30 :幕間:2007/08/14(火) 01:45:05.64 ID:QwmkvbUV0

 深夜のVIP市。俗に新都とよばれる開発のすすめられたオオカミ川以西の地域。
 その中でほかの建物や住宅街から大きくはなれたところに町の治安と景観を損ねるその家はあった。
 表向きは経営コンサルタント会社。その実態は半島系マフィア集団、通称「キムチ組」。
そのボス、オボニダー・チャンジャの大屋敷。いかにも金にものをいわせて作りました、といった金ピカの像が
元は準日本風だった庭の景観を台無しにしている。芝生と砂地、飛び石が共存する空間は
和洋折衷という概念や流行りで収められるものではない。

 真夜中。赤い旗が貼り付けられた母屋へと続く石畳が派手に吹き飛んだ。屋敷を守るSPたちの悲鳴と怒声が飛び交う中、
すこし離れたところで再び爆発。黒煙とともに黒服たちが宙を舞う。



31 :幕間:2007/08/14(火) 01:45:53.37 ID:QwmkvbUV0

从 ゚∀从「はーっはっはっは、ハインリーッヒ!!」


 非合法な火器が闖入者に向けられ、連続して発砲音が鳴り響く。その弾を闖入者は常識を超えたスピードで庭を駆け、
そのすべてを回避する。やがて音が止み、闖入者も慣性の法則を無視して制止する。


从 ゚∀从「派手に行くぜぇ!!」


 右手の中指をクンッと上に向ける。空の薬莢を抜き、新たに拳銃に装填しようとしていた男が5人まとめてふきとんだ。




(,,゚Д゚)「……全く、やってくれるぜハインリッヒ」


 大混乱に見舞われている屋敷にそびえたつ洋風の館。執事服やエプロンドレスをつけた館の使用人たちが
外の爆発と闖入者騒ぎで右往左往している中、2階の廊下を白の長布を頭から顔にまきつけた不審者が歩いていく。
何人もの使用人とすれ違い、ときにぶつかりそうになる。だが、誰もその姿に気をとめない。
というよりも、小男が目の前にいることにすら気づいていないといった様子である。


 庭で暴れている自らのマスターに彼──『アサシン』のサーヴァントは嘆息する。


(,,゚Д゚)「(陽動で一般人に危害を加えていいのかゴルァ……)」


32 :幕間:2007/08/14(火) 01:47:13.73 ID:QwmkvbUV0

 この聖杯戦争に限らず、基本的に一般人──魔術を知らない者に、魔術師が魔術師として干渉するのは
タブーとなっている。はずなのだが、現在庭であばれる魔術師はおもいっきりその力を衆目に晒している。



ヤクザやってる敵マスターがまっとうなワケがない。
まっとうではないということは、護衛も一般人ではない。
故に殺ってもOK。


 彼のマスター、魔術師ハインリッヒの弁である。もっとも、庭に残る沢山の僅かな生気を感じる限り
本当に殺している様子はなさそうだが。かなりイっている性格の彼女だがあれでも一流の魔術師。
事後処理についての算段はちゃんとつけているのだろう。


(,,゚Д゚)「(まぁ、俺が知ったことじゃないがな)」


 そう。別に妙な正義感や暇つぶしで彼らはヤクザの本拠地を襲いにきたのではない。この屋敷に潜伏しているという
魔術師のサーヴァント『キャスター』と、そのマスターと戦いにきたのだ。



33 :幕間:2007/08/14(火) 01:49:22.57 ID:QwmkvbUV0

 やがてアサシンは目当ての場所にたどり着く。いくつもの鍵穴がついた屋敷の他のものとも異なる扉。
中の様子は全く感じられない。防音とかいうレベルではなく、もっと高次元な部分から外部とは切り離された
魔術空間。おそらく、ここが魔術師のサーヴァント『キャスター』のネグラなのだろう。
この二週間の調査で『キャスター』同様未だ姿を見せぬ弓兵のサーヴァント『アーチャー』が
この中に潜んでいるという可能性もないわけではないが、部屋周りに施された魔術の質おを考えると、その線は薄い。
だが、どちらでも正直かまわない。不意打ちすれば魔術師である『キャスター』に負ける要素はないし、そもそも『アーチャー』に
自分を倒すことはできない。アサシンはその部分に関して絶対の自信をもっていた。


(,,゚Д゚)「(それじゃあいくぞゴルァ)」


 限界まで隠していた気配と魔力を解き放つ。大薙刀の宝具を具現化し、一刀のもとに扉を切り捨て、中に突入する。
35 :幕間:2007/08/14(火) 01:53:29.29 ID:QwmkvbUV0

 エロゲーやグラビア女優のポスターが部屋中に貼られ、写真集や18禁の同人誌が床に散らばっている。
キムチとイカのまじったような悪臭が充満した部屋にはでっぷりと太った裸の男と、それによく似た
エラの張った顔をした二十歳過ぎの、こちらも何も着ていない不細工男が立っていた。その手には
聖杯戦争に参加したマスターの証たる『令呪』が一画だけ光を発している。
ふたりとも外の喧騒などしらなかったのだろう。グロテスクなバイブレーターと、どうみても戦闘には向きそうにない
鞭を手に、轟音とともに部屋に飛び込んだアサシンを見て目を点にさせている。


(,,゚Д゚)「……ゴミめ」


 本当は情報を得るために捕まえてフルボッコにし、監督役であるショボンに引き渡す手はずになっていたが、
彼は耐えられなかった。ほとんど反射的にふるった大薙刀。ふたつの首はあっさりと飛んだ。

 下に振るって刃についた血を払う。それから、部屋にいる最後の相手に視線をやった。
37 :幕間:2007/08/14(火) 01:56:26.71 ID:QwmkvbUV0

 細い二本のに無骨な腕輪が嵌められ、天井から伸びた鎖で拘束されている。
紺色の学校指定女子学生用水泳着(ぶっちゃけ旧スク水)。ところどころ破けており、胸の部分には
白濁色の液体は付着している。白い肌に赤く残る鞭の跡。頭を垂れてひざまづかされている銀髪の女の子。


(,,゚Д゚)「お互い変なマスターを持つと苦労するな、『キャスター』」


 その声に反応した少女が頭をあげる。本当にアサシンを見えているのかわからない虚ろな瞳。
生前アサシンが仕えた紅顔の美青年にどこか似た雰囲気をもつ少女は、しばらくアサシンのほうを向いて
黙ったままだったが、やがてゆっくり口を開いた───


(*゚ー゚)「あなた……は?」
38 :幕間:2007/08/14(火) 02:01:26.73 ID:QwmkvbUV0
(,,゚Д゚)「見ての通り、サーヴァント・アサシンだ。真名は教えるつもりはないぞゴルァ。
   違う、ということはないと思うが……お前はキャスター、だよな?」


 その問いに少女はふるふると首を横に振る。


(*゚ー゚)「キャスターはイヤ」

(,,;゚Д゚)「いや、イヤ、じゃなくて……お前はキャスターだろ?」

(*゚ー゚)「キャスターだけど、キャスターって呼ばないで。私はしぃ。シィナ・リンゴール・ドヴァ」


 そこでガクリと項垂れる。



(,,;゚Д゚)「………ゴルァ」


 薙刀を持ち直し、キャスターに向かって振るう。
彼女の戒めを解き放ち、倒れ掛かるところを支えてやる。窓にかかっていたカーテンを力任せに引き破り、彼女をそれに包んで肩に担ぎ、
アサシンは静かに部屋を後にした……


【幕間終了】

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