまうからだと。
でも、そんな話は昔の話。
ひとびとは、小鬼の棲むこの街道を通らず、新しい街道を通るようになった。
古い街道を通るのは、いまとなっては、僕たちクリスタルキャラバンのみ……
――RiverBelle Path――
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 09:38:18.23 ID:SPTXA5EUO
- 「ギャーオ!」
門の前の小鬼、いわゆるゴブリンがこちらに気付き、手に持った小刀を振り上げて威嚇してきた。
仲間が来ては面倒だ、さっさと倒してしまおう。
大振りな攻撃と見せかけてフェイント。隙を狙った敵の攻撃をしっかり盾で防ぎ、押し返す。
ふらついた所に容赦無く斬撃を叩き込む。ゴブリンの首が胴体と離れたのを一瞥して、僕は一息ついた。
- 145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 09:39:23.70 ID:SPTXA5EUO
- ……………
あれからビコーズさんとシブザワさんと別れ、マタンキという仲間を増やして、僕はリバーベル街道へと向かった。
目的地に近づくにつれ、わずかながら魔物の姿が見え、マタンキの見張り無しでは眠るのが危険な場所になってきているのが感じられた。
だが、雨に降られたりすることもなく順調に旅は進み、そして今日、日が昇る少し前にリバーベル街道の入口の門を発見するに至ったのである。
- 146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 09:45:21.56 ID:SPTXA5EUO
- 目立たない所に馬車を隠し、必要と思われる道具を肩のカバンに入れ、ィョゥの父さんに作ってもらった剣と盾と軽めの鎧、ついでにショボンの時計細工も身に付け、マタンキと共にリバーベル街道へと突入した。
今は、通算で五匹目のゴブリンを斬りふせた所だ。
( ・∀・)「よし、いい感じだ」
最初は魔物とはいえ殺すのはためらわれたが、殺さなければ殺されると自分に言い聞かせ、斬り倒し、打ち倒し、ずんずん街道を進んで行った。
(・∀ ・)「お前なかなかやるなー」
( ・∀・)「昨日の指導があったからだよ。あと、マタンキが僕に合わせて動いてくれてるからね」
(・∀ ・)「よせやい、照れるじゃねぇかー」
- 148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 09:49:48.53 ID:SPTXA5EUO
- 確かにシブザワさんの言う通り、ケージの範囲だけで戦うのはとても大変なことだった。
ケージが守ってくれる範囲は思うより狭く、ケージから10歩も離れればすぐに瘴気の苦しさに襲われてしまう。
マタンキが僕の動きに合わせて動いてくれなければ、非常に苦しい戦闘を強いられていただろう。
( ・∀・)「さて、じゃあどんどん進もう」
(・∀ ・)「おー」
倒したゴブリンから門の鍵を奪い、門を開く。
開いた先は、分かれ道になっていて、真ん中にはきたない字で書かれた看板があった。
- 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 09:55:11.47 ID:SPTXA5EUO
- ┏━━━━━━━━┓
┃ ←とおまわり ┃
┃ ちかくない→ ┃
┗━━━┓┏━━━┛
. ┃┃
( ・∀・)「……」(・∀ ・)
( ・∀・)「右だな」「左だろー」(・∀
・)
( ・∀・)「……」
(・∀ ・)「……」
(♯・∀・)「どっちだよッ!」
(・∀ ・)「カリカリすんなー」
- 150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 09:59:43.23 ID:SPTXA5EUO
- ……………
色々もめたあげく、マタンキの「ボンボンが呼んでいる」というのを信じて左に進むことになった。
正解か不正解かはともかく、魔物に遭遇こそするものの順調に進んでいった。
瘴気さえなければ心から清々しいと思えるであろう空気や、川のせせらぎの音、澄みきった青空。
時々現れるゴブリンやリスのような外見のムーという魔物(『世界魔物大全』で確認した)を倒しつつ、そんな景色を楽しみながら割と整備された道を進んでいく。
と、道端にキラキラ光る赤い宝石のようなものを見かけた。
- 151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:03:42.62 ID:SPTXA5EUO
- ( ・∀・)「ん?これって…もしかして魔石ってやつかな」
(・∀ ・)「そうだぞー。赤いやつだからたぶんファイアの魔石だなー」
魔石とは、もともと魔法の使えない種族である人間が、魔法を使えるようになるための媒体のようなものだ。
ショボンに聞いた話によると、ミルラの木の持つ魔力が結晶化してできたものが魔石だとのこと。
ミルラの木から魔力が供給されるため、ミルラの木の近くでしか使えないが、逆に言えば魔力が永久に供給されるため、使えなくなることはないということだ。
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:05:51.76 ID:SPTXA5EUO
- 使い方は簡単。体に触れて念じれば、魔石が消滅して体に取り込まれる。
あとは、必要に応じて魔法を念じて放てばいいだけだ。
慣れれば多くの魔石を体に取り込み、体内で魔法を合体させたり、より上位の魔法を使えるようになったりするらしいが、それはこれから慣れていけばいいだろう。
( ・∀・)「……っと。これでいいのかな?」
(・∀ ・)「あいつに試してみよーぜー」
マタンキの視線の先には、侵入者を探しているのであろうゴブリンの姿があった。
かわいそうだが、彼に犠牲になってもらおうか。
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:10:13.17 ID:SPTXA5EUO
- 念じる強さにより、魔法が放てる時間や威力が変化するらしいが、その強さはユークが郡を抜いて強く、次いで僕らクラヴァット、セルキー、リルティと続く。
( -∀-)oO(………)
決して魔法に恵まれていない種族ではない。集中して、炎がゴブリンに襲いかかるイメージを浮かべる。
( ・∀・)oO(いける!)
本能が告げるといった感じだろうか、体に電流のようなものが走り、いつでも炎が放てる気がした。
よく狙いを定め、一気に魔力を解放する。
( ・∀・)「『ファイア』!」
ボウッ、という爆発音がして、狙った通りの場所に火の玉が出現した。
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:15:55.24 ID:SPTXA5EUO
- 小さいながらも火力の強い炎はゴブリンを焼き付くし、彼はなす術なく消滅した。
(・∀ ・)「おー」
( ・∀・)「これは、なかなか」
初めて使ったが、かなり上出来だ。
武器の攻撃とも併せて、実戦でも十分に使えるように練習してみよう。
自分は確実に成長しているという実感がわき、少し気分が高揚するのを感じた。
- 157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:17:15.57 ID:SPTXA5EUO
- ……………
( ・∀・)「オゥフ」
少し開けた場所に出ると、そこには普通のゴブリンより二まわりほど大きなゴブリンが剣を片手に仁王立ちしていた。
隣には二匹、普通のゴブリンが同様に小刀を片手にニヤニヤしながらこちらを見ている(気がする)。
ゴブリンは魔物の中でも知能が高いほうであり、石ころを投げて攻撃したり、人間から奪った武器を使ったり、一部のものは魔法を使ったりと、他の魔物にはあまり見られない性質を持っている。
そんなゴブリンは、人を襲う際に集団で行動するのだが、その時にはリーダーを中心として行動をするのだという。
たぶんそいつがこいつだ。
- 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:22:41.58 ID:SPTXA5EUO
- ( ・∀・)oO(まずいなぁ)
横の二匹がまず僕の方に走ってきて、二匹の後ろからリーダーがのそのそと迫ってくる。戦闘は始まってしまったようだ。
背後をとられては分が悪い。後ろに一歩下がり、右側のゴブリンに向けて威嚇にファイアを放つ。
一瞬動きが止まったのを確認して、一気に斬り込む。
接近してしまえば、ゴブリン程度なら一撃で倒せる。
- 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:23:55.95 ID:SPTXA5EUO
- ……はずだった。
「ギャーオ!ギャーオ!」
(;・∀・)「まじかよ!」
確実に切り裂いたはずなのだがまだ息があり、そいつは強かにも反撃を仕掛けてきた。
(・∀ ・;)「モラ、うしろ!」
あわててバックステップをしようとしたが、後ろから左側のゴブリンが石ころを投げつけてきた。
気絶するほどではないものの、頭に衝撃が走り、一瞬怯んでしまった。
右側の反撃は危うくも回避したが、リーダーの斬撃が左肩に食い込んでしまった。
(;-д・)「う…ッ」
なまくらな剣だったためか、深くはないが痺れの残る一撃が左半身を襲う。
一瞬左手に持った盾を落としそうになったが、何とか持ちこたえた。
- 161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:27:09.94 ID:SPTXA5EUO
- 走って逃げて大きく距離をとり、魔法の詠唱を始める。左側はすぐに追いかけてきたが、右側はダメージのためかあまり動けず、リーダーの動きはやはりのそのそしたものだった。
(;・∀・)「『ファイア』!」
爆発が右側のゴブリンに直撃し、やっと絶命させた。流れた炎がリーダーにも当たったらしく、火傷を負わせたようだ。
戦って気づいたのだが、左右のゴブリンたちは、今までのゴブリンと見た目こそ同じだが、能力はかなり上のようだ。
少し考えが甘かった。ジクジクと痛む左肩の傷の生暖かい感覚が気持ち悪い。
迫ってくる左側の一撃を痛む左腕の盾で受け止め、斬撃を食らわせる。
ギャーギャーという甲高い叫び声をあげ、それでも攻撃をくわえてくる。
リーダーにも追いつかれてしまい、とうとう挟まれてしまった。
絶体絶命。死の恐怖が体を支配するのを覚えた。
- 163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:28:26.74 ID:SPTXA5EUO
- (・∀ ・;)「させない、『サンダー』!」
いつの間にかマタンキがケージを地面に置き、魔法を詠唱していたらしい。
リーダーを中心に、紫色の電気が走る。リーダーの動きが止まり、左側に攻撃をする余裕が生まれた。
(♯・∀・)「…っりゃぁ!」
一閃。左側のゴブリンの胴を切り裂き、ゴブリンは地に倒れた。
(;・∀・)「マタンキ、助かった」
(・∀ ・)「ゆあうえるかむー」
振り向くと、リーダーは体の痺れがとれたのか、頭を振ってからこちらを睨み付けた。
僕は剣を構え、じりじりと得意な間合いをとっていく。
その時だった。
- 167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:29:43.60 ID:SPTXA5EUO
- (;・∀・)「…ッ!?」
不意に右足首が捕まれたかと思うと、次いでそこを凄まじい痛みが襲ってきた。
見ると、左側はまだ絶命しておらず、憎しみに燃えた眼でこちらを睨み、右足首にその鋭い牙を突き立てていた。
慌てて振りほどくと、彼はもはや限界だったのか、ゆっくりと消滅していった。
兄の「魔物を決して、あなどってはいけない」という声が頭に響いた。
あの言葉の意味が、今なら分かる。
拙いバックステップでリーダーと距離をとる。
僕とリーダーの一対一の環境ができあがった。
とはいえ向こうの外傷といえば火傷一つなのに対し、こちらは左腕がやられ右足に力が入らないというかなり不利な状況である。
- 172 名前:さるった…:2009/04/26(日) 10:48:07.05 ID:SPTXA5EUO
- (・∀ ・;)「モラ、いけるか?」
(;・∀・)「わかんない。けど、まだやれることはある」
さっき負わせた火傷。そこを狙うのだ。
右肩から左足のふとももの辺りまで斜めに火傷が入っている。そこは肉質が脆くなっているはずだ。
一刃のもとに斬り倒さなければ、反撃の一撃で間違いなくやられる。失敗は許されない。
昨日、ビコーズさんと一緒に作り上げた必殺の一撃を使う時がきた。
賭けは苦手なのだが、やるしかない。
(;・∀・)「……来いよ」
魔法と同じ感覚だ。直接攻撃か間接攻撃かの違いだ。
- 175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:55:30.95 ID:SPTXA5EUO
- 「ギャーオォォ!!」
リーダーがどたどたと、大振りな構えで駆けてくる。
体に電流が駆け巡った。
(♯・∀・)「『パワーソード』ッ!」
右足、左足。足の痺れも気にせず、傍目には捨て身とも見えるフォームで、全速力で敵に向かう。
敵の振り下ろす剣。それを紙一重でかわす。ビコーズさんの槍と比べれば止まって見える。
サイドステップで敵の真正面に躍り出る。右足が悲鳴をあげたが、気にしてはいられない。全体重をかけた一撃を敵の胴に叩き込んだ。
「!! ギャァァァ!」
リーダーが大きく吹き飛んだ。千切れた体からは内臓が飛び出ている。
軽いめまいを覚え、膝をついてしまったが、敵が消滅するのを確認するまでは何とか意識をしっかり持って耐えた。
- 177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 10:57:56.13 ID:SPTXA5EUO
- (;・∀・)「……勝てた、のか」
(・∀ ・;)「……よかったなー」
とりあえず、応急処置をしなければ。消毒薬をカバンに入れているはずだ。
(・∀ ・;)「モラ、モラ、」
(;-∀・)「何?」
(・∀ ・;)「あれ」
リーダーが倒れていた跡に、水色の魔石が落ちていた。
(・∀ ・;)「たぶんケアルだ、あれつかおー」
ケアル、確か回復魔法。外傷なら何でも癒せる汎用性の高い魔法だ。
(;・∀・)「おう、ないすあいであ」
足が動かないから、主に右腕で体をずるずると引きずり、魔石の所まで体を運ぶ。
何とか拾い上げ、取り込み、念じた。
- 178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 11:02:34.83 ID:SPTXA5EUO
- (;-∀-)「『ケアル』」
白い光が体を包むのを感じる。傷が癒されていくのが分かった。
( ・∀・)「まほうのちからってすげー」
すっかり疲れはとれ、少し霞んでいた視界もすっきりしだした。
肩と足の傷はすっかり癒えたが、少しだけ跡が残った。
自分へと戒めとしてはちょうどいい。
この傷を見る度に、自分の考えの甘さを思いだそう。
川は、何事もなかったかのように日の光を反射していた。
- 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 11:10:05.41 ID:SPTXA5EUO
- ……………
( ・∀・)「あれ、行き止まりか?」
崩れてきたのであろう岩が、道を塞いでしまっている。
ここまでは一本道だったはずなので、もしかしたらあの分かれ道の正解は右だったのかもしれない。そしたら引き返すのは面倒だな。
(・∀ ・)「モラ、看板があったぞ」
ケージを置いてどこかに飛んでいっていたマタンキが戻ってきた。
( ・∀・)「看板?」
(・∀ ・)「細い道があるらしいぞー」
マタンキに案内されたところに付いていくと、これまた汚い字で書かれた看板があった。
- 182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 11:11:10.91 ID:SPTXA5EUO
- ┏━━━━━━━━━┓
┃ ←むかしの街道 .┃
┃ (いきどまり) .┃
┃ ミルラの木→ .┃
┗━━━┓ ┏━━━┛
. ┃ ┃
( ・∀・)「信用していいのだろうか」
(・∀ ・)「いくしかないぞー」
まぁ、確かにあの道が昔使われていた街道だとしたら行き止まりの説明はつく。
岩からかなり草が生えていて、最近崩れたものだとは思えなかったからだ。
細い道を抜けると、川沿いの広い道に出た。
日はすっかり高くなり、帰りはどうしようかと、少し心配になる。
- 185 名前:まあいいや:2009/04/26(日) 11:16:00.40 ID:SPTXA5EUO
- (・∀ ・)「それなら大丈夫だー」
マタンキにその話をすると、意外にも頼もしい答えが返ってきた。
何でも、近くにモーグリの気配があるらしい。
いざとなったら彼らの家にお邪魔させてもらうといいとのことだった。
( ・∀・)oO(もしかしたら、看板を書いてたのはそのモーグリなんだろうか)
だとしたら、一言だけ言ってやりたい。回りくどい書き方はよせ、と。
- 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 11:17:12.17 ID:SPTXA5EUO
- ……………
( ・∀・)「おぉー」(・∀ ・)
さらに進んでいくと、川沿いのかなり開けた所に出た。
川上の方には滝があり、落ちてゆく水は日の光を乱反射し、虹を描いている。
吹きわたる風は爽やかな湿気を含んでいて、涼しさが体に心地よい。
一息つくにはぴったりの場所だった。
( ・∀・)「ここいらで昼食にしよう」
(・∀ ・)「さんせー」
- 187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 11:20:37.93 ID:SPTXA5EUO
- ファイアのおかげで火をおこすには全く困らなかった。
さっき気づいたことなのだが、今の僕は二つまで魔石を取り込めるようだ。
容量を超えると魔石が体から抜け出してしまうらしく、ブリザドを取り込もうとしたらファイアが入れ替わりに出てきた。
見ていてなかなか気持ち悪い光景だったが、ファイアのほうが汎用性が高そうなので、そこは目を瞑って再びファイアとブリザドを入れ替えた。
(・∀ ・)「はやくー」
( ・∀・)「はいはい、まぁそう急かすなよ」
- 188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 11:23:52.65 ID:SPTXA5EUO
- シィの家で作っているソーセージを串に刺して火で炙る。
いなかパンに切り込みを入れて、そこにちぎったレタスとオニオンを挟む。
あとは、焼いたソーセージを挟めば完成だ。
牛飼いをしているシィの家ではこういったニクの加工品を扱っているのだが、これが格別に美味い。
もしかしたら大陸一なんじゃないかと、僕は思っている。
(・∀ ・*)「うまそー」
(*・∀・)「上手に焼けましたー」
ソーセージを串から外し、さっきのいなかパンに挟む。
家で焼いた固めのいなかパンが、絶妙な歯ごたえを出してくれるだろう、と期待する。
デザートのしましまリンゴもカバンから取りだし、完璧な昼食が完成した。
素晴らしい環境と素晴らしい昼食に、ワクワクしながら手を合わせた。
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 11:35:52.41 ID:SPTXA5EUO
- (*・∀・)「いただきまー…」(・∀
・*)
突然のことであった。
川の水がバシャーンと音を上げ、川の底から巨大な蟹の化物が現れたのだ。
吹き上げられた水はかなりの量で、それを思い切り被った僕らはビショビショになってしまった。
無論、僕達の大切な昼食もである。
( ∀ )「 」( ∀ )
蟹がズドォーンという音と共に着地したところ、砂煙が上がり砂利が飛び散ってきた。
無論、僕達の大切な昼食にもである。
( ∀・)「 」(・∀ )
「………!」
蟹が何か喚いているが関係ない。
食べ物の恨みというのを、貴様の殻の髄にまで教え込んでやる。
( ・∀・)「殺す」(・∀ ・)
僕とマタンキは、それぞれ剣とケージを手に、蟹の化物へと駆け出した。
- 192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 11:41:11.32 ID:SPTXA5EUO
- ……………
巨大な蟹だから、たぶん名前はジャイアントクラブだな。
でも呼ぶのめんどいから呼び方は蟹でいいや。蟹で。
とか、無駄なことを考えつつ殻に剣を振り下ろす。
固い。バカなのか?死ぬのか?
(♯・∀・)「マタンキ、どう料理する?」
(・∀ ・#)「まずは殻をぶっこわそー」
- 196 名前:モンキー…:2009/04/26(日) 12:00:36.01 ID:SPTXA5EUO
- 殻には何本もの錆び付いた剣や槍が突き刺さっていて、たぶんこの蟹にやられた人も居るのだろうなと思う。
しかし、今の僕らにとっては、彼らの無念よりも昼食の無念を晴らすことのほうが大事だ。
この蟹がいかなる強敵だろうと、負ける気がしない。
(♯・∀・)「『ファイア』!『ファイア』!」
剣では歯が立たないので魔法で攻撃してみる。が、ダメージが与えられているかはわからない。
敵の爪を避け、よくわからないビームのようなものを避け、手数で勝負とばかりにファイアを打ち込む。
そうしているうちに、殻にヒビが入っていくのが見えた。
- 199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:03:48.10 ID:SPTXA5EUO
- (♯・∀・)「そこだ、『パワーソード』ッ!」
降り下ろされた二本の爪をそれぞれサイドステップでかわし、ヒビの中心部に剣を突き立てた。
(♯・∀・)「っしゃあ!」
殻は五つの大きな欠片と無数の細かい欠片になり、文字通り、粉々に砕け散った。
「………!!!」
蟹が何か喚いている。黙れ、鍋にしてやろうか。
(・∀ ・#)「ないすー!」
(♯・∀・)「オラ、立てよ」
- 200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:11:10.84 ID:SPTXA5EUO
- 蟹が泡を吹きながら叫び、挑発的な眼でこちらを睨み付けてくる。
(♯・∀・)「その眼が気に食わねぇ!」
「!!!」
一気に距離を詰め、蟹の右目らしき所を斬りつけた。
すばしこい動きをしているが、攻撃は大振りだし、ビームは直線上にしか飛んでこないし。当たらないよう意識すれば避けるのは容易いことだった。
(♯・∀・)「……?」
と、ここでふと冷静になり、回りを見渡してみた。
蟹によってあちこちに撒き散らされた『泡』。
ここまで順調に攻撃を重ねてきたが、次第に体が重くなってきているのを感じていた。
(;・∀・)oO(まさか…?)
- 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:12:36.87 ID:SPTXA5EUO
- 魔物の中には魔法が使えるものがある、というのは周知の事実である。
しかし、時に魔法とは別の形で魔力を持った攻撃をするものもいるらしい。
……もし、この泡がそれだとしたら?
(・∀ ・;)「モラ?」
(;・∀・)「……追い詰めてたつもりが、くそっ」
撒き散らされた泡が付着し、体が重くなる。振り払おうにも、まるで水の中に居るみたいで体が思うように動かない。
蟹が嬉しそうにビームを放とうとしている。まずい。非常にまずい。
あんなのを食らったら間違いなく消し炭だ。
(・∀ ・;)「モラ!」
……光線が僕の方に放たれた。
光線が消えた後、そこに僕の姿はなかった。
- 205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:18:29.73 ID:SPTXA5EUO
- (♯・∀・)「残念だったな、『パワーソード』!」
「――!!!」
間一髪のところで体が一気に軽くなり、何とかビームを避けることができた。
おそらくショボンの時計細工の力だろう。敵の魔法を無効化してくれたのだ。
おそらくあの泡は『スロウ』の魔力を持っていたのだろう。対象の動きを遅くする魔法だ。厄介なことこの上ない。
ともかく、僕の攻撃は殻が割れた後の柔らかい部分を切り裂き、蟹はまたしても耳障りな叫び声をあげた。
- 207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:21:25.95 ID:SPTXA5EUO
- (♯・∀・)「そろそろ諦めろよ……」
ケアルの力で、外傷こそ回復してはいるものの、肉体の疲労は蓄積される一方である。
スタミナ面では、正直なところ、苦しい戦いを強いられている。
(・∀ ・;)「モラ、モラ、」
(;・∀・)「何?」
殻という拘束具が取れたためか、先程より心なしか動くスピードが上昇している。
次第に意気も衰えヘトヘトになり、あちこちが軋みだした体では避けることすら苦しく、隙を見計らってちまちま魔法を放つぐらいしか攻撃手段がなくなっていた。
- 208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:22:36.00 ID:SPTXA5EUO
- (・∀ ・;)「『マジックパイル』やってみよー」
(;・∀・)「マジックパイル…いけるか?」
マジックパイル。本来体内で合成される魔法を、2人以上で同時に放つことで、空間内で合成するという技術だ。
確かに、それなら大きなダメージは期待できる。しかし、この状況にして初挑戦であるということで、失敗した時のリスクは計り知れない。
(・∀ ・;)「ファイア×ファイアならいけるぞー」
(;・∀・)「……よし、やろう!」
敵の横に薙いできた爪をかわし、魔法の詠唱を始める。一か八かだ。やってやる。
- 212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:34:33.46 ID:SPTXA5EUO
- (;・∀・)oO(!?)
すると何と、敵も魔法の詠唱を始めたのだ。
マタンキとアイコンタクトをする。敵より先に攻撃するしかない。
体に電流が走る。行ける。
(♯・∀・)「『ファイア』!」(・∀ ・#)
タイミングはピッタリだった。ファイアとは段違いの爆炎が蟹を襲った。ファイアの上位呪文、『ファイラ』である。
蟹の断末魔が聞こえた気がした。
- 214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:36:59.84 ID:SPTXA5EUO
- (;・∀・)「やっ……た?」
ガッツポーズを決めようとした所、足元に紫色の魔方陣が現れたのが見えた。
(・∀ ・;)「モラ!」
突然のことで僕がなす術もないままでいる間に、紫電が円を描き、僕を襲った。サンダーの上位呪文『サンダラ』であった。
(; ∀ )「が……ッ」
体が痺れて動けない。幸い、ダメージの蓄積が無かったので一撃でやられるということは無かったのだが、炎が消えて行く中に、まだ強かにこちらを狙っている蟹の眼が見えた。
「―――――!」
火だるまになった蟹が、上空へ飛び上がった。
ダメだ、あのまま落下して僕を道連れにする気だ。
(;-∀・)oO(……死ぬのかなぁ)
火の玉のような姿の蟹が落下してくる。
僕はやけに冷静に、その姿をみていた。
- 215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:38:38.67 ID:SPTXA5EUO
- ――それは、まるで隕石みたいで。
(;・∀・)「!!」
その時。滝の中から凄まじい勢いで黒い影が飛び出てきた。
(・∀ ・;)「え…!?」
「!!!!!」
一瞬のことだった。
その黒い影が僕の真上を通りすぎたかと思うと、火の玉は容易く八つ裂きにされ、消滅したのだ。
(;・∀・)「……あ、」
ようやく体の痺れがとれ、自由に動けるようになった。
影が通りすぎた先を見ると、黒い鎧を身にまとったリルティの男の人が立てっていた。
もしかして助けてくれたのだろうか。そうだ、お礼をしなければ。
ぼんやりとした頭でそんな事を考えた。
- 218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:41:49.74 ID:SPTXA5EUO
- (;・∀・)「あ、あの。助けてくださって、ありがとうございました」
しかし、男は僕の方には一瞥もくれずに辺りを見渡している。
そして突然、
「クソッ、また消えやがった!」
などと叫んだ。
(;・∀・)「え?ちょっ「アイツめ、どこに行きやがった……」
何だか様子がおかしい。何かよく分からないことを喚き散らしているし、まるで僕が見えていないようだった。
('A #)「絶対に…絶対に逃がさん!」
そう言ったかと思うと、一瞬で姿を消し、何処かに消えてしまった。
- 220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:48:18.75 ID:SPTXA5EUO
- (・∀ ・;)「何だ、アイツー」
マタンキも僕も、突然のことに呆気にとられ、何が何だが分からないでいた。
(;・∀・)「わかんない。けど……」
何だか、彼は悲しい眼をしていたなぁ。と、何故かそう思った。
- 222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 12:53:59.82 ID:SPTXA5EUO
- ……………
そこから上流のほうに向かって少し歩くと、そこにはミルラの木が佇んでいた。
(*・∀・)「おぉー」
「形が独特だからすぐに分かる」とは言われていたが、ここまでとは思っていなかった。
ミルラの木の周りだけは木々が生えておらず、開けた感じになっていて、そこだけが『聖域』と言えそうな雰囲気をかもし出している。
幹が途中から二股に分かれ、巨大な二枚の葉っぱがそこから生えている。
鳥の羽を前で合わせたような形の二枚の葉っぱは、青緑のような色合いの不思議な輝きを放っていた。
単純に「美しい」。そう思える姿だった。
- 228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 13:04:55.86 ID:SPTXA5EUO
- (・∀ ・)「やるかー」
( ・∀・)「おー」
マタンキからケージを受け取り、葉っぱの下に置く。
( ・∀・)「こほん」
少々改まって、ミルラの木の前に立つ。緊張の一瞬だ。
( ・∀・)【我、祖国を守らんとする者也。願わくは命の木よ、其の命の水の一滴を、我等に与えたまえ】
古代語による呪文である。確かこんな感じの意味だったはずだ。
呪文に反応し、ミルラの木が輝き始めた。
(*・∀・)
まるで巨大な宝石のように輝くミルラの木。
その葉から雫が一滴、こぼれ落ちてきた。
雫はクリスタルケージに吸い込まれるように入っていき、ケージの大体3分の1が満たされた。
- 229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 13:07:20.89 ID:SPTXA5EUO
- しかし不思議な構造だ。魔力により不可視の器を作っているらしいが、ミルラの木と併せて見ると、『神秘的』という表現がぴったりだ。
( ・∀・)「……それにしてもよかった、何とかなったな」
とはいえ、始めての戦闘は全体的に反省すべき点を多く残して終わった。
何より恐ろしいのは、自分一人ではジャイアントクラブに殺されていた、という事実だ。
……もっと、強くならなければ。
ミルラの木にもたれながら、そんな事を考えた。
- 247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 13:58:07.01 ID:SPTXA5EUO
- ……………
モ〒*´ω`)゙「『もららー』さん、お手紙クポ〜」
( ・∀・)「あ、どうもです」
ジャイアントクラブとの戦闘の翌日。
無事に街道を脱出して馬車まで戻ってきた僕の所に手紙配達員のモーグリが手紙を届けにきてくれた。
ちなみに、何とか日が沈む前に出られたため、野宿は馬車の中で行うことができた。
- 248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 14:00:05.28 ID:SPTXA5EUO
- ( ・∀・)「どれどれ…」
手紙は全部で三通。
モナーさん、父さんと母さん、それにショボンからだった。
まずはモナーさんから読もう。
( ´∀`)《モナモナ。元気にしているモナ?アルフィタリアのキャラバンから手紙が来て、君のことを誉めていたモナ。
一人旅の大変さを感じている頃だろうが、君のことだから大丈夫だと信じているモナ。
君は、我々の希望モナ。必ず今年の、水かけ祭りを成功させて欲しいモナ。頼んだモナ。》
さすがに手紙にはモナモナと書かれてはいないが、文字が特徴的なので勝手に脳内で補正がかかった。
返事をしておこう。
( ・∀・)「……お手紙ありがとうございます、がんばります。と」
大体こういう旨の内容にした。
- 249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 14:03:40.29 ID:SPTXA5EUO
- 次は家族からの手紙だ。
(´・_ゝ・`)《やあ、元気にしているかね。お前のことだ、多分元気でやっていることだろう。
こちらは心配いらない。ウララーのヤツは……相変わらずだがな。
とにかく、私達家族はお前の元気な帰りこそが何よりの祈りだ。
指命を果たし、旅を精一杯楽しんで帰ってきなさい。》
|゚ノ ^∀^)《モララー、元気ですか?あなたが旅立ってから、家がすっかり寂しくなった気がします。
……本当のところ、私はあなたを旅に出したくありませんでした。ウララーのこともあるし、何より家族を失うのが恐ろしいのです。
でも、あなたが始めて自分から何かをやりたいと言い出してくれたのは、とても嬉しかったです。
だから、絶対に死なないで帰ってきてくださいね。元気な顔を見せてくださいね。
あなたの旅に幸多きことを祈っています。》
- 250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 14:04:30.48 ID:SPTXA5EUO
- ( ・∀・)「……はぁ」
きょうびホームシックなんか流行らないっていうのに、何でこんな手紙送ってくるかなぁ。
何て返事しよう。
( ・∀・)「心配しなくて大丈夫、僕は元気です…的な感じにしよう」
変にいろいろ考えたら帰りたくなってしまう。
郷愁を捨てよう。大丈夫。大丈夫。
( ・∀・)「最後はショボンか…」
あいつが手紙なんて珍しいな。何が書いてあるんだろう。
(´・ω・`)《時計、役に立ちましたよね。感謝してください。
追伸:マール峠の名物は新鮮なミネです。》
非常に簡潔な手紙だが、要点はしっかり押さえていた。
それにしてもアイツ、こうなることが分かってたのか。策士め。
ただ、その時計細工はあの後粉々になってしまったのだが。
……もし、それも予想の範疇だったとしたら恐ろしい話だ。
( ・∀・)「まぁね、と、ミネは向こうに着いたら飲んでみる……と」
- 251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/26(日) 14:06:25.47 ID:SPTXA5EUO
- 三人への返事を書き、封筒に入れる。
( ・∀・)「それじゃ、ヴィップまでよろしく」
モ〒*´ω`)゙「お手紙受け取ったクポ〜」
首にかけたポーチに手紙と、数粒のナッツを入れてやった。
いわゆるチップというやつだ。
モ〒*´ω`)゙「! ありがとうクポ〜」
嬉しそうに八の字を描いてふわふわと飛んだ後、「それじゃあ、帰るクポ!」と言って、来た道を帰っていった。
(・∀ ・)「俺には?」
( ・∀・)「さっきあげたじゃん」
荷物の整理はほぼ終わり、次に目指すのはマール峠である。
クリスタルケージの中で揺れるミルラの雫を見て、これからの旅路にはどのような世界が広がっているのだろうと、期待に胸を膨らませた。
「3:リバーベル街道」 終
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