- 33 :エピローグ [sage]:2008/11/18(火) 01:29:14.91 ID:Wfh6lOA0
- 楽しは短く、辛きは長い。
あっという間に紅葉の季節は終わりを迎え、散った葉を寒風が吹き飛ばしていく。
毎年早い時期から雪が降り、冬を直に感じるVIP町。
あの戦闘で町や町人が受けた傷はない。というより、存在しなかった事になっている。
例年通り、大晦日には雪が町中の屋根を覆っていた。
(´・ω・`)「ツン。そろそろご飯だ。紅白も始まるぞ」
ξ゚听)ξ「わかった。今行くわ」
昼中に新年の準備を終え、自室のベッドで休んでいたツンはブーンの声に返事をしてそのまま起き上がる。
読みかえしていた日記を机の引き出しにしまい、居間に向かいながら途中の台所で足を止める。
そこでは一般家庭用の厨房には不釣合いなメイド服を着たペニサスがせわしなく動いていた。
('、`*川「あ、素直様。もう暫くで全部茹で上がります。座って待っていてください」
- 34 :エピローグ『昨日の子託、明日への親託』 [sage]:2008/11/18(火) 01:33:06.17 ID:Wfh6lOA0
- ξ゚听)ξ「ええ。ごめんなさいね、料理の準備まで全部やらせて」
(‘、`*川「いえ、アヤカスフィール様共々居候させてもらっている身ですから、当然です」
ξ゚听)ξ「何か手伝う事あるかしら?」
('、`*川「ありがとうございます。では、年越蕎麦を運んでもらめますか」
言いながらの丼に蕎麦と汁を入れるペニサス。すでに準備のできていた具をのせ、居間へと運んでいく。
居間ではブーンとアヤカスフィールが年賀状の山と格闘していた。
ξ゚听)ξ「……まだ終わってなかったのね」
从'ー'从「ひとクラス36人分、全部にコメントつけるのなんて簡単にいかないよぉ」
(´・ω・`)「(早いうちからやっておけばいいものを……)」
- 35 :エピローグ『昨日の子託、明日への親託』 [sage]:2008/11/18(火) 01:35:07.26 ID:Wfh6lOA0
- 从;'ー'从「ふえぇ、ツンちゃんも手伝ってよぉ」
ξ゚听)ξ「自分でやりなさい。それよりもう蕎麦できあがってるわよ。はやく片付けてちょうだい」
从'ー'从「はーい」
( ^ω^)「はいだお」
アヤカスフィールがあわてて年賀状を片付けはじめる。そこに体の不調は微塵も見て取れない。
聖杯戦争終了後、彼女の体は再び成長をはじめた。これまで止まっていた時を取り戻そうとするかのような
異常な成長速度。贔屓目小学校中学年程度にしかみえなかった彼女の矮躯は、わずか2ヶ月で中学生程度まで大きくなっていた。
ξ゚听)ξ「ったく……。先にのせちゃいますか」
- 36 :エピローグ『昨日の子託、明日への親託』 [sage]:2008/11/18(火) 01:35:54.73 ID:Wfh6lOA0
ブーンが台布巾を取りに行くのを見てツンは盆を部屋の隅におくと、襖を開け、
申しわけ程度に蕎麦の盛られたふたつの小さな碗を持って隣の部屋に向かう。
仏間に並んだ写真は二ヶ月前のものは違い、若い男女が写っている。
ξ゚听)ξ「……よし、っと」
揃いの碗を備え、電灯をつけてツンは遺影の二人──若き日の彼女の年の離れた腹違いの姉、素直空こと内藤空。
そして……
ξ゚听)ξ「姉さん、義兄さん。仲良く食べてね」
彼女のサーヴァント、『狂戦士<バーサーカー>』ドクオ=ナティウこと内藤徳雄に笑いかけた。
- 37 :エピローグ『昨日の子託、明日への親託』
[sage]:2008/11/18(火) 01:38:52.81
ID:Wfh6lOA0
- …………
……
…
(´・ω・`)「ドクオは、結局生きたいように生きていただけなんだ」
12月初旬。英国から戻ってきたショボンは『バーボンハウス』に二人を呼び、静かに語り始めた。
17年前、英国での聖杯戦争にマスターとしてドクオ=ナティウが参加していた事。
巻き込まれる形で参加していたブーンの母親、空に出会ってひとめぼれした事。
最後の勝利者となってその足で日本へ飛び、彼女に求婚した事。
空の両親──素直家当主の許しを得るために戸籍と、姿をかえた事。
病気で死に掛けた空を助けるため、命をかけて宝具『崩壊した理想郷<ベータ・アヴァロン>』を使用し、死に至った事──
(´・ω・`)「ドクオが呼び出したのはけっこう有名な『魔術士<キャスター>』でね。「お前が死んだら出る」って言いながら
ドクオに修行をつけてたんだ。結局、あの老翁が戦ったのは僕の最終戦一度きりだったよ」
- 38 :エピローグ『昨日の子託、明日への親託』 [sage]:2008/11/18(火) 01:40:39.11 ID:Wfh6lOA0
ξ゚听)ξ「……『崩壊した理想郷<ベータ・アヴァロン>』ね……」
(´・ω・`)「都合のいい宝具、とか言わないでくれよ。元々はその『魔術士<キャスター>』の持ち物で、生前のドクオに仕込んだものらしい」
( ^ω^)「アヴァロン……どっかで聞いた名前だお」
ξ゚听)ξ「アーサー王の持ってた剣の鞘ね。これを使用していたアーサー王は、死も含めて全ての干渉を拒絶したというわ」
ξ;゚听)ξ「……って事は、ドクオが呼び出した『魔術士<キャスター>』って、アーサーにアヴァロンを授けたという、あの……」
(´・ω・`)「そう、マーリーンだ」
空になったグラスになみなみと琥珀色の液体をそそぎながら、ショボンはあっさりと肯定した。
- 39 :エピローグ『昨日の子託、明日への親託』 [sage]:2008/11/18(火) 01:47:37.51 ID:Wfh6lOA0
(´・ω・`)「これはおそらく予想だけど、多分ドクオが自分自身に『崩壊した理想郷<ベータ・アヴァロン>』の能力である
“一度きりの死の拒絶”を使えば問題はなかったはずなんだ。だが、彼はそれを愛する空──自分以外の人間のためにつかってしまった」
ξ゚听)ξ「……そんなに簡単につかえるものなの? 蘇生って」
(´・ω・`)「まさか、魔法の域にあるそんな大魔術を普通にできるわけないだろう。ましてや対象は自分じゃない。
いくら体内に宝具を保有したといっても、それこそ希代の魔術士に鍛えられ、英雄と呼ばれた存在を人の身でありながら打破し、
生涯1度しか人を愛さないような存在でないかぎり、実際にそれを成功させるのは不可能だ」
( ^ω^)「(…………)」
(´・ω・`)「大魔術士マーリーンや聖杯の加護をもってしても、禁忌を破った報いは避けられなかったんだろうな。
体内に君を身ごもったクーを残し、世界そのものの力でドクオは人外として輪廻の輪からはずされた」
ξ゚听)ξ「……それがどういうワケか、英雄『狂戦士<バーサーカー>』としてあたしに呼び出されたってワケね」
(´・ω・`)「そうだ。人としての輪廻を外れ、“英雄”とカテゴライズされたんだろうな。
空への狂いっぷりを『狂戦士<バーサーカー>』に例え、血統的・性質的に似ている君なら
世界に拒絶されて尚、この世界にサーヴァントとして召喚されたのも頷ける」
全力で否定するツンに笑いながら、ショボンは話を再開する。
- 40 :エピローグ『昨日の子託、明日への親託』 [sage]:2008/11/18(火) 01:49:21.85 ID:Wfh6lOA0
(´・ω・`)「呼び出された彼は厳密に“ドクオ=ナティウ”でも“内藤徳雄”でもない、ふたつが合わさった存在だった。
まがい物ゆえ記憶も能力も不定。『騎兵<ライダー>』の容姿や僕の存在、君たち自身やオタク趣味から
徐々に自分を取り戻したんだろうね」
ξ゚听)ξ「……その結果が、“狂化後のアレ”だってわけね。なんで狂化前の、まがいものがあらわれたんだろう」
(´・ω・`)「召還される前に狂化を止められた理由や手段まではわからんがな」
( ^ω^)「……長くなったけどつまり、あのドクオはブーンの父親っぽいもの。そう捕らえればいいんだおね?」
(´・ω・`)「そうだ。実感はわかないかもしれないがな。彼の生前の姿はほとんど皆無だ。
空の遺品にも見当たらなかったからな」
言いながらショボンは傍らのバッグから手帳をとりだし、古びた色のポラロイド写真を二人にしめした。
(´・ω・`)「内藤邸が完成した時、たまたま僕が撮影した写真だ。もっていくといい」
…………
……
…
- 41 :エピローグ『昨日の子託、明日への親託』 [sage]:2008/11/18(火) 01:52:33.97 ID:Wfh6lOA0
- 从'ー'从「ツンちゃーん、はやくご飯食べようよぉー」
ξ゚听)ξ「……ハッ。ごめん、今行く」
屋敷の前で屈託なく笑う二人の写真を最後に一瞥し、ツンは笑顔につつまれた食卓に戻っていく。
二人の若き夫婦が残した願いと希望のこめられた、幸せの空間へ。
TRUE END A〜ドクオルート・おしまい〜
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